べき点は、IT 技術を活用した新たなリテール決 済サービスが高度化を促しているのではなく、 サービス利用者である顧客側が変化し、変化し た顧客ニーズに応える利便性の高いリテール決 1 大きく変貌するリテール決済ビジネス IT の進展がリテール決済サービスの高度化を 促進している。 リテール決済ビジネスを展開する上で留意す
〜要旨〜
情報通信技術(IT)の進展に伴ってリテール決済ビジネスを巡る環境が劇的に変化している。一つは、 リテール決済サービスの利用者である顧客側における変化であり、もう一つはリテール決済サービス を提供する側に起きている構造的な転換である。それらに加えて、IT の進展の中で生まれた仮想通貨 は、リテール決済ビジネスの基盤そのものを全く違う次元に移行させようとしている。 こうした環境の変化に対して、リテール決済ビジネスに関わる金融規制も大きく変貌している。 2016 年及び 2017 年の 2 年連続での銀行法をはじめとする金融関連法制の改正により、仮想通貨交換 業者や電子決済等代行業者が新たに金融規制の対象範囲に含まれるとともに、銀行が金融関連 IT 企業 を子会社化できるよう出資規制が緩和されたりオープン・イノベーションを促進するオープン API の 導入に係る制度整備が図られたりするなど、従来の銀行業の枠を超えたビジネスモデルの構築が可能 となった。さらに、2017 年 11 月に立ち上げられた金融審議会金融制度スタディ・グループでは、機 能別・横断的な法体系への移行や「金銭」の概念の整理を含む金融規制の抜本的な改革に向けた議論 が進められている。 これまでリテール決済ビジネスの中心に位置していた銀行は、こうした環境の変化と自身の競争力 を踏まえてビジネスモデルを再定義するとともに、自らのビジネスモデルにおけるリテール決済ビジ ネスの位置づけについて再考する必要に迫られている。 本稿では、リテール決済ビジネスを巡る環境変化について解説するとともに、IT の進展を踏まえた 2016 年成立の銀行法や資金決済法の改正、2017 年成立の銀行法の改正及び現在進められている金融制 度スタディ・グループにおける議論等を踏まえながら、銀行をはじめとする金融機関がとるべき対応 について考察する。 なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。保 木 健 次
KPMG ジャパン フィンテック推進支援室 副室長 有限責任 あずさ監査法人 金融事業部 金融アドバイザリー部 シニアマネジャーリテール決済ビジネスの現状と展望
リテール決済ビジネスが持つ既存の商品・サー ビスの付加価値を高める特性と有用な顧客デー タを生み出す潜在性に着目し、同ビジネスへの 参入意欲を高めている。 このことは、図表 1 の KPMG が公表している 世界で有望なフィンテック企業 100 社のセクター 内訳を見ても、「決済」が常に上位に位置してい ることからも分かる。 こうした顧客側の変化とビジネスにおけるリ テール決済サービスの位置づけの変化という背 景を踏まえながら、このセクションではリテー ル決済ビジネスの分野で起きている変化につい て、そして、次のセクションではビジネスへの 影響が大きい法規制の動向について考察する。 (1) ノンバンク・プレーヤーのリテール決済 ビジネスへの参入とその背景 単体では収益性が高いとは言えないリテール 決済ビジネスも、顧客側の変化とそれに伴うリ テール決済サービスの位置づけの変化に伴っ て銀行以外のリテール顧客を相手にする企業に とっては魅力あるビジネスになっている。 そして、銀行ではないノンバンク・プレーヤー が顧客利便性の高いリテール決済サービスの提 供者として台頭するに伴い、同サービスが専ら 「銀行」によって提供されていた時代は終焉しし つある。 まず、これまで銀行にとってリテール決済サー 済サービスの登場が高度化をもたらしたという ことである。リテール決済サービスの主たる提 供者である銀行は、こうした取り巻く環境の変 化の本質について理解しておくことが求められ る。 顧客側の変化とは、企業と顧客の情報の非対 称性の低下による顧客への主導権のシフトと、 顧客ニーズの多様化である。 あらゆる情報がデジタル化されていく IT の 進展を通じてリテール顧客は、大量かつ多様な 情報源を得るとともに、自らが関心を持つ情報に 絞ってアクセスできるようになり、ニーズは多 様化するようになった。その結果、固有のニー ズを満たす商品・サービスでなければ購入に至 らない消費者へと変貌した。 こうした顧客側の変化があって、多様な顧客 ニーズに応えるために IT 技術を活用した新た なリテール決済サービスが開発され、リテール決 済サービスの高度化が進んだ。 リテール決済ビジネスを展開する上では、こ の前提のもとに、顧客ニーズを満たすことを基 点とするビジネスモデルへの転換が求められる。 また、このような顧客側の変化は、リテール 決済サービスの位置づけも変えている。すでに、 一部の金融機関ではない商品・サービスの提供 者は、顧客ニーズを満たすことが何よりも求め られ、ニーズを把握するための顧客データの多 寡が企業の競争力を左右する環境変化の中で、 図 表 1 世 界 の フ ィ ン テ ッ ク 企 業 1 0 0 社 の セ ク タ ー 内 訳
このため、銀行にとってリテール決済サービ スは、低収益ビジネスながら、公共的使命の下 に提供するという位置づけとなっていた。 これに対して、ノンバンク・プレーヤーが必 ずしも収益性が高くないリテール決済サービス の提供に積極的に取り組んでいる背景としては、 リテール顧客に商品やサービスを販売する上で 必ず付随する資金決済までをもまとめて提供す ることで顧客利便性を高めつつ顧客の囲い込み を図る目的や、資金決済を含むリテール顧客の 経済活動全般の利便性を高める新たな商品・サー ビスを開発・提供する目的などがある。 前者の顧客の囲い込みを図る例としては、自 社店舗で使えるプリペイドカードを発行し、プ リペイドカードによる支払いであれば割引が受 けられるなど特典を用意することで、リテール 決済サービスを活用して顧客の囲い込みを図る 手法などが挙げられる。 これを大がかりにしたものが、大量の商品・ サービスを提供する e コマースサイトなどの商 流プラットフォームが提供する支払手段となる。 ビスは、経済活動全体の効率に影響を与える 「資金決済」の主要な手段である「為替取引」を、 公共性のある業務として提供してきた経緯があ る。 これは、図表 2 が示しているように、商品や サービスを売買する経済活動において、対価の 支払いを担う「資金決済」は、対象となる商品 やサービスに関わらずあらゆる経済取引に付随 する極めて重要な役割を果たしていることに起 因する。 たとえば、商品やサービスの提供者と異なり、 ひとたび決済サービスの提供者が破綻した場合、 資金決済の不履行の連鎖を通じてあらゆる経済 取引が決済できなくなり経済全体がマヒするこ とになる。 他方で、「為替取引」を担う資金決済システム は、効率性を維持・向上させるためのシステム 投資が嵩む一方、当該システムを通じた決済サー ビスは、標準化され差別化が難しく、決済サー ビスの提供者にとっては、収益性の低いビジネ スとなっていた。 図 表 2 売 買 取 引 に 必 要 な 二 つ の 決 済 と 資 金 決 済 手 段 の 特 性
なる金融ビジネス同士の融合となっていく流れ の中で、ノンバンク・プレーヤーが銀行類似業 務を手掛けることが可能であるのに対して、銀 行が非銀行業務に進出することに対して銀行法 上大きな制約があるという論点である。 後者は、ノンバンク・プレーヤーがリテール 決済サービスを提供する手段として資金決済法 上の前払式支払手段の発行者となる方法や資金 移動業者となる方法など複数の手段があり、顧 客保護に係る制度が異なるなど規制水準に差が みられるほか、こうした銀行業務をアンバンド リング(分化)したビジネスを手掛ける業者と 銀行との規制水準の差が適切なものであるかと いう論点である。 また、適切な規制水準という観点では、ノン バンク・プレーヤーが有するリテール決済サー ビスの利便性を積極的に改善するインセンティ ブを活用しながら、イノベーションの促進を重 視する、つまり規制水準を低めに設定する方向 と、社会・経済的に重要な決済サービスの安定 的な提供を重視する、つまり規制水準を高めに 設定する方向のいずれを志向するのかという論 点もある。 (2) 顧客のインターフェイスとしてのリテー ル決済ビジネス リテール決済ビジネスが有用な顧客データを もたらすという観点でみると、ビジネス規模に よるものの、前述のノンバンク・プレーヤーが 取り組むリテール決済ビジネスのうち、リテー ル顧客と金融機関の間に入りあらゆる経済取引 のインターフェイスとなる家計簿アプリなどの 台頭は、自社商品・サービスと結び付けた顧客 囲い込みを行うノンバンク・プレーヤーよりも 銀行に与える影響は大きいと考える。 具体的には、銀行から奪う顧客とのインター この場合、サイトを一つの店舗とみなして、そ こで買い物すれば特典があるということでリ テール顧客を誘導・囲い込む形となる。 後者の新たな商品・サービスを開発・提供す る例としては、銀行だけでなくカード会社や証 券会社等を含めた複数の金融機関の口座と支出 に係る情報をまとめて管理する家計簿アプリな どが挙げられる。 いずれの例であっても、リテール決済サービ スは、顧客を囲い込んだり、新たな商品やサー ビスを生み出したりするためのサービスとして 提供するという位置づけとなっている。 つまり、これまで銀行が見ていたリテール決 済ビジネスと、ノンバンク・プレーヤーが見て いるリテール決済ビジネスは、同じビジネスで ありながら、全く異なる発想に基づいてそれぞ れのビジネスモデルに組み込まれている。 銀行は、こうした顧客側の変化とノンバンク・ プレーヤーの台頭を踏まえて、リテール決済ビ ジネスの戦略上の位置づけを再考する必要があ る。しかしながら、これは、これまでと同様に リテール決済サービスを提供しながらも、リテー ル決済ビジネスに見出す意義や発想を根本的に 変えるという難しい課題に直面していることを 意味する。 また、リテール決済ビジネスという金融ビジ ネスの展開を考える上では、金融規制の動向に も十分留意する必要がある。 金融規制の動向については次のセクションで 詳述するが、リテール決済ビジネスを巡る法規 制に関して重要な論点と考えられるのは、銀行 に課せられている業務範囲に係る規制と、ノン バンク・プレーヤー間及びノンバンク・プレー ヤーと銀行との間の規制水準の差である。 前者は、顧客ニーズを捉えたビジネスモデル が金融ビジネスと非金融ビジネス、あるいは異
れることになる。 また、顧客ニーズを基点とした商品・サービ スの開発アプローチとして、家計簿アプリのよ うにこれまで複数のプロセスに分かれていた顧 客側の作業を一つにまとめて顧客の利便性を高 める方法が使われることも多い。この結果、リ テール顧客とのインターフェイスは個々の商品・ サービス提供者から限定された少数に集約され ることになる。したがって、今後、この数少な いインターフェイスを異業種間で奪い合うとい う競争が激しくなると考える。 なお、顧客データをもとに顧客ニーズを的確 に捉えた金融サービスを提供する例としてトラ ンザクション・レンディングが挙げられる。こ れは、e コマースサイトの出店企業がサイトの 運営者から短期の運転資金などの融資を受ける サービスであり、当該出店企業の日々の売上げ や顧客評価などの精緻な「データ」を持つ運営 者は、データに基づいて当該出店企業の返済能 力を判断し、数秒や数分など極めて短い期間に 「無担保」融資の可否を判断するほか、データか ら資金需要を推測し、運営者側から融資のセー ルスを行うことも可能となっている。 従来の銀行は、データを入手するために様々 な書類を徴求し、人手による長い期間の審査を 経て、なおかつ担保を求めるという条件付きで 融資を承諾し、企業はようやく資金を調達でき た。銀行は資金需要を把握するために足しげく 企業に通うことも少なくなかった。 いずれにせよ、このように顧客データを持つ 者は、顧客ニーズを的確に把握し、そのニーズ に即した商品やサービスを提供することが可能 となることから、リテール決済ビジネスに限っ た話ではないが、いかに幅広い顧客データを入 手するかということは今後企業の競争力を高め る上で非常に重要な要素となる。この面であら フェイスの範囲において大きな違いがあること が挙げられる。 一見すると、自社商品と結び付けるビジネス の方がインターフェイスだけでなく銀行業務も 奪われるため銀行にとって影響が大きいように 感じられるが、顧客の視点で見ると、実際に銀 行が奪われるのは顧客の経済取引のうち、当該 ノンバンク・プレーヤーが提供する商品・サー ビスに係るリテール決済ビジネスの範囲に限ら れる。 これに対して、図表 3 が示しているように家 計簿アプリの場合は、銀行が顧客のすべての経 済取引に係るリテール決済サービスのインター フェイスを奪われる可能性があり、範囲の点で 大きく異なる。 このため、顧客はアプリ経由で銀行「機能」 にアクセスするだけとなり、「機能」のみで顧客 が利用する銀行を選択する結果、銀行は厳しい 手数料競争にさらされることになると見込まれ るほか、リテール決済サービス以外の金融商品・ サービスの提供が難しくなるという状況が生ま 図表 3 電子決済等代行業者の台頭による顧客 接点の変化
モデルの転換が重要であることは、リテール決 済ビジネスにおいても変わりない。 (3) 仮想通貨の台頭がリテール決済ビジネス に与える破壊的な影響 リテール決済のビジネス環境を考察する上で、 これまでの秩序を大きく破壊する可能性を持つ 仮想通貨の台頭を避けて通ることはできない。 仮想通貨が日常的な資金決済に使われるように なると、これまでの資金決済システムを全く経 由しない新たな経済圏が誕生することになり、 従来のリテール決済ビジネスも大きな転換点を 迎えることになる。 リテール決済ビジネスの観点における仮想通 貨と現行の資金決済システムを通じた資金決済 の大きな違いは、よく言われる信頼できる第三 者が不要であることでもなく、データを一か所 に集めて管理する必要がない分散型台帳による 管理でもなく、図表 4 が示すように、「為替取引」 における「銀行」のような仲介業者を必要とし ないことにある。言い換えれば、仮想通貨には リテール決済サービスの提供主体をこれまでと 根本的に変えてしまう破壊力があると言える。 たとえば、顧客がある商品・サービスを購入し、 ゆる商品・サービスの売買に付随する資金決済 というのは、有用な顧客データを入手する手段 として非常に優れた可能性を有しており、その ことがリテール決済ビジネスの分野に参入を 図っている企業が多い背景の一つとなっている。 重要なことは、顧客ニーズを基点とした商品・ サービスを開発する上でも、幅広い顧客データ を入手する上でも、自社商品・サービスが属す る領域の外側との連携、いわゆるオープン・イ ノベーションが重要になるということである。 たとえば、ある商品やサービスの購入プロセ ス全体をまとめて利便性を高める場合、資金決 済は購入プロセスの一部でしかないが、顧客が 行う経済取引を幅広くカバーするためには他の 領域の商品・サービスまで提供する必要がある。 幅広い商品・サービスのすべてを自社リソース で賄うことは不可能であり、それぞれの領域で ビジネスを展開している企業と連携していく必 要がある。また、顧客データについても自社商 品・サービス以外の購買履歴といったデータを 活用することで初めて詳細な顧客ニーズという のが分析可能になる。ここでもまた異業種との 連携が重要なビジネス上の選択肢となり得る。 こうした顧客ニーズの変化に応じたビジネス 図表 4 銀行振込と仮想通貨による送金の違い
決済手段としてではなく、商品・サービスに対 当するものとしての取引が大半であり、後述の ICO(イニシャル・コイン・オファリング)が 仮想通貨を資金決済手段とする大型商品として ようやく黎明期を迎えた段階と考える。 図表 5 で示しているように、仮想通貨は商品・ サービスとして取引されるケースと資金決済手 段として利用されるケースがある。また、電子 的に財産的価値を移転させるトークンは従来と 異なる新たな商品・サービスを提供する場合も ある。 これらを前提に、資金決済に仮想通貨を利用 する仮想通貨経済圏の発展は、仮想通貨を商品・ サービスの一つとして法定通貨による資金決済 を行う仮想通貨への投資の段階から、仮想通貨 を資金決済手段として従来と異なる新しい仮想 通貨・トークンを売買する ICO のような段階、 そしてこれまで法定通貨で資金決済していた商 品・サービスも仮想通貨で資金決済するように なる段階といくつかの順序を経ていくと考える。 リテール決済ビジネスの観点から、この仮想 通貨の普及を踏まえた法規制に関して重要な論 点と考えられるのは、仮想通貨を資金決済手段 として活用する際の法的位置づけと資金決済手 対価を仮想通貨で支払う場合、顧客は商品・サー ビス提供者のウォレットに銀行といった機関を 経由することなく送金することが可能となる。 したがって、仮想通貨が日常的な資金決済手 段として定着すると、仮想通貨に対応したリテー ル決済サービスを提供しない限り、銀行は顧客 とのインターフェイス及びリテール決済ビジネ スを大きく奪われてしまうことになる。 おそらく、すべての資金決済を実際に当事者 同士で行うことは不便であるため、たとえば、 資金決済に使う仮想通貨を預かるサービスと顧 客指示に基づいて資金決済を行うリテール決済 サービスをまとめたサービスが銀行に代わる機 能として対応するかもしれない。しかしながら、 インターネットにつながってさえいれば本来当 事者同士でやり取りできる性質のものであるた め、現行の「為替取引」のように規制で銀行に 集中させることはできなくなっていることに留 意が必要である。 なお、資金決済手段としての仮想通貨の普及 については、前述のノンバンク・プレーヤーに よるリテール決済ビジネスの展開や電子決済代 行業の台頭と比べるとまだ初期段階と言える。 現状の仮想通貨に係る売買は、仮想通貨を資金 図表 5 仮想通貨を資金決済に用いる仮想通貨経済圏の発展段階
きないという不均衡状態が一定程度解消された。 後者の仮想通貨交換業者に対する登録制の導 入により、仮想通貨交換業を手掛ける業者は、 それ以前と異なり金融規制に服することとなっ た。利用者保護体制など一定の登録要件をクリ アできない業者が業務廃止に追い込まれるなど 既に一定の効果が見られる。 リテール決済ビジネスに対する影響としては、 仮想通貨が定義され法的な位置づけが明確に なったことで、仮想通貨を資金決済手段とした 新たなリテール決済サービスの開発がこれまで よりも容易になったことがある。 しかしながら、資金決済手段としての仮想通 貨を考えると、法制度整備は不十分であり、現 行の枠組みで銀行が仮想通貨を活用したリテー ル決済サービスを提供することは難しいと考え る。また、資金決済手段として見た場合の別の 論点として、現行の「仮想通貨」の定義のうち、 いわゆる 2 号仮想通貨と呼ばれる資金決済法第 2 条第 5 項第 2 号の定義は、デジタル化された商 品・サービスとの取引がすべて含まれるように 見え、今後様々な商品やサービスがデジタルア セット化(トークン化)され、オークションサイ トやフリマアプリを通じた売買が可能になると 考えられる中で、一般的な経済取引における商 品・サービスまで「仮想通貨」に該当し得る可 能性がある。後述する「金融制度スタディ・グ ループ」およびその後継組織における議論と今 後の金融関連法制の改革を見極める必要がある。 銀行は、銀行が仮想通貨を活用したリテール 段とした場合の法定通貨との規制の平仄である。 後者については、前述のように特定の主体に 決済サービスの提供を制限するという規制アプ ローチをとることが難しいという法定通貨と仮 想通貨の違いについても考慮しておく必要があ る。 2 リテール決済を巡る規制動向 (1) 銀行の出資規制緩和と仮想通貨交換業者 に対する登録制の導入 2015 年 12 月に金融審議会金融グループを巡 る制度のあり方に関するワーキング・グループ および決済業務等の高度化に関するワーキング・ グループから公表された「金融グループを巡る 制度のあり方に関するワーキング・グループ報 告」および「決済業務等の高度化に関するワー キング・グループ報告」の 2 つの報告書に基づ く銀行法や資金決済法の改正が 2016 年 5 月に成 立し、2017 年 4 月から施行されている。 この 2016 年改正におけるリテール決済ビジネ スと関連する主な改正項目は、銀行法の改正を 通じた銀行による金融関連 IT 企業への出資規 制緩和と資金決済法の改正を通じた仮想通貨交 換業者に対する登録制の導入である。 前者の出資規制緩和によって銀行は、個別認 可となるものの、リテール決済ビジネスを展開 する金融関連 IT 企業を子会社としてグループ 内に取り込むことが可能となった。これにより、 ノンバンク・プレーヤーが銀行類似業務はでき ても銀行は非銀行ビジネスを手掛けることがで
ている。 他方で、銀行も、電子決済等代行業者との連携・ 協働に係る方針および電子決済等代行業者との 接続に係る基準の策定・公表が求められるほか、 オープン API 導入に向けた努力義務が求められ ている。 リテール決済ビジネスの観点からは、顧客と のインターフェイスを有し、決済サービスを顧 客に提供する電子決済等代行業者に対して、一 定の顧客保護や情報管理を含む体制整備を図り、 「機能」を提供する銀行側にもより安全かつ革新 的なサービスを生みやすくなるオープン API の 導入を促す内容となっており、法制度面での大 きな論点はクリアされたと考える。 (3) 機能別・横断的な規制体系への移行と「金 銭」等の概念の整理 2017 年 11 月に開催された第 39 回金融審議会 総会・第 27 回金融分科会合同会合において、機 能別・横断的な金融規制の整備等、情報技術の 進展その他のわが国の金融を取り巻く環境変化 を踏まえた金融制度のあり方について検討を行 うことが決議された。その後、「金融制度スタ ディ・グループ」が立ち上げられ、当該整備等に 向けた議論が進められている。今後複数年をか けて議論し、スタディ・グループの改組や最終 報告書のとりまとめ等を経て 2020 年かそれ以降 に関連する金融法制の改正に向けた動きが進め られていくと見られる。 金融制度スタディ・グループにおいては、現 行法制の特徴と課題として、業態別の法体系に 伴う業態間の規制差異、「金銭」といった金融に 関する統一的な基本的概念の欠如及び環境変化 に対応していない規制の存在を挙げ、それぞれ の課題に対して、機能別・横断的法体系、金融 規制における基本的概念の横断化及び変化に対 決済ビジネスを展開することが容易ではない中、 仮想通貨交換業者やノンバンク・プレーヤーは 新たなビジネスを開発し、仮想通貨経済圏にお けるリテール決済サービスの提供者として市場 を開拓しつつある現状に、どう対応していくか について検討していく必要もある。 また、リテール決済ビジネスの観点からは、 仮想通貨を資金決済手段とする経済取引がどこ まで拡大するかという点と、そうした仮想通貨 経済圏が拡大した時にどのようなビジネスモデ ルが適切かというビジネス的な論点もある。 (2) 電子決済等代行業者に対する登録制の導 入とオープン API の導入努力義務 2016 年 12 月に金融審議会金融制度ワーキン グ・グループから公表された「金融制度ワーキ ング・グループ報告 - オープン・イノベーショ ンに向けた制度整備について - 」報告書に基づ く銀行法の改正が 2017 年 5 月に成立した。 この 2017 年改正の主な改正項目は、金融機関 と顧客との間に立って、「顧客」からの委託を受 けて、IT を活用した決済指図等の伝達や金融機 関における口座情報の取得・顧客への提供を行 う業者に対して電子決済等代行業者として登録 制の導入と銀行に対するオープン API 導入に向 けた努力義務である。 電子決済等代行業者の代表的な例としては、 前述の家計簿アプリを提供する業者等が想定さ れており、電子決済等代行業者は、適正な業務 遂行体制の整備や財務要件の充足、適切な情報 管理、業務管理態勢の整備等が求められている。 また、電子決済等代行業者は、電子決済等代行 業務を提供するに当たって、顧客が口座等を開 設している銀行と、利用者の損害に係る賠償責 任の分担や利用者に関する情報の安全管理に関 する事項を含む契約を締結することを求められ
ではないものの、この金融制度スタディ・グルー プにおける議論の結末は、リテール決済ビジネ スに与える影響は小さくない。銀行およびノン バンク・プレーヤーに対する規制の変更は当該 ビジネスの競争力に大きな影響を与えるほか、 リテール決済のビジネスモデルについても再考 を迫られる可能性がある。 3 今後のリテール決済ビジネス これまでリテール決済サービスの主たる提供 者であった銀行は、現在大きな岐路に立たされ ている。 銀行は、リテール決済ビジネスをどうするか という観点から検討するのではなく、リテール 決済ビジネスを含めたビジネスモデル全体につ いてまずは再定義することが求められる。具体 的には、顧客とどう向き合うのか、言い換える と顧客とのインターフェイスをどう維持・構築 していき、そのためにリテール決済ビジネスを どう位置づけるかについて方針を定めることが 求められている。 今後、顧客とのインターフェイスを持つ企業 は格段に減少し、リテール決済サービス単体で 顧客とのインターフェイスを持つことは難しく なっていくと考えられる中で、顧客とのインター フェイスを維持・構築するためには、他の金融・ 非金融の商品・サービスと組み合わせるなど、 業種・業界の垣根を越えた連携が重要な戦略の 一つになると考える。 また、顧客とのインターフェイスよりも、イ ンターフェイスを通じて提供されるリテール決 済サービスの提供者となることを目指す方向性 も考えられる。この場合も常に顧客ニーズを満 たすサービスを提供し続けるための研究・開発 が必要になり、多くの場合外部のアイデアや技 術を積極的に取り込んでいくオープン・イノベー 応した規制の見直しといった検討の方向性が示 されている。この中で、リテール決済ビジネス について重要な論点は、機能別・横断的法体系 への移行と「金銭」といった金融規制における 基本的な概念の横断化の二つである。 まず、機能別・横断的法体系については、同 じ「機能」を提供しながらノンバンク・プレー ヤー間あるいは銀行とノンバンク・プレーヤー 間で異なる規制の平仄を図るものであり、リテー ル決済ビジネスに係る競争環境の公平性が確保 される。ただし、どの水準で平仄を取るのかと いう論点が残っており今後の議論について留意 が必要となる。一般的に規制水準が高くなると 体力のあるプレーヤーに有利になる。 また、「金銭」の概念整理は、主として仮想通 貨の取り扱いが焦点となると考えられるが、こ のことはリテール決済ビジネスの展開上も非常 に重要な論点となる。「金銭」の概念に法定通貨 だけでなく仮想通貨も含まれるようになるとす ると、仮想通貨を活用したリテール決済ビジネ スの法的位置づけが明確になり、銀行およびノ ンバンク・プレーヤーが当該サービスを提供す ることが容易になる。 他方で、「金銭」の概念の整理だけでは、仮想 通貨を活用したリテール決済サービスの提供の 障害となりうる論点も残っている。具体的には、 金融商品取引法上の有価証券など金融規制に服 する金融商品やサービスについては、仮想通貨 を活用した決済サービスの提供が容易になると 考えられるものの、現行の資金決済法の「仮想 通貨」に係る定義上、金融商品以外の電子的情 報処理組織を用いて移転できる財産的価値全般 が「仮想通貨」に該当する可能性があり、法定 通貨で資金決済する場合と規制水準に差が生じ てしまう恐れがある。 施行時期も含めて改正の詳細が見通せる段階
ションが必要になると考える。 いずれの方向性であっても、銀行は、銀行が 手掛けられる業務を自前のリソースでかつフル ラインで提供するビジネスモデルから、提供す る銀行業務の絞り込みと顧客ニーズを満たすた めの外部リソースの活用が必要になる。こうし た観点から、これまでの銀行法改正で与えられ た金融関連 IT 企業への出資規制の緩和や制度 整備されたオープン API を積極的に活用してい くことが求められる。 リテール決済ビジネス自体は、ノンバンク・ プレーヤーが盛んに参入を図っているように顧 客ニーズを満たす上でも、顧客データを収集す る上でも非常に有用なビジネスに変化している。 銀行は、ビジネスモデルに大きな影響を与える 可能性がある仮想通貨の普及および横断的法体 系への移行や「金銭」概念の整理といった今後 の法改正の動向にも十分留意しながら、横並び でなく、先んじて変化に対応していく中で、リ テール決済ビジネスを戦略的に展開していくこ とが求められる。 ほき けんじ KPMG ジャパン フィンテック推進支援室 副室長、有 限責任 あずさ監査法人 金融事業部 金融アドバイザ リー部 シニアマネジャー。 大手金融機関及び外資系資産運用会社において日本株の ファンドマネジメント業務等に従事。 2003 年 金融庁に入庁し、証券取引等監視委員会特別調 査課、 米国商品先物取引委員会(CFTC)への出向、金 融庁総務企画局市場課、経済協力開発機構(OECD)へ の出向、金融庁総務企画局総務課国際室。 2014 年 あずさ監査法人に入所。金融機関に対する店頭 デリバティブ規制対応及び金融市場インフラ原則対応支 援等に従事しながら、FinTech 等に係る金融規制に関す る各種アドバイザリーサービスに従事。 【書籍】 『FinTech 仮想通貨 AI で金融機関はどう変わる !?』ビジ ネス教育出版社、2017 年 2 月 【寄稿 】 「FinTech が も た ら す 金 融 ビ ジ ネ ス の 構 造 的 転 換 」 『Financial Regulation Vol.6』セミナーインフォ
「IT の発展が金融機関にもたらす構造的転換」『日経研月 報』