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中小企業の発展と政策支援

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2001年3月

海 堀 昇 平

中 小 企 業 の 発 展 と 政 策 支 援

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目 次

1.は じ め に

(1)世界各国で関心が高まっている「中小企業」……… 1

(2)市場経済移行国における「中小企業」の重要性……… 2

(3)本資料の目的について……… 2

2.世界各国の中小企業支援の取り組み

(1)世界の産業の趨勢……… 3

(2)市場経済諸国で役割が更に高まる「中小企業」……… 5

(3)各国の中小企業支援の目標……… 6

(4)参考事例(英国における中小企業政策への取り組み)……… 10

(5)最近の課題、関心……… 12

3.市場経済移行国の政策担当者の関心及び疑問への回答

(1)中小企業に対する社会一般の認識……… 13

(2)各種行政手続き・規制の簡素化と適正化……… 14

(3)政策企画及び実施に当たり把握しておくべき

「市場経済における中小企業の経営」……… 16

(4)経済構造改革と中小企業政策の関係……… 19

(5)地域における「産業の芽」を作ろうとする動きと

これらへの支援……… 20

(6)中小企業政策の企画・実施に関して必要となる事項……… 21

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1.はじめに

(1)世界各国で関心が高まっている「中小企業」

今、世界中で、開発途上国、市場経済移行国及び先進経済国を問わず、「中小企業」が注 目されている。それぞれの国で中小企業のサクセスストーリーが話題になり、中小企業群 の活躍により地域の活性化が行われている。また、各国間又は国際機関の会合で「中小企 業」と言うテーマが取り上げられ、ODA(Official Development Assistance)の支援目的とさ れることも増加してきた。これらの背景は、「各国民経済の活性化、発展において果たして いる『中小企業』の役割は大きく、その存在は必要不可欠である」との共通認識が高まっ てきたことにある。具体的には、雇用機会の提供、地域経済の安定・発展、多数の企業の 競争・協調による経済効率性の向上、事業範囲の拡大、イノベーションによる高付加価値 化への展開などが実証されてきている。 最近では、中小企業のダイナミックな活躍として、アメリカと日本における次の事例が 注目を集めている。 イ)アメリカ・シリコンバレーにおけるハイテク企業 最近のアメリカ経済は長期的に好景気が持続し、力強い経済成長をしているが、こ の原因の1つとして西海岸のシリコンバレーのハイテク企業が挙げられる。これらは、 技術者又は研究者などが IT(Information Technology)産業においてベンチャー企業を起 こし、株式を公開し、わずか数年でビッグビジネスに成長した。更にこれらの企業の 活躍でアメリカの競争力が高まり、経済成長率を増加させるというリーディング産業 分野の役割を果たしている。 ロ)日本で継続的に出現するグローバル企業群 第2次世界大戦後の「荒廃」の中で技術者などが起こした中小企業が、電気製品の 「ソニー」、「パナソニック」、自動車の「ホンダ」という今や世界中で有名なグローバ ルなビッグエンタプライズに成長した。 また、比較的に狭い市場分野において、独自の技術力をもって世界のシェアの 80%を占 めるに至った中小企業が増加してきている。例えば、自転車のギア、ブレーキ部品を製造 しているが、他の製造業者のものと比べて格段の品質、性能が良いため、世界中の自転車

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メーカーから注文を受けている。 これらのことから、市場経済における活動の原点は、中小企業が生まれ、ダイナミック に成長(その過程で企業の倒産、廃業は必然的に発生)することにあるという認識が高ま ってきている。 起業家が企業を設立し、事業を開始し、経営資源(商品・サービス、資金、販売、経営 管理などの経営ノウハウ、知識、技術、情報、他の経済主体との関係構築、市場情報など) を外部から吸収又は交換し、これらを蓄積し、環境変化に対応しながら事業継続、拡張し ていく中小企業の活動こそが国民経済の発展の大きな原動力である。 (2)市場経済移行国における「中小企業」の重要性 計画経済から市場経済に移行している各国において、「コメコン体制の下で、計画的に設 立され、温存されてきた国営企業」は、グローバル競争市場のもとでリストラを余儀なく され、生産量の大幅な削減(最悪の場合は「事業の廃止」)及びこれに伴う大量の失業者が 発生し、ひいては地域経済の疲弊が数多く見られている。 一方、経済活動が基本的に認められ、個人が自らの才覚、努力と自己責任をもって企業 を起こし、自らの生計と共に働く従業員の生計を立てる活動すなわち「中小企業」の事業 活動が始まってきている。 このように、市場経済への円滑な移行のためには、国営企業のリストラに見合う程度以 上の事業活動及びこれに伴う雇用の確保、社会の維持発展に必要な税収の確保が必要不可 欠であり、中小企業の成長発展又は外資企業の誘致以外には方策がない。しかしながら、 外資企業の誘致については、その企業の事業活動状況及び方針に左右されるという「他律 的」性格を持ちので、これのみに依存することはできない。 したがって、企業を起こし、活動していくという「中小企業」の役割は極めて重要であ り、その活動のインセンティブを確保し、適正な競争条件と環境の下で、企業の競争力を 強化していく企業活動の促進がメインの目標となる。 (3)本資料の目的について さて、日本においては中小企業が経済発展の基盤として発展しており、中小企業対策の 実施経験が最も長い国の一つとされていることから、主にアジア、東欧(セントラルヨー ロッパ)などで、中小企業政策構築の支援などの業務を行っている。このような経験を踏

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まえて、「中小企業の発展と政策支援」について、主にロシアをはじめとした市場経済移行 国を中心として整理することは有益であると考えられる。 この整理に当たってのポイントは次の3点とした。 イ)中小企業者自身の経営努力 ロ)中小企業に経営資源を提供、連携補完する社会組織等の役割 ハ)中央及び地方政府の果たすべき役割 一国が市場経済体制を立ち上げていくことは、政策担当者に多大な労苦を要請するとと もに、中小企業の経営者及び従業員が経営ノウハウ、技術、技能を身につけていくために は、長期間にわたる努力が要請される。 もとより、中小企業が生まれ成長発展することやこれらを支援することについては、各 国が文化、社会状況、歴史など固有の条件を持ち、更にそれぞれの経済発展段階も異なる ことから、多様性が求められてきた。 しかしながら、経済、経営の原理・原則、市場経済における経済主体に働く「諸力」等 市場経済メカニズムなどには共通するものが多いと思われる。これらを踏まえて、市場経 済移行国の政策担当者を対象として、その疑問、悩み、先が見えない不安に答えることに 役立ち、「明日から何をすべきか」を考える上での指針(「明日への行動指針」)を提供する 目的で、本資料をまとめたものである。

2.世界各国の中小企業支援の取り組み

(1)世界の産業の趨勢 − グローバル化の進展 − 貿易、投資、資本の自由化など制度面での変化による「ヒト、モノ、カネ、技術、情報」 の国家間移動の量・範囲・スピードの著しい増加、最近の IT 革命などによる通信面の革新 により、「世界最適地生産、販売」の動き、すなわちグローバル化が急激に進展している。 世界中の企業が労働集約的製品、資本集約的製品、技術集約的製品を問わず、世界中に 生産の場、市場を求めるグローバル競争が激化している。この結果、例えば、高品質かつ

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低価格の商品が海外から急激に流入し自国の産業が「壊滅的に」打撃を受けているケース がある。また、豊富な労働力その他経営資源を求め、低コスト生産・開発を行うために、 海外から多大な投資が行われ、生産基地が急ピッチで構築されている。 具体的な事例として、世界有数の「モノ作りの場」の集積が中国沿岸部に次のようにで きつつある。これらの集積地で生産される製品は、東南アジア、中東、中南米、更に米国 で低価格品を中心にシェアを伸ばし、日本企業にも脅威になりつつある。 イ)広東省に広がる珠江デルタ地域 1980 年代の香港系企業の進出に始まり、日本系、台湾系、米欧系、韓国系などの企 業が労働集約的な輸出向け組み立て拠点を設立し、今や世界的な電子部品・電気製品 組立産業の集積地が形成された。 ロ)上海及び周辺地帯にまたがる長江デルタ地域 主に国内市場を狙った外国投資が急増し、従来の繊維や自動車などに加えて半導体、 パソコン、携帯電話などハイテク関連や資本装備的な投資が増加し、産業集積が形成 されている。 ハ)「中国のシリコンバレー」とも呼ばれる北京の中関村地区に広がるソフトウエア開発 や IT 関連の研究開発機能の集積 北京大学など 70 以上ある大学の研究成果を事業化する千社以上の産学連携企業群と、 優秀で低賃金のソフト系人材に目をつけた7千社とも言われる内外の IT 企業群による 集積が形成された。 これらの状況に対応するために、各国は自国の産業の競争力を高めるとともに、海外か らの投資を誘致するため、自国の事業環境の改善に努めている。 − 知識型経済への移行 − また、企業の競争力要因に関しては、従来の経済学のいう生産資源、すなわち土地、労 働、資本から「知識労働の生産性」へとシフトしてきている。更に、製品の付加価値が従 来の大量生産製品からハイテク技術を活かした革新的新製品へと比重を移している。 これらを踏まえ、各国は自国の技術開発基盤の整備、技術者の育成、技術ノウハウの相 互活用、新商品の事業化を可能にさせるリスクマネーの供給体制という新たな課題に取り

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組むことが求められている。 (2)市場経済諸国で役割が更に高まる「中小企業」 − 量的割合 − 中小企業が各国経済に占める割合は、次のとおりであり、量的にも大きな役割を果たし ている。 イ)事業数 約 99%以上(日本、アメリカ、ドイツ) ロ)従業員数 日本 66%、アメリカ 53%、ドイツ 68% ハ)付加価値額 日本 55%、アメリカ 51%、ドイツ 45% − 質的役割 − 中小企業が存立する分野としては次のとおりであり、多様な財・サービスの提供、分業 構造の形成、魅力ある雇用機会創出の担い手、地域経済社会発展の担い手として、また、 市場競争の「苗床」、イノベーションの提供など国民経済に大きな役割を果たしている。 A.製造業 a)歴史的に形成され、蓄積されてきた個人の技能を使用して製造する製品(伝統工芸 品など) b)原材料、商品の移動可能時間が制限されている製品(食料品など) c)加工、製造の種類が多く、それぞれが専門分野に特化することにより経済的に効率 が向上する分野(自動車、電気製品など部品・加工のサポーティングインダストリ ー) d)市場規模が小さく、大企業では進出しづらい製品分野 e)革新的な企業家がリスクを負担し、新技術の製品化を行い、新たな業態開発をする 分野 B.流通業 多種の製品を広範囲な地域において、メーカーから消費者まで効率的に流通させる ためには、取引連携がされている多数の中小企業の存在が不可欠である。

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C.サービス業 事業所用サービス及び個人用サービスの中には多くの種類のサービスがあり、時間、 距離の制約などから数多くの中小企業が必要となる。 これらの従来の中小企業の存立分野に加え、最近の産業の革新などに対応するため次 の新しい動きが生じており、中小企業の存立分野は拡大し、その役割は更に高まるもの と考えられる。 イ)企業が競争力を強化するため、そのコアとなる競争力優位を生む業務分野に経営資 源を集中させ、他の業務をアウトソーシングすることが増加し、その受け皿として中 小企業が担うこと。 ロ)成熟経済の下、新成長産業分野が求められているなかで、革新的技術を利用してア イディアと意欲を持ち、リスクを負担して、新製品、新生産・販売方式を開発する企 業家が出現し、成功していること。 ハ)個人の所得が向上することに伴い、多様なサービスへの需要が高まり、これらに独 自の工夫により木目細かく対応していく分野が拡大すること。 (3)各国の中小企業支援の目標 上記の世界の産業の動向及び中小企業の存立分野、期待の高まりなどから、各国では危 機感を持ち自国の競争力を高め、また、新たな経済発展を図るために、事業環境の改革及 び個別経済主体の潜在能力を高める政策を企画し、実施しようとしている。 これらの目標を達成するために、次の3つのアプローチがある。 イ)経済社会の制度・システムの改革(いわゆる「構造改革」) A.金融制度・市場(ベンチャー企業等成長志向企業に対するリスクマネー供給のた めの株式市場の活性化、その他資金供給源の多様化) B.企業制度(会社設立、会計・税務制度、情報開示・コーポレートガバナンス、倒 産処理) C.人的資源の充実・活用を図るための教育、労働制度、人材市場 D.経営・技術情報、知識の蓄積、利用(「産学官連携」など) E.ハードのインフラ(道路、港湾、電気、ガス、水道、通信など)

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ロ)競争条件の整備(「市場機能の補完」) 中小企業や新規企業は、創業後相当期間を経過した大企業とは異なり、企業規模が 小さいこと、収益性や成長性において企業間での多様性が極めて大きいことから、資 金や人材の調達において様々な困難に直面する可能性が高い。すなわち、金融・資本 市場においては、中小企業の必要とする資金のロットは相対的に小さく、他方、金融 機関や投資家が中小企業・新規企業の収益性・成長性を事前に評価することが相対的 に困難なため、結果として十分な資金調達ができない場合が多い。労働市場について も、多くの中小企業・新規企業にとって、知名度の低さなどにより優秀な人材の採用 は大企業に比べて困難である。規模の小さい中小企業が経営ノウハウ、技術、情報等 のソフトな経営資源の全てを企業内に保有することは困難である。これら経営資源に ついては、企業規模に比して大きな調達コストをかけざるを得ない場合が多い。また、 市場機能が十分働くためには、公正な競争条件が確保されていることが前提となるが、 不公正な取引により中小企業者に不当な不利益が与えられるケースが生じる。このた め、かかる市場機能の不十分な面を補完し、市場における競争条件を整備していくこ とが必要である。 A.資金へのアクセス 中小企業が銀行から資金の借り入れを行うことについては、中小企業サイドの事 情(担保不足、信用力、事業実績の不足、資金調達のノウハウ、経験不足)、銀行サ イドの事情(借り手の情報把握、審査能力・経験、モニター、事務処理経費、融資 窓口など)により、本来的に不利があり、資金へのアクセスに問題がある。また、 長期資金及びスタートアップ資金の貸付については、民間金融機関の機能、性格か ら見て困難である場合が多い。 このため、次の制度の必要性が高い。 a) 信用保証制度(信用力・担保力が不足しているために金融機関からの借入が困 難な中小企業に対し、公的機関が借入債務を保証し、保証先中小企業が返済不 能となった場合に金融機関に代位弁済することにより、中小企業の信用力・担 保力の不足を補完し資金供給を円滑化する制度) b) 公的金融制度(中央又は地方政府が公的金融機関を設立して、担保、保証条件 などの条件で弾力的な取り扱いを行い、中小企業に対して長期設備運転資金、 輸出運転資金、スタートアップ資金を貸し付ける制度)

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B.ソフトな経営資源へのアクセス 「ソフトな経営資源」とは、中小企業者や創業を行おうとする者が、製品の企画、 技術・デザインの開発、販路開拓等様々な経営活動を行う際の資源(設備及び資金 を除く)すなわち経営方法、技術、人材又は情報である。中小企業が付加価値の高 い事業を行うための基礎条件としては、従来のハード面の経営資源(設備)の重要 性は相対的に減少し、経営ノウハウ、技術、情報等のソフトな経営資源の充実強化 が必要不可欠となっている。しかしながら、中小企業の場合、このような経営資源 を全て内部に保有することは、その規模からして困難であり、また、非効率となる 場合もあり、必要な経営ノウハウ、技術等を有する外部の者(外部経営資源)の活 用が重要となっている。このため、中小企業内部における経営戦略の核となるソフ トな経営資源の充実強化を図るとともに、中小企業が容易に外部経営資源を活用で きるような環境整備を進めることが必要である。 このため、政府は次の施策を実施する必要がある。 a)経営の指導、アドバイス b)中小企業者とその必要とする経営資源を有する者との連携の促進 c)技術に関する指導、試験研究、技術開発支援 d)情報提供 C.人材育成 中小企業の核となる経営ノウハウ、技術、市場情報等のソフトな経営資源は、通 常、中小企業の経営者、従業員の「人」に体化されるものであり、経営者を含め中 小企業内部における人的資源の充実は、中小企業の基本的経営課題である。このた め、生産性向上、品質向上、技術力強化、マーケティングその他経営戦略、経営管 理に関して、企業経営者、管理者、起業予備軍などに対して、研修などの機会を与 える。(例.地方政府が実施する、産業団体が実施する場合に補助など支援するなど) 更に、中小企業政策を実施する担当者、指導する者に対する研修については、中 央政府が「中小企業大学校」を設置、運営する。 ハ)「地域産業起こし」としての創業支援プロジェクトの実施 各国において、次の要因を背景として、地域が創業支援の仕組みづくりに取り組んで いる。

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A.産業構造の急転換のもとで、地域経済を支え、雇用機会を作る新たな産業と企業 の活力が切実に求められている。すなわち、いかにすれば経済的に自立して健全で 発展性のある地域社会を作ることができるかということである。 B.高度情報化、交通手段の発展、地方分権化のもとで、地方にあっても新たな産業 を創造する条件が整ってきており、既存の国営企業等の経営資源、大学、研究機関 の技術シーズなどがこれを支えるものとなっている。 創業支援策は、地域政策と次の理由から不可分の性格を持って進められるものである。 A)創業はすぐれた社会的な営みであり、地域社会及び産業集積のネットワークに支え られてこそ、容易になり、発展の可能性を高めるものである。起業家同士の支え合い も含めて、コミュニティ的な性格を帯びているのである。こうした点を活かしてこそ、 創業支援の諸施策も効果を上げることができる。地域のさまざまな人材や人間関係を 活用し、創業の機運を作り出すことである。 B)地域を市場として活用できる点である。普遍的な市場を確保する足がかりとして、 あるいは、地域の固有の経営資源や立地特性を生かし、原材料や技術を獲得し、特徴 を持たせる事業機会として、地域空間は有益な場である。 C)既存産業のリストラや衰退など、その地域にとって切迫した問題状況に応じ、ある いは産業集積や経営資源の従来の蓄積に応じ、更に高齢者福祉などの地域内の社会ニ ーズの存在に応じて、地域住民のコンセンサスと自治体や各方面のリーダーシップに よって、産業政策立案と機動的で積極的な施策を実施することが可能である。国策レ ベルのように、全国いずれについても公平・平等な臨み方をせねばならない立場とは 若干違ったスタンスを持てる。 創業支援プロジェクトは、起業の段階(起業予備軍に対する啓蒙普及、事業の構想段階、 研究開発、商品開発、事業化・市場化段階)に応じ、次の支援を行っている。 A)啓蒙普及 B)情報提供 C)交流・マッチングの場の設定 D)人材育成 E)経営支援

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F)インキュベートセンター G)資金融資 これらは、地域の性格、例えばイ)大市場あるいは大都市、ロ)人材供給源又は技術シ ーズを提供する大学あるいは研究機関の周辺地域、ハ)地場産業が衰退しつつある、ある いは有力企業が撤退した地域に応じ、施策の焦点などが異なってくる。 また、各国では次の産業集積が持つ機能、メリットに着目して、新たに産業集積を創生 する取り組みが行われている。 A.産業集積の外部経済機能 ・事業補完機能 a) 技術的優位性を活かした工程間・水平分業等による事業活動の効率化 b)地域ブランドの活用等による商品販売力の向上 c)多数の関連する事業者による共同受注・共同仕入れ等による規模の経済の追求 ・事業高度化機能 a) 市場動向や技術動向等に係わる最新情報入手の容易化 b) 多数の関連する事業者による共同研究、企業間ネットワークの構築等の交流・連 携活動による相互の技術波及や事業ノウハウ等の蓄積 B.事業者間の競争心喚起による事業活動の刺激・促進機能 C.創業・経営革新促進機能 (4)参考事例(英国における中小企業対策への取り組み) 英国において、中小企業が国民経済に果たす役割を認識しようとした最初の試みは、1971 年のボルトン委員会報告書であったとされている。その報告書では「中小企業は企業家精 神に富んだ人々の活躍の場となり、創意に溢れた製品・サービス・技術を生み出して、明 日の産業界をリードする新進企業家たちの飛躍の手段になる」と述べられている。 1979 年の総選挙で政権を獲得した保守党は、サッチャー首相の指導の下、自由経済と市 場原理を奨励する中で企業家精神の重要性を強調し、「小規模事業者向け貸付保証制度」を 設けるほか、税制処置も取られた。メージャー政権もこれらの政策を引継ぎ、”enterprise” (事業を企て創り出すこと)が中小企業セクターにあっていかに重要かを強調し、それを

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奨励・支援するための政府方針として次の5つの柱を掲げた。 イ)経済の安定を図って事業や投資をしやすくする。 ロ)高度の教育訓練制度により優秀な労働力を生み出す。 ハ)公共機関を数的・役割的に縮小し、税負担を軽減するとともに民間の事業機会を拡 大する。 ニ)規制緩和・柔軟な労働市場・競争原理の導入によって市場を開放する。 ホ)政府が持つ資源と影響力を駆使して、実際に前向きな支援活動を企業に提供する。 こうしてサッチャー、メージャーと2代の首相を通じて長期間続いた保守党政権は、一 連の中小企業政策を導入したが、そこでは多数の制度や施策が各省庁等で並行的に実施さ れた結果、複雑でわかりにくい、重複があるなどの批判も聞かれるようになった。 1997 年の総選挙で約 18 年ぶりに与党の座についた労働党ブレア政権は、そうした錯綜の 状況の整理改革として、中小企業向けの統一窓口となるスモールビジネスサービス(SBS) を 2000 年4月に発足させた。 SBS は貿易産業省(DTI)の一機関として設置され、次の3点をその主たる任務としてい る。 イ)政府中枢部に中小企業の声を直接届ける。 ロ)政府による中小企業向けサポートサービスの統一性と内容を向上させる。 ハ)企業経営に関する規則や手続きについて中小企業をサポートする。 SBS の設立は、関係省庁間をコーディネートしつつ、中小企業政策について仲介役とな る単一総合の組織を政府内に設けるものと説明されており、その長には、首相と直接会見 できる権限があたえられるなど、新機関のブレア政権における重要性が強調されている。

SBS(Small Business Service )の宣言として、役職員の名刺に次のことが記載されている。

A) The SBS Vision : By 2005,the UK should be the best place in the world to set up and run a business.

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achieve their potential (5)最近の課題、関心 中小企業対策を既に相当の年数で実施している国は、自国の政策の実施状況、効果を分 析評価し、更に他国と比較する、ベンチマークとするなど改善に努めている。 それらの最近の重点項目は次のとおりである。 イ)政策評価の充実 近年、政策の質の向上や説明責任の向上の観点から、政策評価の重要性が高まって いる。中小企業政策においても、既存施策の十分な評価もないまま、新たな施策を上 積みしている等の指摘がされており、政策評価手法の確立とその積極的導入が必要で ある。すなわち、施策の企画立案に際しては、a)当該施策の妥当性の検討、b)施策実 施により達成しようとする明確な目標の設定、c)想定される複数の代替策の中から不 確実性等も考慮した最適な手段の選択についての検討を定性的であってもできる限り 論理的に検討し、その検討過程においてパブリックコメント制度の活用等により透明 性、公平性を確保すること等が重要である。また、施策の実施後においては、初期の 目的は達成されたか、発生した費用等は想定の範囲内か、施策の結果生じた便益が本 来受益されるべき対象に到達しているか、こうした結果は想定していたメカニズムが 実際に機能したものか等について検証を行い、それを中小企業白書等により公開する とともに、各施策実施機関へ必要なフィールドバックを行い、施策をより効果的、効 率的なものとしていくことが重要である。 また、こうした政策の企画立案・政策評価プロセスの確立とは別に、中小企業政策 のいくつかの分野について、必要なプログラム評価(各制度、事業の仕組みの有効性、 効率性等の評価)を行うことにより、より重点的な政策評価を実施することも効果的 であると考えられる。 ロ)民間能力の活用 政策の実施に当たっては、民間に委ねるべきはこれを委ね、また、民間非営利法人 や企業間の連携を支援する任意グループ等についても、それらが適当な機能を有する 場合には、積極的に活用し、出来る限り市場原理を活用する形で実施することが重要 である。これにより、団体間及び団体と民間との健全な競争の活性化を図ることが可

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能となる。また、中小・ベンチャー企業に対するコンサルタントや情報提供等が、基 本的には市場を通じて提供されていくこととなるよう、かかる市場の育成・発展に向 けて適切な環境整備を図っていくことも必要となる。

3.市場経済移行国の政策担当者の関心及び疑問への回答

(1)中小企業に対する社会一般の認識 (質問) 中小企業に対して、政府方針としては、国内の経済発展の基盤という重要な役割であ るということを法律又は公式文書において位置付けている。しかしながら、社会一般に は中小企業のイメージが明確でないこともあり、あまり積極的な捉え方がされていない と思われる。このことが中小企業を起こす、また、それを支援するという動きが高まら ない原因なのではないかと思われる。この原因はなにか。また、どのように対応すべき か。 (回答) 専門的知識、技術、技能を持ち、チャレンジ精神とビジネス意欲のある若者などが中 小企業を起こし、中小企業の中核的な立場で働こうとする人が増えることが理想である。 すなわち、自分の能力を活かし、リスクを負担して自己責任をもって、自分の事業活動 により、利潤追求を適正な競争ルールのもとで行うことである。 もちろん、起業者には十分な経験、ノウハウ、資源などが十分でないため、周囲の人々、 コミュニティー、行政が支援し、事業が成功するようにする−これもまた理想である。 しかしながら、現実はむしろ逆であり、中小企業に対しての認識が十分でなく、市場 経済移行国ではとくに次のハンデを有している。 イ)法律違反ないし、それまがいの不当なことを行い、法外な利潤追求をしている企 業が現われており、これによりビジネスそのものに嫌悪感が持たれる。 ロ)外国企業その他強い競争力を有する企業が身近の企業を倒産させ、恨みを持たれる。 ハ)ビジネスを起こし、発展させるために経営資源を確保することが困難であるため、 意欲が持てず、当面生活ができれば良いとあきらめているケースがある。

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社会は中小企業に対して、人々が企業を起こし、事業活動を行うこと、また、社会、 政府がこれらを支援すると同時に、中小企業の成長発展が健全な経済社会を構築してい くことの根幹となる要素であることまず認識する必要がある。 このため、ビジネスの意義、あり方、サクセスストーリー、社会への貢献などについ て、国内はもちろん先進国のケースをも踏まえ、あらゆる階層において、あらゆる機会 を通じて教育、啓蒙、PR をしていくという息の長い努力をしていく必要がある。 (2)各種行政手続き・規制の簡素化と適正化 (質問) 企業を設立し、事業を開始するにあたり、各種の許可、届出などの手続きが多すぎて、 事業を断念するなど著しい悪影響がでているとの不満が多い。また、手続きも公正公平、 透明性が確保されていないとの指摘も多い。これらは国内企業はもちろん外資企業から も問題だと言われている。これをどう考え、どう対応していけば良いのか。 (回答) 事業活動に関する手続き、規制を緩和しようとする動きは世界中で行われている。例 えば、日本では規制の緩和により、約 100 万の雇用が増加するとの試算もある。とくに 市場経済移行国では、従来は事業は国営で行われていたため、民間人が事業を行うこと に過大な警戒心を持っているのではないかと考えられる。また、何故その規制が必要か、 許可される基準は何か、手続きに透明性があるかについて、政府と企業、起業予備軍の 人々が十分議論する場、経験が無いことも原因している。 一方、人々が起業し、企業を設立する場合には、事業プランの作成、資金、人材など の経営資源の確保、事業所の選定・確保、原材料、設備の調達、販売先の確保、会計帳 簿の整備等、組織体制の構築などについて、ほとんど処理した経験の無い中で対応して いる状況である。こうした中で、数多い行政への許可や届け出をしなければならない。 許可等においては、その社会経済的な必要性やそれらが認められる基準が明確でない、 提出書類が多すぎるなど疑問、不満が多く、起業者に多くの負担をかけていることも事 実である。これらが起業を断念したり、それに対する意欲を失わせているケースも多い。 これらの状況を改善するためには、次の方針を明確にし、行動していくことが必要と なる。

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イ)行政担当者もどのような規制があるかの全体像がわかっていないおそれが十分に あるため、規制の担当省庁ごとの整理・分類、起業事業ごとの規制のピックアップ をすることが必要である。 ロ)規制削減基本方針の作成・実行 まず、規制をゼロとすることを原則とする。例外は、「生命、身体」、「環境」、「経 済秩序への信頼」に関して「明白かつ差し迫った危険」がある場合に、規制するこ とについて政府内部で議論し、規制の削減方針を明確に打ち出すべきである。もし、 規制する場合には、その必要性、許可基準、手続き、書類作成マニュアルなどを作 成し、対外的に説明、PR などを行い明確にする必要がある。 ハ)手続きを担当する行政官の業務の適正化 市場経済移行国においては、行政官の不適正な業務(「傲慢、怠慢、特定者への利 益供与など」)が問題にされる。これらは、中小企業の事業活動にマイナスの効果を 与えるだけでなく、「公」に対する信頼も失わせることになる。政府の中小企業支援 は企業、起業予備軍からの信頼がなければ、実行性は持たない。このため、行政官 に対し、業務適正化に関する教育・研修を行うことが必要不可欠である。 (参考) 世界有数の会計事務所「プライスウォーターハウス」(アメリカ)は、2001 年5月に、 主要国別の直接投資に対する「不透明指数」をまとめた。「不透明指数」は イ)腐敗、 ロ)法律システム、ハ)政府の経済政策、ニ)会計基準と企業、銀行、政府の情報開示、 ホ)規制 − の5項目ごとに国別の不透明を指数化し、それを平均した。 調査した 34 カ国の不透明指数の結果は次のとおりである。 第1位 ロシア(84)、第2位 インドネシア(75)、第3位 韓国(73)、 第4位 チェコ(71)、第5位 タイ(67) 日本は第 18 位(60)であった。 また、こうした不透明さから実現されなかった直接投資は、ロシアは 98.02 億ドル、日 本の場合は 86.62 億ドルと試算されている。

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(3)政策企画及び実施に当たり把握しておくべき「市場経済における中小企業の経営」 (質問) イ)中小企業の事業活動は複雑でかつ多様性があるが、この事業をどう捉えていけばい いのか。 ロ)創業を促進するメカニズムは何か。 ハ)創業支援に当たって留意すべき事項は何か。 (回答) (中小企業の事業の捉え方) 言うまでもなく、現実の企業の事業は極めて多様な活動から構成されている。一つひ とつの活動が統合されて全体としての事業を構成している。「全体としての企業の優位 や劣位はその企業の業務活動全体の結果であって、ごく一部の業務の業務活動だけの結 果ではない」のである。製造業では、開発、生産、販売、発送、アフターサービス等が あり、そのそれぞれが更に多くの下位活動から成り立っている。事業は多くの個々の活 動から成り立つシステムであり、これらの活動の一つひとつが競争力を高めることに寄 与している。 一つひとつの活動に意味があり、欠かすことができないだけではなく、それが相互に 作用しあって連鎖をなしていること、更に、顧客ニーズとの関係まで全体的に捉えるこ とが必要である。 「事業」を具体的にかつ体系的に把握するためには、「事業空間の概念」(事業が市場、 経営資源・能力及び顧客満足の3つの次元から構成されると捉え、それらが統一的関係 にあると考えるもの)がわかりやすい。 第一要因は、企業の経営資源・能力である。それには人材、資本、戦略、組織構造、 物流・情報システム、リーダーシップ、技術、マーケティング・スキルなどがある。重 要なことは限られた経営資源を用いて企業としての能力を形成することである。 第二の要因は顧客満足である。企業は様々な顧客ニーズ、社会のニーズを充足するこ とによって事業を行い存在している。顧客ニーズを充足できるときに事業の価値が生ま れる。 社会的に有用な価値のある製品・サービスや技術を開発し提供するときに事業は継続 できる。顧客にとっての価値が大きければ、その製品・サービスは大きな訴求力を持つ

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のである。このような価値のある製品・サービスを生み出す経営資源・能力が、競争力 の源泉である。 第三の要因は市場である。いかなる事業を行うのか、企業はその事業分野を選ぶ必要 がある。いかなる事業を選ぶかによって、競争条件が変わり形成される企業能力が影響 を受ける。市場は、性能・材料・製法・用途・地理的範囲などによって細分化すること ができる。 事業を上記の構造としてとらえると、事業空間の主要要因について事業機会発見の可 能性は多く存在している。事業機会は、積極的な創造による獲得が可能なのである。革 新や競争は、市場創造であったり、技術・事業システム・戦略の革新であったり、多面 的かつ総合的に行われる。事業空間は、企業が顧客に直接相対しながら製品市場でコス トや品質を競争し、あるいはそのための開発や販売網の拡大、従業員訓練などで競争し ている空間である。 (創業を促進するメカニズム) イ)社会環境・意識 A.起業家に対する社会的評価(自己努力と相互扶助) B.人材の流動性、技能社会(スペシャリストとゼネラリスト) C.リスクティキングのインセンティブ(所得税、キャピタルロス、ストックオプシ ョン) D.失敗のリスク緩和(社会的寛容、個人生活の保証) E.新規事業の自由度と公的負担(規制、許認可) ロ)サポーティングセクター A.資金供給セクター(個人投資家、地域基金、ベンチャーキャピタル、投資銀行な ど) B.施設支援セクター(官民のインキュベーター、インダストリアルパーク、設備の シェアリング) C.教育支援セクター(マネジメント、ファイナンス、コンピュータ操作など) D.技術研究セクター(大学、公的研究機関との連携など) E.その他セクター(国内外の企業との提携(資金、市場、流通経路・アクセス)、サ プライヤーネットワーク、起業家間の相互協力)

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(創業支援に当たって注意すべき事項) イ)事業を始めることそのものに係わる情報の支援である。とくにまったく新規の起 業家に対してはこの支援が必要であり、既存の中小企業についても新たな事業機会 の実現に情報の支援が役立つ。事業機会の実現をめざす起業家や中小企業にとって、 支援を求めるときに、まず相談に行く場所がわからないというのが最も基本的な最 初の悩みである。一元化された支援情報の提供や支援窓口がないため、多くの公的 支援の情報がそれを必要とする企業や起業家に届かず、有効に活用されていないこ とがある。 こうした状況を改善するためには、一つには情報アクセスを容易にし支援情報を 一元的に提供できる仕組みを作ることである。 情報支援の改善のもう一つは、大学や企業がフォーラムを形成したり、人的ネッ トワークを形成することである。このことによって起業家のアイディアを伝えマッ チングを促すことが新規企業育成に役立つ。恒常的な情報交流の場の確保とそこで のマッチング機能の強化が、起業を活性化するために求められるのである。 ロ)事業機会を発見しても、事業にはその担い手としての人材が必要である。単独で はその事業展開の体制やスピードに限界がある。新規企業には人材の不足が予想さ れるため、人材供給・育成が必要である。人材は必要とされる経営機能を担う意味 で重要であり、そのため、人材育成・獲得・指導のためのインフラを整備しなけれ ばならない。事業をスタートアップする段階から、資本の調達、販路開拓など新規 企業が直面する課題は多く、事業コンセプトやビジネスプランの作成は、事業経験 の浅い個人起業家ではしばしば不十分であるため、その支援が求められる。また、 組織管理や財務管理のために必要な経営能力を支援することも求められている。 ハ)事業化に当たっては常に資金の不足が起こりがちで、資金の調達を支援すること である。 財務基盤、販売機能の強化、生産投資の拡大、開発の高度化を全体として達成す ることが求められる。 ニ)生産性向上、品質向上の強化の支援、更には生産技術と研究開発力の強化の支援 が求められる。 ホ)顧客ニーズの把握と販売組織の整備などのマーケティング支援を行うことである。 販売組織が伴わないときに過大な設備投資をすれば事業のリスクは著しく高まる。

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ヘ)規制緩和を進めることである。多くの規制は、新規企業にとって事業化の参入障 壁となり、事業機会を実現することを困難にしている。規制緩和は事業化支援のた めの重要な施策である。 ト)社会的に起業のインセンティブを高めるために、創業後の一定期間は、減税処置 をとり、新規起業における資金調達を促進して財務基盤を強化することを支援する ことが求められる。 (4)経済構造改革と中小企業政策の関係 (疑問) 市場経済移行国では、制度・システムの改革いわゆる経済構造改革と中小企業政策が 並行して行われるべきであるといわれているが、それらの関係についてはどう考えれば よいのか。 (回答) 経済構造改革は、個人、企業の所有権保全制度、商品交換、企業制度、金融制度、市 場、人材労働制度・市場、技術・経営知識、ノウハウの蓄積システム、消費者保護、環 境保全システムなどに関して、それぞれの経済主体の活動が最適な状態で、経済成長を 可能とさせるものを目標としている。しかしながら、経済構造改革は、先進経済国でも 数十年を要し、今現在でも引き続き改革のための努力がされており、市場経済移行国に ついては、更に基盤そのものから構築していく必要があることなどから、長期間にわた り構築に取り組んでいくべき課題である。 この取り組みに当たって、中小企業が多く生まれ成長発展ができるよう、また、阻害 されることがないよう、制度システムの内容について把握し、必要な意見を言える機会 が確保されるべきである。 一方、現下の経済はすさまじいグローバル化に対応し、どのような産業分野で国際分 業の一翼を担うのか、地域の維持・発展を可能とする産業の育成・発展をどう考えてい くのかという「待ったなし」の問題に直面している。 外資企業の誘致、国営企業の再編成によることも可能であるが、それはごく一部の分 野、地域に限定されるので、やはり中小企業対策を重点として取り組むべきである。 中小企業対策としては、競争条件の整備については、市場メカニズムの補完というこ

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とで、貸付制度、専門人材による指導などがあるが、特に次の点に注意を要する。 イ)他の国の制度と類似のものを作っても、十分な効果を得られない場合が多い。 ロ)制度の運営に関しては、相当なノウハウ、体制が必要である。 ハ)中央政府の主導により、制度を作る場合には地方から活用されないケースが多い。 このため、当面は地域プロジェクトの支援を優先して貸付制度、専門人材による指導 などから開始していく方法が高い実効性を持つ。 (5)地域における「産業の芽」を作ろうとする動きとこれらへの支援 (質問) 最近、各地で地域産業を起こそうとする動きが出ているが、この背景は何か。 また、これを成功させるためにどのような支援をすれば良いのか。 (回答) 地域の失業者及び若者に「仕事の場」を提供し、地域社会を維持し、発展させるとい う地域固有の切実なニーズがあり、具体的な事業シーズ(起業の核となる原材料、技術、 技能、人材などの経営資源)も存在する。このため、「起業の芽」をビジネスに転換し、 新しい事業を作っていくことを地域が支援していく動きが出てきている。問題は、事業 シーズをいかに見つけ、シーズを洗練し、他の経営資源を導入して長期的に収支が確保 でき、成長可能なビジネスに転換できるかである。まずは、企業者及びその予備軍が自 助努力及び周辺の者の協力を得て対応すべきものである。しかしながら、これのみでは 困難である場合が多い。このため、地域の行政が次の支援をすることが期待される。 A.スタートアップローン B.インキューベート施設の設置 C.生産性向上、品質向上、マーケティング強化のための専門家によるアドバイス D.周辺の大学、研究機関、金融機関、商工団体などとのコーディネート 地域の行政はプロジェクトの支援を実情に応じて効率的に行うことができるが、財源

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面、専門人材面での能力不足がある。このため、中央政府は、地方政府の機能を補完す るため、財源補填その他貸付制度の設置、専門人材の発掘・登録・派遣制度の設置運営 により、支援していくことが必要である。 (6)中小企業政策の企画・実施に関して必要となる事項 (質問) 中小企業政策を企画・実施していく上で、常に念頭におくべき事項としては何がある か。 (回答) 次の事項について十分な対応が必要である。 イ)実態把握のための現地調査及び産業界等の意見を聞く 政策立案の担当者はともすれば「首都にある役所内の机の上」で政策を考え、検 討、決定することが多く、とかく中小企業の経営の現状、課題、経営者の意見、要 望などを直接聞く機会が少ない状況である。このため、政策が実態から遊離し、そ の効果も少なくなるケースが見られる。これに対応するためには、中小企業の経営 現場を訪問し、自分の「目と耳」で実態を把握することが必要である。また、産業 団体、先進企業及び地域団体の人々から産業・地域の問題点、施策についての要望、 意見を聞くことも効果が大きい。 ロ)施策普及の PR 中小企業政策については、わかりにくい、知られていないとの指摘も多くなされ ているが、その原因としては、中央政府省庁はもとより地方公共団体や関係機関等 の実施機関も含め、施策の直接の利用者である中小企業に対し政策の普及と活用に 向けての努力が十分でないことがあげられる。このため、中央政府省庁及び地方公 共団体・実施機関は、新聞、インターネット等各種媒体の積極的活用、相談窓口の 強化のみならず、中小企業に対する積極的、能動的な施策普及体制を整備すべきで ある。また、創業を予定している者、創業して間もない者には、通常の施策普及の 方法では対象者に十分に届かないと考えられるため、より積極的な PR 活動(テレビ、 電車・バスでの広告など)の充実等普及体制の整備を図っていくことが必要である。

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ハ)統計整備,企業データの整備

統計及び企業データの整備は、直接には事業上の効果を生まないが、施策の対象 の決定、実行、効果把握をする上で、必要不可欠なものである。このため、関係省 庁(税務署、登記所など)と連携し、その構築整備に計画的に取り組んでいくこと が必要である。

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