「ことばの力」に着目した「伝え合う力」に関する
研究
著者
早坂 重行
号
2
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
教情博第22号
URL
http://hdl.handle.net/10097/59752
学位の種類 学位記番号 学位授与年月日 学位授与の要件 研究科・専攻 学位論文題目 論文審査委員 はや さか しげ ゆき
早坂重行
博士(教育情報学) 教情博第 22 号 平成 25 年 3 月 27 日 学位規則第 4 条 1 項該当 東北大学大学院教育情報学教育部(博士課程後期 3 年の課程) 教育情報学専攻 「ことばの力」に着目した「伝え合う力」に関する研究 (主査) 教授 北村勝朗 教授 准教授<論文内容の要旨>
熊井正之 中島 平 本論文は,学校教育での「伝え合う力」を高める教育方法を「ことばの力」の視点により構築 することを企図した研究である。そのために本研究では伝え合う力」の再定義と問題点を整理 した上で伝え合う力」を発揮させる要因を明らかにし学校教育現場での実践研究それぞれに理 論的基盤を位置づけ,実践化する際の要素として構築を試みている。 本論文は 9 章によって構成されている。序章から第 4 章において学校教育における「伝え合う 力」を考察対象とした本研究の意義を確認し,先行研究の検討を通して教育現場において「伝え 合う力」の教育を実践する際の理論的枠組み確立の重要性,及び方法論的な妥当性について考察 を行っている。第 5 章から第 7 章において,電子掲示板を用いた 3 つの教育実践を取り上げ検討 することで,ことばの力の観点、から言語活動教育におけるかかわりの構築について論じている。 第 8 章及び第 9 章において本研究のまとめとして,学校教育における伝え合う力研究の課題につ いて論じている。 まず,序章において 1998 年(平成 10 年)告示の学習指導要領国語科の目標に示された「伝え 合う力」の課題性を指摘した上で,学校教育における言語活動教育を,ことばの力の理論的枠組 みから考究する本研究の意義について論じている。こうした作業をふまえ,第 2 章では,伝え合 教情 29う力,電子掲示板,及びことばの概念の再定義を試み論じている。そこでは,かかわり,ことば の意味,顕在化していない個人,伝え合いといった要素から説明を行っている。第 3 章では,先 行研究の整理を行った上で,伝え合う力の研究の現状や課題及び意義について論じている。また。 本研究における認識論的枠組みとしての社会構成主義についてことばの力との関連において検討 を行っている。第 4 章において,言語活動教育の研究における方法論としての質的研究法につい て論じている。第 5 章では,電子掲示板を用いた読書案内の教育実践を取り上げ,電子掲示板上 で再構成されたクラスのかかわりに焦点を当て,気持ちゃ感情を伝え合う言葉の機能の役割を論 じている。第 6 章では,電子掲示板を用いたホームルーム活動を取り上げ,伝え合うかかわりが 空間や時間の再構成による意味の再構築ということばの力を論じている。第 7 章では,電子掲示 板を用いた支援情報交換活動を取り上げ,ことばの意味の再構築を促すかかわりについて論じて し、る。 以上の分析をふまえ,第 8 章及び第 9 章の総合的考察において次の 3 点を導いている。第 1 に, 従来,言語活動教育において暖昧に捉えられていた伝え合う内容は,顕在化していない個人の個 性や特性として捉えられることを確認している。またそれらは,気持ちゃ感情を伝えることばの 機能によって伝え合う点を明らかにしている。第 2 に,生徒は気持ちゃ感情を伝え合うかかわり を,空間や時間の再構成による意味の再構築ということばの力により構築し伝え合っている点が 明らかにされている。更に,電子掲示板は,そうした意味の再構築が行われる場というしかけと して機能している点を提示している。第 3 に,伝える主体と伝えられる相手との関係において, ことばの力により深められたかかわりの強さが言葉の重みとなり,伝え合う作用を深化させてい る点が明らかにされた。こうした分析から,学校教育現場で積み上げられてきた「ことばの力」 の教育が伝え合う力の視点により統合され体系化されている。
<論文審査の結果の要旨>
学習指導要領に示されている「ことばの力」を学術的に捉え研究の対象とした例は少なく,実 践的な国語教育実践の紹介に留まることが多い。そうした現状の中で,本論文は伝え合う力」 及び「ことばの力」を再考することで学校教育における言語活動を間い直し,理論的基盤整理し た上で,聞く,話す,書く,読むという個々の活動に理論的基盤を位置づけると同時に,教師に よる指導との関連性の中で、体系化を行った。それにより,これまで「形式的あるいは機械的J に 活動が展開されていた学校教育現場での言語活動を,かかわりと意味の観点から検討し,新たな 提言を行ったものである。 教情 30論文審査の結果,以下の点が指摘できる。 第 1 に,学校教育における「伝え合う力」を「ことばの力 J の視点から検討し体系化するとい う本論文の視点は独創的であり,先駆的研究として評価できる。学校教育における言語活動を伝 達や記録の機能として捉えるのではなく,認識,思考,創造,情緒に基盤をおき,ことばの学習 に理論的根拠を位置づけ体系化した点は今後の言語活動教育研究及び実践における新たな視点を 提示したものとして意義がある。 第 2 に,伝え合う力を単に理論的に考究するのではなく,実際の教育現場における指導実践を 取り上げ具体的事例として考察対象とし論じていることが評価できる。それにより具体的な言語 活動モデ、ルを作成しており,今後,作文教育,言語活動,総合的学習,対話,コミュニケーショ ン教育等,学校教育現場での指導実践に大きく寄与する重要な提案であると言える。 第 3 に,言語活動教育については技術論に重きが置かれ,他者とのかかわりの視点、をもった具 体的な方策についての研究の蓄積が極めて少ない現状の中で,実際の教育実践の事例に基づき言 語活動の教育方策について実証的に提案している点が評価される。本論文の成果は,学校教育に おける言語活動教育の位置づけを検討する上で一つの視座を占めるものとして評価される。 他方,本論文はいくつかの課題を残している。 第 1 に,伝え合う力をかかわりとことばの力の観点から捉え体系化している点で評価されるが, 言語活動教育における教師の影響について十分に検討されていない。今後,より具体的かつ詳細 な教育実践の場において考究することが求められる。 第 2 に,本研究で学校教育における教師を中心とした生徒集団における言語活動実践を対象と して考察を行っているが,より大きな集団を対象とした言語活動教育の実践のあり方についての 議論は不十分であり,伝え合う力における場の検討については課題が残されている。かなり入念 に理論的根拠を読み聞いた上で位置づけ徴密な分析がなれているものの,今後,更に多様な事例 の考察を蓄積することによって,より精微なモデ、ルが構築されることを期待したい。 第 3 に,研究によって示された伝え合う力の教育モデ、ノレの普遍的妥当性の問題である。本論文 で示した言語活動教育に関する成果が,学校教育以外の場面や,多様な発育発達段階にある学習 者に対していかなる意味をもつのか,今後,多角的に検討することが重要な課題として残されて し、る。 しかし,本論文を全体としてみれば,言語活動教育の原理的基盤を詳細に集め,また実際の教 育現場での事例も考察対象としながら分析作業を重ね,一つひとつの研究を着実に展開しており, 学校教育における伝え合う力をことばの教育の観点から統合し体系化を試みるという本論文のね らいは,ほぼ成功していると判断できる。 よって、本論文は博士(教育情報学)の学位論文として合格と認める。 教情 31