• 検索結果がありません。

森保 尚美 観し, カール オルフの教育観及び教材の価値に触れた後, 養成校における実践をふりかえって, 言葉を素材とした表現遊び教材の特質や今日的意義に言及したい. 2. 公的機関における言葉と音 ( 1 ) 幼保連携型認定こども園教育 保育要領解説平成 26 年に内閣府 文部科学省 厚生労働省の

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "森保 尚美 観し, カール オルフの教育観及び教材の価値に触れた後, 養成校における実践をふりかえって, 言葉を素材とした表現遊び教材の特質や今日的意義に言及したい. 2. 公的機関における言葉と音 ( 1 ) 幼保連携型認定こども園教育 保育要領解説平成 26 年に内閣府 文部科学省 厚生労働省の"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

〔報  文〕

言葉を素材とした保幼小の表現教材に関する研究

―音やリズムに着目して―

森 保 尚 美*

(2017年 2 月15日 受理)

A Study on Expressive Teaching Materials Using Words as Raw Data for

Nursery, Kindergarten, and Elementary Schools

Naomi MORIYASU*

The purpose of this study is to identify the characteristics and current importance of expressive teaching materials that use words as raw data by presenting a theory of expression that uses words as raw data and reflecting on two practicums in this faculty, which promotes the professional development of teachers in nursery, kindergarten, and elementary schools.

As a result of practicum 1, We understood the movements of an imaginary body in accordance with word rhythms and sounds, thereby eliciting a method of changing the silence between words, as well as their rhythms. In addition, as a result of practicum 2, by chanting words that are known on a daily basis, we were able to create expressions for an ensemble of complex rhythms.

Keywords: words ことば,sound 音,rhythm リズム,raw data 素材,Materials 教材

* 広島女学院大学人間生活学部幼児教育心理学科准教授 1 .はじめに  本研究は,言葉を素材とした幼児及び児童の表現教材 の理論を基に,本学での表現教育の実践を省察すること を通して,“素材としての言葉”の教材性や,今日的意義 を見出すことを目的とする.  言葉で遊ぶ文化は,日本語だけをとりあげてみても 「洒落」や「しりとり」,「回文」や「アナグラム」など 様々な形態がある.また,「はやしことば」や,「生麦生 米生卵」などの早口ことばなど,日常会話とは異なるリ ズミカルな表現を楽しむこともある.このように,言葉 は意味を伝える役割にとどまらず,遊びの素材として活 用されてきた.  保育の場では,幼児や園児が言葉遊びを通して新しい 語彙や自己の思いを表現する術を獲得できる利点があ る.また,学校教育の場では,音楽経験量に著しい差が あっても,言葉であればアンサンブルが成立したり,児 童の技量にみあった創作表現ができたりする利点などが あり,言葉と音楽を関連させた教材の価値はこれまでに も主張されてきた.  例えば,作曲家であり音楽教育学者のカール・オルフ (C. Orff, 1895–1982)やコダーイ・ゾルターン(Kodaly. Z, 1882–1967)は,言葉のリズムに着目した音楽教育を 体系化した.日本では星野圭朗が,ドイツ語を出発点と したオルフの理論とその実際を,日本語を出発点とした 方法に具体化した.また,羽仁協子はコダーイ芸術研究 所代表として,コダーイの教育方法を広く日本に紹介 し,日本人向けの教育プログラム等を提案した.今日, 音楽教育分野でも,島崎篤子,坪能由紀子らが音楽づく り等で実践的な方法を広め,現行の小学校教科用図書に は,言葉を素材とした題材が 6 学年中 2 つ以上の学年に 掲載されている.これらの題材数は歌唱教材や器楽教材 に比べれば少ないものの,主に音楽表現を創意工夫する 教材として位置づくようになった.  本研究では,先行研究をふまえて,言葉遊びのなかで も特に,音としての魅力,響きの楽しさを活用した表現 教材の意義に着目し,本学での 2 つの実践をもとに,言 葉を素材とした教材について改めて省察する.研究にあ たって,まず公的機関における言葉と遊びのとらえを概

(2)

観し,カール・オルフの教育観及び教材の価値に触れた 後,養成校における実践をふりかえって,言葉を素材と した表現遊び教材の特質や今日的意義に言及したい. 2 .公的機関における言葉と音 ( 1 )幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説  平成26年に内閣府・文部科学省・厚生労働省の連名で 公示された「幼保連携型認定こども園教育・保育要領解 説」は,幼保連携型認定こども園の教育課程,その他の 教育及び保育の内容を策定したものであり,認定こども 園法において,従来からある「幼稚園教育要領」と「保 育所保育指針」との整合性や小学校への接続に配慮して 策定されたものである.  ここでは,言葉の音としての楽しさ,響きの楽しさに 関連した考え方について,第 2 章を抜粋しながらとらえ ていく.  幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説第 2 章第 2 節の目次では,心身の健康に関する領域「健康」,人と のかかわりに関する領域「人間関係」,身近な環境とのか かわりに関する領域「環境」,言葉の獲得に関する領域 「言葉」,感性と表現に関する領域「表現」という 5 領域 が示されている.  言葉の獲得に関する領域「言葉」では,経験したこと や考えたことなどを自分なりの言葉で表現し,相手の話 す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て,言葉に対する 感覚や言葉で表現する力を養うことが目標として示され ている.  本稿に関連する「言葉に対する感覚」「言葉で表現する 力」については,次の 3 つに整理されている1).(下線は 筆者). ≪生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く≫  言葉はただ単に意味や内容を伝えるだけのものではな い.声として発せられた音声の響きやリズムには音とし ての楽しさや美しさがある.例えば「ゴロゴロゴロゴロ」 というように言葉の音を繰り返すリズムの楽しさや「ウ ントコショドッコシショ」というような言葉の音が持つ 楽しさや美しさに次第に気付くようになる時期でもあ る.(中略)このように乳幼児期においては,園生活を通 して様々な楽しさや美しさに気付くことが,言葉の感覚 を豊かにしていくことにつながるのである. ≪いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする≫  特に,園児は,初めて出会い体験したことを言葉でう まく表現できず,それは感覚的なイメージとして蓄積さ れることが多い.生き生きとした言葉を獲得し,その後 の園児の表現活動を豊かにしていくためには,園生活は もとより,家庭や地域での様々な生活体験が具体的なイ メージとして心の中に豊富に蓄積されていくことが大切 であり,体験に裏付けされたものとして言葉を理解して いくことが大切である.(中略)特に 3 歳児の園児は,例 えば,「まぶしいこと」を「目がチクチクする」と感じた ことをそのままに表現することがある.このような感覚 に基づく表現を通して園児がそれぞれの言葉に持つイ メージが豊かになり,言葉の感覚は磨かれていく. ≪絵本や物語などに親しみ,興味を持って聞き,想像を する楽しさを味わう≫  絵本や物語,紙芝居などを読み聞かせることは,現実 には自分の生活している世界しか知らない園児にとって, 様々なことを想像する楽しみと出会うことになる.登場 人物になりきることなどにより,自分の未知の世界に出 会うことができ,想像上の世界に思いを巡らすこともで きる.このような過程で,なぜ,どうしてという不思議 さを感じたり,わくわく,どきどきして驚いたり感動し たりする.また,悲しみや悔しさなど様々な気持ちに触 れ,他人の痛みや思いを知る機会ともなる.このように, 園児が,絵本や物語の世界に浸る体験が大切なのである.  筆者の傍線部にみられるように,幼保連携型認定こど も園教育・保育要領解説では,乳幼児期における言葉の 楽しさ・美しさへの気づきや,感覚に基づく幼児の言語 表現の価値,創造された言葉からイメージを蓄積する体 験の意義が述べられている. ( 2 )小学校学習指導要領解説(国語編)  小学校に進学すると,児童用机が並ぶ教室での教科学 習が始まる.小学校の国語科の目標は「国語を適切に表 現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高める とともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に 対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる」ことで ある.  本稿に関連する力は,目標文中の音楽活動における 「伝え合う力」,創作活動における「思考力や想像力」,そ して言語を素材として扱う時の「言語感覚」である.  学習指導要領解説(国語編)では,言語感覚について 次のように説明されている(下線は筆者)2)  言語感覚とは,言語の使い方の,正誤・適否・美醜な どについての感覚のことである.話すこと・聞くこと, 書くこと及び読むことの具体的な言語活動の中で,相

(3)

手,目的や意図,多様な場面や状況などに応じて,どの ような言葉を選んで表現するのがふさわしいものである かを直観的に判断したり,話や文章を理解する場合に, そこで使われている言葉が醸し出す味わいを感覚的にと らえたりすることである.  言語感覚を養うことは,一人一人の児童の言語生活や 言語活動を充実させ,ものの見方や考え方を個性的にす ることに役立つ.  また,平成20年に改訂された現行学習指導要領では, 従来の「話すこと,聞くこと」,「書くこと」,「読むこと」 などの領域を継続しながら,より具体的な言語活動が明 示され,「我が国(日本)の言語文化と国語の特質に関す る事項」が新設けられた.改訂の趣旨では,日本語の文 化に親しむ態度を育てたり,国語の役割や特質について 理解を深めたり,豊かな言語感覚を養ったりする意図が 説明されている.また,具体的な教材の例として,低学 年では昔話や神話・伝承など,中学年では易しい文語調 の短歌や俳句,慣用句や故事成語,高学年では古文・漢 文などを取り上げている.全学年を通し,和歌・物語・ 俳諧,漢詩・漢文などの古典に加えて,物語,詩,伝 記,民話などの近代以降の作品が挙げられている.  このように,様々な場面において,言語を選択する判 断基準を培うことや,使用されている言語の雰囲気を感 覚的にとらえることが,児童のものの見方や考え方を育 成し,個々の特性を醸成すると考えることができる.  また,児童の教材として扱う日本語のリズムも,時代 や地域によって異なり,言語文化として創造・継承され ている言語リズムだけを取り上げても多種多様であるこ とが推察される. ( 3 )小学校学習指導要領解説(音楽編)3)  現行の小学校学習指導要領音楽科の目標は,「表現及び 鑑賞の活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に対す る感性を育てるとともに,音楽活動の基礎的な能力を培 い,豊かな情操を養う」ことであり,言葉との関連は文 中に特に掲げられていない.  しかし,鑑賞領域の指導事項において,感じ取ったこ とや想像したことを言葉であらわすなどして,楽曲や演 奏のよさに気付いたり理解したりすることが示されてい る.また,2017年 2 月に公表された次期学習指導要領の 改訂案では,鑑賞領域に関わらず,音や音楽及び言葉に よるコミュニケーションを図ることで,音楽科の特質に 応じた言語活動を位置付け,指導を工夫することが示さ れている.  筆者はこれまで,音楽学習の時間配分が話し合いに偏 る傾向について問題視してきた.これを解決する上で も,音楽の特性を生かして,言語を素材として活用する 音楽活動を取り入れたい.  言葉を素材とする活動は,低学年の音遊びや中学年の 音楽づくり,高学年の歌唱に関する記述に見られる.例 えば低学年では,声や身の回りの音,楽器などを使って 音遊びをしながら,音の特徴を感じ取り,それを生かし た表現をすることで,音への関心を高めていくことが求 められているが,「声」の例として,歌声以外に,ささや き声や息を使った音,擬声語や擬態語などが挙げられて いる.  音遊びの例としては,リズムを模倣したり,言葉を唱 えたり,そのリズムを打ったりする遊び,言葉の抑揚を 短い旋律にして歌う遊び,身の回りの音や自分の体を 使って出せる音などから気に入った音を見付ける遊び, 体の動きに合わせて声や音を出す遊びなどが例示されて いる.  また,中学年における言葉を使った音楽づくりの例と して,図形や線などを楽譜に見立てて声や楽器で即興的 に表現する活動や,擬声語や擬態語など,言葉をリズム にのせて反復したり組み合わせたりする活動などが挙げ られている.一方高学年では,歌詞の意味を音楽的に伝 えるために, 1 つ 1 つの言葉の意味を理解して歌った り,気持ちを込めて歌ったり,歌詞のもつリズムや言葉 の抑揚に気を付けながらきれいな発音に心掛けて朗読を 繰り返すことが指導の要点にあげられている.  以上ここまでに,保幼小の教育観について,公的機関 の示した言葉と音に関する記述を概観した.協働するた めのツールとして言語能力を育成するだけでなく,とり わけ,言語感覚や,音やリズムの魅力から言語を教材化 できるのは,表現教育の特質であり,使命であるように 思われる.  現行教科書に掲載されている言葉のリズムに関する教 材の例が,次頁図 1 から図 4 である.これらの題材はい ずれも音程に配慮せずに,リズムにあう言葉を探した り,同じ言葉のリズムを変えて表現したりすることに よって,異なるリズムの効果を感じ取ることができるよ う工夫されている.また, 4 年, 5 年の題材では声の音 色や重なりを工夫して,児童がアンサンブルを構想する ことができるような記譜の工夫が示されていることがわ かる.  しかし,これらの題材に旋律をつけたり伴奏をつけた りして発展させるように提案されてはおらず,声やリズ ムのアンサンブルで完結する題材例になっている.

(4)

図 1  第 1 学年題材 「小学生のおんがく 1 」教育芸術社4) 図 2  第 4 学年題材 「小学生の音楽 4 」教育芸術社5) 図 3  第 2 学年題材6) 「音楽のおくりもの 2 」教育出版社 図 4  第 5 学年題材7) 「音楽のおくりもの 5 」教育出版社

(5)

3 .先行研究及び実践 ( 1 )オルフ・シュールベルク  カール・オルフは幼少期から恵まれた音楽環境に育 ち,ドイツの作曲家として高い評価を得ていたが,1948 年に子どもたちの実演による教育放送用の音楽を作曲す る仕事を委託され,よびかけや詩,ことば,歌などが子 どもたちにとって決定的な表現の出発点であることを認 識した.そして1950年から 5 年間に亘り, 5 巻からなる こどものための音楽『オルフ・シュールベルク』を出版 した.オルフ・シュールベルクには『青少年の音楽 (Jugendmusik)と題される約20冊の曲集や,ケラー(W. Keller)による『こどものための音楽解説』があり,我 が国を含めて『オルフ・シュールベルク』のタイトルを もった本が世界各地で70冊以上出版されている.  本項では日本にオルフの考え方を広めた星野圭朗,井 口太らの著書及び, 2 人が共同で編纂した「こどものた めの音楽」を取り上げる.井口太(1987)は,オルフ・ シュールベルクの中心である「子どものための音楽」全 5 巻が,一貫して即興的な音楽表現をめざすものであ り,系統的な構造をもっていると述べている.また,即 興的な音楽表現の原点には,遊びの状況(その時の仲 間,環境)が定型リズムのバリエーションを生み出す活 動があるととらえ,「子供のための音楽」の特徴を下のよ うに説明した8) ・ 2 音から始まって次第に音数を増やしていく ・日常の言葉・わらべうたから始める ・重ねうるリズムパターンの提示とアンサンブルのサン プルにとどめる ・その時の遊びの状況によって,音楽を発展させること ができる  星野(1977)によると,オルフの音楽教育は,「異なる 音楽文化には異なる文化価値がある」9)という価値観のも と,時代や民族を超越する志向をもち,いつのどんな音 楽にも適応できる教育を目指す.そのため,音楽の要素 についても先史的要素とよばれる「リズム」「言語」「運 動」を指しており,「音楽は言語とリズム,運動の自然な 表れである.」という考えに基づいて,音楽教育の基本に リズムをおくことを決めた.オルフによると「オルフ・ シュールベルク」はメソッドでもシステムでもなく “アィディア”である.そして,オルフのアィディアによ る教育においては,子どもの内側から湧いてくる素材を 即興的に発展させた音楽が生成されるが,これがよいと いう到達点はない.しかしながら,創造性が育成される ことこそが重要なねらいであると言えよう.  オルフ・シュールベルクによれば言語を用いる練習に は下の 3 種類がある. ・言葉を,リズム練習の手掛かりとする方法 ・言葉を,音楽の素材と考えて,音楽作品の材料等にする ・言葉を,言葉本来の目的として用いる方法  そして,リズムを用いる練習を大別すると次の 6 種類 に大別される.旋律の練習はリズム練習が発展した形と して位置づけられる. ・リズム模倣 ・与えられたリズムの続きを作る練習 ・リズムのロンド ・リズムのカノン ・オスティナート伴奏のためのリズム練習 ・オスティナート伴奏によるリズム練習  運動の方法のうち,「オルフ・シュールベルク理論とそ の実際」と「こどものための音楽」では,歩く,走る, とぶ,はずむ,スキップなど基本の練習と,動きの造 形,動きの即興の 3 つが取り上げられている.  星野はこのような考え方を日本語のリズムにおきかえ て実践するため,小学生を対象に, 1 拍に 1 つずつ,好 きな食べ物やきらいな食べ物の名前を言う調査を行い, 2 , 3 , 4 , 5 , 6 拍子感の体得に発展させられる言葉 を明らかにした.星野は,「調査の結果は調査対象とした 地方の結果であり,全国的に通用するとは限らない」と いう但し書きをつけているが,リズムの発展の考え方と しては広範囲に適用できる(譜例 1 ~譜例 3 )10) ( 2 )事例 1:ことばによる動きの即興「保育内容(表現)」  オルフの「リズム」「言語」「運動」の考え方をもと に,谷川俊太郎の「かっぱ」の朗読と動きの即興を行っ た.「かっぱ」は,著書「ことばあそびうた」等に収録さ れている詩で,促音のある一定のリズムに,意味の異な る言葉や,オノマトペがつながって,音の響きや唱える 楽しさが味わえる作品である.  音読教材として現場でも活用されていることから本学 の「保育内容(表現)」授業で取りあげ,言葉の響きから 直感的にからだの動きで即興させる活動を行った.授業 では,直感的なイメージをもつことや,言葉への思いを デフォルメさせて,からだで表現できるようにするこ と,協働することにより,多様な表現の工夫を体得させ ることをねらった.

(6)

対象学年  大学 2 年生43名 課  題  谷川俊太郎「かっぱ」の詩(図 5 )に即興 的な動きをつける. 場  所  リズム室(フラットな床スペース) グループ   1 グループ10人~11人 時  間  構想15分 活動20分 発表10分  まず, 1 人 1 行ずつリレー読みした後,自分の読む 1 行に即興的な動きを考えて表現する(図 6 ).一重円の体 形をつくり,全員で 1 周するように動きをつけながら詩 を読んでいく.次に約10名程度のグループにわかれ,グ 譜例 1   2 拍子, 4 拍子へ発展させられる言葉 譜例 2   3 拍子, 6 拍子に発展させられる言葉 譜例 3   5 拍子に発展させられる言葉 か っ ぱ か っ ぱ か っ ぱ ら っ た か っ ぱ ら っ ぱ か っ ぱ ら っ た と っ て ち っ て た か っ ぱ な っ ぱ か っ た -谷 川 俊 太 郎 図 5  「ことばあそびうた」より 谷川俊太郎,福音館書店

(7)

ループ表現として「かっぱ」の表現を構想する.   1 人 1 行の即興的な動きについては,短時間での表現 リレーという設定により,恥ずかしさを感じにくい反 面,一人の役割が全体の表現の一部となる意識をもた せ,全体の雰囲気がひきしまる場を演出した.  グループで表現を構想する際には,各々の動きによっ て,言葉と言葉の「間」を調整する必要が生じ,それが 即興的な工夫となっていた.典型的な例としては「かっ て,きって,くった」の終末部分で,クレシェンドしな がら集合してポーズをとるために,「かって,きってぇ― 食ったあっ」という言語表現に変わった例などがあった.  実践の結果,まず,詩そのものの魅力によって,学生 の意欲をもたせることができた.次に,促音のある言葉 を連呼させることで,声量の少ない学生がお腹から声を 出せるようになる良さがあった.  また,「とってちってた」というような 1 文に対して, うれしい気持ちを足のステップで表現する学生や,ラッ パの音にみたててラッパを吹く表現をする学生がおり, 音読以上に解釈の違いが明らかになる場面があった.一 方,動きのアイデアを出し合う過程で,言葉のリズムや 響きをアレンジするのは認めていたものの,提案された 動きを優先するあまり,詩のテンポ感が失われていくグ ループがあり,素材のよさから離れないような働きかけ や,条件の提示が必要であることがわかった. ( 3 )事例 2:ことばのアンサンブル「初等音楽科教育法」  小学校音楽科表現領域の音楽づくり分野の実践的理解 のために,ことばのアンサンブルを創って発表する授業 を行った. 対象学年  大学 3 年生48名 課  題  「ことばのアンサンブルを創ろう」 場  所  ML 教室 グループ   1 グループ 4 名, 3 パート 時  間  構想15分,活動20分,発表10分  テーマに関連した異なるリズムをもつ 3 つの単語を考 えさせる.リズムの組み合わせとして,カノン,全員で そろえる,問いかけあう,入れ子などの例を図示し,工 夫して創るように働きかける.構想する前に,教員の 創ったアンサンブルモデルを全員で唱え,ワークシート 上の記譜法と読譜の方法を共有する.そして,表現発表 の後で,気づいた点や参考にしたい点,課題について発 言を求めた.  学生が考案した単語の組みあわせは図 7 の通りであ る.大学生の日常用語が素材となっているため,技能的 な差による困難を感じることなくアンサンブル活動を実 現することができた.  作品 1 では,「ウリ」が通奏低音のように全体を支え, 「パプリカ」という破裂音をもつ単語が 4 拍目のアクセン トとなり,「もやし」というやさしい言葉の響きが重なっ てバランスのよいアンサンブル表現となった.授業者 は,言葉の響きの特徴が引き出されている点を評価し た.学生からは,パプリカを選択したセンスについて高 い評価をする発言があった.作品 2 では,ポンカンだけ がソロになっている表現がユーモラスな感じを生み出し たことが評価された.作品 3 ではネギのリズムを倍速に していくことで曲の山をつくっていることや,ルッコラ のように促音のある言葉を選択していることについて評 価する発言があった.  作品 4 は長音が多用され,持続する響きでアンサンブ ルを表現することができていた.作品 5 では全員休符の 静寂の後で,おふとん,まくら,寝ると続くことで,ス トーリー性のあるアンサンブルになり,評価されてい た.作品 6 のグループでは,動物の名前で練習している 間に鳴き声を入れてはどうかという提案があり,作品中 に泣き声を入れて変化のある表現がなされていた.  作品 7 では,アンサンブルとして組み合わせた時に は,素材としての言葉の面白さが活かされず,重なった 時に首を傾ける姿がみられたが,どのように改善するべ きか提案がなく,表現の難しさを抱えたまま発表に至っ ていた.作品 8 は, 3 つのキーワードのイメージそのも のに面白さがあり,女子大生らしいユーモアが表現され ていた.「お金」とせずに「カネ」とする工夫や容姿の優 れた男性からイメージされた「車」を組み合わせること でフィーリングのよい表現が引き出されていた. 4 .考察  言葉のリズムや,言葉のもつ感じを活かした教育は, 図 6  動きの即興「かっぱ」

(8)

カキ ルッコラ ピーマン ドラゴンフルーツ トマト トマト パイナポー ネギ ポンカン パプリカ クレソン レンコン もやし ピーマン トマト うり なす しそ えんぴつ ふせん ノート シャーペン ペン マーカー 食べ物 をテーマにした言葉 文具をテーマにした言葉 動物をテーマにした言葉 国に関連した言葉 お布団 ニワトリ ジャパン まくら ゾウ コリアン ねる イヌ チリ ドラマをテーマにした言葉 ミサキ クルマ ポッチャンピッチャン ディアシスター カネ コッ ハギ イケメン ドバッ 生活をテーマにした言葉 羨望をテーマにした言葉 擬音語をテーマにした言葉 図 7  学生が使用した言葉

(9)

幼少期より大切にすべきであり,国籍に関係なく,母国 語を起点として言語感覚を磨くことで,対人能力の基本 となる自己表現の言語能力や相手の表現のニュアンスを 聴き取る言語能力につながっていくと考える.  しかし,その方法論において,音と言葉に関する具体 的指導法が認知されているとは言えない.音楽教育にお いて,本稿でとりあげたカール・オルフの教材群が育成 する創造性については,教材の系統性があることが星野 によって指摘された.現行の教科書 2 社の教材をたどれ ば,ことばの模倣から,繰り返しによるリズムづくり, パターンの例示による音楽づくりから,異なるリズムへ の組み合わせという順で発展し,オルフ・シュールベル クの系統性との違いはみられなかったが,教科書 1 社に つき 2 ~ 3 の題材に限られており,丁寧なステップで発 展するように計画されているとは言えない.カリキュラ ムは,子どもの認知面・情緒面・身体面の状況から熟慮 して構成されるべきであるから,安易に課題視するつも りはないが,少なくとも指導者は,言葉のリズムから発 展する活動について見通しをもつことが望まれるだろう.  本学で行った実践事例 1 では,次の 3 つの成果と 2 つ の課題が明らかになった.成果の第 1 は音量や抑揚など に関する工夫の深化,第 2 はからだの動きによる「間」 の意識化,第 3 は形式感の意識化である.  学生が詩を最初に音読した時に比べ,動きの即興を付 けて発声した時に声の音量と抑揚の幅が増幅していたこ とが動画記録からわかった.そして,個人で動きを創る 場面では,上半身の動きで表現する学生が 5 割程度で あったが,グループ表現になると全身の動きで表現する

鳴き声

(10)

学生が 8 割程度に増えていた.  また,複数が同時に発声することで,音量が大きくな り,強い表現を経験できる効果もあった.人数が増える ことで,息継ぎのための間が生まれ,フレーズが変わる たびに唱える学生が変わることで, 1 行 1 行の移り変わ りがデフォルメされていた.  さらに,言葉にあわせて同じ動きを再現したり,問い と答えのような動きを考えたりするなど,形式感を意識 化させることができた.オペレッタや劇表現,創作ダン スの動きに比べて,短い動きで形式感を知覚させられる ことも本教材の利点であると考えられる.  一方で,本実践ではオスティナートのように同じ動き のパターンを繰り返す役と即興的な動きを行う役を組み 合わせた動きがみられなかった.小学校における音読で 「かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ」という伴奏にあわせ て「かっぱ かっぱらった かっぱ らっぱ かっぱ らった」と重ねて読む実践もあることから,本実践にお いては読みの段階で,単語をモチーフに重ねて表現する 体験が必要であったと考える11)  また,表現発表の後の意見交流で,長所に関する発言 は多くみられたものの,課題や改善案が少ないことは課 題であった.目的意識や,互いの向上を促すような動機 付けが不十分であったと考えられる.  事例 2 では,日常的に使用している単語を 1 拍にうめ こむことで,複雑なリズムに抵抗なく取り組め,組み合 わせることや重ねることに注意を集中させることができ た.また,〇と×のみの簡易な記譜を用いることで,視 覚的にも構想が容易になり,アンサンブル表現をふりか えりながら修正できるよさがあった.  しかし,アンサンブルの例として示したサンプルの言 葉が「シマウマ」「パンダ」「ゾウ」であったことから, 多くの学生が最初 4 文字, 3 文字, 2 文字の単語を充て ていた.オルフの教材には,言葉のリズムモデルとして 単語だけではなく文章表現(「わたしはおせんべだいすき だ」等)もあり,より旋律的である.従って,例として 何を提供するかは検討の余地があった.しかし,既成の ことばのアンサンブル作品(楽譜)を読譜・表現させた 時に比べると, 1 拍に埋め込む言葉を速く,飛び出すよ うに発声するため,はつらつと表現できることも本教材 の利点ではないかと思われる.  事例 1 と同様,表現発表の後の交流場面では,長所に 関する発言は多くみられたものの,問題提起や改善案が 少なかったことは今後の課題である. 5 .おわりに  本稿の最初に,言葉で遊ぶ日本文化として,「洒落」や 「回文」などを例示した.言葉の一部を使って変形させた り,順を変えたり,組み合わせを工夫する行為は,音楽 的な工夫と類似しており,遊びの工夫の発展形が,豊か なコミュニケーションや芸術文化につながっていくこと が示唆された.言葉のリズムから,各教科の特性を活か して発展させていくような表現活動は,すぐに役立つよ うには思えないが,将来に活きる豊かな教育活動ではな いかと考えられる.  今後は,協働で作品を練り合う場面だけでなく,表現 結果についても,自分の考えを伝えたり,相手の気持ち を汲みながら,互いのために批評しあったりする経験を 充実させたいと考えている. 引用文献 1 ) 内閣府/文部科学省/厚生労働省「幼保連携型こども園 教育・保育要領解説」フレーベル館,pp. 205–208,2015 2 ) 文部科学省/学習指導要領解説(国語編)p. 13,2008 3 ) 同上(音楽編)pp. 36–37,p. 46,p. 57,2008 4 ) 小原光一監修「小学生のおんがく 1 」教育芸術社,pp. 24–25,2015 5 ) 小 原 光 一 監 修「小 学 生 の 音 楽 4 」教 育 芸 術 社,pp. 16–17,2015 6 ) 新実徳英監修「音楽のおくりもの 2 」教育出版社,pp. 16–17,2015 7 ) 新実徳英監修「音楽のおくりもの 5 」教育出版社,pp. 40–41,2015 8 ) 井口太,オルフの「こどものための音楽」,「子どもと音 楽」同朋社, 9 巻,p. 38,1987 9 ) 星野圭朗「オルフ・シュールベルク理論とその実際―日 本語を出発点として―」,全音楽譜出版社,p. 7,1984 10) 同上,pp. 20–21,pp. 72–75 11) 「ことばあそびの詩」の音読授業をデザインする,www. ondoku.sakura.ne.jp/gr2kotobaasobi.html(2017年 1 月 3 日採取)

図 1  第 1 学年題材 「小学生のおんがく 1 」教育芸術社 4) 図 2  第 4 学年題材 「小学生の音楽 4 」教育芸術社 5) 図 3  第 2 学年題材 6) 「音楽のおくりもの 2 」教育出版社 図 4  第 5 学年題材 7) 「音楽のおくりもの 5 」教育出版社

参照

関連したドキュメント

教育・保育における合理的配慮

保育所保育指針解説第⚒章保育の内容-⚑ 乳児保育に関わるねらい及び内容-⑵ねら

なお、保育所についてはもう一つの視点として、横軸を「園児一人あたりの芝生

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き

本学は、保育者養成における130年余の伝統と多くの先達の情熱を受け継ぎ、専門職として乳幼児の保育に

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き