構文文法に基づく日本語の統語分析 : 「~を~に」構文の場合
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(2) . 北海道教育大学紀要 (人文科学・社会科学編) 第51巻 第2号 l山国doUni ) VO i好 of Educat I i i ISc i Journm ver s on (Hmm 如i韻esandsoc a ences ‐ofHo .2 . 51, No. 平成 13 年 2 月 Feb IMa ry, 2001. 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合1. 井. 筒. 勝. 信. (旭明i校 英語英文学研究室). 1. は じめ に. 本研究は, 1) 現代日本語の 「~を~に」 という構造が典型的には 『おく, かえる』 型の意味を持つこと, 2) それら典型的意味は 『ヲ格名詞句の指示対象を二格名詞句の指示する領域に位置づける』 という図式的 意味を共有していること, 従ってこの構造に関する限り3) 日本語はこれまで想定されてきた以上に語順言 語的性質を有すると認めなければならないことを主張する‐ 「広辞苑を枕に寝る」, 「恋人の思い出を胸に生きる」, 「大学合格を目標に勉強する」 のような例は 『広辞 苑を枕として用いて寝る』,『恋人の思い出を胸に抱いて生きる』,『大学合格を目標と看倣して勉強する』 位 の解釈を持つが, これら 『用いる』,『抱く』,『看倣す』 という概念は 「寝る」,「生きる」, 「勉強する」 とい う動詞の意味からも, ヲ格・二格の名詞句からも, 格助詞の意味からも導かれない‐ 従来, 日本語は専ら膨 着言語として扱われ, 文法関係や意味関係は接尾辞によって表されると考えられてきた‐ そのため このよ , うな現象を直接扱った研究は, 助詞, 助動詞のような接尾辞の意味や機能についての分析に比べて極端に少 な い‐ ま た, 動詞 の 項 と して用 い ら れる 「~ を~ に」 と 「~ に~ を」 は 意味 は同 じで文 体上 の 理 由か らの み語 ,. 順が入れ替わっているに過ぎないと分析されがち である‐ しかし, 実際には文体的理由を排除しても一方の 形は自然だが, 他方では不自然であるという表現が相当数存在する‐ 例えば, 「手紙を友達に書いた」, 「水 を花にやっ た」, 「ガソリンを車に入れた」 は, 対応する 「~に~を」 の表現に比べてぎこちなく 他方で , 「手にバ ッ トを握った」, 「リーダーに最年長者を決めた」, 「胸に野望を抱いた」 は対応する 「~を~に」 の 表現に比較して座りが悪い‐語順の入れ替えが不自然である理由ににつ いては十分な説明がなされていない . これらの現象は, 「~を~に」 という構造をそれ自体独立 した意味を持つ構文として扱う 「構文文法」 的 接近法によって首尾よく扱うことが出来る‐ 「~を~に」 が修飾句として用いられると 『用いる』 『抱く』 , , 『看倣す』 のような解釈が加わるのは, 『ヲ格名詞句の指示対象をニ格名詞句の指示する領域に位置づける』 という意味をこの構造が持つからであり, また動詞の補部に現れる 「~を~に」 と 「~に~を」 がしばしば 交換不可能なのは, それぞれが別の意味をもつ構文を成すからである‐ これらは全て 構文文法が前提とす , る構文の多義性, 複数の意味の関係, 典型的意味といった観点から説明される. 1 本論文の一部は 1994年12月 に行 われたSLC (Sapporol窟gt l ) の談 話会にて発表 した論文を書き直 したもので i d雨c sC r c e , ある‐ 貴重な意見を下さった北海道大学言語文化部の諸先生方を中心とする談話会の参加者の方々に謝意を表したい ま . た, 本論文の草稿段 階に目を通 し, 有益 なコメ ン トを呉 れた井筒美津子氏にもお礼 を言 いたい .. 53.
(3) . 井 筒 勝 信. 第2節で構文文法の枠組みを概観した後, 動詞の項としての 「~を~に」 を第3節で, 修飾句としての 「~を~に」 を第4節で観察し, 第5節で 「~を~に」 構文の典型的意味, 図式的意味, 意味のネッ トワー クについて議論する. 最後第6節では, 本論で提出した構文文法による分析に基づき 「接尾辞だけでなく語 順, 構文という要素も文法機能や意味の表現形態であるとする見地に立って日本語の統語研究を行うことの 必要性」 を強調する. 2 構文文法 cke r 構文文法は, 認知言語学の一分野である‐ 認知言語学は, 言語表現の意味を概念化と見なす (Lapga ). 従って, ある名詞の指示対象は客観世界に存在する具体物そのものではなく概念主体 (話者や聴者) l 9 93 がそれについて抱いた概念化 (その具体物の心象) であり, ある文の指示対象は物理的な世界で生起する具 体的な出来事そのもではなくその概念化であるとされる‐ この点で, 論理意味論のような意味の客観的な分 析と対照的な主観的意味論である. 認知言語学は言語の要素はすべて意味を持ち,それらの意味は範轄を成すという立場を取る. 構文文法は, 中でも句, 節, 文といっ た 要素 が語や形態素と同様に, 範暇化された意味を持つ という点を強調する. ’ ) は, 英 語の様 々 な構文 がそ れ ぞれあ dbe l 1995 1988), Go Lako賃 ( ), Fmmore rg ( 1 987 yando Comor ( ,Ka る一 定の 意味 のネ ッ トワー ク と結 び つ いて いる こ と を示 した.. 英語のような語順言語に関して提案された構文文法を日本語のような勝着言語に適用することには異論も 考えられるが, 以下で扱う 「~を~に」 構文の分析に関する限りこの接近法は少なからず有効である. 構文 文法は, ある意味を持ったある構造がそれらの部分からも既に成立した他の構文からも予測できない構造や ). また, 構文は大抵多義的で, 関係する複 l dbe 95 意味を含む場合, その構造を構文として扱う (Go :4 r gl9 ). l dbe 数の意味は互いに密接な関係にある (Go :31 r gl995. 「広辞苑を枕に寝る」 のような例は, 概ね 『広辞苑を枕として用いて寝る』 位の解釈を持つ. ここに現れ る 『用いる』 という概念は動詞の意味にも, ヲ格・ニ格の名詞句にも, ひいては格助詞の意味にも由来しな い‐ この為, この概念は 「~を~に」 という構造が持つ意味の一部であると分析しなければならない‐ 「恋 人の思い出を胸に生きる」 や 「大学合格を目標に勉強する」 に 『抱いて』 や 『看徹して』 という概念が含ま れるのも同様に扱われる‐ また,「寝る」, 「生きる」, 「勉強する」 という動詞がヲ格, 二格の名詞句と共起 するということも, それらの順序を入れ替えられないことも, これら動詞の意味からは予測されない2 .従 っ て, この 「~ を~ に」 は 『用 いる, 抱 いて, 看 倣 して』 の よう な意 味 を持つ 構 文 であ り, そ の意 味 と 合致. する意味を持った動詞がこの構文と共起出来ると分析するのが相応しい‐ また, この構文とその意味は 「~に~を」 という他の構造から予測されない‐ 「今日午前中何をしたか」 という問いに対する答えとしては, 「友達に手紙を書いた」, 「花に水をやっ た」, 「車にガソリンを入れた」 は自然であるが 「手紙を友達に書いた」,「水を花にやった」,「ガソリンを車に入れた」 は多かれ少なかれ不 自然である. 従って 「~に~を」 という構造がこれらの内容を表現する際に用いられる無標の語順である3 . 2 この 「~を~に」 は生産性が高く, 仁田 ( ) で言う 「慣用句全体を一つの語桑項目 (レキシカル・エントリ) と 9 7 4 6 1 9 :2 して扱い, それにつ いて, 格支配の有様と力」・を記述・指定 しておけ ばよ い」 とも 考え難い. t 3 言語学ではWha ?のよう な疑問に対する答えと して用 いられる文 は, 無 標の語順を取ると さ れる. 同様に, Wha thappened d dsd i ?に対する答えとして用いられる文では, 動詞の補部が無標の語順を取る‐ o F r ha dyoudoindle moming? AV i td ) f tmy 垣end ? lwr B:lwrot ot eal eはermy 鏡end eはer/? e my 館endal ‐ ‐1gavei . (c. 54.
(4) . 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合. こ こ に は 『情 報, 利 益, 必 要 な もの を与 える』 と い っ た 意味 が共 通 して 含ま れる こ と か ら, この 構造 は典 型. 的にこの意味と結び付いていると考えられる4 . 上で 「~を~に」 が持つと述べた 『用いる, 抱く, 看倣す』 と いう 概 念 はこの 意味 か ら は導か れな い‐. 一方 「バ ッ トを手に握った」, 「最年長者をリーダーに決めた」, 「野望を胸に抱いた」 は, 「最終的に彼ら はどうしたのか」 という問いに対する答えとして自然だが, ヲ格名詞句とニ格名詞句を入れ替えた 「手にバ ッ トを握った」,「リーダーに最年長者を決めた」,「胸に野望を抱いた」 は, 程度の差こそあれ不自然である. 依 っ て, こ れらの 内容 を伝 える に は 「~ を~ に」 と いう 構造 が無 標 の表 現 である と いう こ と に なる. こ れら. の内容には, 共通して 『何かを何かに位置づける』 という意味が含まれていることから, それは動詞の項構 造と して用 い ら れる 「~ を ~ に」 という 構造の 意味 である こ と が分 かる‐ 従 っ て この 構 造 は, 『情 報, 利 益,. 必要なものを与える』 を意味する 「~に~を」 構文と典型的に対立し, 『何かを何かに位置づける』 を意味 する構文であると判断される‐ この意味は修飾句として用いられる同一の構造の意味として上で提示した 『用いる、抱く, 看倣す』 とも 密接な関係にある. 実際, 後の節で述べる様に後者は前者の具体例として分析することが出来る‐ このよう に, 修飾句として用いられた 「~を~に」 も動詞の項として用いられた 「~を~に」 も等しく構文として看 倣すのが相応しく, 且つ互いに密接な関係にあることからそれらを 「~を~に」 構文として一纏めにして扱 うことが可能である‐ 以下の節では, この構文が持つ具体的な意味を見ていくことにする‐ 3. 項構造としての 「~を~に」 構文. 「~を~に」 を項として取る動詞の意味は様々である‐ しかしそれらの意味は, 概ね 『おく』,『かえる』, 『あたえる』 型の三つに大別することが出来る5 . 動詞の項として現れる 「~を~に」 は, これらの意味の骨 組みを形作るものであり, 動詞がその具体的な肉付けを行う‐ 以下では, この骨組みとなる意味と肉付けと なる具体的な意味の現れを見てみよう‐ 3 1 .. 『おく』. (覗こ例示されるように, 「~を~に」 という構造を項として取る動詞の多くが,『ある物をある場所に位置 づける』 という概念を含んでいる‐ この概念は 「~を~に」 という構造が用いられることに付随するのだか ら, この構造が持つ意味である. 「~を~に」 を項として取る動詞は, この 『位置づける』 という作業を具 体的にどんな行為によって実現するかを表現する. ( 1 ) 辞書を机の上に置く/野菜を冷蔵庫に入れる/箱を棚の上に上げる/瓶の中身をコップに空ける/人形 を本棚に飾る/子供を車に乗せる/ペンキを壁に塗る/棒を穴に差し込む/バッジを胸に付ける/包丁 を手 に持つ /イ ヤリ ング を耳 にする6. 4 この 「~に~を」 構文もこ こ で扱う 「~を~に」 構文 と同様 大変興 味深い現象 であ る が 本 論考で は比 較の ため にのみ言 , 及しそれ自体は扱わな い.. 5 数は少ないが 『もらう』 型の意味の動詞も含まれる: 「小遣いを父親に貰う」 「大金を友人に借りる」 など , , . 6. 「ボールを壁にぶつ ける」 のような例 は, 「ボールを遠く に投 げる」 と違 い, ボール はほんの一瞬壁に 『位置する』 と して も, ヲ格名詞句 の 指示 対象 が二格名 詞の指 示 対象 に 必ず しも 『位置 づ けら れる』 と は言 い難い‐ この例 は 3 3節 で見る , ‐ 『あたえる』 型の 意味にも重なっ ている と見るべきかも知れない‐ 55.
(5) . 井 筒 勝 信. 幾つかを例に補足すれば, 辞書を机の上に, 野菜を冷蔵庫に, ペンキを壁に, バッジを胸に, それぞれ位 置づけるために 『置く, 入れる, 塗る, 付ける』 という動作をする訳である. ここに現れる 『ある物をある 場所に位置づける』 という意味を以下 『おく』 型の意味と呼ぶことにする. 2 )の様に抽象的な場所である場合もある. ここでは, 物理 位置づけられる先として言語化されるものは,( 的・肉体的な行為よりも知覚的・精神的な働きが焦点化されているため,『おく』 型の意味よりも次節で見 る 『かえる』 型の意味を担っていると考える方が妥当な例も含まれる. 2 ( ) 食料問題を議論の中心に置く/景気回復を目標に据える/権力を傘に着る/自分を相手の立場に置く/ 海を眼下に見下ろす/東京を後にする/野望を胸に抱く/独り大きな悩みを心に抱え込む/美しい姿を 脳裏に焼き付ける/真の意味を心に刻み込む/悲しみを内に秘める 「食料問題を議論の中心に置く/景気回復を目標に据える/権力を傘に着る」 は, 食料問題, 景気回復, 金的な意味での) 傘と 『看倣す』 ということに他ならない. 権力を議論の中心, 目標,(比。 以上見たように, 動詞の項として用いられる 「~を~に」 は,『ある物をある場所に位置づける』 という 骨組みとなる意味を提供し, それを実現させるため行われる具体的な行為を動詞が表現する. この意味は, 項構造としての 「~を~に」 構文が持つ典型的な意味の一つであると言える. 3 2 .. 『かえる』. )に例示されるように,「~を~に」 という構造を項として取る動詞には,『ある物を別の物に変化させる』 ( 3 という概念を含むものがある. 以下では, これを 『かえる』 型の意味として言及する7 ‐ この概念もやはり 「~を~に」 という構造が持つ意味であり,『変化させる』 という作業を具体的にどんな行為によって実現す るかがこの構造を項として取る動詞よって表現される. ( 3 ) 水を氷に変える/葡萄をワインにする/制服を体育着に着替える/古い電池を新 しいのに (取り) 替え る/大根を材料に使う/帯をつっかえ棒にする/人生を旅に見立てる/優しさを花に讐える 最初二つの例は直接的変化なので分かり易いが, 他の例は少々説明を要するだろう. 厳密には, 制服, 古 い電池自体が体育着や新しい電池に変化したのではないが,あたかもそうであるかのように表現されている‐ 『ある人が身につけるもの』,『ある機械の電源』 は,『着替える』,『取り替える』 という行為によって制服か ら体育着へ, 古い電池から新しいのへと変化する. それを, 水が氷に, 葡萄がワインに変わるのと同じよう なものとして概念化しているのである. 残りの例に関しても同様である‐ 使う (切ったり, 茄でたりする) ことで大根という野菜が料理の材料に, する (立てかけたり, 固定する) ことによって帯がつ っかえ棒に, 見立 てる こ と に よ っ て 人生 が 旅に, 讐 える こ と によ っ て優 しさ が花 に変化 する の で ある.. 3 )に見るように多くの場合具体物であるが, その変化は必ず 変化する先の物として言語化されるものは,( しも物理的・具体的なものではない‐ 「水を氷に変える/葡萄をワインにする」 以外の例で叙述される変化 この 『かえる』 型の意 味には, 日 常的 に 「変える」 と いう 言葉 で言い換 えにく い概 念まで含ま れること に注意さ れたい.. 自然で且つ誤解のない言い回しで定義することを意図して 『ある物を別の物に変化させる』 としているが, 厳密には 『あ る物をある存在に土ゑ, ならせる』 と言った方が分かり易いかも知れない. だとすれば, 名称も 『かえる』 型と言うより, 『する』 型ないしは 『な らせる』 型という ことになろう.. 56.
(6) . 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合. は, 話 者 の心 的世 界 で起 こる という 意 味 で抽象 的な もの である‐ こ の相 違 は, 上 で見 た 『おく』 型の 意味 に,. 物理的・具体的場所に位置づける場合と抽象的な場所に位置づける場合があるのと平行である‐ 『かえる』 型の具体的変化 と抽象的変化の関係は, 『おく』 型の具体的位置づけと抽象的位置づけの 関係に対応する‐ 『かえる』 型意味も項構造としての 「~を~に」 構文が持つ典型的な意味の一つと見られる. 3 3 .. 『あ た える』. 4に 例示されるような 「~を~に」 を補部に取る動詞の内, 上で見た二つの類に入らないものの殆どが( 『ある物をある存在に供与する, しかるべき場所へ移動させる』 という概念を含む. 以下では, これを 『あ たえる』 型の 意味 と呼 ぶこと にする.. ( 4 ) 家と土地を子供に与える/大金を友人に貸す/書類を事務所に送る/プレゼントを恋人に贈る/手紙を 友人に書く/布団を押入に仕舞う/荷物をトラックに積む/知識を若者に授ける/?ガソリンを車に入 れる/?餌を犬にやる/?水を花にやる この意味は, ヲ格名詞の指示対象がある場所へと移動するという点で 『おく』 型,『かえる』 型の意味と 似ているが, 次の二点で明確に異なる. 1) 移動先が影響 (多くの場合利益) を受ける生物または本来ある べ き場 所 である‐ 2)『おく』 型の場合よりも移動とその経路に力点があり, 必ずしも移動先に到着しない‐ 事務 所 に書 類 を送 っ て も届 かな か っ たり, 友 人 に手 紙 を書 いた が出さ なか っ た り, 犬 に餌 を, 花 に 水 をや っ. ても犬は食わず, 花は枯れたということはよくあることである‐ 『あたえる』 型の意味は, 確かに項構造として現れる 「~を~に」 構文に関係付けられる意味の一つでは あるが, 上で見た 『おく』, 『かえる』 型と同じ程度に典型的な意味とは言い難い‐ というのも, この意味を 具 現化 する も の と して はこ の 構 造 は少 々 頼り なく, 寧ろ 別の 「~に ~ を」 と いう 構 造 が相 応 しい から である‐ この こ と は, 対 応 する( 5 )の例 文の 方 が 多 か れ少 な か れ自然 であるこ とか らも 示さ れる.. ) 子供に家と土地を与える/友人に大金を貸す/事務所に書類を送る/恋人にプレゼントを贈る/友人に ( 5 手紙を書く/押入に布団を仕舞う/トラックに荷物を積む/若者に知識を授ける/車にガソリンを入れ る/犬に餌をやる/花に水をやる 従って,『あたえる』 型の意味は 「~を~に」 構文に弱く関係付けられる意味である8 ‐ 4. 修飾句としての 「~を~に」 構文. 3節では, 動詞の補部に現れる 「~を~に」 という構造の持つ意味を見た‐ 本節では, 同じ構造が動詞の 項 と して で はなく 修 飾句 と して働く 場 合の 意 味 につ いて考 え て みよう9 . 前 節 で見 た よう に, 「~ を~ に」 を. 項として取る動詞の意味は, 概ね 『おく』,『かえる』, 『あたえる』 型の三つに大別することが出来た. 動詞 『あたえる』 型意味は,「~を~に」 構文ではなく 「~に~を」 という構造が持つ意味で, 構成素が共通することに基づく 類推によって 「~を~に」 にも 「~に~を」 の意味が辛うじて読みとれるという可能性も十分に有り得る. 「アイヌ語を研究に北海道へ行く, 敵を偵察に出かける」 のような例は,「~を~ (し) に十移動の動詞句」 という構文の 「する」 という動詞語尾が表現されない異形であり, ここで扱う構文とは区別されるべきである. ヲ格名詞がニ格の動詞的 要素の目的語になる点 が 「~を~に」 構文と明らかに異なる. 57.
(7) . 井 筒 勝 信. の項として現れる 「~を~に」 は, これらの意味の骨組みを形作るものであり, 動詞がその具体的な肉付け を行うというものであった. それに対して 「~を~に」 が修飾語として機能する場合, 共起する動詞にその 0 また大多数の場合 動詞が 「~を~に」 が提供する骨組み的な意味の肉付けをする ような一般性は無く1 , , という関係にならない‐ この構造は, 寧ろ動詞の意味には無い新たな叙述ないし情報伝達に資する. 但し, 修飾句としてこの構造が担う意味は項として用いられる場合と大変密接な関係にあり, 概ね 『おく』 型, 『かえる』 型二つの意味に対応すると見える‐ 以下では, それぞれの意味の例を観察する‐ 1 『おく』 :修飾句の場合 4 . 修飾語として機能する 「~を~に」 には,( 6に 例示されるように 『ある物をある場所に位置づけた状態で』 動詞の指示する動作をするという 『おく』 型の意味を持つものが相当数ある. 空間的な意味が圧倒的に多く, 「本番を前に」 のような時間的な意味を持つものは極めて少ない. ( 6 ) 扇子を片手に話す/王冠を頭に王座に座る/教科書を小脇にキャンパスを歩く/恋人を傍らにギターを 弾く/手を膝にきちっと正座する/大勢の人を後ろに先頭を行く/本人を前に短所を並べ立てる/彼を 後目にその場を立ち去る/恋人の思い出を胸に生きる/仕事を余所に遊 び歩く/本番を前に再度打ち合 わせをする. 更に修飾語としての用法で 『おく』 型の意味が比咳によって 『~と看倣す』 や 『~として用いる』 のよう な 『かえる』 型意味へと拡張されることは殆どないようである. この点で, 同じ 『おく』 型の意味を持つ項 構 造と しての 「~ を~ に」 と は っ き りと 異 なる.. また 「片手, 頭, 膝, 胸」 などの身体部位ないしは 「小脇, 傍ら, 後ろ, 前, 後目」 のような身体との関 係で決まる場所が位置づけられる先として言語化されやすい. それ以外の場所概念がこの用法で用いられる 7 )に示されるように希なよう 「仕事を余所に遊び歩く/本番を前に再度打ち合わせをする」 のような例は,( である.. ?車を駐車場に定食を食べる/“麦茶をコッ プに ご ( ) “花を花瓶に本を読む/“妻を台所に風呂に入る/? 7 飯をよそう/?恋人を東京に札幌で暮らす/?海を眼下に夕食を取る ) 1 99 4 修飾句として機能する 「~を~に」 がこのような制約を受ける理由は詳らかではないが,Fmmo r e( 1 という概念に照らせば説明の方向性を探ることが出来るかもしれない1 ‐ 「~を~ に~する」 という構造全体が表す内容が概念的に枠と呼ばれるひとまとまりになっていることがこの構文の で提 示 さ れる 枠 (廿2 mn. この用法を動機づけているという考え方である. 詳しい議論は, 割愛し別の機会に譲りたい‐ o 一つ明確な傾向として, 生物 (就中人間) が主語に立つ動詞が圧倒的に多いことが挙げられる‐ 1 英語の補部と修飾 句の 違 い は いわゆる抜き取 り (ex官ac観on) の 可 否と して現 れる. Wha i dyoudo duri td l lg summer , l i be亘a i d値eysendpeop dyoudoi ?は通常許されない‐ 同様 にHow manyyea i r i ng td tdu r sd etos va cadonは可能 だが, Wha f ?は, 「シベリアへの流刑 は, 何年間実施されたか」 を問うものと して は許容さ れないが, しか し 「シベリ アへの流罪 は, or いっ たい何年の刑だ っ たの か」 を問うものであれば許容さ れる‐ つまり,f orhow manyyea r sは, どちらの場合も修飾句で. ) を成 b 飴m はあるが, 後者は補部と同じような振る舞いをするのである. 補部と動詞の表す意味がひとまとまり ( v e r n e ) を成すためである. 修飾句としての 「~を~に」 構文はこ すように, 動詞句と修飾句の表す内容がひとまとまり (丑 2 m Q e の後者のタイ プの修飾句に属するのかも知 れない‐ 58.
(8) . 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合. 4 2 .. 『かえる』 =修飾句の場合. む こ例示されるように 『ある物 8 ) 修飾語として機能する 「~を~に」 は, 前節で見たような例以外は多くが( を別の物に変化させて』 動詞の指示する動作 をするという 『かえる』 型の意味を持つ‐ この意味では, 殆ど 例外なく含まれる変化は知覚的, 精神的作用に基づく抽象的なもので, 物理的変化は伴わない‐ 8 ) 広辞苑を枕に寝る/椅子を踏み台に棚の上のものを取る/軒下を巣に燕が棲み着く/本を下敷きに文字 ( を書く 紙で出来た広辞苑が布の枕に, 椅子の形が踏み台の形に, 軒下の木材が藁で出来た巣に, 何枚もの紙から なる本がたった一枚の下敷きに, 実際に変化することを描写しているわけではない‐ 心的領域で, 広辞苑を 枕に 『して, ならせて, 変えて』, 椅子を踏み台に 『して, ならせて, 変えて』, 軒下を巣に 『して, ならせ て, 変 えて』, 本 を下 敷 き に 『して, な ら せ て, 変 えて』 と いう こ と を叙 述 して いる の で ある‐ 前 者 を後者 と して 『看 倣す』, 『見 立て る』, 『用 いる』 という こ と を述 べて いる に過 ぎな い.. 金的な概念であったり, 回のように抽象的な存在であると 9 )のように比= ニ格名詞句で言語化されるものが( き, これら 『看倣す』,『見立てる』, 『用いる』 という概念 (知覚的・精神的働きによる抽象的変化) がより 強く働くため, 含まれる 『変化』 は物理的変化に比べて更に変化らしくないものになる‐ そのため回の例で は, 単にヲ格名詞句の指示対象が二格名詞の指示対象に 『なる』 としか感じられない‐ ( 9 ) ソウルを舞台にオリンピックが開かれる/事実を題材に小説を書く/政治家を後ろ盾に圧力を掛ける/. 父親を大黒柱に家庭が成り立つ. ◎ するめを肴に酒を飲む/山を背景に馬の写真を撮る/補欠選手を代打に試合が続けられる/地図を頼り に目的地へ向かう/ ゴッホを手本に絵を描く/遺産を目当てに結婚する/設計図を基に模型を組み立て る/環境問題を手始めに行政改革に着手する/犬を話題に会話を始める/大学受験を目標に勉強する/ 今を盛りに咲き乱れる. この用法における 『かえる』 型の意味は, 項構造として用いられる場合の 『かえる』 型の意味とほぼ同質 であると考えて良さそうである. 上で見た修飾句での 『おく』 型意味の場合のような制約は見られない‐ 5. 「~ を~ に」 構 文 の意 味. 前 二 つ の 節 で は, 項 と して用 い ら れる 場 合, 修 飾句 と して用 い ら れる 場 合, 各々 の場 合 に 「~ を~ に」 構. 文が持つ意味を観察した. 前者の場合,『おく』,『かえる』,『あたえる』 型の意味が, 後者の場合,『おく』, 『かえる』 型の意味が確認された. 本節では, これらの意味の関係を範曝的な観点から捉え直し, それに基 づ い て こ の 構 文 が成 す 意 味 の ネ ッ トワ ー ク を 提 案 する‐ 先 ず5 1節 で, こ の 構 文 が 持つ 意 味 の ネ ッ トワ ー ク ‐. について議論をするために前提となる範曙論について概観しておく. その後5 2節で典型的な意味, 図式的 . な意 味 につ い て, 5 3節 でそ れらの 関係 の動機 づ けにつ いて述 べる こ と にす る‐ ‐. 1 範壕としての意味構造 5 . 2節で述べたように, 認知文法は形態素, 語, 句, 節, 文等言語の要素は全て意味を持ち, それらの意味 59.
(9) . 井 筒 勝 信. は範暇を成すという立場を取る‐ 範曙は, 論理意味論などにおける集合とは性質が異なり, 成員の地位は均 質ではない. ある成員は, その範噂を最も良く特徴づける性質を余り持たず, また他の成員と共有する特徴 も少ないためその範曙を例示するものとしては相応しくない. またある成員は, その範噂を最も良く特徴づ ける性質を非常に多く持ち, 他の成員とも多くの特性を共有するためその範噂を例示するものとして代表的 なものと看倣される. この代表的な成員は, 通例典型的な成員 ( ) と呼 ばれる‐ この よ i lmember t r o o t y p c a p 1 う な 範崎の考 え方 はE ) に詳 しい議 論 がある. 1987 eanorRoschの 一連 の研 究 に始まる も の で, 錠ko茸 (. ) によれば, 範曙はこの典型的な成員を中心とする放射状の構造を成し, 非典型的な成員ほ 987 L ako茸 ( 1 どこの典型的な成員から離れた外側に位置する‐ この分析では, 一つの範噂に属する全ての成員に共通する 特性は存在せず, それら全ての成員を一つの範曙として纏め上げているのはいわゆる家族的類似性 ( f l a n 〔 u y ) とよ ばれ る 関係 である と さ れる‐ そ れに対 してL l imga resemb ance ckerの 提案 する 範 曙論 で は, 範鴎の 拡張 は必 ず典 型 的 な成 員 と そ れ に比 べて 典 型 的 で はな い成 員 を 関係 づ ける 図式 ( ) に 基づ imi l iかper an cepdons s. 2 いて実現するため, 全ての成員に共通する特性が存在することは十分あり得る1 . 言語表現の大多数は多義的であり, 関係づけられる複数の意味も今述べたような範噂を成すことが知られ ている‐ 従って, ある構文が持つとされる複数の意味の幾つかは典型的な意味であり, またそれ以外は非典 型的な意味となる‐ またLanga ) の範鴎論に従えば, 必ずしも認知的に顕著な存在ではないとし 1987 cke r( ても, それらの意味全てに共通する図式的意味が存在し得るということになる. 5 2節では, 本論文で扱う . 「~を~に」 構文の典型的意味と図式的意味を指摘する. 5 2 典型的意味と図式的意味 . 先ず, 「~を~に」 構文の典型的意味について考えてみよう. この構造が項として機能する際に持つ意味 は,『おく』, 『かえる』, 『あたえる』 の三つに大別できることを3節で見た. また, 修飾句として機能する 際に同じ構造が持つ意味は概ね 『おく』 型,『かえる』 型の二つに対応することを4節で見た. これら三つ の型の内でこの構文に典型的な意味は, 『おく』,『かえる』 型の二つである. その根拠は, 次に述べるよう に少 なく とも三つ ある.. 先ず第一に,3 3節で述べたように 『あたえる』 型の意味は 「~を~に」 構文に弱く関係付けられる意味 ‐ であるという点である‐ 「~を~に」 構文は, この意味を具現化するものとしては頼りないもので, 寧ろ別 )と( の 「~に~を」 という構造を用いる方が自然である. このことは,3 4 5 )の例文を比較すれば明ら 3節の( . か である.. 第二に, 他の成員と多くの特性を共有するという点である. 『おく』 型,『かえる』 型は互いに多くの意味 特性を共有する‐ それぞれ 『ある物をある場所に位置づける』,『ある物を別の物に変化させる』 という概念 に対応する. 『甲を乙に位置づける』 とは,『甲を乙に (場所を決定する) 空間的領域で一致させる』 ことで あり,『甲を乙に変化させる』 とは,『甲を乙に (同一性を決定する) 心的領域で一致させる』 ことに他なら ない, 従って, これら二つの型の意味は, ヲ格名詞の指示対象を二格名詞の指示対象に 『何らかの領域で』 『一致させる』 という意味特性を共有し, 異なるのは関連する領域が空間的か心的かという点のみである. 実際,3 1節の例文( 2 )のところで指摘したとおり, これら二つの意味を明確に区別することが困難な例も多 . . E 但 し, “”] ing l tnode et opmos usanetwork need notinco印oratea weu‐behavedschemahcortaKonolnichierarchy, 瀬 山 as 1 i bl i t 化ー l l街eo化l fanan ロロgsuPerschemacanP t tmay ロ t tdo1 oraca - edf egoly,i aus subsul l a 1 1 l a esa ers ybePos . Moreover ,eveni. ). Langackerl987 l imecog岡ロves縦encer ( :381 wenbeon ymi皿犯anyen官enchedandhaveve坪l. 60.
(10) . 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合. 3節でも指摘したように 『ヲ格名詞の指示 対象がある場所へと移動する』 一方 『あたえる』 型の意味は,3 . という点で他二つの意味に似てはいるが, 1) 移動先が影響 (多くの場合利 益) を受ける生物または本来あ るべき場所である, 2)『おく』 型の場合よりも移動とその経路に力点 があり, 必ずしも移動先に到着しな いという二つの点で大きく異なる‐ このため 『あたえる』 型の意味は,『何らかの領域で』 や 『一致させる』 と いう 意 味 特性 を非 常 に弱く しか 共有 して い ない. ま た, 『ある 物 を ある 存 在 に供 与 する, しかる べ き場 所. へ移動させる』 という概念に対応するため, ヲ格名詞の指示対象が二格名詞の指示対象に 『影響 (典型的に は利益)』 を与えるであるとか, ニ格名詞の指示対象 がヲ格名詞の指示対象の 『本来的所属場所』 であると いった独特の意味特性を含む‐ 第三に,『おく』 型, 『かえる』 型が 「~を~に」 構文という範鴫を最もよく特徴づける特性を持つという. 点である‐ ある範嶋を特徴づける特性は多くの下位範鴫に現れる‐ 例えば, 鳥という範鴎を最も良く特徴づ ける 『嚇がある』,『翼がある』,『飛ぶ』 などの特性は雀, 雲雀, 燕, 烏など多くの下位範寝によって具現化 される‐ それに対して,『鶏冠がある』,『脚が長い』,『早く走る』,『泳ぐ』 などの特性は限られた種類の鳥 に しか当て はま ら ない‐ こ こ で扱う 「~ を ~ に」 構 文の 場 合, 項 構 造 と して働く 用 法, 修飾句 と して働く 用. 法の双方に見出されるのは,『おく』 型,『かえる』 型である‐ 『あたえる』 型は, 項構造の例には現れても, 修飾句の例には現れない‐ 同じ範鴫 (構文) の異なる下位範祷 (用法) に多く見出されるもの程, その範蒔 (構文) にとって典型的な特性 (意味) と判断されるのである‐ さて そ れ で は, 「~ を~ に」 構文 の 図式 的意 味 と は ど ん なも の で あろう か‐ この 問 い に対 する 答 え は, 既. に以上の議論の中で得られている‐ それは,『おく』 型,『かえる』 型意味の中心を成し, また 『あたえる』 型意味にも非常に弱くではあるが共有されている 『ヲ格名詞の指示対象を二格名詞の指示対象に何らかの領 域で一致させる』 という概念構造である. 関与する領域 が場所を決定する空間的領域として明示されれ ば 『おく』 型の意味が得られ, 同一性を決定する心的領域として明示されれば 『かえる』 型の意味が得られる. 関与する領域は特に明示されず, ヲ格名詞の指示対象がニ格名詞の指示対象に 『影響 (典型的には利益)』 を与える, 二格名詞の指示対象がヲ格名詞の指示対象の 『本来的所属場所』 であるといった独特の意味特性 が加わることによって 『あたえる』 型意味が得られる‐ この よう に, こ の 図式 的 意 味 は 間違 い なく 「~ を~ に」 構 文 の 全 て の例 に当 て はまる‐ 註12のLangacker の引 用 にもあ っ た よう に, この 図 式 的 意味 は必 ず しも 認知 的 に顕 著 な もの と はなら な い かも 知 れな い が, こ. 毒性を示すことは確 のような概念構造の存在は家族的類似性よりも説得力のある形で 「~を~に」 構文の範田 か である. 5 3 比 噛 的意 味拡 張 と意 味 のネ ッ トワー ク . ) に よ っ て 動機 づ けら れる. 例 え ば, 言 語表 現 に結 び 付 けら れる 複 数 の 意 味 は, し ば し ば比 壕 (me t aphor. 典型的に空間概念を表すupがrmfeelmgupなどの例で 『元気だ』 という意味を持つことを動機付けているの rmsonl980 )‐ ま た 同様 に典 型 的 に空 間概 念 を表 すoverが はHAPPYI SUP me醸phorである (Lako茸 孤dJo :15 l over ookな どの例 で 喚起 する. 『見落とす』 という 意 味 は, SEEINGISTOUCH工NG metaphorによ っ て 動機 づ. けられる ( Lako廿1 )‐ 『おく』 型の意味と 『かえる』 型の意味も正にこの比除に基づく意味拡張の関 987 :437 係 にある‐ 『か える』 型 の 意 味 の 具 体 的 な 現 れ に は, 『~ を ~ に 取 り 替 える』, 『~ を~ と して 用 い る. 『~ を~ と看. 1 )に例示されるように, これらはしばしば 『おく』 型の意味を持つ動詞句によって表現 倣す』 などがある. Q さ れる‐. 61.
(11) . 井 筒 勝 信. Q I ) 燃料を石油で置き換える/私のいたポジションを彼で埋めた/娘を秘書として置く/石をお守りとして 身につける/原子力を主要なエネルギー源の一つとして位置づける/試験合格を目標として掲げる/乾 パ ンと缶 詰 を非 常 食と して置 いて いる 家 は少 な い. こ こ で は, PUTT ING1ss【 IBSr ITUT INGI SUSING, PUTTINGI 1酬G, PUTr S 紙 GARDINGと い っ た比喰. が働いていることが見て取れる‐ このように, 「~を~に」 構文とは独立して存在する比味が, 回のように, 通常 『おく』 型の意味を持つ 「~を~に」 構文が 『かえる』 型の意味を持つことを動機付けている. ( の ゼロ戦を海軍の主力に置いていた/自分を相手の立場に置く/現在は東京に首都を置いているが, 当時は 1 奈良を都に位置づけていた/新進党は小沢一郎をリーダーに置く政党だった/海外派兵は平和維持を主眼 に置いて行われるべきだ/食料問題を議論の中心に置く/景気回復を目標に据える/権力を傘に着る. このような動機付けがある分, 「~を~に」 構文が動詞の項, 修飾句の双方の用法で持つ 『おく』 型意味 と 『かえる』 型意味の関係は密接であるということになる. 『あたえる』 型意味との間には, このように動 機付けとなる比喰的意味拡張の関係はみられない‐ 従っ て, その分 『あたえる』 型の意味は, 『おく』 型, 『かえる』 型の意味と疎遠な関係にあるということになる‐ 以上の議論に基づいて 「~を~に」 構文に関係付けられる意味のネ ッ トワークを纏めてみよう‐ 5 2節で . 主張したように,『おく』 型,『かえる』 型の意味が典型的意味で,『あたえる』 型が非典型的意味, それら 全てに共通する図式的意味は, 『何らかの領域で一致させる』 である. また直ぐ上で述べたように, 二つの 典型的意味の結びつきは, それを動機付ける比喰的意味拡張によって強化されている‐ これらの特徴を一つ の図に纏めたのが図1である‐ 図中, それぞれの接点は個々の意味を, それらを結ぶ線は関係付けを表示し ている. 線の太さは認知的顕著さを, 矢印は動機付け (の方向) を表している‐ 縦方向の関係付けは多くの 3 この 構文 が動詞 の 項 と して 現 場 合 明示 化 ( i spec近ca=on), 横 方 向の 関係 付 け は拡 張 ( ext ens on) である1 ‐. れる場合は図全体が言語化され得るのに対して, 修飾句として用いられる場合は円で囲んだ部分のみ言語化 され得る‐ この範囲は, 丁度この構文の典型的な意味を囲んでいる‐ これは, 典型的な意味ほど新しい用法 を発達させ易いという言語表現一般的に見られる傾向と一致する‐ “冒一--他.‐一一”~ -“″【“′★ 、、、、 ′〆′〆 、、、 ′′′ 、 『ある領域で一致させる』. 『おく』 型. \. 『置く』. 『かえる』 型. 『遣る』. 『返す』. 「~を~に」 構文に関係付けられる意味のネッ トワーク. 1 3 これらの概念につ いて は L ) を参照. 1987 r( , imgacke ,1991 62. 『あたえる』 型. 『変える』. 『抱く』 ” ・ 『持つ』 『用いる』 『看倣す』 ・ 、 ソノ 、 、 ′ ・ ′ 、 ′ 、 ′ 、、 ′ 、、 ′′ 、、 ′′ ′ 、、、 ′ ′′ 、、、 ′′′ 、、一~ ーメ〆′ 、、、★-“--- -“-★′-“-メ. 図1. ・. ….
(12) . 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合. 6. 日本語の統語:勝着語と孤立語の狭間. 最後に, 本論考で行った構文文法による分析が日本語の統語研究に対してもたらす帰結について述べてお きたい‐ これまでの分析で示 したとおり 「~を~に」 という構造は, 修飾句として用いられる場合 『ある物 をある場所に位置づけて』, 『ある物を別の物に変化させて』 という意味 (それぞれ 『おく』 型,『変える』 型の 意味) を持つ‐ こ れらの 意 味 は, 一 緒 に用 い ら れる 動詞 の意 味 にも, ヲ 格・ 二 格の名 詞句 にも, ひ いて. は格助詞の意味にも由来しない為, この構造が持つ意味の一部であると分析しなければならない. 更に, 動 詞の項として用いられる場合も, 典型的には 『おく』 型, 『かえる』 型の意味を持つ動詞と共に用いられ, 『あたえる』 型や 『もらう』 型の意味を持つ動詞) とは用いることが出来ても不自然であ それ以外の動詞 ( る‐ また本論では詳しく扱わなかったが, 同じ構成素からなる 「~に~を」 という構造は, 典型的に 『ある 物をある存在に供与する, しかるべき場所へ移動させる』 という 『あたえる』 型の意味と結び付いているよ う である. 以 上 の こ と か ら, 少 なく と も 「~ を ~ に」 と い う 構 造 は (そ して, 恐 らく 「~ に ~ を」 と いう 構 造 も),. その構成素や他の類似構造からは予測されない意味を持つ言語単位として扱わなければ, 意味や機能を十分 に記述出来ないことが分かる‐ 「~を~に」 構文と 「~に~を」 構文は, 形式的にも意味的にも範列的な関 係に置かれる言語単位なのである‐ このような分析は, 日本語の統語研究に対して一つの帰結をもたらす‐ 日本語は従来謬着言語と呼 ばれ, 様々な文法関係や意味関係は語に付される接尾辞によって表現されるもの として扱われてきた‐ この見解自体は決して誤りではないが, 現代の日本語を見る限り どうも十分な見方と は言い難い‐ 少なくとも 「~を~に」 という構造については, 構成素となる名詞句の順序が意味に大きく関 4 与している限り, 接尾辞に加えて語順という要素を文法機能や意味の表現形態と見なければならない1 . と呼ばれる英語 仏語 支那語などに代表される このような見方は, 従前孤立言語ないしは俗に語順言語 , , ) な どで も主 張 さ れて いる よう 言 語 に対 して 取 ら れて き た も の で ある‐ しか しHopperand Traugoは (1993 に, 一つ の 言 語 が一つ の 類型 に は っ き り と分 類 さ れる こ と は先 ず有 り 得 ない‐ 例 え ば, VO言語 は, 前置詞,. 後置形容詞, 後置関係節等を取るにの対して, OV言語は後置詞, 前置形容詞, 前置関係節等を取るとされ るが, VO言語である英語 は, 前置形容詞を用いるし, 同じくVO言語である支那語は前置関係節を用いる といった具合にである‐ 文法関係やその他の意味関係が接辞で表される腿着言語, 屈折言語か, それともそ れらが語順によって表される孤立言語, 分析言語かという区別も類型上の問題であるのだから, 一つの言語 が完全にどちらかに分類 さ れる と いう こと はや はり 有 り得 ないの である‐ 現代日本語は, 腰着言語としての性質を非常に強く備えながら, 語順 (特に構文) が意味を表すという孤 立言語, 分析言語の性質をも持っている‐ このような見地に立って分析を試みなければ, ⑩~⑩に見られる ) が 『庭の草木に水を遣った』 ということを強く含意するの 意味の違いを説明することは困難である‐ ( 1 3a ) が 『トラ ックが走るのに必要な燃料を入れた』 14a に対して, ( 13b) は殆どそのような意味を持たない‐ ( )は 1 4b), ( 15b ) が 『彼のために本当のことを打ち明けた』 ことを含意し得るのに対して, ( ことを, ( 1 5a そのような含意を殆ど持たない.. 4 日本語の語順が意 味と関連 して いるという考え は 私の創見 ではない‐ 例 え ば佐 伯 ( 1 ) に は, 位格→主 格は存在を, 1998 5 : ,. 主格→位格は所在を表すという指摘がある. 実際次の例から読みとれる意味の違いは, 明らかに語順に関与している. こ れも本論で扱った現象同様, 構文が意味を持つ例であると見ることが充分可能である‐ i ‐ 机の上 に辞書がある‐ ” .辞書が机の上にある‐ 63.
(13) . 井 筒 勝 信. Q 3 )a ‐ 庭 に水 を撒い た‐ b ‐ 水 を庭 に撒 い た.. ⑩a ‐ トラ ッ ク に沢 山の燃 料 を積み込 ん だ. b . 沢 山の 燃料 を トラ ッ ク に積み込 んだ.. 鰯a . 彼 に本 当の こ と を話 した. b . 本 当の こと を彼 に話 した‐. それぞれのbの例文の解釈は, 「~に~を」 構文が 『ヲ格名詞の指示対象がニ格名詞の指示対象にとって利 益となる』 という意味を持つことから生じるものであり,Q◎~Q 引に挙げた構造的違いに基づく意味の違いと 5 同列に扱われるべきである1 . これらは皆, 構成素や他の構造からは予測できない意味を持つ構文である‐ このように構文という観点から扱うことによって日本語の統語現象はより一層明らかになるのではなかろう か. ( 1 ◎a . 壁 を ペ ンキ で塗る. b . ペ ンキ を壁 に塗 る‐ Qのa . バ ス の 中 で犯人 を見つ け た. b . バ ス の 中 に 犯人 を見つ けた‐. Q③a . 自 分の手 を相 手の手 と比 べ た. b . 自分の 手 と相手 の手 を比 べた.. 7. お わり に. 本研究は, 構文文法の考え方に則って現代日本語の 「~を~に」 構文を扱った‐ この構文は, 『おく, か える, あたえる』 型三つの意味を持ち得るが, そのうち 『おく』,『かえる』 型が動詞の項としての用法, 修 飾句としての用法双方において現れる典型的意味である‐ これらの意味全てが 『ヲ格名詞句の指示対象をニ 格名詞句の指示する領域に位置づける』 という図式的意味を共有している. このように, 少なくとも本論で扱った構造がそれ自体独立した意味を持つ構文として扱うことを必要とす る限り, 日本語はこれまで想定されてきた以上に語順言語的性質を有するということを認めなければならな い‐ 従って, 従来のごとく接尾辞だけを文法機能や意味関係の表現形態として扱うのではなく, 語順, 構文 といった要素も同様な表現形態として重要視する見地に立って日本語の統語研究を行っていくことが強く求 め ら れる.. 1 5. ) は壁一面 がペンキ で塗られたこと を, ( (16a ) は見つ けた 人物もバスに乗車 していることを, (18a ) は自分の手が調 17a べる対象にな っ ていることを, そ れぞれ含意するが, 各々のbの文に はそのよう な意味がない‐. 64.
(14) . 構文文法に基づく日本語の統語分析: 「~を~に」 構文の場合. 参考文献 j Me ). Proceed鉱gsofzhe 山口nua Fi曲oore c ace e加gof伍e Ie C鯖cums如oces (P1 es . . Underd ,et , Mamner . 1994 ,Time , Ch訂l 172 i i Bezke l ー ヱ明記口脇Z ‐ cssoc e lツ20 :159 eツヱ ‐ IConsCmcdons l an iW a i u de o’Coi a : i IK 肇 l ldld omadd夢in Gr lmma憧ca u 1or Fmmor I きu esJ e y . 1988 ‐ Re . ,and M 町’Camer ,Pau ,Char i 538 TheCaseof上et1 … one ng口age64 :501 . .左2 i i専ofChi i cago vers cagoPress leE‐ 1995 z dberg nenrstmcmh e :The Un Gol o一缶g山 r on G云m沈marApproachZ . ‐ Chi . A COゑsmjc ,Ade iげ P r Z拷adon i dge idge Un i i l Hopper vers 1 ess l 土 1993 :Ca l ゴ ロbl ca ossTraugo ldE丘と abem C1 ‐ . Cambr . G云m割ma ‐al ,Pa副J jaboutZhe M翫d f E i i専o oodesRe防ea 豆l koほ :TheUn cago ngg WhatCat ve r s zdD細z翌朝ousて加 omen eg . Chi ‐ 1987 . 鉢【 ,az ,Eおe ,George Ch i cagoPress . i i夢 ofCh d M鑓÷ kiohoson veBy Chi cago :The U山Vers cagoPress Lako佳 el aphozs「間eLi l . ‐ 1980 ‐ ルZ ,Georgeal rheore i i ヱ l t jdve G!mn ldひ :S桜砥o Langacker c可 P!ereq肌s e び rd Universi夢 m証,VD i ロ ‐ S協面ord . 上っ ‐ 1987. Rot口lda鱈onsofCo客ゴ ,Rona P r 1 ess ・ . f i iぢ Langacker ldV▽ 1 vers m証,VD乙 2 ′Descdpぜve App方cal on :Stanf ord UI i 互 2da灯onsofCo8 リ ヒ リ鰹ve G云mn . S協証ord ‐ Rot ‐ 1991 ,Rona Press ‐ jルZ j i r f rua ld W Langacker cs i m 街e NIDet ee口金 自重nua ee虚2g ofβer安e ey L血g1口 st s 丘o l a . PaPe! . UniversalsofConst , Rol ‐ 1993 soc i 7463 e夢 髪1 .. 仁田 義雄 1 9 9 7 . 『日本語文法研究序説:日本語の記述文法を目指して』 佐伯 哲夫. 日 』 (編著) 1 9 9 8 ‐ 『要説 日本語の語順. 東京:くるしお出版. 東京:くるしお出版. (本学助教授. 旭川校). いづつ. かつのぶ. 65.
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