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統計力学の考え方による所得分配のモデル化と教材としての活用

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Academic year: 2021

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1 .はじめに

物理学では宇宙に普遍的な物理法則を学ぶ。物理学の一分野である統計力学は、小さな システムが多数存在する場合にどのような状態が実現するか、また、その状態を表す量の 間にどのような関係があるかに焦点を当てる。小さなシステムの詳細に関わらず、それら を多数合わせた大きなシステムに特徴的な関係が現れることは、多くのシステムに見ら れ、創発現象と呼ばれている。統計力学は、いわば創発現象を扱う学問とも言える。 統計力学は、その性質上、いくつかの困難を抱える。一つは、数学を駆使することであ る。議論の中で用いる数学は、やや高度であり、数学に不慣れである場合に、統計力学を 扱うのは難しい。二つ目は、直感的な理解に結びつきにくいことである。数学的に高度な 表現は、現実との対応関係を希薄にさせ、複雑な現実を扱う学問でありながら、現実とは 縁遠いと思われがちである。三つ目は、具体例の欠如である。もちろん、統計力学には典 型的な例題がある。しかし、量子力学の理解を前提とすることが多い。量子論から距離を 置いた例題があることが望まれる。 これらの問題を解消する試みはいくつか行われている。著者の知る限り、統計力学の大 家である久保による試みが最初のものである。久保は、その著書「統計力学」( 1 )に「所 有の分配」という節を立て、一般的には経済学の範疇で議論される資産の分配について議 論している。同様の議論は所得の分配について、より多くの考察がなされている( 2 )。な お、資産の分配と所得の分配は異なる概念であるが、年間の経済的価値の創造が限られて いることを考え、やや乱暴ではあるが、所得の分配を資産の分配と同様の議論とみなすこ とにし、その妥当性についてはここでは議論しない。 所得の分配を考えることは、身近な話題であるので、学習者の敷居を下げることが期待 される。所得を模してコインチップを利用して簡単な実験をすることも容易であり、直感 的な理解を助けることも容易である。量子論的な前提を必要としない具体例であることも 教育効果を期待させる。その上、経済学の範疇と考えられる所得の分配を考えることで、 統計力学が多様な可能性を持つことを示すことができ、逆に、経済学を学ぶ者にも知見を 与えることが期待できる。したがって、単なるアナロジーとしてではなく、積極的に所得

統計力学の考え方による

所得分配のモデル化と教材としての活用

森    厚

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の分配について扱うことは教育上意味があると考えられる。 本稿では、このような観点から、所得の分配を教材として扱うことについて議論する。 まず、 2 章では、久保の議論を復習し、続いてその議論を延長して統計力学で用いられる 形式に落とし込み、所得の分配を統計力学に基づくモデルとして示す。 3 章で実際の所得 データに当てはめ、妥当性を検討する。 4 章では、こうした理論を基にしたゲームについ て解説し、実際に授業で実践した結果を示す。最後に 5 章で、教材として所得の分配を扱 うことについて、まとめと議論を述べる。

2 .所得の分配の統計力学モデル

2 - 1 .久保の議論 まず、簡単に久保の展開した議論を、多少の補足を加えながらふり返ってみる。ある国 の所得(久保の記述では資産)Mをその国の国民N人に分配することを考える。ここで考 える問題は、もっともありがちな分配はどのような分配か、という問題である。 最初に思いつくのは、国民一人一人に対する均等な分配である。すなわち、一人につき が分配される場合である。しかし、それは固定観念による誤解である。所得を割り振 る場合と、既存の所得をランダムに分配することとを同一視してはならない。すべての人 に均等に分配される必然性はない。 それでは、どのような分配が実現するだろうか。それを考えるために、「すべての分配 方法」が同じ確率で実現すると考えよう。つまり、 1 人がすべての所得を占有する分配 も、他の分配方法と同様に実現すると考えるのである。 このように書くと、誰かが全てを独占することが起こっても良さそうに思うかもしれな い。しかし、そうでないことはすぐにわかる。例えば、 1 人が国民の全所得を独占する場 合と、 3 人が全所得を独占し 3 人の間では均等に分配する場合を比較してみよう。 1 人が 独占する場合は、国民のだれか 1 人が選ばれるのでN通りしかない。ところが、 3 人の選 び方は、 だけあり* 1、特に N が大きい場合には、 3 人で独占 する場合の数の方が圧倒的に大きくなる。例えば、国民の数が300人(N=300)であると すると、3 人で独占する場合の数は、1 人で独占するよりも約15000倍も多い。極端に偏っ た分布は極端に稀な場合であり、滅多に起こらないことになる。 それでは、分配のすべての場合の数を計算してみよう。これを考えるために、次のよう な工夫をすれば考えやすい。所得総額Mを全て 1 円硬貨にして並べ、そこに国民の人数 Nに対応してN − 1 個の仕切り板を入れることにする。 1 人目は、先頭から第 1 の仕切り までの所得を割り当てる。 2 人目には、第 1 の仕切りから第 2 の仕切りまでの所得を割り 当てる。これを繰り返す。すると、所得総額M円はN人に分配されることになる。そこ で、N− 1 個の仕切り板も 1 円硬貨と同様に扱って、M+N− 1 個の硬貨と仕切り板を 1 列に並べる場合の数(M + N − 1 )!が求まる。ただし、 1 円硬貨は互いに区別しないの

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で、硬貨の並び順の場合の数(M!)で割る。同様に、仕切り板を交換しても結果は変わ らないので、仕切り板の並び順の場合の数((N − 1 )!)で割る。ただし、国民一人一人 は区別してあり(例えば背番号をふってあり)、誰が何番目の仕切り板に対応した所得を 得るか、については順序を変えない。このように考えると所得MをN人で分割する場合 の数W(M, N)が次のように定まる。   ( 1 ) ここまでの考察を基に、ある 1 人の所得がxである確率p(x)について考えてみよう。注 目した 1 人の所得がxである場合、残りのN− 1 人は、M−xの所得を分配することにな る。そこで、求める確率は、残りの人の分配の場合の数W(M−x, N− 1 )の、全体の場 合の数W(M, N)に対する比率として求めることができる。   ( 2 ) 次に、これらに対して、次の近似を行うこととする。   すなわち、総所得は個人の所得よりも圧倒的に大きく、また、国民の数も多いとする。す ると、上述のp(x)について次のように近似できる。   ( 3 ) ここで、m ≡ は、 1 人当たりの平均所得である。m を用いるとすっきりした表し方に なる。

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2 - 2 .統計力学的な表記の導出 このように展開された久保の記述について、特に確率p(x)についていくつか議論して おきたい。 物理学は単位に注意を払う。単位に注意することで新たな知見を得ることもできるから である。また、単位のある量を指数として利用することを嫌う。単位を変えることによっ て指数が変化するのは不自然だからである。例えば、21ドルという計算があったとしよう。 これを円単位にして 2100円となったとしたら不自然である。このような観点から、式( 3 ) で表された p(x)は不自然である。そもそも、議論の出発点で、所得を 1 円単位で考えた 場合と 1 億円単位で考えた場合で異なることは明らかである。 それでは、どのようにすればいいだろうか。考え方はいくつかありうるが、ここでは、 改めて単位を含めて国の所得総額をM*と書き直し、さらに所得を測るための単位( 1 円 とか、 1 ドルとか、100万円とか、10銭とか)をu*で表すことにして議論を組み立て直す ことを試みる。すると、所得はM*/u*個に分割されることになり、これを改めてMとすれ ば、前節で考えた議論が適用できる。同様に、単位を含めた平均値をm*として、n=m*/u* とし、これをmに対応させる。特定の 1 人について考えた所得も、単位を含めてx*とし、 x=x*/u*とすればよい。ただし、確率p(x)も、その単位で測った所得額の幅の範囲u*が 実現する確率と考えるべきである。所得の幅u*が小さければ、その範囲の値が実現する 確率は考えている所得の範囲が狭くなるために、自動的に低くなる。このように考える と、式( 3 )は次のようにp(x*)とu*との積で表現するように書き改められ、さらに、や や強引に式変形すると、次のようになる。   ( 4 ) 式( 4 )右辺について考えよう。右辺をu*が十分に小さい極限で考えてみよう。すると、 ネイピア数(自然対数の底)eの定義を用いて、右辺は次のような値に漸近することがわ かる。   ( 5 )

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最後に、確率を単位に依存しない表現にするために、ある 1 人の所得が微小な所得幅dx* の間である確率をP(x*)dx*と書き改める。P(x*)は確率密度と呼ばれる。以降、P(x*)に ついて着目して考えていく。定義を考えれば、u*が十分に小さい極限でP(x*)は、p(x*, u*) と等しいことがわかる。 これらと、 であることを用いると、u*→ 0 の極限では、確率密度P(x*)は次のように表される。   ( 6 ) 2 - 3 .カノニカル分布 統計力学では、温度がTのときに特定のエネルギーεを持つ状態の出現確率P(ε)は次 の量(ボルツマン因子)に比例すると考えられる場合がある。 このような分布はカノニカル分布と呼ばれている。ここに、kBはボルツマン定数と呼 ばれている定数であり、Tは熱力学温度(あるいは絶対温度)と呼ばれている量である。 絶対温度の単位はK(ケルビン)であるが、数値は、通常用いられる摂氏温度に273.15を 加えたものである。 これを所得の分配について書き表した式( 6 )と見比べてみよう。表式はとても似てい る。エネルギーεを所得額xに、熱力学温度T(に定数kBをかけたもの)を平均所得m* に対応させればよい。単に形が似ているだけではない。統計力学で表されるkBTは自由度 一つあたりの平均エネルギーと解釈できる量であり、その意味づけは、m*と同様であ る。逆に、平均所得m*は、温度Tに対応するとも言える。こうした対応関係に基づくよ り詳細な議論は、統計力学の教科書を参照することで理解できるであろう。 以上で、統計力学に対応する形で所得の分配についてのモデルを定式化できた。微積分 を用いずに導出したことで、比較的理解しやすい議論であると考えられる。 2 - 4 .確率密度の性質 このようにして求められた確率密度を実際の所得分布に対応させて考えることができる ようにするために、いくつかの数学的な準備をしておく。ただし、表記を簡便にするため に、単位を伴った量につけていた添字*は省くことにする。

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2 − 4 − 1 .規格化 確率密度は、規格化されていて、すべての場合について確率を合計すると 1 になって いるはずである。今、確率変数は連続量として定義したので、これを全て積分したも のは、 1 になるべきである。これは容易に確かめられる。    ( 7 ) 2 − 4 − 2 .平均値 確率密度 P(x)が与えられると、期待値(平均値)を計算することができる。所得 x に、確率密度P(x)の重みをつけて積分すればよい。 これを積分する方法はいくつかあり、一つは部分積分を実行する方法である。   ( 8 ) ここでは、統計力学でよく用いられる方法も確認しておこう。平均値mについての 微分を行って計算する。   ( 9 ) 導出に当たって、式( 7 )の結果を用いた。両者の計算結果は、当然一致し、mが平 均値として矛盾なく用いられていることがわかる。

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2 − 4 − 3 .ある一定額以上の所得がある人の数 所得がx以上である人の数は次式で計算できる。 この結果から、所得の範囲がx1からx2(x1<x2)の範囲の人の数は であることもわかる。 2 − 4 − 4 .ローレンツ曲線 ローレンツ曲線は、所得x以下の人数の割合r(x)とその割合の人の所得xの平均所得 に対する貢献度 L(x)を連立させて、L を r の関数として書いたものである。すなわ ち、次の 2 式を連立させてLをrの関数として書き表すことにする。        これらから、次式を得る。          (10) 確率密度P(x)は、平均所得mによって変化する。しかし、ローレンツ曲線はmによ らず、いつも一定であることになる。 2 − 4 − 5 .ジニ係数 ジニ係数aは、ローレンツ曲線を用いて次のように定義される。 これを計算する。

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  (11) これも、平均所得mに依存せず、一定値0.25となる。

3 .所得の分布

ここまで、もっとも起こりやすい所得の分配について考え、一人の所得についての確率 密度などの表式を得ることができた。これらの式の妥当性を検討するために、実際の所得 の分布について検討する。用いたデータは、国税庁長官官房企画課による民間給与実態統 計調査(平成26年分)の「給与階級別の総括表」3 )から、男女合計のデータである。 表 1 .民間給与実態統計調査(平成26年分)による階級別所得者数

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前章の結果を適用することを考えると、階級別の所得者数の頻度分布は、所得に対する 指数関数として振る舞うことがわかる。換言すれば、頻度に対数目盛を用いると直線にな ることがわかる。そこで、このデータを片対数グラフで表示する(図 1)。 図中の実線は与えられたデータをプロットしたものである。破線は、400万円以上1500 万円未満の部分が合うように、国民の人数Nと平均所得mを目分量で調整した結果であ る(N= 1 億人,m=245万円)。グラフを見るに当たっては、1000万円よりも所得が大き い階級については階級の幅が100万円ではなく500万円に変わっているために、途中でグラ フの様子が変化するので注意が必要である。これを見ると、400万円から1500万円までは、 統計力学の考え方によるモデルと、実際のデータとがよく一致しているように見える。 低所得側で一致していないことは、低所得の場合には、国が把握していない場合があり うる。例えば、学生が家庭教師をするような場合には、その所得に課税されないことを理 由に申告されることが少なく、したがって、国が把握することは現状として少ない。特 に、所得がゼロである場合には、何ら申告の義務がないので、データに計上されることは ない。このように考えれば、低所得側でモデルの方の人数が多いことは納得できる。 一方で、高所得側でのずれは、いわゆる格差拡大と関連していると考えられる。本稿で 想定している所得分布のモデルは、もっとも起こりやすい分配と考えられる。そこで、ず れは、確率論的に起こりにくいことが生じていることを意味する。よく言われているよう に、高所得者は、より多くの所得を得るような傾向があり、それがモデルからのずれに対 応していると考えられる。 これらを考え合わせると、本稿で考えている統計力学に基づく所得分配モデルは、現実 の所得分配をボリューム層でよく表現していると言える。 ジニ係数に関して、現実の所得の分布を統計力学に基づく分布のモデルと比較して考え 図 1 .所得の階級分布

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る。まず、低所得者側の集計がきちんとできていない(欠落している)ことは、ジニ係数 を押し下げ、一見、格差が少なくなったように見せかける効果があると考えられる。次 に、高所得者側で実際の人数が多いことは、ジニ係数を押し上げる効果があると考えられ る。厚生労働省政策統括官による平成26年所得再分配調査報告書4 )は、個人についての 統計ではなく、世帯についての統計であるが、各種社会保障による所得再配分前のジニ係 数を、0.5704と算定し、所得再配分後のジニ係数を0.3759と算出している。いずれも統計 力学モデルに基づく値0.25を上回っている。

4 .ゲームによる理解

4 - 1 .ゲームの概要 所得の分配に統計力学を当てはめて考えることができることを示した。現実に対応する モデルが示されたことで、このモデルを通じてボルツマン分布についての理解を深めるこ とが考えられる。 大沢は、その著書「大沢流手づくり統計力学」5 )の中で、統計力学を理解するための 教材として、コインチップの交換をするゲームを提案している。 まず、どのようなゲームかを簡単に紹介する。準備として、まず、数人のグループを作 成する。コインチップを人数の 5 から 6 倍の数だけ用意する。また、同じ確率でグループ 内のメンバー 1 名を抽出するような乱数発生器を準備する。具体的には、あらかじめ番号 とメンバーとを対応づけておき、パソコンで人数を最大値とする自然数の疑似乱数を発生 させればよい。その上で、次のようなゲームを実施する。 ゲーム 1 乱数発生器によって選ばれたメンバーにコインチップを 1 枚配る。これをすべての チップがなくなるまで繰り返す。 ゲーム 2 ・ ゲーム 1 が終わってコインチップが配布された状態から始める。乱数発生器によっ て 2 回メンバーを選ぶ。 1 回目に選ばれたメンバーはコインチップを供出し、 2 回 目に選ばれたメンバーはそのコインチップを受領する。 ・ ただし、次のようにする。   ── コインチップがなくなった人が供出する場合には、コインチップのやりとり はしない。   ── 供出する人と受領する人が同一の場合には何もしない。 大沢は、このゲームを通じてカノニカル分布の理解を深めることができるとしている。

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4 - 2 .ゲームの実施結果 2016年 9 月26日に行われた熱力学の授業(受講生13名)で、上述のゲームを行い、簡単 な説明を行った。本稿では触れていないが、場合の数がエントロピーに対応することを説 明の中で述べた。当日、授業全体についてのコメントを求めたリアクションペーパーに は、 8 件のコメントが寄せられたので、その内容を掲載する。 ・コインの持ち数が 0 になったり大量に持つことがあったりが周期的に繰り返されてい る気がして、「金は天下の回り物」といった印象を持った。 ・場合の数を大きくしていくと特徴的な性質が現れることを知った。 ・エントロピーとは場合の数のことだと分かりました。 ・ある人は平均より多い人もいれば少ない人もいて 5 つ(著者注:平均の枚数)になる ことは少ないということを発見しました。 ・コインの問題は 0 通り(著者注:おそらく 0 枚の場合の意)が一番多くてとてもふし ぎな感覚だった。 ・常にコインを多く持つ人もいれば少ない人もおり、初めの予想がはずれたと思いつつ も、どうしてこのような現象が起こるのか分かりませんでした。説明をきいて、漠然 と理解……をしました。 ・結果は予想とは大きく違っていて実験はやはり、やってみないとわからないと思いま した。 ・大体 5 枚ずつくらいに収まると思っていたが、なかなか思うようには行かず、場合の 数で考えたら納得できた。 ゲームの前と、ゲームをして簡単な説明を行った後で、同じ設問でアンケートを行っ た。設問は次のとおりである。 1 ) 30枚のコインを 6 人に割り当てます。すべての割り振り方が均等に起こるとする と、ある特定の人(Aさん)が持っているコインの数は、次のうち、どれが最も実 現しやすいでしょうか。  A. 6 枚  B. 5 枚  C. 4 枚  D. 0 枚 2 )上のように答えた理由を簡単に説明してください。 3 )乱数を用いてコインを交換します。A さんの持っているコインの数はどうなるで しょうか。 A. 5 枚になることが一番多い B. 0 枚になることが一番多い C.その他の枚数になることが一番多い また、ゲームと説明の後のアンケートでは、次の設問を加えた。

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4 )本日のチップの配分の仕方には 2 種類あった。最初に乱数で割り振ってチップを配 分し、そのあと、乱数を用いたチップ交換を繰り返して配分しなおした。それぞれ の配分の仕方は、「均等な確率で割り振ること」と「もっとも多い場合の数で割り 振ること」のどちらに対応するか。対応する配分を線で結びなさい。      乱数でチップを割り振る配分・  ・均等な確率での配分 乱数でチップ交換を繰り返した後の配分・  ・最も多い場合の数に対応した配分 アンケート結果を以下に示す。 設問 1 表 2 に示したように、事後の答えで正解( 0 枚がもっとも起こりやすい)にたどり着 いた者は、事前には 1 名、事後で、 4 名のみで、多くの学生は事後であっても平均値 がもっとも起こりやすいと答えている。 表 2 .設問 1 の回答の変化 設問 2 表 3 に示したように、前問で答えた理由について尋ねたところ、事前には、均等に割 り振ったときが一番起こりやすいと考えた学生が大半であったことがわかる。事後で も、多くの学生がそのように答え、もっとも場合の数が多いのは、一人が 0 枚になる 場合であることを理解した者は少なかった。

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表 3 .設問 2 の回答の分類結果 設問 3 設問を変えたところ、ゲームの結果に対応して、 0 枚になることがもっとも起こりや すいと答える学生が増えた。 表 4 .設問 3 の回答の変化 設問 4 13人中12人が正しく結線し、均等な分配と最も生じやすい分配とを区別して考えるこ とができた。

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5 .まとめ

ここまで、久保の記述を基にしながら、統計力学を所得分配に適用することを中心に述 べてきた。これまでに述べてきたことの要点をまとめると次のようになる。 1 .久保の記述に沿った記述にすることで、統計力学のサンプルとして所得(所有)の 分配モデルを学生に議論しやすい形で提供できた。 2 .現実の日本の所得のデータについて統計力学モデルが適用できることを示した。 3 .所得の分配を模したゲームを実際に学生に実施し、統計力学の基本的な考え方を示 すことができた。しかし、必ずしも理解が深まったとは言えない。 特に筆者が所属する桜美林大学リベラルアーツ学群では、幅広い教養と高い専門性を目 指す観点から、それぞれの専門分野の知見を、他の分野に適用できることを示すべきであ る。本稿で示した内容は、その学びの趣旨に沿ったものであると言える。 一方で課題もある。リベラルアーツを固定観念から自由になる技術と解釈し、学生には 固定観念からの開放されるような指導をしているつもりである。ところが、ゲームで、分 配が均等になるのではなく、むしろ不均一になることが多いことを示したにも関わらず、 一番起こりやすい分配は均等割りであると答えた学生が多かったことである。特に、今回 行ったゲーム 1 では、乱数を用いたものの、均等に分配されるように乱数を用いているの で、当然のようにプレーヤーに、ほぼ均等にコインチップが分配された。これが固定観念 になって、これがもっとも起こりやすいと思い込んだようである。 今後は、このような観点に配慮しながら教材を改良したいと考えている。 * 1 ここで、記号 ! は、数の階乗を表すために用いる記号である。例えば、 3 ! とは、3 の階乗す なわち 3 ×2 × 1 = 6 を表す。 参考文献 1 )久保亮五「新装版統計力学」,1952,共立出版

2 ) Banerjee, A. and V. M. Yakovenko, Universal Patterns of inequality, 2010, New Journal of Physics, 12, 075032

3 )民間給与実態統計調査(平成26年分),2015,国税庁長官官房企画課 4 )平成26年所得再分配調査報告書,厚生労働省

表 3 .設問 2 の回答の分類結果 設問 3 設問を変えたところ、ゲームの結果に対応して、 0 枚になることがもっとも起こりや すいと答える学生が増えた。 表 4 .設問 3 の回答の変化 設問 4 13人中12人が正しく結線し、均等な分配と最も生じやすい分配とを区別して考えるこ とができた。

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