大学生の HIV 問題に関する意識の現在(いま)
近畿大学 非常勤講師 棚田 洋平 1 はじめに 1985 年に日本で初めての AIDS 患者が認定されて 20 年以上が経つ。当時、一部のマスコミ によって牽引された「エイズパニック」により、HIV・AIDS に対する誤った・偏った情報が巷間 にひろまり、それらが人びとの偏見や差別意識につながったことは記憶に新しい。新規の HIV 感染 者および AIDS 患者数は、調査が開始された 1984 年以降増え続けており、2007 年に 1,000 件を越えて以来、近年は横ばい状態にあるものの、毎年 1,500 件前後の件数を示している ⑴。厚 生労働省エイズ動向委員会によると、2016 年の 1 年間において、新規に報告された HIV 感染者 数は 1,011 件、AIDS 患者数は 437 件であり、累積報告件数は 2.7 万件を越える(図 1)。ま た、HIV 感染者は 20 〜 30 歳代に集中しており、全体の 62.3%を占めている。その一方で、保 健所等での HIV 抗体検査件数は 118,005 件(前年 128,241 件)、相談件数は 119,378 件(前 年 135,282 件)と、それぞれ昨年の件数を下回っている。 図 1 新規 HIV 感染者および AIDS 患者報告数の年次推移(1985 〜 2016 年) こうしたなか、HIV 問題に関する社会的関心や理解、認識はどのようなものなのだろうか。本稿 では、とりわけ、HIV 問題が「身近である(はずの)」大学生(若年者)を対象とした意識調査の 結果から、それらの今日的状況についてみていくことにする。 なお、本稿で分析の対象とする、調査データは、2017 年度に実施された「ハンセン病問題並び に HIV 問題に関する意識調査」の回答結果である。全体の調査概要の詳細、単純集計結果ならびに 調査票については、本報告書に別途掲載しているので、そちらを参照してほしい。本稿では、その ⑴ これらの数字には凝固因子製剤による感染例は含まれていない。おなじく、HIV に感染しているが検査を受けていない 「潜在的感染者」の数も含まれていない。また、累積者の数字には、死亡者数が反映されていないことにも留意が必要 である。 0 200 400 600 800 1000 1200 1 9 8 5 1 9 8 6 1 9 8 7 1 9 8 8 1 9 8 9 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 2 0 1 5 2 0 1 6 HIV AIDSうち、HIV 問題に関する質問項目(問 12 〜 22)の結果について、2011 年度に実施されたほぼ 同内容の調査の結果との経年比較をとおして、その意識の変化について主にみていく ⑵。 2 HIV 問題との「出会い」 まず、「HIV・エイズがどのような病気であるのか知っていますか?」という設問に対する回答の 結果は図 2 のとおりである。 図 2 HIV・エイズに対する認識度(%) 2011 年調査、2017 年調査ともに半数近くの者が、HIV・エイズに関して「知っている」と 回答している。「少し知っている」の数字とあわせると、大半の者が HIV・エイズに関して何かし らは知っている状況にあると言える。「知っている」の割合は 2017 年調査では高くなっているも のの(47.1%→ 51.6%)、逆に「全く知らない」(3.3%→ 4.4%)「無回答」(0.9%→ 5.0%) の割合もそれぞれ若干高くなっている。 ⑵ 2011 年調査の対象者数は 1,117 名(男性 665 名、女性 419 名、男性・女性と答えるのに抵抗を感じる人 21 名、無回 答 22 名)、2017 年調査の対象者数は 1,553 名(男性 992 名、女性 7 名、男性・女性と答えるのに抵抗を感じる人 7 名、 無回答 35 名)であった。2011 年度に実施された調査の結果の詳細については、『2011 年度 近畿大学学生の人権意識 調査報告書(ハンセン病問題並びに HIV 問題編)』を参照のこと。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2011年調査 2017年調査 知っている 少し知っている 全く知らない 無回答
図 3 HIV・エイズを「はじめて」知ったきっかけ(%) 先の設問に対して「知っている」「少し知っている」と回答した者に対して、それらについて「は じめて」知ったきっかけをたずねた結果が、図 3 に示されているとおりである。2011 年、2017 年ともに「学校の授業で教わった」という回答がもっとも多いが、その割合は 2017 年の結果の ほうが若干高い(75.5%→ 79.8%)。他方で、「テレビや映画、新聞などマスコミ報道で知った」 という回答の割合は、2011 年から 2017 年にかけて低くなっている(10.2%→ 4.3%)。 図 4 HIV・エイズに関する学習経験(%) つづけて、HIV・エイズに関する学習経験についてたずねているが、2011 年、2017 年とも に「中学校で受けた」「高校で受けた」という回答の割合は、それぞれ 65 〜 70%程度で変わらな い(図 4)⑶。2017 年調査では、「小学校で受けた」経験も別にたずねたが、約 30%の割合であっ ⑶ この設問に対する回答の選択肢のうち、2011 年調査では「小学校や中学校で受けた」となっているため、図 3 では「中 学校で受けた」としている。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2011年調査 2017年調査 家族から聞いた 友達や同僚から聞いた 学校の授業で教わった 市民対象の研修会・講座で知った テレビや映画、新聞などマスコミ報道で知った 本や雑誌で知った インターネットで知った 行政のパンフレットや広報誌・広報紙で知った その他 無回答 64.4 68.8 18.9 0.8 7.7 2.7 1.2 29.1 67.5 69.4 9.0 0.7 7.4 2.3 1.4 0 10 20 30 40 50 60 70 80 小 学 校 � 受 � � 中 学 校 � 受 � � 高 校 � 受 � � 大 学 � 受 � � 一 般 市 民 対 象 � 講 座 � � � 受 � � � � � � 覚 � � � � � 受 � � � � � � � 無 回 答 2011年調査 2017年調査
た。「大学で受けた」割合は、2011 年は 18.9%であったものの、2017 年には 9.0%と約 1 割 低くなっており、この数年で大学において HIV 問題について学ぶ機会が減少していることがうかが い知れる。 図 5 HIV・エイズに関する情報接触経験(%) 学校や地域における学習以外で、HIV・エイズに関する情報に接触した経験については、図 5 に 示しているとおりである。2011 年の結果と比べて、2017 年では「テレビ番組」「パンフレッ ト・冊子」「HIV 問題の本」「新聞や雑誌記事」の割合が顕著に低くなっている。逆に、「いずれも ない」という割合は 14.3%(2011 年)から 22.3%(2017 年)へと高くなっている。このこ とは、学生がこうした情報に接触しなくなった(学生の無関心)と解釈することもできるが、そも そもメディア自体がこうした情報を発信することが少なくなっている(メディアの無関心)ことを 示しているとも考えられる。 図 6 HIV・エイズ当事者との接触経験(%) 51.1 25.6 26.2 15.6 1.9 11.7 3.0 12.4 15.7 5.9 14.3 1.3 34.8 22.3 18.1 10.6 1.1 14.6 2.8 11.2 8.5 5.5 22.3 1.8 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 テレビ番組 ビデオ・DVD・映画 パンフレット・冊子 HIV問題の本 パネル展 講演会 行政の広報誌・広報紙 インターネット(ホームページ)の記事 新聞や雑誌の記事 その他 いずれもない 無回答 2011年調査 2017年調査 0.2 1.6 1.5 2.3 31.7 63.6 1.7 0.5 1.5 1.4 2.4 21.9 72.3 1.9 0 10 20 30 40 50 60 70 80 自分の家族・親族にHIV陽性者がいる(いた) 自分の友人・知人にHIV陽性者がいる(いた) 自分の友人・知人にHIV問題に取り組んでいる人がいる(いた) HIV陽性者と出会ったことがある(講演会なども含む) &HIV陽性者の人のことを取り上げた本を読んだり、テレビの番組 を見たことがある 1~5のような人との出会いはない 無回答 2011年調査 2017年調査
さて、これまでは学習や情報接触の経験についてみてきたが、それでは直接的・間接的な当事者 との「出会い」の経験はこの数年でどのような変化をみせているのだろうか。図 6 をみてもわかる ように、図 5 に示された結果とも関連しているのだろうが、「HIV 陽性者のことを取り上げた本を 読んだり、テレビの番組を見たことがある」という割合は 10%程度低くなっている。一方で、「出 会いはない」という回答の割合は 10%程度高く、「HIV 陽性者」という存在がみえにくくなってい る現状にあると言える。冒頭にも述べたとおり、HIV 感染者数・AIDS 患者数あわせて 1,500 名 前後が毎年、新規に報告されており、その累積数は 2.7 万にのぼるものの、その存在が不可視化さ れているのである。 28.0 89.9 2.1 36.3 18.7 59.4 14.2 49.6 15.6 47.1 10.0 34.6 87.2 3.2 39.1 18.3 12.5 44.4 17.5 45.7 12.0 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) 2011年調査 2017年調査 51.1 ( 1 )HIV とエイズは同じことを意味している ( 2 )健康に見えても HIV に感染していることがある ( 3 )HIV・エイズは「男性同性愛者特有」の病気である ( 4 )HIV は感染症であるが、性行為を除けば、日常生活では感染しない病気である ( 5 )HIV に感染すると死んでしまう ( 6 )HIV に感染しても必ずエイズになるわけではなく、薬によって抑えることができる ( 7 )HIV・エイズは完治する病気である ( 8 )通常の HIV 検査では、感染してから 2 〜 3 ヶ月経過しないと感染しているかどうかわからない ( 9 )HIV に感染している人が使用した食器を共用すると、HIV に感染する可能性がある (10)HIV・エイズは性産業で働いている人たちに多い (11)HIV・エイズは日本では深刻な問題とはなっていない 図 7 HIV・エイズに対する理解度(%)
図 7 は、項目(1)〜(11)について「そう思う」と回答した者の割合を示したものである。 2011 年と 2017 年とで結果はあまり変わっていないが、2011 年調査の報告書でも指摘されて いるとおり、HIV・エイズに対する誤った・偏った理解が、学生の一定の割合を占めている現状に ある。「HIV とエイズは同じことを意味している」、「HIV に感染してもエイズになるわけではなく、 薬によって抑えることができる」という項目に対して、それぞれ約 7%アップ、約 8%ダウンして おり、HIV とエイズの違いという基本的知識が身についていない学生が増加していることがうかが い知れる。 本節でみてきたように、学校や地域での学習、その他の情報への接触、直接的・間接的な当事者 との「出会い」といった経験(の機会)が少なくなっているという現実が、HIV・エイズに対する 理解度にも影響を与えていると言えそうだ。それでは、HIV・エイズに対する意識については、ど うなっているのだろうか。 3 HIV 問題に対する意識 前節では、学生の HIV・エイズに関する認知度や理解度、さまざまな媒体をとおした「出会い」 の経験などについて、2011 年と 2017 年の調査結果を比較しながらみてきた。その結果からは、 「出会い」の機会が少なくなってきており、それにともなって HIV・エイズに関する認知度や理解 度が若干低くなっていると言えるような状況にあることが推測される。それでは、HIV・エイズに 対する学生の意識は、どのように変化しているのだろうか。 図 8 HIV 陽性者やその家族に対する偏見・差別の認識度(%) 「あなたは、今でも、HIV 陽性者やその家族に対する偏見や差別があると思いますか」という設 問に対する回答の結果を示したものが、図 8 である。2011 年、2017 年ともに「かなり偏見や 差別があると思う」の割合は 20%ちょっと、「少しは偏見や差別があると思う」の割合は 50%前 後で、「偏見・差別は多少なりともある」と感じている学生は 70%を越える。しかし、2017 年 ではその割合は若干減っている。このことは、実際に偏見や差別が解消されつつあることを示して いる、というよりも、前節でもふれたように、そもそも HIV・エイズ問題との「出会い」が少なく、 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2011年調査 2017年調査 かなり偏見や差別があると思う 少しは偏見や差別があると思う 偏見や差別はないと思う わからない 無回答
関心をもち、知識を深める機会が限られていることを反映している、とも解釈できる。「わからな い」という回答が 2017 年で増えている(14.1%→ 19.6%)ことは、そのことを如実に表す証 左ではないだろうか。 図 9 HIV 陽性者やその家族に対する差別の解消に向けた意識(%) HIV 陽性者やその家族に対して「かなり偏見や差別があると思う」または「少しは偏見や差別が あると思う」と回答した者のうち、それらの偏見・差別は「完全になくすことができる」と感じて いる者は少数にとどまっている(図 9)。「かなりなくすことができる」と感じている者の数とあわ せても、半数に満たない。他方で、「なくすことは難しい」と悲観的にとらえている者は、2011 年、2017 年ともに半数を超えている。しかも、そうした悲観的意見の割合は 2017 年のほうが 高い(53.8%→ 58.6%)。HIV・エイズにかかわる知識習得や情報接触、出会い経験は少なくなっ ているにもかかわらず、HIV・エイズをめぐる偏見・差別の存在については認識されており、それ らは根強い(なくすことは難しい)ものとして感得されているのである。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2011年調査 2017年調査 完全になくすことができる かなりなくすことができる なくすことは難しい 無回答
( 1 )障害者手帳を申請すると市役所職員に HIV 感染が知られてしまい、噂が広がるのではないかと心配で手 帳申請がためらわれてしまう ( 2 )HIV 陽性者であるからという理由で結婚差別がある ( 3 )HIV に感染していることを周囲の人たちに言えずに苦しい思いをしている ( 4 )健康診断を受けると HIV 感染が他人にわかるので受けることができない ( 5 )HIV に感染したのだから自分たちが差別されてもしかたがないと思っている ( 6 )HIV 感染症に理解のある医者が少ないため、病気になったときが心配である ( 7 )恋愛を避けるようになってしまう ( 8 )会社から退社するように圧力をかけられたり、人と接触しない部門に異動させられたりすることがある ( 9 )介護が必要になっても、HIV に感染していることがわかると受け入れや利用が拒否されることがある (10)世界には何らかの形で HIV 陽性者の入国規制が行われている国がある (11)差別や人権侵害はないと思う (12)無回答 図 10 HIV 陽性者に対する差別・人権侵害の認識(%) しかし他方で、HIV 陽性者に対する具体的な差別・人権侵害の認識についてたずねる設問の回答 結果をみると、(1)〜(10)の項目のような差別・人権侵害が「ある」と感じている者の割合は、 2017 年にはおしなべて低くなっている(図 10)。それに対して、そもそもその割合は低いもの の、「差別や人権侵害はないと思う」「無回答」といった回答の割合は、2017 年で若干高い。 28.0 69.8 64.4 24.4 13.7 12.0 51.8 39.6 31.4 19.4 5.4 4.6 26.3 62.5 60.0 22.5 11.7 10.8 44.9 26.8 23.2 12.8 6.1 7.1 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) 2011年調査 2017年調査
(1)HIV 感染の拡大を防ぐために、行政は HIV 陽性者を把握して管理すべきである (2)HIV 陽性者は結婚をひかえるべきである (3)HIV 感染は防げたのだから、陽性者は自己責任で対処すべきである (4)病気になった理由に関係なく、社会はその治療と患者の人権を守るために全力を尽くすべきである 図 11 HIV・エイズへの対応に関する意識(%) HIV・エイズへの対応をめぐる(1)〜(4)のような考え方のうち、「(1)HIV 感染の拡大を防 ぐために、行政は HIV 陽性者を把握して管理すべきである」「(2)HIV 陽性者は結婚をひかえるべ きである」という、HIV 陽性者の人権を否定するような意見に賛同する者の割合は、2011 年と 比べて 2017 年で若干高くなっている(図 11)。本節のこれまでの結果からは、HIV・エイズを めぐる具体的な差別・人権侵害については認識していなくても、HIV・エイズに対する漠然とした 恐怖感や忌避感を感じている学生が、ここ数年で増えていることが示されていよう。 36.7 6.5 17.9 75.0 40.9 9.8 17.1 73.7 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 (1) (2) (3) (4) 2011年調査 2017年調査
( 1 )学校生活をともにすること(先生や同級生) ( 2 )同じ職場で働くこと ( 3 )近所に住むこと ( 4 )同じ医療・福祉施設(病院、介護施設等)を利用すること ( 5 )一緒に食事をすること ( 6 )手をつないだり身体にふれること ( 7 )一緒に入浴すること ( 8 )友人としてつきあうこと ( 9 )恋人としてつきあうこと (10)結婚すること 図 12 HIV 陽性者に対する忌避意識①(%) 図 12 は、HIV 陽性者との(1)〜(10)のような関係性や状況について、どれくらいの抵抗 を感じるのかをたずねた結果を示している ⑷。それぞれ、「とても抵抗を感じる」「やや抵抗を感じ る」という回答を合計した割合である。間接的・直接的な身体接触を想像させる「(7)一緒に入浴 すること」「(9)恋人としてつきあうこと」「(10)結婚すること」に抵抗を感じる者は、2011 年、2017 年ともにいずれも 50%前後いる。次いで、「(6)手をつないだり身体にふれること」 が約 30%となっており、「身体接触=感染」という不安がもたれているようだ。また、「(1)学校 17.3 12.7 7.6 17.5 30.2 47.7 53.6 11.4 10.0 7.5 16.6 15.7 31.7 49.9 15.6 52.8 54.3 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) 2011年調査 2017年調査 ⑷ この設問の項目ではいくつかの変更と追加がある。変更した項目としては、「(1)HIV 陽性者の先生や同級生がいるこ と」(2011 年調査)を、「(1)学校生活をともにすること(先生や同級生)」(2017 年調査)とした。追加項目は、「(4) 同じ医療・福祉施設(病院、介護施設等)を利用すること」「(8)友人としてつきあうこと」「(9)恋人としてつきあ うこと」の 3 つである。
生活をともにすること(先生や同級生)」「(2)同じ職場で働くこと」「(4)同じ医療・福祉施設を 利用すること」「(5)一緒に食事をすること」「(8)友人としてつきあうこと」といった、HIV 陽 性者が同じ空間に居ることや HIV 陽性者と日常的な関係にあることに、抵抗を感じるという者はそ れぞれ 10 〜 20%弱程度おり、HIV 陽性者を忌避する意識をもつ学生が一定の割合でいることが 示されている。「学校生活をともにすること(先生や同級生)」については、2011 年調査では「HIV 陽性者の先生や同級生がいること」という項目であり、若干ニュアンスが異なるかもしれないが、 2011 年から 2017 年で「抵抗を感じる」という者の割合は約 6%程度低くなっている。 図 13 HIV 陽性者に対する忌避意識②(%) 「あなたが日常生活で親しく付き合っている A さんから、『HIV に感染している』ことを知らされ たとします。その後あなたは、どのような態度をとると思いますか」という問いに対する回答の結 果を示したのが、図 13 である。「これまでどおりの付き合いを続け、できるだけサポートする」と いう回答と、「全く問題にしないが、HIV のことは触れずに、これまでどおりの付き合いを続ける」 という回答の、それぞれは同程度(45%前後)の割合を示している。後者の「HIV のことは触れ ずに」というのは、相手への「思いやり」を表している側面もあろうが、HIV をマイナスのものと してだけとらえ、それを忌避する態度とも言える。一方で、「無回答」も含め、「できるだけ、距離 を置くようにする」「付き合わないようにする」という、HIV 陽性者をあからさまに忌避する態度 は、あわせて 10%を超えている。2017 年では、「これまでどおりの付き合いを続け、できるだ けサポートする」という受容的態度の割合が少し高くなっている一方で、「付き合わないようにす る」という拒否的態度もやや高くなっており、HIV 陽性者に対する態度の両極がそれぞれ若干増え ている傾向にある。 それでは、学生たちは、HIV・エイズを自身にとって身近なものと感じているのだろうか。図 14 は、HIV に感染したかもしれないと不安になる出来事が生じた場合、検査に行くか否かをたずねる 設問に対する回答結果を示したものである。そのうち「検査を受けるのをためらうと思うが、結局 受けに行くと思う」「検査を受けに行かないと思う」と回答した者に対して、その理由をたずねた 結果が図 15 である。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2011年調査 2017年調査 これまでどおりの付き合いを続け、できるだけサポートをする 全く問題にしないが、HIVのことは触れずに、これまでどおりの付き合いを続ける できるだけ、距離を置くようにする 付き合わないようにする 無回答
図 14 HIV・エイズに対する忌避意識③−1(%) 図 15 HIV・エイズに対する忌避意識③−2(%) その結果をみると、2017 年では、「検査を受けたことはないが、こんな場合は検査を受けにい くと思う」という意見がやや増えている一方で、「無回答」の割合も若干高くなっている。この「無 回答」には「わからない」という意見も相当数含まれている、と考えられる。また、検査を受けに いくことをためらったり、受けに行かないという理由としては、2017 年では、「HIV に感染して いることがわかるのがこわいから」「HIV 感染がわかると、差別を受けると思うから」「HIV 感染が わかると、死を覚悟しなければならないから」といった HIV 感染そのものに対する恐怖感よりも、 「プライバシーが守られるかどうか不安だから」「HIV 感染がわかっても、どう対応してよいかわか らないから」といった HIV 感染にかかわっての対応への不安がつよいようにみてとれる。そもそも の割合が少ないものの、「無回答」の割合は 2 倍になっており、このうちには先の設問と同様に「わ からない」という意見も含まれていると推測される。「その他」の割合も高くなっているが、その 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2011年調査 2017年調査 実際に検査を受けたことがある 検査を受けたことはないが、こんな場合は検査を受けに行くと思う 検査を受けるのをためらうと思うが、結局は受けに行くと思う 検査を受けに行かないと思う 無回答 64.6 13.4 23.9 14.1 41.2 2.2 2.0 58.1 15.4 19.2 12.3 42.1 4.5 4.2 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 � � � � 感 染 � � � � � � � わ � � � � � わ � � � � � � � �ー � 守 � れ � � � � � 不 安 � � � � � � 感 染 � わ � � � 、 差 別 � 受 � � � 思 � � � � � � 感 染 � わ � � � 、 死 � 覚 悟 � � � れ � � � � � � � � � � 感 染 � わ � � � �、 � � 対 応 � � � � � わ � � � � � � � � 他 無 回 答 2011年調査 2017年調査
内容としては「めんどうだから」「(自分は)感染しないから」といった、HIV・エイズを「他人事 (ひとごと)」としてしかとらえていないような記述が目立った。 4 おわりに 学生の HIV・エイズに対する意識などの現状について、2011 年と 2017 年の経年比較をふま えて、本稿ではみてきた。それらの結果によれば、① HIV・エイズに関する知識や情報、当事者と の「出会い」の機会が少なくなってきているが、それにともなって HIV・エイズに関する認知度や 理解度が若干低くなっており(第 2 節)、そのことは、あわせて② HIV・エイズをめぐる具体的な 差別・人権侵害の認識を弱めているものの、HIV・エイズに対する漠然とした恐怖や忌避意識はむ しろ増している(第 3 節)ということがわかった。 本稿の冒頭でも述べたとおり、新規の HIV 感染者・エイズ患者は毎年少なくない数が報告されて いるが、とりわけ HIV 感染者は 20 〜 30 歳代に集中しており、若者にとって身近な問題である はず、である。しかし、教育や啓発の現場、あるいは各種メディアで HIV・エイズ問題が取り上げ られることは少なく、「見える」当事者との出会いの機会も限られているというのが現状ではない だろうか。 かつての「エイズパニック」のときのように、HIV・エイズとその感染者に対する誤解と偏見に 充ち満ちた情報が氾濫し、それらが人びとの HIV・エイズに対する恐怖心や差別意識をあおるよう な事態は収束したのかもしれない。しかし、HIV・エイズに関する正しい知識や理解をうながす情 報や出会いが少なく、HIV・エイズとその当事者が見えにくくなっている、と言えよう。それにも かかわらず、HIV・エイズに対する漠然とした不安感や忌避意識は確実に存在している。それらを 解消するためにも、学校や地域での教育・学習や各種メディアによる情報をとおして、HIV・エイ ズと正しく「出会う」経験が求められると言える。 表 1 HIV に関連した差別・偏見(N = 913) 【%】 HIV に関連した 差別・偏見の感じ方 HIV 陽性者であることを誰か他の人に話すときにはとても用心する 86.9 HIV 陽性者であることを誰かに打ち明けることは危険なことである 81.4 一般に人々は、HIV 陽性者であることを知ると拒絶するものである 81.3 HIV 陽性者だと誰かに打ち明けると、さらに別の人に伝わるのえはないかと心配になる 76.3 HIV 陽性者とわかって以降、周囲の人々に差別されるのではないかと心配している 71.4 HIV 陽性者であることを知っている人が周囲に誰ひとりいない状況が日常生活では多い 66.7 HIV 陽性者であることを雇い主や上司に知られると職を失うと思う 62.9 HIV 陽性者であることを隠し続けるのに苦労している 50.7 HIV に関連した 差別・偏見の実体験 親しい人に、「私が HIV 陽性であることは他の人には決して伝えないでくれ」と伝えた ことがあった 50.4 HIV 陽性者と他の人に伝えたものの言わなければよかったと思うことばかりだった 6.5 私が HIV 陽性者であることを知ったとたんに、物理的に距離を置かれたことがあった 43.2 HIV 陽性者になったのは自分自身がいけないからだと、周囲の人に言われたことがあった 39.3 HIV に関連した 差別・偏見を恐れた 日常生活の自主規制 HIV 陽性者であることを周囲に知られないように頑張っている 63.3 他の人と HIV を話題にするときにウソをついている 56.6 HIV 陽性であることで、他の人とセックスしたり恋愛関係になったりすることを避けている 53.3 HIV に感染していることは恥ずかしいことである 48.2 他の人々と交流したいが、HIV 陽性者であるので、交流しないでいる 35.4 HIV 陽性であるため親しい友人をつくることをひかえている 33.5 選択項目「とてもそうである」「ややそうである」「どちらともいえない」「そうではない」「まったくそうではない」の うち、「とてもそうである」「ややそうである」の割合の合計
表 1 は、HIV 陽性者を対象にしたアンケート調査(Futures Japan、2014 年「HIV 陽性者の ためのウェブ調査(第 1 回)」)の結果のうち、「HIV に関連した差別・偏見」にかかわる項目のみ を抽出してまとめたものである。この結果にも示されているとおり、当事者は、HIV に対する差 別・偏見を実際に経験したり、「経験するかもしれない」という不安を常に感じたりしている。さ らには、そのことが、HIV に対する差別・偏見意識を内面化し、HIV 陽性者であることを恥じた り、隠したり、行動や人間関係に自主規制を課すという行為につながっている。 このような当事者の経験や思いは、かれらをとりまく社会に、HIV とその陽性者に対する差別・ 偏見が確実に存在していることを示している。それら差別・偏見を解消する責務が、その社会の一 員である一人ひとりの「私」にはある。 参照文献 『2011 年度 近畿大学学生の人権意識調査報告書(ハンセン病問題並びに HIV 問題編)』(2012 年 3 月、近 畿大学人権問題研究所) 『差別禁止法制定を求める当事者の声⑤ HIV 問題のいま』(2017 年 2 月、部落解放・人権研究所)