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学校教育における熱力学指導の諸問題(2)

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(1)Title. 学校教育における熱力学指導の諸問題(2). Author(s). 若菜, 博. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 33(2): 153-163. Issue Date. 1983-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/4904. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 学校教育における熱力学指導の諸問題 ( 2 ). 若. 博. 菜. 目. 0 はじめに--本研究の目的 1 熱力学とその基本諸法則について 1 古典熱力学の適用対象とその限界 2 熱力学におけるブラウン運動 (ゆらぎ) の 位置 1 ( ) ブラウン運動 (ゆらぎ) 研究の歴史的役 割--古典熱力学から不可逆過程の熱力学 への発展 ( 2 ) 熱力学的世界像におけるゆらぎの位置 --一ゆらぎを介しての秩序″ ( 3 )平衡形成過程におけるゆらぎの位置 3 熱力学の体系構成とゆらぎ <以上, 前号〉. 次. 1 熱学史からのいくつかの分析--永久機関と 1 温度差″ 概念を中心に 1 エネルギー則形成における永久機関の役割 2. ミ クロ か らマ クロ へ の エネ ル ギー のn集 中″. の必要条件としての温度差 1 1 1」熱力学の授業書化のための基本視点. 1 熱力 学指導における 基 本諸 法則 の抽 出 --教育内容の設定 2 熱力学の授業書化への基本視点 〈以上, 本稿〉 I V 授業書 「熱力学」 とその解説 V 授業書 「熱力学」 の評価と今後の展望. 1 1 熱学史からのいくつかの分析- - - -永久機関と ・温度差″ 概念を中心に 1. エネルギー則形成における永久機関の役割. 周知のように, 熱力学の主要な2つの法則はそれぞれ永久機関不能の原理として表現される す . なわち, 熱力学第1法則は 「外部に仕事をするばかり で, ほかにまっ たく変化を残さないようなサ イ クルをする装置 (第1種永久機関) は実現不可能である」 と表現され また 熱力学第2法則 は , , 「ただ1つの熱源から熱を取り, これを仕事に変えるばかり で, 他に何の変化も外界に残 さないサ イ クルをする装置 (第2種永久機関) は実現不可能である」 と表現される ここでサイ クルとは . , 物質の状態が, ある変化の道をたどっ た後, 再びもとと全く同じ状態にも どる過程 (循環過程) の こと である. 第1法則・第2法則がこのように表現されることから, 「永久機関の認識から エネ ル , ギーの転化と保存の法則 (あるいは熱力学第1法則) および熱力学第2法則 の認識へ」 という認識 の発展の経路が示唆される. この節では, エネ ルギーの転化と保存の法則(今後 単に「エネルギー , 則」 と呼ぶことにする) の認識の上 で, 永久機関がいかなる役割を果たしたのか を中心に述べる , こ と に す る。. 永久機関不能の原理をよりどころにして物理法則を発見した最初の人は S 154 8- , .ステ ヴィ ン ( 162 ) であると言われている( 0 彼は 1586 ) 有名なステヴ ィ ンの連鎖を逆説的に考証し, 斜面にお . , 153.

(3) . 若. 菜. 博. けるつりあいの原理を導いた. その考証の大筋は以下のよう である. リン グ状につないだ1 4個の同 じ重さの球を三角 柱に置く. 左の斜面にある球の数 (4個) の方が右の斜面のそれ (2個) よりも 多い. このリン グがもしつりあっていないとすると, 球が移動しても全体として最初の状態と変わ りがないから, 結局, このリングは永久運動を続けることになる. ステ ヴィ ンは, これに対して「こ 1 )」として 斜面上のリングがつ の運動は終わりをもたないことになるだろう. それは馬鹿げている{ , りあわなければならないと結論する. ここにおいては, 「無から運動を創造することが不可能 であ る」 , すなわち, 永久機関(運動)不能の原理を意識的に適用する場面をみることができるのである. そして, このことから彼は, 斜面におけるつりあいの原理, さらに 「力の平行四辺形の法則」 を確 立した. ステ ヴィ ンはまた, 液体静力学においても, そのも っ とも重要な法則 (アルキメデスの原 理) を永久機関 (運動) 不能の原理を1つの基盤としながら再発見し, それから多くのことを導い 2 ) た( .. ) もこの原理を斜面の運動に利用し, 落体の法則を導く1つの源泉とした. ガリレイ ( 15 64-1642 彼は斜面上の落下運動と自由落下運動の関係を知るために, 斜面を落下した物体は, その高さだけ 自由落下した物体と同じ最終速度をもっと仮定する. この仮定には, 永久機関 (運動) 不能の原理 が根底に含まれている. ガリレイのこの仮定にま で至る道筋は, E.マッハによれば, 次のようなも 3 ) の であ る( .. ガリレイはまず,物体が自由落下するときその速度は落下時間に比例して増大することを述べる. 物体が下端に着いたとき, 速度を逆転する. そのとき, 物体は上方へ昇っ ていくが, この運動は前 の運動と対称をなしているはずだから, 物体は落下した高さだけ上昇する. 再びもとの出発点の高 さまでも どっ たとき, その速度は0になる. ガリレイは, これと同様のことを 『天文対話』 でサ グ レ ドに語らせている ; 「……たとえば地球にその中心を通る孔をあげ, この中心から百あるいは干 腕尺のところから弾丸を落した場合, この弾丸はきっ と中心を通過 して落ちただけとび上るだろう ‐ と思います. このことは紐で吊り下げた錘り で行われる実験ででも示されます. この錘りは静止状 態 である垂直から引き離され, それから自由にされると上述の垂直の方に下り, 垂直を同 じだけの 距離通過 します. も っ とも 空気の 抵抗, 紐の 抵抗, また他の偶然的な抵抗が妨げるだけは少なく なりますが. 同 じことはサイフォ ンを通って下っ た だけの高さを再 び上る水によっ ても示されま 4 )」さて 話を斜面上の物体の運動にもどして ガリレイは上のことを確認した上で 斜面上の す( , , , . 落下運動に移る. もし 「斜面に沿っ て落下する物体 が, その高さを鉛直に落下した場合よりも大き な速度をもっと仮定するならば, その得られた速度を初速度として別の斜面 を上昇させるか, 鉛直 に上昇させれば, 物体は落下高よりも高く上昇するだろう. 反対に, 斜面上で得られる速度の方が 小さいと仮定するならば, 議論を逆に展開すれば同 じ結論に達する. 両方の場合とも, その手続き を繰り返えすと, 重さのある物体を自分自身の重さだけによ って上へ上へともち上げることが でき ることになるが, それは, 重さのある物体の性質に対する私たちの本能的知識に全く 矛盾してい 5 }」 このように ガリレイ の仮定の中には 永久機関 (運動) 不能の原理が含まれている る( , . , . さらに, ガリレイが永久機関不能の原理を初期の頃から確信 していたことは, 彼の著 『し・メカ ニケ』の次の部分によく現れている;機械等の使用によって, 「大きな抵抗が小さな力でうちかたれ る, な どと 言 っ て は な ら な い. そ れ は 自 然 の 法 則 (コ ン ス テ ィ ト ゥ ー テ ィ オ ー ネ・デ ル ラ・ナ ト ゥ ー. ラ) に反する. もし, 小さな力 で大きな抵抗を (もつ物体を) , (作用者が物体そのものの) 運動と 等しい速度で移動することができるようなことがあるとするれば, われわれは, 自然のおきて (イ ル・ナトゥラーレ・インスティ トゥート) を乗り越えたと言うことができよう. だがわれわれは, そのようなことは, これま で想像されたどのような機械, あるいはこれから想像さ れうる どのよう 154.

(4) . 学校教育における熱力学指導の諸問題( 2 ). 6 }」 な機械によっても, 実行不可能であることを, 絶対的に(アッ ソルタメンテ)確かめる であろう( . ) もまた, 永久機関不能の原理を自 光の波動説で有名な, ハイ ゲンス (ホイヘンス, 162 9-1695 然認識のための指導原理とした. 彼はそれを武器として, 多数の物体が同時に振動するときの, そ の複合振動をある特定の一つの単振子に相当させる問題 ( 振動中心の問題″ ) にとりくんだ. 彼が そこで出発点とした新しい考えは, マ ッハによると, 次のようなものである. 結合しあっ た 「振子 の各部分が互いの運動にどのような影響を与えるにせよ, 振子が下方へ振れて得る速さは, 振子の 重心が, 結びつけられていると否とにかかわらず, 落ち初めの高さとちょう ど同じ高さま で上るの に要する速さでなければならない.この原理の正当性について同時代人が疑いをさしはさんだので, この原理は重い物体はひとりでに上方に動くことはないという仮定以外は何も含んでいない, とホ. 7 ) 」 (強 調 は マ ッ ハ). ハ イ ゲン ス は, ま た, こ の 複 合 振 動 の 研 究 に お い て, こ の イ ヘン ス は 指 摘 した(. W2 場合におけるエネ ルギー則に到達している;すなわち「重量がW, , ……なる物体の系は, 互に ,・ 結 合 して い て も い な く て も, 各々 がゑ. , 砂, … … の 高 さ だけ 下 り, 夫々 速 さ 偽 物, … … を え た と. すると. 8 ) 2= のれs なる 式 が成 立 す る と い う こ と を( Z 」 導 い た。 彼 は, さ らに 衝 突 問 題 の 研 究 か ら も, X W 辺 , .. という今日言うところの運動エネルギー の保存則を導いている. ハイ ゲンスは, しかし, 永久機関不能の原理が 「純粋な力学的現象のみならず自然現象一般に成 立するという確信はもたず, 磁力のようなものを用いれば永久機関 がつく れるかもしれないとも考 9 ) え( 」 て い た。. 以上, ステ ヴィ ン, ガリレイ, ハイ ゲンスの3人をとりあげ永久機関 (運動) 不能の原理が自然 認識の指導原理として機能してきたことをみた. 永久機関不能の原理が自然認識のための指導原理 1 0 ) ただ として作用しはじめたのは, ステヴィ ン以来 ( 1 6世紀末頃) のことであると言われている( . し, 「無から運動を作り出す」 永久機関 (運動) が作りえないという 思想は, 当然, ステヴィ ン以前 にも存在していた。 例えば, レオナルド・ ダ・ ヴィ ンチ ( ) は, 彼の手記の中で次のよ 1 45 2一1 519 うに言っている; 「生命のない推進力が物体を押したりするときは必ず, その物体を動かす. この 推進力は, 力または重さ以外のものではありえない. 重さが押したり引いたりするとき, それが(目 標点 で) 静止しようとする傾向をもっ ているからこそ, 運動をひきおこす. 物体が落下運動をする 1 1 )」 ときは, 出発点の高さまでもどることはできない. その運動には終りがある( . 永久機関と永久運動とは本来区別されなければならない. 永久運動自体は, それを周期的運動に 限定しても, 天体の運動を初め, 無数に観察される. ところが, 永久機関は人間にとっ てはすこぶ る実践的 o 技術的問題であるだけに, とりわけ純力学的分野での永久機関は, たびたび製作の試み がなされ続けてきた. その試みで記録に残 っている最古のものは, 13世紀の建築家ビラール・ド・ オンタクー ルのものである. その装置は, 非平衡車輪と呼ばれ, 車輪のまわりにかなづちを配し, かなづちが倒れることによって重力のモーメントの平衡がくずれ, 車輪が回転するというものであ 1 2 ) る。 ち な み に, ダoヴィ ン チ は, こ の 装 置 が 動 か な い こ と を ス ケ ッ チ 入り の 考 察 で 論 破 して い る( .. 永久機関製作の試みと技術との 「衝突」 が, 機械・技術に造詣の深いダ・ ヴィ ンチ, ステ ヴィ ン, ガリレイ等に永久機関不能の原理に到達させたことは十分に推測しう る. もちろん, このことは必 要条件であって十分条件ではない. そのことは, おびただしい数の 「技術家」 が永久機関の製作に 没頭してきたことを見れば明らか である.ステ ヴィ ン,ガリレイ,ノ・イゲンスの利用した永久運動不能 の原理は,いずれも,その運動が実現さ れるとすれば永久機関の実現に容易に結びつくものであった. 155.

(5) . 若. こ の こ と が,. 菜. 博. 指導原理″ と して の 有 用 性 の 要 因 の 1 つに な っ た も の と 思 わ れ る.. た だ し, そ れ は,. 力学的分野での永久機関不能の原理への確信となるものだっ た. マ ッハの言うように,「永久機関不 能の原理は純粋な力学的分野においてもっ とも明白かつ容易に認 識すること ができ, そしてその中 1 3 )」 そして ′すべての現象を力学的運動 で説明しようとするとき に最初の根をおろしたのである( , . , この運動は再び指導原理として脚光をあびることになる. それは, 19世紀になって, ヘルムホルツ ) に典型的に現れた. ( 1821-1894 さて, 一方, ハイ ゲンスが力学以外の現象での永久機関不能の原理の成立に確信をもてなかった ことは, この原理が力学的分野にその根をもっている以上, 当然予想されること であっ た. 永久機 関不能の原理がさらに一般的確信となるには, 力学的手段以外の様々 な手段を利用した永久機関の 失敗の集積が必要 であ っ た. S.力ルノー ( 179 ) が熱機関について初めて永久機関不能の 6-1 832 原理を適用するま で, この原理が力学あるいは液体力学の分野での適用にとどまっ たことは, 上の ことを示唆する. その意味で, ウィ ルキンス僧正 ( 16 14-167 2 ) が永久機関に ついて可能か不可能 かの判断を最終的に保留つつつも, それまで考察されてきた幾多の永久機関の分析整理を行なった 1 4 ) の意義は大きいものと思われる 高林武彦の次の指摘は重要である 「この原理を何かアプ こと( . . リオリな要請と見倣すのも誤りであろう. この原理は実に広汎な内容をもっているが, 経験から抽 1 5 )」永久 出され, その帰結が検証されることによ って樹立された所の自然自体の客観的法則 である( . 機関不能の原理も, 人間の自然認識の深化および 「実験と産業」 とともに拡大し, 成長してきたの であ る.. 今まで述べてきたように, 永久機関不能の原理は, その時代の制約を受けながら, 自然認識の指 導原理として機能してきた. 特に, エネルギー則との関係で見れば, 「ステ ヴィ ンからガリレイ, ホ イ ゲンスにおいて, エネルギー則は主として力学的永久機関の不可能の原理という形態 ですでに指 1 6 ) 導 的に 機 能 して き た( 」 と 見 る こ と が でき る. ま た, ハ イ ゲ ン ス の 友 人ライ プ ニ ッ ツ に お い て は,. 「原因結果同一の原理, 即ち力学的永久運動の不可能といふことが, 私の力評価の土台になってゐ ることがおわかりになったであろう. 従ってこれは, つねに不変不易の同一に保たれ, いひかへれ ば, 一定の作用を惹き起したり, 一定の高さに或る重さを持ち上げたり, 或ひは, バネを伸ばした 1 7 ) り, 一定の速度を典へたりするために必要な量は, つねに保持される{ 」( 1696年1月15 日 付, ド・ 「無から運動を創りえ ロスピタル宛ての手紙)と述べているように, ここには永久機関不能の原理( ない」 )に媒介された保存概念が明白に存在していた. しかし, なお, これはエネルギー則 ではなかっ た. 永久機関不能の原理がエネ ルギー則に発展するためには, まだ2つの要件が欠けていた. すな わち, その一つは, 諸現象間の相互転化の認識と思想であり, 他の一つは, その転化を測る共通の 尺度, 「仕事」 が欠けていたの である。 永久機関不能の原理が, 「運動のある形態から他の形態への 1 8 } 転化性の測度である( 」 エネルギー概念に飛躍するには, 上の2つの契機が不可欠であっ た.. 2. ミク ロ か ら マ ク ロ へ の エ ネ ル ギ ー の ・集 中″ の 必 要 条 件 と し て の 温 度 差. 1-2(前号)において熱力学の対象とする過程は, ミクロとマクロの階層間におけるエネルギー の相互移行であることを述べておいた.この相互移行は決して等方的に 起こるものではない.マクロ ・散逸″ )は容易に100%の効率で起こる(例えば, 運動エネルギー からミクロへのエネ ルギーの移行( をもつマクロな物体が摩擦によ って停止する場合, など) . ところが, その逆の転化, すなわち, ミク ロ か ら マ ク ロ へ の エ ネ ル ギー の 移 行 (n集 中″) は 容 易 に 起 こ る も の で は な い. こ の ミ ク ロ か ら マ ク 156.

(6) . 2 ) 学校教育における熱力学指導の諸問題(. ロへのエネ ルギーの 集中″ を人為的に実現する代表的な装置が熱機関である. そして, 「熱」 をマ クロな力学的エネ ルギーとしてとり出す過程のなかに, すなわちエネルギーの 一集中″ の過程のな かに, どのような法則性がひそんでいるかについて実質的な研究を行っ た初めての人が, フランス ). 人S.力 ルノ ー であ る (1824. ) を行なって以来, この機関は爆発的に普及し, その波はイ ギリ ワ ッ トが蒸気機関の改良 ( 1 765 スばかりでなく, フランスにも及ん でいた. 力ルノーは, そのような時代の中で次の問題意識から 出発する; 「しばしば問題とされたのはつぎの諸点である. 熱の動力 [効率] には限りがあるのか, どうか, また, 火力機関を改良する可能性は,いかなる手段によっても超えることのできない,事物の本性か らく る 限 界に よ っ て 限 ら れて い る の か,そ れ とも, どこ ま でも 限 り が な い の か,人々 は な が い あ い だ,. 火の動力を発生させるのに水蒸 気よりも好ましい作業物質がないものかと探求してきたし, いまな 1 9 )」 おさがし求めている. たとえば, 空気がこの点で大きな利点をもたないであろうか( . この問題に答えるためには,熱機関の原理を,個々 の蒸気機関のメカニ ズムから切り離して, 一般 論として提起しなければならない. 力ルノーは, 熱素説にもとづきながらも, それを次のように定 式化する;まず,「蒸気機関で動力が発生するのは, じっさいに熱素が消費されるため でなく, 熱い 物体から冷たい物体への熱素の移動, すなわち燃焼のような化学作用, あるいは何かその他の原因 2 0 } 」と, 熱素の移動の原理を述べる. さらに「こ によっ て破られたりつり合いの回復によるのである( の原理によれば, 動力を得るためには, 熱を作りだすだけ では不十分であっ て, 冷たさをも供給し 2 1 } 」とし, 結局, 「温度差が存在す なければならない. 冷たさなしには, 熱は役に立たないのである( るところ, 熱素のつり合い [平衡] の回復が起りうるところ, そのようなところではどこでも動力 2 2 ) 」 ことを指摘する. そして, このことは 「蒸気機関だけでなく, 任意の火力 の発生が可能である( 2 3 ( } 機関 [熱機関] , すなわち, 熱素が原動力 であるようなすべての機関に対して成り立つ 」 として, 熱機関の一般的原理を明らかにしたのである. つまり, 「熱の動力の発生」にとっては, 温度差とい う非平衡状態が必要条件であることを, 力ルノーは一般的に結論づけたのである. さて, まだ残された問題がある。 温度差が「熱の動力の発生」にとっ て必要条件であるにしても, 「熱の動力 [効率] は, 動力を得るために使用される作業物質, すなわち, 熱の作用をこうむる対 2 4 ) 」という問 象として選ばれる仲介物質にかかわらないであろうか,それともかかわるであろうか ?( 題 である。 換言すれば, 同一の温度差 のもとで, 同一の熱量が移動するとき, それによって発生す る「動力」 [効率]は, 作業物質に関係するのか, しないのかという問題 である. これを明らかにす るために, 力ルノーは, 永久機関不能の原理をより どころにする. 彼の推論は次のようなものであ る;前に述べたように, 温度差があれば, どこでも 「熱の動力」 の発生が可能である。 従って, 動 力の発生をともなわない平衡の回復 (熱伝導) は 「正味の損失」 になる. この 「正味の損失」 をな くせば, 最大の効率をもつ熱機関をつくることができる. さて, 温度差による 「動力」 の発生とは逆に, 例えば, 気体を断熱圧縮 (または膨張) させると その温度が上昇 (または下降)するように, 「動力を消費できるところでは, どこでも温度差をつく 2 5 ) り だ( 」 す こ と が でき る.. 以上のことを確認した上で, 力ルノーは, 次の4つの行程をくりかえす, 空気を作業物質とする, 2 6 ) ②断熱膨張とそれによる冷却 ③低温での等温 仮想的な熱機関を考える;①高温での等温膨張( , , ただし ここで大切なことは 収縮, ④断熱収縮とそれによる温度上昇(①の状態にもどる) , この , . 2 7 ( ) 進行すること 「 」= 「 ( くり 」 ジワジワ過程 その過程が ジワジワとゆ 行程のすべてにわたり, である っ 準静的過程) . ところで, このジワジワと進む循環過程(サイ クル)は次のような特筆す べき性質を 157.

(7) . 若 菜. 博. もっている; 「1. 温度の等しくない物体の接触はどこにも生じない. したがっ て, 仕事を生み出 さない無益な熱伝導は生じない. 2. そこに生ずる温度変化は, すべて体積変化つまり仕事の結 果としてのものである. 以上ふたつの性質により, 最大仕事の達成が保証される. 3. この過程 は, 本質的な性質の変更を伴うことなしに, 逆向きに進ませることができる. 4. 各サイクルの 2 8 } 」 後に, 作業物体(気体)は厳密に始めの状態にも どり, したがって, 厳密に同じ熱量を取りもどす( 「 ) (ゴシック部分は,原文ではイ タリ ック) 力ルノー機関を①→④の向きに運転すると( 順行運転 」 , . 「逆行運転」 差し引き Wo の 「動力」 がとり出せる. 過程を逆行させると ( ) oだけの 「動力」 が , W 「熱」 に変わる. もしも, 空気よりさらに有利な作業物質が存在し, それを用いて同一の力ルノー 機関でより大きな 「動力」 W がとりだせたとする(W > 粥 ) 。 .ちろん, 同一の温度差, 同一の熱 . も 量という条件の下でである. この「動力」W の う ち, Wo だ け を 用 い て, 力 ル ノ ー の 空 気 エ ン ジ ン を 逆行運転させれば, そっくりそのままもとの状態にもどせ, 差し引き W - W oの仕事が無からとりだ せることになる.これは一種の永久機関であり,「熱素あるいはその他のどんな源泉をも消費せずに, 動力が限りなく創造されることをも意味する. そのような創造は, こんにちま で受けいれられてき 2 9 )」な た見解, 力学と健全な物理学との諸法則にま ったく矛盾する. それは許されないものである( . お, 力ルノーは, この叔述の部分にわざわざ注をつけ, 熱や電気等を用いたとしても永久機関不能 3 0 ) の原理がなりたつことへの強い確信を表明している( . かく して, 力ルノーは, 熱素説, 永久機関不能の原理, 力ルノーの可逆機関 を推論のよりどころ としながら, 熱機関の一般的原理が温度差にあることを明白にした. すなわち, 「熱の動力 [効率] は, それをとりだすために使われる作業物質にはよらない. その量は, 熱素が最終的に移行しあう 1 3 )」推論の一部に 熱素説を始め 誤りが存在しながらも この結 二つの物体の温度だけできまる( , , , . 論 (力ルノーの定理) は 「熱素」 の部分を除けば正しかっ た. そして, なかんずく, 力ルノーがこ の定理の証明の最後のよりどころを 「ガリレイ, ステ ヴィ ン以来物理学の理論構成の上に指導的発 3 2 )」後にクラウ 見的役割を果してきた所の永久機関不能の原理に求めたことは注目すべき点 である( . ジウスは, 力ルノーの推論に含まれる混乱を正し, 力ルノーの定理を 「熱力学第2法則」 として厳 ) 密に証明する ( 1 850 . 力ルノーの分析にそいながら, u温度差″ が「熱」 を仕事に転化するための必要条件であることを 見てきた. この原理は, 「熱」を力学的仕事に変換する装置である熱機関に妥当するだけ でなく, さ らに一般に,ミクロな分子運動のエネルギーをマクロなエネルギーに変換するための原理でもある.. 1 1 1 熱力学の授業書化のための基本視点 1. 熱力学指導における基本諸法則の抽出--教育内容の設定. 「教育内容は, 現代科学のも っとも一般的・基本的概念や法則 をもっ て構成しなけ ればならな 3 3 ( い 〉 .」この立場は, 熱力学の教育内容を設定するときにも, 当然, あてはめねばならぬ原則 である. 従っ て, 熱力学の教育内容の設定のために, 熱力学における 「もっ とも一般的な.基本的概念や法 則」 の抽出をまずなさねばならない. 熱力学の基本的法則 が, 熱力学第1法則と第2法則 であることは, 衆目の一致するところであろ う. このことは, 古典熱力学であれ, 不可逆過程の熱力学であれ, 変わりはない. 第1法則と第2 法則が何故基本的法則たりえるのか, その根拠について簡単に触れておくことにする. 158.

(8) . 2 ) 学校教育における熱力学指導の諸問題(. 1の3 (前号) において, 「熱」 の関与する 「自然的物質」 の変化過程は, 基本的には, 自然にお けるミクロと マクロの階層間での相互の変化過程として把握することを述べた. ここで言う自然的 i t )--唯物論哲学のも っ とも基本的概念である 物質とは, 哲学的カテ ゴリーとしての物質(Ma e r e ところの, 人間の意識とは独立に存在する客観的実在としての物質--の中で, 社会と しての客観 的実在とは区別された 「自然という, あるいは自然としての, 客観的実在, 逆にいえば, 客観的に 4 3 } f f l i t 実在する自然 (物質的自然)( )」.「エネ ルギー 」 を意味する。 自然的物質には, 「物質的 ( s o ch i informator i 的(energet sch)」.「情 報 的 ( sch)」 と い う 3つの側面 が存在する. ここ で, 「物質 的. f f l i St f f t ) というのは, エネルギーの素材的な担い手としての物質 ( ) にかんする」 性質の ( s o ch o 「 ことであり, エネルギーを物理的物質の運動の量的側面とすれば, この意味での物質はその質的側 3 5 } 面 である.」また,「情報的というのは, 自然的物質の運動の秩序性の程度をあらわす」ものである{ . 熱力学の立場は, ミクロとマクロ両階層間 での相 互変化過程を, 物質的 (素材的) 側面を捨象し 「秩序的」 た上で, エネルギー的側面と情報的 ( ) 側面から解析することにある. しかし, 熱力学に 素材的側面が陽に現れ出ないからといって, この側面の重要性が失われるものではない. 熱力学あ るいは統計物理学の成立の物質的根拠である自然の階層構造の認識は, 自然的物質の素材的側面の 認識, なかんずく原子論の認識を欠如しては, けっ して形成されるものではない. 自然的物質の3 側面と熱力学の基本法則を考察すると, 熱力学第1法則は, 変化過程のエネ ルギー的側面の反映さ れたものであり, 第2法則は, エネルギー的側面と関連しつつも, 秩序的側面の反映されたもので ある. 両法則は, 自然的物質の異なる側面の反映として区別さ れねばならない. 熱力学の基本法則 が, 古典熱力学であれ, 不可逆過程の熱力学であれ, どちらの場合も, 熱力学第1法則と第2法則 として措定さ れるのは, このためである.ただし,第2法則については, 古典熱力学がこの法則を不 s十d で表現すると 等式ds≧0で表現するのに対 し, 不可逆過程の熱力学はそれを等式ds=d f いう差異がある, ここに,ds は系内での全エントロピー変化, d声 は系内部の変化に帰因するエン ion), dぶ は 系 の 外 界 と の 相 互 作 用 に よ る エ ン ト ロ ピ ー の 流 れ ト ロ ピー 生 成 (ent ropy product. l s=0, 不可逆過程はd S>0で表現される. ( ent ropyf ow) であり, 可逆過程は d f ご さて, 古典熱力学と不可逆過程の熱力学においては, 上のような差異があるにしても, 熱力学の 体系構成から見ても, 第1法則, 第2法則が2つの独立な中核部分である. しかし, その構成が成 り立つためには, もう1つのカテ ゴリーが前提されていなければならない. すなわち, 温度と熱力 学第0法則 (平衡概念) である. とくに, 「温度という概念は熱力学の最も基本概念, いわば最も熱 3 6 ) 現象に特徴的な概念であ( 」 り, 温度なしでは, 熱力学ということさえできないものである. かく して, 対象とする過程の可逆・不可逆を問わず, 熱力学の論理構成においては, 第0法則, 第1法 則, 第2法則の3法則がもっとも基本的な法則 であることになる (これ以外にも, 絶対温度が0度 のときのエントロピーが0になるというエントロピーの原点を指定する熱力学第3法則が存在する が, こ こ では そ れに は 触 れ な い こ と に す る).. 上の3つの 法則がうちたてられることによって, それぞれの法則に対応して, (経験)温度, 内部 エネルギー (び) , エントロピー (S) という熱力学における基本概念が生じる. さらに, 第2法則 deg からは, 「たんに高低を示す度( )としての温度 [経験温度] にかわって, 熱力学的な r ee ,Grad 3 7 }」 量 (Grbβe ) としての温度 (T) [絶対温度] の概念が生じる( 。 古典熱力学の成立の歴史においても, 3法則とそれに照応した物理量 (温度, 内部エネ ルギー, エントロピー) の認識は, 熱力学の発展の本質的契機であった。 まず, 熱学の出発のためには 温 冷″という人間の感覚を客観化しなければならない. すなわち, 「温冷の感覚を寒暖計の発明によ っ 3 8 }」ただし 「寒暖計の発明」=「温度概念の成立」とストレー て武装することが必要な前提であっ た( , 。 159.

(9) . 若. 菜. 博. トに結びつくわけ ではない. 個々 の物質の体積変化がさし示 す 「ある状態」 が その体積と離れた , 別個の普遍的な物理量として認識されるためには, 熱平衡に関す る法則 (熱力学第0法則) の認識 が必要であっ た. ただし, ここで認識された温度は その基準定点と温度目盛りの選択に任意性を , 残した, 温冷の相対的高低を示すにすぎない, 言わゆる経験温度 である (われわれの今日利用して いるセ氏温度oCも経験温度の 1つである) . この段階 では, 熱と温度の区別は未分化であっ た. 温度と区別さ れるべき別 の概念 ( 「熱」 ないし 「熱量」 ) の必要性を生ぜしめたのは, 異なる温度 同一物質の混合 の, (例えば, 温水と冷水) あるいは異種物質の混合 (例えば 水銀と水) におけ , る温度測定であっ た. とりわけ後者の温度測定からは, 熱量と温度変化とが単純な比例 関係になら ないことが明らか になり, 「熱容量」という概念が生じる さらに 熱と温度の区別に関してさらに , . 決定的なのは, いくら熱を加えても温度は変化しないという局面が存在し 熱と温度 (変化) の比 , 例関係が明白にくずれる. ここにいたっ て, 熱と温度の区別がようやく明らかになる なお この , . 段階では, 熱量は 「熱素の量」 として実体的にとられられていた . 以上の予備的段階をすぎ, やがて諸現象の相互転化の認識が広がるなか で エネ ルギー則が確立 , されていく. そして,「この法則の熱力学の領域における特殊な現わ れとして 言わゆる熱力学の第 , 1法則がうちたてられる. そこで系における保 存量として内部エネ ルギー (U) という概念が生じ 9 3 )」と こ ろ で エ ネ ル ギ ー 則 が 確 立 す る と す でに 力 ル ノ ー に よ る( っ て 見 い 出 さ れて いた 熱 現象の . , ,. 不可逆性 (熱機関の効率の問題) との関係が問題となる クラウジウスは エネルギー則と熱現象 . , の不可逆性とは互いに異なる原理だとして, 不可逆性を表現する量 (厳密に言うと 可逆・不可逆 , を判定する規準量) としてエントロピー (S) を導入し 熱力学第2法則が確立された , . かく して, 古典熱力学の体系が一応確立された ここでは 可逆と不可逆 という概念が明確に認 . , 識された. しかし, 実際に扱うことの できる過程は 可逆過程のみに制限される この制約をもち , . ながらも, 熱現象を解析する中核的な法則が確立せ られたのである . 以上のことから, 熱力学の教育内容として設定せられる概念・法則は 平衡概念 熱力学第1法 , , 則および第2法則として抽出されることになる ただし ここに抽出された基本的概念・法則は . , , 古典熱力学におけるそれと基本的に 一致しな がらも, ゆらぎの理論 不可逆過程の熱・統計力学の , 発展によっ て, その概念・法則も深化せら れてきている とりわけ 平衡概念と熱力学第2法則は , . , ゆらぎの視点により, 古典熱力学の制約を打ち破るべき内容が与えられている 平衡概念について . 言えば, 1(前号)で展開したように, 静的にではなく, 動的に把握されるべき ものであり 「平衡」 , 状態そのものも, 常に内的なゆら ぎをもっ た変動の中の定常状態 である また 熱平衡の認識自体 . , が, 孤立した系についてでなく, 寒暖計(温度計)を介 した 系同士の相互 作用を通してなさ れて , きたことに注意すべ きである. 2. 熱力学授業書化への基本視点. 前節において, 熱力学の基 本的概念・法則として, 平衡概念および熱力学第1法則・第2法則を 抽出した. この節では, これらの概念・法則を教授するための基本視点に ついて述べることにする . 基本視 点の第1は, 永久機関不能の原理を諸現象の相互転化についての認識を媒介として エネ , ルギーの相互転化 と保存の法則を導入す ることである 第2の視点は 熱力学の出発点としてブラ - , ウ ン 運 動 お よ びゆ ら ぎを 位 置 づ け る こ と であ る 第 3 の 視 点 は ミ ク ロ の エ ネ ル ギー を マ ク ロ の エ . ,. 集中″ させる条件が温度差にあることを強調することにある . 上の3つの視点を中心に教育内容の構造 を解説していこう まず 全体的な構造として ①エネ , , ,. ネ ルギーに. 160.

(10) . 学校教育における熱力学指導の諸問題( ) 2. ルギーの相互転化と保存の法則, を土台として, ②熱力学はミクロとマクロの階層間のエネルギー の相互移行を扱う, という2段階の構成をとる. さらに, ②では, エネルギー則の熱力学の領域に おける特殊な現れとしての熱力学第1法則と, 両階層間でのエネルギーの相互移行のあり方を規定 する熱力学第2法則, そして, 動的平衡概念が扱われる. 第1の基本視点--永久機関と諸現象の 相互転化--は, 主として, ①に関するものであり, 第2・第3の視点は, ②に関するものである。 第1の視 点のうち, 永久機関不能の原理について, その意義を若干付言しておく。 1 1の1で述べ た よ う に, こ の 原 理 は エ ネ ル ギー 則 の 1 つ の 源 泉 であ っ た. そ の こ と に つ い て, M,プ ラ ン ク は, 端. 的に次のように言う; 「この原理 [エネルギー則] の第一の根源はすでに, 無から有用な仕事を得 ることはどんな人間でもできない,という認識にあります.そして,この認識自体はもっ ぱら,一つの技 術的問題,永久機関の発明を解決 しようとする努 力のうちに集められた諸経験から生 じだもの で 4 0 )」 エネルギー原理の源泉として 「無から運動や仕事を創り出すことは できない」 ことの認識 す( , . を形成することが, 永久機関をとりあげることの第1のねらいである. 第2のねらいは, エネルギー なるものは人間が運動の中から適当な量を定義し,それを保存量として構成しただけのものである, 言わば, エネルギーは人間の観念の産物であって, 自然に客観的に存在するものなどではない, と 4 1 〉 に対する批判をすることにある エネルギー概念は 人間の歴史的な実践によっ て いった見解( , 。 --永久機関をどのようにしても作り出すことができなかっ たという苦い実践を1つの重要な契機 として--認識されてきたものである。 すなわち, 人間は,「客観的な運動の量的側面を代表するエ 4 2 )」エ ネ ルギーという量を発見したのである。 決して計算に都合のよいように定義したのではない{ . ネ ルギーの客観存在を示すためにも, 永久機関の位置は大きい. さて, エネ ルギー則の認識にとって, さらに本質的な契機は諸現象の相互転化の認識 である. 諸 現象の転化に目を向けさせると同時に, その転化において常に一定の比率で変化する量が存在する ことに注目させ, エネルギー則に到達させることを, ねらいとする. 第2の視点, ブラウン運動とゆらぎを熱力学の出発点とすることについては, 1-2 (前号) に おいて基本的に言及しておいた. ここでは, この視点が, 第1の視点 (永久機関) および第3の視 点 (温度差) と結合して, 熱力学第2法則の定式化へと導くことを述べることにする. 第2法則に反する現象を起こすものとして提起された仕組の中でも, マクスウェ ルのデモンは有 名 である. このマクスウェ ルのデモンをとりあげることにより, 第2法則の独自の性格を浮き彫り にすることができる. まず, このデモンの 「メカニズム」 を説明 しよう ; 断熱壁で囲まれた箱があ り, こ の箱 は 小さ い 出 入 り 口 の つ い た 壁 に よ っ て A と B の 2 つ の 部 屋 に 仕 切 ら れ て い る。 A と B に. は気体が入っており, 両者の温度は等しいものとする。 出入り口の穴のところにはデモンがおり, このデモンは穴に近づいてきた分子をその速度によっていちいち見分ける能力がある。 そして, あ る速度より早い分子がAから出入り口に近づいてきたときだけ戸を開けて, AからBの方へ通し, その速度より遅い分子がAから近 づいてきたときには, 戸を閉めて通さない. 逆にBから近づいて きた分子については, その速度より遅い分子だけをBからAに通し, 早い分子は通さない. デモン がこの操作を続けていくと, しだいにBの温度が上昇し, Aの温度が下降することになる. この現 象においては, 外から何らの作用を加えることなしに, はじめの段階では温度差のないところでA からBに熱が移動し, その後は低温部 (A) から高温部 (B) に熱が移動し, いずれの段階でも他 に何らの変化も残さない. もし, これが可能ならば, われわれは周囲のどこにでも存在するミクロ \集中″ することによって 無限とも言うべきエネルギーを獲得するこ の分子の運動エネルギーを \ , とができる, つまり, 実質的な永久機関をつくることができる. これは, エネルギー保存則に反し ているわけでないから, この永久機関を第1種永久機関と区別して第2種永久機関と呼ぶ。 161.

(11) . 若. 菜. 博. この第2種永久機関は, 自ら温度差をつくりだす, 言わば 一自動温度差発生装置″ である. マク スウェ ルのデモンは, 永久機関不能の原理と エネ ルギーの集中″ の条件としての温度差を否定す るものとして立ち現れる. さて,この問題に関して,扉の ブラウン運動の効果に最初に気づいたのはスモルコフスキーであっ た; 「ブラウン運動により, 扉はラン ダムに開閉し, 魔物の動作を非常に妨げることになる. この ことは, バネ のついた弁などのような自動装置に対して非常に 重要な意味をもち, そのような系の 長時間にわたる動作を完全に不可能にする. (中略)ブラウ ン運動は, そのラン ダム な予知 不能な 性質と, 運動の継続時間の短さにより, 魔物による第二法則の破綻を単なる見かけ上の破綻にす ぎないものにする. いかなる系でも, その動作を永遠に続けることは不可能であり, 第2種の u永 4 3 )」 久機関″ が不可能 であることは依然として確かなのである( . l l の デ モ ン と い う 知 的 存 在 は, ま た, アイ ン シ ュ タイ ン の 所 説 は 次 の よ う な も の であ る ;「Maxwe. その周囲と熱平衡の状態にあっ たのでは, デモン自身がいずれは周囲の温度に対応した不規則な運 4 4 )」 動をするようになって目まいをおこし, デモンとしての知 的能力を失ってしまう{ . マクスウ ェ ルのデモンは, 結局, 自身の ブラウン運動 (ゆらぎ)によっ て否定されることになる. 一自動温度差発生装置″ ) 不能の原理として かく して, 熱力学第2法則, すなわち第2種永久機関 ( 表現されるこの法則は, その妥当性をゆらぎを介して保証されることになっ たのである.. 〈注〉. ( 1 ) ( 2 ). ”A Source Booki ‘ ’ ’ ed by w F Mag ’( in l ined p lane i i S Stev )P.24 e n Phys cs .. . , . , Theinc , New York ,1935. E 69年 講談社 P.81 .マッハ/伏見譲訳 「マッハ力学--力学の批判的発展史」 19. ( 3 ) 前掲 書. 121一122 P.. 0一41 ( 4 ) ガリレオ・ガリレイ/青木靖三訳 「天文対話 (上)」1 95 9年 岩波文庫 P.4 ( 5 ) マ ッハ. 前掲書. P.122. ( 6 ) ガリレイ/豊田利幸訳 「レ・メカニケ」(豊田責任編集 『世界の名著21 』 ( 7 ) マ ッハ. 前掲 書. 1 9 7 3年 中央公論社). P.2 15. P. 159. 0 ( 8 ) 高林武彦 「熱学史--熱学の形成と論理 第1部」 19 4 8年 日本科学社 P.3 ( 9 ) 前掲書 P.31 ” in i i toryofthetheorem oftheconservat Jourda l ) E.Mach,Eng.trans ( o s onofwork (2nd .byp.E.B. , ontheh ” Ci ) ed . , cago ,1910 , P.20. 4 ( 1 1 ) マッハ 「力学」 P.7 ( 1 2 ) 須藤喜久男「永久機関を求めて--エネルギー保存則への道」(大野陽朗監修『異端の科学史÷÷近代科学の源 流・物理学編別巻』 19 9年 北大図書刊行会) P.76 7 ” Le inc ip i l i i i l l 3Auf bz ig 1919 ‐÷÷Hi tor t t( ) ( 1 3 ) E.Mach”DiePr ende r Warme ehre s sche ‐Kr s cheEntwi cke age , i , , S .318 .. ( 1 4 ) 須藤喜久男 前掲書を参照. 1 ( め 高林武彦 前掲書 P.31 ( 1 ) 前掲書 p 6 .31 2 1 ) オストヴルト/山際春次訳 「エネルギー」 1 ( 7 938年 岩波文庫 P.6 { 1 8 ) ゴルンシュタイン/大野勤・相馬春雄訳 「弁証法的自然科学概論」 19 62 33年 白揚社 p .1 ( 1 D S 9 .力ルノー「火の動力, および, この動力を発生させるに適した機関についての考察」(広重徹訳と解訳『力ル 1 ノー・熱機関の研究』 19 73年 みすず書房) p .4 3 αの 前掲書 P.4 3 御 前掲書 P.4 4 回 前掲書 P.4 162.

(12) . 2 ) 学校教育における熱力学指導の諸問題{. 4 ◎ 前掲書 P.4 4 似 ) 前掲書 P.4 5 ( 2 5 ) 前掲書 P.4 αの ここでは作業物質を空気としているので問題はないが, 力ルノーサイクルの定義としてこの最初の行程を等温 膨張と限定することは正しくない. 例えば, 作業物質として ゴムをとれば, この行程は等温収縮となる. 作業物 質の選択に独立した一般的な力ルノーサイクルとしては, この行程は膨張とも収縮とも限定できない. ②, ③, 『千葉大学教養部研究報告』B-3 1 ④の行程についても同様. 鐸木康孝他「初等熱力学の諸問題」( 97 0年1 1月) p .100 を参照. 62 ◎ 朝永振一郎 「物理学とは何だろうか (上)」 1 97 9年 岩波新書 P.1 1 8 回 E.Mach 注(13 )の文 献 S. 219 (邦訳, 高田誠二訳「熱学の諸原理」 1 ) 97 8年 東海大学出版会 P.2 . 引用は, 一部誤殖を訂正したほかは, 高田氏の訳を利用させて頂いた. 回 力ルノー 前掲書 P.4 7 御 前掲書 P.4 7 御 前掲書 P.54 岡 高林武彦 前掲書 P.1 61 ( 3 3 ) 高村泰雄 「教授過程の基礎理論」(城丸章夫・大槻健編 『講座日本の教育6 教育の過程と方法』 19 79年 新 日本出版社) P.56 は め 岩崎允胤.宮原将平 「現代自然科学と唯物弁証法」 1 97 2年 大月書店 p .64 6 鱗 ) 前掲書 pp .64-6 岡 橋瓜夏樹 「線形応答の統計力学」(戸田盛和・久保亮五編 『岩波講座現代物理学の基礎 [第2版] 5 統計物理 学』 1 97 7 8年 岩波書店) P.36 的 岩崎允胤.宮原} 18一4 19 将平 「科学的認識の理論」 1 9 6年 大月書店 pp 7 .4 縄 高林武彦 前掲書 p .6 触 り 岩崎・宮原 注 ( ) の文献. P.4 18 3 7 1』 1 棚 ) M.プランク 「物理学的世界像の統一」(湯川秀樹・井上健責任編集 『世界の名著66. 現代の科学1 9 0年 7 0 0 中央公論社) P.1 4 1 ) 例えば, 富山小太郎は次のように言う.「エネルギーは現象の理解するための--多少立ちいっていえば, 現象 ( の時間的推移を総合的に把握するための--概念であり, 理論的構成分であり, いささかも暖昧さを含まないも のである, (中略) エネルギーにとって本質的なことは, エネルギーという量を構成するその方法である」[傍点 l ) P,8 『数理科学』 No 1 21 Ju 97 3 3 は引用者] y l . . 富山 「物理学とエネルギー」( は め 宮原将平 「現代自然科学ノート」 1 9 7 3年 北大図書刊行会 P.5 1 67-1 6 8 嬢 ) L 96 9年 みすず書房 pp . .ブリルアン/佐藤洋訳 「科学と情報理論」 1 棚 ) 寺本英「エネルギー・情報交換系」(大沢・寺本編『岩波講座現代物理学の基礎[第2版]8 生命の物理』 1978 1 3 5 年 岩波書店) P. (本学講師・岩見沢分校). 163.

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参照

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