• 検索結果がありません。

しかし 実際に難症例をオープンサージェリー として見た場合 その根尖部はバイオフィルムど ころではなく ( 否定はしないが ) セメント質は肥 大し茶褐色で 表面は岩肌のごとくいびつに凸凹 として汚く 歯質が軟化 ひび割れのような小亀 裂が生じていたり 白色や黒色の石灰化物が沈着 している症例も散見

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "しかし 実際に難症例をオープンサージェリー として見た場合 その根尖部はバイオフィルムど ころではなく ( 否定はしないが ) セメント質は肥 大し茶褐色で 表面は岩肌のごとくいびつに凸凹 として汚く 歯質が軟化 ひび割れのような小亀 裂が生じていたり 白色や黒色の石灰化物が沈着 している症例も散見"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

 難治性根尖性歯周炎とは、通常の根管治療を 行っても効果がない、あるいは治癒しないものを いう。的確な根管治療が頻回に長期間にわたって なされたにもかかわらず、根尖病変の縮小を示さ なかったり、いつまでも歯肉の腫脹や瘻孔、打診 痛などの症状が消失しない。根管からの排膿や浸 出液が多く、いつまでも根管充塡ができない。X 線写真上で根管充塡は良好なのに、症状や根尖病 変が残存したり拡大している。このような難治に 陥った根管治療は臨床医なら誰でも経験するもの だが、この原因は何だろう? この原因を検証し 解明することが治療するうえで重要である。  また、難治性根尖性歯周炎に対し、あきらめて 抜歯する前に外科的救済法として歯根端切除術や 意図的再植術があり、試みるべきだろう。「何と か歯を残したい」という患者さんの願望は強く、 それに答えるべく₁本の歯にこだわり、保存の限 界を広げることは大切であると考える。

難治性根尖性歯周炎の病因論

 根尖性歯周炎の原因は細菌感染であり、難治性 の場合はまだどこかに細菌の繁殖部(以下あえて 培地という)が残っていることによる。私は数多く の歯根端切除術を経験したなかで、難治性根尖性 歯周炎の原因を大きく₃つに分類する(図₁、₂)。 ①根管に由来する細菌感染の残存 ②歯根囊胞そのものが細菌感染源となっている ③根尖部の感染歯質として感染セメント質(壊 死セメント質)や感染象牙質が細菌の培地と なっている  ほとんどの原因は①で、具体的には図₃に挙げ るものであり、的確な根管治療を行い、細菌感染 の原因を除去することで治癒へ向かう。しかし、 除去できなかったり、それに気づかないまま根管 治療が行われて難治性になっている。  では的確な高レベルの根管治療がなされ、根管 の問題がすべて解決されれば治癒へ向かうかとい えば、否である。最近では根管治療で治癒へ向か わないのは、根管治療薬に抵抗性を示す嫌気性菌 の残存や、根尖孔外における歯根表面の細菌バイ オフィルムが原因ではないかといわれている。し かし本当にそうだろうか? 確かにX線写真から 原因を推測するのは困難であるが、歯根端切除術 の術中所見や経過を追っていくなかで、細菌バイ オフィルムでは説明のつかない難治性症例に多く 遭遇している。根管以外の原因に②と③が考えら れ、症例を供覧し説明してみたい。  原因②は、歯根囊胞そのものが細菌培地になっ ている場合である。的確な根管治療を行っている が、根管から多量の排膿を認めていつまでも止ま らない、などの症例がこれに当たる。  症例₁(図₄)は ₅歯肉腫脹と自発痛を主訴 に紹介来院。前医にて約₃ヵ月間の水酸化カルシ ウム製剤による根管治療が行われたが、根管から の多量の排膿と鈍痛は改善されなかった。当科で の根管治療も効果なく、歯根端搔爬術を行った。 粘膜骨膜弁を剝離し骨開窓、歯根囊胞を摘出、根 尖を精査したところ異常は認めないため、根尖切 除は行わず同時根管充塡をした。₁年後のX線写 真で根尖部の陰影は消失し、骨欠損部は正常骨で 満たされ治癒した。  この症例を検証すると、治療は囊胞を摘出し根 管充塡しただけであり、細菌感染の繁殖部(培地) は根管でも歯根歯質でもなく歯根囊胞そのもので、 排膿が止まらなかったのは囊胞壁に強い炎症が生 じて囊胞内腔へ多量の膿汁を産出していたと考え られる。このような症例の根尖病巣を摘出してみ ると、歯根囊胞は大きく、囊胞壁は非常に厚く、 内腔は凸凹して汚いことが多い(図₄d)。膿汁 の量は、囊胞の大きさと囊胞壁(肉芽組織層)の 厚さと細菌の繁殖力によって決まる。根管治療に よって不活性化できなければ、囊胞摘出か抜歯す るしか方法はない。

根尖部の壊死セメント質

 原因③は感染歯根歯質の存在である。感染セメ ント質と感染象牙質に分類できるが、特に感染セ メント質はその状態から「壊死セメント質」と表 現してもよいと思われる。従来はX線写真から根 尖性歯周炎と診断され、根管治療を行って効果の ないものは根尖部の細菌バイオフィルムのせいに されてきたきらいがある。

難治性根尖性歯周炎への対応①

歯根端切除術による救済

共済立川病院 歯科口腔外科

 

笠崎安則

根管 感染歯根歯質 (壊死セメント質) 歯根囊胞 図❶ 難治性根尖性歯周炎(エンド不良)の₃つの原因 根管 治癒 感染歯根歯質 歯根囊胞 根尖病巣 感染セメント質 感染象牙質 図❷ エンド不良原因の₃つの輪(笠崎)

症例1

図❹a パントモX線写真 図❹b 当科初診、デンタルX 線写真 図❹c 歯根端搔爬術を 行う。摘出物の病理検査 は歯根囊胞で、囊胞壁は 厚い 図❹d ₁年後。骨欠損は正常 骨で満たされ、経過良好 図❸ 難治性根尖性歯周炎の原因が根管にある場合 ・根尖孔外への感染物や薬剤の漏洩、オーバーインス ツルメントによる刺激 ・根管閉鎖や強度の根管彎曲(根尖孔までの拡大が困難) ・複雑な根管系(根尖分岐、副根管、フィン、イスムス) ・根管壁に感染象牙質の残存 ・穿孔 ・根尖孔の破壊や開大、炎症性吸収 ・歯根の亀裂や破折 ・根管内異物(ファイルなど小器具破折) ・根管数の誤診(上顎₆の第₄根管、下顎₂や₄の₂ 根管など)

(2)

 しかし、実際に難症例をオープンサージェリー として見た場合、その根尖部はバイオフィルムど ころではなく(否定はしないが)、セメント質は肥 大し茶褐色で、表面は岩肌のごとくいびつに凸凹 として汚く、歯質が軟化、ひび割れのような小亀 裂が生じていたり、白色や黒色の石灰化物が沈着 している症例も散見される(図₅b、17b)。この 壊死セメント質そのものが細菌培地であり、その 場合は根管治療がどれほど的確であろうとも治癒 へは向かわない。歯根が長期間にわたって根尖病 巣の膿汁の中に浸かった状態にあると、反応性炎 症としてセメント質が肥大し、次いで腐敗や壊死、 剝離が生じると考えられる。  難治性根尖性歯周炎の原因を考えるうえで、図 ₂は「カイスのう蝕原因₃つの輪」に似せて「エ ンド不良原因の₃つの輪」としてわかりやすく記 したものである。根管治療で難治性になった場合 には、根管内の細菌感染源以外に、歯根囊胞その ものや根尖部の感染歯質に原因があることを示し ている。これらの₃つの感染原因が取り除かれた ところに根尖病変の治癒があると考えている。症 例₂(図₅)、症例₃(図₆)はいずれも難治性根尖 性歯周炎で、根管治療だけでは治癒困難と思われ る壊死セメント質が感染原因と考えられた症例で ある。

壊死セメント質は

X線写真でわかる?

 術前のデンタルX線写真で図₅a、図₆aのよ うな所見が得られた場合には、根尖部の壊死セメ ント質を疑い、根管治療は難治性であることを予 測する必要がある。X線写真では根管と根尖病変 に目がいってしまうが、根尖病変内の歯根にも注 目しなければならない。そのためには今のところ デジタル画像ではなく、コダック社のフィルムを 使用した平行法に近い撮影法によるデンタルX線 写真のほうが、歯槽硬線、歯根膜空隙、歯根外形線、 壊死セメント質を見るうえでは鮮明で優れている。 X線写真による壊死セメント質の読影 ₁.根尖病変を示す透過像内の歯根に注目する。 ₂.根尖部が膨らんでいる(セメント質肥大)。 対側の歯根と比べるとわかりやすい。 ₃.歯根外形線が不定形、凸凹、いびつ、不明瞭。 ₄.石灰化物が粒状不透過像として見えること がある。 ₅.セメント象牙境のラインが透過像として見 える場合がある。セメント質剝離に関係す る。固有歯槽骨(歯槽硬線)と肥大・壊死 セメント質を見間違えないこと(図₇a)。

歯根端切除術による救済

 難治性根尖性歯周炎に対し、外科的救済法とし て歯根端切除術があり、適応症を選び試みたいも のである。従来の歯根端切除術の成功率は約60% といわれ、患者さんにあまり勧められるものでは なかった。根尖を切除しただけで終わったり、ア マルガム逆根管充塡であったため、辺縁封鎖に問 題があったことが原因であると思われる。イン ターネット検索すると、術後の経過不良や再発で 悩んでいる方が多いことに驚く。  当科での歯根端切除術は年々増加し(図₇)、 2012年の₁年間で215症例、最近10年間で1,220 症例を数え、長期に経過観察し90%以上の成功 を収めている。90%以上の成功を目指すには壊 死セメント質との戦いであり、敵をよく知り武器 を選んで戦いに挑んで勝つか、腐敗した歯根歯質 には白旗を挙げて早く撤退・抜歯するか、などと 考えている。歯根端切除術の成功率を高めるには 多くの注意すべきポイントがあり、私の考える歯 根端切除術を以下に紹介したい。

適応症と非適応症

 歯根端切除術の適応症は大きく₂つに分けられる。 ①根管治療が不可能なもの▶根管彎曲のため本来 の根管の治療ができない、冠やコアの除去が困難 あるいは歯根破折の危険性がある、根管閉鎖、ファ イルなど小器具破折、歯根端切除術の再発例など。 ②根管治療が不良なものや、できたとしても予後 不良の可能性が高いもの▶根尖病変が大きく根管 より排膿が止まらない、根尖孔の破壊や開大、根 尖の炎症性吸収、穿孔、根管の内部吸収や外部吸 収、副根管や側枝、過剰根管充塡、根尖部の感染 歯質や小亀裂など。  非適応症は、歯根に広範囲な亀裂や破折がある (図₈、₉)、歯根に広範囲な感染歯質(感染セメ ント質、感染象牙質)がある(症例₃、図₆c)、根 尖病巣と歯周ポケットが交通している、などであ る。これらの場合は残念ながら、歯根端切除術を 行っても感染の細菌培地や通路をなくすことがで きず再発することが多い。もちろん、根管治療の 非適応症でもあるため注意が必要である。  適応される歯は、上顎の前歯から第₁大臼歯の 近心根と遠心根までは可能で、口蓋根はできない。 下顎は第₁大臼歯の近心根は可能で、遠心根は困 難。上下顎第₂大臼歯は手術視野が悪く根尖がみ えないためできず、意図的再植術で対応する。 250 200 150 100 50 0 症例数 年 1997 98 99 00 01 02 03 04 05 06 130 07 133 08 128 09 150 10 184 11 197 12 215 図❼ 立川病院歯科口腔外科における歯根端切除術の 症例数 図❽ 歯根端切除術の 非適応症 図❾ 骨開窓したとこ ろ₁歯根破折していた

症例2

図❺a ₂読影 ・根尖病変₇×₅㎜ ・根尖が膨らんでいる(セメン ト質肥大) ・歯根外形は不定形で凸凹、い びつ、不明瞭 ・根尖の遠心に石灰化像 ・根管未根充 図❺b 根尖部は壊死セメント 質。凸凹で汚く茶褐色、歯石様 石灰化物あり 図❻b 歯根全体が肥大し、茶褐色 で軟化していた

症例3

図❻a ₁ 読影 ・根尖病変₈×₅㎜ ・歯根外形に歯槽硬線様の白帯がみ られ、その内側に縦に走る透過線 を認める(剝離) ・根尖病変内に写っている白帯は歯槽 硬線ではなく、壊死セメント質である 図❺c 根尖を₂㎜切断したところ。 セメント質は肥大し、セメント象牙 境に亀裂が認められた。細菌培地と なる。歯根端切除術の経過は症例 10に示す。根管治療は非適応である セメント象牙境の亀裂 図❻c 切断していない状態。GP の 根管充塡はややアンダー。その周囲 の白色は象牙質。当科で₂回歯根端 切除術を行うも再発。症状はないが、 根尖病変は消失しない 茶褐色の肥大した 壊死セメント質

(3)

歯根端切除術、失敗原因の4分類

 失敗の原因は、まだどこかに細菌感染の培地が 残っているためである。歯根端切除術の予後不良 や失敗症例を検討してみると、その原因は₄つに 分類できた(図10)。 ①逆根管充塡に不備があり、根管での細菌の繁殖 が抑えられていない。(材質と術式) ②歯根に感染歯質(感染セメント質、感染象牙質) が残っている。 ③歯根に亀裂や破折があり、細菌の繁殖部となっ ている。 ④根尖病巣と歯周ポケットが交通している。  失敗原因のほとんどは①で、根尖を切断しただ けで逆根管充塡されていない、逆根管充塡材がう まく充塡されていない、逆根管充塡材自体がよ くない、などであった。根尖切除だけで逆根管充 塡をしない場合でも良好なことは例外的にあるが、 数年後には根管充塡材(酸化亜鉛やユージノール) の為害作用や溶解により辺縁漏洩が生じて感染し 再発することが多い。

スーパーボンドを応用した

歯根端切除術

 逆根管充塡材としては、アマルガム、CR レジン、 アイオノマー、EBA セメント(強化型亜鉛華ユー ジノール)、MTA セメント、接着性レジンなど が挙げられる。最近では水硬性の MTA の応用が 報告されているが、高価であるうえ、硬化に₅~ ₆時間かかることや、象牙質に接着しないことか ら辺縁漏洩の問題があり、私はまだ実用的ではな いと思っている。逆根管充塡材に求められる条件 は、①細胞毒性がなく安全であること、②根管を 封鎖するために象牙質との接着性があること、③ 経年的に材質が安定していること、である。  これらの条件を満たすものとして、4META/ MMA-TBB 接着性セメント(スーパーボンドⓇ[以 下 SB]:サンメディカル)が挙げられる。この 材料は脳外科や整形外科で用いられる骨セメント と同種で、医療材料として安全である。当科では 1992年から歯根端切除術の逆根管充塡材として SB を応用しているが、当初は造影性がなく、操 作性も悪く、硬化時間が長いため術中の止血処置 にも苦慮した。しかし、メーカーに依頼して硬化 の速い「クイック液」を開発してもらったり、さ まざまな工夫や器具の改良により、現在では安定 した手術が行えるようになった。ただし、SB の 弱点は硬化前に水分や血液に接触すると接着しな いことで、骨腔の止血処置や窩洞内の乾燥には十 分気をつけなければならない。  予後に関しては、術前に認めた症状の消失とと もに、約₁年後の多くの症例のX線写真で歯槽硬 線や歯根膜空隙が出現して(骨腔がφ10㎜以上 の症例では₁~₂年間かかっている)根尖病変の 治癒が得られている。これは、SB が歯槽骨やセ メント質、歯根膜に対し優れた組織親和性を示し ているためと思われる。逆根管充塡した SB の表 面に歯根膜が再生しているという研究報告もあり、 組織再生からみた SB の優越性がみてとれる。ま た、象牙質との接着性があるため、根管及び切断 面の象牙細管や微小亀裂を閉鎖して細菌培地をな くしている可能性もある。 ◉術式  当科での歯根端切除術の術式を紹介する(図11)。 ①▶円刃刀(15番メス)で歯肉を切開し、粘膜骨膜 弁を剝離翻転して骨を露出させる。ラウンドバー で骨削除して開窓した後、エキスカベータや鋭匙 を使って囊胞や肉芽組織をできるだけ一塊として 摘出する。マイクロミラーで根尖の状態や、歯根 の亀裂、歯根表面の壊死セメント質のチェックを 行い、根管治療不良の原因を探し出す。 ②▶ほとんどの原因は根尖部に限局しているため、 カーバイド・フィッシャーバー(横溝のないタイ プ)で、歯根軸に対して垂直に1.5 ~ 2.0㎜切断する。 当科での根尖切除は1.5㎜が多く、原因のみを切 除すればよいため、無用な切断は断面の象牙細管 を増すだけで不要と考えている。ただし、切断面 の歯根歯質(セメント質、象牙質)に感染部が残っ ていれば、0.2㎜ずつ追加切除していく。 ③▶小さいスプーンエキスカベータで、歯根の裏 側に残っている囊胞や肉芽組織を摘出する。従来 の成書にはこの肉芽組織を取り残さないように、 骨腔面近くまで歯根を切断しなさいと書いてある が、これは全くの間違いであり、小スプーンエキ スカベータを用いることで取り残しなくきれいに 除去できる。次いで、マイクロミラーで根尖切断 面を凝視して根管治療不良の原因をみつける。切 断面においては根管や根管充塡材の状態、肥大し たセメント質、壊死セメント質、セメント象牙境 の亀裂や剝離、セメント質と象牙質の色や軟化度 など、歯根表面においては小亀裂や色、軟化度を 再度チェックする。 ④▶逆根管充塡窩洞形成専用の超音波チップ(図 12、13)で窩洞形成する。チップ先端にはダイヤ モンドをコーティングしてあるため、根管の象牙 質やガッタパーチャポイントが削除しやすく、超 音波による象牙質の亀裂を防止できる。チップ先 は₄㎜あるので窩洞の深さは最長₄㎜まで形成で きる。従来のコントラ・ラウンドバーを使う方法 では、根尖を大きく斜めに切断しないと窩洞形成 できなかったが改善された。 ⑤▶ボスミン液を浸したガーゼを骨腔内に詰めて 止血する。取り忘れを考えて綿球での使用は避け たほうがよい。 ⑥▶ペーパーポイントを₄㎜の長さに切って準備 する。生理食塩水で洗浄した後、この小ペーパー ポイントで窩洞内を吸水、表面処理剤グリーンで エッチング、洗浄、吸水、エアーで乾燥する。ぬ れと流れをよくするため、ペーパーポイントに液 をつけ、窩洞に一層塗っておくとよい。そして筆 積み法あるいは混和法で、スーパーボンド・ラジ オペーク粉末とクイック液を混合させ逆根管充塡 を行う。約10分後に探針で完全硬化を確認した 後、表面の未重合部を一層削去する。術野をよく 洗浄した後、フラップを戻して縫合し手術を終え る。通常は拡大鏡を使って行い、手術時間は約₁ 時間である。  歯根端切除術の実際例を症例₄~14(図14〜 24)に示す。 ①逆根管充塡の不備  (材質と術式) ②感染歯質 (感染セメント質・感染象牙質) ③亀裂 ④根尖病巣と歯周ポケット  との交通 図 歯根端切除術失敗の₄つの原因 ① 囊胞をできる だけ一塊とし て摘出する ② 歯軸に対して 垂直に切断 ③ 小スプーンエキス カベータで舌側の 病巣を摘出する ④ 超音波チップで逆 根管充塡窩洞を 形成 ⑤ ボスミンガー ゼで止血 ⑥ ペーパーポイン トでエッチング、 吸水 ⑦ エアーで乾燥 スーパーボ⑧ ンドで逆根 管充塡 図 歯根端切除術の術式 図 超音波チップ で逆根管充塡のため の窩洞を形成する 図 ①ナカニシ: E32D、 ② オ サ ダ: ST37-90、 ③ オ ブ チ ュ ラ ス パ ル タ ン 社:KIS-1D

(4)

症例4

副 根 管 図ab 45歳、女性。₂ヵ月前から₁根尖部の歯肉に疼痛、 瘻孔、排膿を認める。₁は適切に根管充塡されているよう に見えるが、経過不良の原因は何だろうか? 図cd フラップを形成し骨を開窓すると、根 尖から₁㎜の唇側に陥凹があり、副根管が存在し ていた 図gh ₁年後。瘻孔及び根尖病変は完全に消失し経過 良好 図ef 歯根端切除術を行う。根尖を1.5㎜切除して、 スーパーボンド・ラジオペークを逆根管充塡。f:術直後

症例8

根 管 穿 孔 図a ₅ 長期に根管治 療を行うも、歯肉の瘻孔 や 根 尖 病 変 は 改 善 し な かった 図bc 根尖は舌側彎曲し穿孔。SB 逆根管充塡 図d 術直後 図e ₃年後。根  尖病変は完全に消失し 歯槽硬線を認める

症例7

根 管 が 閉 鎖 し て 根 管 治 療 で き な い 。歯 根 は 肥 大 し 壊 死 セ メ ン ト 質 が あ る 図a ₂遠心彎曲根、 根管閉鎖、歯根は肥大 図e ₂年後。症状 なく経過良好 図d 術直後。SB 逆 根管充塡 図bc 術中。セメント質は肥大し凸 凹。壊死セメント質を認める

症例6

根 管 彎 曲 の た め 本 来 の 根 管 の 治 療 が で き な い 図a ₂根尖は強度 に遠心彎曲している。 歯肉腫脹と自発痛あ り、根尖病変は大きい 図e ₃年後。人工 骨やメンブレンを使う ことなく、大きい骨欠 損は正常骨で満たされ 治癒した 図d 術直後 図bc 術中。根尖は遠心及び舌側に 彎曲していた。歯根囊胞は大きく骨欠損 の範囲は広い。根尖を₂㎜切断し SB 逆 根管充塡した

症例5

根 尖 部 の 小 亀 裂 図a  ₂ 根管充塡 は 良 好 だ が、 歯 肉 腫 脹 や 鈍 痛 あ り。 根 尖 病 変 は 大 き い。 こ の 原因は何だろう? 図  e  ₁ 年 後。 根 尖病変は消失し歯槽 硬線を認める 図d 術直後 図c 更に切断 し 亀 裂 を 含 め て SB 逆根管充塡し た 図  b  術 中。 根 尖 を1.5㎜切断したとこ ろ遠心根面に亀裂が あった

(5)

図a ₂は未根管 充塡で歯根外形線は いびつで不定形 図bc 茶褐色の壊死セメント質。 セメント象牙境に亀裂を認める。SB 逆 根管充塡 図d 術直後 図e ₃年後。根 尖病変は消失し歯槽 硬線が出現している

症例10

根 尖 部 の 壊 死 セ メ ン ト 質 が 原 因 で 根 管 治 療 が 不 良 ( 症 例 ₂ の 経 過 ) 図a ₂ アマルガム 逆根管充塡されている。 ₁ 逆根管充塡されてい ない。歯肉の腫脹と疼痛 図bc 根管が完全に閉 鎖されていないのが原因。 SB 逆根管充塡

症例11

二 次 症 例 。₁ 度 歯 根 端 切 除 術 を 行 っ た が 経 過 不 良 図d 術直後 図e ₃年後。根 尖部は骨で被われ治 癒した

症例13

根 管 の 内 部 吸 収 に よ る穿 孔 図  a  ₂ 歯 肉 の 腫脹と圧痛、瘻孔 図b 1年後。切 断面の根管は大きく、 逆根管充塡は困難な 症例だが、SB の接 着性が予後を良好に している

症例14

過 剰 根 管 充 塡 図a ₁過剰根管充 塡材が原因で歯肉の腫 脹と瘻孔を認める。根 管からの除去は困難 図b 術直後。SB 逆 根管充塡 図c ₁年後。症状 は消失し経過良好

症例12

根 管 充 塡 は 良 好 に 見 え る が 、根 尖 孔 が 開 大 し て 経 過 不 良 図e ₃年₃ヵ月後。症 状なく根尖病変は消失 図a ₆歯肉の圧痛と瘻孔。 根管充塡材はほぼきれいに充 塡されているが、再根管治療 しても治癒の可能性は低いと 思われた 図bc 近心根尖を₂ ㎜切断し SB 逆根管充塡す る 図d 術直後

まとめ

 根管治療を行っても経過不良の原因は、ほとん どが根管内の問題である。しかし、それ以外に細 菌感染の繁殖部(培地)として、歯根囊胞そのも のや壊死セメント質があることを知っておく必要 がある。デンタルX線写真で壊死セメント質を示 唆する画像であれば、根管治療の難症例であるこ とを認識したうえで対応し、術前に患者さんに説 明することで無用なトラブルを避けることができ ると思われる。  予後の良い歯根端切除術を行うためには、X線 写真による詳細な診査診断、的確な術式、長期の 経過観察、そして失敗症例を検討することだと 思っている。供覧した症例₄~14は特に成功例 を選んだものではなく、ほとんどの患者さんはこ のような良好な経過をたどる。今後も全症例のプ ロトコールを資料として残し、予知性の高い歯根 端切除術を行って₁人でも多くの患者さんの₁本 の歯を残せれば幸いである。 【参考文献】 ₁)諸星裕夫,他:歯髄保存療法に有効な-META/MMA-TBB 系接着性レジン−その₂−細胞反応に関する実験的 検索.日本接着歯学会,10():-,1. ₂)野口裕史,他:縦破折した歯根の接着による治療法 第₁ 報 培養歯根膜細胞を用いた接着性レジンセメントの毒性 の検討.日歯保存誌,0():1-1,1. ₃)菅谷勉,他:Root-endsealant(逆根管充塡)への接着性 レジンの応用.日本歯科評論臨時増刊,10-10,000. 立川病院 HP 内「予後の良い歯根端切除術」で検索 http://www.tachikawa-hosp.gr.jp/

症例9

根 管 に フ ァ イ ル が 破 折 し て 残 り 、根 管 治 療 で き な い 図a ₃ 根尖部根管 にファイルと思われる 不透過像あり 図c 術直後。SB 逆 根管充塡を行った 図d ₁年後 図b 歯根端切除術を行い、 ファイルを除去。₃ は₂根であっ た

参照

関連したドキュメント

(2)特定死因を除去した場合の平均余命の延び

自閉症の人達は、「~かもしれ ない 」という予測を立てて行動 することが難しく、これから起 こる事も予測出来ず 不安で混乱

彩度(P.100) 色の鮮やかさを 0 から 14 程度までの数値で表したもの。色味の

としても極少数である︒そしてこのような区分は困難で相対的かつ不明確な区分となりがちである︒したがってその

・私は小さい頃は人見知りの激しい子どもでした。しかし、当時の担任の先生が遊びを

下山にはいり、ABさんの名案でロープでつ ながれた子供たちには笑ってしまいました。つ

 講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場