• 検索結果がありません。

伝統的会計上の利益概念の一断面--経済学的利益概念に関するハンセンの所説によせて---香川大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "伝統的会計上の利益概念の一断面--経済学的利益概念に関するハンセンの所説によせて---香川大学学術情報リポジトリ"

Copied!
34
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

伝統的会計上の利益概念の一断面

一経済学的利益概念に関す−る ハンセンの所説によせて一 井 原 理 代 Ⅰいはじめに ⅠⅠ小ハンセンの勘定理論ⅠⅠⅠ.伝統的会計上の利益概 念の特質(1)−棚卸資産勘定−ⅠⅤ.伝統的会計上の利益概念 の特質(幻一国定資産勘定・所有者および従業員の労務勘定・借 入金勘定− Ⅴ…むすび I 「会計文献を詳細に播いてみると,利益の本質に関する議論が驚くほど欠如 していることが露呈される。絶えずほかならぬ利益の計数的な取扱いにたずさ わっている職業人が,その注意深く測定するものの本質について−ほとんどなに も知らないなど,いったい誰が想像しうるであろうか1)。.−キャニングがこ う慨嘆したのはすでに半世紀近く前のことであるが,このことばは,いまなお 有効であるとさえいわれる。利益概念は企業会計の中心概念であるにもかかわ らず,必ずしも明噺であるとはいえないのであってみれば,伝統的会計学が著 しい経済社会の変化発展のなかで反省を余儀なくされ,新しい理論体系が模索 されている近年,想えば当然のこととして,その検討がさまぎまな観点からあ またなされるに至ったのである。その1つとして,いわゆる経済学的利益概念 の観点によるものがある。そこでは,経済学的利益概念は,理論上理想的な概 念であり,また企業の利書関係者の意思決定上もっとも有用な概念であるゆえ., 1)J.B.Canning,T7ieEconomicsqfAccounlancy,NewYork,1929,P・93 2)もちろん,このようを主張に対して,其向うからの批判もある。たとえばシュヴュ イダーは,「経済学的利益は実践上不可能な概念であるのみをらず,1理論上不合理 な概念である」(KShwayder,“ACritiqueofEconomicIncomeas anAccounting Concept,”A8ACtLS,Vol“ⅠⅠⅠ,No.1(August1967),P23.)と断言する。

(2)

香川大学経済学部 研究年報16 J.977 ーユノ6」− 会計上の利益概念として採択されるべきであるという提唱がなされている2)。 このような経済学的利益概念に関して−,われわれは,前紆)でハンセンに そって,それの提唱されるゆえんやそれの内容,そしてそれと伝統的会計上の 利益概念との相異について触れた。その際,われわれは,経済学的利益概念4) の観点からの伝統的会計上の利益概念の分析を残したままであることを覚えが いておいた。はたして,経済学的利益概念に照すと,伝統的会計上の利益概念 はどのように特栗づけられるのであろうか。このような分析は,伝統的会計上 の利益概念の性格を浮き彫りにするとともに,会計上の利益概念の明噺化を意 図する経済学的利益概念の提唱に評価を与え.るよき礎材となると思われる。そ こで,小稿は,いま一・皮ハンセン5)にそって,このような分析を試みたく草し たものであり,その意味で前稿の後篇をなすものである。 ⅠⅠ 経済学的利益概念に照して,伝統的会計上の利益概念を特質づけるにあたっ て,ハンセンによると,なによりもまず,勘定理論の構築が必要とされる。こ のような分析は,それぞれの利益概念における勘定形式が同一・になってはじめ て,可能となるからにほかならない。それゆえ,ハンセンの勘定理論の検討か ら始めるのが当然の順序であろう。 叙上のように,ハンセンは,経済学的利益概念における勘定形式と伝統的会 計上の利益概念におけるそれとを同一・ならしめるため,自らの勘定理論を構築 しようとするのであるが,前者が流人と流出よりなる産出勘定であることは前 稿で示したとおりである6)。それゆえ当然,ハンセンにあっては,簿記が企業 3)拙稿「ハンセンの経済学的利益概念」『香川大学経済論叢。第48巻第5・6号(1976 年2月),73−104ページ。 4) このように伝統的会計上の利益概念を分析し特質づけるために用いられる経済学的 利益概念とは,当然,代替的なそれのうちの理想概念である実現資本利子概念を意味 する。 5)P.Hansen,77LeAccountingCbnc申tQfPr頑t−AnAnaか5isandEvaluationinthe L,ightqfEconomic771eOrツQfhcomeandCqt>ital−,2ed,CopenhagenandAmster− dam,1972‖なお,小塙においては,前稿において覚えがいておいたように,このハン センの著者のうち第ⅠⅠ章を中心に検討している。 6)拙稿「前掲稿.77−78ペ・−ジ。

(3)

伝統的会計上の利益概念の−・断面 −ヱヱF一・ 活動を流人と流出の概念によって把えうるよう,正味資本勘定系列と正味資本 の産出勘定系列というこ勘定系列が考案される。 ここに正味資本勘定系列とは,いわゆる資本勘定の他に,個々の資産および 負債の貸借対照表価値を記録する勘定を含む。他方,正味資本の産出勘定系列 は,一期間におけるそ・れぞれ産出されるものを記録する種々の資産および負債 勘定を包含する。そして,この正味資本の産出勘定では,経済学的利益概念に おける産出勘定と同じく,企業活動に伴う流入を借方に,その流出を貸方に記 入し,また正味資本勘定も,正味資本の産出勘定からの振替を内容とするゆえ, そうするのである。 そこで,このような体系における基本的な勘定記入を示せば,つぎのように なる。 正味資本の産出勘定系列 正味資本勘定系列 (2)← (4)← ただし,(1)他の産出勘定に流人として振替えられる流出 (2)(a)所有者の引出金勘定に消費として振替え.られる流出 (b)貸借対照表に振替えられる期末の流人在高 (3)(a)産出勘定に振替えられる期首の流人在高および追加出資 (b)資本勘定に振替えられる当期の産出勘定の総剰余 (4)資本拠出,利益計算に算入されをい資本修正および利益処分等 図1 いま,それぞれの勘定記入について説明を添えると,まず,記入(1)は,財 産の産出勘定系列内部における記入を内容とし,そこでは,財産間の産出,す なわち資産形態になったり負債の返済にあて−られる・財産からの産出が記録さ

(4)

香川大学経済学部 研究年報16 ー」Jβ− J.977 れる。このカテゴリーは,あらゆる現金取引や信用取引,さらに製造企業の生 産過程におけるいわゆる内部移転取引も含むことになり,したがって,会計期 間中になされる−∵連の記入を内容とするわけである。このような記入に関連し て,産出勘定は正味資本勘定よりも多く存在することが注意されねばならない であろう。産出勘定には,正味資本勘定の相対物ともいえ.る産出勘定ばかりで なく,期間中において資本効果を費消した流人あるいは費消したかのように簿 記上処理される流人を記録する勘定が存するからである。後者の勘定は,いわ ゆる費用勘定に相当し,期首または期末においていかなる資本価値も記録され ないため,産出勘定のみ生じ正味資本勘定はあらわれないのである。 つぎに,記入(2)は,産出勘定と正味資本勘定との間の記帳を内容とする。 そこでは第1に,財産からの産出の所有者による消費が記録され,このばあい, 現金,在庫品や土地なとの産出勘定において,貸方記入され,他方引出金勘定 または配当金勘定において借方記入される。そして第2に,期末においてまだ 完全には資本効果を費消していない流人の資本価値を産出勘定から正味資本勘 定へ振替える記録がなされ,その例が在庫品や機械の価値にほかならない7)。 さらに記入(3)は,記入(2)と同じく産出勘定と正味資本勘定との間の記帳 を内容とするが,ここで記録されるのは第1に,期首における手持ちの流人の 正味資本勘定から産出勘定への振替であり8),第2に,期間利益の資本勘定 への振替であり,そして第3に,所有者からの新しい資本拠出であって,この ばあい,資本金勘定において貸方記入され,他方それぞれの産出勘定(現金勘 定,商品勘定など)において一倍方記入されるのである。 最後に記入(4)は,正味資本勘定系列内部における記入を内容とするもので ある。そこでは第1に,利益計静に算入されず直接に資本勘定に計上される評 価増・減額が,記録され,また第2に,企業創設時における所有者の資本拠出 および利益処分にかかわるさまざまな振替が記録されるのである。 7)8)このような記入(2)および(3)に関して,ここではいわゆる覇権的財産である資産 についての説明がなされているが,当然,消極的財産である負債の記入は,前者と反 対のかたちをとるであろう。すをわち,負債については,期末における産出勘定から 正味資本勘定への振替が記入(3)として,そして,期首における正味資本勘定から産 出勘定への振替が記入(2)としてをされるのである。

(5)

−JJリー 伝統的会計上の利益概念の一・断面 以上,ハンセンの勘定体系における記入方法をみてきたが,さらに彼の勘定 艶諭を理解するため,具体的な記入例をあげておこう。 ある製造企業が,つぎのような貸借対照表をもって営業開始したとする0 表 照 借 貸 0 0 0 0 8 金 本 資 0 0 0 0 8 金 現 そして,初年度の取引はつぎのとおりである。 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 ︵U O 4 0 0 0 0 0 2 0 0 1 0 0 2 0 4 1 5 ︵=0 1 2 4 6 4 1 1 1 3 1 原材料を掛で購入 2.機械および備品を現金で購入 3∩ 商品を掛で販売 4 保険料の支払 5.建物を現金で購入 6.不動産を抵当とする借入 7 家賃の受取 8.商品を現金で販売 9 原材料を現金で購入 10小 男掛金の支払 11 売掛金の受取 12.貸金の支払 また,当年度決劉こお亘、て,つぎのような整理事項があるとする。

10,000

18,000

原材料評価額 機械備品評価額 保険料未経過高 3 4 5 6 7 1 1 1 1 1 建物評価額 家賃前受高…‥

(6)

香川大学経済学部 研究年報16 J.977 ーヱ2クー 以上の資料に基づいて,ハンセンの勘定体系における記入を示せば以下のよう になる。なお,用いられる記号はつぎのとおりである。 Cp:期首資本価値 Cu:期末資本価値 Pp:期間収益額 Pd:期間費消額 a:振替え.られた流人 Pnp:期間純利益 正味資本勘定系列 資 本 金 現金価値 80,000 (Cp) 24,000(Pnp) (Cp) 80,000 (Cu) 53,200 80,000 (a) 原材料価値 (13)10,000l 機械備品価値 (14) 18,000 売掛金価値 (Cu) 5,000 未経過保険料 (15) 200 不動産価値 期末正味資本価値勘定 (16)59・000l 買掛金価値 現 金 53,200 原材料 10,000 買掛金 1,000 不動産抵 当付借入 40,000 金 前受家賃 400 純資本= 資本勘定104,000 の残高

ll,000(Cu) 機械備品18,000

不動産抵当付借入金 売掛金 5,000

40,000(Cu) 歪琵荒 200

前 受 家 賃 不動産 59,000 145,400 400 (17) 145,400

(7)

伝統的会計上の利益概念の−・断面 産 出 勘 定 系 列 ーーヱ2ユー 現 金 8,000t 8,000(Pd) 買 掛 金 (12) 12,000 (1) (10) 11,000 (Cu) 1,000 不動産抵当付借入金 (Cu) 40,000l40,000 (6) 原 材 料 (1) 12,000 (9) 14,000 10,000 (13) 16,000 (Pd) 機 械 備 品 (2) 20,000 18,000 (14) 2,000 (Pd) 製 品 成 果 勘 定 (Pp) 50,000 40,000 (3) 10,000 (8) 製品の (Pp) 期間収益 50,000 不動産の (Pp) 期間収益 1,000 (Pd) 竃蛋驚蒜期16,000 (Pd) 機械備品の へハハハ 売 掛 金 真宗2,000 蟄 期間 35,000 (11) 5,000 (Cu) (3) 40,000 (Pd) 嵩算岩窟期1,000 (Pd) 賃金の期間 8,000 費消額 保 険 料 200 (15) 1,000 (Pd) (4) 1,200 (Pnp) 資本金勘定  ̄ 24,000 利益 51,000 不 動 産 2,400 (7) 59,000 (16) (5) 60,000 (17) 400 (Pp) 1,000 51,000

(8)

香川大学経済学部 研究年報16 −エ22− J977 このようにみてくると,ハンセンの勘定理論は,正味資本勘定系列と正味資 本の産出勘定系列という二勘定系列よりなるこ勘定理論にほかならないが,通 常のこ勘定理論とは異なることが明らかである。岡本愛次教授によれば,その 二勘定系列は,通常の「財産勘定系統,資本又は損益勘定系統の分類とは 異なり,正しくは,在高勘定系統と連用勘定系統ともいうべきもの9).である と特徴づけられている。ハンセンは,このような彼独白の勘定理論を構築する ことによって,経済学的利益概念におけると同じく簿記上企業活動を流人と流 出の概念で把えることになった。そして,それを記録する正味資本の産出勘定 は下のようになって,伝統的会計上の利益概念における勘定形式は,経済学的 利益概念におけるそれと10),まさしく同一・になったのである。 資産Ⅹの産出勘定 (1) 期首における手持ちの流人(前期 からの繰越) (2) 他の産出勘定の流出から待た流人 (3) 他の産出勘定へ・流人として振替え られた流出 (4)所有者により消費として受け取ら れた流出 (5)期末における手持ちの流出(次期 への繰越) 図2 9)岡本愛次稿「経済的利益と会計的利益.『会計烏:第88巻第3号(1965年9月),48 ページ。 なお,さらに,同教授は,ハンセンのこ勘定系列についてつぎのように説明 を加えている。す覆わち,「純資本勘定系統(正味資本勘定系列)は,開始在高を生 産勘定(産出勘定)に引渡すと共に,期末在高を生産勘定から引受け,期末の純資本 価値を示すものである。生産勘定は財産,資本勘定のみをらず,損益勘定をも含み, 資本の逆用を記録する.(同ペt−・ジ)と。(括弧内筆者) 10)拙稿「前掲稲.83ページ参照のこと。

(9)

伝統的会計上の利益概念の一・断面 −ヱ23−・ ⅠⅠⅠ このようにして,ハンセンにおいて,勘定形式は,経済学的利益概念にあっ てもまた伝統的会計上の利益概念にあっても,同一・となった。いまや,経済学 的利益概念と伝統的会計上の利益概念を対照せしめ,前者の観点から後者を分 析しうることとなったのである。いわば,この2つの利益概念について,勘定 の質的一・致がみられるようになったからには,それの量的−・致を問題にしよう というわけである。以下,このような分析をなし,経済学的利益概念に照して 伝統的会計上の利益概念を特質づけてみよう。 ところで,このような分析のためにハンセンの用いた方法は,いくつかの代 表的な勘定について,伝統的な会計原則の適用により生ずる量的内容,すなわ ち勘定の成果を詳細に検討することである。そこでわれわれも,棚卸資産勘定, 固定資産勘定,所有者および従業員の労務勘定,さらに借入金勘定についてそ れぞれ検討することを通して,伝統的会計上の利益概念の特質を浮き彫りにし てゆきたい。 棚卸資産勘定 そ・こで,まず最初に,いわゆる棚卸資産勘定について検討することにするが, これは,ハンセンの勘定理論の下では,棚卸資産の産出勘定,より正確には棚 卸資産取引に関する産出勘定と称されるべきものである。 いま,棚卸資産の代表として商品を考えることにすると,商品の産出勘定の 主な記入は,図2から当然,つぎのようになるであろう。 商品の産出物定 図3

(10)

香川大学経済学部 研究年報16 −ヱ24− J977 そして,このような勘定において,商品取引の結果,すなわち商品販売損益は 原則として,流出(3)と消費((1)+(2)−(4))との差異として\現われるであろ う。 さて,その流出(3)の計上に関して,伝統的な会計原則は,いうまでもなく 販売基準すなわち実現主義である。・す ̄なわち,商品取引による受取高は,企業 から外部への実際の実現を立証することができるような段階までは計上しない ということが−・般的に認められているのである。 他方,財の消費((1)+(2)−(4))の計算に関しては,2つの原則が支配的で ある。その1つは,原初原価主義ないし実現主義の立場であり,いま1つは, 低価主義ないし保守主義のそれである。原価主義は,財の消費の計算における 基本的原則として特徴づけられるが,ハンセンによると,これは,会計が−・大 原則として採択している実現主義によって論理必然的に要請される原則である とされる。実現主義によって,「利益計上は,販売時点までは全体的にも部分 的にもなされえない11).のであってみれば,その結果必然的に,棚卸商品は原初 原価で計上されるほかないからである。ふえんすると,ハンセンは,このよう な実現一原価主義を,利益についての会計人の哲学において何がもっとも本質 的であるかを理解する鍵を与えり さらに会計の体系を形づくる基本的なものと して位置づけている。彼はいう,実現一原価主義にもとづくと,「われわれは, 貸借対照表評価を将来収入の見積りにもとづいて確定し,そうして損益勘定に おいて収益および費用の大きさを決定するのではなくて,むしろ逆に,貸借対 照表評価が損益勘定の収益および費用に記入されるべき額にもとづいて決定さ れるというきわめて興味ある事実に逢着する12).と。 これに対して,いま1つの考え方である低価主義は,いうまでもなく,棚卸 時において原初原価と市場価格のいずれか低い方で棚卸資産を評価する方法で あり,したがって叙上のような基本的原則から大きく逸脱するものである。そ して,これは,「損失は単におそれがあるばあいでもつねに計上されるべきで あるが,利得は確定されるまでは決して計上されるべきではない.というドグ 11)P∴Hansen,OPcit”,P”55 12)乃去■d

(11)

伝統的会計上の利益概念の−・断面 −ヱ25− マを意味する保守主義によって要請されるといわれる。あるいは,ドグマティ ックであるゆえにかえ.って,この保守一低価主義は,広く採択され,「非常に 盲従的に遵守されて1さ〉.いるのかもしれない。 このようにみてくると,伝統的会計において,商品勘定にみられる成果,す なわち商品販売損益は,実現主義と原価主義あるいは保守主義と低価主義に枠 組まれるものであることが明らかである。ではこのような利益概念は,経済学 的利益概念に照すとどのように特質づけられるのであろうか。そのために,ふ たたび商品の産出勘定に帰ることにしよう。 この勘定の項目(1)および(4),すなわち期首と期末における棚卸商品に関し て,伝統的な評価原則は,前述のように原価主義あるいは低価主義である。し かし,経済学的利益概念にあって,その評価原則はもちろん別である。そこで は,棚卸商品は,当該企業にとってそれからの便益の価値に等しい貨幣額で計 上されるべきであり,いい換え.ると,期待されるそれからの将来的純流出と主 観利子率によって評価時点まで割引くことによって簸定される。ところで,ハ ンセンによると,この定義にもっとも近い価値は棚卸商品の販売価値から販売 収益控除と変動販売費をさしひいたものを棚卸時点まで割引いたものであり, この評価原則を版売価格控除主義と称する。そして,その版売価格控除は,自 由市場においては棚卸時の市場価格と一徹するゆえ,販売価格控除主義は,商 品購入時と棚卸時で物価変動がないときは原価主義と,また購入時の原初原価 より棚卸時の市場価格が低いときは低価主義と同一・の結果をもたらすと指摘さ れる。そのようなばあいには,伝統的会計における棚卸商品価値は,経済学的 利益概念におけるそれと基本的に異なる考え方によるにもかかわらず同一・にな るというのである。これに対してその他のばあいには,いうまでもなくそれら は異なり,その差異は,伝統的会計における商品版売損益を経済学的利益概念 におけるそれと異ならしめることになる。いい換えると,伝統的会計にあって, 商品販売損益はそのような商品価値の差異を含み,その意味で資本価値修正の 要素を含むことになる。その結果,伝統的会計上の利益概念は資本利子として の経済学的利益概念から離れて利得に近接する純生産高概念に移行することに 13)P.Hansen,ゆ.cit,p‖56

(12)

香川大学経済学部 研究年報16 ーJ26」 J.977 なるのである。 つぎに,当勘定の項目(2)および(3),すなわち流人と流出についてみてみる と,これらは,期首棚卸商品の販売取引および期末棚卸商品の購入取引とは別 に,一L会計期閣内に行われた購入および販売という商品取引を包含する。いう までもなく,これによっていわゆる良い年度と患い年度が形成されるわけであ る。したがって,このような取引は,商品販売損益に1つの要素すなわち資本 貯蓄を含まない利益の要素を付加し,その結果,伝統的会計上の利益概念は, フィノシャーの主張する実現所得の性格をもつことになる。ここに,伝統的会 計上の利益概念は,資本貯蓄を含める経済学的利益概念と決定的に異なるので ある。ふえんすれば,伝統的会計の棚卸は,このようないわば収益生成活動か ら生ずる資本価値を表示せず,それゆえ利益計静はその資本価値の変化によっ て影響されないからである。 [数 値 例] 上のように,まず商品の産出勘定の検討を通して,伝統的会計上の利益概念 の特質を経済学的利益概念に照して浮き彫りにしてきた。ここにおいて,その 特質を一層明瞭ならしめるため,ハンセンにしたがって具体的な数値例を検討 してみよう。 かりに,3期間にわたる商品売買取引を想定しよう。その状況は図4の2本 の時間軸に示されるとおりであるが,上の軸は,上側に期首棚卸商品の販売か ら生ずる収益(流出)を,下側に期末棚卸商品の購入のため支払われた費用(流 人)を示し,他方下の軸は,それ以外の−・期間内に完了する商品売買取引をあ 流 出 105 110 100 to tl t2 t 〉 100 100 100 105 220 to tl t2 100 200 95 10 30 105 図4

(13)

伝統的会計上の利益概念の一断面 −エ27− らわしている。さらにこのような取引にもとづく引出額が,その最下段に示さ れている。なお便宜上,購入と販売はすべて毎期末に同時に実現すると仮定し, また経済学的利益概念にあって使用される主観利子率は1年あたり5%とする。 このような数値にもとづくと,各時点での棚卸商品は表1のように評価され る。あらためていうまでもなく,ここに実現資本利子とは,経済学的利益概念 の立場という意味であり,それは代替的な経済学的利益概念のうちの理想概念 ゆえ用いられるのである。 to tl t2 実現一原価主義 100 100 100 保守一低価主義 100 95 95 実現資本利子 *100 **10476 ***95、24 105 1+0′05 ただし, *100 = **104牒= ***9524= 表1 総資本価値 棚卸商品 見えざる資本価値 *127.43 100 27。43 **12381 104。76 19。05 ***100,00 9524 476 0 0 0 (105−100)+ 100)+(220−200) ただし、 *127.43 (1+005)2 1+005 (100−0)+(100−95) + (1+005)8 (11い100)十(22(ト200)+抑95) 2 **12381 ***100.00 (1+005) 1+0.05 −0)+(100 二 旦む 1+0,05 表2

(14)

香川大学経済学部 研究年報16 −ヱ2β− ヱ977 また,このばあい,各時点での経済学的利益概念における真実の総資本価値 は表2のようになり,そしてこの資本価値は棚卸商品の価値と見え.ぎる資本価 値とに分かたれるのである。 そうすると,各時点における資本および利益の計算をすれば,つぎのように なるであろう。 to

Pl

P2

P8

実保夫 現 現 現 利

主 主 本 利 主 主 本 利 主 主 本 利 主主本 利

義 義 子 義 義 子 義 義 子 義l義 子 益 1.諸 資 産 2見えざる資 本価値 ‥∴二 3.所有資本 4資本変化 5l引 出 額 6.利益(4+5) 実現主義 保守主義 ー l−110 *** 5117.57 ただし, *638=10− 3.62 あるいは=12743×0.05 **619= 30−23,81 あるいは=123.81×0い05 ***5 =105−100 あるいは=100 ×0.05 表3 この表から,実現主義あるいは保守主義にもとづく伝統的会計上の利益は,

(15)

伝統的会計上の利益概念の一・断面 −エ29− 見えざる資本価値の実現よりなる資本消費の要素を含んでいることがわかるで あろう。実現資本利子は全体で17.57であり,伝統的会計上の利益は45であっ て,その差異は27り43であるが,これはto時点における見えぎる資本価値に相 当するのである。 さらにハンセンは,伝統的会計上の利益と実現資本利子との差異を一層明確 に理解するため,期間利益について一群細な検討を加える。彼にあっては,その ため第2期を選択し表5のようにして伝統的会計の基本的原則である実現主義 にしたがった勘定と実現資本利子にしたがったそれとを比較分析しているが, われわれは第1期および第3期についても同様な分析をなし,ここに示すこと にしたい。 第1期の商品の産出勘定 実現資本利子 実 現 主 義 期首棚卸商品 100 105 期末棚卸商品 100 104.76 期中商品取引 (見えぎる資本価値) 27∫43 100 105 19 05 期首残高 流 出 流 人 期末残高 期首残高 流人/流出 期末残高 300 310 10 32743 33381 6 38 310 310 33381 333け81 表4

(16)

香川大学経済学部 研究年報16 第2期の商品の産出勘定 ヱ.977 −ヱβ∂一 実 現 主 義 l 実現資本利子 期首棚卸商品 104.76 110 期末棚卸商品 100 9524 期中商品取引 (見えざる資本価偲) 19 05 200 220 4.76 期首残高 流 出 流 人 期末残高 期首残高 流入/流出 期末残高 400 430 30 423.81 430100 6小19 430 430 1 43000 430.00 表5 第3期の商品の産出勘定 実 現 主 義 l 実現資本利子 200 200 】 200.00 200‖00 表6

(17)

伝統的会計上の利益概念の一・断面 −ヱ3ヱー このような表4,表5,および表6から,伝統的会計上の利益と実現資本 利子との変異の生ずる事情が明らかである。われわれは,それをつぎのような 表ユ4)で示しておこう。 (1)期首棚卸商品の 実現に関する見 込み (2)期末棚卸商品の 実現に関する見 込み (3)見えぎる資本価 値の実現よりを る資本消費 合 計 実現主 義は +476 =104.76−100 +4。76 =100−9524 +14い29 =1905−4176 :-4 76 =95.24−100 0

を予見しな い。

−4ノ76 =100−104小76 +838 =27.43−19。05 を益 ○ し剃る 録.め +476 =476−0 義く討と利男 主づ会益本差 現と的利資の 実も統の現と がに伝上実子 +23り81 =30−619 0 =5−5 +362 =10−6.38 に等しい。 表7 叙上のように,商品の産出勘定に関するハンセンの数倍例をみてきたが,わ れわれはここで,それに対して,いくつかの疑問を呈さざるをえないのである。 第1に,何故彼は経済学的利益概念の下で棚卸商品を,販売価格控除主義に よって評価したのであろうか。すなわち,それは,それからの将来的純流出を 主観利子率によって評価時点まで割引くことによって評価されるのではなかろ うか。経済学的利益概念にあって,理論上正しい棚卸商品の評価原則は,既述 のようにこれにほかならないと考える。また第2に,何故彼は見えぎる資本価 値を,真実の総資本価値から棚卸商品の販売価格控除を差しひいたものとして 14)ここまでの数値例はハンセンにしたがったものであるが,本表については筆者が 加えた。

(18)

香川大学経済学部 研究年報16 ーJβ2−・ J7.97 算定したのであろうか。すなわち,それは,真実の総資本価値から棚卸商品の 原初原価を差しひいたものとして算定されるのではなかろうか。見えざる資本 価値に対するいわば見える資本価値は,棚卸商品の原初原価であると思われる。 そして第3に,何故彼は期中商品取引の資本価値を,見えざる資本価値に等し いとみなしたのであろうか。すなわち,それは,期中商品取引からの将来的純 流出を主観利子率によって評価時点まで割引くことによってのみ計算されるの ではなかろうか。見え.ぎる資本価値は,期中商品取引からもまた棚卸商品の取 引からも生ずると思われるのである。そこでわれわれは,このような点に関し て,ハンセンの数億例を修正し,あらためて経済学的利益概念に照して伝統的 会計上の利益概念の特質を明瞭ならしめたい。 そうすると,まず第1に,各時点での棚卸商品の評価はつぎのように修正さ れるべきであろう。なお,われわれは,伝統的会計における評価原則のうち, 基本的な実現主義についてのみ検討することにする。 to tl t2 実現一原価主義 100 100 100 実現資本利子 *100.21 **100.23 ***95小24

ただし,*10021=!㌫+

**100・23=+

110−100. 100−0 十

((1

(1+0.05)2 100−0 1+0.05 *** 95.24= 表8 つぎに第2に,各時点での経済学的利益概念における真実の総資本価値は, 表9のようないわば見える棚卸商品の原初原価と見えぎる資本価値とに分かた れるべきであろう。 さらに第3に,期中商品取引の資本価値は表10のように修正されるべきであ り,そうして実現主義にもとづく商品の産出勘定と実現資本利子にもとづくそ れとの差異分析は,各期について以下の表11・表12・衰13のようになると思わ れる。

(19)

伝統的会計上の利益概念の一・断面 叫ヱ33− 総資本価値 棚卸商品 見えざる資本価値 127.43 123.81 100.00 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 期中商品取引に よる資本価値

27、22=+十

て 105−100 t′l〉) 1 1+0,05 ■(1+0一05)2 476= 0 第1期の商品の産出勘定 実 現 主 義 l 実現資本利子 棚卸商品取引 期首残高 流人/流出 期末残高 期首残高 流人/流出 期末残高 100,.21 100 105 100.23 100 100 105 100 0 100 105 0 期中商品取引 27小22 100 105 23い58 327り43 333い81 6−38 300 310 10 310 310 1 333‖81 333,.81 表11

(20)

−−∫β4− 香川大学経済学部 研究年報16 第2期の商品の産出勘定 ヱ977 実 現 主 義 l 実現資本利子 l 棚卸商品取引 期首残高 流人/流出 親末残高 期首残高 流人/流出 期末残高 100 100 110 100 0 200 220 0 100い23 100 110 95.24 期中商品取引 23.58 200 220 4.76 400 430 30 42381 43000 6,19 430 430 430い00 430.00 表12 第3期の商品の産出勘定 実 現 主 義 l 実現資本利子 棚卸商品取引 期首残高 流人/流出 期末残高 期首残高 流人/流出 期末残高 100 0 100 0 0 95 100 0 95.24 0 100 0 期中商品取引 4 76 95 100 0 195 200 5 19500 200い00 5 200 200 200。00 200.00 表13

(21)

−∫35−− 伝統的会計上の利益概念の−一断面

このような表11,表12,および表13から,伝統的会計上の利益と実現資本利

子との差異はつぎのようにして生ずると考えるべきであろう0 −4176 =95124−100 +0け23 =100.23−100 棚初﹁そす計い棚え倍 首原っ.閑をな首見価 をよしにみれ期の本 期 +021 =10021−100 実現主義 にもとづ く伝統的 会計上の 利益概念 は 現込入,晶資 実見にめ商る のる簸た卸ぎ +4.76 =100−95 24 品に価現込入,品資 獅響掴冊緋冊榊緋 値 末原っ,閑をを未見価 期をよしにみれ期の本 ︶ 2 ︵ −023 =100−10023 くし純のに たずのそ益 つせそを利 0 ま偲,出まむ を考て流ま含 +476 =4.76−0 +18。82 =23.58−4.76 引資現本 取る英資 品ざのる 商え値な 中見価り費 期の本よ消 ︶ 3 ︵ 裁く計と利男. 主づ会益本差く 現と的利資のし 笑も統の現と等 がに伝上実子に 0 =5−5 +23.81 =30−6.19 合 計 +3.62 =10−638

凝る白

にい明 ○ 益てがる

刺しとあ を化こで

2381−0 金利は 的の念 統上概 伝計益

(22)

香川大学経済学部 研究年報16 ーヱ36■− J.977 以上,すこし冗長ではあるが,商品の産出勘定およびその数値例について検 討してきた。われわれは,ここで,棚卸資産勘定に関して伝統的会計上の利益 概念の特質を,経済学的利益概念に照してつぎのようにまとめることができる であろう。すなわち,伝統的会計上の利益概念は,まず,流出計上にあたって 実現主義が採択されるため,棚卸商品が原初原価によって評価されるので,実 現資本利子と異なって資本価値修正要素を含むことになり,そ・れゆえ利得に近 接する純生産高概念の性格をもつ。それはまた,この原則が採択されるため, 期中商品取引の見えざる資本価値の変動を・まったく考慮せずして,その純流出 をそのまま含むので,資本貯蓄を含まない実現所得の性格を有する。そして, 伝統的会計上の利益と実現資本利子とは,見えざる資本価値の実現よりなる資 本消費分だけ異なり,これを前者は利益に転化しているのである。念のため, われわれは上例について次表を作成しておこう15)18)。 空慧宕会計宗現資李 差異 驚喜芸意志ざ謂芸是急ぎ 0 0 5 5 1 3 4 − 6し38 = 3.62 = 27.43 − 23。、81 − 6り19 = 23.81 = 23、81 −・ 0 − 5 = 0 = 0 − 17‖57 = 2743 = 2743 (toにおける見えざる資本価値) 表15 15)さらに念のため,伝統的会計上の利益が保守一低価主義にもとづくぼあいについ ても検討しておこう。 竺慧業会計宕現資李 差異 志ざ 習急ぎ 体 PI R∵杭全 10 − 6.38 = 362 = *2743 − 2381 25 − 6,.19 = 18.、81 = **23.81 − 5 10 − 5 = 5 = *** 5 − 0 45 −17.57 = 27.43(toにおける見えぎる資本価値) ただし,*27い43=127り43−100 **23.81=123.81−100 *** 5 =100 − 95

(23)

伝統的会計上の利益概念の一断面 −J37」・・ ⅠⅤ 固定資産勘定 つぎに,固定資産勘定の検討に進むことにしよう。いうまでもなく,ハンセ ンの勘定理論の下では,これは,固定資産の産出勘定と称されるべきものであ り,その内容はつぎのように示される。 固定資産の産出勘定 (3)期間中に実現した資本資産(流出) (4)期末在高(翌朝に繰越される流人) (1)期首在高(前期から繰越され た流人) (2)期間中に取得された資本資産 (流人) 図5 さて,この固定資産の産出勘定の特徴は,期間中における固定資産からの産 出が流出として記録されないということである。因5の勘定における記入(3) は,スクラップされた当該資産の実現から生ずる流出のみを含むのである0そ れゆえ,この項目を無視すると,この勘定は原則として固定資産の資本価値の 期間的な減少に相当する,したがってなされた減額に相当する損失を示すこと になる。これすなわち,減価償却費にほかならない。 16)をお,ハンセン自身の具体例に依存し修正を加えなければ,このようを伝統的会 計上の利益概念が実現資本利子の上に見えぎる資本価値の実現よりなる資本消費分 を含むという特質を審わにしないと思われる。彼自身の分析によると,実現主義の ばあいについていえばつぎのようにをるからである。 望慧宕蓋封宕現資葦 差異 驚喜芸蔑急ぎ 管裏芸蔑急ぎ 体 Pl n∵杭全 10 − 6.38 = 3、62 ≒ 27り43 − 19.05 30 − 6‖19 = 2381 ≒ 19小05 − 4.76 5 − 5 = 0 キ 4.76 − 0 45 −1757 = 27143 = 27い43 (toにおける見えざる資本価値)

(24)

−ヱ3β− 香川大学経済学部 研究年報16 J977 このような減価償却法に関して,伝統的会計にあって支配的なものは,定額 法,定率法および生産高比例法である。あらためていうまでもなく,定額法と は固定資産の原初原価17)をその耐用年数にわたって均分して,また定率法とは それの未償却残高に一定の償却率を乗じて,そして生産高比例法とはその原初 原価をそれの技術的総生産高に対する期間生産高の割合で按分して,それぞれ 期間減価償却費を計算する方法である。したがって,伝統的会計にあっては,期 首および期末における貸借対照表上の固定資産価値は,経済学的利益概念とは まったく関係のない観点から決定されるといえよう。定額法ヤ定率法に関して, その価値は当該贋産のいわゆる経済価値(稼得能力)にはまったく無関係に, 将来のすべての貸借対照表について前もって決定される。また生産高比例法に 関して,生産高と当該資産の経済価値の減少との間には相関関係があるにちが いないとすれば,定額法よりは経済価値に関係する大きさを表現するのに接近 することになるかもしれない。しかし,この方法でも,原初原価にもとづく減 額に依存しているゆえ,経済的というよりはむしろ技術的資料が配分の基礎に なっているのである。 これに対して,ハンセンによると,経済学的利益概念にあっては,固定資産 価値は,いわゆる間接法によって決定される。すなわち,それは,もし当該資 産がなかったとすれば利益がどれだけ減少するかという方法によって算出され る将来的純流出を主観利子率によって評価時点まで割引いて決定されるのであ る0そして現実には,厳密に前と同一の資産がその取替価格で取得されるばあ い,個々の資本価値と取替価格とのいずれかが選択され,他方,部分的取替と いう通常のばあい,修正取替価格が採用される。 それゆえ・明らかに,経済学的利益概念における減価償却のか−ブは,伝統的 会計におけるそれとは別のコースをとるのである。したがって,固定資産の産 出勘定に関して伝統的会計上の利益概念は,経済学的利益概念におけるとは異 なる貸借対照表上の資産評価によって生ずる資本価値修正の要素を含むであろ 17)いうまでもをく,定額法にあっても,また定率法ヤ生産高比例法にあっても,所 要償却額吼 正確には固定資産の原初原価ではなぐて,それからスクラップ価額を 差しひいたものであるが,ここでは上にならってスクラップ価額を無視し,こう示 したのである。

(25)

ーヱ39− 伝統的会計上の利益概念の一・断面

う。その結果,それは,利得に近接する純生産高概念としての経済学的利益概

念の性格をもつことになるのである。 〔数 値 例〕

ここで,伝統的会計における減価償却の方法と経済学的利益概念におけるそ

れとを比較し,伝統的会計上の利益概念の叙上のような特質を鮮明ならしめる

ため,ハンセンの具体的な数値例を検討することにしたい0

かりに,ある固定資産から生ずる流出および流人が図6の軸に示されるとお

りであるとする。なお,もちろんこの流出は間接法によって算出されたもので

あり,またt3時点におけるスクラップ価額60が前もって知られているとする◇

110

165 ほ

流 出 t2 ta to tl 300 図6 流 人

また,当該資産の生産高は流出の経過に一・致し,3期間の総生産高330単位

が,それぞれ各期に80(33喜%),120(50%),40(16召%)として配分される

と仮定する。さらに,経済学的利益概念にあって使用される主観利子率は1年

あたり5%とする。

そうすると,伝統的会計における定額法ないし生産高比例法,また経済学的

利益概念における個別資本価値の観点による当該資産の貸借対照表価値および

減価償却費は表16のように計算される。なお,ここに個別資本価値とは,経済

学的利益概念の下で間接法によって決定される固定資産の貸借対照表価値にほ かならない。

そこで,それぞれの方法にもとづいて,利益の計鈴をすれば次表17のように

なる。

本表は,伝統的会計上の利益は,定額法によってもまた生産高比例法によっ

ても,実現資本利子とは異なることを示しており,定額法によると両者は個別

資本価値の変化が大きい期間に大きい差異が生じ,また生産高比例法によると

(26)

香川大学経済学部 研究年報16 J−977 個別資本価値

定 額 法

生産高比例法

貸篭対意表l減価償却栗 貸諾対竃表i減価償却費 貸賃対還表l減価償却費 300−60 3 ただし,†飢 = Ⅰ :: 165 115 †′1− 80 =(300−60)× 10 *35376=_仙+ 十

(1)2(1騨

**261145=+

てr 115 1十005 ***10952= ▲ 92,31=353.76−261.45あるいは =110−17リ69(35376×005) すなわち,経済学的利益概念における期間減価償却費は, その期間中の当該資産の産出価値がその貸借対照表価値に 対する利子を超越する額に相当するのである。 表16 ただし, *1769=110−92.31あるいは =355.76×0.05 **13。07=165−15193あるいは =261一45×005 *** 5148=115−109152あるいは =109.52×005 表17

(27)

伝統的会計上の利益概念の一・断面 −ヱ4ヱー 両者はこの例のように生産高と流出とが密接に一致してさえ何の相関関係もも たないのである。 そしてこの表から,固定資産の産出勘定にあっても,棚卸資産の産出勘定に おけると同様に,定額法や生産高比例法による伝統的会計上の利益と実現資本 利子とは,見えぎる資本価値の実現よりなる資本消費分だけ異なり,これを利 益に転化して−いることが明らかである。すなわち,次表18)のとおりである。な お,ここでは,伝統的会計上の利益は代表的な減価償却法である定額法による ものだけを扱っている19)。 期首の見えぎ 期末の見えざ る資本価値 る資本価値 異 差 資子 現利 実本 伝統的会計 上の利益 30 − 17い69 = 12,31 = *53.76 − 41.45 85 −13.07 = 7193 = **41い45 −(−3048) 一25 − 5148 =−30一48 = ***−3048 − 0 90 − 36.24 = 53..76 = 53.76 (toにおける見えざる資本価値) 体 PI坑口り金 ただし, * 5376=35376−300 ** 41.45=26145−220 *** −30.48=10952−140 表18 18)ここにおける数値例はハンセンにしたがったものであるが,本義ほ筆者が加えた。 19)念のため,伝統的会計上の利益が生産高比例法にもとづくぼあいについても検討 しておこう。 慧計現資李 差異 ぎ ぎ Pl 30 −1769 =1231= *53“76 − 41.、45 P2

45 −1307 = 3193 = **4145 − 952

P8

15 − 548 = 952 = *** 952 − 0

全体 90 − 36.24 = 53い76 = 53.76 (toにおける見えぎる資本価値) ただし, *53、76=35376−300 **4145=261L45−220 *** 9、52=109,52−100

(28)

香川大学経済学部 研究年報16 ヱ977 −∫42− 所有者および従業員の労務勘定 さらに,所有者および従業員の労務勘定について検討することにしよう。ハ ンセンによると,企業の所有者ヤ従業員の労働の資本価値が企業の総資本に含 まれ,それに対する利子が経済学的利益に含まれねばならないと考える。なぜ なら,所有者およびあらゆる種類の従業員によってなされる労働は,原則とし て利益を生みだすものであり,これすなわち資本価値をもつものであるからに ほかならない。 ところが,伝統的会計にあっては,もちろん,このような所有者や従業員の労 働から生ずる流出を分離して記録する試みはまったくなされて−いない。ただ単

に,従業貞の産出勘定の借方残高(期間中における賃金・訓練等の費用)が期

間損益計算・に入れられ,当期の実現収益に対応させられるだけである。このこ とは当然,伝統的会計にあっては,経済学的利益概念に比して,所有者や従業 員の労働の資本価値の変動がまったく記録されないことを意味する。その結果, 所有者および従業員の労務勘定に関して伝統的会計上の利益概念は,フィツ シャ・−・の実現所得の性格をもつことになる。 そしてハンセンによると,企業のスタッフはその経済活動に重要な意味をも ち,しかも時々にそのスタッフの質の変化があるゆえ,いわゆる見え.ぎる資本 価値のかなりの部分がこのような労務勘定の処理をめぐって生じており,それ ゆえ,経済学的利益概念と伝統的会計上の利益概念との差異の根本的な原因が, このように後者にあって見えざる資本価値を考慮しないことにあると指摘され るのである。 借入金勘定 最後に,長期利付の借入金勘定,ハンセンの用語によると借入金の産出勘定 について検討を加えることにしたい。ところで,伝統的会計にあって,負債は 評価されるべきではないしまたはそうされえないものであって,額面額で記入 しなければならないという一・般的見解が存在する。しかしながら,これまでみ てきた貸借対照表上の価値に関する定義は,当然貸借対照表の消極側について も同様にあてはまるはずであり,このことは,負債の価値が貸借対照表作成日

(29)

伝統的会計上の利益概念の−・断面 −ヱ4β− においてその債務に等しい貨幣額に相当するように記入されるべきであること を意味する。 したがって,原則として,負債の名目価値と利子価値とを区別しなければな らないことになる。ここに利子価値とは,利子および賦払金の将来的支払債務 の現在割引価値をいう。いい換えると,割引にもちいられる主観利子率と額面 利子率との間に相異があるならば,負債の名目的大きさと異なる貸借対照表価 値があらわれるのであり,それゆえ伝統的会計上の利益と経済学的利益とは異 なるものとなる。すなわちこのことは,借入金の産出勘定に関して伝統的会計 上の利益概念が,利得に近接する純生産高概念の性格を帯びることを意味して いる。 〔二数 値 例〕 ハンセンの具体的な数値例が,以上の事情をよく説明するであろう。 かりに,ある企業が総額5,000,年賦払金1,000,年率6%の借入をなしたと する。下軸は,その状況であり,利子は賦払金の下に区別して表示している。 流 出 5,000 to 流 人 tl t2 t3 t4 t5 1,000 1,000 1,000 300 240 180 図7 1,000 1,000 120 60 このばあい,最初の2期については主観利子率と額面利子率とは一・致するが, それ以降では主観利子率が5%になると仮定する。 そうすると,各時点における負債額は表19のようになる。

(30)

香川大学経済学部 研究年報16 J977 会計上の貸借 対照表価値 真実の貸借 対照表価値 *5,101.32 **4,079い69 ***3,055.35 ****2,028.12 *****1,009.52 1,300. 1,240 ただし, *5,101,32コ + (1 1,060 + (1+0.05)5 1,120 1,060 塑寸ノリ甲 **4,079.69= ***3,055.35= ****2,028い12= *****Ⅰ,009..52=

(前+て稀

+ 1+0.06 −(1+0り05) 婁土製+∴りぞ + てr 1+0。05 −(1+0,.05)2 L竺L十ノ1,p甲 1+0れ05 ■(1+0.05)2 1,060 1+005 蓑19 そこで,各期における利益の計算を行なってみるとつぎの表20のようになる であろう。 乙の表20から明らかなように,伝統的会計では,長期利付の借入金の産出勘 定においても見えざる資本価値を利益概念に含めている。このばあい,利益計 劉こかよほす影響は消極的であるので,伝統的会計上の損失が実現資本利子と それだけ相異することになるのはもちろんのことである。下表2120)は,この事 情を端的に示すであろう。 20)ここにおける数値例はハンセンにしたがったものであるが,本表は筆者が加えた○

(31)

伝統的会計上の利益概念の一一断面 −J45」−− め?○× め︵宕.〇+l︶

琴。エ

橿+b

橿+b

○∽○■一 忌∵腫 爪?○×N1.笥○−N=悪∫岬場 合.〇×ヨ.宍○∧N=悪工時戚 の?○×宍.浣○■の=悪∫将棺 ︵∽?○十l︶ ︵崎?○+ ONt.1 に+ +∽○占× 野エゆ舟 ▲汐二姐二−○罵J=ト叩.茫N ○寸NJ NS.告OJ−○苫J=等.〇蛤 窟こ喜二−ONIJ=等.101 mN.トONJ−○のlJ=トト.N讐 ︸毒。×璽・︼ 耳∽.諾?tl等NJ=諾.讐N 十 諦鮎専︸= 普空言鼻 音甘党常 並普普 J足豪

(32)

香川大学経済学部 研究年報16 J977 −ヱ4伊−

望慧会計現資葦 差異

ぎ ぎ 300 − 278.37 = 21…63 = *101.32 鰍 79..69 240 − 215り66 = 24.34 = ** 79.69 − 55血35 180 − 15277 = 27.23 = *** 5535 − 28.12 120 】101.40 = 18‖60 === **** 28.12 − 9…52 60 − 50.48 = 9り52 =***** 9.52 − 0 900 椚 798.68 =101,32 = 101い32 (toにおける見えざる資本価値) 体 Pl践nn n∵㌔全 ただし, *10132=5,101、32−5,000 ** 79。69=4,079い69−4,000 *** 5535=3,055ハ35−3,000 **** 28.12=2,028‖12−2,000 ***** 9.52=1,009れ52−1,000 表21 (なお,ハンセンは,さらにいくつかの勘定科目に閲し,経済学的利益概念に照して 伝統的会計上の利益概念の特質に触れている。すなわち,未払賃借料助走については, 伝統的会計では賃借契約者の貸借権利の資本価値をまったく含まないので,この勘定の 成果は実現所得の性格をもつ。前払賃借料勘定については,伝統的会計では貸借対照表 上支払がまえもってなされた原初価値で計上されて,賃借権利の価値についてどのよう な評価もところみられないので,また前受金勘定についても,名目金額で計上されて, それがもつと思われる経済的効果についてどのような評価もこころみられないので,あ るいはまた有価証券勘定に串っては,原初価値と売却価値との差異がそのまま利益にな るので,いずれの勘定の成果も資本価値修正を含み利得に近接する純生産高概念の性格 を有する。さらに,割引債券勘定については,割引額を毎年継続的に利益計算に含めそ れに応じてその資産を増額するであろうから,割引に用いられる利子率と主観利子率が 一致するならば,この勘定の成果は実現資本利子に等しいことになる。そのほか,利益 計糾こ許入されない固定資産の評価増額・評価減額のなされるばあい,資本修正だけが なされるので,これによって利益概念は修正予見資本利子に向かう傾向がある,と。) Ⅴ 以上,われわれはハンセンにならいかついささかの修正を加えながら,棚卸 資産勘定,固定資産勘定,所有者および従業員の労務勘定,さらに借入金勘定 という代表的な勘定の検討を通して,伝統的会計上の利益概念の経済学的利益

(33)

伝統的会計上の利益概念の一・断面 −ヱ47− 概念に対する相異を明確にし,経済学的利益概念に照してその特質を浮き彫り にせんと努めてきた。その結果,伝統的会計にあって,全体利益概念は,実現 資本利子と実現した見えぎる資本価値よりなるものであり,代替的な経済学的 利益概念のうち利得に近接する純生産高概念の性格をもつことが明らかになっ た。他方,期間利益概念は,実現資本利子と見えぎる資本価値の実現よりなる 資本消費分を含み,そして代替的な経済学的利益概念のさまぎまな概念を有す るつぎあわせであると性格づけられることになったのである。すなわち,会計 期間中の商品取引を記録する商品勘定や所有者および従業員の労務勘定には実 現所得の概念が,また棚卸商品を記録する商品勘定や固定資産勘定,借入金勘 定には利得に近接する純生産高のそれが,そして割引債券勘定には実現資本利 子のそれが,さらには利益計算に算入されない固定資産の評価増額・評価減額 を行なうことから修正予見資本利子のそれがみられるように…。そして,伝 統的会計上の利益概念をして,このように特質づける最大のものは,伝統的会 計を支配する実現一原価主我であり,ふえんすると,経済的効果を有するもの であっても対価の支払がなされていない生産要素については貸借対照表上記人 されず,また行なわれた取引の将来の経済的効果の予想によって流出計上がな されることはないからである。 いまやわれわれは,このような伝統的会計上の利益概念の特質に逢着して, そこには重要な問題が成されていることに気づくのである。その1つは,伝統 的会計にあって,健全で保守的な資質が求められるゆえそれにかなう実現主義 が採用されたにもかかわらず,これにもとづく利益概念が経済学的利益概念に 比して必ずしも健全で保守的ではないということである。繰返していえば,こ れにもとづく利益計簸は見えざる資本価値をすべて利益に転化し,伝統的会計 上の利益概念は,実現資本利子の上に見えぎる資本価値の実現よりなる資本消 費分を含むからにほかならない。そしていま1つは,伝統的会計上の利益概念 は利得に近接する純生産高概念の性格をもつというが,これは代替的な経済学 的利益概念の理想概念からもっとも遠いものであり,しかも期間利益について 峠,諸概念よりなるつぎあわせにすぎず判然とした概念をもちえ.ないというこ とである。 そうであってみれば,われわれはただちに,会計上の利益概念の明噺化を窓

(34)

香川大学経済学部 研究年報16 −エ4β−− J.977 図する経済学的利益概念の提唱を高く評価し,会計上の利益概念として,伝統 的なそれに代わってほかならぬ経済学的利益概念を採択すべきであるのかもし れない。けれども,そうはいかないのである。以上のような伝統的会計上の利 益概念の特質は,そのもつ紛れもない性格にはらがいないであろうが,どこま でも経済学的利益概念という一・観点からみた一・断面にすぎず,決してそれ以上 のものではないからである21)。あえて詭弁を弄せば,同じそれは,他の観点か らみると健全で保守的であり,また判然とした理想概念であるかもしれないか らである。 われわれは,伝統的会計上の利益概念の特質を,さまざまな観点からさまぎ まな断面についてみなければならないであろう。そうしてはじめて,伝統的会 計上の利益概念の性格が真に浮き彫りにされ,それゆえ会討上の利益概念とし てあるべき姿が導かれるはずである。 重ねて,他の観点からも伝統的会計上の利益概念を特質づけんことを期して, たがいまは,経済学的利益概念という刃をあてられ断ち割られた−・断面をたし かに覗きみたことに満足して,ひとまず小塙を閉じることにする。 21)さらにいえば,このように経済的利益概念という観点から伝統的会計上の利益概 念を特質づけることは,外在的な分析であって,そうして露わになる特質は,必ず しも会計人を首骨させるには至らないと,評価されることがある。

参照

関連したドキュメント

本来的に質の異なる諸利益をどうやって衡量するか……」との疑念を示し (25)

経済学・経営学の専門的な知識を学ぶた めの基礎的な学力を備え、ダイナミック

文献資料リポジトリとの連携および横断検索の 実現である.複数の機関に分散している多様な

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

2014 年度に策定した「関西学院大学

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

[r]

本稿で取り上げる関西社会経済研究所の自治 体評価では、 以上のような観点を踏まえて評価 を試みている。 関西社会経済研究所は、 年