年金運用におけるダウンサイド・リスク最小化
のための最適アセット・アロケーション
山口 勝業,小松原 宰明
年金で運用される資産とその運用益は,受給者の将来の消雪に充当されるものである.したがって,将来の購買力を 実質的に確保するためには,インフレ率を上回るリターンを達成することが運用目標となる.本稿では,この運用目標 を達成できないダウンサイド・リスクがどの程度あるのか,またそのリスクを最小化するためには株式と債券の配分比 率はどうあるべきかを,日米の長期投資収益率データで検証する. キーワード:戦略的資産配分,ダウンサイド・リスク,下方部分積率(LPM),インフレーション l………ll……lll……l……llll……lll……llll…州……lll……lll‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖=‖‖‖‖=‖‖===‖‖=‖‖‖==‖‖‖=‖‖‖=‖‖==‖‖‖‖=‖‖==‖‖‖‖‖‖=‖‖‖=‖‖‖=‖‖‖‖=‖‖=‖‖‖==‖‖===‖‖‖‖‖‖‖=‖‖=‖‖‖==‖州l じゃないか」と発言する一幕もあった.しかし,デフ レになってからこんなことを言っても手遅れだ.デフ レ脱出のために政府の講じた経済政策が功を奏して景 気が回復すれば,いずれ金利もインフレ率も上昇する だろう.金利が上昇すれば債券ではキャピタル・ロス が生じるから,これもリスクが高い. ややもすると忘れがちだが,年金で運用される資金 はいずれ消雪されるお金である.国や企業の年金制度 での運用ではその資金はいずれ将来に受給者に給付金 として支払われるし,個人が自己責任で運用する確定 拠出年金や変額年金では,本人自身が将来受け取って 老後の生活資金にするわけだ.となれば,一番気にし なければならないのはインフレ・リスクだ.将来年金 が支給されるまでの間に物価が上昇していれば,受け 取る年金の購買力が目減りしてしまうリスクである. 本研究では,最低限達成すべき目標リターンがイン フレ率であるとき,それを下回るダウンサイド・リス クがどれだけあるのかを日米の長期データに基づいて 検証した.現実の運用者が戦略的資産配分を決定する 際に,想定している投資期間は5年から長くてせいぜ い10年程度であろう.そうした一定の投資期間で, 株式と債券で構成されたポートフォリオの平均投資収 益率が結果的にインフレ率を上回れなければ,これは ダウンサイド・リスクが顕在化した状態といえる.本 研究は,そうした状態が(1)どのくらいの確率で発生す るのか,(2)インフレ率に対して平均的にはどれくらい 負けるのか,そして(3)負ける場合はどれくらい広範囲 にバラついているのか,を実証データで計測する. 1.はじめに 年金資金の運用のような長期投資では,どのような ポートフォリオが最適といえるのだろうか.代表的な 資産クラスには株式と債券があるが,年金の運用はは たして株式中心でいくべきか,債券中心でいくべき か? 一つの極端な意見として,「年金の運用期間は超長 期で,超長期では株式は債券よりも高いリターンを上 げるはずだから,全額を株式で運用すればよい.短期 的な価格変動にはこだわらなくてもよい」という説が ある.しかし実際の運用責任者は人間だから,いずれ 引退したり,交代したりする.また,自分の任期中は 少なくとも失敗したくないと思うだろう.実際の運用 者が持つ想定投資期間が数年だとすれば,株式だけに 投資することはあまりにもリスクが高い. もう一つの極端な意見は,「年金基金は大儲けする 必要はない.給付が払えれば十分だから,債券中心で 手堅く運用すべきだ」というものだ.我が国の年金運 用では株式の不冴えなパフォーマンスに毎年のように 苦しめられたが,2003年の国会では公的年金の運用 に関して小泉首相が「デフレの時代に株式なんて,ど う考えても危ない.安全なのは国債くらいしかないん やまぐち かつなり イポットソン・アソシエイツ・ジャパン㈱ 〒101−0065千代田区西神田2−5−6 専修大学大学院経済学研究科(ファイナンス)客員教授 〒101−8425千代田区神田神保町3−8 こまつばら ただあき イポットソン・アソシエイツ・ジャパン㈱ 〒101−0065千代田区西神田2−5−6・ 694(16) © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず. オペレーションズ・リサーチBernstein(1992)が発掘するまで40年間にわたって ほぼ忘れ去られてきた.この間,70年代にBawa (1975,1978)が本稿でとりあげる下方部分積率 (Lower PartialMoments)に関する論文を発表して いるが,ダウンサイド・リスク問題が多くの研究者や 実務家から関心を集めたのは90年代になってからで ある. 例えばソロモン・ブラザースのLeibowitz(1989, 1996)は,目標収益率を達成できなし−リスク(ショー トフォール)をテーマにいくつかの一連の研究を発表 してきた.またフィデリティのHarlow(1991)は, ダウンサイド・リスクの観点から資産配分の最適化問 題の解法を示した.我が国でも竹原(1994)が平均一 下方部分積率(MLPM)モデルを紹介し,我が国の データで数値分析を行った.この他,辰巳(1996)は 目標収益率を特定したうえでダウンサイド・リスクを 最小化する手法を提示し,枇々木(1999)はりスタ尺 度にオープンL偏差を用いた最適化モテリレ(MOLD モデル)をMLPMモデルと比較している. しかし,これまでのところ長其舶勺な実証データによ ってダウンサイド・リスクを計測した例は皆無である. その最大の理由は,どこから下をダウンサイドと定義 すべきかが一様には決まらないからであろう.ある投 資家にとっては元本割れを回避すること(目標リター ン=0%)かもしれないし,別の投資家にとっては何 らかのプラスの目標リターンを達成できないことがリ スクかもしれない.これまでの研究で数値例を示され ている場合,なんらかの悪意的に固定した目標リター ンを研究者が設定したうえで分析を行っている. これらの過去の研究に対比して,本稿の貢献がある とすれば次の4点に要約されよう.本研究では(1)固定 的な目標リターンを設定せず,運用期間中に確率的に 変動するインフレ率を目標リターンとし,一定の投資 期間において実質リターンがマイナスになることをダ ウンサイド・リスクと定義していること,(2)50年以 上の長期間にわたる株式・債券の投資収益率デー タを 用いて計測したこと,(3)米凶と日本のデータを同じ方 法で比較分析したこと,および(4)サンプル期間から得 られた実測値をもとに理論値を推計したこと,である. 3.分析方法とデータ 3.1分析方法 ダウンサイド・リスクは下方部分積率(Lower PartialMoment,以降LPMと略す)として,n次
2.先行研究と本稿の貢献
もっとi)標準的な資産選択理論はHarry Mark− owitzが提唱した平均一分散アプローチであるが,こ の方法によって最適ポートフォリオを決定するために は,(1)投資家がリスク回避的であり,それが2次効用 関数で表現されること,(2)リターンの分布が正規分布 に従うこと,が要件となる.しかし,投資家のリスク 回避度のパラメータを具体的な数値で特定することは 現実には不可能だ.また,証券価格の分布はどちらか といえば対数正規分布に近く,歪度や尖度が正規分布 とは異なることが知られている.さらに,ふつう平 均一分散アプローチでは1期間でのポートフォリオ選 択問題であるが,その解が年金資産のように長期的な 運用においても妥当な解かどうかはただちに明らかで ない. こうした問題点に加えて,専門家でない一般人は標 準偏差をリスク尺度とすることに違和感を覚えるむき もある.分散や標準偏差はりターンが平均値の上下に 確率分布している状態を表しているが,一般常識では 平均より高いリターンを リスクと呼ぶのはなじまない. 投資家にとって,リスクとは期待していたよりも悪い 結果がどれだけ起こりそうか,つまりダウンサイド・ リスクが最も気になるところである. しかしながら,ダウンサイド・リスクは金融経済学 では主要な研究テーマではなかったようである.約 50年前,現代ポートフォリオ理論の基礎を数学的に 定式化したMarkowitzは,Por拘Iio Selection (1959)のなかで14ページを占めるにすぎない第9章 で,ダウンサイド・リスクの一種である半分散 (semiLVariance)に言及している.そこで彼は「分 散にもとづく分析よりも,半分散にもとづく分析がよ り良いポートフォリオを生み出す.分散を用いると, 極端に高いまたは低いリターンをいずれも好ましくな いとして排除するのに対して,半分散は損失を削減す ることに焦点を当てているからだ」とその利点を挙げ ている. しかし一方では,計算コスト,簡便性,統計 値としての知名度などを考慮すれば分散のほうが優れ ているので,まずは取扱いが簡単な分散を用いるほう がよし−と述べて,それ以上突っ込んだ議論を展開して いない. じつはMarkowitzとほぼ同時期に,英国のA.D. Roy(1952)が「安全第一主義」での資産選択問題を 発表していたが,その業績は脚光を浴びることはなく,は10年物国債,米国では財務省証券の5年物と20年 物から合成した平均満期10年の国債ポートフォリオ を用いた. 名目リターンを実質リターンに変換するた めに用いたインフレ率は,日米ともに■消費者物価指数 である.また,安全資産のリターンは米国が30日物 T−Billの月次リターン,日本は有担保コールレート 翌日物の月中平均である.計測期間は日米それぞれで データが入手できる最長期間で,米国は1926年1月 から2003年12月までの78年間,日本は1952年1月 から2003年12月までの52年間である. 11種類のポートフォリオは次のように作成した. 第0番のポートフォリオは安全資産100%である.第 1番は債券100%:株式0%で,第2番は債券90%: 株式10%,第3番は債券80%:株式20%…と以後 10%ずつ構成比を変化させ,第11番では債券0%: 株式100%である.ポートフォリオは毎月末にリバラ ンスしながら運用し,指定した配分比率を維持しつつ 各月のリターンを計測している.また投資収益にかか る税金はないものと仮定し,リバランスにともなう売 買手数料など取引コストもないものと仮定している. 例えば投資期間5年の運用シミュレーションでは, 米国では第1回を1926年1月から1930年12月まで, 第2回を翌月1926年2月から1931年1月まで…とい う要領で,1ヶ月ずつ開始時期をずらしながら行い, 実質リターンの平均と標準偏差およぴ3種類のダウン サイド・リスク(LPM。,LPMl,LPM2)を計測し た.投資期間10年の場合も同様の手続きである.日 本についても同様に1952年1月を第1回として,5 年間および10年間の運用シミュレーションを行った (本稿では紙幅の関係で,投資期間5年の場合の計測 結果のみを報告する.10年の場合も概ね同様の結果 である).
4.運用シミュレーションの計測結果
4.1計測結果の要約 図1Aは米国の,図1Bは日本での投資期間5年 の実質リターンの年率平均をあらわしている.横軸は 投資期間終了時点をあらわしており,縦軸はその時点 から過去5年間での実質リターンの年率平均である. 11本のグラフは各ポートフォリオを過去5年間の実 質リターンの年率平均を表し,0%より下回っている 状態はその時点までの過去5年間で運用成績がインフ レ率に負けたことを示している. まず米国については,大恐慌(デフレ)に見舞われ オペレーションズ・リサーチ のモーメントを持つLPM乃は次の一般式で定義され る. r LPM乃= ∑ ♪ヵ(T一尺烏)乃 月々=−00 (1) ただし,rは目標リターン,β烏はポートフォリオ々 のリターン,轟はリターン斤た(ただし,月々≦r)が 出現する確率を表す.右辺の(r一尺々)をリターン・ ショートフォールと呼び,実際のリターンβが目標 値rにどれだけ足りないかを表している. ここで乃=0の場合,式(1)は目標リターンTを下 回る確率(式(2))となり,これをダウンサイド確率と呼 ぶことにする.また乃=1の場合,式(1)は目標値を下 回る悪い結果の確率的な平均値(式(3))を表すので,シ ョートフォール期待値である.さらに乃=2の場合は, 式(1)は闘値rを下回るケースがどれだけ広範囲に分 布しているかの分散(式(4))で,ショートフォール分散 と呼ぶ.ギャンブルの勝敗に例えれば,LPM。は負 ける確率を,LPMlは平均的にはいくら負けるか, LPM2は負けた場合に大損することもありそうなの かを示している. r 乃=0,LPM。= ∑ ♪烏 斤々=−00r 〝=1,LPMl= ∑ ♪烏(T−β烏)
月々=−00r 乃=2,LPM2= ∑ 少々(r一尺烏)2
斤お=−00 本研究は問題の本質をとらえるため,年金資金は株 式と債券のポートフォリオで運用されているという2 資産モデルで考察する.日米それぞれで株式市場指数 と10年物長期国債の組合せて11種類のポートフォリ オを構築し,そのポートフォリオのリターンから上記 の式(2)∼(4)で三つのダウンサイド・リスクを計測する. ここでダウンサイド・リスクとは,一定の投資期間に おいてポートフォリオの名目リターンがその間のイン フレ率を下回る,すなわちインフレ控除後の実質リタ ーンの平均が投資期間をつうじて0%未満となる場合 と定義する.11種類の組合せのなかで,どのポート フォリオがもっともダウンサイド・リスクが小さいか が,本研究の主な関心である. 3.2 データ 株式リターンは代表的な市場指数の配当込みトータ ル・リターンの月次系列である.日本では東証1部上 場全銘柄の加重平均(配当込みTOPIX),米国では S&P500指数を用いた.債券リターンは満期10年 の長期国債トータル・リターンの月次系列で,日本で 696(18) © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.USR011ing5yoar
ReturnV5rue$
インフレ  ̄15%一
デフレ インフレ
Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec Dec
1930 1g35 1g40 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1g90 1995 20002003
lnterval:60
 ̄MiL
二法3aE認諾●TRREAL 二諾Hぷ認諾㌣31T’1/3LT)REAL‘1g温帯書訟L
70/30 Mix 80/20 Mix 90/10 Mix 鵬S&P 500 TR
図1A 米国での投資期間5年の年率平均実質リターン(1926年1月∼2003年12月) JPRolling5year
Return\ねIues
Dec Dec Dec Dec Dec Dec
1956 1960 1965 1970 1975 1980
Dec Dec Dec Dec Dec
1985 1990 1995 2000 2003
lnterval:60
JapanMoneyMktTRREAL−1AJapanLTGvtTRREAL ̄JPlO/90REAL  ̄JP20/80REAL
JP30/70REAL 仰JP40/60REAL JP50/50REAL JP60/40REAL
JP70/30REAL JP80/20REAL JP90/10REAL −TSEITRREAL
図1B 日本での投資期間5年の年率平均実質リターン(1952年1月∼2003年12月) た1930年代,第2次大戦直後のインフレが昂進した 時代,インフレと経済停滞(スタグフレーション)に 悩まされた1970年代などに,実質リターンがマイナ スになっていた.日本では,2度にわたる石油ショッ クなどインフレが高まった1970年代,バブル崩壊後 のデフレの時代に,やはり実質リターンはマイナスに なっている.日米ともに共通するのは,経済が極端に デフレまたはインフレになったときに,ダウンサイ ド・リスクが顕在化しているという点である. その原因はポートフォリオの資産構成にある.株式 はデフレに弱いため,株式中心のポートフォリオでは デフレのときにダウンサイド・リスクが顕在化する. 一方,債券はインフレに弱いため,債券中心のポート フォリオはインフレの時代にやられる.安全資産も債 券同様インフレに弱いという点では,必ずしも安全と はいえないことがわかる.極端なインフレやデフレに 対して抵抗力を待つためには,株式と債券をブレンド したバランス型ポートフォリオを保有していることが 望ましい.これは「中庸がよろしい」とし−う常識にも 合致している.以下では数値でこれを検証してみよう.
表1投資期間5年のケース ポトフォリ㈹粉塵且出 仙 LPMl 星型塵 % LPM2 実測値理輪値 %2 %2 3.586 3.330 2.935 4.457 1.872 2.g90 1.267 2.145 0.962 1.735 LPMo 実測佃 彗逸塵 %
讐
% % % . 33 22 2 2 1 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 1 0000000 00000 098 7 65 43 21 1 00 00 0 00 0000 0 1︵ノー3 4 5 6 7 89 0 1 0−234567∂9用H 国 米 42.1 0.903 0.935 31.6 0.828 0.923 25.9 0.594 0.679 21.2 0.459 0.518 17.9 0.383 0.426 62 84 061 6159 02 23 4 45 566 6 1 9月l 10.3 16.0 0.344 0.928 1.765 1.162 2.134 1.651 2.766 2.558 3.713 4.052 5.047 6.276 6.846 1 261 87 1 235 68 1 1 1 1 1 1 15.3 0.365 0.434 18.7 15.8 0.446 0.504 20.3 16.7 0.576 0.601 21.0 17.8 0.743 0.725 20.8 19.0 0.g35 0.874 7.3 0 0 0 0 0 0 0 00 00 0 ∩︶ 1 00 0 00 000000 0 09007 654321 1 00 0 00 0000 00 0 123 4567 89 0 1 0†23456789川‖ 本 日 0.833 0.630 2.240 1.821 1.563 1.273 1.118リ型封0.885 1.605 圃2.382
1.217 3.653 2.014 5.510 3.373 8.043 5.39211.335 8.17615.466 11.827 20.501 14.3 20.0 0.301 0.272 14.5 21.9 0.483 0.485 12.9 17.6 0.399 0.361 2.1 5.5 3.0 8.7 3.6[::::::亘亘] 4.1 9.1 4.6 10.3 5.1 11.9 5.5 13.8 6.0 16.0 6.4 18.3 6.8 20.7 7.2 23.2 7.5 25.7 13.8 16.0 17.0 17.1 19.3 18.6 20.9 20.2 23.4 21.7 25.3 23.1 27.4 24.4 29.2 25.6 0.287 0.487 0.370 0.631 0.52g O.809 0.736 1.016 0.979 1.247 1.2611.499 1.569 1.770 均値拓 標準偏差♂から計算される確率密度関数 /(斤た)は, 表1は投資期間5年のシミュレーション結果を,米 国(上段)と日本(下段)で要約してある.まず当然 のことながら,株式の組入れ比率が大きい(番号の大 きい)ポートフォリオになるにつれて,実質リターン の平均〟は高くなっているのは日米共通である. 問題はリスクである.どれがリスク最小化ポートフ ォリオかという点で,通常使われている標準偏差を使 う場合と,ダウンサイド・リスクの三つの尺度を使う 場合では結論が異なる.表のなかで枠内の数値はそれ ぞれの列の最小値である.標準偏差で測ると第3番 (米国),第2番(日本)のポートフォリオがリスク最 小であるが,ダウンサイド・リスクで測ると株式の組 入れ比率がもっと多い第5∼7番(米国),第3∼5番 (日本)のポートフォリオでリスクが最小となってい る. ところで,表1ではダウンサイド・リスクの三つの 尺度について,実測値とともに理論値も示してある. 実測値は本稿で用いた米国の78年分,日本の52年分 のサンプル・データから計測したものである.そこで 得られたのは,統計上はあくまでもサンプルからの数 値であって母集団の推計値ではない.かなり長期間を サンプル期間にしてはいるが,それでもまだ完全では ない. そこでサンプルで計測された数値から,母集団にお けるLPMを計測したのが「理論値」である.ポート フォリオ々のリターン系列月々において実測された平 698(20) (J−〃)2 欄)=去exp(− であるから,理論値としてのLPM莞は次の式で計算 される.㌍0,LPM葺=/ン(βた)dγ
(2)′ 乃=1,LPM㌘=/エ(r−βヵ)/(β)め′ (3)′ 乃=2,LPMぎ=ガ》(T一尺々)2/(斤)dγ (4)′ 4.2 ダウンサイド・リスクの効率的フロンティア 以上の結果は,われわれが現代ポートフォリオ理論 の標準的な教科書で学んできた効率的フロンティアを 再検討する必要があることを示唆している.表1のデ ータをもとに,縦軸に平均リターン,横軸のリスクに 標準偏差をとった通常の効率的フロンティアを描いた ものが図2である.キャッシュのみの第0番ポートフ ォリオを除いて,株式・債券から構成された危険資産 のポートフォリオ群は上に凸型の曲線を描き,そのな かで最もリスクの低い最小分散ポートフォリオが存在 するが,それは債券のみの第1番ポートフォリオから さほど遠くない場所に位置している. 通常の標準偏差をリスク(横軸)にとった効率的フ ロンティアでは右に行くほどリスクは高く,リターン は高いため,どこが最適ポートフォリオかはこの曲線 だけからは特定できない.最適ポートフォリオを特定 オペレーションズ・リサーチ © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.7 丘U 5 4 3 2 .1 平均実‡リターン ︵年率%︶ 平均実賞リターン ︵年率% ︶ 5 10 15 20 25 30 標準偏差(年率%) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.O LPM,(ショートフォール期待価) 図4 LPMl(ショートフォール期待値)の効率的フロン ティア 図2 平均一分散アプローチの効率的フロンティア(投資 期間5年) 7 象V 5 4 3 2 1 平均実†リターン ︵年率% ︶ 平均実‡リターン ︵年率% ︶ 0 10 20 30 40 50 しPM。(ダウンサイド確率) 図3 LPM。(ダウンサイド確率)の効率的フロンティア するには,投資家の効用をあらわす下に凸の効用曲線 を仮定して,効率的フロンティアとの接点を求めるこ とになる.しかし,現実には投資家の効用を数値で特 定することはほとんど不可能である. ダウンサイド・リスクをもとに効率的フロンティア を描きなおすと,様相は一変する.図3では縦軸の平 均リターンは図2と同様であるが,横軸のリスクに LPM。(ダウンサイド確率)をとってある.ここで 11個のポートフォリオをプロットすると,左側に凸 の弓形曲線が現れる.LPM。を基準にすると,最小 リスク・ポートフォリオは弓形の最も出っ張った点で ある. ただし,LPM。ではダウンサイド・リスクを把握 するにはやや片手落ちの感がある.なぜならば,それ はインフレに何回負けたかという回数を数えた確率で あり,「負けるときに,どのくらい負けるのか」とい うマグニチュードを表していない.地震に例えていえ ば,どのくらい地震が頻発するかという確率も大事だ が,地震が起きた時にどのくらい被害がでそうかのほ 0 5 10 15 20 25 LPM2(ショートフォール分散) 図5 LPM2(ショートフォール分散)の効率的フロンテ ィア うがもっと大事な情報である. そこで達成目標であるインフレ率にどのくらい負け たか,勝ったかというリターン格差を,確率で重みづ けをしたLPMl(ショートフォール期待値)で見て みよう.図4は横軸にLPMlをとった場合の効率的 フロンティアである.ここでは,さらに明確に左側に 凸の弓形曲線が現れる.LPMlを基準にすれば,日 本の場合には実測値ベースでは第4∼5番,理論値で は第3番ポートフォリオがリスク最小である.また米 国では,日本よりももっと株式の組入れ比率が高い第 5−6番ポートフォリオがリスク最小となる. 第3のダウンサイド・リスク尺度であるLPM2 (ショートフォール分散)は,「負け方のバラツキ具 合」を考慮している.LPM2を横軸にとった図5で も左に凸の弓形曲線ではあるが,LPMlの場合と比 較すると,リスク最′ト点である第4−5番ポートフオ © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.
ここでのリスクとは,運用期間をつうじた実質リター ンがマイナスとなるダウンサイド・リスクである.株 式はデフレに弱く,債券はインフレに弱いという性質 をもつため,こうした極端な経済状態に対して最も抵 抗力が高いポートフォリオが最適といえる.実質リタ ーンがマイナスとなるダウンサイド・リスクを確率 (LPM。),期待値(LPMl),分散(LPM2)で定義し, それらを最小化する資産配分を,日米の長期データに よって検証したところ,標準偏差が最小となるポート フォリオに比べてやや株式の組み入れ比率が高いポー トフォリオがダウンサイド・リスクを最小化するポー トフォリオであることが確認された. 参考文献 [1]Bawa,Ⅴ.S.,“OptimalRulesforOrderingUncertain Prospects,”Journalof FinancialEconomics,March 1975.
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