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学生は「保育実習」から何を学ぶのか

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1.問題の所在と目的  2018年の保育所保育指針(以下、保育指針)の改定は、10年に一度という単なる改定ではな く、幼児教育に関係する幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育 要領、3つの法令が同時に改訂(定)(以下、改定と統一)され、幼児教育について再考すると いう問題の提起でもある。加えて、子どもを育てる大人、特に、保育(教育)の専門職に、予測 不能な未来をしっかりと見据え、「子どもの未来を改めて考えよう」と投げかけられたものでも あると考える。子どもが強くたくましく、自分の人生を切り拓くことができるように、小中高 と、継続した教育がなされるようにという願いも併せて考えられている。子どもの育ちの源は、 乳幼児期にあり、その時期に大切に育てられることがのちの生きる力につながるものである。  改定で特に強調された乳児保育の充実や、養護理念の徹底、子どもが主体の保育の重要性は、 保育の基本原理であり、新たに掲げられたものではなく、今一度よく考えてみようということだ ろう。保育とは、「子どもが主体」を尊重する営みであることは言うまでもなく、保育者は子ど もの最善の利益を保障できる資質と専門性を以って「保育のプロ」と言えるのではないかと考え る。  待機児童や保育士不足等の問題が山積された保育の現場で、保育者は、「子どもの主体を尊重 する」という基本原理を貫き、「保育のプロ」としてその役割を果たすことができているのか、 保育者をめざす学生は、そのプロ意識を実習で実感することができているのか等、保育実習Ⅰ (保育所)(以下保育実習Ⅰ)、保育実習Ⅱで、保育者を目指す学生が体験したり、実感したりし たことの学生の語りから考えてみることにした。  保育者をめざす学生が、保育実習Ⅰ、保育実習Ⅱにおいて、保育士から「保育のプロの感覚と は何か」実感できることは、保育現場における保育士の離職を防止する手立ての一つになるので はないかと考える。保育現場の早期離職者、特に、保育者養成校を卒業し、保育職に就職した者 のうち、4分の1は2年足らずで退職を経験している(全国保育士養成協議会 2009)。また、在 職期間3年未満の早期退職者が多い(加藤・鈴木 2011)という報告もある。保育者の早期離職 者が多いという実情を踏まえると、保育者養成校において、保育の職場への適応・定着できる人 材の養成や育成は、重要な課題であると言えよう。このような離職を防止する手だての一つとし て、新人保育士における、リアリティ・ショックへの対応方法に注目が集まっている(厚生労働 省 2015)。  保育者をめざし、期待と希望を胸に保育者養成校に入学して、学び始めたものの、実習におい

学生は「保育実習」から何を学ぶのか

小島 千恵子

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て、期待と希望が崩れることから、進路を再考するという学生も存在する。まさに、早期のリア リティ・ショックにあたるのではないかと考える。実習開始早々に、少しでも現実とのギャップ を、学生自身が緩和できるようになれば、就職してからのリアリティ・ショックが軽減されるだ ろう。  本研究では、学生が保育実習Ⅰ、保育実習Ⅱにおいて、何を観て、何を感じ、それをどのよう に捉えて、実習を積み重ねていくのか整理し、真の「保育のプロ」をめざすために、実習におけ るリアリティ・ショックの緩和策について検討することとした。 2.研究方法  保育実習Ⅰ・保育実習Ⅱの実習事後指導の時間を中心にアンケート調査を実施するとともに、 実習事後の面談において聞き取った内容について分析し、考察を加えた。 ⑴ 調査日時  2018年6月・12月。 ⑵ 調査対象者  愛知県T市私立N短期大学保育科2年生のうち、保育実習Ⅰ、保育実習Ⅱを行った学生247名。 ⑶ 調査方法  質問項目をあらかじめ、学習管理システム(以下 moodle)上に設定しておき、それぞれの実 習事後指導時に、学生に一斉に moodle にアクセスさせ、回答を促した。回答時間30分間を設定 し、回答が残った学生には、期限までに回答するよう指示した。回答期間は3日間とした。 ⑷ 倫理的配慮  研究の趣旨について説明した後、回答は、研究の発表以外に使用しないこと、この回答は、実 習の評価に反映されないことも加えて説明し、賛同を得た回答を分析考察に使用した。実習後の 面談での聞き取りについてもアンケート調査と同様であることを説明し、賛同を得た学生の語り をついて分析し、考察を加えた。 ⑸ 質問項目  質問項目は、保育実習Ⅰ、Ⅱ共通とし、保育実習Ⅱのみ、実習をすべて終えて、これまでの実 習における自身の成長と、保育者として社会に出ていくについての思いを記述させた。回答は、 選択及び自由記述とした。質問項目は以下のとおりである。  ①実習には意欲的に取り組めたか。②学内の授業を実習に生かすことができたか。  ③子どもと積極的にかかわれたか。④1年次の実習と比べて子ども理解は深まったか。  ⑤保育者からの指導は理解できたか。⑥実習記録は書けたと思うか。  ⑦実習の実践は意欲的にできたか。⑧実習の実践についてどのように指導されたか。  ⑨実習中の悩みや疑問について。⑩実習中の悩みはどのように解決したか。  ⑪次の実習に向けて。⑪−①最も印象に残った学びは何か。  ⑪−②この実習で解決しておきたい問題や課題は何か。  ⑪−③実習全般で思うこと。

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 ※ 保育実習Ⅱでは、これまでの実習における自身の成長と、保育者として社会に出ていくこ とについての自分の思いの記述。 3.結果と考察 ⑴ 質問事項①~⑩の結果について  2つの実習を行った学生247名中、実習を辞退した学生、回答しなかった学生、回答が不備で あったものを除き、有効回答174名について分析考察を行った。まず、質問事項の回答が選択制 のものについて考えてみる。  質問項目①、②、③は、両実習共に、意欲的にあるいは、どちらかというと意欲的に取り組む ことができた。あるいは、積極的に関われたと回答していた(90%)。  ④の子どもの気持ちを理解することについては、自分なりに理解できるようになったという回 答が非常に多かった(95%)が、実習事後の面談では、子どもを理解することは本当に難しい と、話す学生が多かった。子どもを理解することの難しさについて、実習での実践経験を積むた びに実感している様子がうかがえた。  ⑤の保育者からの指導については、よく理解できたという回答と、どちらかというと理解でき たという回答がほぼ同じであった(45%)。この質問の回答では、指導者の指導がなかった。わ からないことがあっても、思うように聞けなかった。特に指導はなかったという回答も少数あっ た。実習指導者との関係を2週間という期間でつくることが難しいことが推察できた。実習の事 前指導では、「わからないことは積極的に聞くように」という指導を行うことが多いが、学生の 多様化や、学生の能力の格差から考えると、この指導について理解できても、行動に移すことが できる学生がどのくらいいるのか、学生の理解力や行動力など、実習についての学びの習熟状況 について考慮した指導方法を検討する必要があるだろう。  ⑥の記録については、前回の実習と比べて書けるようになったと思うかと尋ねたところ、自分 なりに書けた(17%)、どちらかというと書けた(68%)という回答が多いものの、どちらとも 言えない(12%)という、自信のなさをうかがうことができる回答もあった。その理由は、学校 とは違う指導であったことや、書けていないところについての指導が多く、どうやって書いたら いいのか、わからなくなってしまった。また、そのことについて詳しく質問できなかったという ものがあった。記録の様式は、各大学で提示しているものの、指導については、各園に任せてい ることが多く、養成校と実習園の連携がうまく取れていないことから発生していることが推察で きる。  ⑦については、自分なりに満足できた、どちらかというと満足できたという学生(60%)がい る一方で、実践の準備はしたものの、子どもの姿が違っていたり、実践内容について、指摘、指 導されたりすることが多かったなどから、自信が持てなくなってしまったという学生も多かった (40%)。実際に実践してみると、子どもの反応が自分の思っていたものではなかったり、子ども に受け入れてもらえなかったりして、自信がなくなってしまうようである。前述のどちらかとい うと満足であったと回答した学生は、自信がなくなったこともあったが、その日の反省会で、実

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践したいいところについて、実習指導者に褒めてもらったり、いけなかったところについて、懇 切丁寧に指導してもらえたりしたことを実習事後の面談で話している。学生にとって、実践後の 助言が、次の意欲につながっていることが推察できる。  ⑧については、ほとんどの学生が、実習指導担当者から、多くの時間をかけて、何度も指導を してもらったと回答している。しかしながら、中には、全く指導してもらえなかったと話す学生 も少なからず存在し、指導の格差について考える必要があることが予測できる。また、指導の方 法や内容についても様々であり、記録など、何度もやり直しを要求され、学生にとって負担感に つながるケースもあった。  ⑨,⑩については、実習中に悩みがあったと多くの学生が回答しており、この悩みは、実習指 導者に相談して解決している学生が多かった(76%)。しかしながら、自力で解決(11%)や、 実習の指導者に相談できずに悩みを解決できないまま実習を終えた学生、実習指導者に相談でき ず、メールや電話で、大学の教員や友だちに相談したという学生も存在した(12%)。  質問①∼⑩の回答から、実習で出会う実習指導者によって、学生の意欲に差ができることが推 察できた。実習園の人間関係によって、その雰囲気を感じ取り、心を開けないままに実習する学 生も存在する。実習する学生のモデルになることはもとより、子どものモデルにもなり、子ども を保育するという専門性も問われる保育者という仕事について、この現状を課題と受け止め、考 えていく必要があるのではないだろうか。他方、学生の能力に格差があることについても、養成 校がその現状を踏まえて、学生に合わせた指導についても考慮する必要があるだろう。この状況 から何よりも、養成校が保育現場と連携を密にして、保育とは何か共に考え、実習指導のあり方 についても協働して、検討していくことが喫緊の課題ではないだろうか。 ⑵ 質問事項⑪の結果について  質問項目の⑪は、自由記述であり、実習全般で感じたことや、考えたことなどを自由に記述す るようにした。その中には、実習する中で率直に感じたことが書かれていた。保育者の子どもへ の対応について、保育者間の人間関係、保育環境への疑問、働き方について等、保育現場のリア ルな実情が記載されていた。これらの自由記述を分類すると、以下のようなものであった。    自分自身の成長や課題について    保育者が子どもと関わる様子について    保育環境について    保育者間の人間関係について    保育者の資質について    保育園の職員体制や働き方について    保育について  記述は、これらの項目について混在しているものが多く、分類しにくいものが多かったが、前 述の項目を視点に整理した。整理した内容は以下のとおりである。また、具体的な記述を一部抜 粋して掲載。   自分自身の成長や課題については、学生自身の振り返りを下に学びや気づき、今後の課題

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や保育者になったらこのようにしたいという希望や保育に対する期待。 ・記録や指導案は大変だったけど、とても楽しく過ごすことができて、本当に沢山の学びがある充実し た実習だった。子どもと関わる中で保育者という職業の素晴らしさを改めて確認することができた。 ・担当クラスの2歳児が昼寝をしている時間に、4,5歳児と関わらせていただき、年齢によって違う保 育者の声の掛け方や援助の仕方を学ぶことが出来ました。実りの多い実習となりました。 ・1年次は、5月に実習があったため、何の知識もないまま子どもと関わりました。しかし、今回の実 習では、授業で修得した知識の上で、子どもと関わり、子どもの発達に対する理解が特に深まりまし た。同じ年齢であっても、一人ひとり発達に対する異なることにも気付くことができました。 ・記録を書くことが大変だったけど、子どもと関わることは楽しかった。全力で汗をかいて思い切り遊 ぶことができた。 ・子どもと積極的に関わることが出来て、改めて保育の楽しさや難しさを知りました。自分の声掛けひ とつで子どもが楽しそうに遊びを展開したり、何か一つのことをやり遂げる姿を見ることが出来てと ても嬉しかったです。今回の実習では、3歳から5歳の子どもが集まって遊ぶことが多く、異年齢の 子どもが同じ遊びをした時にみんなが楽しめるようにするためにはどう動いたらいいのか考える事が 難しかったです。この実習で学んだ子どもへの援助の工夫や、年齢別での発達の違いを活かして一人 一人と向き合える保育者になりたいと思いました。 ・保育とは何かをもう一度見直すきっかけになりました。たくさんの事を得ることができたので良かっ たです。また、自分は子どもが好きだと再確認することができました。今の気持ちを忘れずに、残り の実習も頑張っていきたいです。 ・私にとってこの実習はとても意味のある実習になりました。なぜなら、手洗い、歯磨き、絵本の読み 聞かせの実践では、自分に自信を持つということを学び、さらに私は声があまり大きくなかったので すが、この実践をしたおかげで声が前より大きくなりました。部分実習では上手く出来たところ、出 来なかった所を保育者の方としっかりと話し合い次に気をつけなければならないことを学んだからで す。   保育者が子どもとかかわる様子については、かかわり方を学んだというものもあったが、 多くは、かかわり方に対する違和感や、疑問についての記述。 ・2歳児クラスには保育者が3人いたのですが、子どもが泣き出しても誰も見向きもせず放ったらかし の場面がありました。保育者同士で話していたからとはいえ、泣いている子どもを気にかけなかった ことに驚きました。 ・私の保育観と違っただけかもしれませんが、ピアニカを演奏している時、できていない子どもの指を 保育者が無理やり動かしていたり、やる気のある子は褒められ伸びていくのですが、やりたくない子 は無理やりやらされている感じがして違和感ありました。また、絵を描くときも、子どもの絵に対し て、靴がないよ、とか、本当にその色の服だった?とか、色々話してて、私は子どもが表現したもの はそのままその子のものとして残したいので、違和感がありました。 ・延長保育のパート保育者は、子どもに∼してはいけないと禁止用語をたくさん使用していました。子 どもは思うように遊べていなくつまらないと口々に言っているのを聞きました。子どもの安全を考え て言っているというのは私も理解できたけれど、たくさんのことを禁止されていたら子どもたちも思

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うように遊ぶことができないと思いました。   保育環境については、保育士の数が不足していることや、狭い部屋でたくさんの子どもや、 異年齢の子どもを一緒の保育していることについての指摘あるいは、ピアノの重要性についての 記述。子どもにとってどのような保育環境がいいのか、学生なりに考えていることがこの記述か らうかがうことができた。 ・実際に現場に行ってみると、保育士不足な面が感じられました。実習生が部屋にいると、保育士とし てカウントされなくても、保育士が部屋を出ることも多くありました。喧嘩の仲裁や、危ないことが あったら注意するなどのことは実習生でも大丈夫だと思いますが、まだ保育士の立場ではないので、 万が一命に関わる危険がある際には、とても危険だと思いました。実際に現場に行ってみると、目の 届かないところにいる子どもは、とても危険だと感じました。 ・私の実習園では弾き歌いなどでピアノを弾かずに、保育者や実習生が歌い、それに子どもも一緒に なって歌っていたため、保育にとってのピアノの重要性はあるのかと疑問に思いました。乳児クラス は保育者や実習生が歌うことで楽しい雰囲気を作り、CD の音楽を流していたため、ピアノの重要性 はそこまでないのかと思いましたが、幼児クラスには電子ピアノがあるけれど使っていなかったため、 ピアノの重要性はどのようなのだろうかと少し疑問に思いました。 ・保育者と子どもが一緒に食事をする園ではなかったので、そこが自分の保育観とは合わない点かなと 感じました。保育者が一緒にご飯を食べて、保育者の食べる姿を見て食べられることもあると思うの で食育の面から見ても少し寂しいなと感じました。 ・2歳児クラスの子どもが増え、ちょうど私がいった週から1つの部屋の中で部屋を半分ずつつかい、 2つのグループにわかれて保育を行っていました。パーテーションなどもなかったため、隣のグルー プにいってしまったり、半分のスペースでは少し物足りなそうな感じがしたので、受け入れ数を考え たり、子どもが伸び伸び遊べるような広いスペースがあるとよいと思いました。   保育者間の人間関係について・ 保育者の資質については、区分けするのが難しい内容が 多かった。保育の内容や、保育者の行動についての批判。実習を行う中で、保育現場で見たこと や経験したことを、大学で学んだ保育の知識や技術に照らし合わせて出てきた違和感や疑問が、 批判となって記述されていた。  学生自身にはまだ明確な保育観があるわけではない。また、知識や技術も身に付いているわけ でもない。しかしながら、子どもを観たり、保育を感じたりするこの感覚は大変素直で、保育者 としては大切にしたい基本の姿勢ではないかと考える。保育者をめざす学生は、いつの時代もこ の素直な感性を持ち得ているのではないだろうか。ところが、晴れて保育者となり、保育者集団 に入って、経験を積むと、学生が記述したような実態に染まる者も少なくないことがこの現状か ら見て取れる。この保育現場の現状を養成校側は、どのように受けとめればよいのだろうか。質 の高い保育者を養成すること、保育現場で育成することは、両者が協働することが重要な課題だ ろう。現状では、両者がそれぞれにその立場で、保育について考えていることが行き違いを起こ しているのではないのだろうか。 ・保育士は子どもが怪我などをしたことや様々な子どもの情報を共有して保育をし、連携をしていると 感じました。保育園全体で情報の共有ができていると保護者の方に伝えるとき担任の先生でなくても

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伝えることができるので良いと思いました。 ・休憩室や子どもが午睡をしている時に先生方がその場にいない先生方の悪口を言っていて、その場に 居づらくて、実習しにくかった。また、土曜日の保育の日だけ、子どもが遊んでいるのにもかかわら ず、子どもの相手をあまりせず、先生同士で保育に関係のない、お酒の話やかっこいい人の話をして いて、子どもにとっても良くないと思った。 ・クラスの担任の先生が私の言動を全て否定するような人でした。私が悪いこともあったかもしれませ んが、毎日のようにため息をされ、頭を抱える行動をされたり、子どもの前でも怒られたりすること ばかりでした。それもあり、実習期間は先生のことばかり気になり、子どもに積極的に関われず、変 な行動をしてしまったり、先生に怒られないようにという実習になっていました。物事の言い方も全 てきつく、精神的なダメージばかりで夜ごはんも手につかず、眠れない毎日でした。 ・1日目から、私の保育観とは違うことを感じました。保育者の方は、子どもに強い口調で言葉を掛け ている姿が多く見られました。また、並ばせる時、子どもの腕を強く引っ張っている場面もありまし た。私自身も、子どもの気持ちに立ち、泣きそうになった時もあります。言葉が子どもに対して、き つすぎです。また、遠足に行かせていただいた際は、保育者同士が主任保育者の悪口を言っていたり、 保護者の悪口を言っていることもあらは残念でした。 ・私はずっと子どもを叱るという保育は推奨しません。今回の実習で凄く感じました。反対に褒めれば いいのかと言えばそうではなく、褒めるのも一貫性で同じ褒め方で良いものかと感じてしまいました。 いつも他の子ども達に気付かせるために出来ている子どもを褒める。というやり方しか褒めるという ものがなく、記録が書きづらかったです。保育は難しいなと感じ、もう少し他の褒め方や関わり方を 模索していく必要があると感じました。 ・叱ってばかりの保育者は子どもがのびのびと過ごすことができなくて問題だと思った。保育者はとて も忙しそうにしていて、人数が足りてないという話も休憩中に保育者同士の会話から少し聞こえてき たので、保育の流れから外れてしまいそうな子どもを、叱ってやらせようとするのも仕方がないかな と思うが、励ましたり言葉がけを工夫したりして子どもが頑張って動けるようにしている保育者はと ても素敵だったし、子どもも少しずつ出来るようになっているように感じた。叱るのが絶対にいけな いことだとは思わないが、忙しい中でも子どもの成長のために丁寧に関わる保育者がもっと増えれば いいなと感じた。 ・1歳児の複数担任の先生にとても暗い先生(メガネ、マスク、長い前髪、暗い色の服、暗い色のエプ ロン)がいた。その先生は延長保育の時間でも他の年齢の子どもたちと話したり、遊んだりせず、無 視したり適当にあしらっていたりして、自分のクラスの子どもたちだけを見ていた。いろんな年齢の 子どもと関わることも、子どもの気持ちを受け止めることも大切なことだからあり得ないと思った。 また表情が見えないから1歳児の子どもたちとも信頼関係も築けていないように感じた。信頼関係を 築くことはとても大切なことだからわたしは絶対にこんな保育者にはなりたくないと思った。この先 生は新卒の方で、他の先生が注意してもなかなか治らないと聞いた。先生方の話もきちんと受け止め て成長していくべきだと感じた。 ・とても良い園で実習させていただいたので様々な学びをすることができました。そして、保育士とし て体調管理は本当に大切だと思いました。保育者は子どもの前で常に笑顔でいなければいけないと園

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長先生が事前訪問の時におっしゃっていました。笑顔でいるためには自分自身が明るい気持ちでいな いといけないと感じました。これはこれからの生活でも意識して安定して明るい気持ちでいられるよ うになっていきたいです。   保育園の職員体制や働き方については、社会問題になっている保育士不足についての記述。 大学での学びと、保育現場の現状との違いを肌で感じ取っている様子がうかがえた。この現状に ついて、保育新時代の保育を担う保育者となる学生にも他人事ではなく、改善についての方策を 考えてほしいものである。 ・保育士の皆さんは事務仕事を休憩時間や勤務時間前に行っていました。その姿は、労働力の搾取だと おもいました。子どもが好きな思いだけでは続かないと思います。賃金は発生しているのでしょうか? ・勤務体制、基本土日休みだが土曜保育で土曜出勤すると翌週の平日の内1日休みが貰える。現場で保 育士が子どもに対して子どもの目の前で舌打ちやため息をする場面が度々あり、子どもが怯えてし まったり素を出しにくくなると思った。乳児は特定の保育者との関わりが大切だと習ったが、現場は 御構い無しのように色々な先生を当てていた。 ・保育士の人数がギリギリでやっているなとは感じました。実習中にパートの保育士が辞めたみたいで、 主任が保育をしていたり、給食やお菓子の配膳をした保育士がアレルギーの子どもの配膳が正しいか チェックしていて保育士自身も良くないとは言っていましたがどうしようもできないと言ったのが聞 こえました。 ・昼時など、人手が必要な時間帯には保育者を多く配置するなどの配慮もあり、保育者同士の連携も しっかりしていて情報共有の大切さを学ばせていただいた。保護者と保育者の仲も円満に見え、子ど もを安心して預けられる様な雰囲気の園で子どもものびのびとしていた。子どもが、友達や大人と共 に遊びの中で何を感じて欲しいか、育っていく上で大切な力を育むにはどの様な言葉がけ・援助をす れば良いかを常に考えながら保育を行っている保育者の様子を見ることができ、とても良い学びに なった。   保育については、他の項目にも関係するような保育全般についての記述であり、 ・ の 記述にもつながるものであった。大学での学びや自分の理想の保育を照らし合わせての記述であ ると考える。 ・自分がしたい保育とは違う子どもに厳しい保育をしてたので子どもと関わる時に内心苦しいところが ありました。だから、より自分のしたい保育が明確になりました。 ・0,1歳から鉛筆を持って保育者と一緒に文字を書いたり英単語の勉強をしていたのですが自分の力で できない子どもばかりでやっている意味があるのか疑問になりました。 ・保育現場の課題としては、登園、降園時に保護者の方に伝えなければいけない情報が口頭で伝えたい こと、聞きたいことであってもその保護者の方が忙しくすぐ帰られてしまい上手く伝わらないことが あると感じた。また、働く親が多いため、子どもの早寝早起きの生活が崩れて心が不安定になり泣き 出してしまい、子どもがもっと構ってほしいという気持ちを保護者が受け止められるように保育士が 働きかける必要があると感じた。 ・年間指導計画、月案、週案、日案におわれている先生たちをみて、見通しを立てて子どもの成長を考 えていくことは大切で、保育者には責任もあるけれど、そんなことより今目の前の子どもといっぱい

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遊んで、向き合っていくことの方がずっとずっと子どもは嬉しいと思う。 ・私が今回行った実習先ではとても外遊びが少なく感じました。子どもたちは自然と触れ合い体をしっ かりと動かすことが必要だと私は考えます。保育室では走り回ることは危険なため禁止されています。 そのような環境の中で子どもたちが全身を目一杯動かすことは難しいことです。子どもたちの健康や 成長のために外遊びの機会を増やすことはとても大切なことだと感じました。 ・保育の流れがあるため、子どもの思い通りにできなかったり窮屈そうに感じている部分があると感じ た。しかし、子どもの思い通りにすると、危険な部分が出てきてしまったり保育がうまくいかなく なってしまうと思うので、子ども主体の保育を行うことの難しさを感じた。  保育者になることを将来の目標にして、保育を学ぶために保育科に入学した学生にとって実習 は、保育の実際を学ぶ重要なリアルな場所である。記述の内容から推察できるのは、「保育とは いったい何だろうか」という迷いや疑問をもつ実習になっていることである。学生がいわゆるリ アリティ・ショックをうけているということである。学生が理想とする保育者とかけ離れた現状 を全実習5回で目の当たりにするということである。就職後の離職が多い原因について、このよ うなリアリティ・ショックを指摘することが多いが、就職後ではなく、養成校時代の実習ですで にリアリティ・ショックの前兆があるのではないかということをこの現状から指摘しておきた い。  一方、多くの学生から、「理想の保育者をやっと見つけた」「やっぱり保育っていいね」という 発言を全実習終了後に聞く。保育科2年の全実習を終えた学生は、実習の報告会で後輩にこのよ うなリアルな経験を語っている。リアルな体験を語るその様子には、「保育者になる覚悟」とい うものを感じ取ることができるのも事実である。しかしながら、保育の実際を学ぶ実習で、「保 育職は魅力がある」と、もっと感じ取ることができたなら、社会問題になっている保育士不足は 防げるのではないのだろうか。 4.まとめと今後の課題  保育実習Ⅰと、保育実習Ⅱは、それぞれ2週間、保育科2年次に実施される。1年次には、基 礎実習として、教育実習Ⅰ(付属幼稚園実習)1週間と、保育実習Ⅰ(施設)10日間が実施さ れる。教育実習Ⅰは卒業必修科目でもあり、この実習が終了しないと、次の実習へは進めないと いう本学の規則がある。2年次には保育実習Ⅰと、保育実習Ⅱの間に教育実習Ⅱ(幼稚園)が3 週間実施される。この課程の流れは、大学毎の学則で定められているため、学生の状況等に合わ せて、学ばせ方を検討できるが、短期大学2年間で資格免許の単位を取得するためには、要であ る実習の時期や期間の変更は難しいことである。  短期大学の保育者養成のカリキュラムは、短時間に多くの科目を履修しなければならない現状 がある。実習は、その極めて多忙な中で実施されるため、ゆったりと、実習について考えるとい うような余裕はないと言えるだろう。2年間でも、保育者になることについて迷う学生も存在 し、わずかではあるが、進路を再考する学生が存在する。この学生らは、1年次の年度末の施設 実習と、5月末∼6月初旬の保育実習Ⅰで、自分に保育は向いていないと考え、早い時期に結論

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を出すことが多い。もちろん他にも要因はあると考えるが、実際に実習に行ってみて、何か「違 う」と直感した結果といえよう。進路を再考するために、一度休学することを選択する学生もあ るが、「保育が、自分の思うものではなかった」という直感を、休学して払拭することは難しい ようで、休学した多くの学生が、保育者への道を再考できることは数少ない。  多くの学生は、何かを感じながらも、深く考える暇もなく、2年間、資格取得のために、カリ キュラムをこなすことに追われる。同時に採用試験のために勉強を始めることが多いため、短期 大学2年間で、スムーズに就職先の内定が決まってしまうケースが多い。  実習におけるリアリティ・ショックで、戸惑う時間などなく、社会でもそれなりに通用できる 保育者として、働き続けることができているように見えるが、実際には就職先は内定したもの の、「これでいいのか」「もっといいところがあったのかも」「本当に私に保育ができるのか」と いう、心の揺らぎはあり、その心の揺らぎが、就職した先でのリアリティ・ショックにつながる のではないかと考える。保育は、子どもに寄り添い、子どもの成長に立ち会うことができる喜び や嬉しさ、おもしろさがある一方で、様々な厳しさが伴う行為であり、いつもジレンマに苛まれ る。この厳しさが、やりがいや、生きがいにつながるという考え方もあるが、なかなかそこには つながらないのが現状のようである。  保育実習指導のミニマムスタンダード Ver.2(2018)には、養成校への期待、連携において、 つなぐ から ともに という姿勢を掲げ、「保育の本質をシンプルに整理すると、子どもの育 てを真ん中において多方向からその子どもを捉え、心身のサポートをすること。PDCA で展開す るその中心には、子どもの育ちや状況があるのだと考えること。子どもの最善の利益は子どもの 興味関心がどこにあるのかを捉えることだとすれば、保育者に求められるのは感性豊かで柔軟な 思考ができることと、子ども理解の理論の構築となる」と記載されている。保育とは何か、その 原理に立ち返ることが今、一番重要な課題であり、そのことを養成校と保育現場相互に学びの機 会を持ちながら、連携のあり方を再検討して、質の高い保育をするための保育者の質や専門性に ついて追究していくことが必要ではないだろうか。  今回の調査だけでは、真の「保育のプロ」をめざすための、実習におけるリアリティ・ショッ クへの手だてを見つけられるものではないが、保育者をめざす学生が、実習において保育の現状 を客観的にみることは、保育者として長く働くための第一歩につながるのではないかと考える。 実習事後の指導を丁寧に行い、現実のギャップを学生自身が緩和できるような指導のあり方を今 後も追究するとともに、保育現場との連携のあり方について、保育現場と協働できるようにアプ ローチしていきたいと考える。 付記  本論文は、2019年第72回日本保育学会にて研究発表にエントリーするも、発表できなかったもの に加筆修正したものである。

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参考・引用文献 一般社団法人全国保育士養成協議会編集『保育実習指導のミニマムスタンダード Ver.2協働する保育 士養成』p. 173(2018)中央法規出版 全国保育士養成協議会『指定保育士養成施設卒業生の動向と及び業務の実態に関する調査報告書Ⅰ』 (2009)保育士養成資料集 加藤光良・鈴木久美子『新卒保育者の早期離職問題に関する研究Ⅰ─幼稚園・保育所・施設を対象 とした調査から─』(2011)常葉学園短期大学紀要 厚生労働省『保育士の確保プラン』の公表(2015)https://www.mhlw.go.jp/file/Hoikuka/0000070942.pdf (受理日 2020年1月6日)

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