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教職大学院における学びの深化 ― 理論と実践を結び付けるストレートマスター ―

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(1)Title. 教職大学院における学びの深化 ― マスター ―. 理論と実践を結び付けるストレート. Author(s). 竹内, 彩乃; 遠藤, 誠; 志藤, 叡; 大橋, 祐亮; 佐々木, 来望; 安川, 禎亮. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 9: 41-58. Issue Date. 2019-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10437. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第9号. 特集. 教職大学院における学びの深化 ― 理論と実践を結び付けるストレートマスター ― 竹内 彩乃*1・遠藤 誠*1・志藤 叡*1・大橋 祐亮*1・佐々木来望*1・安川 禎亮*2. 1.はじめに 1-1 「自律訓練法研究会」-ストレートマスターにとっての学びの場- 我々が在籍する北海道教育大学教職大学院釧路キャンパスには、独自の学びの場として自律訓練法 研究会があり、様々な研究会員(院生、学部生、現職教員、養護教諭、SC、SSW、教育委員会指導 主事、大学教員など)が参加している。そこでは大学院の講義などで学んだ知識と実践を結び付ける 活動として、ストレスマネジメントや自律訓練法などのスキルを修得し実践に繋げる活動が行われる。 我々にとって研究会は、上記の目的の活動を学びとして取り入れられるほか、理論を生かした自身の 実践を、研究会員で分析・改善し、多角的に実践の成果と課題を見直す機会にもなる。本論の実践も、 研究会での発表・交流から得た多角的な分析を基に自身の実践を振り返り、教員に必要な資質・能力 との関連を考える契機となった。 2017年12月、北海道教育委員会は「北海道における教員育成指標」にて、 教員に求める不易の資質・ 能力について養成段階・初任段階・中堅段階・ベテラン段階のキャリアステージごとに示した。段階 ごとの経験年数は示されていないが、清水ら(2018)は教職大学院ストレートマスターには、即戦力 として初任者研修を終えた教員と同等の実践的指導力の育成が目指される、としている。つまり北海 道教育委員会が我々に求めるものは、指標の初任段階の資質・能力の育成であり、教職大学院にはそ れを育成できるカリキュラムや学びの場が求められる。本校教職大学院のカリキュラムは2つの目的 のもと科目を設定している。その目的は、①「広い視野から学校課題を分析する能力の育成」と②「具 体的な学校課題の解決に取り組む実践的な力を持ち、実践の結果に理論的検証を加えることのできる スクールリーダーの育成」である。後述する3つの実践とその学びの過程は①と②の目的の達成の一 助となる。つまり、自律訓練法研究会での一連の実践の振り返りは、本校教職大学院のカリキュラ ム・ポリシーを鑑みても有効な活動である。 1-2 実践の目的-生徒指導への意識- 本論の3名の実践者は共通して、各々の学校現場から課題を抽出し、児童生徒への生徒指導に解決 の糸口を見出し、実践を行った。 『生徒指導提要』によると、生徒指導は児童生徒の自己指導能力の 育成を目指し、そのための留意点として①児童生徒に自己存在感を与えること、②共感的な人間関係 を育成すること、③自己決定の場を与え自己の可能性の開発を援助することの3点がある。それら は、あらゆる教育活動の中で意図的に取り入れられ、果たされるべき機能としての位置付けにある。 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)専門職学位課程(ストレートマスター). *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. 41.

(3) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. それらの観点を捉え、 実践と指標の初任段階における資質・能力を比較し、 生徒指導の観点から資質・ 能力の獲得・活用について考えていく。. 2.実践事例 ⑴ 実践1「適応指導教室における体験活動の教育的意義について」 ・実践期間 201X年6月28日~平成201X年7月3日 ・実践対象 A市適応指導教室生徒 ・実 践 者 志藤 叡 Ⅰ.適応指導教室の目的 A市適応指導教室の概要は以下のとおりである。 対 象:中学生 生 徒 数:3年生14名、2年生5名、1年生2名 計21名 教職員数:3名(教諭2名、支援員1名) 最終的な目標は原籍校への復帰であるが、不登校になるまでに至った経緯や時間を考慮すると、適 応指導教室に通っている期間に復帰することは現実として厳しいものがある。対人関係においての課 題がある生徒が多いため、生徒間や周囲との関係性を好ましいものにすることや対人関係の課題を改 善することを主軸に主体的に生きる力を養うことが重要であるとして指導に望んでいる。 Ⅱ.体験活動の意義 文部科学省は体験活動について、 「豊かな人間性、自ら学び、自ら考える力などの生きる力の基盤、 子どもの成長の糧としての役割が期待されている。つまり、思考や実践の出発点あるいは基盤とし て、あるいは、思考や知識を働かせ、実践して、よりよい生活を創り出していくために体験が必要で ある」と述べている。また、不登校児童生徒の支援の在り方については、 「児童生徒の積極的態度の 醸成や自己肯定感の向上等が期待されることから、青少年教育施設等の体験活動プログラムを積極的 に活用することが有効である」と述べている。つまり、不登校支援の手立てとして体験活動を充実さ せていくことが求められており、青少年教育施設等の体験活動プログラムの有力性が示されている。 Ⅲ.道東チャレンジキャンプの概要 A市適応指導教室では、 体験活動の一環として年に一度、 5泊6日の道東チャレンジキャンプを行っ ている(以下、キャンプとする) 。主催は北海道立青少年体験活動支援施設ネイパル厚岸であり、心 に悩みをもつ小学5年生~中学生を対象に「野外における自然体験、 文化体験・冒険活動をとおして、 自分と向き合うとともに、集団生活を通じて『よりよい人間関係』について学んだり、自分の役割や 存在を自覚したりする」ことをねらいとして開催された。 スタッフはネイパル職員5名、適応指導教室教員2名、適応指導教室指導員1名、学生ボランティ ア1名の計9名で構成されている。参加生徒は9名で、1班5名、2班4名に分けられた。 Ⅳ.実践報告 個人情報保護の観点から、内容の本質を損なわない程度に修正を加えている。 42.

(4) 教職大学院における学びの深化. Ⅳ-ⅰ.事例Ⅰ(3年 A男) 昨年の様子では、上級生らと仲が良く、適応指導教室への出席状況は良好だった。しかし、今年度 に入り体調を崩すことが多くなり、出席できていない状況が続いている。コミュニケーションの面に ついて、頭の中で話す内容を考え整理するため、話し始めるまで時間がかかることがある。また、自 分から話しかけることは少ない。 彼は、キャンプ中の登山活動によって大きく変容した。この登山は登頂することが目的ではなく、 自分で決めた地点まで歩き切ることがねらいである。A男は登頂することを目標に臨み、目標を達成 することができた。その後の振り返りから、弱音を吐かずに登り切ったことが自信につながったと読 み取れた。以前より増して料理の手伝いや遊びの場面で積極的な行動は徐々に増加していき、人と関 わる様子が見られたことや、それを通して友達やスタッフから肯定的な評価や自分のよさに気付けた ことで大きな成長を遂げたと感じる。 キャンプを通して、当初の様子と比較すると、自分から行動しようとする様子が見られ、健康状態 の改善や自分を肯定する感情が生まれたことなど、様々な変容を見取ることができた。彼自身がこの キャンプにおいて、自己課題を自覚しながら活動できたことが大きく変容できた要因の一つである。 振り返りによる記述によると、彼の目標は「できるだけコミュニケーションをとる」ことであり、他 と関わる意識をもちながら行動できたことが、彼だけではなく他生徒同士の関わりが増えるきっかけ にもなった。 Ⅳ-ⅱ.事例Ⅱ(2年 B子) 昨年は誰よりも早く通室しピアノを弾いていた。しかし、今年度に入り、 「原籍校へ行ってみる」 という連絡はあるものの実際には登校できず、適応指導教室にもほとんど出席できていない状況が続 いている。コミュニケーションの面について、基本的に受け身の姿勢であり、無気力な言葉を多用す る。また、自分の考えを言語化することが苦手であり、授業やアンケート等で、自分の考えについて 聞かれてもそれに対して答えることができない。 キャンプ中、消極的な態度が目立つB子であったが、自分で行うと決めた活動の中で自己表現を繰 り返すうちに、自発的な関わりが見られ始めた。登山においては、八合目と九合目の中腹まで登ると 決めていたが、その地点を越え、九合目のあたりまで登ることができた。自主的に登り続けることを 決意し、自分の限界に挑戦できたことが、彼女の自分を肯定する振り返りにもつながったと考えられ る。 キャンプを通して、大きな達成感や成就感を得ることができ、振り返りの記述で自分の考えを言語 化し、表現することができるようになった。その後の適応指導教室での関わりでは、キャンプ体験の 魚釣りを日常生活や趣味の面で活かしている報告を受けている。また、原籍校へ復帰しようと挑戦 し、登校改善の様子が見られている。 Ⅴ.総 括 下記の成果と課題はキャンプを通して得られたものであり、参加者全ての生徒がこれらに当てはま るというわけではなく、個々人を観察することにより見られた行動や振り返り等から当てはまるもの を記載している。 適応指導教室内では、毎日顔を合わせる仲間は少ない状況だった。キャンプでは日中だけでなく、 常に行動や寝食を共にしなければならない。人との関わりの中で認め合うこと、自分を見つめるこ と、人間関係の摩擦を乗り越えることで仲間意識は確実に向上した。また、周囲と良好な関係を構築 43.

(5) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. することや認められる経験を多く設定したことで積極的な行動も増加していった。 文部科学省は体験活動の効果について8点述べており、キャンプにおいてそれが特に当てはまる5 点を列挙した(表1参照) 。料理中における知識の出し合いや登山や釣りを今後もやってみたいとい う声などから、現実の世界や生活などへの興味・関心、意欲の向上は当てはまる。ネイチャーハイキ ングや登山を通して、振り返りやその後の発言・行動など、自己との出会いと成就感や自尊感情は獲 得されたと考えられる。5泊6日間寝食を共にし、普段関わらない生徒と関わり合う場面や支え合う 行動などから社会性や豊かな人間性が育成・形成されていると感じる。いつも体調を崩しがちである 生徒や寝坊癖のある生徒は、キャンプの2日目以降そのような様子は見られず生き生きと行動してい たことから、基礎的な体力や心身の健康の保持増進が図られた。 (表1)キャンプにより見取ることができた成果と課題 成 果 ・仲間意識の向上 ・積極的な行動の増加. 課 題 ・不登校生徒の苦手とする活動が多く、苦手な活 動が続くと意欲の低下につながりやすい ・必ずしも参加者全員に効果が期待されるわけで. 文部科学省が打ち出している教育的意義. はない. ①現実の世界や生活などへの興味・関心、意欲の向上 ②自己との出会いと成就感や自尊感情の獲得 ③社会性や共に生きる力の育成 ④豊かな人間性や価値観の形成 ⑤基礎的な体力や心身の健康の保持増進. ⑵ 実践2「自己肯定感を高める学習指導における生徒指導-小学校国語科を通して-」 Ⅰ.授業実践について ・授業実践期間 201X年6月19日~平成201X年6月26日 ・授業実践対象 北海道A小学校 4年生24名 ・実  践  者 竹内 彩乃 Ⅱ.単元について Ⅱ-ⅰ.単元名「写真をもとに話そう」 (全7時間) (話すこと・聞くこと) 本単元では、単元を見通すことができる言語活動として「スピーチ発表会をしよう~目指せ!ス ピーチ名人~」を設定し、児童自身で発表会に向けての計画を立て、友達とアドバイスをし合いなが らスピーチに向けて学習を進めた。 本単元は、児童一人一人が好きな写真を選び、題名を付けてその写真を見て気付いたことや想像し たことを含めて自分の考えをもち、読み取ったことの中心が分かるように話を組み立て、スピーチす る学習である。読み取ったことの中心とは自分が一番伝えたいことであり、それを題名とし、児童は なぜその題名を付けたのかをスピーチの中で説明した。 Ⅱ-ⅱ.単元目標 本単元では、重点項目としてAイ「相手に伝わるように、理由や事例などを挙げながら、話の中心 が明確になるよう話の構成を考えること。 」と、Aエ「必要なことを記録したり質問したりしながら 44.

(6) 教職大学院における学びの深化. 聞き、話し手が伝えたいことや自分が聞きたいことの中心を捉え、自分の考えをもつこと。 」を身に つけさせることをねらいとした。これらの指導事項を踏まえ、単元目標を以下のように設定した。 写真から読み取ったことをもとに話したり聞いたりする言語活動を通して、伝えたいことをはっ きりさせて、理由や事例などを挙げながら筋道を立てて話すことができる。 写真から読み取ったことを基に話したり聞いたりする言語活動を通して、①伝えたいことをはっき りさせて構成を考えること、②同じ一枚の写真でも読み取りは人によって様々であることに気付き、 それらを比べ合うことにより、表現の仕方の多様さからお互いを認め合うことを目指した。 Ⅱ-ⅲ.単元計画 ※( )は使った時間 ①教師による写真を基にしたスピーチの手本を見て、一番伝えたいことをどのようにして伝えたら よいかについて話し合い、学習の見通しをもち、学習計画を立てる。 (1) ②・スピーチの写真を決め、読み取れることをメモにまとめる。 ・伝えたいことが相手にわかるように、写真に題名を付ける。 (1) ③メモを基にスピーチの組み立てを考え、発表のための準備をする。 (1) ④発表のときの話し方や聞き方を確認して、生活班で発表し合う。 (1) ⑤前時の自分の発表や友達の発表を振り返ることで、組立てを再構成したり発表の仕方を改善した りして、発表の準備をする。 (1) ⑥・生活班での発表をいかして、発表を行う。 ・自分や友達の発表を振り返り、伝えたいことをきちんと伝えるための方法について話し合う。 (2) Ⅲ.事前アンケートからの実態 単元の導入で、対象児童(24人)に「話すこと・聞くこと」や「自己や他者を承認すること」に関 するアンケートを行った。 「話すこと・聞くこと」について、 「聞くこと」の質問では、多くの児童が肯定的に回答している。 「話すこと」の質問では、24人中23人(95.8%)の児童が「話をすることが好き」と答えている。実 際にアンケート後に児童から話を聞いたところ、「誰かと話すことは好きだけれど、みんなの前に出 て話すことはあまり好きではない。 」という児童が多かった。また、 「自分の伝えたいことを、相手に きちんと伝わるように話をすることができますか?」という質問に対しては、24人中19人(79.2%) の児童が「当てはまる」と答えている。一方、 「話をするとき、気を付けていることはありますか?」 という質問に対して「当てはまらない」と答える児童が24人中7人(29.2%) 、「みんなの前で話すと きは、話の中心が明確になるよう話の順序を考えて話そうとしていますか?」という質問に対して「当 てはまらない」と答える児童が24人中5人(20.8%)いた。 「自己や他者を承認すること」について、 「褒められたり認められたりすると嬉しいですか?」と いう質問に対しては、24人中21人(87.5%)の児童が「嬉しい」と答えている。また、 「友達を褒め たり認めたりすることが好きですか?」という質問に対して「好き」と答える児童が24人中19人 (79.2%)、「友達から褒められたり認められたりしていると感じていますか?」という質問に対して 「そう思う」と答える児童が24人中20人(83.3%)いた。一方、 「あなたの意見や考え、アドバイスが、 誰かの役に立ったと感じたことはありますか?」という質問に対して、 「そう思わない」と答える児 童が24人中9人(37.5%)、「友達の意見や考え、アドバイスが、あなたの役に立ったと感じたことは 45.

(7) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. ありますか?」という質問に対して、 「そう思わない」と答える児童が24人中6人(25%)いた。 Ⅳ.アンケート結果をもとにした仮説 上記の実態から、以下の仮説を立てた。 仮説Ⅰ 話すことに対して積極的であり、自分の伝えたいことを相手にきちんと伝わるように話をすること ができていると感じている。しかし、話をするときに気を付けることや、話の中心が明確になるよう 話の順序を考えて話そうすることなど、聞き手を意識しながら「伝えたいことをきちんと伝える」た めに、具体的にどのように話をするかといったことはあまり意識していないのではないか。 仮説Ⅱ 友達から褒められたり認められたりしていると感じ、それが嬉しいと感じている児童が多く、友達 に対しても褒めたり認めたりすることが好きであることから、友達と互いに褒め合ったり認め合った りする場面が日常的にあると考える。しかし、 「自分の意見や考え、アドバイスが、誰かの役に立った」 「友達の意見や考え、アドバイスが、自分の役に立った」とあまり感じられていない児童がいる。し たがって、自分のどの意見や考え、アドバイスが、どのように相手の役に立ったのか、と意識してい ないのではないか。 Ⅴ.仮説を基にした手立て 仮説Ⅰ・仮説Ⅱから、 「話すことが好きという意欲や、 友達と互いに褒めたり認め合ったりすること」 を生かし、以下の手立てを講じた。 手立てⅠ 一人一人に写真を選択させ、伝えたいという意欲をもたせるための工夫 児童が興味をもてそうな動物、植物、昆虫、無生物などの様々な写真を用意し、その中から児童が 読み取る写真をそれぞれ選択した。このとき、理科や社会の見学や観察での写真も用意することで、 児童がより興味・関心をもっているものを選べるようにした。そうすることで、その写真に対して想 像を広げやすく、意欲をもって読み取りを行えると考えた。 「話すことは好きだけれど、みんなの前 で話すのは苦手」という児童の実態から、単元のはじまりの場である写真選択において自己決定させ ることで、「この写真なら話したり伝えたりしたい」という気持ちを抱かせようとした。 手立てⅡ 伝えたいことが伝わるように、筋道を立て話の順序を考えるための工夫 スピーチメモを作るときには、第一段階として、写真に写っている中心部分だけでなく、第一印象 や背景・大きさ・位置・色合い・様子や、被写体(動物や植物、あるいは無生物であっても)の心情、 被写体どうしの会話、周囲に写っているものとの関わりなどについて、想像したことなどを含めて自 分の考えをもたせた。次に、注目してほしいことを考えたり題名をつけたりしながら、読み取ったこ との中心がわかるように話を組み立てていった。 スピーチメモは、「最初に感じたこと」 、 「気付いたこと」 、 「想像したこと」 、 「題名を付けた理由」 を付箋で色分けし、それらを基に話の中心が明確に伝わるように順番を考えさせた。それぞれの視点 をもって写真から読み取ったことを箇条書きで書き、自由に貼り付けたり、位置を変えたり、付け加 えたりできるように付箋を使用してスピーチメモを作った。そうすることで、児童は伝えたいことが はっきりと伝わるように付箋を操作しながら「始め」 「中」 「終わり」の組立てを考え、 意欲的にスピー チメモを作る活動に取り組むことができると考えた。. 46.

(8) 教職大学院における学びの深化. 手立てⅢ 自分の考えと比較し、伝え合う力を伸ばすための支援 発表の際には、話し始める前に自分が選んだ写真を見せ、題名を予想させる時間を確保した。そう することで、聞き手は発表者の写真に対して自分なりの読み取りを行うことができる。読み取りを 行ってから発表を聞くことで、友達の読み取り方に驚きや面白さを感じ、自分の読み取りとの共通点 や相違点に気付くことができると考えた。 手立てⅣ オリジナルブックを用いて、自己評価と他者評価の蓄積 「スピーチ上達シート」で自己評価と友達の評価をすることで、自分自身もどのようにスピーチを したらよいのかという視点をもって取り組むことができると考えた。また、友達からのアドバイスや 評価をみて、どこをもっと改善したらよいのか、どこがよかったのかといったことを、自己評価と友 達からの評価を比べながら確認できる。互いに評価をフィードバックさせることで、 「互いのスピー チを互いによりよくしていく」という意識を抱かせる。また、シートを蓄積することで、自分の成長 や友達からの称賛が目に見え、一人一人に本単元での成長感や満足感、達成感を味わわせたいと考え た。 Ⅵ.成果と課題 手立てⅠ 一人一人に写真を選択させ、伝えたいという意欲をもたせるための工夫 ①成 果 単元前に比べて、設問1、設問8に対して肯定的な回答をする人の割合が増えた(図1・図2参. (図1)「話すこと・聞くこと」に関する事前・事後のアンケート比較. (図2)「話すこと・聞くこと」に関する事前・事後のアンケート比較. 47.

(9) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. 照) 。写真選択の場面で悩む児童が1名いたが、スピーチでは写真から読み取ったことや想像したこ とをしっかり発表することができていた。メモの作成やスピーチに対する意欲も高く、友達と被らな い、自分だけの読み取りをしようとしていた。また、写真を自己選択させたことで、写真の読み取り や想像したことを書くときに悩むことなくスムーズに書けていた。児童に自分で写真を選ばせること で、伝えたいことや話したい意欲を高め、スピーチの内容を考えやすくできたと感じた。 ②課 題 今回は教師側で複数の写真を用意してその中から使う写真を一枚選択させたが、自分で写真を用意 してくるという方法をとることもできた。どちらが「伝えたいという意欲」を高められたかはわから ないが、他の方法もいくつか考え、どの方法が一番適しているのかをもっと吟味できたと思う。 手立てⅡ 伝えたいことが伝わるように、筋道を立て話の順序を考えるための工夫 ①成 果 まず教師がスピーチのお手本を見せることで、どのように発表するのかだけでなく、 「始め」 「中」 「終わり」を意識した話の順序の手本を示せたと思う。 メモを項目ごとに色分けした付箋に書かせることで、構成を考えるときに、どのような順序だと伝 えたいことが伝わるのか、 「始め」 「中」 「終わり」がしっかりとしたスピーチになるのかということを、 付箋を並び替えたり、加えたり減らしたりしながら考えさせることができた。 ②課 題 付箋を操作しながら「始め」 「中」 「終わり」を意識して組立てメモを構成していたが、支援が必要 な子に向けての支援が足りなかったと感じた。 手立てⅢ 自分の考えと比較し、伝え合う力を伸ばすための支援 ①成 果 題名を予想させる時間を確保することで、自分の考えと友達の考えを比較しながら聞くことができ ていた。設問7の「話している人と自分の考えの違うところや同じところなどを比べながら聞くこと ができますか?」では、肯定的な回答をする割合が増えた(図3参照) 。自分とは違う、友達の読み 取り方に驚きや面白さを感じ、自分の読み取りとの共通点や相違点に気付くことができていた。. (図3)「話すこと・聞くこと」に関する事前・事後のアンケート比較. ②課 題 アドバイスシートはフィードバックするため、後に全員分の題名の予想を知ることができるが、題 48.

(10) 教職大学院における学びの深化. 名を予想させたり質問をしたりするときに同じ児童ばかり多く発言していたので、指名方法について もっと考えておくべきだった。また、発表時間を考えて、 「指名は何人まで」としっかり決めておく べきだった。 手立てⅣ オリジナルブックを用いて、自己評価と他者評価の蓄積 ①成 果 自己や他者を承認することに関する設問で、肯定的な回答をする割合が増えた(図4~図8参照)。 自分では気付かなかった発表でよかったところを褒めてもらえたり、自分が友達にアドバイスしてあ げたりすることで、互いによりよいスピーチをつくり上げていくという意識をもたせられた。また、 アドバイスシートに話し方の観点にそって評価していくことで、聞き方について特に重点を置いて指 導をしなくても「自分の考えと比べて」や「評価をする」という意識をもって聞くため、自然と聞く 態度や姿勢が身についていた。 ②課 題 全員分のアドバイスシートを全員の手元にフィードバックさせた状態で、単元の振り返りをすべき だった。そうするとで、より充実した振り返りができたことと、児童に成長感や達成感、満足感を授 業の中で感じさせることができた。今回はフィードバックする前に事後アンケートを取ったため、そ の後に取れていれば、事後アンケートの結果がまた違った結果になっていたと思う。. (図4)「自己や他者を承認すること」に関する事前・事後のアンケート比較. (図5)「自己や他者を承認すること」に関する事前・事後のアンケート比較. 49.

(11) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. (図6)「自己や他者を承認すること」に関する事前・事後のアンケート比較. (図7)「自己や他者を承認すること」に関する事前・事後のアンケート比較. (図8)「自己や他者を承認すること」に関する事前・事後のアンケート比較. ⑶ 実践3「数学授業における生徒指導の機能を生かし生徒をつなぐ働きかけ」 Ⅰ.授業実践について ・授業実践期間 201X年4月1日~平成201X年10月1日 ・授業実践対象 北海道A中学校 1年生 ・実  践  者 遠藤 誠 50.

(12) 教職大学院における学びの深化. Ⅱ.実践の実際 実践校で私が授業を担当している学級では、学級経営上の課題として自己肯定感の低さが挙げられ ている。授業中の生徒の様子を見ると、教師の話をよく聞き課題に熱心に取り組む様子や、ペアでの 話し合いでは活発に意見を交流する様子が見られる。しかし、全体の場になると積極的な発言は少な くなり、全体の前で発表している生徒に対する関わりも弱い。そこで、授業場面で生徒指導の機能を 意識することで生徒同士のつながりを深め、学級の課題を解決することができるのではないかと考察 した。 また、相馬(2016)は、数学教育の視点において「よい授業」とは以下の2つのポイントを達成す る授業であると述べている。 ア 子どもが主体的に取り組み、考え続けている授業 イ 目標が適切に設定され、それが達成される授業 子どもが主体的に取り組み、考えている姿とは、数学における課題が解決される場面で「すごい」 「なるほど」などの感動が生まれている姿である。目標が達成された姿とは子どもが「わかった」と きまりを発見したり、 「できた」と問題を自力で解決したりする姿である。アの達成には、何人かの 児童生徒だけではなく学級全体が主体的であることが求められる。そのためには、誰かが頑張ればい いという他人事に捉える風土ではなく、物事を自分事として捉える風土が必要である。授業を学級全 体でつくりあげていくという意識が学級全体に広がれば、児童生徒同士の助け合いなどが生まれ、イ の目標設定にも近づきやすくなると考えられる。 これらのことから、生徒をつなげるために授業の中で生徒指導の機能を生かした働きかけを行う。 そのことによって、教科としての「よい授業」のポイントも達成することができると考え、本実践を 設定した。 Ⅱ-ⅰ.共感的理解を育む集団解決 集団解決とは、算数・数学科の授業における問題解決の指導過程の一つを指し、授業の中で生まれ た課題を全体の場で解決することである。早勢(2017)によると、集団解決におけるポイントは以下 の3点である。 ・一人の発言だけで集団の解決とせず、子ども同士の発言をつなげる。 ・何がわからないのかを焦点化し、子ども同士の対話によってそのポイントを解決させる。 ・授業の中で重要なキーワードを子どもから言わせる。 以上のポイントを達成し、全体で課題を解決したと感じさせるためには、指導技術として以下の働 きかけが有効である。 ・キーワードを板書に残す ・子どもの発言を強調したり確認したりする問い返しを行う ・考えを比較する ・意見を対立する順で計画的に取り上げる ・途中までや、つまずきの意見を生かす これらの指導技術の向上に加えて、生徒が安心して話せる環境や関係づくりも欠かせない要素の一 つである。 「相手は自分の事を理解し共感してくれる、困った時には周りが助けてくれる」と感じる ことができれば、安心して話すことができるだろう。そのため、次の2つの働きかけを用いて共感的 な理解を育みながら集団解決におけるポイントも達成しようと考えた。. 51.

(13) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. ①考えの一部を提示し、その続きを考えさせる 資料1は授業の一場面を表している。生徒同 士の発言をつなげるためにも、考えが思いつい. (資料1) T  「S1君に式を書いてもらいました。 S1君の気持ちが読み取れる人は?」. ている生徒にそのまま話させるのではなく、考. (生徒挙手). えの一部をヒントとして考えを見出した生徒に. T  「隣の人にS1君がどう考えたのか話してみて」. 話させるという働きかけを行った。自分の意見. (話し合い、指名). をただ発表するよりも他者の意見に追加という. S2「S1君はきっと~~と考えてこの式を書いたんだ. 形で発表することで、助け合う風土や他者の考 えを読み取るという共感的理解が育まれる。 ②班での小集団解決と困ったら周りにパス. と思います」 T  「S1君どうかな?今のこと詳しく説明してみて」 S1「S2さんが言ってくれたように…」. 自力で問題を解決できない場合によく見られ るのが、個人思考の際に教師が個別指導を行い、. (資料2). 解決できている生徒は退屈な時間を過ごすとい. T  「班全員が確実に説明できるまで理解したら座っ. う指導である。教師が必死に教えるよりも、資. てください。全員起立。はじめ」. 料2のように生徒同士の教え合いの方が理解し. T  「2  班が一番座るのが早かったね。2班のS3さん. やすい場合もある。短時間で多くの生徒に理解. お願いします。もし困っても班の人の責任だから. を促したい場合、班の中で交流させる事で子ど. パスしていいからね。 ただしパスは2回までだよ」. も同士の教え合いが発生する。その際に起立さ せることで、活動が活性化すると共に、理解で きた班は座ることで理解度が視覚化できる。ま. S3「えーっと…。パスで!」 S4「~~だからこの答えになります」 T  「どうでしょう? S3さん今の説明ってどういうこ. た、困ったときの逃げ場を用意することで発表. とかな?」. に対する苦手意識を緩和しようと考えた。もし パスをしたとしても言っていたことを反復させたり、言い直したりすることで本当に理解できたかど うかを再確認し、わかっていないという苦手意識を持たせないようにした。 Ⅱ-ⅱ.自己有用感を与える全体指導 細水(2009)によると、学級内で子どもを動かすためには褒めることで教師の価値観を伝えること が必要だと主張している。また、学級全体を褒めると同時に、できていない子どもにはできていない 部分を伝え、改善していたら褒めるということを繰り返していく。具体的には「嬉しいことと悲しい ことがあった」と伝え、できている部分とできていない部分を対比して伝える。また、できていない 部分を伝えた際には改善するチャンスを与え評価するという指導を行う。 褒める際には、生徒の実際の行動や具体的な姿を見本として全体の場で共有する。誰がどのような 行動をしていたかを明らかにして、集団に対して貢献していることを価値付けし、自己有用感を与え る。できていないことを伝える際には名前を明らかにせず、望ましくない行動や、どうすれば改善で きるかを具体的に伝える。集団に貢献していないことを実感させ、集団に貢献したいという思いを感 じさせる。集団に対して貢献することが正しいことなのだという教師の価値観を繰り返し伝えていく ことで、貢献したいという所属意識を高め、生徒同士をつなげることができる。 Ⅱ-ⅲ.わからないことから学びを深める空気づくり 授業の中では、学級で生まれた疑問や課題を学級全体で解決していきたい。そのためには、わから ないことをわからないと言える環境をつくっていくことが必要である。間違いから学ぶことができる という価値を伝えていくことが、間違いを大切にする風土に繋がる。そのために具体的な働きかけと 52.

(14) 教職大学院における学びの深化. して次の2つのことを実践した。 ①「わかる人、発表できる人」ではなく、 「今当てられたら困る人」を挙手させる 授業などでよく見るのは「このことについて発表してくれる人」と言い、挙手によって指名する方 法である。しかし、それではわかる生徒だけが発表していけば授業が進むという暗黙の了解をつくっ てしまう。そこで、まだ考えがまとまっていなかったり、つまずいていたりする生徒に何が困ってい るのかを問う。そうすることで、全体で困り感を共有できると同時に、困っている生徒が話す場をつ くることができる。 ②途中までや間違いを意図的に取り上げる Ⅰの部分で挙げた指導技術の中に、 「途中までやつまずきの意見も生かす」という記述をしたが、 まさにその実践である。集団解決の際の指名の方法は以下のように分類できる。 ア 机間指導をもとに一方的に指名する イ 生徒の見取り無く、挙手をもとに指名する ウ 机間指導での見取りをもとに挙手によって指名する ウが一番計画的かつ自然に見せることができるが、発言してほしい生徒が挙手してくれない場合も ある。そこでアの指名法を用い、完璧な解答からではなく、未熟な考えから取り上げる。学級で考え を洗練させていく過程を生み出すことで生徒同士の関わり合いが生まれるのである。具体的にはペア での交流や表情から、全ては理解できていなさそうな生徒に対して意図的に指名し、話させるという 方法である。「自分がわかった所まで話してごらん」 「隣の人がなんて言っていたか前で説明して」 「詰 まったら途中で隣の人が助けてくれるよ」などと勇気づけながら発表を促す。できている部分を価値 付けしながらも足りないところを周りに補わせる。そうすることでわからないことでも発表でき、自 然と生徒同士の関わりが生まれると考えた。 このように教材理解や指導技術の向上と共に、生徒指導の観点や児童・生徒理解の視点を深めるこ とによって授業全体の質が上がっていくと考えられる。. 3.考 察 上の3つの実践と「北海道における教員育成指標」の小学校・中学校・義務教育学校版教員育成指 標との比較から、教師としての資質・能力の獲得が示されたものが表2である。全実践に共通して意 図的に獲得・活用しようとした資質・能力が「教育的愛情」 、 「子ども理解力」 、 「生徒指導・進路指導 力」である。そのうち「生徒指導・進路指導力」について、進路指導を扱うキャリアステージは中堅 段階及びベテラン段階に集中している。3つの実践も児童生徒の将来を見据えた意識が伴うが、ここ では「生徒指導力」に限定し考察する。 「生徒指導力」には実践者による児童生徒の実態把握が必要 である。その情報から課題を見出し、児童生徒に求める姿を実現することをねらいとし意図的に獲得 が目指される。一方「教育的愛情」と「子ども理解力」は、 「生徒指導力」を獲得・活用する際の前 提となる資質・能力である。実践者がねらいとする児童生徒の姿の実現には、その獲得・活用が不可 欠だ。つまり、上の3つの資質・能力は相乗関係にあると仮説立てる。3つの実践はいずれも3つの 資質・能力が獲得されたとして、以下「教育的愛情」 ・ 「子ども理解力」と「生徒指導力」の関係性を 『生徒指導提要』を基に明らかにする。. 53.

(15) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. (表2)北海道における教員育成指標. ◎=実践で意図的に獲得・活用しようとした資質能力 ○=実践の結果獲得できた資質・能力 小学校・中学校・義務教育学校版教員育成指標 求める教員像. キャリアステ-ジ. 初任段階. キ-となる資質能力. 教育的愛情 主体的に 学び続ける姿勢 子ども理解力. ・子 どもへの愛情に基づき、子ども一人一人のよ さや可能性を伸ばしている。. 関する専門的な 知識・技能. 2. 3. ◎. ◎. ◎. を通して、実践的指導力など、初任段階に求め ◎. ◎. られる資質能力を身に付けようとしている。 ・子 ども一人一人のよさや可能性をはじめ、家庭 環境などを理解して子どもと向き合っている。 知識・技能を身に付け、職務に活かしている。 ・教 科等の内容に関する専門的な知識・技能を身 に付け授業に生かしている。 ・自 らの課題解決に向け自律的に研修を進めてい. ◎. ◎. ◎. ◎. ○. ◎. ◎. ○. ○. ・学 習指導要領を踏まえ、ねらいを明確にした指 授業力. 導案を作成し、子どもの考えを生かしながら意. ◎. 図的・計画的に授業を展開している。. 実践的指導力. 主体的に取り組む教員. ・子 どもの発するサインを見逃すことなく予防的 生徒指導・進路指導力. な対応を行っている。 ・子どもの個性や能力の伸長と健全な心身の育成を 通して、 子どもの自己実現を図る指導を行っている。. 学級経営力 「主体的・対話的で深 い学びの実現に向けた. ・子 ども理解に基づく学級経営を計画的に行い、. ◎. ○. ◎. ◎. ◎. ◎. ○. ○. や、重要性について理解し、実践に生かしている。 ◎. ◎. よりよい学びの環境をつくっている。 ・ 「主体的・対話的で深い学び」が求められる背景. 授業改善」への対応力. 新たな教育課題への. 対応力. 教育の専門家として、実践的指導力や専門性の向上に、. る。. 「カリキュラム・マネ ジメント」への対応力. ・ 「カリキュラム・マネジメント」が求められる背 景や重要性について理解し、教育活動に生かし. への対応力 「特別支援教育の充実」 への対応力. 組織的・協働的な 課題対応・解決能力. ◎. ている。. 「ICTを活用した指導」 ・ 「ICTを活用した指導」が求められる背景や重要. 54. 1. ・初 任段階教員研修等や情報の収集・選択・活用. ・教 職の意義や教員の役割、職務内容等に関する 教科等や教職に. 実践. 性について理解し、実践に生かしている。. ◎. ・特 別支援教育の動向や具体的な支援内容、支援 体制等について理解し、特別な支援を必要とす. ◎. ○. る子どもの教育的ニ-ズ等に対応している。 ・組 織の一員としての自覚をもって学校づくりに 関わり、求められる役割を果たしている。. ○.

(16) 教職大学院における学びの深化. 3-1 「教育的愛情」 ・ 「子ども理解力」と「生徒指導力」の関連性 『生徒指導提要』より、あらゆる教育活動において児童生徒理解は「教育実践が成果を上げるため の大前提」だとし、生徒指導において児童生徒と教師の「愛と信頼に基づく教育関係」の成立は成果 を求める上で必要である。つまり先述した実践では児童生徒理解、すなわち「子ども理解力」が重要 である。さらに教師から児童生徒への「教育的愛情」が生徒指導の場面において前提となる。 「生徒 指導力」は、直接的に表面には現れないが、蔑ろにできない「教育的愛情」や「子ども理解力」を前 提とした教育活動を実践できる資質・能力に相当するのだろう。 また「子ども理解力」の重要な観点には、能力の問題や性格的な特徴、興味などがある。教育活動 を行う上で、我々はそれらの観点を基にした児童生徒一人一人の理解が重要だ。しかし「子ども理解 力」には個人の理解だけでなく、それによって構成される集団の構造や性格の理解への意識も忘れて はならない。集団の理解には児童生徒一人一人の理解が必須であり、双方の窓を通して児童生徒理解 に努めることが「子ども理解力」の獲得・活用に結び付くのだろう。 3-2 各実践における「教育的愛情」 ・ 「子ども理解力」と「生徒指導力」に関する具体的分析 以上より「教育的愛情」 ・ 「子ども理解力」と「生徒指導力」の関連性がうかがえた。この関連性を 踏まえ、3つの資質・能力の獲得された成果を、 「生徒指導力」に関する資質・能力と、その前提に ある「教育的愛情」 ・ 「子ども理解力」の2つの資質・能力の表れを各実践から具体的に分析を行う。 なお、「生徒指導力」に関しては、1-2で述べた「①児童生徒に自己存在感を与えること」 、 「②共 感的な人間関係を育成すること」 、 「③自己決定の場を与え自己の可能性の開発を援助すること」の3 観点から分析する。 Ⅰ 「教育的愛情」 ・ 「子ども理解力」に関する分析 【実践1】では、生徒一人一人について、昨年度の様子も踏まえた上での見取りがなされていた。 これは、実践者の「子ども理解力」に基づいた、日頃のアセスメントによるものである。実践者は特 別活動での様子だけでなく、普段の様子の変化から肯定的に生徒の成長を捉えている。このような生 徒理解をするためには、日頃から生徒一人一人の行動や特徴をよく把握し、生徒との信頼関係を築く 必要がある。このことから、日常的に「教育的愛情」をもって生徒に向き合っていると言える。 【実践2】では、児童の実態を事前アンケートによって把握し、その結果から仮説を立て、それを 基に手立てを講じる単元デザインをしていた。アンケート結果に基づいて仮説を立てることで、主観 的な児童理解ではなく、客観的なデータに基づく児童理解がなされている。さらに、アンケート結果 から実態を把握した児童に対して、意欲がある点を伸ばしつつさらに必要な能力を高めることができ るように構成されている。以上のことから、実践者の見取りとアンケートを組み合わせることによっ て妥当性を高めようとする「子ども理解力」と、子どもたちのよさを生かしつつ課題に対する手立て を考える「教育的愛情」をもって実践を行っていると言える。 【実践3】では、実践校における配属学級での課題意識から本実践を行っていた。学級の課題を見 つけるには、学級の現状を把握し、生徒一人一人を洞察する必要がある。また、授業においては明確 なねらいをもった指名計画を基に、 「途中までや間違いを意図的に取り上げる」という働きかけを行っ ている。これはノートの記述や話し合いの様子、表情などの見取りが不可欠であることから「子ども 理解力」に基づくものである。さらに、生徒のわからなさや自分なりの考えを大切にしていることか ら、実践者が「教育的愛情」をもって実践を行っていると言える。. 55.

(17) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. Ⅱ「生徒指導力」に関する分析 Ⅱ-ⅰ児童生徒に自己存在感を与えること 【実践1】では、キャンプでの活動の中で認めてもらえる場づくりを行っていた。料理を作る場面 や、活動の手伝いをしてもらう場面をつくり、活動に参加しているという意識をもつことができるよ うにしている。キャンプは自分の役割や存在を自覚することをねらいとして行われており、スタッフ 全員が肯定的な評価を心がけていた。また、B子の登山活動についての振り返りにおいて、自身を肯 定的に捉えることができている様子からも活動内容の設定や、振り返りという活動を手立てとして取 り入れたことで、彼女の「自己存在感」を育むことができたと言えよう。その結果、生徒同士で認め 合おうとする関わり合いが増加し、自分の行動や存在が他者に認められるといった経験を通して、生 徒は「自己存在感」を得ることができるようになっていったことがわかる。 【実践2】では、「オリジナルブック」を用いて児童同士の相互評価を取り入れている。ただ評価 するのではなく、発表で自分や他者のよさを見つけ合い、発表を肯定的に捉えながらも互いによりよ い発表をつくり上げていくという目的のもと、評価させている。班での中間発表後に班員で評価し合 う場面では、全体発表の場に向けて先述した目的をもって取り組むため、常に「自分」と「他者」の 意識を感じることができる。また、相互評価によって「自分から見た自分の発表」と「仲間から見た 自分の発表」の違いに気付いたり、互いにアドバイスをし合ったりすることもできる。さらに、全体 発表後には学級全員から評価してもらうため、1回目のアドバイスシートと見比べることで、自分の 成長を視覚的に捉えることができるようになっている。その成長感や達成感は自己の中だけに留まら ず、全体発表に向けて互いに「よりよく」しようとしてきた班員もまた、班の仲間の成長から達成感 や満足感を味わうことができる。アンケートの「自己や他者を承認すること」に関する事後の結果か らも、児童が「自己存在感」を得られていたことが読み取れる。 【実践3】では、授業内における発表の場において、多くの生徒が活躍できる場をつくるようにし ていた。そのために実践者は授業における発問を工夫し、 「まだ考えがまとまっていなかったり、つ まずいていたりする生徒に何が困っているのかを問う」という働きかけを行っていた。この、集団解 決の場における工夫によって、自力での問題解決が難しい生徒も含めた、学級全体で授業をつくり上 げるという意識を生徒にもたせようとしていた。また、 「自己有用感を与える全体指導」において、 生徒の行動を価値付けしていた。このように、生徒一人一人を尊重する指導によって「自己存在感」 を与えている。 Ⅱ-ⅱ共感的な人間関係を育成すること 【実践1】におけるキャンプは、日中に限らず、常に行動や寝食を共にしなければならない。その ことにより、実践者は「人との関わりの中で認め合うこと、自分を見つめること、人間関係の摩擦を 乗り越えることで仲間意識は確実に向上した。また、周囲と良好な関係を構築することや認められる 経験を多く設定したことで積極的な行動も増加していった」と総括している。このことからも、キャ ンプによる体験活動により子どもたちが互いを「共感的に理解」していく場にすることができたと言 える。 【実践2】では、 「発表の際には、話し始める前に自分が選んだ写真を見せ、題名を予想させる時 間を確保した」という手立てにより、児童が「自分の考えと友達の考えを比較しながら聞くことがで きていた」と実践者は述べている。また、その手立てにより、自分とは違った友達の読み取り方に驚 きや面白さを感じ、自分の読み取りとの共通点や相違点に気付くことができるようにしていたことか らも、「共感的な人間関係」を育成していたことが読み取れる。 56.

(18) 教職大学院における学びの深化. 【実践3】では、集団解決の場面で「考えの一部を提示し、その続きを考えさせる」という働きか けを行っていた。実践者は「考えの一部をヒントとして考えを見出した生徒に話させるという働きか けを行った。自分の意見をただ発表するよりも他者の意見に追加という形で発表することで、助け合 う風土や他者の考えを読み取るという共感的理解が育まれる」と述べている。共感的に互いを理解し 合う活動を常日頃から継続的に行うことによって、 「共感的な人間関係」を育ませることにつながっ たと読み取れる。 Ⅱ-ⅲ自己決定の場を与えること 【実践1】では、キャンプにおいて登山活動を行ったことは上述したとおりである。その中で、 「こ の登山は、登頂することが目的ではなく、自分で決めた地点まで歩き切ることがねらいである」と生 徒に自分で目標を立てさせている。また、 「A男は登頂することを目標に臨み、目標を達成すること ができた。その後の振り返りから、弱音を吐かずに登り切ったことが自信につながったと読み取れた」 との記述がある。このことからも、登山活動における「自己決定の場」づくりが行われていたこと、 「自己決定の場」を与えたことが、子どもの自尊感情を育んだことが読み取れる。 【実践2】では、 「話すことは好きだけれど、みんなの前で話すのは苦手」という児童の実態から、 単元のはじまりの場である写真選択において自己決定させることで、 「この写真なら話したり伝えた りしたい」という気持ちを抱かせようとしている。 「一人一人に写真を選択させ、伝えたいという意 欲を持たせるための工夫」といった手立てを行っていたことから、自己決定の場を与えていたことが うかがえる。上記の手立てにおいて児童に「自己決定の場」を与えることによって、学習意欲を高め られたという成果が読み取れる。 【実践3】では、「わからないことから学びを深める空気づくり」という働きかけにより、生徒が 自分の意見を発表する場を意識的につくっていた。実践者は授業内で「自分がわかった所まで話して ごらん」「隣の人がなんて言っていたか前で説明して」 「詰まったら途中で隣の人が助けてくれるよ」 などの声かけを行い、生徒一人一人の考えが尊重されるという雰囲気づくりを行っていた。それによ り、生徒は安心して発言をすることができ、まず自分の考えをもつという自己決定をすることができ ていた。. 4.おわりに 「北海道における教員育成指標」の初任段階においてキーとなる資質・能力を、実践者がどのよう に獲得・活用したのかを考察できた。ここで実践者が、指標で示されている資質・能力を単体として 意識するのではなく、その複数の資質・能力の相互関係を踏まえて実践を行えたことに成果があると 言える。本論では、全実践に共通して効果が見られた「教育的愛情」 、 「子ども理解力」 、 「生徒指導力」 に着目したが、それらの資質・能力の関係を明確にし、段階的にその活用に努め、それを実践に反映 できた。このような関連性は、3つの資質・能力に限定されるものではない。他の資質・能力にも必 ず関連があり、それを意識することで、関連性が確認できたり、相互効果が得られたりするのだ。今 後の展望として、我々ストレートマスターは、初任段階にて求められる資質・能力をより多く意識し 獲得するとともに、その関係性を見出し、活用に効果を持たせることが求められる。また、理論を知 識として留めるのではなく、実践を通して意義を再確認したり自己の成果や課題を見出したりできる 場として、自律訓練法研究会で学びを深化させていきたい。. 57.

(19) 竹内 彩乃・遠藤 誠・志藤 叡・大橋 祐亮・佐々木来望・安川 禎亮. 引用・参考文献 ・文部科学省(2010) 『生徒指導提要』教育図書 ・北海道教育委員会(2017) 「北海道における教員育成指標」 http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/index.htm ・文部科学省(2017) 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』 ・清水将ら(2018) 「教職大学院における科目「リフレクション」に関する検討:ストレート・マスターに対する教 師教育の充実の観点から」 『岩手大学大学院教育学研究科研究年報』 ・柴田題寛ら(2018) 「教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組-教職大学院での学びの深化-」『北海道教 育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要:教職大学院研究紀要』. 58.

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参照

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