固体鉄/溶融スラグ間での不純物分配平衡
丸岡伸洋
*1,
小野慎平
*2,
柴田浩幸
*1,
北村信也
*1Equilibrium Distribution of Impurities between Solid Iron and
Molten Slag
By Nobuhiro Maruoka, Shinpei Ono, Hiroyuki Shibata
and Shin-ya Kitamura
In the conventional iron making process, oxygen potential in the hearth of blast furnace is determined only by temperature due to carbon saturated condition. In consequence, impurities such as phosphorous are reduced and existed in iron phase due to excessively low oxygen partial pressure. Oxygen partial pressure can be controlled by using gas reductant such as hydrogen and carbon monoxide. In this condition, solid iron is obtained due to not carbon saturated condition. In this study, equilibrium distribution of impurities between solid iron and molten oxide was simulated and investigated experimentally at 1350˚C. The experimental results showed that the phosphorous content in solid iron is enough low under the experimental condition.
(Received on February 7th, 2011) Keywords: prosperous, steelmaking, thermodynamic
1
緒言
現行の高転炉法による鉄鋼生産では,高炉で鉄鉱石を還元し,溶銑予備処理,転炉,2次精錬などで Si,P,Sなどの不純物元素を除去する分業体制である.その中で高炉による還元プロセスの炉床は炭素 飽和であるため酸素ポテンシャルが低すぎ,PやSiなどの不純物元素までもが還元され鉄に混入す る.これに対し水素還元では酸素ポテンシャルを高く制御可能で,不純物含有量の少ない鉄を直接製 造出来る可能性がある.炭素飽和鉄でないためその融点は高く固体鉄が得られるが,固体鉄への不純 物元素の分配挙動は明確でない. 現在までメタル−スラグ間の不純物元素の平衡分配におよぼすスラグ組成,酸素分圧の影響は数多 く検討されてきたが,その多くは製鋼プロセスのスラグ組成,酸素分圧近傍の検討である.そこでは 各種モデル[1–3]が提案されており,本研究の検討対象である固体鉄生成領域への外挿の可否の確認 が必要である.酸化物溶融還元は国内外問わず古くから数多く検討されており,国内を代表とする DIOSプロセス[4]では,生産性確保のため温度を高くせざるをえなかった.一方,水素の還元速度は 一酸化炭素よりも速いことが知られており[5],低温でも十分な生産性を確保できる可能性がある.プ ロセスの低温化は投入エネルギーの削減,耐火物溶損抑制の点で有利である.溶融酸化物を還元し溶 鉄を得る際の反応速度に関する検討は多く報告されているが,低温で還元し固体鉄を生成させる際の 不純物元素の還元挙動に関する検討はほとんどなされていない.そこで本研究では溶融酸化物からの 固体鉄析出時のPのメタル–スラグ間分配を測定し,不純物の少ない鉄を得られるスラグ組成,酸素 分圧などの条件を調査した.2
熱力学的検討
実験的検討に先立ち熱力学的検討を行った.鉄鉱石脈石分にCaOおよび酸素分圧と平衡するFeO を添加し,P2O5が5.0mass%となる組成を選択し,各元素の酸化反応の平衡酸素分圧と温度の関係 *1東北大学多元物質科学研究所 *2東北大学大学院工学研究科(現在 住友金属工業株式会社)を求めた.このスラグ組成における正則溶体モデルでの各成分の活量を算出し,式(1)∼(5)に示す平 衡式から各元素の平衡と酸素分圧の関係を求めた.
FeO(1) = Fe(s) + 1/2O2(g) ∆G0= 218608− 37.43T (1)
H2(g) + 1/2O2(g) = 2H2O(g) ∆G0= 493070 + 109.78T (2) 2P(s) + 5/2O2(g) = P2O5(1) ∆G0=−1211546 + 448.26T (3) Si(s) + O2(g) = SiO2(1) ∆G0=−811540 + 212.55T (4) C(s) + O2(g) = 2CO(g) ∆G0=−221840 − 178.01T (5)
1300
1400
1500
1600
-16
-14
-12
-10
1900
2000
2100
Temperature [ Υ ]
Temperature [ K ]
L
og
P
O 2[
at
m
]
Fe
H
2P
Si
C
Fig.1 Potential diagram. 計算においてH2O/H2比は0.2,P2O5 の活量は6.8× 10−17,その他酸化物の活 量は正則溶液モデルで計算し,P,Siの 活量0.05,0.01 [6]とした.その結果を Fig.1に示す.上部にある元素ほど還元さ れやすいため.炉床は炭素飽和で,その 酸素分圧は温度により決まる.1570˚Cの 酸素分圧は約10−16atmで,鉄鉱石中の P,Mn,Siは還元され溶銑中に不純物とし て存在することが分かる.一方,水素還 元下では固体炭素が存在しないため任意 の酸素分圧に制御可能で,Fe/FeO平衡線 とP/P2O5平衡線の中間の酸素分圧に制 御でき,PやSiを還元せずにFeのみ還 元できる可能性がある.その酸素分圧は 1350˚CでPO2= 10−12∼ 10−11.5である.
3
P
分析の検討
本研究を遂行するにあたり,Pの微量定量分析が必要である.一般的にP分析はモリブデン錯体を 用いた吸光光度法が用いられるが,温度,保持時間,作業者のスキル,共存イオン(特に鉄)が大き く影響し,取り扱いには注意が必要である.本研究ではICP-AESでP分析を行った.ICP-AESは 他元素同時分析可能な測定機器であるが,Pの感度は著しく小さい.Table 1にP含有鉄0.5gを酸 溶解して50mLに調整した時の溶液中P濃度を示す.鉄中P濃度0.01%を分析するためには溶液中 1ppmの分析感度が必要で,その際の溶液中鉄濃度は10000ppmに達することがわかる.Table 1 Content of Fe and P when 0.5g of iron sample dissolves into 50mL solution.
P content in metal Content in 50mL solution [ % ] [ppm] P[ppm] Fe[ppm]
1 10000 100 10000
0.1 1000 10 10000
0.01 100 1 10000
Fig.2に通常の方法で測定したPのICP-AESスペクトルを示す.ピークは検出できているものの 10ppmで約700countとピーク高さは低く,定量性は悪い.そこで超音波ネブライザーおよびスペク トルスキャニングメソッドを用いて感度向上を試みた.通常のネブライザーは細管から噴霧した溶液 をアルゴン気流でプラズマに導入するのに対し,超音波ネブライザーは溶液を超音波発振子により霧 化し,アルゴン気流でプラズマに導入する.この方法によりプラズマに到達する溶液量が増加する. 測定結果をFig.3に示す.1ppmあたり4000countと十分な強度を示した. 実際のサンプルには高濃度のFeが含まれる.Feを1000ppm含む溶液のスペクトルをFig.4に示 す.Pの波長の前後にFeの巨大なピークが存在するが0.5ppm程度のPのピークは判別可能である. Fig.5にPを5ppm含む溶液のFeを800,1000,1200ppmと変化させた試料のスペクトルを示す.鉄 濃度が高いほど前後のFeピークは大きくなり,それに伴いPピークのベースライン高さが変化した. これらの試料のP分析結果をFig.6に示す.分析に用いた標準試料にもFeを1000ppm添加した. 鉄濃度によりP濃度は変化した.つまり,正確な分析のためには試料,標準物質のFe濃度を正確に 一致させる必要があることがわかる.しかしながら,実験の都合上分析試料重量を正確に一致さえる 10ppm-P 5ppm-P 1ppm-P
Fig.2 ICP-AES spectrum of 10ppm-P (normal mode).
Fig.3 ICP-AES spectrum of P (Ultra sonic nebulizer, spectrum scanning method).
1ppm-P 0.5ppm-P ppm-P 1000ppm-Fe 5ppm-P 1000ppm-Fe 800, 1000, 1200ppm-Fe 5ppm-P
Fig.4 ICP-AES spectrum of P including 1000ppm-Fe.
Table 2 Analysis of JIS standard samples.
P conc.(%) JIS Certificate Analysis 155-15 0.0016 0.0020 233-1 0.0069 0.0063 600 800 1000 1200 1400 4.6 4.8 5 5.2 5.4 Fe content [ ppm ] A na lys is va lue of P [ p pm ]
Fig.6 Influence of Fe content on the analytical value of P.
ことはむずかしく,さらに試料にはFe以外の元素も含まれており,それらの含有量でもFe濃度は変 化する. 次にFeの影響を除くために有機溶媒(MIBK)で試料溶液中からFeを取り除いた.その結果Fe のピークは消え,Fig.3と同様なPのみのスペクトルが得られた.この方法を用いて日本鉄鋼標準物 質を分析した結果をTable 2に示す.分析値は認証値と近い値で,概ね良好な分析結果が得られた. 従って本研究ではFe試料を酸溶解後,MIBKでFe除去し,超音波ネブライザー仕様のICP-AESで 分析することとした.なお本手法はCuを含む試料の場合強い干渉を受けるため適用できない.
4
平衡実験
Heater Thermocouple Water-cooled cap Water-cooled cap Pedestal Al2O3 Iron pipe HB tube HB tube Iron foil Exhaust gas CO/CO2 or H2/H2O gas MgO crucibleFig.7 Schematic diagram of experimental apparatus.
4.1
実験装置および手順
本 研 究 で は 固 体 鉄–溶 融 ス ラ グ 間 の 不 純 物 元 素 分 配 を 測 定 し た .溶 融 ス ラ グ を 還 元 し て 固 相 の 鉄 を 得 た 場 合 ,ス ラ グ 中 に 鉄が分散することが予想され,分散した鉄 を 分 離 回 収 後 分 析 す る の は 非 常 に 困 難 で ある.そこで本研究ではJeoungkiu ら [7] や伊藤ら [8]を参考にした手法を用いて平 衡試験を行った.実験装置図をFig.7に示 す .ま ず ス ラ グ を 模 擬 し た 組 成 の 酸 化 物 試 薬 をMgO る つ ぼ に 入 れ ,1350˚C に 保 持 し た 縦 型 管 状 抵 抗 炉 で 溶 融 す る .次 に 固 体 鉄 箔 片(0.1mm× 25mm × 30mm)を 溶 融 酸 化 物 に 浸 漬 さ せ ,一 定 時 間 保 持 後 取り出し急冷した.雰囲気はCO/CO2 混 合 ガ ス でPO2= 10 −13.5∼ 10−12atm に 制 御 し た .ス ラ グ は 鉄 鉱 石 脈 石 分 に 塩 基 度 %CaO/%SiO2(C/S) = 0.5, 1.0,お よ び 1.2となる量のCaOおよび酸素分圧と平衡するFeO を添加し,P2O5 が5.0mass%となる組成を選
MIBKで鉄分離後,超音波ネブライザー仕様 0 10 20 30 40 50 1 5 10 50 100 Time [ hour ] L og L P [ ]
Fig.8 Time required to reach steady state of P distribution.
-14
-13
-12
10
010
110
210
3log P
O2L
P[
-]
C/S=0.5
C/S=1.0
C/S=1.2
Fig.9 Relation between oxygen partial pressure and distribution ratio of phosphorous.
ICP-AESでP分析した.スラグ試料は微粉砕 し,臭素メタノールで金属Feを除去後酸溶解し, SiO2は重量法,その他の元素はICP-AESで分 析した.
4.2
結果
平衡到達時間を決定するためP分配比LP の 経時変化を測定した.ここでP分配比とは鉄中 のP濃度[%P]とスラグ中のP濃度(%P)の比 であり,次式で表される. LP = (%P ) [%P ] = 0.44 (%P2O5) [%P ] (6) 塩基度C/S=0.5のスラグに固体鉄を接触させ 1350˚C,PO2= 10 −12atmの炉内で1∼ 40時間 保持した.LPの経時変化をFig.8に示す.実験 前の固体鉄はPを含有しないため,保持時間が 短い試料のLP は大きな値を示した.時間とと もにスラグ中Pが固体鉄中に移動したため分配 比は減少し,約20時間でLPは一定値に達した. この結果より本研究では平衡到達時間を20時間 とし,以降の実験を行った. P分配比LP への酸素分圧の影響をFig.9に示 す.酸素分圧が高いほど,またC/Sが大きいほ どLP は大きい値を示した. スラグ中FeO濃度とLPの関係をFig.10に示 10 20 30 100 200 300 400 %FeO [%] LP [ -] C/S=0.5 C/S=1.0 C/S=1.2 0 10 20 30 40 50 10-1 100 101 102 103 %FeO [%] LP [-] Present study C/S=0.5 C/S=1.0 C/S=1.2 Nagabayashi C/S=2.0 C/S=3.0 CaO sat.Fig.10 Relation between total Fe content in slag and distribution ratio of phosphorous.
Fig.11 Phosphorous distribution ratio between solid iron and molten slag at 1673K com-pared with the distribution ratio between liq-uid iron and molten slag at 1873K reported by Nagabayashi et.al.
す.C/S=0.5はFeO濃度に関係なくLPは小さな値を示した.一方,C/Sが高くなるほどFeOの影 響を大きくうけ,急激に上昇することが明らかになった.また,FeOを5%,C/S=1.0の場合のLP は50程度になることがわかる.この時メタル中のP濃度[%P]は0.02mass%程度で,この値は転炉 精錬後の[%P]と同水準の十分低い値である. 1350˚Cで固体鉄−溶融スラグ間のP分配を測定した本実験結果と長林ら[9]が測定した1600˚Cで の溶融鉄−溶融スラグ間のP分配の比較をFig.11に示す.固体鉄溶融鉄関係なくC/Sが大きいほど LP は大きくなる.一方,固体鉄のLPは溶融鉄のLP より大きく,C/S=1.0の固体鉄−溶融酸化物 間分配はC/S=3.0の溶融鉄–酸化物間分配に匹敵することがわかる.つまり,固体鉄製鉄は副原料で あるCaOの消費量を削減出来る可能性がある.
長林らはFeO濃度の増加にともないLPは急激に増加し,FeO濃度が20%程度を越えるとFeO濃
度増加に伴い希釈されるためLPは減少したと報告している.本実験でもC/S=0.5では同様の傾向が 確認された.C/S=1.0および1.2の系でも同様の傾向が予想でき,同様の傾向で上昇するとC/S=1.2 のLP は最大104∼5に達すると予想できる.引き続き実験的検討を行い,最終的にモデル化する予定 である.
5
まとめ
1. 熱力学計算により水素利用によりPを還元させずに鉄のみ還元できる可能性を示した. 2. Fe試料を酸溶解後,MIBKでFe除去し,超音波ネブライザー仕様のICP-AESで分析するこ とでICP-AESを用いた鉄中微量P分析に成功した. 3. 固体鉄–スラグ間の平衡P分配を測定した結果,塩基度1.0程度でP濃度が十分低い鉄が得ら れることが判明した.謝辞
本研究は,(財)JFE21世紀財団2008年度技術研究助成,平成19年度東北大学多元物質科学研究 所資源変換再生センタープロジェクト助成の支援のもとで行った.ここに感謝の意を表する.文 献
[1] H.Suito, Ryo Inoue, and Minoru Takada: Tetsu-to-Hagane, 67 (1981), 75. [2] G.W.Healy: JISI, 178 (1952), 664.
[3] K.BALAJIVA and P.VAJRAGUPTA: JISI, 155 (1947), 563. [4] 北川融: 鐵と鋼88/8 (2002), 430-443.
[5] 萬谷志郎,井口泰孝,長坂徹也:鐵と鋼, 70/14 (1984), 1689-1696. [6] 大原伸昭,布上真也,加藤榮一:鉄と鋼, 73 (1987)
[7] Jeoungkiu IM. Kazuki MORITA and Nobuo SANO: ISIJ Int. 36(5) (1996), 517-521. [8] 伊藤公久,佐野信雄: 鉄と鋼, 69 (1983)