1-2 東京におけるヒートアイランドの現状と対策
表(1-2-1)東京年平均気温の推移 東京の年平均気温は、過去100年で2.9℃の上 昇がみられ、他の大都市の平均上昇気温2.4℃、 中小規模の都市の平均上昇気温1℃に比べて大き な上昇である。気温上昇の原因には、地球温暖化 の影響もあるが、ヒートアイランド現象を含む都市温 暖化の傾向が、顕著に現れている。本稿は平成14 年2月に発行された「東京都環境基本計画」から抜 粋し掲載した。1-2-1 ヒートアイランドの現状
(1) 真夏日の増加 夏場の最高気温が30℃を超える日数をみると、近年の増加傾向が明らかである。特に90年代に入っ てからは、35℃以上の日数も増加するなど、東京の夏は、ますます暑くなってきている。 図(1-2-2) 東京地域の高温域の分布 左:1981年 右:1999年 (30℃以上の総時間数を表現-黒が濃い部分が高温域を示す。 図(1-2-3) 最高気温が30℃を超える日数(7~9月、5年移動平均)(2) 熱帯夜の増加 熱帯夜の日数は、5年移動平均で年間30日を超えるようになり、確実に増加している。単年でみると、 1999(平成11)年は46日/年、2000(平成12)年は41日/年、2001(平成13)年は25日/年、夜 間の気温上昇は睡眠障害を引き起こすなど都民の健康に直接悪影響を及ぼす問題である。 (3) 熱中症 ヒートアイランド現象は、熱中症(注1)の発生にも影響を与えている。近年では、熱中症等による救急 搬送人数が増加しているが、熱中症による死亡と真夏日・熱帯夜の日数に相関関係があるという研究も 報告されている。 図(1-2-4) 熱帯夜の推移(5年移動平均) 図(1-2-5) 高温による救急搬送車数 図(1-2-6) 熱中症死亡と真夏日 (人) (5年間移動平均) ・熱帯夜との関係 注1:熱中症-熱けいれん、熱失神・日射病、熱疲労、熱射病などの総称で、一般的に暑い日の野外活動や体育館など、 高温環境下で発症し、体温維持のための生理的反応より生じた失調状態から全身の臓器の機能不全に至るまでの連 続的な病態 (4) 集中豪雨の増加 夏季、東京区部では、強雨(10mm/時間以上)の頻度が増している。特に、50mmを超える豪雨は、 90年代前にはあまりみられなかったものである。 東京区部の集中豪雨を過去20年間にわたって分析 すると、区部西部地域に強雨が偏在する傾向がみられる。
この地域は、ヒートアイランド現象の高温域が出現することでも知られているところであり、その関連性 が指摘されている。 図(1-2-7) 集中豪雨の地域偏差 資料 永保・三上「首都圏に中心をもつ暖気候期の短時間強雨の特性」 図(1-2-8) 建築物間の熱環境 暑さの不快感の要因~幹線道路近辺の歩行者へのアンケート(大阪) 直射日光 路面の熱気 自動車排熱 路面の反射 沿道排熱 空間的狭さ 0 5 10 15 20 25 30 資料:吉田、西村、日野「歩行者意識から見た道路空間の熱環境 その他 評価に関する分析」 (5) エネルギー消費の増大 ヒートアイランド現象による温暖化は、空調使用の増大を招き、その排熱でヒートアイランド現象が更に 進行する。このように、東京はエネルギーの使用増大と熱汚染の悪循環に陥っている。 空調用のエネ ルギー使用(注:2)は、今後10年間で最低でも30%増加するという試算もだされている。 注2:空調用のエネルギー使用-エネルギー経済研究所のデータをもとに試算すると、床面積当たりの冷房用のエネ ルギー消費量は、過去10年間で、業務ビルでは約18%、住宅では約27%伸びている。 (6) ビルの谷間における熱環境の問題 高層高密化が進む東京では、ビルの谷間(ストリートキャニオン)の環境が不快なものになりやすい。 特に夏場は、ビルや自動車からの排熱、アスファルト舗装や建物表面の蓄熱などで、ビルの谷間の熱 環境は悪化する。
1-2-2 ヒートアイランド現象の原因
ヒートアイランド現象の原因としては、市街化の進行などによる地表面被覆の変化、エネルギー使用 の増大、都市形態の変化による弱風化などが挙げられる。 表(1-2-9) ヒートアイランド現象の原因1-2-3 ヒートアイランド現象の対策
2015(平成27)年までに、熱帯夜の発生を現状の30日/年から、20日/年程
度に減少させる。(東京都環境基本計画から)
(1)施策の方向 ヒートアイランド現象は、環境への配慮が不十分だったこれまでの都市づくりの結果、生まれているも のであり、東京では、ヒートアイランド現象の原因として挙げられているどの要素も改善に向かっていな い。ここで政策の転換が図られない限り、今後も悪化していくおそれが強い。ヒートアイランド現象の緩 和に効果があると考えられる対策は、地球温暖化対策や都市緑化など、他の施策目標にも寄与するも のであり、ヒートアイランド現象を緩和する都市づくりは、そのまま、環境に対する負荷の少ない持続可 能な都市づくりに通じる。今後、都市レベルから個々の建築物における対策まで、あらゆるレベルにお いて水や緑の蒸散効果を回復する被覆対策、人工排熱の抑制を目指す省エネルギー対策など、着実 な取組を進めていく。また、東京湾からの海風や川沿いの風を生かし都市を冷やしていくことも有効と 考えられ、建物の配置や高さ、形状を工夫するなど、「風の道」に配慮した都市づくりを検討していく。 (2)都市レベルでの対策 東京のヒートアイランド現象の特徴を把握し、都市のあり方自体を、現象の緩和に寄与するよ うに変えていくことを目指す。 このため、以下のような都市レベルの対策を進めていく。 ① モニタリングの強化 地域の微気候(注3)に関する実測データはまだ不足しており、効果的な対策を進めるために、モニタ リングを強化していく。観測点を増やすとともに、これまでは密に観測されていなかった雨や風の観測 を追加する。また、ビルの谷間での観測や、区部西部での集中的観測など、対策を視野に入れた効果 的な観測を実施していく。 ② 都市を冷やす機能を持つ場所の拡大 大規模な緑地、堀、農地など、まとまりのある自然的環境(緑や水面)は、都市を冷やす機能を持つ。 こうした場所(クールスポット)を、街路の緑化、緑地や風の通り道の確保などによってネットワーク化す ることで、ヒートアイランド現象の緩和を図る。特に街路とその周辺では、ビルの谷間の熱環境対策とし ても、歩道の広幅員化、歩道及び歩道に面する建築物外構の緑化・保水(透水)性舗装等被覆対策・日 射対策など、積極的な熱環境対策を推進していく。 ③風の道(注4)の配慮 風の道の効果を高めるため、河川の水辺を生かし、良質な水辺空間を創出するとともに、河川周辺地 域では、建物や緑等の計画的な配置などを、都市づくりの中で検討していく。また、貴重な都市資産で ある東京湾の水域を活用してヒートアイランド現象を緩和するため、特に臨海地域では、建物や緑の計 画的な配置などにより海からの風の道の確保に努める。 注3:微気候-都市や森林、あるいは地表面や水面など、限られた狭い範囲でみたときの気温、湿度、風、日照 などの気象状況のこと。注4:風の道-市街地への空気の進入経路を意味する。特に流入する気塊が冷涼、清浄な場合、市街地の熱汚染 の緩和や大気の浄化という機能が十分に発揮される。このような意味から、東京の場合は、例えば、海風 が市街地に流入するような経路をふさがないような都市計画的な配慮が重要となる。 図(1-2-10) 建物の配置や高さ、形状などを工夫して風の道を通す ④ 区部に残された自然環境の確保 図(1-2-11)芝生を活用した駐車場 区部の熱環境をこれ以上悪化させないために は、残された自然環境を保全していくことが重要 である。しかしながら、現在残っている自然環境も、 低層住宅地内の緑のように、このままでは存続が 危ぶまれるものも多い。良好な低層住宅地と宅地 内の緑を効果的に保全・育成するような都市計画 的手法などを検討し、対策を講じていく。また、民 間開発プロジェクトにあわせて、公開空地を確保 する、屋上等緑化の推進を図るなど、新たな緑を 積極的に創出していく。 ⑤ 区部西部における熱環境対策 区部西部地域は、ヒートアイランド現象の高温域 が強く現れたり、豪雨の集中や環八雲(注5)の現 象がみられるなど、都市気象の問題が複合的に 発生している。このため、この地域に注目した都 市気象の観測・分析を進め、対策を検討していく。 また、既存の公園や農地を軸に、集中して地域緑 化を推進するといった対策をモデル的に早期実 施することも検討していく。 資 資料料::東東京京都都住住宅宅局局 注5:環八雲-環状八号線付近の上空に出現する横雲列のことで、環状八号線付近で、①東京湾と相模湾からの海 風が収束し、上昇気流が発生しやすい、②ヒートアイランド現象により熱対流が発生しやすい、③大気汚染 物質、海塩粒子など雲の核となるエアローゾルが集まりやすい、という条件が重なることにより、発生する と考えられている(日本気象学会編集「気象科学辞典」1988(昭和63)年)。
(3) 街区、建築物での被覆対策 街区レベル及び建築物単体での被覆のあり方を変える対策を着実に進めていく。ヒートアイランド対策 を真に有効なものにするため道路や公園、駐車場などの既存のコンクリートやアスファルト舗装をはが し、保水性舗装や芝舗装に変更していくなど、蒸散作用の回復を目指していく。また、今後東京では、 建築物等の本格的な更新期を迎えることから、現時点で対策を開始し、建築物・公共施設等の建て替え に合わせて被覆対策を進めていく。その際、都市計画的手法を活用する可能性についても、検討を進 めていく。 ① 建物敷地の被覆対策 建物敷地の緑化、保水(透水)性舗装化、芝生の利用など仕上げに工夫をした駐車場の奨励、アスフ ァルト舗装の削減などの取組を各建築物の特性に合わせて進めていく。また、東京における自然の保 護と回復に関する条例(以下「自然保護条例」という)に基づく緑化指導と、2002(平成14)年6月から開 始した環境確保条例に基づく「建築物環境計画書」制度の着実な執行を中心に、技術情報の普及、優 れた事例の紹介等を行い、対策の普及を図っていく。 ② 道路の被覆対策 道路のアスファルト舗装は、熱環境の点からみると、大きな問題のある被覆素材である。特に都心3区 では、コンクリート・アスファルト舗装の道路面積は、都心3区の総面積の21%を占め、その被覆対策は 重要な意味を持つ。保水性舗装など新たな舗装技術の検討を進めるとともに、下水再生水の活用によ る道路散水、緑化の方法などもあわせて効果的な対策を検討し実施していく。 ③ 建築物の被覆対策(特に屋上等緑化) 屋上や壁面の緑化、反射性(遮熱性)の高い塗料や仕上げ材の使用などにより、建物躯体における蓄 熱を抑制することも重要である。2000(平成12)年度から既に開始している自然保護条例に基づく屋上 等緑化指導に加え、環境確保条例に基づく「建築物環境計画書」制度の着実な執行を進めていく。 (3) 人工排熱の抑制対策 建築物からの排熱を抑制するためには、建築物における省エネルギー対策が必須である。建築物の エネルギー消費は、業務ビル、住宅等、多くの用途において、今後増大していくと予測されるが、今ま でのところ、効果的な対策が進んできたとはいえない。新築時に省エネルギー効率の向上がみられて も、運用面からエネルギー消費の総量が増大する傾向があること、既存ビルでの対策の遅れなど、課 題が山積している。 環境確保条例に基づく「建築物環境計画書」制度の施行により、指導の実績を積むとともに、データ を蓄積し、将来的には、東京における建築物に一定以上の省エネルギー性能を満たすことを義務付け る制度などを検討していく。 具体的には ①エネルギー使用の系統別モニタリングと報告の義務付け ②エネルギー使用の原単位基準の設定 ③省エネルギービルに対する優遇策とエネルギー多使用事業者への抑制策 ④環境に良い建築物を奨励する評価(レイティング)制度の充実⑤通風、採光等、自然エネルギーの直 接的利用(パッシブ利用)の促進などの施策を検討し、実施を目指していく。