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人工知能学会共同企画 -人工知能とは何か?:[エッセイ集]2.5 コグニティブ・コンピューティング

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Academic year: 2021

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(1)■特集 人工知能学会共同企画─人工知能とは何か?. 基 応 専 般. 2. エッセイ集. 5 コグニティブ・コンピューティング 武田浩一(日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所) コグニティブ・コンピューティングとは. とめた.IBM 東京基礎研究所でも研究している要素.   「コグニティブ・コンピューティング」という用. 技術は太字で示している.. 語は,IBM 基礎研究部門が開発した,TV クイズ番 組に挑戦するコンピュータ・システム Watson. 1). の. 登場以降よく使われるようになった.その後,大規.  IBM の基礎研究部門でもコグニティブ・コンピュー. 模なデータからの学習,目的を持った推論(reason-. ティングはこの数年で大きな研究の柱に成長しつつ. ing),人との自然なインタラクション,を行うとい. ある.Watson を開発した研究チームだけでも約 60. う 3 つの特徴を備えた(コグニティブ・システムと. 件の論文を発表しており 3 ,機械学習やディープ・ラ. 一般化して呼ばれる)システムを構築するための技. ーニングの研究成果は arXiv.org のいわゆるオープン. 2). ). 術として知られるようになった .もともとアリゾ. アクセス論文として多数投稿されている.自然言語. ナ大学の Jerzy Rozenblit 教授やカルガリー大学の. 処理を研究する私の立場からいえば,コグニティブ・. Yingxu Wang 教授らがシミュレーション・モデリン. コンピューティングにおける最大の興味は,Watson. グや認知情報論における知的計算・技術のパラダイ. で確立された質問応答手法をどれだけ深化できるか,. ムをコグニティブ・コンピューティングと呼んでい. またどのような実問題を解決できるかという点にある.. た.60 年以上の歴史を持つ研究分野である人工知. 実世界の「質問」は,Watson が得意とした唯一の(人. 能が基礎理論から自律的なエージェントまでの広範. や国などの固有表現の)正解が存在するトリビア的な. なテーマとその応用に取り組んでいることに比べる. 質問はむしろ少数派で,正解が複数個あったり,理. と,我々の考えるコグニティブ・コンピューティン. 由や手順・方法を問うものなど多彩である.ほかにも. グは,人の(特に意思決定の)支援をするという明. 「情報処理学会第 78 回全国大会で発表された,タイ. 確な目標を実現するために,人を規範とした情報技. トルに対話というキーワードを含む論文のリスト」の. 術を端的に表現したものと言えるだろう.Watson. ようなデータベース検索・集約操作によらないと回答. を構成する主要なコンポーネントには,質問文や情. できない質問や, 「奇数の完全数は存在するか?」と. 報源の分析を行うための自然言語処理,解答候補や. いう著名な未解決問題まで含まれる.人間から見た. その根拠となるテキスト情報を取得するための情報. ときには,解答をどのような手法で計算するかを気に. 検索,解答候補をスコア付けするための機械学習と. せずに質問するわけであるが,現実には特定の計算. いった手法が使われている.そして,コグニティブ・. 手法で回答できるのは全質問集合の部分集合である. コンピューティングも人工知能も同じ要素技術の上. ため,与えられた質問に適切に回答するコグニティブ・. に実現されている.我々はこの同じ要素技術を使っ. システム 1 つをとってみても,その実現には長期的な. て,これまでの要件定義とコーディングによるシス. 研究が必要になる.. テム構築では対処できなかった問題の解決のために はいえないが,図 -1 にコグニティブ・コンピュー. コグニティブ・コンピューティングの普 及に向けて. ティングとその主な要素技術,および応用分野をま.  コグニティブ・コンピューティングに代表される. 研究開発を大規模に推進している.あまり網羅的と. 966. 実世界における質問応答. 情報処理 Vol.57 No.10 Oct. 2016.

(2) 2 エッセイ集…5 コグニティブ・コンピューティング. ような,具体的な問題 についてのビッグデー タと機械学習手法を前 提にしたアプローチで は,パートナーシップ やオープン・イノベー ションが一層効果的に なると考えられる.特 定の産業分野における ビッグデータやコンテ ン ツ な し に IT ベ ン ダ がコグニティブ・シス テムの有効性を検証す ることは困難であり,. 図 -1 コグニティブ・コンピューティングとその要素技術および応用分野 ☆1. 急速に研究が進展している機械学習やディープ・ラ. 社が販売する CogniToys. ーニングの分野では,大学などの先端研究機関と. ク製の恐竜のオモチャである.もともとは 2014 年. の共同研究が不可欠になるだろう.我々は従来か. に開催した Watson Mobile Developer Challenge. ら,アカデミック・イニシアチブ活動を通して教育. に応募された 400 件以上のアプリケーション提案. 機関向けに教材提供やソフトウェア貸与を行ってお. から 3 件の最優秀提案に選ばれたアイディアであ. り,そこから得られるフィードバックの収集や優秀. ったが,その起業化にはクラウドファンディングが. な人材の獲得に努力してきた.大学との共同研究も. 利用されている.発想から事業化までの一連の経緯. 活発に推進しており,たとえば Watson の研究開発. がきわめてソーシャルな要素にあふれていて,現代. には米国の 8 大学が協力している.その後のコグニ. 社会における社会変革の特徴を強く感じる.WDC. ティブ・コンピューティングの普及に向けて,IBM. を利用するデベロッパーは昨年の段階で 1 万人以. Watson Developer Cloud(WDC)上のマイクロ・. 上いると言われており,今後もこういった独創的な. サービス化された API(Application Programming. アイディアが次々と具現化されるワクワク感のある. Interface)をハンズオン学習に利用したり,学生. 社会の実現に向けて努力したい.. 自身がデベロッパー(開発者)としてコグニティブ・ システムを開発できるような環境を提供している. 日本では奈良先端科学技術大学院大学とコグニティ ブ・コンピューティングの推進に向けて人材育成や 共同研究のための包括連携を開始しており,サービ ス・サイエンスと同様に今後の大きな発展が見込め る研究分野として,多くの教育研究機関と協力して 研究開発を行っていきたい.産業分野においても,. と呼ばれるプラスチッ. 参考文献 1) Baker, S.(翻訳 : 土屋政雄):IBM 奇跡の ワトソン プロジェ クト,早川書房(2011). 2) Kelly, J. E. III : Computing, Cognition and the Future of. Knowing How Humans and Machines are Forging a New Age of Understanding (Oct. 2015). 3) The DeepQA Research Team, http://researcher.watson.ibm. com/researcher/view_group_pubs.php?grp=2099 (2016 年 7 月 6 日受付) ☆1. https://cognitoys.com/. このような WDC の API をデベロッパー向けに提供. 武田浩一(正会員) [email protected]. することで,エコシステムと呼ばれる価値創造コミ. 1983 年京都大学大学院工学研究科修士課程修了.同年日本アイ・ビ ー・エム(株)入社.以後,東京基礎研究所において自然言語処理の 研究開発に従事.2007 年より質問応答システム Watson プロジェクト に参加.本会フェロー.博士(情報学).. ュニティを形成しつつある.このようなエコシス テムから誕生した代表的な事例が,Elemental Path. 情報処理 Vol.57 No.10 Oct. 2016. 967.

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