Ⅰ.はじめに 金型生産額でも世界第1位となった中国 中国模具工業協会は,2000年以降,年10%超の成長を遂げてきた中国の金型生産額が, 2010年度には1,120億元 ( 1 元=15円換算で1兆6,800億円) になると公表した。日本の出 荷額は,全数統計である『工業統計表』によると2008年度の1兆6,980億円から2009年度 には1兆1,590億円,そして2010年度1兆874億円へと減少している2) 。したがって,中国 の公表値が正しければ,中国の金型生産額は自動車生産台数が世界第1位となったのと同 時期に,日本を抜き世界第1位となったと言える。他方,金型の生産数量では,より早い, 2005年前後頃には中国が日本を超えたと言ってよい (例えば日本の総生産額が1.6兆円の 時, 中国製金型の平均価格が日本製の 1/2 なら, 1元=15円換算として8,000億円超 (534 億元) で数量的には中国の方が多くなる。集計漏れなどを考慮するともっと早期になる)。 中国が今や生産金額でも日本を凌駕したことは,生産数量がさらに増大したのはもちろん, 金型の精度や型構造など技術・品質面での向上を反映した金型単価の上昇も含むと見なけ ればならない。本稿は,そうした中国の金型生産における質的変化の一端を,自動車向け 大物プラスチック金型の,主に広域上海圏の地場メーカーの分析で実証的に明らかにする 試みである。自動車部品の量産装置である金型の品質・金型生産の技術水準は,最終的に 完成車の品質と市場のあり方に作用するのであるから,金型生産の変化は完成車の品質変 化,そして市場の変化に関連する。そうした視角から以下では分析を進めていきたい。 1) 本稿は,大阪経済大学中小企業・経営研究所の共同研究グループ (メンバーは筆者を代表に,高松 享,山本俊一郎,江頭寛昭,朴泰勲,平井拓己) によるアジア地域の部品と金型の供給構造の, 2013年度までの継続的な共同調査の成果の一部である。2011年までの調査分析は日本産業技術史学 会第27回大会 (2011年 6 月18日,於大阪経済大学) で報告,その後,上記研究所 (以下,中小研と 略記)『経営経済』第47号,2011年12月に斉藤「中国における自動車向け大物プラスチック金型の 地場メーカーの分析 広域上海圏における地場金型メーカーの取引実態と技術レベル 」とし て掲載した。本稿はその後の調査成果を加味した同論文の改作であり,改作転載を許可した中小研 (藤本寿良所長) に謝意を表する。 2) (財) 素形材センター『素形材』2014年 5 月号参照。日本の生産は2012年に 1 兆2,500億円へ少し回 復。
斉
藤
栄
司
中国における自動車向け大物プラスチック用金型の
ローカルメーカーの分析
広域上海圏における地場金型メーカーの技術レベルの向上と取引先の変化1)Ⅱ.中国金型産業発展の背景 日本の発展史との比較 我々の調査結果そのものの分析に入る前に,中国の金型生産が量的に世界1位となった 背景とその特徴を金型の取引先との関連で確認しておきたい。 (1) 製造業の“マザーツール (量産の母なる道具)”である金型の重要性 金型は同一形状品を塑性加工で大量生産するための“マザーツール”である。金型の品 質 (精度,型作動性能,耐久性,メンテナンス対応性) が,それによって大量生産される 製品,例えば携帯電話のプラスチック製ケースや自動車の鋼板製ドア・パネルやプラスチッ ク製バンパーの形状品質 (寸法精度,表面粗度などを含む) の,また量産速度とその安定 性の80∼90%を決定するという。たとえばある部品成形用金型の形状精度が劣ると,形状 的に同一欠陥を持った部品が大量生産され,完成品組立が不可能となる,あるいはその部 品を組み込んだ完成品が全て欠陥製品になる。また作動性能の欠陥は部品の量産安定性や 量産速度を損なうので後の組立工程の安定性・速度が損なわれる,耐久性の無さは同一金 型による量産数量の不足のためリピート金型の〈生産費+時間〉コストを追加させる,メ ンテナンス対応性の無さは,同じくリピート金型生産というコストを生む。高品質な金型 は低品質の金型に比べ,イニシャルコスト (当初の購入価格) では割高でも,トータルコ スト (当初価格+ランニングコスト+欠陥品回収費+リピート金型コスト) でみると安い ことが多い。イニシャルコストは高くとも高品質な金型はトータルで見ると部品や完成品 の高品質・価格削減・安定供給に貢献する。金型調達者はこれを見極めねばならない。 そのように重要な量産装置である金型は,たとえば同一形状の携帯電話ケースの大量成 形用にはプラスチック射出用金型1組で良い。原則的にさまざまな部品・完成品の新開発 量産用に,量産予定に対応して先行的に一品・受注生産されるのが“マザーツール”であ る金型取引の特徴である。それぞれの金型は新製品の開発・大量成形 (商品化) の予定と 必ず結びついている。中国の金型生産の急成長も,中国内で企画・量産される新製品種類 の増加=多様化という,金型ユーザー産業 (民営企業の増加を含む) の成長を前提に,そ れらの産業の急成長を支えてきた,と考えられる。 具体的にみると,中国の金型ユーザーの一方を代表する電気・電子製品産業では2000年 代初頭に,もう一方の自動車産業では2009年に4輪車の生産が1800万台に達し中国が世界 第1位の生産国になった。組立機械製品を代表するこの2大産業の完製品は1モデル自体 が多種多様な部品から構成される (ex. ガソリン乗用車1モデルで約2万点) ので,モデ ル数が増えると大量の金型需要を生み出す。また,中国は世界第1位の日用雑貨生産国で もある。日用雑貨は少数の部品しか要せず (ex. プラスチック製皿,石鹸ケースなどは部 品ゼロ) したがって1完成品向け金型必要数はごく少ないが,製品種類では家電や自動車 より圧倒的に多い。加えて上記のどの分野でも中国ではメーカー数が多く,それだけモデ ル数も増加する。これらの産業を中心にした中国製造業の急成長は商品種類の急増を伴い, 喚起された多様な金型需要が金型生産の増加を刺激し,競争が品質向上を促したのである。
こうした完製品・部品の種類の多様化と金型増産との成長の循環的連関は,1960年代の 高度成長期の日本の金型産業発展史と似ている。しかし中身は必ずしも同じではない。以 下では,工業製品を代表する機械製品の電気・電子機器と自動車向け金型生産を念頭に日, 中の金型産業発展史の概略的比較を試みたい3) 。 (2) 戦後日本の金型産業発展史 日本の戦後工業化の本格的発展も,中国など現代の後発国と同じく家電製品など電気・ 電子機器技術の導入から始まった。しかし当時の日本と現代の後発国とは工業近代化の客 観的条件が異なっていた。第1に,1950年代当時は,世界的にみて多くの家電製品が商品 化されて間がなく,技術的に改良・改善の余地は大きかった (技術的に 「発展途上」 の段 階)。後発の日本企業が戦前から引き継いだ技能・技術に基づいて欧米技術を 「日本的に」 消化し,製品ヴァリエーションの開発で独自性を発揮する余地は大きく,猶予期間もあっ た。第2に,その基本技術を欧米から導入・実用化した担い手は日本企業であった。第3 に,輸入障壁に守られた適度な大きさの国内市場が新商品を次々と吸収し,その生産と需 要の好循環が1960年代の 「高度成長」 期を実現した。その後も続く国内企業間の 「過当競 争」 は完成品メーカーを新商品開発に集中させ,部品や金型の生産は独立の専業メーカー に担わせるという分業関係 (「日本的」 系列的取引あるいは長期継続的・固定的下請け取 引関係) を作り上げていく。そして過当競争は素材,工作機械,工具なども含めた「支援 産業」全体の多様性拡大と技能・技術レベルの引上げを不断に要求し,独立専業化した部 品・金型メーカーも技能中心から新規開発技術 (1970年代末から ME 化も進展) の導入・ 消化と応用の拡大を図りながらこれに応えた。こうして,国内完結の“フルセット型”生 産体制4) の構成要素となった支援産業の技能・技術レベルの高さが,1970年代後半∼1980 年代のメイド・イン・ジャパン製品の世界市場席捲の一大基礎となった。中小専業メーカー が担う金型生産 (金額) は,1980年代に,6.5兆円と推計された金型世界市場の25∼30% を占めて世界最大5) となり,金型の種類・品質・納期・価格・アフターケアなどの総合力 でも第1位となった。 (3) 改革開放後の中国工業近代化と地場部品・金型産業の発展史 1978年の改革開放政策で始まる中国の工業近代化では,日本の場合と比べ,第1に,先 3) 金型産業に関する研究成果は,著書の形でも水野順子編『アジアの金型・工作機械産業』アジア経 済研究所,2003年,馬場敏幸『アジアの裾野産業 調達構造と発展段階の定量化および技術移転 の観点より 』白桃書房,2005年,田口直樹『産業技術競争力と金型産業』ミネルヴァ書房, 2011年,兼村智也『生産技術と取引関係の国際移転』つげ書房新社,2013年などが蓄積されてきて いる。 4) 関満博『フルセット型産業構造を越えて』岩波新書,1993年。 5) 黒田彰一 「金型の世界市場と新市場」『精密工学会誌』1993年7月号の推計値。黒田氏は,黒田精 工 (株) 社長,会長,および,アジア金型工業会連合 FADMA 会長,国際金型工業会 ISTMA 理 事など歴任した。
進国では電気・電子機器の多くの分野ですでに 「成熟産業化」 していたという違いがあっ た。当時の中国国営企業側の保有技術と導入すべき先進技術の格差は,1950年代の日本企 業が遭遇した格差よりも数段大きく,日本と同じ手順でキャッチ・アップするには時間が かかりすぎる状況であった。そこで第2に,中国内での新たな工業技術・生産の担い手は, 国内国営企業というより,誘致された外資企業 (台湾,日本,欧米,ほか) となった (先 進工場の丸ごと移植)。その結果,第3に,中国の電気・電子産業は,地場企業が担う低 価格の国内普及品市場向け生産に,外資が担う輸出・世界市場 (先進国市場) 向け高級品 生産が付け加わった形になった。つまり,日本の戦後とは異なり,改革開放後の中国では 生産と市場のサイクルが2つに分割された (2層に分離・分解した) 形で工業近代化がス タートした。その後の中国における発展は,しばらくはこの分離した2つのサイクルの併 走的進展という性格を帯びたと見ることができよう。第4に,乗用車産業の場合は一般国 民向け生産がそもそも無い状態から出発したので,合弁形態で乗用車生産を主導した外資 系企業も当初から中国市場向けに生産した。1985年から生産を本格化させた上海 VW は, まずはタクシー用に,そして近代化により誕生した所得上位層をターゲットにした。他方, 遅れて登場した民営の吉利汽車や地方政府系の奇瑞汽車などの地場自動車メーカーは所得 中位以下の階層をターゲットにした。同じ国内乗用車産業とはいえ,そこには2つに区分 されて競合しない生産と市場のサイクルが電気・電子産業と同じように併走していくと筆 者は考える6) 。外資系企業と地場企業が品質においても競合し始めるのは2010年以降になっ て行くとみている。 こうして中国の工業近代化は,外資系企業群と国内企業群という2つの生産グループが 2層の市場向けに分かれて生産する形でスタートしたと考える。大きな技術格差のもと, まずはいずれの企業群も部品調達では先進外資の支援産業に依存することになる。電気・ 電子分野における進出外資は,中国政府の国内企業保護政策もあって,安い労働力を使っ た先進国向け輸出品の 「加工貿易拠点」 と中国工場を位置付けた。しかし中国地場の支援 企業の技術は低すぎて信頼できず,製品品質の維持には基幹部品ほか重要部品を本国や分 業先の第三国・地域 (日本,台湾,韓国など) から輸入し,簡単形状で重用度の低い部品 だけを地場企業に発注した。こうした外資系企業の調達様式は,部品や金型の中国地場メー カーに技術移転を促す直接的作用を,期待されたテンポでは及ぼさなかったであろう。 しかし,中国に参集した外資企業間では早晩,組立労働コストの違いが消失して競合は 激化し,次なるコスト切下げに向け 「部品の現地調達」 が強制される。この段階でも,ま ずは自社中国工場での部品内製や 「随伴進出」 の本国系部品メーカーからの調達が基本と 6) 1995年頃までの中国乗用車産業の部品・金型調達については李春利『現代中国の自動車産業 企 業システムの進化と経営戦略 』1997年,信山社,2005年頃までについては丸川智雄・高山勇一 編『グローバル競争時代の中国自動車産業』2005年,蒼蒼社,陳晋『中国製造業の競争力』2007年, 信山社,その後2010年ころまでについては (財) 機械振興協会経済研究所『中国自動車部品市場と 素形材産業のあり方 素形材企業進出の可能性と課題 』2008年,山崎修嗣編『中国・日本の 自動車産業サプライヤー・システム』2010年,法律文化社など参照。
なる。この時に必要な金型は,QCD を考慮しつつ本国調達,自社中国工場の内製,日本 や台湾あるいは韓国での調達がまず選択される。そこからさらにコスト切下げを,という 段階で,別途調達した金型を支給する方式での地場部品メーカーへ部品成形の発注,そし てさらには自社工場内成形用にも地場製金型を調達する方向が模索されるようになる。こ うして外資系企業と地場部品・地場金型メーカーとの取引接点が段階を踏まえて生まれて いく。日系企業でも 「中国企業にはそもそも“生産管理”という概念が無い」 とした否定 的評価を越えて,電気・電子機器分野では2000年代前半7) ,自動車分野では2005年以降に 地場製金型調達の模索が本格化する。 他方,中国地場企業群のサイクルの中心はまずは国営企業であった。国営企業は部品と 金型の内製部門を持っていたが,新たに取り組むべき電気・電子機器の心臓部をなす基幹 部品用の精密・高精度な部品や金型を生産できなかった。そこでそれら重要部品を先進外 資企業から購入した。国営の完成品企業群はコア部品の外部購入にこだわりを持たなかっ たと思われる。1990年代後半から国営企業にとって替わるべく勃興してきた民営企業群も, コンピュータなどデジタル機器,家電そして自動車の分野において,「オープンな垂直分 裂」 と形容される重要・基幹部品の外部購入戦略を追求していたとされる8) 。 この戦略は,一方で部品の独自開発の時間とリスク,コストを大幅に省略でき,さらに 先進外資製の部品購入で一定の品質水準を確保し,かつ大量購入による価格引下げをも実 現させる。それは,眼前の条件のもとで中国企業が先進国企業にキャッチ・アップするに は効果的な方法の1つであった。しかし他方で,どの企業も採用しうる方法であったため 地場企業間の製品同質化は急速に進み,コピー製品が増えて価格競争が激化する。それは 中国内の販売市場を開拓していくエネルギーとなるのだが,完成品企業と部品企業の双方 の財務を悪化させる。地場製部品の 「入札」 調達・選別の強化は部品・金型企業をさらに 窮地に追い込む。自動車分野では,2005年頃から地場企業も独自ブランドによる差別化や, 自前の生産性引上げを追求せねばならない段階に入ってきた。その実現には,金型企業を 含む地場の支援産業群の育成・活用が不可欠なことは言うまでもない。たとえば,地場自 動車を代表する奇瑞汽車や吉利グループが自前の系列部品企業集団作りを目標に掲げ始め たのは,そうした問題への対応であった9) 。 以上のように,進出外資企業と地場完成品企業の部品調達行動の変化 (「下流」 での変 化) という側面から,中国地場の金型産業(支援産業含む)の近代化へのステップが整理 できる。改革開放による先進技術の中国製造業への導入・定着が支援産業 (「上流」) に行 7) その後の日系家電企業の現場からの実体評価については楠本正志「日本の商品力に息を吹き込む型 づくりを」日刊工業新聞社『型技術』2005年3月号を参照。 8) 丸川知雄『現代中国の産業 勃興する中国企業の強さと脆さ 』2007年,中公新書 9) 上山邦雄編著『巨大化する中国自動車産業 調整期突入! 』2009年,日刊自動車新聞社,広 島大学大学院総合科学研究科編 (山崎修詞責任編集)『中国の自動車産業』2010年丸善など参照。 筆者らの2008年11月調査では吉利集団の上海華普汽車が敷地内に金型内製工場を建設中であったが, 2011年3月に我々が行った同集団の浙江豪情汽車の調査ではその上海華普金型工場が同集団の主た る金型の調達先と説明された。ただし設立2年でどの程度の金型が生産できているかは不明である。
きつくには,日本の場合と比べより複雑な経路をたどっていることを見なければなるま い10) 。最大の原因は,開放時における先進国企業と中国企業との技術格差の大きさであっ た。もちろん,その技術格差が中国企業側に 「後発のメリット」 を生む側面もあった。こ の点を金型生産に即して補足的にみておこう。 1970∼1980年代の先進国では,技能やノウハウなどの暗黙知を可能なかぎり 「技術」 に 転化し,コンピュータの活用は加工設備の制御 (工程管理) から設計まで広範囲に進み, それらは商品化された。具体的には,各種の設計用 IT 技術ソフトやそれによって制御さ れる高速・高精度の工作機械などの設備機器の開発である。資金さえあれば,設計用の CAD / CAM / CAE ソフトを,またハードの高速・高精度な CNC 工作機械など加工設備, 高度な計測機器も購入でき,それらを結合すると,熟練技術無しに高度な製品加工が可能 となると期待された。日本が体験した技能・技術の試行錯誤の過程を飛び越え,後発国企 業でも一挙に先端的加工技術を入手できると思わせた。しかし,高度化した IT 技術と設 備機器の結合だけで実現するのは標準的・定型的な製品加工だけである。その加工精度の 自在な応用制御や加工製品種類の拡大には,試行錯誤の経験の蓄積から生まれる 「ノウハ ウ」 が必要である。さらに,金型素材 (鋳物) 産業や工作機械,金型用の部品や刃具の産 業など,金型生産に関係する支援産業全体のレベルアップも,成形素材産業のレベルアッ プに対応して必要であった。「後発のメリット」 の現実への転化にはそれなりの周辺事業 環境・要件の整備が必要だったが,現実の中国ではそれら前提条件への認識が1990年代に は欠けており,具体的整備はそれ以降になる11) 。 もちろん周辺要件は,時間をかけて改善されつつある。人材的には,外資企業で学習し た労働経験者が増大し,また少しずつ進む外資企業との取引は地場の部品企業や金型企業 が実務的学習・経験を蓄積する機会となった。何よりも,労働者の意識,地場経営者の意 識が変わりつつあることが重要とも言われる。地場企業にも日系企業や欧米企業にも入札・ 10) 同様の指摘をしながら中国乗用車市場の「2層分解」を軽視しているのが渡辺幸男「産業論の理論 的枠組みと中国産業発展・発展研究 産業論研究の方法に関する覚書 」慶應義塾大学『三田 学会雑誌』105巻第3号,2010年10月 (後に渡辺幸男,植田浩史,駒形哲也編著『中国産業論の帰 納法的展開』同友館,2014年に一部改作して採録) である。この渡辺論文への斉藤の批判的書評, 『大阪経大論集』第64巻第4号,2013年11月掲載も参照。 11)金型生産分野では,国営企業などが1990年代に最新の日本製工作機械や加工ソフトを購入し日本か らの技術指導も受けたが,期待したような品質の金型を製作できなかった。当時,中国企業側は, 日本が技術指導を出し惜しみすると不満を述べたようだが,日本側は中国側の経験不足・「ノウハ ウ」 欠如が主因と応えている。中国側が誤解と理解するには時間を要した (政府間協定による JICA の金型技術向上プロジェクト1991∼1995年 (上海) は日本側からの積極的技術移転の最も組 織的事例。後掲注22の斉藤学会論文参照)。2000年頃の状況については日本貿易振興協会『中国経 済』2001年8月号掲載の吉住敏 「中国におけるプレス金型の現状」 と岸本善男 「中国のプラスチッ ク金型産業事情」,また八幡茂美 「中国の金型産業の技術水準と人材の質」 アジア経済研究所『ワー ルド・トレンド』2001年6月号を参照。その後の状況は,アジア金型工業会連合 FADMA 副会長, ISTMA 理事を歴任した横田悦二郎『金型ジャパンブランド宣言』日刊工業新聞社,2005年,兼村 智也 「中国の金型産業と経営の特徴」『素形材』2008年3月号等参照。
選別対象から育成対象へという変化が出始めている。部品,金型だけではなく,素材産業, 補助部品など周辺産業の重要性への認識が定着してきているのが,2010年前後の状況では ないか,と思われる12) 。 以上が中国金型産業発展の背景についての,筆者なりの日中比較概説である。それを踏 まえて,次節では2010年前後の自動車向け大物プラスチック部品成形用射出金型メーカー (以下,大物プラ型と略記) のサンプル企業調査結果を紹介し検討することにする。 Ⅲ.上海圏 (2008年11月) と浙江省 (2011年3月) の大物プラ型メーカーの調査概要 (1) はじめに 大物プラスチック成形用金型製作への要件 前節の冒頭で行った金型一般の概説に,ここでは以下の点を追加しておきたい。インス ツルメント・パネル (インパネと略記) やバンパーなどの自動車向け大物プラ型 (型締圧 力 1,000 t 以上) の製作は,大型であること自体が経営的にも,技術的にも難易度を数段 高める。家電製品用の中小物プラ型を手掛けてきた金型メーカーが,その保有技術,設備 を応用すればすぐさま自動車向け大物プラ型を製作できるものではない。例えば型材であ る 10 t∼30 t の良質の鋳物の調達が必要であり,その大型鋳物加工用に MC など切削用工 作機械,放電加工機 (EDM),ワイヤー放電加工機 (WEDM),検査機器なども大型化し, 大型金型加工にのみ必要な冷却用水孔加工用のガンドリルや大型クレーン,建屋の地盤改 良工事,等などが必要となる。結果的に設備投資額が大きくなる。 また設計・加工技術では,3次元形状と精度の問題量が増えるだけではない。溶融した 大量のプラスチックを高圧で3次元の形彫部分の狭くて広い隙間の隅々まで瞬時に満遍無 く行き渡らせる (流動性確保) 問題の難度が上がる。それに対応するには,溶融プラスチッ クの抽入口 (ゲート) の形と数,ゲート位置決めの問題,溶融プラスチックの注入時の予 熱と注入完了後の冷却と金型温度の大きな切り替え速度の管理問題など,中小物用金型製 作に比べてより複雑な要素が盛り込まれねばならない。結果的に大物プラ型の設計データ 量は膨大となるが,その全体を理解,管理する設計者も確保せねばならない。プラスチッ クの流路については流動解析ソフトが開発されており,改良されシミュレーション予測の 精度は上昇してきているが,一品生産物であるので金型毎にソフトを応用できる 「熟練ノ ウハウ」 は不可欠である。 要するに,プラ金型はそのサイズに比例して設計,加工難度が高くなり,より上位の人 材,大型設備が要求される。自動車向け大物プラ型の製作が自在になれば,大型化方向に 対応するプラ型の技術発展は1つのゴールに到達したことになるであろう (それとは逆方 向の,ミクロン単位以下の超精密,超微細部品成形用の金型分野における技術発展がある。 またそれらとは別に,金型複合化 (従来別々であった複数の金型の一体化など) の方向が ある。中国におけるこれらの技術発展については別の機会に論じることにしたい)。 12) 2002年度から始まった我々の中国金型生産事情の継続的調査については中小研『経営経済』2003年 以降の各号掲載の年次調査報告書を参照されたい。
以上を踏まえサンプル企業の分析に移る。まず事前調査の経過,確認事項を紹介してお きたい。 イ) 2005年11月,天津地域の日系自動車関連メーカーの部品・金型調達の調査: 日系自動車メーカーの中国進出当初の調達状態を天津一汽豊田についてみておきたい。 天津一汽豊田は2002年に設立され,当初はビオス年産3万台からスタートした。その後 カローラ,クラウン,マークXへと車種を増大させて現在にいたっている。当初のビオス 用部品は35%が日本からの輸入,残り60%が中国進出の日系部品メーカーから,地場メー カー調達は 5 %程度とのことであった13) 。関連する金型については詳細が不明だが,部品 調達と対応して日本製 (日系企業内製分を含む) の調達が基本であったと推測してよいで あろう。その後,同社は,トヨタ本社のプレス金型内製部門の一部を天津の組立工場の近 くに移設して主要なプレス用金型を内製し始めたようだが,プラ型調達の状況を含め外部 に実態は明かさない方針という。それから3年後の2005年11月に実施した我々の天津市域 調査においてトヨタのティア・ワン企業の2社では,次のように金型調達の 「現状」 を聞 いた。担当者は, 〈現地調達でのコスト切下げを考えて中国全土を調査したが,自動車のドア・パネル用 など型締圧力1200 t 以上のプラ型を製作できる地場メーカーは見つからなかった〉(甲 社) 〈金型は重要な中間財である。中国コストでの現地調達を増大させたいが,品質は下げ られない。プラ型で安心して発注できるのは青島の 1 社 (1,000人規模) だけである, いまは小物用どまりだが,指導すれば良くなるものと期待している〉(乙社) と述べていた。 以上2つの指摘は,2005年11月時点までは,天津一汽豊田向けのプラ型調達担当者が, トヨタモデル用の大物プラ型を生産できる中国地場メーカーはいない,と判断していたこ とを意味している14) 。同時期に同様の認識を,上海で家電向けプラ金型・成形一貫事業を 展開する台湾系企業経営者からも聞いた。同氏は「大型設備を購入し競争相手のいないう ちに自動車向け大物プラ型生産に取り組みたい」と意欲的であった。 ロ) 2008年3月,上海地域日系メーカーの地場メーカー製大物プラ型調達を確認: 2008年3月に,上海地域進出の日系完成品メーカーを中心にした見学ツアーに参加した (主催 (社) 大阪府工業協会)。 その際, 2 輪メーカーと複写機メーカーの2社から, 2005 13) 富田健介「日本の金型産業の将来像 中国の製造業の評価も踏まえて 」日刊工業新聞社『型 技術』2002年5月号。類似の状況を紹介しているのは中小企業金融公庫調査部『中国との関係を中 心とした日本の金型産業の動向と方向性』(中小公庫レポート,No. 20035)2004年3月。 14) ちなみに同時期の調査において,天津進出の日系丙社では 「地場企業は〈冷間鍛造〉(高硬度の精 密歯車などの製造法) という加工法そのものを知らない,だから冷間鍛造金型も知らない,作るメー カーもいない」 との指摘を受けた。地場メーカーの生産する金型種類の少なさの指摘である。
年頃から二輪車のボディ用,泥除けカバー用,大型プリンターのカバー用など,型締圧力 1000 t 超のプラ型を地場メーカーから調達している,との説明を受けた。さらに自動車関 連の 1 社からは,ドア・パネル用プラ型成形を地場企業へ試験発注中であるとの話を聞い た。 2005年11月の我々の天津調査の結果とは異なる事態,変化が生じていると感じられた。 そこで,上記の台湾系経営者にその後の状況を問い合わせたところ,「2008年までに,バ ンパー用やインパネ用などを生産する地場のプラ型企業が上海地域に概算で12社ほど出現 し,日系企業が OK できる技術レベルの地場企業もある。私の参入計画は取りやめた」と の答を得た。我々には,具体的にそれらの企業を調査することが課題となった。 まず2008年11月に上海地域の自動車向け大物プラ型の地場メーカー調査を行い,次いで 2011年3月に浙江省台州市黄岩地区で調査を行った。以下,両調査の状況の概略を紹介し た後,大物プラ型地場メーカーの特徴を検討したい。 (2) 2008年11月,上海圏の自動車向け地場大物プラ型メーカーの調査状況 2008年11月の上海地域における実態調査は,シボ加工の上海棚澤八光社と,上海模具技 術協会の協力を得て行われた。上海棚澤八光社によれば,同社の取引先の範囲では,同地 域に日系自動車メーカーも OK する技術レベルの大物プラ型の地場メーカーが 3 社ある。 我々は上海棚澤八光社の協力により,大手米系自動車部品企業傘下の金型メーカー (表中 のC社) を調査した。同社は,上記 3 社のうちの 1 社 (表中のF社) を大物プラ型の2次 外注先としている。また上海模具技術協会の陳佐霖副理事長と董方元秘書長の協力を得て, 地場の大物プラ型メーカー計 6 社を調査した。その中には,上海棚澤八光社が上位 3 社と 評価したうちの 1 社 (表中のA社) や表中でB社としたメーカーが含まれている15) 。 (3) 2011年3月,浙江省台州市黄岩地域の大物プラ型メーカーの調査概要 2009年8月に,吉林省長春市域の一汽 VW 関連企業を対象に部品,金型の生産,調達 状況を実態調査した。その訪問先の1つが,米系の大手部品メーカー (地場企業との合弁) で,一汽 VW の新車向けにバンパー,インパネなどの大物プラスチック部品を成形・モ ジュール化して納入している。工場では金型置場も見学できた。2009年現在,同社が使用 する大物プラ型の調達先は地場金型メーカー 3 社で,うち2社 (F社含む) は上海棚沢八 光社が上位と評価した 3 社に入っていた (残る 1 社は,深市 (華南) の民営メーカー)。 それに続く2010年3月実施の上海市内の調査では,日系 TV 外装用大物プラ型メーカーか ら,日系自動車メーカーが浙江省台州市でバンパー用プラ型などを調達しているとの情報 を得た16) 。上海棚澤八光社と長春市調査の両方で名前が出たF社は浙江省台州市黄岩地区 15) この時の調査概要については斉藤 「上海地域の地場の自動車メーカーと大物プラスチック金型メー カーの現状調査および国内金型企業関連調査」 大阪経済大学中小研『経営経済』第45号,2010年1 月参照。 16) 2009年度の長春,上海における調査の概要については斉藤「東アジアにおける自動車部品・金型の
の企業であり,我々は台州市黄岩地区のF社を含む大物プラ型メーカー調査を次年度の課 題とした。2010年度末の2011年3月に,同市の日系金型メーカー Syonan Co.Ltd の協力を 得て,地場金型メーカー 4 社を訪問調査することができた17) 。 (4)上海圏と浙江省台州市黄岩地区の大物プラ型メーカー 6 社の分析 上記のように,2008年11月に上海圏で 7 社,2011年3月に台州市黄岩地区で 4 社の大物 プラ型 (型締圧力 1,000 t 以上サイズ) メーカーを調査した18) 。以下では,乗用車向け大物 プラ型メーカーを両地域から 3 社ずつ選択して検討することにしたい。しかし両地域の調 査時期にズレがあり,調査の際の不手際もあって同じ調査項目の回答を揃えられなかった。 そのためこれら 6 社についても厳密な比較検討は難しい。大雑把な形での検討になるが, 乗用車向け大物プラ型の中国地場メーカーに絞った研究は少ないので,それなりに意味が あると考える。以下,サンプル集計表に即して検討していきたい。 (イ) サンプル企業の比較・共通点 最初に 「集計表」 に取り上げた 6 社の共通点を箇条書き的に整理してみたい。 ① 乗用車向け大物プラ型生産: 6 社とも乗用車の大物プラ部品 (バンパー,インパネ, ドア・パネルなど) 用のプラ型を生産している。うち5社が乗用車関連向けをメイ ンに金型を生産しているが,D社のみは大物家電向けプラ型生産をメインとする。 ② 資本形態:6社とも民営である。現在も創業者が経営を担っているが,残念ながら, 6社とも創業者に創業事情をインタビューすることはできなかった。 ③ 金型エンド・ユーザー (乗用車完成品メーカー) の国籍:6社とも金型のエンド・ ユーザーには外資系 (輸出含む) と中国地場系の両方があるが (C社の回答は不明 瞭),基本的には欧米系企業との取引が中心で,地場乗用車関連企業との取引比率 調達構造の実証的研究」中小研『経営経済』第46号,2010年12月参照。 17) 2010年度の浙江省台州市黄岩地区における調査全体の概要は,斉藤 「中国浙江省黄岩の自動車向け 大物プラスチック用金型メーカーの実情と北九州の部品・金型供給の近況」 中小研『経営経済』第 47号,2011年12月参照。 18) 2006年2月時点の両地域の金型産業については,すでに天野倫文 (当時法政大学,現在東京大学), 金容度 (法政大学),李瑞雪 (富山大学),行本勢基 (当時早稲田大学,現在高松大学) の 4 氏によ るサンプル企業の共同調査 (NEDO の産業技術研究助成プロジェクトの一環) がある。その成果 は, 4 氏共著の『新エネルギー産業技術研究開発機構研究助成事業・調査研究報告書 中国金型産 業論 中国インフラ産業の発展とアジア国際分業への影響 』2008年のほか,金容度 「市場の 組織化についての事例研究 中国金型産業の事例 」 法政大『経営志林』第44号第4号,2008 年1月,李瑞雪 「中国金型産業集積の市場連結メカニズムと金型企業の市場戦略 地域間比較分 析を中心に 」『組織科学』第42巻第3号,2009年3月,行本勢基 「中国金型産業における民営 企業の生成と発展プロセス 浙江省余姚市・台州市の事例 」 早稲田大学アジア太平洋研究セ ンター『国際経営・システム科学研究』第38号,2007年3月,等で紹介されている。これらは,筆 者の大物プラ型に絞った調査視点と異なるが,同地の金型産業一般をみようした有益な先行研究で ある。
第1表 サ ンプル6社 集計 企業 (業態) A社 (専) B社 (成形一貫へ) C社 (専) D社 (40%成形一貫) E社 (専) F社 (30%成形一貫) 創業 1992年 1980年 1985年 2000年 1999年 従業員型部門 730人 (新工場 120人) 本社610人…設計50人 300人 450人 (成形230人) …うち金型2 2 0人( 3 D 設 計14人) 360人 …設計50人 300人 …うち金型2 0 0 人 ( 3 D 設 計25人) 生産高 4 億 元1人当り 65 .57万元 7 ,500万元 25万元〕 3億元 4億元 88 .89万元 1 .4億元 38 .89万元 1億元 33 .3万元 …うち3 ,000万は成形品 生産型数 720型 1人当り 1 .2型 …うちバンパー用 40型 360型 1 .2型 無数 300型 1 .37型 …うち120型家電内製 900∼2 ,800 tは60型 600型 1 .67型 200型+α 1 .0型 型サイズ 形締圧力 110 t∼3 ,600 t ∼3 ,600 t 350 t∼3 ,600 t ∼2 ,800 t ∼3 ,200 t 納期 (∼ T I) バンパー用 インパネ用 3 ,200 t ∼100日 バンパー用 9 0日 大モノ 4 ヶ月∼4 .5ヶ月 (120∼150日) バンパー用 70∼ 8 0日 インパネ用 90∼110日 バンパー用 120日 バンパー用 1 05∼115日 インパネ用 1 00∼115日 ショットサイクル バンパー 9 0秒 バンパー 1 00秒 バンパー 60∼65秒 インパネ 75∼80秒 耐久性 50万ショット/5年間 30万ショット 20∼30万ショット 30万ショット 50万ショット 加 工 設 備 他 M C 22台 ( 日11+台9+伊2) 日+中+α 6台 (日4+台2) 6台(伊・5軸1 + 台4 +中1 ) 7台 (日3+台3+伊1) E D M 25台 5台 (韓3+日2) 11台 ( 台6+中5) 7台 (韓4+中3) ガンドリル 5台(日+独) 1台 (台) 2台 (香港) 1台 (香港) 他 3 D 測定(米3台), 5 0 t ク レーン他 3 D 測定1台 (台) 3 D 測定1台 (スウェー デン) 3 D 測定1台(中),4 0 t クレーン他 外注利用 M C , W E D N , E D M などの 工 程 設計 な し 金型丸投げ:全体の50% (大モノはF社などへ) 部分工程のみ,丸投げは しない シボ加工:メッキのみ 工程加工 も 丸 投 げ も し な い 小物用金型を丸投げ …外注先10社 金型用途 自動車用:70∼80% 自動車用:メイン+家電 用 自動車用:メイン 家電用(成形まで):メイン 自動車:成形なし,型のみ 自動車用50% 家電:15% 日用品:30% 他 自動車用:100% (2011年は家電用も) 取引先 G M 長春一汽, 天津トヨ タプジョー, V W など1 0 0 社 (三菱電機,富士通な ど,家電向け含む) 日産,マツダ,スズキ, GM , V W , 吉 利,江准ほ か ( トヨタ系から成形の 試験発注) 上海ヴィステオンの取引 先がエンドユーザー ソニー,東芝, L G など ベンツ, V W , B M W ,フ ェ ラーリなど G M , プ ジョー , ルノー , 天 津 一 汽 , ベンツ , フ ォード , 日 産 , ト ヨタ , ホンダ , ス ズ キ , 三菱自, ハ ル ピ ン 汽車 一汽 V W ,一汽轎車,上 海 V W , G W ,フォード, スズキほか 輸出5 0 % 超 (タイ,マレー シア,インドネシア…) 自動車用…ユーザー指 定の成形メーカー経由 家 電 用 … エンドユーザー 直接 輸出25% (タイ,インド)… 技術提携先日系メーカー の名義で,ドア関連用成 形メーカー経由取引が主 国内 50% (20社) 欧州 35% (20社) 欧州 40%,アジア 3 0% 米国 20%,他 計 30ヶ国 成形 経由 70% エンドユーザー 直 3 0 % 国内 6 5 % (外資系部品2 社が1/2) 輸出 3 5 % (独 4 0 %,欧 州ヴィステオン 2 0 % , 仏 13%) 調査日:2008 .11 .3∼6 A ,B,C社,2011 .3 .7∼19 D,E,F社
は低い。特にD,E,Fの 3 社の場合,地場乗用車の代表的メーカーの1つである 吉利汽車の組立工場が台州市域と隣接の臨海市の双方にあるが, 3 社とも吉利とは 取引していない19) 。E社によれば,欧米企業との取引では一度技術レベルが認めら れると登録され継続的取引となる点がメリットである,他方,地場乗用車メーカー との取引では車種変更ごとに 「入札」 応募になり安定的でない,という20) 。B社は 日本金型メーカーとの技術提携前は地場完成車メーカーが取引先であったのだが, 提携後は,この日系メーカーの仲介を得て日系企業や上海 GM 等との取引を拡大 し,アジア地域へは日系メーカー名で金型輸出を増大させている。 ④ 保有設備では,それぞれ全加工工程を自社内で完遂できるだけの種類と量の大物加 工設備を揃えている。台州市黄岩地区の 3 社の保有台数はA社に比べ絶対数でも従 業員数でも少ないが,プロジェクト・チーム制をとって加工設備の使用時間を調整 し合い,「効率的に」 稼働させているようである。 ⑤ C社を除くと,大物金型の丸投げ外注 (「二次外注」) をしていない。C社は大型 MC を 1 台しか保有しておらず,受注分の50%をF社などに2次外注している。F 社の外注は小物用だけである。A社は近隣地域に 「レベルの高い外注先がない」 と 言い,D,E社は 「品質保証ができなくなるので外注しない」 と言う。 (ロ) サンプル企業相互の比較・相違点 ここでは,サンプル 6 社の個別的特徴を見ていくことにしよう。特に,上海棚沢八光社 が上位企業と評価したA社とF社には注目したい。 ① 両地域の事業環境の相違:広域上海圏は,隣接する江蘇省や浙江省のかなりの部分 を含み,6社ともそこに属するが,地域ごとの事業環境の違いを最初にみておこう。 A社は常州市,B社は蘇州市,C社は上海市内と上海市から西方に工場立地してい る。上海市や隣接する江蘇省昆山市・蘇州市周辺には一定規模の金型メーカー集積 があるが,A社までいくと近隣に金型メーカーの集積がない。他方,D,E,Fの 3社が所在する台州市黄岩地区は北側の余姚市,寧波市と並んで 「中国模具の郷」 の1つと称され,3,000社を超える金型メーカーが集積し,中小メーカー間相互の 工程分業も盛んに行われているという。杭州市に向かって隣接する地域は地場家電 製品などの機械製品の産地であり,南方に隣接する温州市域は世界的な日用雑貨の 生産地である。また,黄岩地区自体に3,200社ほどの 2 輪・ 4 輪向け自動車部品関 19) 台州市域全体では,2006年時点で約3,200社の自動車部品メーカーがあり,吉利のほかに浙江吉 奥汽車,浙江彪馬集団等の地場小規模自動車メーカーが5社, 2 輪メーカーもある (朴泰勲,2010 年10月29日,大阪経済大学中小研グループ研究会報告より)。 20) 今回の一覧表に掲載しなかった黄岩地区の4社目は,奇瑞汽車が最大の取引先で売上高に占める 比率は40%に上る。奇瑞を選択した理由は年間開発モデルが7∼8と多く,金型発注量が多い事に ある。他方,毎回入札応募で受注するので技術蓄積にはマイナスであり,かつ,設計変更が欧米系 に比べてかなり多い (最大50回超を経験) のもマイナスと述懐している。因みに,入札に際しては 米系,台湾系,地場系などの部品メーカーと共同で参加するのが基本であるという。
連メーカーが集積しており,これらが大きな金型需要を生み出してきたことは推察 に難くない。 ② 業態と創業年: 6 社の業態は第 1 表に紹介のように,A,C,E社がプラ型専業メー カー,B,D,F社がプラ型メインで部分的に成形一貫のメーカーである。後者の 成形一貫メーカーも金型専業で先行し,後に成形事業が追加されている。追加の理 由は,B社の場合は専業では経営困難との判断からだが,D社とF社は顧客要求に 応じて,と根拠が異なる。 創業年ではB社が1980年と最も古く,E社の2000年が最も若い。創業事情の詳細 はA社を除き不明である。A社に関しては潘志仁氏の調査がある21) 。それによれば, 1990年に近隣の国有企業金型部門向けの金型部品加工で民営企業を立ち上げ,次い で安価な金型 (簡単構造のプラ型と思われる/斉藤) を製作,1992年に取引先国有 企業のプラ型部門を請け負うことで本格的なプラ型メーカーとなった。A社の技術 向上戦略は,近隣の国有電子機器企業などから金型工程別に10数人の中核技術者を 引き抜いた点に特徴がある。さらに,日系企業からベテラン営業者を引き抜いて日 系ユーザーも獲得し,日本企業の資本参加 (2005年) を得て自動車向け大物プラ型 の技術指導も得た。 B社の場合は,A社とは異なり,地場家電向けプラ型専業で自社内の試行錯誤の 経験を積み上げて技術を高めてきたという。だが地場家電向けプラ型が10年間に40 %超も下落する厳しい価格切下げを経験し,地場自動車メーカー向けへと取引先業 種を転換した。同時に,2000年前後から金型・成形一貫へと業態転換も図り,生産 を拡大させて工場を移転し5棟体制となった。また,技術力アップを目指して日本 の金型メーカーと技術提携を結び,2008年11月現在,日本人 3 人が滞在して技術指 導している。この提携関係を通じ日系ユーザー,欧米系ユーザーへと取引が拡大し 輸出も増大した。 E社は最も若い2000年に設立された企業だが,急速に事業を拡大しつつある新興 の金型専業メーカーである (中小物用プラ金型工場を新規建設中)。創業経営者は 浙江大学工学部設計科大学院を卒業しており,社長自らがその英語能力をもって 2004年頃から日用品∼自動車部品まで幅広く欧州市場を開拓し急成長中である。 C社は米系大手部品メーカーの金型部門が分離・分社化した企業で,地場メーカー とは明らかに異なる出自を持ち,親会社との緊密な関係の下にある。同社内でも大 型金型を生産するが,設備は少なく,むしろ親会社が進出欧米系企業から受注した 部品成形のための金型を効率よく調達する金型商社的機能が事業の過半数を占める ようだ。 残るD社,F社の場合は,A社のように〈設備も,技術者・営業マンも買う〉と 言う手法でもなく,またB社のように蓄積してきた技術を基に外資の技術指導で技 21) 潘志仁『中国企業のもの造り 参与観察にもとづいて 』第3章,2007年,白桃書房。
術力を一挙に引き上げるという手法でもないようだが,詳細は不明である22) 。 ③ 生産型数の相違:数値不明のC社を除く5社の生産実績の量的側面をみてみよう。 金型サイズ別構成の違いを無視して 5 社を単純比較すると,年間生産型数の絶対量 で最多がA社本工場の720型 (610人で 1 人当り1.2型),最少がF社の200型+α約 (200人で 1 人当り 1 型) である。 1 人当たり生産型数ではE社の1.67型 (360人, 600型) が最も多く,F社の 1 型が最も少ない。E社の場合,日用雑貨用金型 (小 型で簡単形状が多い/低単価) が売上高の30%を占めるので,単純合算の金型数量 が他社より多くなるのは当然である。逆に,F社は100%乗用車向けプラ型で,大 物用をメイン ( 1 プロジェクト1,000万元が受注の目安) としているので相対的に 生産する金型数量が伸びないのであろう。 ④ 生産金額:従業員数・金型サイズ別構成の違いを無視して単純比較で総生産金額を みると,A社とD社が 4 億元 ( 1 元=15円換算で60億円) で最も大きく,B社が 7,500万元 (11.25億円) と最も小さい。金型関連従業員数で 1 人当り単純計算する と,D社の88.89万元 (約1,300万円) が最も多く,B社の25万元 (375万円) が最 も少ない。A社は65.8万元,F社の33.3万元の約 2 倍である。この大きな違いの根 拠は不明である。 ⑤ 納期 (正式受注から T1 まで):納期は生産性を示す1要素である。ここではイン パネに比べて形状的な差異 (金型製作上の要求ポイントの差異) が小さいバンパー 用金型で各社を比較してみる。D社が70∼80日と最も短く,次いでB社の90日,A 社の100日,F社の105∼115日,E社の120日なる。この順位は,ほぼ創業年の順位 と重なっている。C社の場合は,全体の外注率50%で,大物金型は自社製作よりも F社などへの外注が主とされている。その際の納期は120日∼135日と 6 社中最も長 いが,担当者は 「金型外注で最も重要なのは品質で,納期は長くてもよい」 と言う。 ⑥ 金型ショットサイクル:同じくバンパー用金型を基準に品質指標の1つである金型 のショットサイクル (金型で連続成形する際の,製品1個の成形時間 (秒単位)) で, 各社を比較する。F社が60 ∼65秒で最も短く,次いでA社の90秒,E社が100秒で 最も長い。B,C,Dの3社については不明であった。 ⑦ 金型の耐久性:品質指標の1つである耐久性は保証ショット数で表現される。A社 とF社は50万ショット,C社,D社,E社は30万ショットである。ただしその多寡 は,顧客の金型メーカーへの能力評価と読み取れる一方で,個々の金型では顧客要 求の仕様 (予定ショット数など) に合わせて変動しうる。単純に比較基準としては 使えない。 ⑧ 加工生産設備:C社を除く各社は全工程を自社内で完遂できるだけの大型設備の種 類と量を保有するという (大型は外注しない)。だが加工性能では違いがみられる。 22) 前掲注18掲げた金,李,行本 3 氏の論文によれば,台州市の民営金型企業の発展においてもA社の ような技術者“引抜き”が多かったようである。
一般的に欧州製や日系製が精度・スピードで台湾製にまさり,台湾製は中国製にま さると評価されている。MC でみると,A社の22台が絶対数で圧倒的に多く,かつ 高速・高精度の日本製と伊製が過半数を占める (計13台)。D社とF社は保有数が 6台と 7 台で日本製をメインに台湾製という構成であるが,E社の 6 台の内訳は 〈伊製 5 軸 1 台+台湾製 4 台+中国製 1 台〉と相対的に加工性能で劣ると思われる。 なお, 1 人当り MC 台数では,A社0.036台とF社0.035台はほぼ同じである。EDM でも,A社の25台 (台湾製12台+中国製10台+スイス製2台+伊製1台) は量的に 圧倒的で,それに続くのはE社の11台 (台湾製 6 台+中国製 5 台) である。D社は 5台 (スイス製 2 台+韓国製 3 台),F社は 7 台 (韓国製 4 台+中国製 3 台) であ る。E社は,他社に比べると MC 加工より EDM 加工の比重が高いと思われる。 総じて,A社の大型金型加工設備の総量と性能は,中国総合家電メーカートップの 海爾の金型内製部門の大型設備揃えを超えていると言われ,中国第1位とも言われ る。なお,B社は,大型設備揃えでは中国地場企業内で第10位と自己評価していた が,具体的な根拠・内容は未確認である。 ⑨ 金型輸出先の相違;金型エンドユーザーである乗用車完成品企業のレベルでは,全 体的にみて欧米系企業の比率が高い事はすでに指摘した。しかし輸出先で見ると, A社とB社はアジア諸国向けがメインであり,D,E,Fの 3 社は欧州向け比率が 最も高い。ただしD社の乗用車関連の金型輸出は BMW (ドイツ) 向けだけで,メ ンテナンスは BMW の取引先金型メーカーが担当している。E社は欧州向け輸出 金型のメンテナンスについてはスペインの金型メーカーの協力を得ている。F社は 品質管理・保証を徹底して行っているので,顧客がトライの立ち会いに来ることは 少なく,またメンテナンス等アフターケアの回数も少ない,という。因みに,F社 の売上高65%の国内向けの 2 分の 1 は外資系部品メーカー 2 社であり,その 1 社は 我々が調査した長春の米系企業,もう 1 社はC社である。両社とも主たる納入先は 在中の VW 社,GM 社である。 (5)小 括:2010年前後の乗用車向け中国地場大物プラ型メーカーの到達点 以上,2010年前後の中国地場の大物プラ型メーカーのサンプル企業 6 社の技術レベルを, 取引関係も考慮しながら検討してきた。以下,補足を加えながら中国地場の大物プラ型メー カー第一次分析としてまとめておこう。 第1に, 6 社とも乗用車向け大物プラ型の生産者 (うち 3 社は成形部門を追加) である。 設備的には,自社内で設計から加工,金型への組立・仕上げまで完結できる大型設備と人 材を保有する民営地場プラ型メーカーである。A社も台州市黄岩地区の 3 社も,大物プラ 型を外注していない。A社の場合は,必要設備が大型なことも関連して,近隣に十分な技 術レベルの企業がなく外注できない状況にある。他方,巨大な金型集積地に立地するD, E社は“丸投げ・二次外注”しない理由に品質管理の徹底を挙げ,品質重視の経営姿勢を 強調している。
F社の丸投げ外注対象は,あくまでも,モジュール部品用金型の一括受注に際して含ま れる小物用金型だけである。これは,F社が 「 1 プロジェクト,1,000万元という目安」 で自動車用大物プラ型を受注しプロジェクト・チーム編成で生産するという経営戦略によ ると思われる。E社の場合は,もともと小サイズの日用雑貨向け金型比率が高く絶対量も 多い。セット受注した際の中小サイズ金型の生産は工場新設で対応できるというのが,E 社が丸投げ外注しないもう一つの理由であろう。D社,B社については調査漏れである。 他方,C社は扱う金型の50%を外注し,インパネ用やバンパー用などの大物プラ型をほ とんど丸投げ (製品図面で) 外注している。外注先は中国内のF社などのほか日本やイタ リアのような遠隔地の企業も含み,品質がよければ納期は長くても問題ないとする。この 長納期容認は,対象金型が新規開発・投入するモデル用ではなく更新型(1番型以降)で あり,すでに1番型が存在し稼働中あるいは使える状態にあることを窺わせる。 第2に,品質要求の高い外資系メーカーから継続的に大物プラ型受注を実現するには, それに対応できるだけの高い加工技術レベル (設計,加工,仕上げ,品質管理・検査にわ たる) を保有しているはずである。以下では外注比率の高いC社を除く 5 社の技術レベル を,いくつかの具体的指標の有意性を確認しつつ,比較検討してみよう。 (イ)年間生産型数・ 1 人当たり生産型数:企業ごとに従業員総数が異なり,かつ 5 社の 生産プラ型のサイズ構成が不明である。そのため年間生産型数も単純割算の 1 人当り生産 型数もそのまま技術レベルの比較指標として使うことはできない。 (ロ)保有生産設備と加工精度:各社保有設備は大物プラ型の生産に必要な種類を揃えて いると思われ,2010年調査時点では 5 軸加工機保有も例外的である23) 。保有設備の総合的 な性能レベルでは日本製 MC を揃えるA社とF社が他3社より上位にあると思われるが, 5軸を有するE社との格差は明瞭ではない (調査当時,同地では 5 軸加工機は通常のMC 3台分に匹敵する加工量といわれている)。要求公差 (精度) への答えは教科書通りで5 社の間に差が出なかった。 (ハ)バンパー用金型基準の比較:バンパー用金型の製作を共通基準にして,①納期 (正 式受注から T1 までの期間),②ショットサイクル,③耐久性の3点で比較してみた。バ ンパー用金型を比較基準とするのは,型締圧力で同サイズのインパネ用プラ型に比べて製 品間のデザイン仕様の格差が小さいと思われるからである。 ①納期は,設計技術,加工技術 (金型部品組立,仕上げの工程含む),工程全体の管理 など,“もの造り”技術の総体的水準を示す指標の1つである。D社の70∼80日 (平均75 日) が最も短く,B社の90日,A社の100日,F社の105∼115日 (平均110日),そしてE 社が120日で最長となる。納期の長短は加工設備の品質・性能ではなく,社歴の長さとほ ぼ反比例している。それは,技能・技術の蓄積が金型の生産効率に影響することを示唆す るのかもしれない。その際にはバンパー用金型を何時から生産し始めたかも考慮すべきで, 23) 2013年12月台州市黄岩模具工業協会の聞き取りでは,同地区全体の2013年度の 5 軸 MC 導入台数 は60台と急増している(次節参照)。
B社は,社歴は最長だが自動車向け金型の取り組みはD社より遅れたのではないかと思う。 ②ショットサイクルは,金型の成形・作動テンポを示す。成形では,プラ型の雄型と雌 型が合体・閉じられてバンパー形状に形彫された隙間を作り,その隙間へ溶融プラスチッ クがゲートを通って高圧で射出・注入された後,金型の冷却によりバンパー形状への成形・ 固化が完了する。冷却後,速やかに雄型と雌型を開いて成形品 (バンパー) を取りだすの だが,その際,雄・雌の双方合わせて数百個の金型部品が,一方向に 「開く」 力に合わせ, できたての成形品の形状を破壊・損傷しないようにそれぞれの役割に沿って順序通り時間 差をもって (アンダーカット”部分では斜め,横・縦方向に) 作動し,金型から成形品 を取り外せなければならない。型締→射出→成形品取出し→次の型締というショットサイ クル 1 単位の長短は,以上のような金型の作動構造の構成 (さらに,型締時・射出前の予 熱方式,ゲートの位置・形・数,成形後の冷却構造,成形品取出しの抜き勾配,等も関わ る) の良し悪しを反映する。回答のある 3 社のうち,E社は100秒,A社は90秒,そして F社が60∼65秒で一番短い。この数値比較の意味を単純化していうと,F社の金型の作動 構造がA社の1.5倍良質である,となる。 ③金型の耐久性は金型の 「品質維持保証期間」 を指し,その金型1体で同一形状品を成 形できる回数で表現される。A社とF社が50万ショット,D,E社が30万ショットである (B社不明)。この限りでは,A社とF社の金型がD,Eの3社製より堅牢 (型鋼材,型作 動構造,メンテナンス性などで良質) で,多くの成形品を作りだすことになる。ただし, 「顧客要求」 が30万ショットどまりであれば,D,E社の金型で十分となる。 (ニ)以上のバンパー用金型を基準にした①∼③の検討からすると,上海棚澤八光社の評 価と一致して,A社とF社の金型が品質で他の4社製より相対的に上位,したがって技術 レベルも上位と言えよう。中でもF社製金型の品質が最良と言ってよいであろう。F社の 納期はA社に比べ10日 (10%) ほど長いが,その時間差は量産が始まればA社製の1.5倍 のショットサイクル=成形スピードによってやがてカバーされると思われるからである。 第3に, 6 社の取引先の特徴を,中国の乗用車生産の2層分解状態との関わりでみてお きたい。すでに確認したように, 6 社とも金型の主なエンドユーザーは国内地場自動車メー カーではなく外資系自動車メーカーである。これらサンプル金型企業は外資系メーカー層 の支援産業群に属していて,地場乗用車生産の量産品質向上には貢献していない,といっ てよい。 6 社が地場乗用車メーカーを選択しない理由の1つは,上述のように地場メーカーとの 取引が 「入札」 方式で不安定だからである。第2に,地場メーカー相手では価格が低い, そのうえ第3に,代金支払いでは《受注決定時3+T 1 時3+検収終了=納入時3+予 定成形数量終了時1》の分割払いで最後の支払い 1 が意味無く遅延し,時に不払いとなる, 第4に,設計技術のレベルが低く学ぶところがなく,かつ設変が多すぎる,などの事情が 挙げられている。他方,外資系メーカーとの取引では,一定レベル以上の技術力を認めら れれば継続的取引となり,支払いもリーズナブルで,技術的に学ぶことも多いという。サ ンプル企業の経営者は,明確な理由を持って地場乗用車メーカーとの取引を避け,品質上
位の外資系乗用車部品市場向け生産支援を選択していることがわかる。 なお,ここでの外資系メーカーとは,欧米系,日系を指している。黄岩地区の 3 社は輸 出を含めて欧州系メーカーとの取引がメインで,日系企業との取引は少なく,さらに韓国 系企業との取引は例外的にしかない24) 。他方,A社の場合,2008年の輸出先地域は東南ア ジアが中心で欧米向けは少ない (輸出先エンドユーザーも東南アジア進出の日系,欧米系 企業と思われる)。B社は,もともとは地場自動車メーカーとの取引で自動車分野へ参入 したが,日系金型企業との技術提携後は日系自動車メーカーとの取引を増やし,輸出も提 携先日系企業の名義を借りて増大させている。 第4に,日本製のバンパー用金型と,①納期,②ショットサイクル,③耐久性,④その 他で,品質比較をしてみよう。日本の乗用車向け大物プラ型の独立系メーカーは,全国で 5社ほどといわれるが,その 1 社 (プラ型専業,従業員214人,年産203型うち大物100型) のバンパー用金型について聞き取りをした (2011年6月)。バンパーでもサイズ・形状の 違いがあって,①納期は60∼90日 (単純平均75日),②ショットサイクルは30∼50秒 (単 純平均40秒),③耐久性は顧客要求の仕様に対応して20∼50万ショットである。耐久性の 上限は50万ショットで上記A社,F社と同じであるが,ショットサイクルの単純平均40秒 はF社の60秒より20秒も短い,つまり1.5倍も速い。また納期の平均75日はA社の100日よ り25日も短い。①∼③の比較をまとめると,最大保証ショット数は同じとしても,納期で 25日,ショットサイクルで20秒もこの日本製が早い。この比較からは,グローバル競争で, 1秒でも早く,かつ安定的に新モデルの市場投入を続けようとする乗用車メーカーの要求 により良く対応できるのは,日本の金型メーカーである,ということになる。またサンプ ル企業では確認漏れだが,中国のプラ型産業では成形バリが普通で,日本の場合は成形バ リは「絶対に不可」である。さらに全くオリジナルなモデル用新規金型開発も地場メーカー には難しいだろう。残るは価格差であるが,調査時点では金型単価の直接的調査はできな かった25) 。 この日本の大物プラ型メーカーは4年ほど前,上記のA社に試験的に丸投げ発注してい る。その経験から次のような評価を述べている。 「同じ日本製工作機械,同じソフトを使用する機械加工では,中国地場メーカーの“表面 的納期”は日本メーカーに追いついてきた。そして,試験サンプルまではその要求精度を クリアできる。しかし本当の品質を示すショットサイクルや耐久性は量産に入らないとわ からないもので,中国製金型には量産中断を惹き起す様々な欠陥に悩まされた。金型品質 への理解不足が根本にあり,金型設計レベルの低さ,“作りこみ”の生産ノウハウ不足, 24) 2012年3月の調査では,現代自動車は中国拠点である北京市周辺でも地場の金型企業には全く外注 せず,韓国からの輸入と随伴・在中の韓国企業からの調達でまかなっているという (2011年北京模 具協会単加詳秘書長談。斉藤「中国上海経済圏と北京市における金型生産および北九州地域の自動 車用部品・金型生産の実態調査」中小研『経営経済』第48号,2012年12月参照)。 25) 黄岩地区では,インパネ用金型が1,500万元前後,バンパー用が1,000万元前後と言うのが参考数値 (同地の日系金型メーカー Shonan Co. Ltd. 金澤隆志代表の指摘)。
金型材 (大型鋳物) の品質不良,市販の中国製金型部品の品質不良,等の問題が判明した。 トータルな品質・コストでは日本製がまだかなり優位で,一時はイニシャルコストの安さ に飛びついた日系メーカーが,日本でのプラ型調達へ回帰し始めているのは当然である。」 しかしながら上記のように中国事情を知る金型メーカーは日本では少なく,こうしたア ジア製金型の事情を知らない多くの国内金型メーカーに対して日本の金型ユーザーは,依 然として「品質では同等となったから,アジア価格で発注する,支払条件は検収終了後の 手形一括払い」という不公正な取引を仕掛けているのが実情ではある26) 。 第 5 に,以上のサンプル調査の検討から,2010年前後の中国における乗用車向け大型プ ラ型産業の到達技術についてまとめると次のようになろう。中国的市場環境の中,地場の 上位大物プラ型メーカーが,相対的に短期に欧・米・日の乗用車メーカーが外注先と認め るまでに技術力・営業力を発展させてきたことを確認・評価せねばならない。依然として 日本の金型メーカーとの間に技術的格差・品質格差が存在するが,中国市場向け外資系乗 用車の更新用大物プラ型生産者としては支障がない技術力レベルに達し,その支援企業群 に加わった。これら上位プラ型メーカーは,地場乗用車メーカー向けとは区別された市場 で取引していることを自覚している。 他方,他の多くの地場プラ型メーカーは,地場の乗用車メーカーを顧客とする市場で取 引をしており,〈入札→価格競争・価格低下→利益出ず→設備投資困難+人材確保・育成 困難→技術レベル上がらず→入札……〉という取引条件の悪循環から抜け出せない。金型・ 部品メーカーの量産技術が上がらなければ,結果的に,地場の乗用車メーカーも部品品質・ 組立効率は上がらず完成車の品質も上がらない,との悪循環を共有することになる。 以上のような中国乗用車市場の2層分解状態が今後どのように変化していくのか,いわ ゆる“ボリュームゾーン”(増大する都市部中間所得層) が形成する新たな乗用車市場で 外資系と地場系の完成車メーカーが「競合する」市場がメインとなり,部品,金型などの 支援産業も同一市場で競合するようになるのか,さらに金型生産・金型調達の側面から観 察,追求していくのが課題となった。 Ⅳ.今後の調査課題 2013年度の中国自動車向け大物プラ型企業の調査が 示唆する「新たな変化の兆し」 2013年度に行った中国における我々のプロジェクト調査結果の一部をここに追加してお きたい。2013年12月に台州市黄岩地区の地場金型企業第3回目の調査を,さらに2014年3 月に天津と大連の日系進出金型企業中心に9社の調査を行った。そこでは「新たな変化の 26) 日系金型ユーザーが日本の金型メーカーに対し“不当な”取引を色々な形で仕掛けていることにつ いては,斉藤 「アジアにおける金型供給構造と日本の金型産業 中国,台湾,韓国,日本の金型 産業の現状比較から 」 国民生活金融公庫『調査季報』第62号,2002年8月,斉藤 「金型技術の 国際移転と知的財産権―技術移転の位相別事例の検討―」 日本中小企業学会『中小企業と知的財産』 同友館,2005年6月所収などで指摘してきたが,“グローバル競争の激化”を口実に是正はあまり 進んでいないようである。