住居賃借権の承継と居住の保護
―ドイツにおける相続的承継と特別承継―常岡 史子
Ⅰ はじめに Ⅱ BGB における相続法上の包括承継原則とその例外 1.包括承継原則と相続人の権利義務 2.遺産債務に対する相続人の責任 3.相続外の方法による権利義務の承継―包括承継原則の例外― Ⅲ BGB における住居使用賃借権の特別継承 1.使用賃借人の死亡と使用賃貸借関係の承継 2.BGB への住居使用賃借権特別承継制度の導入 3.BGB563 条による特別承継の要件 4.BGB563 条と特別承継人の居住の保護 5.特別承継人の責任 6.相続人による住居使用賃借権の承継 7.住居使用賃借権の特別承継の意義とその変容 Ⅳ むすび論 説
Ⅰ はじめに
被相続人が死亡すると、この者の財産に属していた権利義務は、原則として すべて相続人に相続される(民法 896 条本文)。相続の効力としての相続人によ るこの包括承継の原則に対しては、民法 896 条ただし書が、権利義務の性質に 由来する例外として、被相続人に一身専属的に帰属するものは相続されないと 明文で定める1)。これは、ある権利義務が被相続人の一身に専属すると解され るときは、それらは被相続人の死亡によって消滅し、相続の対象となることは ないことを意味する2)。そこでわが国では、人の死亡を契機とする権利義務の 承継については、従来、民法 896 条ただし書にいう帰属上の一身専属性の解釈 や個別の権利義務の性質論をはじめ、相続の包括承継原則を基本としていかな る権利義務がそれから外れるのかという観点から主として議論がなされてきた。 現行民法 896 条に相当する、明治民法の家督相続に関する旧 986 条及び遺産相 続に関する旧 1001 条の起草審議過程においてもこれは同様であり、条文に「一 切ノ権利義務」という表現を用いるのは財産に限らず一切のものが承継される 趣旨であるとの起草委員の説明に対して3)、「一身ニ専属セシモノ」とはい かなるものを指すのかという点に委員らの関心が集まっていたことがうかが える4)。 一方、被相続人の有していた権利義務のうち、相続人による相続の対象とは ならないが、被相続人の死亡によって消滅するのではなく、民法の法定相続の ルールとは別個の規範に従って承継される権利義務というものもありうる。現 行法上は、民法 897 条による祭祀に関する権利の承継がそれにあたる5)。 ところで、被相続人の死亡による相続開始と権利義務の承継をめぐっては、 民法 896 条ただし書の一身専属的権利義務とはいえないものの、以前より、法 定相続に従った承継に対する修正ないし解釈による対応の必要性が論じられて きたものとして、賃借権の相続がある。賃借権が他の財産権と同様に相続の対 象となることは古くから判例(大判大正 13・3・13 新聞 2247 号 21 頁)によって認められてきたが、特に居住用家屋の賃借権については、第二次世界大戦後 の住宅難と家督相続制度の廃止に伴う共同相続形態の一般化を契機として6)、 判例・学説の関心が集まり、相続的承継規範外の承継の可能性を追求して数多 くの論考が示された7)。そこには、(1)被相続人と同居していた相続人と非同 居の相続人との間で居住用建物賃借権の承継をいかに処理するかという問題と、 (2)被相続人の相続人ではない同居者の居住の保護を相続人や建物賃貸人との 関係でどのように図るかという問題が存するが、立法論を含めた当時の議論は まず(2)への対応を進め、その一部が 1966(昭和 41)年の借家法 7 条ノ 2(賃 借人死亡の際に相続人がいない場合における居住用建物の賃借権の承継者に関 する定め。現行借地借家法 36 条)の導入につながったことは周知のとおりである。 ただし、借家法 7 条ノ 2 の導入によっても、被相続人死亡の際に相続人がい る場合の非相続人たる同居者の居住の法的処遇について問題が残ることは立法 担当者を含めて十分に意識されていた8)。現行借地借家法制定に際しては、賃 借人に他に相続人がいる場合であっても、賃借人の死亡時に同居していた 2 親 等内の親族(配偶者を含む)又は届出がなされていないものの事実上これらの 者と同様の関係にある者が、優先的に居住用建物賃貸借関係を承継するという 案が例示されていた(借地・借家法改正要綱試案「第二部借家法関係第四建 物賃借権の承継」)9)。結局、この案は立法化に至らず、結果として旧借家法 7 条ノ 2 が現行の借地借家法 36 条に引き継がれるにとどまったが10)、賃借人死 亡の場合の非相続人たる同居者特に内縁配偶者の居住を、賃貸人や被相続人の 相続人に対する関係でいかに確保するかという問題はなお継続して存在し、最 終的には立法による解決を要するとの指摘11)もなされていた。 この問題は、単に賃借住居における非相続人たる同居者の居住の保護という 社会的要請にいかに応えるかということにとどまるものではなく、民法の法定 相続による包括承継原則に対して、帰属上の一身専属性という権利義務の性質 に由来するもの及び祭祀に関する権利という相続とは異なる特別承継規定によ るもの以外に、例外を認めるべきか否かという法定相続制度の基本にかかわる
問題を含む12)。そこでは、包括承継原則に従った相続法的承継に対して、い わば特別法的承継として例外を認めることは現行法の解釈によって可能か、か りに立法的に相続法的承継の例外として居住用建物賃借権に関する特別承継規 定を導入するとした場合、その根拠は何か、という理論的問題、そして、実際 に立法的対応をなす場合には、相続人の承継すべき権利義務と特別承継による 承継者の権利義務につき当事者らの法律関係をどのように調整するか(延滞賃 料を含めた賃料債務の帰趨、敷金返還請求権の帰属等)という技術的問題がか かわってくる。さらに、居住用建物賃借権に限ってであれ相続外における特別 承継のルールが形成された場合には、これは、非相続人たる同居者のみならず、 共同相続の場合における被相続人の同居者たる相続人と非同居者たる相続人に よる賃借権の承継をいかに扱うかという前述(1)の問題に及ぶとともに、被 相続人の所有建物の場合についても、被相続人死亡後の同居者の居住の権利の 構成に影響を与えることが考えられる。 そこで、本稿では、居住用建物の賃借権につき相続人による包括承継原則を 後退させ、特別承継規定による同居者の居住の保護を図るドイツ法の状況を考 察することとしたい。ドイツ民法典(BürgerlichesGesetzbuch. 以下 BGB と記 述する)は、563 条において、死亡した使用賃借人(Mieter)の「同居人」と して特に密接な関係にあった者のために使用賃貸借関係(Miete)13)の承継・ 存続を保護する。配偶者の他、生活パートナー(Lebenspartner)として登録 している者、子供、その他の家族構成員(Familienangehöriger)14)、そして これらに該当しないが使用賃借人と長期間にわたる意図をもって共同の所帯 で暮らす者がこれにあたる。これらの者は、同条の規定する相続外の特別承 継ルールによって、死亡した使用賃借人の相続人であるか否かにかかわらず、 新たな使用賃借人として使用賃貸借関係を承継する。また、BGB563 条 a は、 BGB563 条にいう特別承継の権限を有する者が死亡した使用賃借人とともに共 同使用賃借人であった場合について、当該住居の使用賃貸借関係は生存してい る共同使用賃借人によって継続されるとの規定を置く。
住居の賃借権に限ったものであるが、ドイツにおける特別法的承継に関する BGB のこれらの規定を検討することにより、わが国についても、賃借住居の 居住の保護にとどまらず、広く、相続外承継の法理及びそこにおける相続法的 規範との連関と調整の法技術について検討する手がかりを得ることができると 考えられる。 1)一身専属的権利義務であることを示す特別規定として、国民年金法 29 条(老齢基礎年金 受給権)、厚生年金保険法 45 条(老齢厚生年金受給権)、恩給法 9 条 1 項 1 号(恩給受給権) 等がある。 2)ただし、たとえば基本権としての扶養請求権は一身専属的権利として被相続人の死亡と 同時に消滅するが、すでに具体的な扶養請求権が発生して金銭債権として確定し、履行 期に達したようなものは通常の金銭債権として相続の対象となる。谷口知平=久貴忠彦 編『新版注釈民法(27)』(有斐閣、1989 年)〔三島宗彦=右近健男〕88 頁参照。 3)法典調査会『民法典議事速記録』(商事法務版、1984 年)236 頁、240 頁以下(穂積陳重 委員の発言)。 4)法典調査会における旧 986 条、旧 1001 条起草の経緯は、窪田充見「民法八九六条(相続 の効力)」広中俊雄=星野英一編『民法典の百年 IV』(有斐閣、1998 年)191 頁で概観さ れている。 5)1947 年の民法改正による家制度及び家督相続制度の廃止に伴う現行民法 897 条導入の経 緯につき、谷口=久貴編・前掲注 2)『新版注釈民法(27)』〔小脇一海〕128 頁以下参照。 6)借家法の制定は 1921(大正 10)年であり、さらに、更新拒絶ないし解約申入れに「正当 事由」を要求する借家法 1 条ノ 2 が導入されたのは 1941(昭和 16)年である。家督相続 を中心的相続制度とする明治民法下では、相続人による賃借権の相続について特に異論 はなく、賃貸人が新賃借人たる相続人への賃貸を望まない場合には、解約告知等によっ て対抗することが容易であったことがその背景にあるとされている。谷口知平「借家人 の死亡と事実上の養子の地位」民商 49 巻 3 号(1963 年)99 頁、泉久雄『相続人・相続財産』 総判民(26)(有斐閣、1965 年)、254 頁。 7)賃借権承継論をめぐる戦後の判例と学説(相続的承継説、家団論、居住権論等)につき、 谷口=久貴編・前掲注 2)『新版注釈民法(27)』〔右近〕67 頁以下参照。 8)法務省民事局参事官室「『借地・借家法改正に関する問題点』の説明」別冊 NBL17 号(1987 年)34 頁。
9)法務省民事局参事官室「借地法・借家法改正要綱試案」別冊 NBL21 号(1990 年)17 頁。 この提案は、1959 年に公表された「借地借家法改正要綱試案」(ジュリ 196 号(1960 年) 66 頁)及び翌年の「借地借家法改正要綱案」(法時 32 巻 10 号(1960 年)149 頁)に遡る ことができる。 10)現行借地借家法 36 条の立法経緯につき、幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(15)』(有 斐閣、1996 年)〔原田純孝〕972 頁以下参照。 11)野村豊弘「借家権の相続」ジュリ 1006 号(1992 年)116 頁。 12)法務省民事局参事官室・前掲注(8)別冊 NBL17 号 34 頁、窪田・前掲注(4)『民法典 の百年Ⅳ』211 頁も参照。 13)BGB に は 日本法 の 賃貸借 に 相当 す る も の と し て Miete(BGB556 条以下)と Pacht (BGB581 条以下)が規定されている。Miete を使用賃貸借、Pacht を用益賃貸借と訳す るのが通例であり、本稿もそれによる。 14)家族構成員(Familienangehöriger)の定義を BGB は置いていない。どのような者が これにあたるかは、それが問題となる規定ごとに異なると指摘されている(Joachim Gernhuber,“EheundFamiliealsBegriffedesRechts“,FamRZ1981,725)。住居使用賃借 権の特別承継の場合については後述Ⅲ2(1)参照。
Ⅱ BGB における相続法上の包括承継原則とその例外
1.包括承継原則と相続人の権利義務
(1)BGB1922 条による相続財産(Erbschaft)の包括承継 BGB1922 条 1 項は、「ある者の死亡とともに(Erbfall:相続開始)その財産 (Erbschaft:相続財産)は包括的に一人又は数人の他の者(Erben:相続人) に移転する。」と規定する。同項は、相続の対象となる被相続人の法律関係が その主体たる者の死亡に際して私法上の規律により私的所有の継承として相 続人に移転することを定めるものであり、「財産(Vermögen)」の語に「相続 財産(Erbschaft)」という括弧書を付しているのは、相続による承継の対象と なるのが金銭的価値を有する法律関係(財産:Vermögen)に限られることを 表すとされている15)。この法律関係に被相続人の有していた権利のみならず 義務も含まれるかについては、別途、BGB1967 条 1 項が、「相続人は遺産債務(Nachlassverbindlichkeiten)について責任(Haftung)を負う。」との規定を置 くことから、ドイツにおいて議論の対象となってきた。学説は、BGB1922 条 1 項が、相続による被相続人の法律関係の継承は包括的に生じること、すなわち、 BGB は相続において包括承継の原則(GrundsatzderGesamtrechtsnachfolge (Universalsukzession とも言う))をとることを定めるものであることから、 相続財産(Erbschaft)の承継とは個々の権利義務を各個に相続することでは なく、被相続人の法律関係が一体として相続人に移転することを意味するとし、 判例もそこには被相続人の債務関係も含まれるとの立場を示している16)。 BGB1922 条 1 項のこの包括承継原則は強行規定と解されている17)。したがっ て、相続の対象となるすべての権利義務は原則としてまず相続人に移転するの であって、相続人でない者は、たとえば受遺者であっても被相続人の死亡に より遺産(Nachlass)18)から直接権利を取得するものではない19)。すなわち、 被相続人 は、死因処分(VerfügungvonTodeswegen)20)に よって 法定相続 人を排し、他の者を相続人に指定することはできるが(BGB1937 条:死因処 分による相続人の指定)、遺産中の個々の財産を直接、一部の共同相続人ない し非相続人に承継させるという物権的効力を伴う遺贈等の処分や、相続人によ る遺産の承継を完全に排除するような処分をすることは原則としてできず、被 相続人には包括承継者(Gesamtrechtsnachfolger)としての相続人が必ず一人 は存在していなければならない21)。そこには、相続人が一人であれ数人であれ、 相続可能なすべての権利義務が総体的な一つの移転過程によって相続人に承継 されるとすることにより、権利義務関係の明確化を図り、責任財産としての遺 産の一体性を維持して、共同相続人や相続債権者その他広く一般の利益に資す るという BGB 相続法の目的が見て取れる。 こ の こ と は、共同相続 の 場合 に 顕著 で あ り、包括承継 の 効果 と し て、遺産 に 属 す る す べ て の 権利義務 は 共同相続人 ら の 合有的共同関係 (Gesamthandsgemeinschaft)に帰属し、各相続人が相続によって承継する権 利義務は、個々の財産や債務に対する相続持分ではなく、遺産全体に対する持
分を取得するにとどまるというのが BGB1922 条の含意とされている22)。すな わち、共同相続関係については、BGB2032 条以下に特則があり(共同相続人 間の法律関係:2032 条 ‐ 2057 条 a、共同相続人と遺産債権者の関係:2058 条 ‐ 2063 条)、2032 条は、遺産は共同相続人らの共同財産(gemeinschaftliches Vermögen)となるとの規定を置くが、この財産の共同関係は合有であり、相 続人らの意思に関係なく相続開始とともに法律上当然に発生するとするのが 判例である23)。また、BGB1922 条は 2 項で、「共同相続人の一人の有する持分 (Erbteil:相続分)には、相続に関する諸規定が適用される。」と定めるが、こ こにいう持分とは遺産全体に対する持分を指し、それが相続分(Erbteil)と呼 ばれる。 このように見ると、BGB における包括承継原則は、わが国の民法 896 条が、 ただし書の一身専属的権利義務を除き「一切の権利義務」が相続の対象となる ことを示すことに意味を見出されているのとは様相を異にする。共同相続によ る遺産の帰属を合有関係ととらえることは、被相続人の権利義務は相続人に よって一体的に承継されるべきとする BGB1922 条の包括承継原則と必ずしも 結びつくものでなく、共同相続関係を物権法上の共有・準共有とする構成もあ りうることはドイツにおいてももちろん認識されていた。しかし、BGB の立 法過程において、元来、被相続人一人に帰属していた諸権利義務がその死亡に よって性急に経済的一体性を喪失することを防ぐべきことがより重視され、最 終的に、合有構成がとられるに至った24)。共同相続の場合、遺産は、いわば 特別財産(Sondervermögen)として、まずは各相続人の固有財産とは切り離 され、合有的な拘束を伴うものとして共同相続人らにより承継される25)。そ して、そのような遺産からは、いわゆる相続債務(被相続人が負っていた債務) を含む遺産債務(Nachlassverbindlichkeiten. この概念については後述Ⅱ2(1) 参照)がまず弁済される(BGB2046 条 1 項 1 文)26)。
(2)単独相続人と包括承継原則 包括承継原則により遺産の一体性を維持するとする BGB1922 条の目的は、 単独相続の場合においても異なることはない。BGB1922 条 1 項の文言によれ ば、相続人が一人である場合にも遺産は包括的に承継される。ただし、単独 相続の場合には、遺産は共同相続におけるような特別財産を形成するもので はなく、相続人が相続を承認すれば相続人の固有財産と融合し、遺産債権者 のみならず相続人の債権者に対しても責任財産となる。ただし、相続人の相 続承認前はこのような融合は生じず27)、遺産債権者は遺産に対してのみ、相 続人の債権者は相続人の固有財産に対してのみ強制執行することができる とされており、遺産債権者のために責任財産の維持が図られている(民亊訴 訟法(Zivilprozessordnung. 以下 ZPO)778 条)。単独相続人 に よ る 相続財産 (Erbschaft)の包括承継は、単独相続人が遺産全体に対して一個の物権法上の 所有権のような支配権を取得するということを意味するものではないが、金銭 的価値を有する多種多様な権利義務の総体である遺産を単独相続人はそれとし て一体的に承継し、そのような法的地位に基づく権原によって、遺産に属する 個々の権利義務の主体たる資格を有するととらえられている28)。ある者の有 する財産の他者への移転をこのように一体的に把握することは BGB において 決して特殊なことではなく、財産を権利義務に細分化してとらえる思考様式を 克服し、実社会の現実的感覚に近い内容を財産概念に与えることに資するとの 指摘もなされている29)。 15)MünchenerKommentarzumBürgerlichenGesetzbuch,Hg.FranzJürgenSäcker,Roland Rixecker,6Aufl.,Beck,2013(以下 MünchKomm),§1922Rn.2[Leipold]. 16)RGUrteilvom4.2.1919,RGZ95,12,14;BGHUrteilvom9.6.1960,VIIZR229/58, BGHZ32,367,369. J.vonStaudingersKommentarzumBürgerlichenGesetzbuch mitEinführungsgesetzundNebengesetzen,Buch5§§1922-1966,Neubearbeitung,de Gruyter,2008(以下 Staudinger2008),§1922Rn.44[Marotzke];MünchKomm,§1922 Rn.16[Leipold]. 17)BGB の立法過程において、第一草案 1749 条 2 項は、「財産の包括的な移転(Erbfolge:
相続)は、被相続人によって排除されることはできない。」とする案を置いていたが、 第二委員会は、これは自明のことであるとして、同条文案を削除した。Staudinger2008, §1922,Rn.55[Marotzke]. 18)被相続人の財産を相続人から見たときに相続財産(Erbschaft)、被相続人ないし財産自 体について見たときに遺産(Nachlass)という用語が一般に使用されているが、両者の 意味するところに実質的な差異はないとされる。MünchKomm,§1922Rn.18[Leipold]. 19)KarlheinzMuscheler,“DieerbrechtlicheUniversalsukzession(1.Teil)”,Jura1999,234. 20)死因処分とは、遺言(Testament:BGB2064 条‐BGB2273 条)と相続契約(Erbvertrag :BGB2274 条‐BGB2302 条)を 指 す と 解 さ れ て い る。BGHUrteilv.17.9.1970,IIIZR 158/67,DRiZ71,26. 21)MünchKomm,§1922Rn.120[Leipold]. 22)MünchKomm,§1922Rn.117ff.[Leipold];Staudinger2008,§1922Rn.47[Marotzke]. 23)RGUrteilvon21.4.1904,RGZ57,432,434. 24)共同相続関係を合有ととらえることは、ゲルマン法を承継したプロイセン一般ラント法 に淵源が見られる。拙稿「遺産分割前の相続不動産の管理と使用―ドイツ法からの照射 ―」帝塚山 4 号(2000 年)25 頁以下参照。 25)ただし、共同相続関係というものが一個の権利能力を取得し、独立の法人格を持つわけ ではない。Staudinger2008,§1922Rn.88[Marotzke];MünchKomm,§1922Rn.129[Leipold], §2032Rn.12[Gergen].この点で、たとえば民法上の組合(BGB705 条以下)が、取引行 為を行うことによって自ら権利義務を取得する場合に(Außengesellschaft:外的組合)、 権利能力・当事者能力を有すると解されるのとは異なる。BGHUrteilvom29.1.2001,II ZR331/00,BGHZ146,341. 26)ただし、BGB2046 条は共同相続人間に関する規律であり、遺産債権者が同条を援用する ことはできないと解されている。BGHUrteilvom24.9.1971,VZB6/71,BGBZ57,84,93. 27)相続人は、相続開始とともに相続の承認か放棄をなすことができるが(BGB1946 条)、 放棄は 6 週間内になされなければならず(BGB1944 条 1 項)、この期間を徒過すると承 認したものとみなされる(BGB1943 条)。遺産債務に対する責任は BGB1967 条以下によっ て処理され、日本民法の限定承認に相当するものはない。 28)UlrichvonLübtow,Erbrecht:EinesystematischeDarstellung,2Halbband,Aufl.1, Duncker&Humblot,1971(以下 v.LübtowII),S.769;Staudinger2008,§1922Rn.94 [Marotzke];MünchKomm,§1922Rn.119[Leipold]. 29)MünchKomm,§1922Rn.119[Leipold] は、 財産 を 法律上一体的 な も の と し て 認 識 す る 思考様式 は、BGB の 他 の 箇所、た と え ば 法定夫婦財産制 た る 剰余共通
制(Zugewinngemeinschaft に は Zugewinn を 剰余 と す る か 付加利得 と す る か、 Gemeinschaft を共同制とするか共通制とするかで複数の訳語があるが、本稿では剰余共 通制とする。)における夫婦の一方による財産の処分制限に関する BGB1365 条において、 権利義務の保持者が生存中の場合についても示されていると述べる。
2.遺産債務に対する相続人の責任
(1)BGB1967 条と相続人の責任 債務については、BGB1967 条 1 項が、相続人は遺産債務について責任を負 うと規定する30)。この遺産債務(Nachlassverbindlichkeiten)には、被相続人 が負っていたいわゆる相続債務の他に、相続人が相続人として負担する債務、 たとえば遺留分の支払債務(ドイツでは遺留分請求権は通常、金銭債権とされ ている31))、遺贈や負担(Auflagen)を履行する債務等が含まれる(BGB1967 条 2 項)。BGB1967 条 1 項の意味は相続人の責任(Haftung)を定めた点にあり、 相続によって相続人は遺産債務の人的債務者(persönlicherSchuldner)とな り、遺産債権者は、財産に対する強制執行の認容を相続人に求めることができ るのみならず、相続人に対して直接に給付を請求することもできる32)。もち ろん、相続人は常に無限に責任を負うものではなく、遺産に責任を限定するこ とも可能である。BGB1975 条以下には相続人の責任制限に関する諸規定が置 かれており、たとえば BGB1975 条は、遺産債権者への弁済のために遺産保護 (Nachlasspflegschaft)が命じられ遺産管理が開始した場合や、遺産倒産手続 が開始した場合には、相続人の責任は遺産に限定されると規定する。 (2)共同相続人の責任 共同相続 の 場合 に は、BGB2058 条以下 に さ ら に 規定 が 置 か れ て い る。 BGB1967 条は、単独相続、共同相続を問わず相続開始の場合における相続人 の責任財産(Haftungsmasse)、すなわち相続人は遺産によってのみ責任を負 うのか固有財産も責任財産となるのかについて定めるものであるが、BGB2058条以下は、共同相続の場合に各相続人が遺産債務について対外的にどのよう に責任を負わねばらなないか(遺産債務は連帯債務となるのか、あるいは可 分債務か)という責任の範囲(Haftungsumfang)の問題となる33)。そこでは、 BGB2058 条が、「共同相続人らは共同の遺産債務について連帯債務者として責 任を負う。」と規定し、遺産債権者に対する共同相続人の連帯債務者としての 責任を原則とする。被相続人の死亡によって、被相続人が死亡しなかった場合 よりもその債権者を不利な状況に置かない(あたかも被相続人が死亡せず、共 同相続人による被相続人の地位の承継がなかったかのように扱う)ことがその 目的とされている34)。各相続人は、遺産分割までは、遺産債務の支払いを各 自の相続分に応じた遺産持分に限り、それ以外の財産から弁済をなすことを 拒否することができるが(BGB2059 条 1 項 1 文)、一方、遺産債権者は、遺産 分割されていない遺産から弁済を受けることを共同相続人全員に対して請求す る権利を失わない(BGB2059 条 2 項)。このような訴えは Gesamthandsklage (合有の訴え)と呼ばれ、BGB2058 条に従った連帯債務の支払いを求める訴 え(Gesamtschuldklage)と区別される。すなわち、合有の訴えにおいて遺産 分割前に遺産に強制執行する際には、全相続人に対する執行名義が必要である (ZPO747 条)。他方、連帯債務の支払いを求める訴えは、遺産分割の前後を問 わず、また共同相続人の一部の者に対してなすことができる。 遺産分割後は、各相続人は遺産債務全額について、遺産のみならずその固有 財産をももって連帯債務者としての責任を負うことを原則とする(遺産債務に つき相続分に応じた割合についてのみ責任を負うことで足りる場合等について は、BGB2060 条以下に規定がある)。 包括承継原則をとり、債務についても共同相続人らが合有的に承継して、債 権者に対し連帯債務者として責任を負うことを原則とすることには批判も根強 いが35)、遺産債務に関する BGB の諸規定が、金銭債務のような可分債務であっ ても被相続人の死亡によってそれが共同相続人らに細分化されて帰属すること をさせず、各相続人の支払不能による回収不能の危険を債権者に負わせること
を避けようとする意図を持つものである点には、一定の理解が見られる36)。こ のような BGB のあり方は、たとえそれが被相続人の死亡に際しての権利義務 承継を規律する一つの法的技術に過ぎないとしても37)、共同相続人らへの可分 債権・債務の当然分割帰属を肯定するわが国の判例を中心とした理解に比し て38)、包括承継原則の実質的意味づけを印象づけるものと考えられる。 30)BGB の遺産債務諸規定につき、金子敬明「相続財産の重層性をめぐって(3)」法協 120 巻 9 号(2003 年)66 頁、江島広人「財産引受と債務の相続に関する比較法的研究―財 産引受に関する比較法的考察(その 2)―」一橋法学 11 巻 1 号(2012 年)303 頁等も参照。 31)RGUrteilvom17.1.1927,RGZ116,5;BGHUrteilvom24.1.1952,IIIZR192/50,BGHZ5,12; BGHUrteilvom1.10.1958,VZR53/58,BGHZ28,178. 32)J.vonStaudingersKommentarzumBürgerlichenGesetzbuchmitEinführungsgesetz undNebengesetzen,Buch5§§1967-2063,Neubearbeitung,deGruyter,2010(以下 Staudinger2010),§1967Rn.1[Marotzke]. 33)MünchKomm,§2058Rn3[Ann]. 34)ProtokollederKommissionfürdieII.LesungdesEntwurfsdesBGB,V,S.871; MünchKomm,§2058Rn.6[Ann]. 35)DieterLeipold,“WandlungenindenGrundlagendesErbrechts?”AcP180(1980)160,204ff; Staudinger2010,Vor§2058Rn.14ff.[Marotzke]. 36)v.LübtowII,S.1182. 37)Staudinger2008,ErbrechtEinleitungRn.64[Marotzke]. 38)最判昭和 29 年 4 月 8 日民集 8 巻 4 号 819 頁等。
3.相続外の方法による権利義務の承継―包括承継原則の例外―
(1)法律行為による包括承継の排除 BGB1922 条 1 項の包括承継原則は強行規定であり、被相続人が法律行為で これを排除することができないことは自明のことであると考えられている(前 掲注 17)参照)。ただし、そこにいう法律行為について、被相続人の死因処分(遺 言及び相続契約)がこれに該当することは明らかであるものの39)、生前処分(VerfügungunterLebenden)によるときには、相続人による包括承継を制限 することも可能ではないかと解する余地がある。たとえば、被相続人の死亡に より効力が発生するとする第三者のためにする契約(これは生存者間で効力を 生じる契約であるので、死因贈与と異なり、死因処分に関する諸規定の適用を 受けない(BGB2301 条 1 項参照))をなすことによって、被相続人はその死亡 時における遺産から第三者のためにする契約の対象となる財産を除外すること ができる40)。そして、判例・学説は、このような意味を持つ生命保険契約41) や銀行契約(Bankvertrag)を第三者のためにする契約として行うことを認め ている42)。ただし、このような手法を認めることに対しては、相続人や遺留 分権利者、相続債権者らの利益を考慮したとき妥当といえるか、この「相続を 素通りした権利義務の承継」(SukzessionamErbrechtvorbei)を相続法によ る規律から完全に切り離して行うことが許されるかという疑問も根強い43)。 (2)特別相続(Sondererbfolge) BGB1922 条の包括承継原則に対しては、特別承継(Sonderrechtsnachfolge) の 例 外 が あ る こ と が 認 め ら れ て い る44 )。 そ の 一 つ は 特 別 相 続 (Sondererbfolge)と言われるものであり、他の一つが、本稿で扱う BGB563 条以下による住居使用賃借権の承継である。 まず特別相続は、被相続人の有していた個々の権利が直接に、BGB1922 条以 下による承継とは異なるルールで相続人に移転するというものであり、農地の 一子相続制(Höferecht)や、人的会社(Personengesellschaft)である OHG(Offene Handelsgesellschaft:合名会社)、KG(KommanditgesellschaftaufAktien:合 資会社)の組合員(社員)死亡の場合の共同相続人による持分の承継等におい て見られる45)。 農地一子相続制は、農地をその構成部分(Bestandteil)や従物とともに一人 の相続人に相続させるものであり、共同相続人がいる場合にも経済的一体性を 損なうことなく農地を維持することを目的とする。ただし、その規律は州ごと
に異なる。連邦法としては農場法(Höfeordnung)46)があり、特別相続として 一子相続制を規定する。同法の適用があるのは、ハンブルク、ニーダーザク セン、ノルトライン・ヴェストファーレン、シュレスヴィヒ・ホルシュタイ ンの各州である。一方、独自の州法を持つところとしては、バーデン・ヴュル テンベルク、ブレーメン、ヘッセン、ラインラント・プファルツがある。バー デン・ヴュルテンベルク及びヘッセンでは、特別相続という形ではなく遺産 分割の中で農地一子相続制を実現する規定となっている。その他の諸州は農 地一子相続制に関する特別な法規を有さず、農地についても BGB の相続規定 が適用され、共同相続人による包括承継の対象となる。ただし、土地取引法 (Grundstückverkehrsgesetz)13 条が、農地については分割せず相続人の一人 に取得させる旨を裁判所が命じることができると規定しており、これによる対 処が可能である47)。 一方、OHG や KG の組合契約(OHG、KG の法的性質は組合である)につ いては、組合員死亡の場合にはその持分が相続人に移転するとの取決めがなさ れていた場合(単純承継条項。BGB727 条 1 項は、特段の取決めがないときは、 組合関係は組合員の一人が死亡したときには解消されると規定する)、BGB の 相続法の原則によれば、被相続人の有していた組合員たる地位は合有的に共同 相続人らに承継されることになる。しかし、一方で組合に関する規律は、こ のように数人の者が合有的に一組合員として組合に加わることを予定してお らず、相続法に従った承継規範との抵触が生じる。たとえば、組合について は、個々の組合員は、組合債務に関し連帯債務者として無限責任を負うとされ て い る が(商法:Handelsgesetzbuch(以下 HGB)128 条)、他方、BGB の 相 続法では、遺産分割まで各共同相続人は遺産の範囲においてのみ責任を負うに とどまり(BGB2059 条)、また、遺産管理(Nachlassverwaltung)や遺産倒産 (Nachlassinsolvenz)等、諸々の責任制限が認められている(前述 II2(2)参 照)。この問題の解決は最終的には判例に委ねられ、そこでは、組合持分には BGB1922 条の包括承継原則が適用されず、個々の共同相続人による特別承継
がなされると解されるに至っている48)。 この農地一子相続制も人的会社の組合員の地位の相続もあくまで相続法の枠 内における承継の一環ととらえることができるものであり、その意味で特別相 続(Sondererbfolge)と呼ばれている。すなわち、そこにおける特別相続人は BGB の意味における相続人に属し、特別承継された権利や財産は遺産に属す るものであって、それらが BGB1922 条の包括承継原則とは異なる特別な承継 方法によって相続されたに過ぎないからである。 (3)相続法以外のルールによる承継 それに対して、法定の特別規定によって、包括承継原則の例外として被相続 人の諸権利がその死亡によってある者に直接移転するが、農地一子相続制や 人的会社の組合員死亡の場合の特別相続とは区別すべきものがある。BGB563 条以下の使用賃借人の死亡による住居(Wohnraum)の使用賃借権の承継が これであり、BGB の相続法とは別個の規律に服する。そこでは、承継は相 続の要件・効果と切り離され、承継人は相続人であることを要しない。そ の意味において、住居使用賃借権の承継は相続ではなく、特別の権利承継 (Sonderrechtsnachfolge)である。そして、BGB において、権利者が死亡した 場合に相続法とは異なる制度によりその法的地位の法定承継を認めるものとし ては、この住居使用賃借権が主たるものである49)。 39)Staudinger2008,§1922Rn.62[Marotzke]. 40)Staudinger2008,§1922Rn.59[Marotzke]. 41)OLGSchleswig-HolsteinUrteilvom10.5.1994,ZEV1995,415は、生命保険金の受取人が「相 続人」とされていた場合、疑わしいときには、被保険者の相続人は相続法によってでは なく、保険契約によって指定された受取人として保険金請求権を取得するとする。 42)生命保険金と共同相続人の権利につき、拙稿「生命保険金と相続人の権利-ドイツ法に よる一考察-」棚村政行=小川富之編『家族法の理論と実務』(日本加除出版、2011 年) 参照。 43)MünchKomm,§1922Rn.132[Leipold].
44)Staudinger2008,§1922Rn.54[Marotzke];MünchKomm,§1922Rn.131[Leipold]. 45)Staudinger2008,§1922Rn.62,175ff.[Marotzke];MünchKomm,§1922Rn.146[Leipold]. 46)1947 年にイギリス占領地区で占領政府によって定められた世襲農場法に由来する。その 後、1976 年に現在の農場法へ刷新された。 47)MünchKomm,Buch5,EinleitungRn.146ff.[Leipold]. 48)BGHUrteilvom22.11.1956,IIZR222/55,BGHZ22,186,192;MünchKomm,§1922 Rn.74[Leipold];Staudinger2008,§1922Rn.62,178[Marotzke]. 49)MünchKomm,§1922Rn.131[Leipold]. 住居使用賃借権と同様のものとして特別承継がさ れるものに、以前は継続的居住権(Dauerwohnrecht)があったが、1985 年 7 月 11 日の 改正で削除された。Staudinger2008,§1922Rn.54[Marotzke].
Ⅲ BGB における住居使用賃借権の特別継承
1.使用賃借人の死亡と使用賃貸借関係の承継
使用賃借人が死亡した場合、その使用賃貸借関係も相続法における包括承 継の対象となり、相続人らがこれを承継することを BGB は否定するものでは ない(賃借権は金銭的価値を有する財産であり(BGB1922 条 1 項)、そこから 生じる賃料支払債務等は遺産債務として相続人が責任を負う(BGB1967 条))。 ただし、BGB は、住居の使用賃貸借については相続的承継によらずに、相続 人であるか否かにかかわりなく死亡した使用賃借人と一定の密接な人的関係に あった者にこれを承継させるという BGB563 条、BGB563 条 a を置く。両条は 住居使用賃借権の死亡承継に関する特則であり、その限りで BGB1922 条に従っ た包括承継原則を排除する。そして、BGB563 条以下に挙げられた者らによる 特別承継がなされない場合にのみ、住居の使用賃借権は相続人による包括承継 に服することになる50)。 この BGB563 条、BGB563 条 a による使用賃借権の特別承継は、住居が人々 の生活の中心となるものであることを重視し、死亡した使用賃借人の配偶者や その他使用賃借人と緊密な関係にあった者に使用賃借住居を(他の)相続人らに優先して確保させ、居住の継続を保護することを目的とする51)。したがって、 使用賃借権の特別承継は住居の使用賃貸借関係についてのみ生じる(BGB549 条は、同条から BGB577 条aまでが住居使用賃貸借関係に関する特則である旨 を規定し、BGB563 条、BGB563 条 a が住居を対象とする規定であることを示 す)。社宅(Werkmietwohnung(BGB576 条)、Werkdienstwohnung(BGB576 条 b の基準によるもの))も、住居に関する権利関係の終了が使用賃貸借に関 する諸規定に従うとされるものについては、ここにいう住居に含まれる。一方、 住居であっても用益賃貸借(Pacht)には BGB563 条以下の特別承継の適用は ない。また、使用賃借権であっても、すでにその使用賃貸借関係が終了し賃料 等の清算義務のみが残っているような場合には、BGB563 条以下の特別承継は 生じない52)。 50)EntwurfeinesGesetzeszurNeugliederung,VereinfachungundReformdesMietrechts (Mietrechtsreformgesetz),Zuden§§563bis564Entwurf(2000 年 11 月 9 日付使用賃 貸借改正法草案),BT-Drucks.14/4553,60(以下BT-Drucks.14/4553). 51)BT-Drucks.14/4553,60.なお、使用賃借人が法人の場合に、解散や事業の包括譲渡に際 して BGB563 条を準用ないし類推適用することは、たとえ法人の社員がそれによって住 居を失うことになろうとも、一般に否定されている。OLGBraunschweigUrteilvom29. 10.1997,NZM1999,1054;MünchKomm,§563Rn.7[Haüblein]. 52)J.vonStaudingersKommentarzumBürgerlichenGesetzbuchmitEinführungsgesetz undNebengesetzen,Buch2§§563-580a,Neubearbeitung,deGruyter,2011(以下 Staudinger2011),§563Rn.4[Rolfs];Palandt,BürgerlichesGesetzbuch,72.Aufl.Beck, 2013(以下 Palandt)§563Rn.3[Wiedenkaff].
2.BGB への住居使用賃借権特別承継制度の導入
(1)使用賃借人保護法 19 条と BGB 旧 569 条 a・569 条 b 使用賃借人と密接な共同生活関係にあった者のために使用賃貸借関係の存続 を確保するという法制度は、第一次世界大戦後の住宅難の中で建物の使用賃借 人を保護することを目的として制定された 1923 年 6 月 1 日の使用賃借人保護法(Mieterschutzgesetz,RGBlI353)に 遡 る53)。同法 19 条 は、1 項 で、使用 賃借人死亡の場合に使用賃貸借関係は同人と共同の所帯を持っていた一定範囲 の相続人に移転する旨を定め、さらに同条 2 項は、相続権は有しないが使用賃 借人の所帯で生活していた家族構成員にも、使用賃借人の権利義務関係への参 入を認めていた。しかし、同条の本質は BGB、特に相続法の諸規範に依拠す るものであり54)、BGB1922 条の包括承継の原則を制限するものではなかった ことが指摘されている55)。使用賃借人保護法におけるこのような立場は、そ の後漸次修正されて行き、1942 年 12 月 15 日付の同法(RGBl,712)は、19 条 1 項に使用賃借人と共同の所帯を営んでいたすべての家族構成員に住居使用賃貸 借関係への参入と承継を認める規定を新設した。同条 2 項には相続人による包 括承継に関する規定が維持されたが、同条 1 項によって、このような家族構成 員が直接、死亡した使用賃借人の承継人となること、そして相続人に優先し て使用賃借人の権利義務を承継することが明らかにされたといえる56)。そこ における住居使用賃借権の存続保護は、使用賃借人の家族共同生活体の一員 であった者への社会的な生存保障の意味を持つと考えられており、学説には、 なお家族構成員による住居使用賃借権の承継を相続法上の特別相続とみる見 解もあったが57)、判例はそのような立場を否定して、同条等の規定する家族 構成員による使用賃貸借関係の承継は、この者らの生存保障実現のために法定 契約関係の設定という措置を立法的にとったものであると説示していた(連邦 通常裁判所(以下 BGH と記述する)1962 年 1 月 10 日判決)58)。 なお、同 BGH1962 年判決の事案は、使用賃借人の未払賃料が残されていた が、共同生活を営んでいた使用賃借人の妻が相続放棄をしたため、使用賃貸人 が、使用賃借人保護法 19 条に基づき死亡した使用賃借人の債務を承継したと して妻に未払賃料の支払いを求めたものである。未払賃料債務につき誰が責任 を負うかについては、同法の諸規定からは必ずしも明らかでなく議論の対象 となっており、学説・裁判例の見解も分かれていたのであるが59)、同判決は、 使用賃貸人の請求を認めた第一審判決及び原判決を破棄して差し戻し、この問
題への解決を示した。そこでは、同法 19 条が法定契約関係の創出をなすもの であるとしても、そこから当然に過去の未払賃料を使用賃借権の特別承継人た る家族構成員が負うものではないこと、同条の目的が死亡した使用賃借人と緊 密な共同生活を送っていた者に住居使用賃借権の存続を確保することにあるこ とに鑑みれば、特別承継人として新たに賃貸借関係に入った者にはその時から 生じる権利義務が帰属するのであり、すでに生じていた債務は死亡した使用賃 借人の相続人が負担するとするのが妥当であること、死亡によって賃貸借契約 から外れた当事者がすでに負っていた債務を特別承継人に負担させるためには 重畳的債務引受によらなければならないが、使用賃借人保護法にはそのような 規定がないことを理由として、結論として、相続放棄をした使用賃借人の妻は 同法 19 条の特別承継人として未払賃料債務を負うことはないと判示していた。 その後、1964 年 7 月 14 日の「使用賃借権の諸規定の変更のための第二法 律」(ZweiteGesetzzurÄnderungmietrechtlicherVorschriften,BGBlI457) に よって、現行 563 条・563 条 a に 相当 す る 旧 569 条 a・569 条 b が BGB の 中 に 組 み 込 ま れ た。同法(第二変更法)は、1960 年 6 月 23 日 の「住居強制 経済の撤廃並びに社会的使用賃借権及び社会的居住権に関する法律」(Gesetz überdenAbbauderWohnungszwangswirtschaftundübereinsozialesMiet- undWohnrecht)(BGBl.I389)に よって 開始 さ れ、1963 年 7 月 29 日 の「使 用賃借権 の 諸規定 の 変更 の た め の 第一法律」(ErsteGesetzzurÄnderung mietrechtlicherVorschriften,BGBlI505)で継続されていた使用賃借権法の改 革を締めくくるものであった60)。第二変更法では、使用賃貸人に住居の所有 権に関する処分の自由を取り戻させるとともに、他方で、使用賃借人の保護さ れるべき利益については社会的見地から使用賃貸人の所有権に対する制約を置 き使用賃借人の保護を実現することがねらいとされた。この一見対立する両目 的遂行のため、同変更法は、使用賃貸借継続中に使用賃貸人と使用賃借人間に 生じる法律関係及び使用賃貸借契約の終了に関して従前よりも詳細な諸規定を 置くこととし、BGB 旧 569 条 a・569 条 b もその一環として新設されたのであ
る61)。そこでは、使用賃借人保護法 19 条のもとで問題となった使用賃借人死 亡前に生じていた未払賃料に対する責任についても(前述 BGH1962 年 1 月 10 日判決)、BGB 旧 569 条 a3 項に特別承継人と相続人が連帯債務者として責任 を負う旨の規定が置かれたことにより、立法的に解決されるに至った。 (2)BGB 旧 569 条 a・569 条 b と BGB 現 563 条・563 条 a 2001 年 2 月 16 日の「同性共同体の差別の終了のための法律」(Gesetzzur BeendigungderDiskriminierunggleichgeschlechtlicherGemeinschaften,BGBl. I266)により、BGB 旧 569 条 a 以下は重要な変更を受けることとなった。す な わ ち、2001 年 8 月 1 日以降、生活 パート ナーシップ 法(Gesetzüberdie EingetrageneLebenspartnerschaft(Lebenspartnerschaftsgesetz)vom16. Februar2001,BGBl.I266)1 条の意味における生活パートナー(BGB 現 563 条 1 項 2 文)及び非婚の生活共同関係にある者(BGB 現 563 条 2 項 4 文)が 使用賃借権の特別承継人に含まれることとなり、また、家族構成員の範囲が 細分化され、使用賃借人の子供とその他の家族構成員が区別された(BGB 現 563 条 2 項 1 文、3 文)。さらに、配偶者には、常に単独で使用賃貸借関係を承 継できる優先的地位が認められた。これに続く 2001 年 6 月 19 日の使用賃借権 法改正法(Mietrechtsreformgesetz(2001 年 9 月 1 日施行)BGBlⅠ,1149)は、 体系的理由から使用賃貸借契約の当事者の交代に関する諸規定を BGB 旧 569 条以下から現行の 563 条以下に移し、それが現在に至っている62)。 BGB 旧 569 条、旧 569 条 a、旧 569 条 b と現 563 条、現 563 条 a を比べると、 以下のようになる(なお、これらの条文では、原則として、使用賃借人の死 亡により特別承継人が新たに住居使用賃借人となる場合に Eintritt・eintreten (BGB 旧 569 条 a、現 563 条)、特別承継人がもともと使用賃借人と共同使用賃 借関係にあった場合における承継には Fortsetzung・fortsetzen(BGB 旧 569 条 b、現 563 条 a)の語が用いられている。これは、前者の場合には、特別 承継人と使用賃貸人との間に新たに法定の使用賃貸借関係が設定される(前
述 BGH1962 年 1 月 10 日判決参照)という理解を背景とするものと考えられ、 このことは、BGB 現 564 条が使用賃借人の相続人による使用賃貸借関係の承 継に Fortsetzung の語をあてていることからもうかがえる。本稿ではこれを反 映させる趣旨で、特別承継人による Eintritt の場合に参入、Fortsetzung の場 合に承継ないし継続という訳語をあてている。)。 「旧 569 条(使用賃借人の死亡) (1 項)使用賃借人が死亡した場合、相続人及び使用賃貸人は、法的期間遵 守後、使用賃貸借関係を解約する権限を有する。解約告知は、それが許される 最初の期限63)にのみなすことができる。 (2 項)第 1 項の規定は、第 569 条 a 又は第 569 条 b に従った使用賃貸借関 係継続のための要件が存在する場合には、適用されない。」 「旧 569 条 a(使用賃貸借関係への家族構成員の参入) (1 項)使用賃借人の死亡により、その配偶者は、使用賃借人が配偶者とと もに共同の所帯を営んでいた住居の使用賃貸借関係に参入する。配偶者が、使 用賃借人の死亡を覚知した後 1 か月以内に使用賃貸借関係に参入する意思のな いことを使用賃貸人に対して表示したときは、配偶者による使用賃貸借関係へ の参入は生じなかったものとみなされる;第 206 条(不可抗力による消滅時効 の停止:筆者注)が準用される。 (2 項)住居において、その他の家族構成員の一人又は数人との共同の所帯 が営まれていた場合には、使用賃借人の死亡とともにこれらの者が使用賃貸借 関係に参入する。使用賃借人が配偶者及び一人又は数人のその他の家族構成員 とともに共同の所帯を営んでおり、配偶者が使用賃貸借関係を承継しない場合 も同様である。第 1 項 2 文が準用される;数人の家族構成員がある場合には、 各人が自らのために表示をなすことができる。数人の家族構成員が使用賃貸借 関係に参入する場合、この者らは使用賃貸借関係から生じる権利を共同でのみ 行使することができる。使用賃貸借関係から生じる債務について、この者らは 連帯債務者として責任を負う。
(3 項)配偶者又は家族構成員は、使用賃貸借関係に参入した場合には、使 用賃借人の死亡までに生じた債務につき相続人とともに連帯債務者として責任 を負う;配偶者又は家族構成員に対する関係においては、相続人のみが責任を 負う。 (4 項)使用賃借人がその死亡後の期間についての賃料を先払いしていた場 合において、その配偶者又は家族構成員が使用賃貸借関係に参入するときは、 賃料の先払いの結果免れ又は取得したものを相続人に返還する義務を負う。 (5 項)使用賃貸人は、使用賃貸借関係に参入した配偶者又は家族構成員の 人物に重大な事由が存する場合には、法定の解約告知期間を遵守の上、使用賃 貸借関係を解約することができる;解約告知は、それが許される最初の期限に のみなすことができる。第 556 条 a が準用される。 (6 項)配偶者又はその他の家族構成員が住居の使用賃貸借関係に参入しな い場合、これは相続人によって承継される。相続人も使用賃貸人も、法定の告 知期間を遵守して使用賃貸借関係を解約することができる;解約告知は、それ が許される最初の期限にのみなすことができる。 (7 項)第 1 項、第 2 項又は第 5 項と異なる合意は無効である。」 「旧 569 条 b(共同使用賃貸借の場合における生存配偶者による承継) 夫婦が共同で使用賃借し共同の所帯を営んでいた住居に関する使用賃貸借関 係は、夫婦の一方の死亡により生存配偶者によって承継される。第 569 条 a3 項、 4 項が準用される。生存配偶者は、法定の告知期間を遵守して、使用賃貸借関 係を解約することができる;解約告知は、それが許される最初の期限にのみな すことができる。」 「現 563 条(使用賃借人死亡の場合の参入権) (1 項)使用賃借人と共同の所帯を営んでいた配偶者は、使用賃借人の死亡 とともに使用賃貸借関係に参入する。生活パートナーについても同様とする。 (2 項)使用賃借人の子らが共同の所帯で生活している場合において、配偶
者が参入しないときは、この子らが使用賃借人の死亡とともに使用賃貸借関係 に参入する。生活パートナーの参入は、使用賃借人の子らの参入によって影響 を受けない。使用賃借人と共同の所帯を営んでいたその他の家族構成員は、配 偶者又は生活パートナーが参入しない場合、使用賃借人の死亡とともに使用賃 貸借関係に参入する。使用賃借人と長期にわたるつもりで共同の所帯を営んで いた者も同様である。 (3 項)第 1 項又は第 2 項の意味における参入者が、使用賃借人の死亡を覚 知した後 1 か月以内に、使用賃貸人に対して、使用賃貸借関係の継続を望まな い旨を表示したときは、参入はなかったものとみなされる。行為無能力者又は 制限行為能力者については、第 210 条(行為能力が十分でない者における時効 完成の停止:筆者注)が準用される。数人の者が使用賃貸借関係に参入する場 合には、各人がそれぞれ自己のために表示をなすことができる。 (4 項)使用賃貸人は、参入者の人物について重大な事由があるときは、使用 賃貸借関係への最終的な参入を覚知した時から 1 か月以内に、法定の期間を もって特別の解約告知をすることができる。 (5 項)使用賃借人又は第 1 項もしくは第 2 項に従って参入権限を有する者 にとって不利な異なる取決めは、無効である。」 「現 563 条 a(生存している使用賃借人による承継) (1 項)第 563 条の意味における数人の者が共同使用賃借人である場合、使 用賃借人の 1 人の死亡により、使用賃貸借関係は生存使用賃借人らによって承 継される。 (2 項)生存使用賃借人らは、使用賃借人の死亡を覚知した後 1 か月以内に おいて、法定の期間をもって使用賃貸借関係の特別の解約告知をすることがで きる。 (3 項)使用賃借人に不利な異なる取決めは、無効である。」 このように BGB 現 563 条は、特に BGB 旧 569 条 a1 項、2 項、5 項、7 項の
変更・拡充に関するものである。BGB 旧 569 条 a3 項、4 項は BGB 現 563 条 b に、BGB 旧 569 条 a6 項は BGB 現 564 条に相当する。また、BGB 現 563 条 a は BGB 旧 569 条 b に相当し、現 563 条に応じて特別承継人の範囲を拡大して いる。 53)使用賃借人保護法について、鈴木禄弥『借地・借家法の研究 II』(創文社、1984 年)44 頁以下、同法 19 条と BGB 旧 569 条以下の導入過程につき、高翔龍「借家権の承継(3)」 法協 96 巻 7 号(1979 年)767 頁以下に詳しい。 54)RudolfRuth,DasMietrechtderWohn-undGeschäftsräume:einLehr-undHandbuch desMietrechtsinseinerUmgestaltungdurchdasMieterschuntz-undRaumnotrecht,J. Bensheimer,1926,S.313f. 55)HeinzMohnen,DieErbfolgeunddieSondererbfolgeindasMietverhältnis,Bellinger, 1967,S.41ff. 56)a.a.O.( 55 )Mohnen,SS.46,66;HerbertBurkhardt,“DieZweiteMietrechtsnovelle“, BB1964,776.
57)Karl August Bettermann, Kommentar zum Mieterschutzgesetz und seinen Nebengesetzen,J.C.B.Mohr,1950,§19Rn.76ff. 58)BGHUrteilvom10.1.1962,VIIIZR185/60,BGHZ36,265. 59)特別承継人の責任を肯定するものに LGBerlinUrteilvom5.5.1958,NJW58,1098、否 定するものにLGWiesbadenUrteilvom10.12.1957,NJW58,594 があった。 60)第二変更法は、すでに「白い地域」(WeißeKreise:使用賃貸料の統制がすでに廃止さ れた地域をいう)では、1964 年 8 月 1 日に施行され、その他の地域では、「白く」なり 次第施行されるとされた(Art.IV§7II)。それにより、「白い地域」では使用賃借人保護 法は完全に廃止されることとなった(Art.IIINr.1)。一方、使用賃貸料の統制の残る「黒 い地域」(SchwarzeKreise)では、第二変更法による変更は行われず、その意味において、 BGB の使用賃借権法改革はこの過渡期においては二重路線をとっていたということがで き る。G.Brühl,“MietverhältnisseüberWohnraumab1.11.1963“,FamRZ1964,67;ders., “NeuestesWohnraum-Mietrecht“,FamRZ1964,541. 61)WalterHoltgrave,“ÄnderungmietrechtlicherVorschriften“,DB1694,1051,1054;a.a.O. (60)Brühl,FamRZ1964,541. 62)Staudinger2011,§563Rn.2[Rolfs].
63)「最初の期限」とは、使用賃借人の死亡の翌日ということではなく、当事者が判断基準 となるすべての事情を知った後になすことが期待できる最も近い期限を指すと解されて いる。BGB 旧 569 条 a、旧 569 条 b についても同様。RGUrteilvom21.6.1910,RGZ74,35. Soergel,BürgerlichesGesetzbuchBand4/1SchuldrechtIII/1,1997,W.Kohlhammer(以下 Soergel),§569 Rn.8,§569a Rn.11,§569b Rn.6[Heintzmann].
3.BGB563 条による特別承継の要件
(1)特別承継人の範囲と法的地位 BGB563 条の規定に従い特別承継人となりうる者は、死亡した使用賃借人の 配偶者、生活パートナー、子供、その他の家族構成員、そして、これらに該当 しないが使用賃借人との長期にわたる共同生活の意図を有する者である。これ らの者が同条により住居使用賃借権に参入する要件として、使用賃借人と共同 の所帯(gemeinsamenHaushalt)を営んでいたことが必要となる。 BGB563 条 1 項、2 項からは、まず配偶者又は生活パートナーが使用賃借権 の承継人となること、配偶者は使用賃借人の子らに優先して承継人となるが、 生活パートナーは子らと同順位で承継すること、他の家族構成員や長期にわた る共同生活の意図を持った者は、配偶者ないし生活パートナーが承継しない場 合に承継人となることが見て取れる64)。 使用賃貸人に対する関係において、住居使用賃借権の特別承継人は、使用賃 貸借契約を継続させ住居の利用を維持できる権利を取得する。BGB563 条には 「使用賃借人死亡の場合の参入権(Eintrittsrecht)」という見出しが付されてい るが、正確に言えば、特別承継人らは参入の権利を有しているのではなく、参 入はもとの使用賃借人の死亡とともに法律上当然に生じ65)、特別承継人らは、 使用賃借人の死亡を覚知した時から 1 か月以内に使用賃貸人に承継拒否の意思 表示をすることによって、承継は生じなかったものとみなされる(BGB563 条 3 項)というものである。 特別承継人らのこのような保護された法的地位に鑑み、特別承継人の範囲を拡大しすぎると、当該住居を自ら使用・収益・処分しうる使用賃貸人の権利が 損なわれる恐れがあることが指摘されている66)。2001 年の使用賃借権法改正 法による特別承継人の範囲の拡大をめぐる議論においても、この問題は意識さ れていた。住居の使用賃借権について元の使用賃借人の相続人以外の者に承継 を認めるという使用賃借人保護法 19 条及び BGB 旧 569 条 a・旧 569 条 b 以来 の特別承継制度は、契約は原則として契約当事者間で締結され維持されるとい う債権法上の原則を弱めるものであり、特別承継人をより広く認める BGB563 条の導入はそれをさらに推し進めるものとなる。使用賃貸人からすれば、一定 の場合における解約告知権は留保されるものの、もはや予見できない範囲の 人々が使用賃貸借契約の当事者として契約相手方となることを強制されること を意味し、死亡した使用賃借人に代わって新たに使用賃借人となった者の支払 能力に関する不安を負担せざるを得ないという状況に至ることになる。相続人 による包括承継として使用賃借権が承継される場合には、死亡した使用賃借人 の遺産が責任財産となることに比して、相続人であることを要件としない特 別承継人を広く認めることは、使用賃貸人が賃料回収不能の不利益を被る可 能性をも拡大する。そして、BGB563 条 4 項が定める使用賃貸人の解約告知権 も、実務上この問題に対する解決にはほとんどならないという指摘もなされ ていた67)。 (2)特別承継人の範囲の拡大可能性 一方、判例は、すでに BGB 旧 569 条 a2 項の類推適用によって、事実上婚 姻と類似の関係にある共同生活者による住居使用賃借権の承継を肯定してい た。すなわち、BGH1993 年 1 月 13 日決定68)は、非婚の生活共同体の当事者 は BGB 旧 569 条 a2 項の意味における「家族構成員」でないと言明しつつ、生 活の拠点たる住居の確保という同条の規範目的に鑑みて、死亡した使用賃借人 と人的・経済的に密接な共同生活を送っていた者について同条の適用を広げる 必要性があるとの立場を示した。そして、血族及び姻族は親等を問わず同条の 家族構成員足りえ、さらに里子(Pflegekind)も家族構成員に含まれるとする
従来からの有力説69)を踏襲するとした。ただし、使用賃借人と所帯を共同に していた者の居住を保護するべく、死亡した使用賃借人との人的・経済的生活 関係の緊密さのみを要件として重視し特別承継人の範囲の拡大を容認すること には、慎重な姿勢をとり、そもそも使用賃借人保護法 19 条において、立法者 は、使用賃借人死亡の場合における使用賃貸人による解約告知権の排除を、本 来、使用賃借人の配偶者及び 2 親等内の成人の血族のためにのみ予定していた と指摘する。また、1964 年の第二変更法が BGB 旧 569 条 a を創設した際に、 立法者が「家族構成員」をより広い内容のものと理解していたと見る根拠はな いとも述べている。その上で、同 BGH 決定は、当該の事案であった非婚の男 女の生活共同体に対しては柔軟に対応すべきとする姿勢を示す。その理由とし て、非婚で共同生活を営む者たちの増加を 1964 年の段階で立法者は予想して いなかったと述べ、現在、そのような生活共同体の当事者の一方が死亡した場 合に BGB 旧 569 条 a2 項を類推適用することは、基本法 6 条 1 項(「婚姻及び 家族は国家秩序の特別な保護のもとにある。」と規定する)にも合致するとする。 そして、連邦憲法裁判所の判決70)にも依拠しつつ、使用賃借人と長年、共同 生活をしてきた非婚の伴侶が、住居使用賃借権の特別承継人に含まれることを 認めるべき旨判示した(本件は約 11 年間事実上の婚姻関係にあった事案であ り、そのように長期間にわたり婚姻類似の共同生活を営んでいたことも重視さ れた)。 ただし、この BGH 決定は、傍論で、BGB 旧 569 条 a2 項が類推適用される 非婚の共同生活関係は一人の男性と一人の女性の間のものを言うとし、同性の カップルはこれにあたらないとしていた。その後の公表裁判例では、キール地 方裁判所 1998 年 1 月 22 日判決が、同性の生活共同体における生存パートナー に BGB 旧 §569 条 a2 項によって直接権利が認められることはない旨を判示し たが71)、他方、同性のパートナーによる住居使用賃借権の承継を肯定する裁 判例もあり72)、この問題に対する見解は分かれていた。
(3)BGB563 条 1 項・2 項の特別承継人 2001 年の使用賃借権法改正法は、生活パートナーシップ法により登録され た生活パートナーを配偶者と同様のものとして特別承継人に加えるにとどまら ず、長期にわたる関係を意図してともに共同生活を送る者をも特別承継人にな りうる者と規定した。それにより、BGB 旧 569 条 a・旧 569 条 b の補完にと どまらない新たな意味づけが、BGB563 条、BGB563 条 a に与えられることと なった73)。すなわち BGB563 条 2 項 4 文によって、家族構成員でも、また配 偶者や登録された生活パートナーや子供でもない者が使用賃貸借関係に参入す ることを認めたことにより、特別承継の権限を有する者の範囲に本質的な拡大 が加えられたのである。 BGB563 条 2 項 4 文は、まず、それまでなされてきた特別承継人の範囲に関 する議論、特に、婚約者74)や非婚生活共同体の者は、使用賃借人の死亡に際 し住居使用賃借権を承継しうるのかという問題に決着をつけた75)。同文で「使 用賃借人と長期にわたるつもりで共同の所帯を営む者」を特別承継人の範囲に 含まれる者と定義することによって、住居使用賃借権の特別承継人と死亡した 使用賃借人との間に何らかの性的関係があるのかあるいはないのかはもはや問 題とならないことが明らかにされた。むしろ、要件としては、単なる住居や経 済上の共同関係ではなく、当事者間に特に密接な生活共同関係があるかどうか が重視されることとなった。 BGB563 条の導入に際し、立法者は、婚姻や家族のあり方がかつてとは比較 にならない多様性を持ち、様々な形の継続的な共同生活体が存在するという 事実に対応する必要性を認識していた。2000 年 8 月 18 日付の連邦参議院の草 案 563 条 2 項(「使用賃借人と共同の所帯を営むその他の家族構成員は、配偶 者が参入しない場合、使用賃借人の死亡によって使用賃貸借関係に参入する。 使用賃借人と長期にわたるつもりで共同の所帯を営む者についても同様とす る。」)の解説においては、使用賃借人の配偶者と家族(Familie)という従来 の BGB 旧 569 条 a の範囲に加えて、「使用賃借人と長期にわたるつもりで共同