自然体験における学習の効果に関する一考察 : プログラムの活動特性に着目して
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(2) 北海道教育人学紀要(教育科学編)第56巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.56,No.2. 平成18年2月 February,2006. 自然体験における学習の効果に関する一考察 プログラムの活動特性に着目して. 向坊 俊・城後 豊* 北海道教育人学人学院教育学研究科 *北海道教育人学札幌校保健体育科教育学研究室. AConsiderationontheE鮎ctsofLearninginNaturalExperience FocusingonthePropertiesofProgram. MUKAIBOSyunandJOGOYutaka* GraduateSchoolofEducation,HokkaidoUniversityofEducation *DepartmentofHealthandPhysicalEducationPedagogy,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation,SapporoOO2−8502. Ⅰ.研究の目的 子どもたちは1),自然の中で自らの感性を. ことが報告されている.また,生き物たちが. 生活する場である自然において,子どもたち は,人間を含めた生態系について体験し,生. 活かし,自然の中にある様々なものに触れ自. 命の尊さを学ぶ.さらに,社会性,問題解決力,. 然へ働きかける.また,自然の中で起こる不. 思いやりや「生きる力」などの効果を生みだ. 思議なことに興味を引かれ自然から働きかけ. している7)8)9)10). られたりする.近年,平成5年度から行われ. ラムの内容は様々であり,学習の効果とプロ. ている「青少年自然体験活動推進事業」や「省. グラムの持つ特性との関連を明らかにしなけ. 庁連携子ども体験推進事業」のような各省庁. ればならない.いわゆる体験的な学習とは11),. による行政支援2),学校における完全週五日. 体験によって,行動や認識が適応的な変化を. 制の導入と総合的な学習の時間の展開,また. 遂げることであり,この体験の部分を明らか. 民間教育事業の増加により,各地で様々な自. にするには「どんな活動により何を学習した. 然体験プログラムが行われている.このよう. のか」を捉えることが人切である.. な自然体験の中で子どもたちは3)4)5),自然の. .しかし,自然体験プログ. そこで本研究では,自然体験プログラム「道. つくり(構造),しくみ(機能),はたらき(役. 民の森・森の体験キャンプ(以下森の体験キャ. 割)について学び,環境問題の認識を高めて. ンプとする)」田)の実践から,自然体験にお. いる.自然体験プログラムが,子供たちに与. ける学習の効果とプログラムの持つ活動特性. える影響は大きく,自然の中で行うキャンプ. に着目し,効果的な学習について若干の考察. 活動により「自然に対する認識」6)が高くなる. を行った.具体的には,学習者が活動を通し. 125.
(3) 向坊 俊・城後 豊. て「プログラムの活動特性」を理解し,「自然. 女子16名)である.. 体験における学習の効果」を育むことについ て調査分析を行った.. 2.「森の体験キャンプ」の概要 「森の体験キャンプ」は,道民の森の月形地区. の特性を活かした4つの自然体験プログラムを中. Ⅰ.研究の方法. 心に構成され(表−1),子ども7名ずつの各5 班に,キャンプカウンセラーが1名つき,キャン. 1.調査対象. 調査対象は,「平成16年度道民の森・森の体験 キャンプ事業(2004年8月11日∼13日:2泊3. プ中は班ごとにプログラム活動や炊事等を実施し た.. 日)」に参加した小学校4∼6年生35名(男子19名,. 表−1森の体験キャンプにおける各プログラムの概要 \. プログラム名 ロ ナイトゲーム. 主 な 内 容 夜の森の巾で,人工的な明かりを使わず,暗闇の巾で自分の持つ五感を活か して課題を解決するゲームを行う. 昆虫が住む森を作ってみ 森の様々な場所を探り,森に生息する生き物を見つけ出し,どんな場所に生 2. よう 3 ナイトハイク. き物が住んでいるかを理解した後に,生き物が住みやすい場所を作る 「ナイトゲーム」と同様に,人工的な明かりを使わないで夜の森をできるだ け静かに歩き,夜の森の様子を感じ取る. 4 森のクラフトキッズ. 森の巾で素材を集め,班の仲間と協力してものづくりを行う. 3.調査方法 (1)「プログラムの活動特性」に関する調査内 容 各プログラムの特性から,「森の体験キャンプ」. の4つのプログラムの活動特性を表−2に示すよ うに捉え,各特性に1項目ずつ作成し,各プログ. O「知覚を促す興味関心」に対応する設問は,. 自然の巾で起こる現象に対し素直に驚いた り,疑問を持ったりして,自己課題を立てる ことができているかを測定する「自然現象へ の好奇心」に関する内容 O「感覚による実体験」に対応する設問は,自. ラムが終了するごとに質問紙を用いてアンケート. らの持つ五感を活かして,様々な体験をする. 調査を実施した.. ことができているかを測定する「五感を用い. (2)「プログラムにおける学習」に関する調査 内容. た体験」に関する内容 O「森の機能役割の理解」に対応する設問は,. 「森の体験キャンプ」の4つのプログラム(表. 自分が感じた疑問,不思議を実際の体験を通. −1)の中で,参加者が「何を学び,どのように. して解決しようとすることができているかを. 学習を進めていくか」を測定するために,「プロ. 測定する「自然の中での発見」に関する内容. グラムにおける学習」に関する質問紙を作成した.. O「感性的な共生意識」に対応する設問は,自. 具体的には,「知覚を促す興味関心」「感覚による. 然と直接触れ合う中で自然と人の共存の仕方. 実体験」「森の機能役割の理解」「感性的な共生意. を学んでいるかを測定する「自然における快. 乱という自然体験における学習過程12)の4カ. 適感」に関する内容. テゴリーに対応する設問項目を作成し,プログラ ムが終了するごとにアンケート調査を実施した.. 126. 4つの設問項目は表−3に示す通りである..
(4) 自然体験における学習の効果に関する▲考察 表−2 各プログラムの活動特性 プログラム. 活動特性 五感の活用 暗闇への慣れ. ナイトゲーム(くせものだ!). 視覚の順応 探求活動 昆虫が住む森を作ってみよう. 内 容 五感を用いて出来るだけ静かに動くようにする 夜の暗い森を恐れない 明かりを使わずに移動する 生物が居そうなところを調べる. 生物との触れ合い 昆虫が住みやすい場所を作る 生態系の理解 聴覚の活用. 森のたくさんの生き物を観察する 静かにして周りの様子をうかがう. 暗闇への慣れ. 夜の暗い森を恐れない. ナイトハイク. 視覚の順応. 明かりを使わずに移動する. 仲間意識. まわりの人のことを考える. 創作活動. 森にあるものを用いて作品をつくる. 森のクラフトキッズ. 表−3 「プログラムにおける学習」に関する項目 設問内容. 設 問 項 目. 自然現象への好奇心. 「森の巾で,「おや」「あれ」と不思議に思うことがありましたか」. 五感を用いた体験. 「活動の巾で自分の目,耳,鼻,手などをたくさん使いましたか」. 自然の巾での発見. 「「あっそうか」「えーそうなんだ」と新しくわかったことがありましたか」. 自然における快適感. 「森の巾での活動は気持ちがよかったですか」. (3)「自然体験における学習の効果」に関する 調査内容. における学習」に関する質問紙と同様に,自然体 験における学習過程12)の4カテゴリーから12設. 本研究では,対象とした自然体験プログラム「森. 問項目を作成し,「森の体験キャンプ」の全プロ. の体験キャンプ」における学習の効果を測定する. グラム終了時に調査を実施した.また,「自然体. ために,「自然体験における学習の効果」に関す. 験における学習の効果」に関する設問項目につい. る質問紙を作成した.具体的には,「プログラム. て,凶子分析を行い,各4項臼3凶子を選出した. 表−4 「自然体験における学習の効果」に関する設問項目の因子分析結果(バリマックス回転後) 設 問 項 目. 因 子 負 荷 量 第1因子. 第2因子. 2.森にはいろいろな葉っぱや木などの植物があっておもしろい. 0.877. 0.056. 3.森にはおもしろいものやおもしろいことがたくさんある. 0.844. −0.013. 1.森に住んでいる生き物を見たり,触ったりしたい. 0.765. −0.163. 4.森の小で「おや」「あれ」と不思議に思うことについてもっと知りたい. 第3因子 0.177 0.219 −0.201. 0.732. 0.054. 0.362. 7.森の巾の空気はきれいだ. −0.091. 0.804. 0.276. 6.森にはたくさんの生き物が住んでいる. −0.017. 0.802. 0.205. 9.森には新しい発見がたくさんある. 0.386. 0.756. 0.007. 8.森の様子はいつもちがうみたいだ. −0.18. 0.590. −0.147. 11.森は自分にとって人切である. 0.094. −0.018. 0.816. 12.森が元気になるために,あなたが役に立てることがある. 0.074. −0.076. 0.766. 10.森の巾にいるといい気持ちになれる. 0.263. 0.198. 0.718. 5.森で人きく息をl吸ってみた. 0.035. 0.281. 0.696. 寄与率 (累積寄与率). α係数. 31.3%. 20.6%. 13.9%. (31.3%)(51.9%)(65.8%) 0.81. 0.67. 0.74. 127.
(5) 曲. 向坊 俊・城後. ヽ!l. 実際の体験によって気づけるという内容から. (表−4).. 0第1国子は,自然の現象や自然の生物に関す. 「体験による発見・理解」とした.. 0第3因子は,森と自分のかかわりについて思. る興味や好奇心を持てるという内容から「自 然への興味関心」とした.. 考できるという内容から「自然と人の共生」. 0第2因子は,森のしくみやはたらきについて,. とした.. 表−5 各因子名と内容 因 子 名. 内 容. 第1因子 「自然への興味関心」. 自然現象や生態系に関する興味や関心. 第2因子 「体験による発見・理解」. 五感を用いた実際の体験による気づき. 第3因子 「自然と人の共生」. 森と自分が共に生きるためのかかわり方. 間群(n=10,M=52.50,SD=2.06),低得. 4.分析内容. 点群(n=11,M=44.36,SD=2.14)とした.. 設問項目はすべて「とてもそう思う(5点)」「そ う思う(4点)」「どちらともいえない(3点)」「そ. そして,3群問の「プログラムにおける学習」. う思わない(2点)」「まったくそう思わない(1. の平均値をFisherのPLSD法による多重比較. 点)」の5段階評定法で回答してもらい,それぞ. 検定を用いて比較した.. れ平均値,標準偏差を算出した. 本研究では,次の2つの視点で分析を試みた.. Ⅱ.結果及び考察. (1)「プログラムの活動特性」と「自然体験に. おける学習の効果」に関する設問項目を因子. 1.「プログラムの活動特性」と「自然体験にお. 分析して得られた「自然への興味関心」,「体. ける学習の効果」. 験による発見・理解」,「自然と人の共生」と. 表−6は,「各プログラムの活動特性」の平均. の関係についてピアソンの積率相関係数を用. 値と標準偏差,「自然体験における学習の効果」. いて分析した.. の各因子得点(最高点20点)の平均値と標準偏差 及び各相関係数(p<.05)を示している.3因. (2)「自然体験における学習の効果」得点(最 高点60点)により,人数がほぼ同じになるよ. 子の平均値はいずれも高く,「森の体験キャンプ」. うに3つに分け,得点の高い方から順に,高. の自然体験プログラムとしての学習の効果が明ら. 得点群(n=13,M=57.23,SD=1.48),中. かとなった.. 表−6 「プログラムの活動特性」と「自然体験における学習の効果」との関係 ナイトゲーム. クラフト. ナイトハイク. キッズ. 五感の 暗閣へ 視覚の探求 生物との 生態系聴覚の 視覚の 暗閣へ仲問 創作. 活用 の慣れ 州別♭活動 触れ合い の理解活用 州別♭ の慣れ意識 活動. SD. 体験による 自然と人 の共生. 3.85. SD l.07. 1.31. 4.684.21 0.671.05. 4.03 0.95. 4.743.68. 0.56. 1.21. 4.24 0.97. 2.913.41 1.561.29. M. 自然への 興味関心 発見・理解. M 4.26. .630. .501. .644. .583. M SD. M SD. .404. .499. .485. .483. (p<.05) 128. 4.38. 1.09.
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(10) 自然体験における学習の効果に関する▲考察. (2)「自然への興味関心」と「自然と人の共生」. を通して仲間とコミュニケーションを活発に. において,プログラムの活動特性と深くかか. 行う(仲間と相互補完する)ことにより,学. わっていることが示唆された.特に探求活動. 習の効果が醸成される. や創作活動といった自然の中で学習者が主体 的に動くことが,様々な疑問や不思議と思う 注. 気持ちを持たせ,自然体験における学習への 意欲につながる.また,森の生物や仲間とか かわりながら学習を進めることによって,「共 に生きること(共生)」を理解していく (3)「体験による発見・理解」は,平均値が高. 注1)「道民の森・森の体験キャンプ」は,平成14年(2002. 年)からNPO法人当別エコロジカルコミュニティー (TEC)の運営指導のもと,財団法人北海道森林整. 備公社が主催事業として北海道道民の森で実施して いる事業である.「子どもたちが多くの友だちと過ご. く標準偏差が低かったため,活動特性との相. す楽しさと協調性を養うと同時に,森の中での体験. 関関係を見ることができなった.つまり,「森. を通して,森と人間のかかわりについて理解するこ. の体験キャンプ」参加者が,まだ自然体験学. とで,日ごろのライフスタイルを見直すきっかけと すること」を目的に森のプログラムを行う.また,. 習の基礎的な段階であったために,活動特性. 道民の森は1985年(昭和60年)の「国際森林年」を. と関連があるかどうかに関わらず,学習者は. 契機に北海道が整備を進めた森であり,全国でも最. 自然の中で様々な発見をしていたことが推察. 大規模(約11,000ha)の森林複合利用施設である.. される.また,学習者の自然体験への参加頻 度が多くなるに連れ,ただ体験することによ. 活動の目的の違いにより5つの地区に分かれており, 森の体験キャンプは,テントサイトが整い自然を身 近に感じることができる月形地区で実施した.. る発見は少なくなることが予想され,経験と 発達段階に応じた活動特性を考えていく必要 引用・参考文献. 性がある. 1)マリナ・ハーマンら,山本幹彦監訳(2000)子ども. 2.プログラムにおける学習と自然体験における 学習の効果 「自然体験における学習の効果」得点により,. 高得点群,中間群,低得点群のように3つに分け て分析を試み,次の結果を得た.. が地球を愛するために〈センス・オブ・ワンダー〉ワー クブック.人文書院:京都,pp.25. 2)文部科学省(2002)省庁連携子ども体験型環境学習 推進事業連携における関係省庁との連携内容について. 文部科学省スポーツ・青年局青少年調査係.. 3)文部科学省(1996)青少年の野外教育の允実について.. 青少年の野外教育の振興に関する調査研究協力者会 議・報告,生涯学習局青少年教育課,p.4.. (1)「プログラムにおける学習」得点が高い, つまりプログラムの中で各活動特性を理解し. て効果的に学習を進めることが,「自然体験 における学習の効果」を育む (2)「プログラムにおける学習」は,各プログ ラムの活動特性と深くかかわり,特に自然の 現象について探究していく活動や生物と触れ 合う中で生態系について学ぶ活動と高い相関 関係がある.また,聴覚,視覚などの五感を. 使って活動することが,学習者の「自然と人 のかかわり」を深化させる (3)プログラムの活動の中で,一人一人が五感. 4)社団法人日本キャンプ協会(2000)キャンプ専門科. ロテキスト.pp.56. 5)日本野外教育研究会編(2003)改定キャンプテキスト.. 杏林書院:東京,pp.26. 6)岡村泰斗ら(2000)キャンプにおける環境教育・冒. 険プログラムが参加者の自然に対する態度に及ぼす効 果の比較研究.野外教育研究,第3巻 第2号,pp.1 12. 7)西匡‖憤一ら(2004)組織キャンプ体験による児童の 社会的スキルの向上効果.野外教育研究,第5巻第2号, pp.4554. 8)中村織江川卜村協平(2004)問題解決力を測定する. 尺度の作成一自然体験において育まれる問題解決力を 測る−.野外教育研究,第8巻第1号,pp.77朗. 9)向坊俊・城後豊(2005)キャンプ体験が児童の思い. 133.
(11) 向坊 俊・城後 豊 やりに与える影響−「森の体験キャンプ」に着目して−. 北海道教育大学紀要(教育科学編),第55巻第2号, pp▲1926.. 10)橘直隆ら(2003)長期キャンプが小中学生の生きる. 力に及ぼす影響.野外教育研究,第6巻第2号, pp.4556. 11)中内敏夫ら編(1982)現代教育学の基礎知識(1). 有斐閣ブックス:東京,p朗. 12)城後豊・山本幹彦(2002)「道民の森・森の子くらぶ」 の体験型プログラムに関する実践的な一考察.北海道 道民の森・森の子くらぶ報告書,pp.4554.. 13)J.W.スミス,芳賀健治訓(1985)新しい野外教育. 不味堂山版:東京,p65.. (向坊 俊 大学院生) (城後 豊 札幌校教授). 134.
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