小学校外国語活動・外国語科における英単語・英語表現の効果的な掲示の在り方
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第51号(令和元年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.51(2019):85-92. 小学校外国語活動・外国語科における 英単語・英語表現の効果的な掲示の在り方 椙 本 顕 士1・堀 田 誠1・カネフラー クリストファー アラン2 1. 北海道教育大学釧路校・2上智大学大学院生. Effective Classroom Displays of English Words and Expressions in Elementary School Foreign Language Classes SUGIMOTO Kenji1, HOTTA Makoto1, KNOEPFLER Christopher Alan2 1. Hokkaido University of Education, Kushiro Campus 2. Sophia University (Graduate Student). 要 旨 小学校学習指導要領(平成29年告示)において,小学校3年生と4年生では外国語活動,小学校5年生と6年生では外国語 科の授業が行われることになった。特に,小学校5年生と6年生の外国語科においては,聞くこと,話すことに加えて,読 むことと書くことも新たな学習内容となった。それに伴い,小学校ではこれまで以上に教室内に英単語や英語表現が掲示 されると予想される。このような状況において,指導者が正確な表記で掲示することは当然であるが,さらに,中学校や 高等学校へつなげる英語教育を考えた時,指導者が配慮すべき点はほかにもある。本稿では,言語学の視点,読みの発達 段階の視点,身近な生活環境と英語を結び付けるという視点から,英単語・英語表現の効果的な掲示方法について論じる。. 1.はじめに. 得において教室に漢字表記が掲示され,算数科では重要な. 本稿は,小学校外国語活動及び小学校外国語科において. 学習内容に関する教室掲示が行われる場合がある。それで. 学習した英語表現をクラスに掲示する場合の効果的な方法. は,小学校外国語活動や外国語においては,指導者がどの. について提案するものである。平成29(2017)年3月告示. ようなことに留意し,どのような掲示をすることが求めら. の小学校学習指導要領では,小学校5年生,6年生の外国. れているであろうか。本稿では,言語学,読みの発達段階,. 語科において,聞くこと,話すことに加え,読むこと,書. 身近な生活環境内の英語という視点から,英単語・英語表. くことが取り扱われることになった。また,小学校外国語. 現を教室内に掲示する時の効果的な方法を考える。. 科では,児童が英語の文構造に気づけるように配慮するこ とについても言及がなされることになった。さらに,今. 2.言語学の視点から. 回の学習指導要領改訂によって,小学校3年生,4年生に. 本節では,言語学の観点から,クラス掲示の際に意識す. おいては外国語活動が実施されることになった。3年生,. べき概念や注意すべき事項について述べる。2.1節と2.2節. 4年生の外国語活動では,聞くこと,話すことが学習の中. では語レベルの掲示において,統語範疇の概念と派生とい. 心であるが,文部科学省発行のテキストにはアルファベッ. う語形成が重要であると論じ,2.3節では文レベルの掲示. トカードが付録として掲載されるなど,児童に対してアル. において,項構造の概念が重要であると論ずる。. ファベットを提示する傾向が見られる。こうした状況を受 けて,小学校外国語科,外国語活動では,児童にアルファ. 2.1.統語範疇の重要性. ベットを積極的に見せることを意識した学習活動が展開さ. 統語範疇とは,ある共通の文法特性を持つ表現の集合で. れる機会が増えると予想される。アルファベットで書かれ. あり,伝統文法でいうところの名詞,動詞,形容詞,前置. た英単語や英文を児童が理解できるようにするためには,. 詞,副詞などの品詞のことである。統語範疇が小学生にとっ. 授業場面やクラス掲示において,工夫した提示の方法が必. て重要であると考える理由は2つある。第1にある語をあ. 要となる。他教科に関して言えば,国語科では漢字の習. る範疇に分類することは,そこにある文法的共通性を見出. - 85 -.
(3) 椙 本 顕 士・堀 田 誠・カネフラー クリストファー アラン すことに等しいためである。例えば,ある語が名詞である. つくものが否定的意味であると予測できる。またこのよう. とわかることは,その語が数に対して単数,複数の屈折を. な規則的側面に気づくと,児童自ら規則を適用して新しい. 示し,また冠詞と共起し,さらに具体的または抽象的なも. 語を作る,つまり創造的な力が身につく。もちろん過剰生. のや個々の人を指示する等の文法的共通性を発見すること. 成の問題が生じるかもしれないが,小学生にとってはその. につながる。. 問題以上に,未知のものを予測し,また創造することがで. 第2の理由は,統語範疇が後に学習する英文の構成と深. きることの方が重要であると思われる。. く関係するためである。例えば学習英文法の5文型を考え. 次に派生を意識して語を掲示する際の具体的注意点は,. る際,主語や目的語の位置に生起できる範疇は,名詞であ. 語基の部分と接辞の部分を色分けなどによって,区別し認. り,また補語の位置に生じることのできる範疇は,形容詞. 識できるようにすることである。これにより最終的には語. を基本とし,名詞や前置詞句なども生起することができ. 内部に構造があることに気づかせ,各部分がどういう意味. る。また名詞句の構造について考えると,名詞の前に位置. を持ち,全体の意味が,各部分を合成した結果生じている. し,その修飾語になれる範疇は形容詞である。従って範疇. ことに気付かせることである。このことを具体的に示すた. を意識した語の掲示は後の英語学習にとっても有意義であ. めに,以前私が研修に行った小学校2年生の授業を例にと. る。. り考えてみよう。その授業は「家族を集めよう」という単. 次に範疇を意識して語を掲示する際の具体的注意点は,. 元名で, 「わたしは誰でしょう?クイズ」という活動を通. 英語の統語範疇とそれに対応する日本語の統語範疇を一致. して,これまでに慣れ親しんできた家族の言い方を友達に. させることである。これを怠ってしまった例として以前私. 進んで表現することを目標としていた。具体的には,下記. が見学した小学校5年生のクラス掲示を示す。 (1) a. believe(信念) b. beautiful(美) c. brave(勇気). (3)の家族を表す7つの英単語を使って,サザエさんと. 例えば,(1) aではbelieveは動詞であり,対応する日本語. またその際,(4)に示すように英単語 grandma, grandpa. も「信じる」という動詞を用いるべきであるが, 誤って「信 の範疇が対応する日本語の範疇と一致していないため,日. の語頭に同じ音があることに気づかせていた。 (4) a. grandma b. grandpa. 本語の統語範疇の知識を英語の統語範疇に適用できない,. ここでさらに一歩踏み込んで,形態・意味の規則性に気. または適用した結果矛盾が生じる点である。このような掲. づかせる掲示をする方法を考える。まず接頭辞と語基を色. 示は上記で述べた統語範疇の重要性の観点から,後の英語. 分けし,2つの部分からなること認識させる。次に重要な. 学習に悪影響が出てしまう可能性が大いにある。. ことは,英語の学習に母語である日本語の知識を活用する. シンプソンズなどのアニメに登場する家族を紹介してい た。 (3) mom, dad, brother, sister, baby, grandma, grandpa. 念」という名詞を用いている。この掲示の問題点は,英語. ことである。表面的には言語は英語,日本語,韓国語など 2.2.派生の重要性. 複数あり,どれも異なっているように見え,英語の学習に. 次に派生とは,語形成の一種で語基に接尾辞や接頭辞を. 日本語の知識は活用できないように思われるかもしれない. 付加することで形態的に複雑な語を作る過程のことであ. が,違いの部分を取り除いた純粋に規則的な部分は言語間. る。具体例が(2)に示される。 (2) a. happy(語基)+ –ly(接尾辞)→happily b. un–(接頭辞)+ happy(語基)→unhappy c. hope(語基)+ –less(接尾辞)→hopeless. で共通している。この意味では言語は1つである。従って,. 派生では (2) a から分かるように,接辞を付加することに. が英語に限らず言語一般についてより深い知識や興味を持. よって品詞が変更される(形容詞から副詞)もの,また (2). つようになる。ここで(4)の例に戻ると,具体的には英. b のように, 意味が変化する(肯定的意味から否定的意味). 語の派生に加え,それに対応する日本語の派生を同時に示. もの,さらに (2) c のように,品詞と意味の両方が変わる. すことである。例えば,語頭のgrandの意味に気づかせる. ものがある。このような派生という語形成が小学生にとっ. のであれば, (5)に示すように,日本語の「祖父」 , 「祖母」. て重要であると考える理由は,形態的特徴から範疇や意味 側面に気づくと,未知の語の性質を予測できることであ. も同時に示すことである。 (5) a. grand ma, b 祖 母,. る。例えば,(2) a において–lyがつくものが副詞であると. またこのような掲示を活用すれば,日本語でお父さんの. 分かれば,未知の語についても–lyで終わるものは副詞で. お父さんのお父さんが曽祖父であることを示せば,児童は. あると予測できる。(2) b においても,un–がつくものが. 規則性に基づいて,英語ではgrandの前にさらに何かつく. 否定的意味であるとわかれば,未知の語についてもun–が. のかもしれないと予測することができるであろう。. 規則的な部分については英語の学習にも日本語の直観が非 常に役に立ち,また逆に児童の日本語の学習にも英語の知 識は良い影響を与えてくれる。これにより最終的には児童. を推測できる点である。換言すると,いったん語の規則的. - 86 -. grand 祖. pa 父.
(4) 小学校外国語活動・外国語科における英単語・英語表現の効果的な掲示の在り方 最後にさらなる派生の例として,小学校外国語活動教材. (10) a. The workers loaded the boxes onto the truck. 行為者 積むモノ 積む場所 b. The woman told her boss the serious issue. 行為者 話す相手 話す内容 c. The boy throws the ball. 行為者 投げるモノ d. The man worked. 行為者. 『Let s Try! 2』と小学校外国語科教材『We Can!』の中 から実際に用いられている語を基にして,どのような掲示 の工夫ができるか検討する。第1に『Let s Try! 2』のUnit 5では下記(6)に示すような文房具が扱われている。 (6) a. eraser (erase + –er) b. stapler (staple + –er) c. ruler (rule + –er) d. marker (mark + –er) e. pencil sharpener (pencil sharpen + –er). 例えば,(10) a の動詞load(積み込む)であれば,その 意味からして, (i)積み込むという行為をする人,(ii)積 むモノ, (iii)積むという行為の結果モノがたどり着く到. これらの語は全て「動詞+ –er」という形式で「∼するた. 達点の3つの要素が必要であることがわかる。このような. めの道具」という意味をなす。これについても語基の部分. 情報を動詞の項構造という。専門用語を用いると,動詞が. と接尾辞の部分を色分けするなどして語内部にも構造があ. 記述する出来事を成立させるために必要不可欠な要素を項. ることに気づかせ,各部分がどういう意味を持ち,全体の. と呼び,項が文中で担う意味的機能のことを意味役割と呼. 意味が,各部分を合成した結果生じていることを理解させ. ぶ。つまりある動詞の項構造とは,その動詞の項の数と項. ることができる。また『We Can!』の中では扱われていな. が担う意味役割の情報から成る。一般に項の数は(10). いが,下記の(7)に示すような家庭にあるさまざまな道. から分かるように,1つ以上3つ以下であり,また意味役. 具を表す語の意味についても,例えば児童に動詞の意味を. 割には行為者,モノ,場所,到達点,相手,内容などが想. 明らかにした上で,全体の意味を予測させることもできる. 定されている。. だろう。 (7) a. b. c. d. e.. 上記の説明から明らかであるが,項構造の概念が小学生. fryer dryer washer blender can opener. にとって重要である理由は,文(の骨格)が動詞の項構造 の情報を基に組み立てられているためである。またもう1 つの理由は,この意味役割の概念が統語範疇や文法関係と 相関関係を持つためである。つまり,ある意味役割がある 特定の統語範疇や文法関係に対応するためである。例え. また第2に,『We Can!』の巻末のWord Listの中には,. ば,意味役割と統語範疇の相関でいえば,(10)から分か. 下記(8)に示すような数を表す接頭辞が付加した語があ. るように,行為者が名詞句として文中に現れるという関係. る。 (8). がある。この他にも(11)で示すような相関がある。 (11) a. モノ ⇒ 名詞句 The boy kicked the ball. b. 場所 ⇒ 前置詞句 John kept the book on the shelf. c. 到達点 ⇒ 前置詞句 The workers loaded the boxes onto the truck. d. 相手 ⇒ 名詞句 or 前置詞句 The woman told her boss the serious issue. John said to me that Mary was wise. e. 内容 ⇒ 名詞句 or 節 He teaches the students English. He whispered to me that there was a bear.. a. unicycle b. bicycle c. triangle. (uni– + cycle) (bi– + cycle) tri– + angle). これについても語基の部分と接頭辞の部分を色分けするな どして語内部にも構造があることに気づかせ,各部分がど ういう意味を持ち,全体の意味が,各部分を合成した結 果生じていることを理解させることができる。また『We Can!』の中では扱われていないが,語の各部分の意味を 理解した後で,次の(9)の意味についても予測させるこ とができるだろう。 (9) a. tricycle b. quadrangle. (tri– + cycle) (quadr– + angle). また意味役割と文法関係の相関でいえば,(10)から分. . かるように,行為者は主語として文中に現れ,モノは目的. 2.3.項構造の重要性. 語として文中に現れるという関係がある。つまり意味役割. 最後に文レベルの掲示について動詞の項構造の概念が重. が分かると,そこから統語範疇や文法関係を予測すること. 要であると論じる。まず文は主語と述部のまとまりであ. ができるという利点がある。. り,何かについて(主語) ,何かを述べる(述部)形をし. 次に動詞の項構造を意識した文の掲示についての具体的. ている。また述部の中心となる語は動詞であり,動詞の意. 注意点は,当該の動詞の項構造に従って語彙の概念を図示. 味によって文には「どのような要素」が「いくつ」必要で. し,文中の各項と対応させることである。例えば,throw. あるのかが決まる。具体例として(10)を考えよう。. であれば,throw単体で示すのではなく,(10) c のような 完全な文の形で示し,その出来事を示す図には,2つの項. - 87 -.
(5) 椙 本 顕 士・堀 田 誠・カネフラー クリストファー アラン (行為者,モノ)がそれぞれ独立して認識でき,文中の項. を見てその文字を解読することはできないが文脈からその. と対応していることがわかるように示すことが重要である. 意味を特定することができる段階である。文字を解読でき. (例:図1)。. る能力は備わっていないが,文脈から英単語の意味を推測 する段階である。周囲の親たちからは,子どもがあたかも 英単語の文字を読んでいるかのように見える段階である。 第2段階は,英単語の綴りの一部あるいは全体の形を見て その意味を理解する段階である。綴りの最初の文字や最後 の文字,または,綴り全体の形に着目し,英単語の意味理 解へつなげようとする段階である。第3段階は,アルファ ベットの書記素と音素に関する知識が備わり,その知識を 基に英単語の綴り字(書記素)を見て,その綴り字の構成 からその英単語がどのような音韻表象をもつ単語であるか The boy. throws. を類推し,自らが既に獲得している音韻表象と照合して,. the ball.. その英単語の意味を理解しようとする段階である。具体例 を挙げてみると,子どもが dog という綴り字から「ドッ グ」 (便宜上カタカナで記す)という音韻表象を作り出す. 図1. 文構造への気づきを促す掲示の例. ことができた時,子どもは自らが獲得している「ドッグ」 注:本稿は白黒印刷となるため,四角と丸の形を用いて,. という音韻表象をもつ単語と照合し, 「ドッグ」という音. 動詞の項と写真の部分のどこが対応しているかを示し. が「犬」を意味する単語であることと結びつけて理解する. た。 実際の教室掲示では, 色分けして示す方法もある。. という例がそれにあたる。 dog(正書法表象)→「ドッグ」 (音韻表象)→「犬」 (意味表象)という流れで意味を理. このような掲示から児童は文構造について多くのことに気. 解する段階である。第4段階は,音韻表象を利用せず,英. づくことができる。例えば,行為をしている人がどの動詞. 単語を見るだけ(一見するだけ)で,その意味がすぐに理. においても動詞の前の位置(=主語位置)に現れているこ. 解できる段階である。この第4段階は,英単語を視覚的に. とや,影響を被っている人やモノが動詞の後ろの位置(目. とらえるという点では第2段階と似ているが,全く同じで. 的語の位置)に現れていることに気づくことができる。ま. はない。第2段階では英単語の一部あるいは全体を図形的. た到達点や場所を表す名詞句には前置詞が前についている. な形と見ることや,最初や最後の文字だけに着目すること. ことなどにも気づくことができる。さらには,意味の似て. などを通して推測している段階でしかないのに対して,第. いる動詞類は同じ項構造を持つこと(例えば情報伝達をす. 4段階は英単語の綴り字の一つ一つに着目できる力をもち. る動詞類(say, teach, tell, whisper...)は行為者の他に伝. ながらもその英単語の意味を瞬時に理解できるようになる. える相手と伝える内容を選択すること)にも気づくことが. 段階であるという点で第2段階よりも高いレベルにある段. できる。. 階となる。第4段階は,熟達した読み手に到達する段階で. 以上2節では,言語学の観点から,語や文を掲示する際. あると言える。. に,統語範疇,派生,項構造の考え方が重要であることを. このように,熟達した読み手になるためには,英単語の. 論じ,また掲示の際の注意点と具体的方策を示した。. 綴りから英単語の音韻表象を推測する力が必要になるが, そのためには書記素と音素の一致に関するルールに気づく. 3.読みの発達段階の視点から. 必要がある。すなわち, q は /k/ という soundをもってお. 3.1.文字で書かれた英単語の認知. り, ch は /t∫/ というsoundをもっているというルールを. 小学校外国語活動・外国語科においては, 「文字で書か. 理解しておく必要がある。そのルールに基づいて英単語の. れた英単語」(この節では,単に英単語と称する場合があ. 綴りから音韻表象を作り出す能力をもつことが熟達した読. る)を見て,その意味するところが何であるかを理解でき. み手になるために求められていることである。英単語の綴. るようになることが望ましいと言える。特に小学校外国語. りから英単語の持つ音韻表象を作り出す能力をもつことは. 科では,文字で書かれた英単語を見て,その意味を理解し. 英単語認知のスキルを高めるために必要不可欠である。そ. て学習活動に生かす場面も多いと言えよう。一般的に,英. のため,英単語を教室に掲示する場合には,子どもたちが. 単語を見て,その意味するところが何であるかを理解でき. 英単語の綴り字に注意を向けやすいように掲示すること,. るようになるまでには一定の発達段階があると言われてい. そして,それぞれの書記素がもつ音素への気づきが生まれ. る。Høien and Lundberg(1988)は,幼児が英単語を見. るように掲示を工夫する必要がある。. てその意味が何であるかを理解できるようになるプロセス には4つの段階があると述べている。第1段階は,英単語. - 88 -.
(6) 小学校外国語活動・外国語科における英単語・英語表現の効果的な掲示の在り方 3.2.文字から意味への2つのアクセスルート. る。掲示の目的が,書記素と音素の一致に関するルールに. 英単語を見て,その意味を理解するという一連の行為に. 気づかせることにある場合,子どもたちが,アルファベッ. は,正書法表象(orthographic representation) ・音韻表. トの書記素と音素の関係性に自ら気づくことができるよう. 象(phonological representation) ・意味表象(semantic. に,意図的,計画的な掲示を行う必要がある(図4,図5)。. representation)の3つが関係している(図2) 。 <学習した英単語カードが次のような場合> Route A. (Let s try! に掲載されていた英単語から). Route A. coffee. melon. cat. monkey. carrot. magnet. 図3. 単に並べられただけの掲示例. Route B 図2. 文字から意味へのアクセスルート (堀田, 2008, p. 1 図1を改変) 文字で書かれた英単語を見て,その意味を理解する(意 味にアクセスする)という行為について, Barron(1986) は2つのアクセスルートがあると説明している。図2の Route Aは,英単語を見て,その意味にアクセスするた めに音韻表象を経由して意味にアクセスするルートであ. cap. monkey. carrot. melon. cat. magnet. /k/. る。一方,図2のRoute Bは,英単語を見て,音韻表象を. /m/. 図4. cやmに気づかせたい場合の掲示例. 経由せずに直接意味にアクセスするルートである。Route Aを間接ルート,Route Bを直接ルートと呼ぶ。Route A はHøien and Lundberg(1988)が言うところの第3段階. magnet. における文字の解読方法に通じる。Route BはHøien and Lundberg(1988)が言うところの第4段階における文字. carrot. cat. 図5. tに気づかせたい場合の掲示例. の解読方法に通じるものである。Høien and Lundberg (1988)によれば,第4段階にいる読み手は第3段階の読 み方と第4段階の読み方の両方を使用することができる。. 子どもたちが,c と /k/ や m と /m/ の関係に気づきやす. すなわち,第4段階にいる読み手は,直接ルートと間接ルー. くするため,点線の枠(例えば,赤色等)を c や m を囲. トの両方のアクセスルートを利用して文字で書かれた英単. うようにして上に貼り付ける。マグネットで接着できるタ. 語の意味理解を図っている。通常,大人のような熟達した. イプだと何回も付け外しできる。また,マグネットの使用. 読み手は,直接ルートと間接ルートの両方のアクセスルー. ができない場合には,点線の枠(例えば,赤色等)を厚紙. トを効果的に利用しながら文字で書かれた英単語などを. で作成し,その裏側にスプレーのりを吹きかけて,少し乾. 解読している。英単語を読む力を小学生に身に付けさせる. くのを待つ。粘着力が弱くなった頃合いを見計らって英単. ためには,児童がアルファベットの書記素と音素の関係性. 語カードの上に貼り付けると,何度でも着脱が可能な枠が. に気づけるような工夫をすることが必要となる。次は,書. できあがる。掲示の際,指導者は,児童の気づきを促すた. 記素と音素の一致に気づかせる掲示の方法について考えた. めの枠の色,文字の色,太さ,フォントのほか,英単語カー. い。. ドのレイアウトにも注意を配る必要がある。 第3節では,書記素と音素の関係性に気づかせる掲示の. 3.3.音素と書記素の一致に気付かせる掲示の方法. 方法について取り上げた。小学校外国語活動・外国語では. 3.1節及び3.2節で取り上げたように,文字で書かれた英. 書記素と音素の一致に関するルールを学習で取り扱うが,. 単語の意味にアクセスする力を高めるためには,子どもた. 機械的に教え込み,訓練させる指導は求められていない。. ちが書記素と音素に注意を向け,その関係性に気づくこと. 平成29年3月に告示された学習指導要領に示されているよ. が大切である。それに配慮した掲示を行うことは,児童. うに,音声で十分に慣れ親しんだ英単語や英文を読み,書. が自ら気づき,考える上で大切な指導の1つであると言え. くことが求められている。3.2節で文字から意味にアクセ. - 89 -.
(7) 椙 本 顕 士・堀 田 誠・カネフラー クリストファー アラン スする時の2つのルートについて触れたが,熟達した読み. ビニを見回すと, 「CHIP STAR」 「Blendy Stick」「Meiji. 手に成長するためには,2つのルートが自在に利用できる. Milk Chocolate」等の英語を容易に見つけることができ. ようにすることが大事である。そのためにも,音声で英単. る。その他,ブランド名,レストランの名前,スポーツの. 語や英文に十分に触れておくことが必要であると同時に,. チーム( 「Rakuten Eagles」 「MILKFED」 「Panasonic」). 掲示によって視覚的に書記素のもつ音素に児童が気づける. 等を印刷して掲示することも可能である。また, 「こんな. ような掲示の工夫が必要となる。. ところにABC !」「あるあるアルファベット!」などと名. 学習のターゲットとなる英単語や英文について,児童一. 付けた掲示板に,見つけた身近な環境にある英語を自由に. 人一人が十分な音韻表象を獲得した上で,綴り字から創り. 掲示し,頭文字のアルファベット順に掲示することもでき. 出した英単語や英文の音韻表象と自らが獲得した音韻表象. る。またその際,子どもたちが自分自身で英語を見つけ,. を照合して,児童が音声で学んできた英単語や英語表現は. 掲示することもできるだろう。. こんなふうにアルファベットで書かれるのだと気づけるよ. この方法には,3つの利点がある。 (1)身近な環境にある英語の文字を用いた指導を行う. うな指導と掲示の工夫が行われることが望まれる。. ことによって,書記素と音素の対応規則が理解でき 4.教室に掲示を行うことの意義. るようになると,その知識を足がかりにしてやがて. 4.1.子どもたちが身近で目にする英語表記. トップダウン的に語彙の理解ができるようになる。. 英語の掲示の重要な目標の1つは,児童が英語と触れ合. (2)ブランド名,ラベル等は色,形やデザインが面白. う機会がより多くなる環境を作ることである(Schwarzer,. く,子どもが自然に興味を持つことができる。. 2001)。 ま た, 就 学 前 の 子 ど も で さ え, 第 一 言 語 発 達. (3)身近な環境にある英語の文字を用いた指導を行う. で は, 日 常 生 活 な ど の 身 近 な 環 境 に あ る 英 語 の 文 字. ことによって,日常生活で出会う英語に対する興. (environmental print,以下,身近な環境にある文字). 味,意識を高めることができる(Neumann et al.. にさらされることが英語リテラシーの発達にとって重要. 2013; Rowland, 2013) 。この方法を通して,児童. であると考えられている(Dunn, 2014; Elliott & Olliff,. は,今まで気づかなかった所にもたくさんの英語が. 2008; Neumann, Hood, & Ford, 2013) 。上述したように,. 書いてあることに気づき,それらを教材にして教室. 子どもは文脈等を使いながら文字をシンボルとして読むこ. 外でも学ぶことができる。. とができる(logographic stage) 。例えば, 個々のアルファ ベットの知識がなくても「PEPSI」などのブランド名を. 4.2.スクールラベル. 見れば,色,形などの文脈を手がかりにして,子どもはそ. これに関連したアイデアとして,教室や学校にあるもの. れを認識することができる(Frith, 1985) 。Neumann et. に英語のラベルを付けるという掲示方法もある。一例とし. al.(2013)は身近な環境にある英語の文字が第一言語の. て は, 「blackboard」 「teacher s desk」 「door」 等 を カ ー. scaffolding(足場かけ)のために重要な資源となりえるこ. ドに書いて,実物に貼り付けることが挙げられる(Dunn,. とを示した。彼らは3, 4歳の読み書きの能力の発達を調べ. 2014) 。また,このような掲示の作成を児童自身に行わせ. るため,そのような文字(シリアルの箱やブランドのロゴ. る方法もある。例えば,台湾の小学校では,子どもたちが. など)を使用して教えられた子どもたちと,同じ言葉を白. 自分で作ったラベルをいろんなものに貼ったという報告が. と黒の標準の書体を使用して教えられた子どもたちの2つ. ある(Teng, as cited in Dooley, 2013) 。このような活動. のグループに分けて分析した。その結果,前者を使用して. によって,児童が楽しく英単語や英語表現を「書く」学習. 教えられた子どもたちの方が,書記素と音素の対応規則に. を行うこともできる。また,自分たちが作ったラベルを毎. 関する知識をより多く学び,また,書き言葉に対してより. 日見ることで,学校生活の中に英語の文字と触れ合う機会. 興味(print motivation)を示していることを発見した。. が増えることにもつながる。. さらに,他の多くの研究者や教師も,英語リテラシーを高 めるために,学習者に対して,身近な環境にある文字に注. 4.3.会話で使う表現. 意を向けることを提唱している(Dooley, 2013; Gonzalez-. 小学校の段階では,会話の中でまとまった表現を使用す. Bueno, 2003; Schwarzer, 2001) 。日本では,看板,服,. るのは重要である(e.g., Ellis, 2012; Richards, 2008)と. 食物のラベル,ブランド名,メニュー等,様々なところで. されているが,さらに掲示としても示すことが大切であ. 英語が使用されている。オリンピックや外国人人材活用な. る。理由としては,まだ読む力がついてない段階だとして. どで,今後もこのような文字の量は増加し,その質は向上. も,頭文字や,表現の長さ,単語の数等を手がかりにして,. することであろう。. 耳で聞いた情報を結び付けて表現を思い出し,読むことに. 次に,身近な環境にある文字を教室で活用する場合,指. つなげることができるからである。筆者の経験でも,児童. 導者は,子どもたちがすでに慣れ親しんだ英語をそのまま. は表現を正確に読めないはずであるが,黒板に書かれた英. 掲示して教材として使用することもできる。例えばコン. 語を手がかりにして会話をしていた。. - 90 -.
(8) 小学校外国語活動・外国語科における英単語・英語表現の効果的な掲示の在り方 次にこのような掲示を実行する際,少なくとも注意する. けで,子どもたちがその絵の中にある英単語をある程度読. ことが2つある。1つ目は,既に聞いたことがあり,ある. み,理解できるようになったと報告している。 ener and. 程度意味が理解できる英語を掲示することである。これ. Bostan(2017)も似たような結果を出している。. は,Nation(2008)が述べているように,文字を解読す. 以上,第4節では,まず身近な環境にある英語の文字の. るには,音と意味の知識が備わっていることが前提となる. 重要性,次にそれをクラス掲示に応用すること,また,ク. ためである。2つめの注意点は,授業の中ではダイアログ. ラス掲示には単語ばかりでなく,ある程度まとまった表現. を板書や掲示してもよいが,その対話の流れ全体をそのま. の掲示も効果的であること,さらに,新たな発見につなが. ま教室内に掲示し続けることは避けたほうが良いというこ. るような掲示が文字への関心を高めることについて論じて. とである。. きた。ここでの提案は全て,より豊かな英語環境を作る方. ダイアログをそのまま貼り付けると,それを見続け,そ. 法である。このような環境を作ることで,子どもや教室に. の対話(やりとり)だけを覚えてしまい,自らが英語表現. 訪ねて来た親は英語教育が大事にされていると分かるであ. を選んで対話するという力が育たなくなる心配があるから. ろう。またさらに,教員の英語知識からのみ英語を学ぶの. である。それを解決する1つの方法としては,状況や機能. ではなく,子どもが英語を身近に感じ,自らの生活と結び. に応じて表現を分類し,掲示することである。例えば,. 付けて英語を学ぶことが大切であることも分かるであろ. 「反応する表現: Me too! , Great! , Really? 」や「好. う。. きなものについて聞く表現: What ○○ do you like? ,Do you like ○○? 」などが挙げられる。この方法のさらなる. 5.おわりに. 利点としては,英語表現ごとに切り分けられるような掲示. これまでに小学校では,子どもたちが意欲的に学習に臨. (文ごとの掲示)があれば,次の授業の対話場面で黒板に. み,効率良く学習内容を習得できるようにするために,掲. 掲示して活用することもできる。. 示のレイアウトや配色を意図的,計画的に行ってきた。特 に,国語科,算数科,社会科,理科などの各教科において. 4.4.チャンツ・歌の歌詞. は,長年にわたり学習内容定着のための掲示に関する工夫. 『Let s Try!』や『We Can!』 ,また,2020年にむけ作成. が行われてきた。しかし,これまでの小学校外国語活動で. されている新教科書には歌やチャンツが含まれている。こ. は,掲示に関する工夫はほとんど検討されてこなかった。. のような授業で使われるチャンツや歌の歌詞を掲示するこ. したがって,今回,本稿において示した3つの視点は,指. とには利点がある。歌やチャンツは,リズムに合わせた言. 導者が英単語や英語表現を掲示する際の一助となるであろ. 語のため,頭に残りやすい(Wagstaff, 1997)が,忘れて. う。今後,この3つの視点に基づく掲示の効果については,. しまうこともある。このような場合において,掲示があれ. 実証的に検証をしていく必要があると言えよう。. ば,それを手がかりにして,既に頭のなかにあるリズムと 結び付けて思い出すことができる。その結果,先生がいな. <参考・引用文献>. くても,また,1人でも休み時間などに歌うことができる。. Barron, R. W. (1986). Word recognition in early reading: A review of the direct and indirect access hypotheses. Cognition, 24, 93-119.. 4.5.新しい発見につながる掲示 クラス掲示を作成する際に,既に授業で用いた例など,. Çetin, Y., & Flamand, L. (2012). Posters, self-directed. 学習者にとって既知の情報を繰り返し使用するだけでな. learning, and L2 vocabulary acquisition. ELT. く,別の例などを用いて子どもたちが「何か新しいことが. Journal, 67, 52-61. Dooley, K. (2013). English in the urban environment:. 分かる,発見できる」掲示にすることも重要である。 例えば,教員やALTのプロフィール,教員の行きたい国. Resources for 21st century readers. In Y. Leung,. についての情報などは, 「新しい発見」につながる。担任. W. Lee, & S. Hwang (Eds.), Collection of papers from. の教員に限らず,他の先生や校長先生の情報など,授業の. the invited speakers and winners of paper awards. (pp.. 中でなかなか知ることができないものだと,子どもたちが. 29-42). Taipei: Chien Tan Overseas Youth Activity Centre.. 興味を持ち,喜んで読みたがるだろう。 このような掲示を支持する具体的な実験がある。Çetin. Dunn, O. (2014). Introducing English to young children:. and Flamand(2012)は絵の中にある物を英語で示した. Reading and writing. London: HarperCollins Publishers.. ポスターを説明なしに教室の中に掲示するだけで,語彙の 習得に効果があることを示した。彼らの研究では,トルコ. Elliott, E. M., & Olliff, C. B. (2008). Developmentally. の小学校2年生の教室に日常場面(公園,家の中等)のポ. appropriate emergent literacy activities for young. スターを掲示し,教室に3週間置いた。先生はポスターに. children: Adapting the early literacy and learning. ついて何も言わなかったにも関わらずポスターを貼っただ. model. Early Childhood Education Journal, 35, 551-556.. - 91 -.
(9) 椙 本 顕 士・堀 田 誠・カネフラー クリストファー アラン University, Taiwan.. Ellis, N. C. (2012). Formulaic language and second language acquisition: Zipf and the phrasal teddy. Wagstaff, J. M. (1997). Building practical knowledge of letter-sound correspondences: A beginner's word. bear. Annual Review of Applied Linguistics, 32, 17-44. Frith, U. (1985). Beneath the surface of developmental dyslexia. In K. E. Patterson, J. C. Marshall, & M. Coltheart (Eds.), Surface dyslexia: Neuropsychological and cognitive studies of phonological reading (pp. 301330). London: Erlbaum. Gonzalez-Bueno, M. (2003). Literacy activities for Spanish-English bilingual children. The Reading Teacher, 57, 189. 原口庄輔・中村捷・金子義明(編) (2016) . 『増補版チョ ムスキー理論辞典』東京:研究社. Høien, T., & Lundberg, I. (1988). Stages of word recognition in early reading development. Scandinavian Journal of Educational Research, 32, 163-182. 堀田誠 (2008).「小学生の英語語彙認識における音声情報 の役割」 『中部地区英語教育学会紀要』 ,第38号,1-6. Larson, R. (2010). Grammar as Science. Cambridge, MA: MIT Press. 文部科学省(2018) . 『小学校学習指導要領(平成29年3月 告示)解説 外国語活動・外国語編』東京:開隆堂出版. 中島平三(2011) . 『ファンダメンタル英語学演習』東京: ひつじ書房. 中村捷(2009) . 『実例解説英文法』東京:開拓社. 竝木崇康(1985) . 『語形成』 (新英文法選書第2巻)東京: 大修館. Nation, I. S. P. (2008). Teaching ESL/EFL reading and writing. NY: Routledge. Neumann, M. M., Hood, M., & Ford, R. M. (2013). Using environmental print to enhance emergent literacy and print motivation. Reading and Writing, 26, 771793. Richards, J. C. (2008). Teaching listening and speaking. Cambridge: Cambridge University Press. Rowland, L. (2013). The pedagogical benefits of a linguistic landscape project in Japan. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 16, 494505. ener, S., & Bostan, D. (2017). Using posters in EFL classroom: An elementary school case. International Online Journal of Education and Teaching, 4, 552-560. Schwarzer, D. (2001). Whole language in a foreign language class: From theory to practice. Foreign Language Annals, 34, 52-59. Teng, C.W. (2009). A study on the effectiveness of elementary school s environmental print: A case study of one Taipei County elementary school (Unpublished Masters dissertation). National Chengchi. - 92 -. wall and beyond. The Reading Teacher, 51, 298-304..
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神戸市外国語大学 外国語学部 中国学科 北村 美月.