情報家電と職業訓練への展開
Information appliances and Applications for the vocational training.
菊池 拓男、小林 幸二、福良 博史 KIKUCHI Takuo , KOBAYASHI koji, FUKURA Hirofumi 1.はじめに
私達の生活には、情報通信ネットワークは必要不 可欠となっている。携帯電話をはじめ、インターネ ット、ETC(Electronic Toll Collection System) などネットワーク環境なくしては、もはや現在の生 活の便利さは失われてしまうであろう。インターネ ット普及率は、平成 20 年末で世帯 91.1%、企業に おいては 99.0%となっている。また、高速通信サー ビスであるブロードバンド環境の普及も顕著であり、 その代表格である FTTH(Fiber to the home)アク セスサービスの契約数は、平成21年9月末現在1,650 万で、前年比で 20%の伸びとなっている[1]。また、 平成 22 年初めに、総務相は、「(日本国内で)なる べく早期に光の道(ブロードバンド通信網)を現在 の普及率 31%から 100%にしたい」と述べ、ICT (Information Communication Technology)を軸に 国民の生活を安心で、豊かにする政策の具現化を打 ち出していくことを表明している[2]。このように、 私達を取り巻くネットワーク環境は日々進歩してお り、特に、ICT を活用し、今までのようなパソコン だけでなく、様々な家電製品にもネットワーク機能 をつけて管理しやすくし、さらに生活を便利にする 動きがでてきている。例えば、携帯電話などの端末 から、気軽に家庭の設備機器を一括管理できるホー ムネットワークシステムなどである。今後、このよ うな機器、いわゆる情報家電の需要が増え、普及し ていくことが予想される。しかし、同時に思うよう に普及が進まないことも危惧されている。なぜなら、 ホームネットワークシステムの利便性、構築に関す る情報をお客様に提案していく技術者が足りないか らである。同時に、現在ホームネットワークシステ ムの施工手順は、多能工的な知識・技能が必要なこ とから分かりにくく、マニュアル化もされていない ため、施工できる技術者が限られるためでもある。 メーカーより施工説明書が配布されているが、様々 な機器を接続しシステム運用するためには、不十分 である。同時に、これら技術者を育成すべく、職業 訓練機関では電気工事関連の訓練科を中心に情報ネ ットワーク施工関連の訓練科目を展開するところが 増えているが、その具体的なアプリケーション事例 を示すところまでには至っていないのが現状である。 本報告では、これらの現状を踏まえ、はじめにホ ームネットワークシステムの事例を紹介する。次に、 システムを構築する手順を解説する。そして、ホー ムネットワークシステムを構築する技術者を育成す る職業訓練の展開の事例を紹介するとともに、その 施工方法に関する訓練教材を作成したので報告する。 2.情報家電とは 2.1 情報家電の定義 情報家電とは、ディジタル化され、かつネットワ ーク化された機器・サービスのことである。経済産 業省では情報家電を、「携帯電話、携帯情報端末(PDA)、 テレビ自動車等生活の様々なシーンにおいて活用さ れる情報通信機器及び家庭電化製品等であって、そ れらがネットワークや相互に接続されたものを広く 指す。」と定義している[3]。 図1 情報家電の定義 情報家電の発達により、例えば、在宅で体調の相 談を医師とする遠隔医療相談も可能となる。わざわ ざ医療機関に出向くことなく、健康の状態を管理・ 指導を受けることができるようになるなど「ホーム ヘルスケア」サービスも普及が見込まれている。ま
た、センサーや監視カメラ等を設置し、外出先から 携帯電話などで家の様子を確認することのできる 「ホームセキュリティ」サービスも提供される。ま た、冷蔵庫などの白物家電をネットワーク化して、 コントローラやテレビを通じてそれぞれの家電を制 御したり、インターネットを介して電子レンジにレ シピをダウンロードしたりするサービスも提供でき ることになる。 2.2 ホームネットワークシステム ホームネットワークとは、各家電や設備機器を LAN でネットワーク化し、それぞれをルータで IP アドレ スを持たせ管理することである。例えば、本研究で 使用したホームネットワークシステム[4][5]では、 図2のようにホームパネルといわれる情報用配線盤 を中心に設備機器や情報家電を宅内 LAN 化している。 これにより、一括管理とホームパネルの異常検知機 能や帯域確保機能によるネットワークセキュリティ の向上を図ることができる。このシステムの最大の 特徴は、インターネット回線を使用しセンターサー バを経由することで携帯電話などの端末でホームネ ットワークの操作、設備機器の撮影画像などの閲覧 ができることである(図2)。このシステムを利用 することにより、今までのホームネットワークシス テムよりも管理が容易で便利に行える。センターサ ーバでは、来客や警報メールの送信、履歴情報の蓄 積、設備機器のコントロール指令などをしており、 端末からの蓄積画像の閲覧の際は、SSL の暗号化に よって、第三者の傍受・改ざんを防いでいる。この ような、ホームネットワークシステムを利用するこ とで、暮らしの「安心」「便利」「快適」をより追 求していくことができる。 図2 本システムの概要 3.ホームネットワークシステムの構築 3.1 構築手順 ホームネットワークシステムの一般的な構築手順 を図3に示す。 はじめに、必要となるシステム「セキュリティ玄関 番システム」「ワイヤレスセキュリティシステム」 「ネットリモコンシステム」「ECO マネシステム」 の選択を行う。それに基づき、各機器への電力線の 配線を行う。その後、ネットワーク機器のコントロ ールを行うホームパネルの設置をし、そこからスタ ー上に各機器、情報用コンセントへの配線を行う。 図3 構築手順 図4 配線作業 この構築は、電気工事業者により行われるのが一般 的である。ネットワークシステムとはいえ、電源の 供給が必須なこと、宅内配線環境に精通している工 事者であるなどが理由である。図5にホームネット ワークシステムの構築事例を示す。
図5 ホームネットワークシステムの構築事例 3. ネットワーク接続法 構築したホームネットワークシステムは、ブロー ドバンドルータを介して図6のようにインターネッ トに接続される。その際、各機器に IP アドレスを割 り振るなどの作業が必要となる。 図6 ネットワーク接続 4.職業訓練への展開 4.1 職業訓練への展開の必要性 それでは、これらホームネットワークシステムの 工事技術者の数は十分であろうか。現在、電気工事 業者を中心に工事が行われている現状であるが、シ ステムの工事には電気工事技術に加えて、LAN 構築 技術、ネットワーク構築技術の知識も必要である。 これら知識や技能を兼ね備えた技術者、いわゆるワ ンストップインストレーションができる技術者は少 ないのが現状である[6]。ワンストップインストレー ションとは、電気工事、LAN 配線工事を含む全ての ネットワーク工事を一人で、あるいは一企業で対応 する新たな業態で総合宅内工事業とも呼ばれている [7]。加えて、ホームネットワークシステムの導入の ためには、その利便性をお客様に理解してもらい、 活用していただくためのコンサルティングも必須で ある。このようなことを「提案型技術営業」[8]と呼 んでいるが、この技術も必要である。これらの技術 を一体的に横断的に付与するための職業訓練が必要 である。 4.2 教材の作成 現在、全国の公共職業訓練施設や工業高校などい わゆる電気工事技術に関する訓練を行っている科 (電気工事科など)で情報配線施工技術を新たに取 り入れ訓練を行うところが増えている。電気工事技 術の訓練だけでは、就職が難しいためである。この ような訓練施設から「訓練で使用する教材が欲しい」 「最終的にどのような仕事をするのかが分かる教材 が欲しい」との声が多く寄せられている。このため、 本研究では本校が全国の施設の先導的な役割を担っ ていることから、これら教材を作成し普及させるこ
とを試みた。 作成した教材[9]は、システムの構築手順を訓練生 に分かりやすく提示するため、パワーポイントと映 像を活用し、ディジタル訓練教材とした。訓練は実 際の施工現場と同様に、二人一組の作業を行うこと を想定し、図7のような手順で行うこととした。ま た、訓練施設に模擬住宅が無い場合でも訓練できる ように、モジュール型の配線をできるように工夫し た(図8)。教材で使用する映像の撮影は、日本で 唯一の情報通信配線関連のイベントである情報通信 配線技術フォーラム 2008 及び 2009[10][11]で行わ れた FTTH 配線デモンストレーションにおいて行っ た。このデモンストレータは、過去の競技大会のメ ダリストである。 教材は、作業者が構築手順を理解しやすいよう図 や写真を参考にしながら手順や各ケーブルの接続方 法を説明できるようにした。図9は作成したディジ タル版施工マニュアルの一例である。図 10に示 すように、施工手順分析で作成した配線図を利用し て、見たい箇所をクリックするとその箇所の施工映 像が表示するなどの関連付けをするなどの工夫を行 った。LNA 構築方法やネットワーク構築方法など基 本的知識や技能は有しているものの、実際に構築す るのは初めてあるいは経験不足という方が少なくな い。その方々でも、施工映像を見ることができるこ とにより、実際の接続作業手順や方法が容易に理解 できるようになる。 図7 作業手順 図8 実際の施工 図9 ディジタル版施工教材の例 図10 配線図と動画の関連付け 5.実際の職業訓練への展開 5.1 離職者訓練への展開 平成21 年7 月より本校で実施されている離職者訓 練コース「ネットワークシステム構築科」は、4節 で述べたワンストップインストレーションを行う技 術者を育成するカリキュラムで構成されている。電 気工事技術、LAN 構築技術、ネットワーク構築技術 などの基礎技能を訓練したうえで、その仕上がり目 標の一つでもある「総合宅内工事技術者」の最終課 題として、「ホームネットワークシステム構築実習」
として 3 ユニット(計 9 日間)の実習を行っている。 実際に、システムを配線・構築し、FTTH 回線を使用 しセンターサーバに接続、携帯電話からの操作を行 うまでの実習である。同時に、お客様への提案がで きるよう見積もりの作成、提案書の作成も行ってい る。この実習は、受講生からも仕上がりイメージと して評価が高く、受講後のアンケートでは、「非常 に分かりやすい」「実際の仕事のイメージが体験で きた」などの声があった。 5.2 関連業界の取り組み 関連業界でも、ワンストップインストレーション を行うための同様の取り組みが広がっている。全国 の電気工事業者の団体である全日本電気工事業工業 組合連合会では、毎年全国大会を開催しているが、 平成 21 年度に新潟県で行われた大会では、初めて技 能競技大会が開催されている。全国各地の優秀な電 気工事技能者を一堂に会し、電気設備の安全安心の 提供とさらなる技術の向上及びその技術の継承を推 進することを目的として、全国各県工組から 12 チー ムが参加して行われた(図11)。その課題として 「ホームネットワークシステムの構築」が取り上げ られた。筆者もこの競技委員として参加したが、電 気工事業者が新たな事業展開の一つとしてホームネ ットワークをとらえ、その知識技能習得に邁進して いる姿を目の当たりにし、その職業訓練の必要性を 強く感じた。また、関連資格である情報ネットワー ク施工プロフェッショナル認定(INIP:アイニップ) [9]では、宅内 LAN コンサルタントの育成を目指し、 同様の技術講習を全国で行い、技術者認定を行って いる。 図11 技能競技大会の様子 5.3 今 り組みは広がってい る .おわりに 工事例が増加し、その技術者の養成 も 業訓練施設で参考・活 用 考文献 、情報通信統計データベース、 new/ind ュース、 .com/economy/business/ ア 株式会社マーケティング本部 2、 ニック電工株式会社、”ライフィニティ各 職業 男、”総合宅内工事業への展開とビジネス チャンス"、職業大公開講座資料、2009 年 後の展開の必要性 前項で述べたように、その取 が、その訓練機会は地域的にも機関的にも限定的 である。また専門学校などの民間訓練機関では、訓 練すべき内容が横断的であるため実施が難しいもの となっている。従って、この需要に対応するために は公共職業訓練機関が、そのスケールメリット並び にものづくりに対応した訓練科を複数持つ強みを活 かし、展開していく必要がある。さらには、従来よ り電気工事科を設置し、電気工事業界とのつながり も深いことからその業界への貢献のためには積極的 に実施すべき訓練内容であると考える。 6 近年非常に施 急務であるホームネットワークシステムの事例と 施工訓練教材の一例を報告した。また、職業訓練へ の展開の必要性も論じた。 今後、本研究の成果が各職 していただければ幸いである。 参 [1] 総務省 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/ ex.html [2] 産経ニ http://sankei.jp.msn [3]経済産業省、基本戦略報告書「e-Life イニシ ティブ」、2003 年 [4]パナソニック電工 宣伝企画部、”ライフィニティ商品カタログ"、p1-16 2009 年 [5]パナソ 機器の取扱説明書及び施工説明書"、2009 年 [6]菊池拓男、”総合宅内工事業への転換と公共 訓練施設の果たす役割”、実践研究発表会予稿集、 2009 年 [7]菊池拓
卒業研究、2009 年 本研究では、研究のための各種資料を提供頂いた 電気工事業工業組合連合会、NPO 法人高度情 報 [8]全日本電気工事業工業組合連合会、”提案型技術 営業マニュアル"、2006 年 [9]笠原、中澤、”ホームネットワークシステムの構 築"、職業大東京校情報技術科 [10]NPO 法人高度情報通信推進協議会、”情報通信 配線技術フォーラム 2009 ガイドブック”、2009 [11]全日本電気工事業工業組合連合会、”情報通信 配線技術フォーラム2008「FTTH 配線デモンストレ ーション」映像“、2008 謝辞 全日本 通信推進協議会の関係者の皆様に大変お世話にな りました。また、実際の施工をするにあたり本校の 福岡秀雄先生、古井英則先生、生産情報システム技 術科、情報システム技術科の各先生には多大なご協 力ご支援を頂きました。更には、卒業研究の一環と して取り組んでくれた平成 20 年度卒業の情報技術 科笠原君、中澤君に感謝致します。皆様方に、ここ に改めて深く御礼申し上げます。