水資源に関する研究ⅠⅠ
島地川ダムの広域利水について
井 筒 勝 彦STUDY ON WATER−RESOURCES Ⅱ
Enlarglng utilization of water to wide area with Sima]1−river dam.
KatsuhikoIzuTSU
There are many problems on the enlar’glngutilization of water to wide area..As follows:
1… Thelater a dam construct,S,the upper a costoia dam becomes becauseit constructs by the method of water−development at a r・iver−Staderd point
2り The wider an area for urban water supply enlargeS,the bigger a damagefordroughtbecomes 3.As an urban water supply has a character of enterprlSe,We muSt pay attentiontothe wat・er conservation in a river basin”Paticular1yit tends to plaJlfor diversion of over−intake from an
Orlglnalbasin
4.This over−development of water−reSOurCeS raises the prlCe Of water・Supply
The enlarging scheme of water utili2:ation towide area must be prepared,having arr・ived at
the agreement between the peoplein an area diverting water and the peoplein an orlg1nalbasin
on corTeCtinformation 広域利水にほ,まず,後発のダムほど開発費が上昇するという,基準点開発方式という問琴がある。 次に渇水は,地域が広大な程大きくなる恐れがある。 都市用水は,企業的性格があり,流域の保全の観点から留意する必要がある。特に,その性格により,過大な取水 計画を・立てる傾向がある。 このような過大な水資源開発は水道料金の高騰を招く。 広域利水計画は,正確な情報を・公開して源域に同意を取付けて進めなけれはならない。 は じ め に 水資源が豊富な流域と不足勝ちな流域とがあり,また過疎な地域と過密な地域とが存在する。豊富な流域より不足 勝ちな地域に水を導くことは,不足勝ちな地域にとって必要なことであるが,さらに,過疎と過密の問題に拍車をか けることになるだろうし,水資源を供給する地域に対しても,十分な配慮が成されているとは思われない。 同一・の流域内で河川水が農業用水として利用されるのと,流域変更して都市用水として利用されるのとでは,根本 的に異なるのである。前者の場合,余剰水は必ずもとの河川に戻され(re加乃∽α亡er),何回も反復して利用され, 地下水に滴毒され,流域を豊かに潤す。後者の場合,もう二度ともとの流域に戻ることはないし,使用後の水質の汚 染の点からも,前者との差異は大きい。 水資源の逼迫している大都市圏においては広域利水の実現が待ち望まれているが,香川用水のように行かないのは,香川大学農学部学術報告 第39巻 第2号(1988) 170 それなりの理由があるのであろう。 広域利水の実現化した島地川ダムの例を調査して,広域利水の問題点を明らかにすることを試みた。 島地川ダムの概要 島地川ダムの在る島地川は,中国山地の西部の山口県と島根県に県境に接する仏峠に源を発する山口県の一級河川, 佐波川の支流である。佐波川ほ,中流から下流部の流域は比較的に狭く,上流部は,本川の佐波川と支川の島地川か ら成り,その流域ほ,鳥の羽根を広げたように広がっている。 島地川ダムのダムサイトは,山口県新南陽市大字高瀬に位置し,境高90…0ケ托,堤長240竹も,堤体帯300×10きガ,有 効貯水量19,600×103〝ダ,型式は重力式(コンクリートダム)である。また,洪水調節7,200×10㍉れ防府市水道2,000 ×103粛,新南陽葡600×103粛,エ業用水8,800×103粛,不特定用水1.000×103ガの容量をもつ多目的ダムでもある(1ヱ 流域変更が可能になった条件 このダムの最大の目的の工業用水8,800×103ガのうち,日登として最大87×103〝ダ,ほ防府地区の工業用水であり (防府市は佐波川流域内に在る),ここで問題に.している流域変更にほ当らない。 流域変更による新南陽地区のエ業用水としては,1日最大45×103据である。また,都市水道2,600×103据のうち, 防府市水道1日最大55×103ガ,新南陽満水道1日最大5×103ガであり,防府地区の工業用水と市水道を除く新南陽 地区のエ業用水と市水道は,和田地点において取水され,島地川流域から流域変更され,新南陽市へ導水されている。 島地川ダムの在る和田地区は,1954年当時は,佐波郡に属し,和田村と称していた。同年11月に佐波郡関係相合併 促進協議会が設昏され,3村,あるいは6村合併問題が熱心に討議されていたが,突然,同年12月に.和田村は,当時 の南陽町(1970年新南陽市として市制施行)と合併を主張して,協議会から離脱した。1955年11月に,地形的に境界 が全く接していない南陽町に合併して,南陽町の「飛地」として大字和田となった。 島地川ダムからの新南陽市への流域変更が可能になった背景忙和田地区が,新南陽市に属していることが上げられ る。この和田地区の新南陽市への合併も前記のように,政治的に行われているが,このような例の場合,土地がどこ に属しているかは,水利権がどこに属すかとは独立して考えるペきである。例えば,箱根の芦ノ湖は神奈川県に所在 するが,水利権は静岡県裾野市の方に属している。この芦ノ湖の水ほ,本来,神奈川県側の早川へ洗出していたが, 江戸時代にtソネルにより導水しており,これに.水利権が認められた。神奈川県側との水争いがあったが,本来の早 川への取水は認められてほいないのである三2)(このように瑚度与えられた水利権が変更されること−よ無いものと考え るべきで,その点にも留意して広域利水を考えざるを得ない) 島地川ダムのように,遠く離れている都市より水資源確保を目的に上流の地域が合併という方法忙より,狙われて いるとしたら大変なことである。もち論,島地川ダムの建設について少々の反対はあっねものの,下流地域の同意は 取り付けたのであるが,流域の同意を取り付ける前提としては以下に記述するような項目について,正確な情報を示 し,その上で話を進めなけれは,問題を後に残すことになろう。 水資源の基準点開発方式と多目的ダムの費用振り分け 広域利水は必ずしも反対ではないが,広域利水にはまだまだ多くの問題点が残されている。 第一守こ,ダムの開発方式は,基準点における不足した水位をダムの貯留水を放流し補充増強して,既得水利権に低 蝕しないように取水可能にする方式である。そのため後に建設されるダムであればある程,建設費が高騰し,新規開 発地区と旧開発地区との間に差額原水コスト(8)が存在し,ダム建設は困難となる。即ち,佐波川流域には,既に本流 に佐波川ダム,支流には島地川ダムが建設され,一腰河川ではあるが,この程度の規模の河川では,今後のダム開発 は,ダムサイトの問題(ダムの建設はより有利な条件の地点からなされる)とともに,この経済的理由により大変厳 しい状態となろう。 第二に,島地川ダムは治水目的の容量も持っており,ダム下流の住民は,この日的による洪水調節により,洪水時 にはダムの恩恵を受けるが,これは,河川管理の責任者として建設大臣が行うものであり,島地川ダムの治水目的以
外の他の目的部門から恩恵を受けるものではない。 通常,多目的ダムにおけるコスト・アロケ・−ショソは,公費負担100%の治水目的部門やその割合の多い虚業用水 部門に過重匿なるように決定される。そのため,それぞれ単目的でダム建設をなされるより多目的で行う方が,より 経済的有利なものは,公費負担の少ない水道部門や工業用水部門である(4)。 即ち,島地川ダムの場合,治水自的,不特定利水などを含めることによって,水道,工業用水の部門は,コスト・ アロケーショソにおいて大きな恩恵を受けていることになる。 広域利水化について 都市の過密化は,世界的な傾向である。その人口の集中による結果,住宅・輸送・環境等の諸問題が生起してくる が,中でも水不足は重要問題であり,流域内の水資源で不十分となり,度々の渇水に苦しめは,他流域からの導水が 計画され,それが,即ち広域利水化である。 広域利水についての研究は,皆無に近く,ただ水資源の問題に多くの指針を与えた「現代農業水利と水資源」に活 村は,広1或利水化を経済的有利性だけで評価することは適当でほない。広域利水化の背景には,特定地域への人口集 中,それによる人間活動と水の自然的存在状態との不整合の拡大があることは,注膏すべきところである。このよう な不整合の拡大を進めることが未来に向けての人間と自然との交流形式として適当なものであるかどうか,はなはだ 疑問の残るところであるからである。広域利水化ほ技術的には,システムの大規模化を伴うが,大規模システムは, 避けがたく事故率を増大させていく。したがって,広域化による平水年での利水の安定化と裏腹に,異常渇水年にお ける事故の影響の拡大化,紛争の広域化をもたらす恐れもあることほ否定できない(6)とあるが,全く同感である。− 方,県内レべ′レの地域的規模での広域化が試行される必要がある㈱とあるが,県内レベルとそれ以上のレベルと本質 的な差異はないと思わざるを待ない。何故なら,水利権ほ一度与えられると永続的に固定されるのが通常であり,将 来の水価の問題も渇水時の不安も県を越えての広域利水と県内レベルの場合と特に差異は見られないし,その事態に おける神佑もない。 導水されてからの水の使われ方の問題であるが,周南工業地帯は,徳山市の石油コンビナ1−トで象徴されるように, Fig\1山口県周南工業地域と都市用水 山口県公営企業団(山口県企業局,1976)を参照した。
香川大学農学部学術報告 第39巻 第2号(1988) 172 多くの企業が有機的に連結・結合し,それが市という行政区域を越えて拡大している。Fig.1に示したように,エ業 用水の幹線もこの地域,特に,新南陽市,徳山市,−懲市,光市に渡って,有機的に連結されている。ダムも島地川 ダムと川上ダムだけでなく,向道ダム,菅野ダム,水越ダム,湿見ダム,末武ダム ,吉原ダム,計8個のダムから導 水される。島地川ダムは防府市と新南陽市に限って使用されるのではなく,周南工業地帯の水不足を解消すべく建設 されていると考えると理解できる。余剰水ほ,許可水利権の範囲を越えて広く,有効に利用されるようになっている。 上水道,工業用水などの都市用水は,余剰水が出れは赤字になる。それを避けるために料金の値上げをするか,他の 都市が不足状態にあれはその都市に売水することによって双方が助かる訳である。このように都市用水は,余剰水を できる限り有効に利用するという合理的な方法として広■域化は更に拡大される。島地川ダムにおける広■域利水の拡大 化についても申請すれば,前記の理由により建設大臣ほ許可するであろうし,何と言っても建設省の建設したダムで あるからそれが容易である。これでほ,佐波川流域の将来の水資源の安全性は大変疑問である。 河川から被るのほ,水資源等の利益のみではなく,洪水等のような不利益も伴う訳であり,治水ダム(建設省)や 防災ダム(農林水産省)以外の目的のダムは,水を貯留するが日的であり,大洪水となる確かな予測のない場合貯留 し続ける特性を有し,洪水時,ピ1−ク流盈を増幅する可能性は十分忙ある(洪水時ダムが危険な状態となって初めて 放水する例はよくあることである)。他流域から取水して利益を享受する一方,このように洪水の危険,渇水時の深 刻化等,危険をその流域に残すことになり,そのことに対する十分な禰解は現在においてほ取られていない。一方, 同一・流域の居住者は利益も不利益もー・緒に被る共同生活者であり,その点で他流域生活者とは異る。 10年に1回毎度の渇水が基準になって計画されているが,それ以上の渇水(最近の異常気象の様子と今後の気象デ ータの増加を考えると,過去の気象デ・−・タ以上に生起するのでほないかと予想されるが)例えばh5,ろ丞0,わ0・ ・・の渇水は今後必ず起こる訳であるが,その時の方策はどうするか,広域化が拡大すればする程,大変な事になる のである。 水 道 計 画 水道計画は,オイルショック以前の好況時の人口増をべ・−スに給水域内人口,給水盈を予測しているため,推定値 と現実とは大きなギャツプが出て来ている。このギャップがi前に述べた余剰水となる訳である0 新南陽市の場合,増加率が鈍化した1971年以降の値を重要視すれば,このギャップはもう少し小さい備になってt、 たと思われるが,給水域内人口,給水量とも現実の値はほぼ横這いである。 ×103人 ′ 40 J ′ ′ ′
一乗疏値
′ ′ ′ −−−−− 推定値 ′ …・ 一 J ′ ′ 35 ′ ■ J ′ ′ ′ ′ ′● ′■●● ● ■ ■ ■ 300・防 Ⅶ 明 朝 Ⅶ 年
Figh2 新南陽帯の給水域内人口の推移 注)推定値は計画に用いられた値8 実績値 ′一 ′ ′ 7 推定値 ▲′′
‥・
白 ′■■ 6- ′ぺ′●● ′ ′ ● ● 5 ● ● 2 4 3 ,70 ’75 Fig.3 新南陽市の水道給水量の推移 注)推定値は計画に用いられた債 防府市の場合も,給水域内人口も給水量も実蹟ほやや増加傾向であるが,推定量を大きく下回る結果となっている0 防府市にとっては,島地川ダムの必賓性は僅かながらあったであろうが,新南陽市にとっては,全く必要がなかっ たのではなかろうか。これは,オイルシ古ツクが大きく影響したと考えられるが,その5年後,島地川ダム本体の着 工時点において,ダムの必要性,又はダムの規模について再考されるべきであった。 工業用水についても,十分資料が得られなかったが,エ場建設計画が遅れており,更に,既設工場においても,省 エネルギ−・省資源は世界的趨勢であり,節水,処理水の再利用の技術も開発された今日,水の使用量は横道いから・ 減少の時代に.入っていると考えられる。 オイルショックによる経済的変化という重大な事件に遭遇しながらも,何等設計変更も成さずに着工に踏切った。 これは,我国の技術レベルから考えて,設計がずさんであると見るべきでほない0これは,広域利水の性格とか,都 市用水の企業的性格の反映と見るべきであろう。即ち,このように他の流域から取水が可能となる磯会は,非常に困 難な時代である。そのため取れるだけ畳を最大限取るべきであると判断したためであろう。一腰の水資源計画では10 年程度の先行投資を行うのが通常であろうか。Fig.2,Fig3に示したように水道計画では,現段階でダム建設は全 く必要でない状態であり,何年先までの先行投資であるのか概算も出来ない状況であり,この結果が水道料金に跳ね 返ってくるのである。1975年に10〝㌘当り,469円であったのが,年々上昇し,1984年10ガ当り1,150円となった0 Tablel主な都市の最近10年間における水道料金の推移 (円.ぺ0諺) 都市名年 ・75 ,76 ,77 ,78 ,79 ,80 ’81 ’82 ’83
’84東 京 都 300 300 300 410 410 410 飢0 610 610
800大 阪 市 230 230 230 230 230 340 340 340 340
500新南陽市 469 469 469 540 540 540 940 940 940 1150
防 府 市 300 500 500 580 580 750 750 750 750
750高 松 市 660 660 660 660 660 660 980 980 980
980 ※各年の水道統計(日本水道協会)による。香川大学農学部学術報告 第39巻 第2号(1988) 174 Tablelによりもう少し詳しく見ると,前半の5年間の水道料金は各都市とも変化も少なく低く抑えられている。 後半は各都市の特殊事情により急激な高騰が見られたが,水資源の確保に苦労している束京都は意外に低く,特に大 阪市の低さは顕著である。対象都市のこ市のうち防府市ほ佐波川流域内にあり,比較的水が豊富なことと,先行投資 としての島地川ダムも,容量が新南陽市水道の3倍以上看るにもかかわらず割合低い料金に維持されてきた。 新南陽市の水道は流域変更による広■域利水のため,通水路や川上ダム(多目的ダムであるが上水道としては調整池 としての役割)等に多額の設備投資が強いられたため,それが水道料金に.反映しているものと考えられる。更に新南 陽市の水道料金の内情は,基本水量7諺までが基本料金で865円,超過料金(1諺当り)は8∼10諺まで95円,11∼