真実を知らずに突然死した大腸がん患者の看護における
看護師の倫理的・道徳的ジレンマの検討
角 田 明 美, 石 田 和 子, 狩 野 太 郎
茂 木 寿 江, 石 田 順 子, 吉 田 久美子
瀬 山 留 加, 赤 石 三佐代, 田 辺 美佐子
細 川
舞, 伊 藤 民 代, 二 渡 玉 江
神 田 清 子
要 旨 【目 的】 看護師のジレンマを明確にし, 看護師の役割の示唆を得ることを目的とした. 【方 法】 看護師 が倫理的・道徳的ジレンマを感じた一事例の患者が亡くなるまでの 7日間を, MORAL モデル (Patricia Cri-sham.1992) の問題解決ツールを用いて 析を行った. 【結 果】 患者に真実を告げることは残酷なことで はないか, 患者が積極的な治療を選択した場合, 患者の苦痛が増強するのではないか, というジレンマが明確 になった.真実を伝えた上で積極的な治療を選択した場合,S氏の身体状況が治療に耐えられないことや苦痛 が増強することが えられた. 【結 語】 数日単位の真実の告知では, むしろ患者にとっては安寧を損ねる こともあり, よって患者を見守ることも看護師の役割であることが示唆された.(Kitakamto Med J 2008; 58:27∼33) キーワード:ジレンマ, MORAL モデル, 倫理的問題, 看護師の役割 は じ め に わが国におけるがん医療の進歩はめざましく, がんの 予防・診断や治療に伴うがん医療の高度化と複雑化, が ん患者の高齢化, 治療法の選択や療養場所の選択, QOL の向上等がん患者およびその家族はさまざまなニーズを 抱いている. われわれ看護師も, さまざまなニーズを持 つ患者に対し,「その人らしさ」を尊重した上で, 患者の 持てる力を十 発揮できるようなケアの提供が望まれ る. 大学病院の急性期外科病棟においては, 主に手術を 目的とする患者だけでなく, 症状コントロールを中心と した患者や終末期の患者も少なくない. そのため, 看護 師は臨床現場においてさまざまなジレンマを感じること がある. それは, 手術患者を優先してしまい患者にじっ くり関われない・症状コントロールがうまくいかない等 患者のケアに関するもの, 医師との捉え方が違う・医師 に意見が言えない・うまく伝わらないといったチーム間 での治療方針や認識の相違に関するもの, 患者の意思決 定に関するもの, 何もできない自身に対しどうしたらよ いのか答えが出ないこと等, ジレンマの内容は実にさま ざまである. ジレンマの 類は,Patricia Crisham によれば,道徳的 ジレンマを確認し, 次の 4つの倫理的問題に って 類 した. それらは (1) 知る権利および選択する権利に関す る判断 (2) クオリティ・ライフを明確にし, それを促進 する (3) 職業面・施設面の水準を維持する (4) 看護資源 を配置する, であるとなる. それぞれのジレンマの例は, 日頃われわれ看護師が感じているジレンマと相違ないと 1 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院看護部 2 群馬県前橋市上沖町323-1 群馬県立県民 康科学大学 3 群馬県富岡市七日市553-1 富岡看護専門学 4 群馬県みどり市笠懸町阿左美606-7 桐生短期大学 5 東京都三鷹市新 川6-20-2 杏林大学看護学部 6 群馬県高崎市中大類町37-1 高崎 康福祉大学 7 栃木県足利市本城3-2120 足利短期大学 8 群馬県渋川市金井2854 独立行政法人国立病院機構西群馬病院 9 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 平成19年11月9日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院看護部 角田明美えられる. しかし, 臨床現場においてジレンマを感じても, 話し 合い・検討する機会はほとんどなく未解決のまま過ぎて きたように思われる. 日々, さまざまな問題に直面し, 倫 理的な視点を持ってケアに望むことが求められていると 思われる今日, 今後も同じ様なジレンマに遭遇すること が えられる. 未解決のままでは, 平にしたいのにで きない 藤を感じ続け, 自 の対応の結果についてあれ これ えて悩んでしまうことに, 自 はどうするべきな のか, このままでいいのか, 看護師はどのように決定し 行動するべきか, といった疑問ばかりが生じよりジレン マに陥る. そこで, われわれ看護師が日ごろ感じているジレンマ を看護師自身の中にため込まないで表出し, ともに共 有・共感することが必要である.そして,日々の看護を振 り返り, われわれ看護師の役割を再確認することができ ることで, より質の高い看護の提供につながると えた. 今回 MORAL モデル (Patricia Crisham.1992) の問題解 決ツールを用いて, 看護における看護師の倫理的・道徳 的ジレンマを 析し, 看護師のジレンマを明確にし, 役 割を再確認することとする. 研 究 方 法 1.言葉の操作的定義 ジレンマとは相反する二つの事の板ばさみになって, どちらとも決めかねる状態・判断に悩み, どう対応すべ きかわからず困ることとした. 2.MORALモデルとは Patricia Crisham によって, 1992年開発されたモデル である. このモデルは看護学生や看護師, 看護教育に携 わる人, 管理者らの抱える倫理的ジレンマを 析して解 決する際に, 改良され われている. 倫理的 藤 (同時に は遂行できない, 相容れない道徳的義務の板ばさみにな ること) の本質を認識する段階的テクニックを実際に ってみた時に, このモデルの有効性がわかるといわれ ている.このモデルの目的は,看護師が道徳的・倫理的 藤を感じているときにジレンマが転じて責任ある行動を とる機会にすることである. このモデルによって, 意思 決定のプロセスがはっきりし, 看護師の抱いている道徳 的・倫理的原則の発見が容易になり, 看護師の え方を 哲学と発達心理学の道徳的・倫理的理論に結びつけ, 看 護の際に経験した判断, 選択, 行動を一つにできるとあ る. MORAL モデルは図 1に示すようにそれぞれの頭文 字をならべ MORAL としている.
M=Massage the dilemma (ジレンマの輪郭をつかむ)
は, この作業のプロセスが 藤と関わっているのは誰の 利益かを認識するとともに, 疑問を抱き, 関わっている 当事者それぞれのジレンマをはっきりさせ,感情・規則・ 倫理的原理・法律などを含めた忠誠心の衝突について明 らかにするというプロセスだからである. O=Outline options (選択肢の輪郭を描く) は, 看護師 はそれぞれの力についてジレンマに陥ったときに 1) 力 をコントロールしたり 2) 力に影響したり 3) 力を予想し たりするにはどうすればよいかを える. そうすれば, 推進力を強めたり抑止力を弱めたりできる特別な行動方 法がたくさん見つかる. そして, それらの行動を吟味し, 目標達成のために効果的だと思える行動を選んで 1つに まとめる.
R=Review criteria and resolve(規範を見直し,解決す る) は, 看護倫理原則には『自立の原則』『無害の原則』 『善行の原則』『 正の原則』『真実の原則』『忠誠の原則』 の 6つの原則がある. 道徳的原則を明らかにするために は, 個人が持つ原則を明らかにした後で, 既存の倫理学 的理論と関連付ける必要がある. ナースが持っている原 則を明らかにするのを助ける方法の一つは MORAL の ステップ『O』したがって (∼だから,ある特定の行動を すべきだ, あるいはすべきでない) という文章を完成さ せることである.
A=Affirm position and act (自 の立場を肯定し, 行 動する) は, この段階は責任ある行動をとる段階である. 道徳的行動を行うためには, その前に道徳的判断を磨か なければならない. 道徳的判断は『必要だが十 ではな 図 1 倫 理 的 ジ レ ン マ 解 決 の た め の「MORAL」モ デ ル
い』自 の決定した立場を肯定し行動することは, 自 の選択にしたがって行動する勇気を要するのである. L=Look back (今までの経過を振り返る) は, この段 階では, 道徳的判断『M・O・R』と道徳的行動『A』を どう評価するかによって今までの経過を振り返ることが できる. 以上が,倫理的ジレンマ解決のための「MORAL」モデ ルである. 3.対象者 1)事例紹介 直腸癌を患う 50歳代の男性患者 S氏であった. 既往 歴はなく, 妻と 2人の息子の 4人暮らしであった. 現病歴としては, 平成 16年 4月直腸癌にて A 大学病 院にて手術施行.平成 17年 3月肝臓転移再発・イレウス にて緊急入院. 直腸癌再発により腫瘍が腹部大血管や左 の尿管を巻き込んでおり手術の適応なく, 抗がん剤の継 続か対症療法しかないことを医師より話された. 患者は 対症療法を行いながら自宅で過ごすことを選択. 平成 17 年 9 月自尿なく外来受診. 水腎症からくる無尿による高 カリウム血症 (K=7.7) にて急変の可能性を 慮し入院. 泌尿器科にコンサルトするが透析しか治療が無いこと・ 現状では危険性が高いこと, 本人には突然死の危険性が あることが妻のみに話された. 治療方針についても本人 には告げられず, すべての決定を妻の意向で行っていた. 入院から 7日目に「先生,何もしてくれないのかい.ねぇ, 何もしてくれないのかい.」と訴え,妻・息子の見守る中 永眠した. 生前の患者の意向通り, 病理解剖後帰宅と なった. 2)研究期間 平成 17年 10月∼平成 18年 3月 3)研究場所 A 大学病院消化器外科病棟 4. 析方法 MORAL モデルの問題解決ツールを用いて, S 氏の情 報を平成 17年 9 月 9 日∼平成 17年 9 月 15日 (入 院 時 より 7日間) の情報を整理した後に, がん看護研究会の 看護師・研究者間で一時例を検討した.さらに,信頼性と 妥当性を深めるために, 看護師間・研究者間で検討を重 ねた. ま た,「 」は 患 者 の 語 り を 表 し,『 』に つ い て は MORAL モデルで実用されている言語を示した. 5.倫理的配慮 研究実施にあたり, 院内の倫理委員会の承認を受けた. また, 対象者の家族に対し, 個人が特定できないこと, こ の研究の主旨・目的を書面にて説明し, 署名にて同意を 得た. 結 果 1.M:ジレンマの輪郭をつかむ 1) 思い悩んでいる問題を認識するために, S 氏に対し て二つの対立する行動を図 2に示す. 看護師として意識 が清明である患者に, 急変する可能性がある真実を話し 治療の選択をするべきであったか, 患者に真実を告げる ことは残酷なことではないか, 患者が積極的な治療を選 択した場合, 患者の苦痛が増強するのではないかという 問題が明らかになった. 問題が明確になったことで看護 師として働きかけたいが, S氏に対してどうするべきか, その際に生じた二つの行動が, 明らかにジレンマになっ ていることがわかる. S 氏にとって 2) その主要な問題について目標を定め 図2 M:ジレンマの概要をつかむ 二つの対立する行動と, 倫理的ジレンマにおける力および判断を明確にする図
ることにする. 図 2に示すように二つの対立する行動が 明らかにジレンマになっていることがわかる. 看護師と してこの状況で何をしたいのか, 看護の基本的責任とは 何なのかを問いかけることで, 図 2のように看護師とし ての私は,S氏が現状を受け止めた上で,限られた日々を 穏やかに過ごせるよう行動したい, という目標を定めた. 3) 目標に向かって再認識する. 現状では, 患者を援助 するべきか又はやめるべきか, 看護師としてどうするべ きか, 目標に到達するための行動として推進力と抑止力 を整理することが必要となってくる. 推進力と抑止力と は, 図 3のように力の場の 析によって目標を達成する ために, 行動に対しそれを推進する力と抑止する力が働 いていることがわかる. S氏の際に生じた推進力と抑止 力を 析してみると,『推進する力』として S氏は, 平成 17年 3月の緊急入院の際「先生から, 今後は癌の拡大に より腹水が貯留してくる. その結果, 足にむくみが出現 し, 最終的には歩けなくなるかもしれない. 肝臓や腎臓 にもダメージがきて全身的に衰弱していくことが えら れると聞いている. 抗がん剤が効かないなら入院してい るよりもできるだけ家にいたい.」と自 の病気について 認識しており, その上で, 対症療法を選択し, 外来通院し ながら在宅療養をしていた.また,死亡後「お世話になっ た先生に, 役に立ちたい.」と患者の意向で病理解剖が行 われていた. 今回の入院については, 尿がでないため泌 尿器科的には何もやることはないと聞いていたが, その 状況がどういうことなのか, 患者は詳しく理解していな かった. 緊急入院後も, 妻は患者に付き添っていたため, 患者には妻や息子たちの家族の支えがあった. また, 看 護師は迫りくる死についてこのままでよいのかという疑 問があったが, 実際何もアプローチできずにいたといっ たことが, S氏の『推進する力』である. 『抑止する』としては,現時点では泌尿器科的には透析 しか手段はないが, 妻が透析までは望んでいなかった. いつ急変するかわからない状況であるため, その状況で 現状を告げるのは残酷ではないかという家族や医療者の 思いがあった. 医師や看護師もこのままでよいのかと思 いながら支える自信がなかった. 医師もこの状況では何 もできないと思っていた. 以上のように, 看護師は二つの対立する反応『推進力 と抑止力』を持つジレンマに陥っていることを認識した. つまり,現状では『援助するべきか』『やめるべきか』と いったジレンマに陥っていることが明らかになり,『ジレ ンマの輪郭をつかむ』ことができた. 2.O:選択肢の輪郭を描く ジレンマの輪郭をつかんだ看護師は, 次に問題解決の 方法を えなければならない. S氏の二つの対立する力 を強めたり, 弱めたりしながら行動方法を えてみる. 1) 推進力を強め, 抑止力を弱める方法を えてみる. 推進力を強めるには, 現状をきちんと説明し透析しか手 段がないこと, 今後急変がおこりやすいことを伝えた上 で, 限られた時間を有効に過ごせるようケアしていくこ と, 医療者も現実を受け止めた上で患者が死を受容でき ると信じたいとした. 2) 抑止力を弱めるには, 家族に最期まで支えていきた い気持ちを伝え, 医師と看護師が医療チームとしてカン ファレンスを持ち, 精神面も含めたケアを統一していく こととした. 図3 M:ジレンマの輪郭をつかむ 目標に向けて力を再調整する図
これらの行動をよく吟味し, 目標達成のために効果的 だと思える行動を選んで一つにまとめてみることにす る. 看護師として, 家族と話し合いを持ち家族の意向を 十 確認した上で, 了解が得られれば S氏に現状を伝え 透析するかどうか選択させる. そして, 苦痛はとること, 少しでも穏やかにすごせることができるよう, 患者と家 族を支える努力をするという目標達成のための行動を一 つにまとめることで,『選択肢の輪郭を描く』ことができ た. 3.R:規範を見直し,解決する 倫理原則に照らして看護師としての最良の選択肢を評 価するために,道徳的原則・規範をはっきりとさせ,その 規範に った行動を選択する. S 氏に対して,私は何をするべきか,あるいはするべき でないのかという疑問を感じるとき『現状を患者に伝え ることで, 最期まで患者らしく過ごせるようにするべき である』という, 看護師としての私の個人的原則が明ら かになった. そのためにはどうすればよいのかというジ レンマに陥っていると感じる時, 解決するにはその義務 と責任をはっきりさせることができるように, 既存の倫 理学的理論に照らし合わせて えてみることにする. S 氏は自立した大人であり, 今までも一つ一つ説明を 聞き自 で治療法を選択してきたという『自立の原則』, 医療者のケアによって, つらい思いをさせてはならない という『無害の原則』,医療者としてこの状況のままで死 に至らないよう, これから起ることに対し, 何らかのケ アをするべきではないかという『善行の原則』,患者も一 人の人間であり,対等・平等に扱うべきであるという『 正の原則』, 患者には真実を伝える必要がある, これから 起こることに対し現状を伝えるだけでもよいのではない かという『真実の原則』, 真実を伝えたとき, 医療者はで きる限りのことをして患者を支えていきたいという『忠 誠の原則』, があてはまった. 以上, 看護倫理原則に S氏を照らし合わせてみること で『規範を見直し, 解決する』ことができた. 4.A:自 の立場を肯定し,行動する 看護師の倫理的判断をはっきりさせ, 道徳的判断のよ りどころとなる原則を明らかにしてきた. 看護師として の立場を肯定し, 行動するこの段階では次の点に留意す る. 1) 行動に対する反対意見や障害を予測する. S 氏に対 し, 医療スタッフでも えはそれぞれであり, 価値観も 異なる. 現状を伝えた後十 に支えられないこと, 又は 協力が得られないこと, 伝えたことで家族の立場がより 辛くなり医療者が支えられるのかといった意見が予測さ れた. 2)自 の立場をはっきりさせ,予測される反対意見や, 障害に応じた行動をはかっておく. S氏に対する対応の 仕方, ケアの統一がはかれるようカンファレンスを行い 十 意見 換を行う. 私たちは S氏に対して何もできな いかもしれないが, そばにいること, 患者の最期まで生 きようとする力を信じたいこと, そのためにケアの統一 をはかれるようにしたいことを他のスタッフや家族にも 伝えていく. また, 家族にも患者と同様にケアを行って いくことを明らかにし, 伝えていくことにする. 以上のように具体的な行動を示すことによって 3) 行 動することによって自 の選択を試すことができ『自 の立場を肯定し, 行動する』となった. 5.L:今までの経過を振り返る S 氏に真実を伝えた上で, S 氏が積極的な透析治療を 選択した場合, S氏の身体状況が治療に耐えられないこ とや苦痛が増強することがある. 数日単位の真実の告知 では, むしろ患者にとっては安寧を損ねることもある. よって患者を見守ることも看護師の役割であることが示 唆された. これまでの道徳的判断・行動から評価しながら『今ま での経過を振り返る』ことで, 看護師として見守ること も役割であるという結果になった. 察 入院時から S氏の不安や疑問の訴えはなく, 不安を表 出させるような積極的なケアはなされていなかったよう に思われる. これは, いつ急変するかわからないこのよ うな状況の患者に対して, どのようにケアしていくべき か, 医療者間でも戸惑いがあったように えられた. 患 者が亡くなる前に「先生,何もしてくれないのかい.ねぇ, 何もしてくれないのかい.」と訴えた際に, これまでのか かわりに対しさまざまな疑問や問いかけが生じたことだ ろう. このような患者にどのように対応するべきだった のか, 看護師として, 医療チームの一員として, 同じよう な疑問やジレンマを感じているスタッフもいたのではな いか等が えられた. そこで, MORAL モデルの 析結果から, M : ジレン マの輪郭をつかむでは, S氏に対して働きかけたいがど うするべきか, 二つの対立する行動がジレンマになって いることが明らかになった. これは『知る権利および選 択する権利に関する判断』のジレンマに 類される. 患 者へのインフォームドコンセントは徹底されていたの か, 家族ではなく患者の望みを尊重するべきか, それと も家族のほうを尊重するべきかというジレンマであるこ とが えられた.S氏が現状を受け止めた上で,限られた
日々を穏やかに過ごせるよう行動したい, という目標へ 向けてこの二つの対立する力『推進力と抑止力』を再調 整させる必要がある. O: 選択肢の輪郭を描くでは,二つの対立する力『推進 力を強め,抑止力を弱める方法を える』ことで,S氏に 対して最もよい方法を えなければならない. 患者に現 状を伝えるためには, 患者・家族と医療者間の密接なコ ミュニケーションが必要となる.そして,S氏が現実を受 け止めた上で死を受容できる力を持っていると信じたい という認識を統一した上でケアをしていく必要がある. R : 規範を見直し, 解決するでは, 看護師として最良の 選択肢はどれだろうかということを えなければならな いとき, 道徳的規範に照らして評価してみることで, 看 護師自身の道徳的原則・規範が明らかになる. 結果に示 すように看護倫理原則の 6項目すべてに, S氏があては まったことで, 現状を患者に伝えることで, 最期まで患 者らしく過ごせるようにするべきであるという, 看護師 としての個人的原則が明らかになったと えられる. A : 期範に照らし合わせ決心するでは, 看護師として の立場を肯定し行動しようとするとき, さまざまな反対 意見や障害を予測する必要がある. S氏に対し医療ス タッフでも え方は違うため, チーム医療を行っていく 上では,それらの意見を尊重し,S氏にとって一番よい方 法を選択することが重要となる. 結果に示すように具体 的な行動を示すことで, S氏に対する医療者間の認識を 統一した上で行動することで自 の選択を試すことがで きるのではないかと えた. L : 今までの経過を振り返るでは, これまでの経過を 振り返り, 看護師が責任に基づいた行動を完了しなけれ ばならない. 今回, S氏に真実を伝えた上で, S氏が透析 治療を選択した場合, S氏の身体状況が治療に耐えられ ないことや苦痛が増強することが えられた. 真実を聞 いた S氏がおとずれる死を受容できたであろうか, さら に苦悩するかもしれないだろう. それを私たち医療者は 支えることができたであろうか. 数日単位の真実の告知 では, むしろ患者にとっては安寧を損ねることもあると えられたため, 看護師として見守ることも役割である, という結論に達した. それは, 実際の臨床現場において は, 自 の えている概念に対立する医療者間の方針や え方の違い, 仕事が多すぎてじっくりと関われないと いった時間的な制約を受けること, 患者・家族の代弁者 としての気持ちと医療従事者としての責任, 同僚からも 逆に期待されてしまうこと等によって, 道徳的判断がこ れらの動揺やプレッシャーによって変わってしまうこと も現状であるためである. 岩本ら が患者を自立した存 在と認め, 患者の意思を尊重し, 最善のケアを提供すれ ばするほど, 患者の苦痛を緩和し危険を防止し害を与え ないという医療者として基本的に守るべき規範との間で 藤を感じ, あらためて悩み, 苦しむ姿がうかがえたと いうように, 臨床現場においてこのような問題に向き合 うことの難しさをあらためて実感することもある. その ため, 道徳的行動に結びつかないことが事実としてある こと, それがジレンマの再発につながることも えられ た. 引用・参 文献 1. マラヤ・スナイダー,尾崎フサ子,早川和生 : 看護独自の 介入∼広がるサイエンスと技術∼. メディカ出版. 1994: 24-49. 2. 岩本貴子,長澤裕子,二見典子ら : ホスピスにおける倫理 的課題への取り組みスタッフの意識調査の結果から. 死 の臨床. 2005: 80-86. 3. 中村めぐみ, 吉田智美 : 倫理的ジレンマと看護師の役割 日本がん看護学会誌. 2003: 35. 4. 近藤まゆみ : 倫理的ジレンマと看護職の役割 外来にお ける倫理的ジレンマと看護職の役割. 日本がん看護学会 誌. 2003: 36-38. 5. 梅田恵 : 倫理的ジレンマと看護師の役割 一般病棟の立 場から. 日本がん看護学会誌. 2003: 39-41. 6. 田村恵子 ; 倫理的ジレンマと看護職の役割 緩和ケアに おける倫理的ジレンマと看護師の役割. 日本がん看護学 会誌. 2003: 42-44. 7. 角田直枝 : 在宅看護における倫理的ジレンマと看護師の 役割. 日本がん看護学会誌. 2003: 45-46. 8. 和泉成子, 佐藤友美 : 看護師の倫理的判断∼真実を知り たい患者への対応∼. 日本がん看護学会誌. 2006: 14. 9. 小野水話, 佐藤友美 : がん看護における病棟看護師のジ レンマ. 日本がん看護学会誌. 2006: 15.
The Examination on Ethical/M oral Dilemma
of the Nurse of a Colorectal Cancer Patient
who had a Sudden Death without Knowing the Truth
Akemi Tsunoda,
Kazuko Ishida,
Taro Kano,
Hisae Motegi,
Junko Ishida,
Kumiko Yoshida,
Ruka Seyama,
Misayo Akaisi,
Mai Hosokawa,
Misayo Tanabe,
Tamiyo Ito,
Tamae Futawatari,
and Kiyoko Kanda
1 Department of Nursing, Gunma University Hospital
2 Gunma Prefectural College of Health Sciences School of Nursing 3 Tomioka Nursing School
4 Kiryu Junior College 5 Kyorin University
6 Takasaki University of Health and Welfare 7 Asikaga Junior College
8 Nishigunma Hospital
9 Graduate School of Health Sciences, Gunma University
Aims: This study analyzed the ethical/moral dilemma of the nurse of colorectal cancer patient S who had lived without knowing that he may have a sudden change in condition or sudden death due to hyperkalemia using the MOLAL Model (P. Crisham, 1992) as a problem-solving tool as a focus group analysis. Case progress: Patient S is a 50-year-old male colorectal patient with metastasis in the liver. He had made decision-making on therapy plans from the first time of hospitalization. This time, hydronephrosis from metastasis lead to anuria causing hyperkalemia(K7.7),and his risk of sudden death was uninformed to patient S and informed only to his wife. Therapy plan was also uninformed to patient S and the plan was performed according to his wifes decision. Patient S had died 7 days after hospitalization, complaining to his physician, why won t you do anything? Result of M OLAL M odel analysis: It was made clear that the nurse had a dilemma between two views toward the conscious patient; one should tell the truth that his condition might change suddenly and have him choose his therapy plan and it is cruel to tell the truth at such a time . If active dialysis therapy is chosen, the patient may not be able to bear the treatment itself physically or the pain may worsen. Informing the truth to the patient within a few days of hospitalization may rather disturb the patients peace,and it is suggested that watching over is also an important role of nurses.(Kitakamto Med J 2008;58:27∼33)