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健 康 日 本 21 推 進 全 国 連 絡 協 議 会 第 1 回 メンタルヘルス 分 科 会 阿 部 幹 事 只 今 ご 紹 介 を 賜 りました 中 央 労 働 災 害 防 止 協 会 の 阿 部 でございます 私 ども 中 央 労 働 災 害 防 止 協 会 は THP(トータル ヘ ルス

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第1回メンタルヘルス分科会 講演抄録

テーマ

「こころの健康に良い生活習慣 ~食・運動を中心に~ 」

講 師 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター

神経研究所疾病研究第三部 部長 功刀 浩

日 時:平成26年2月26日(水)

場 所:女性就業支援センター

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1 健康日本 21 推進全国連絡協議会 第 1 回 メンタルヘルス分科会 阿部幹事 只今ご紹介を賜りました、中央労働災害 防止協会の阿部でございます。私ども中央 労働災害防止協会は、THP(トータル・ヘ ルス・プロモーションプラン)という名前 でみなさんご存じかと思いますが、25 年間 にわたってこの活動を推進してまいりまし た。最近では、からだの健康よりもやはり こころの健康の事業が圧到的に多くなって おりまして、割合で言うと1:9 くらいにな っているのが現状でございます。主にセミ ナーとしてメンタルヘルス推進担当者を養 成する研修を開催したり、年間20 万人にの ぼるストレスチェックをやらせていただい たりしております。また、企業へのコンサ ルティングというような事業もやらせてい ただいております。 さて、本日の分科会でございますけれど も、「こころの健康によい生活習慣―食・運 動を中心に―」というテーマで、ご多忙の ところ国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第三部 部長 功刀 浩先生をお迎えしております。先生には、 前向きに生活習慣を変えていくところから メンタルヘルスの改善に取り組むというお 話をお聞かせいただけると思っております。 早速でございますけれども、約1 時間ほ どでございますが、功刀先生にご講演をい ただきたいと思います。どうぞお願いいた します。 功刀先生 ご紹介にあずかりました功刀でございま す。本日はこのような機会を頂戴いたしま して、ご関係の先生方に感謝を申し上げま す。「こころの健康によい生活習慣―食・運 動を中心に―」というテーマをいただきま したが、こちらの協議会には運動や食事、 たばこの分科会があるそうで、そういった ことの推進がそのままメンタルの改善につ ながっていくというお話になると考えてい ます。実際、うつ病と食事あるいは運動と の関係についてのエビデンスが、最近10 年 くらいで急速に集まってきています。それ らのエビデンスを紹介させていただきたい と思います。 (図1) うつ病の患者数は、厚生労働省の患者調 査で 100 万人近くになっています(図 1)。 90 年代は 40 万人台だったので、気分障害 で 2.2 倍になっています。気分障害の中に 躁うつ病やうつ病など色々ありますけれど も、うつ病だけに限ってみると 3 倍以上に なっているということです。その理由は、 ストレス社会で実際に患者数が増えている こともあるかもしれませんけれども、やは

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2 り 90 年代後半から始まった啓蒙活動が大 きく患者数の増加に寄与していると考える のが妥当であると思います。急に患者数が 増えたのではなく、うつ病が認知されてき たということです。 治療を受けている患者さんは全体の患者 さんの一部であるという調査があり、うつ 病で悩んでいる方々はもっと多いことが推 定されます。実際、みなさまの実感してい ることであると思うのですが、職場ですと 1〜2 人はうつ病の患者さんで、治療を受け ている方がおられるのではないでしょうか。 メンタルヘルスが重要ということの一つ のエビデンスですが、生活に障害を受ける 年数という視点でみると、先進国では全疾 患の中でうつ病が第1 位を占めるというこ とです。また、自殺者数が多く、一昨年ま では3 万人以上、昨年は 2 万 8 千人ほどで 少し減ってはいますが、相変わらず多いと いうことで、経済損失も莫大であり、メン タルヘルスが非常に重要だといわれていま す。 (図2) うつ病の治療ですが、基本的には休養す ることです(図2)。職場のメンタルヘルス というものと、どのように職場復帰したら よいかということが絡んできます。例えば 異動や昇進で仕事量が増加する、長時間勤 務をすることになり、うつ病を発症するこ とが多いので環境調整は重要です。心理療 法もあり、ポジティブに考えられるように なるという認知療法などメンタルヘルス特 有の考え方も重要です。それから抗うつ薬 があります。重症ですと、通電療法、頭に 電気を流す治療法が行われることもありま す。 これらは従来の治療法ですけれども、最 近、生活習慣の改善がうつ病の発症、治療 経過に大きく影響を与えることがわかって きておりまして、こういった面が重要です ので、みなさまの活動がメンタルヘルスに もつながっていくことになると思います。 うつ病はストレス性疾患と言われていま す。ストレス性疾患の代表的なものには心 的外傷後ストレス障害(PTSD)−−地震や津 波や交通事故などから生命に非常に危険が 及ぶようなストレスが生じて発症するもの −−や、うつ病のように慢性的なストレスが 原因になって徐々に発症していくものがあ ります。うつ病は、どちらかというとスト レスがボディーブローのように効いてきて ダウンしていくようなイメージです。 うつ病は、仕事量の増加や、職場や家庭 での人間関係の問題がストレスとなって発 症することが多いのですが、影響を受けや すい人、影響を受けにくい生活習慣という ものがあると考えられています。 現代の隠れたストレスとして、飽食や食 の西洋化が挙げられます。豊かになった反 面、栄養学的に問題が起きています。車社

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3 会などで便利になった反面、運動不足が悪 影響を及ぼしています。それから夜型生活 というものもあり、一日中、夜中でも仕事 や遊びができることから睡眠覚醒リズムが 崩れています。そしてバーチャルリアリテ ィ、すなわち映像文化の発展によって、ゲ ーム依存などが起きています。文明化によ って豊かになった反面、負の側面が現代の 隠れたストレスとして、食事や運動、睡眠 を乱します。このようなことがしっかりし ていれば、おそらくストレスがあってもそ れほど影響は受けないだろう、深刻な問題 にはならないのではないかと考えられ、そ のため生活習慣を整えることが大事である と考えられます。 アメリカに「健康な人であるための生活 習慣指針 2020」というものがありまして、 それに基づいたワシントン大学の研究を紹 介しましょう。ワシントン州の青年8 万人 くらいの調査です。禁煙、薬物依存ではな い、朝食を摂る、十分な睡眠8 時間以上、 運動習慣あり、肥満ではないという6 項目 について調査をしますと、これを全部守っ ている人は、わずか 5%しかいません。し かし84%の人は 3 つ以上守っているという ことで、朝食をきちんと摂る人は 64%、8 時間以上の十分な睡眠は 40%ということ です。この6 つの指針を持っている数が多 いほど、うつ病や問題行動を起こす人が少 ないという結果が出ております。 インドでの中学2 年生と高校 1 年生を対 象とした朝食を摂ることにフォーカスを当 てた研究でも、朝食を毎日/時々食べる人 は、食べない人に比べて肥満が少なく、朝 食を毎日食べる人は、食べない人に比べて 食生活内容がよいと報告されています。ま た、乳製品を5 倍、果物を 1.7 倍、野菜を 2 倍も摂っています。また、朝食を食べる人 は、食べない人に比べて身体活動量が多く、 毎日食べる人は、毎日 2 時間以上勉強して いる人が多いということです。朝食を食べ る習慣を持っていると、うつ病症状が少な いというデータも出ております。 朝食を摂っている習慣がありますと、一 般的にはカロリーは多くなりますが、それ でも肥満にはなりにくいとされています。 日本でも、朝食を摂ると成績がよくなる という有名な研究がございます。早起き早 寝でないと朝食を摂りにくいということが ございますね。朝食を摂ると知的作業や運 動の両面で能率が上がりますので、長時間 労働も防げるかもしれません。そして、十 分な睡眠につながります。 (図3) 食事とうつ病、メンタルヘルスの関係で すが、飽食の問題と精製加工された食品に よって、バランス不良が生じていることは ご存じのとおりと思います(図3)。食べ過 ぎになりやすいという問題と、精製加工の 過程で一部の栄養が失われるという問題が

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4 ございまして、メンタルヘルスの関係では、 特に認知症やうつ病といったものは、今や 生活習慣病と言われるようになってきてお ります。 (図4) うつ病と栄養・食生活との関係について は、多くのことが言われております(図4)。 エネルギー過剰摂取による肥満や糖尿病、 メタボリックシンドロームといったものが うつと関係すると言われています。食事ス タイルで言いますと、地中海式の食事は予 防効果があるとされています。それから、 脂肪酸やアミノ酸、ビタミン、ミネラルの 不足が挙げられます。メンタルヘルスと関 係する食生活あるいは栄養素には、非常に ポテンシャルがあるということでございま す。 (図5) 認知症も同様で、ビタミンE の不足、鉄 の過剰、赤ワインの予防効果など多少違い はありますが、大体うつ病と似ているとい うことです(図5)。実際、うつ病になると 認知症になりやすいことが最近、わかって きました。 うつ病になると食欲がなくなり、痩せて いる人が多いのではないかと思われるかも しれませんが、そうではありません。そう いう方もいらっしゃるのですが、どちらか というと、実際に我々のデータでも少し太 り気味の方のほうが多いのです。過去の研 究のメタアナリシスによれば、肥満はうつ 病のリスクを 1.5 倍に高め、うつ病は肥満 のリスクを 1.5 倍に上げるということで、 双方向に関係があります。肥満だとうつに なり、うつになると肥満になる。負のスパ イラルになっていくという関係です。メタ ボリック症候群とうつ病にも双方向性の関 係があります。糖尿病との関係でも双方向 性がありまして、うつになると糖尿病にな りやすいのです。 食事スタイルとの関係ですが、欧米でよ く研究されるのが、地中海式食事です。野 菜や果物、種実、豆類、シーフード、オリ

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5 ーブ油、一杯の赤ワイン。地中海式料理の 対極にあるのが西洋式食事です。ミートパ イ、加工肉、ピザ、ポテトチップ、ハンバ ーガー、精製した小麦粉で作る白パン、砂 糖といったものです。そういったものが、 文明化によって増えてきています。 (図6) 生活習慣病に対する効果ですが、地中海 式食事に準じた食生活を送っていると一定 期間の死亡率が低く、心臓病、がん、神経 変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソ ン病)のリスクが低いということです。う つ病についても出ておりまして、スペイン の研究ですが、1 万人を約 4 年間追跡した ところ、500 人ほどがうつ病を発症したと いうことで、20 人に 1 人ほど発症したわけ ですけれども、地中海式食事スコアが高い と、うつ病を発症しにくくなるという結果 が報告されています。ただし、日本人が地 中海式食事にもっと近づければよいかとい うと、必ずしもそうではありません。あく までも欧米では、地中海式食事がうつの予 防によいというデータが出ているというこ とです(図6)。 日本人の食事スタイルを研究したものも あり、健康日本食パターン、動物性食品パ ターン、洋風朝食パターンと、3 つのパタ ーンに分けると、健康日本食パターンとい う、野菜や果物、大豆製品、キノコ、緑茶 の摂取が多い人ほど、うつが少ないという データがあります。伝統的な日本食や緑茶 を摂っていると、うつになりにくいと考え られます。 (図7) 魚の摂取が多い国はうつ病が少ないとい う報告が出てきまして、注目されました。 フィンランドの研究によれば、やはり魚を よく食べるとうつが少ないという結果が出 ています(図7)。その後、いくつかの研究 で、やはり魚をよく食べるとうつが少ない という結果が出ております。日本ではこの 関係を肯定する結果と肯定しない結果とが 報告されており、日本では魚の摂取量が多 いということがありまして、関連が出にく い可能性があります。 血中濃度、赤血球の濃度などを調べます と、うつ病との関係で非常にたくさん報告 がありまして、エイコサペンタエン酸、ド コサヘキサエン酸などの n-3 系多価不飽和 脂肪酸がうつ病患者では有意に減っている

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6 と結論されています。n-6 系多価不飽和脂 肪酸であるアラキドン酸などは差がないと 報告されております。そうなると、n-3 系 の EPA、DHA はうつ病の治療に有効なの ではと期待されるわけですが、ポジティブ な結果も出ていますがネガティブな結果も あったということで、明らかなエビデンス はないというのが今のところの結論です。 (図8) ビタミンについてもいくつかありまして、 昔のビタミンB1 不足などに比べて今の時代、 それほどビタミン不足はないわけですけれ ども、葉酸やビタミンD は少し不足気味の 方がいらっしゃいます。うつ病と葉酸です が、日本の市役所職員530 人の調査では、 36%の人がうつ症状を持っていました(図 8)。この数字は少し驚きの数字ですけれど も、血清葉酸値が低いとうつ病のリスクは 高まるという報告があります。我々は患者 さんを調査したところ、うつ病患者さんで は葉酸値が低い傾向がみられました。その ほか、葉酸を補充すると有効だったという 報告もございます。 (図9) 季節性うつ病と言いまして、冬や春の寒 い時期に、あるいは日照時間が少ない時期 にうつになるタイプのうつ病があります。 日光が足りなくなり、ビタミンD が足りな くなってうつになるという可能性が指摘さ れています(図9)。ビタミン D というのは、 カルシウムとリンが吸収、促進作用で、骨 の形成に大事なものです。最近の論文で、 うつ病患者さんではビタミンD の濃度が低 下している、ビタミンD が低いとうつ病の リスクが 1.3 倍に上がるというメタアナリ シスの論文がございます。ビタミンD を投 与すると気分が前向きになるというものも ございます。北欧諸国でビタミンD の補充 を国家戦略的に行っている場所もあるとい うことです。

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7 (図10) ミネラルでは、鉄欠乏とうつ病について の指摘があります(図 10)。ドーパミンや セロトニン、ノルアドレナリンといった元 気が出るような脳内物質は、鉄が必要です。 鉄欠乏では、疲れやすい、イライラする、 興味関心が低下する、集中力が低下するな どの症状がみられることが多く、これはう つ病の症状そのものです。また、鉄が不足 しやすいのは若い女性で、特に妊婦さんが 最も鉄が不足しやすいのです。胎児にとら れて、出産して出血して、鉄が失われる。 それにより産後うつ病になってしまう可能 性が指摘されています。血中のフェリチン 値が潜在性鉄欠乏を示す指標ですが、それ が低いと産後うつ病になりやすいという報 告もございます。先ほどの市役所職員の調 査では、男性でのうつ症状は、フェリチン 濃度が低い人に多かったという結果が報告 されています。このように、鉄が欠乏する とうつになりやすいという報告もあります。 その他に亜鉛やマグネシウムについても指 摘されていますが、今日は時間の関係から 省略させていただきたいと思います。 (図11) 我々の調査を少しご紹介させていただき たいと思います。少し前に報告したもので すが、うつ病99 名、健常者 111 名が対象で、 少し男女差があるのですが、血中の栄養素 と食生活を調べました(図 11)。うつ病と 肥満との間には双方向性の関係があるわけ ですけれども、うつ病の人はどちらかとい うと肥満が多く、脂質異常の人が多い。ま た、HDL コレステロールが低い人、中性脂 肪が高い人がうつ病で多いというような結 果でございまして、やはりメタボリック症 候群や肥満とうつ病には関連がみられまし た。 それから、葉酸が少し低めの人がうつ病 に多いという結果を得ております。アミノ 酸をみるとトリプトファンの値が低い人が 多かったということでございます。少し細 かい話になりますけれども、トリプトファ ンというのはセロトニンの原料になります。 セロトニンは、気持ちを安定させるのに重 要で、睡眠を誘発するメラトニンの原料に もなります。ですから、これが少ないとち ょっとよろしくないということです。 もう少し細かい話をしますと、肥満にな って脂肪細胞がふくれてくると、サイトカ

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8 イン(アディポカイン、アディポサイトカ イン)というものを放出しますけれども、 そういうものが出てくるとトリプトファン をキヌレニンという物質の代謝する酵素が 活性化することがわかっていまして、これ が活性化することによってトリプトファン がさらに減るというメカニズムが考えられ ています。ですから、うつ病患者における トリプトファンの減少は、食事からの摂取 不足とも関係しますし、肥満とも関係しま す。 脂肪酸については、我々の調査では、う つ病患者において n-3 系多価不飽和脂肪酸 ではなく n-6 系多価不飽和脂肪酸が減少し ているという結果で、これは海外の結果と は一致しませんでした。もしかすると、東 アジアの人たちは少し違うのかもしれませ ん。 (図12) 嗜好品との関係でございますけれども、 うつ病の人たちで緑茶を飲む人は少ないこ とがわかりました(図12)。週 4 杯以上飲 む人はうつ病の人が少ないという報告です。 週4 杯というのはあまり多い数ではありま せん。むしろ、お茶を飲む習慣があるか、 ないかぐらいだと思いますけれども、習慣 がある人はうつになりにくいのかもしれま せん。これは我々だけでなく、先ほどの健 康日本食パターンはうつになりにくいわけ ですけれども、緑茶を飲むことが一つの指 標です。あるいは、東北大学の研究グルー プも同じような結果を得ています。コーヒ ーについても、同様な結果を得ています。 次は運動の話に移りたいと思います。運 動は昔から健康によいとみなさんご存じで すが、うつ病では、とにかく休みなさいと いうようなことを昔からよく言われていま す。しかし、最近のエビデンスでは、基本 的になんでもずっと休みなさいというので はなく、むしろウォーキングなど単純な身 体活動をどんどん奨励したほうがよいとい う方向になっています。ただし、そういう 方向になっているのは世界的、海外の話で ありまして、日本の中では相変わらずうつ 病だったらよく休みなさいと言っている精 神科の先生が多いのが現状です。 (図13) 例えばアメリカの大学生 1 万人を観察し たところ、387 人がうつ病を発症しました が、卒業時に身体活動が多い人やスポーツ

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9 選手のうつ病発症率は、身体活動が乏しい 者と比べて低かったというエビデンスがあ ります(図13)。50 歳以上の 1,947 人を 5 年間観察した調査でも、身体活動が高いほ ど、うつ病になりにくいという結果が出て いますので、日頃から身体活動量が多い人 はうつになりにくいということがわかって いるわけです。 うつ病の運動療法というものがありまし て、Blumenthal という人がうつ病の運動 療法の開拓者として有名です。抗うつ薬で 治療した群と運動した群、それから両方し た群を比較した研究を行いました。どの程 度の運動かというと、16 週間にわたって週 に3 回、10 分間ウォーミングアップして、 30 分間ウォーキングかジョギングをして、 5 分間クールダウンするという運動です。 この結果からみると、うつ病の治療におい て運動療法は抗うつ薬と同じくらいの効果 があります。もちろん運動療法を行った群 では運動能力が上がり、抗うつ薬だけでは 運動能力は上がりません。 どのくらい運動療法をやったほうがよい かということですが、ある一定以上の運動 量をやらないと、効果はありません。アメ リ カ で は 17.5kcal / kg / W が Public health dose ということで、一般国民に推奨 されているエネルギー消費量の値です。そ れで比べると、ある程度の運動量をちゃん とやらないと効果は出ないということです。 では、運動療法はどのようにやったらよい かとなると、トレーナーの下でやるのと自 宅でやるのとでは、どうも違いがないよう です。トレーナーがいようがいまいが、運 動をすれば効果は出るということです。再 発予防効果をみると、運動療法を自宅で行 って、運動が身に付くと、薬物療法よりも 再発率が低かったというデータもあります。 少なくとも軽症のうつ病、中等軽症のう つ病では、運動療法ははっきり効果がある というのが結論です。もちろん1〜2 週間で は効果は出ませんが、9 週間以上の運動プ ログラムをやると症状軽減につながるとい うメタアナリシスの結果が報告されていま す。運動療法をすると、抗うつ薬や認知行 動療法と効果がほぼ同等であったという結 論が出ています。 運動をすると神経細胞が活性化し、認知 機能も高まるということを見出した動物実 験があります。輪回し機を入れて飼うと、 ネズミはとにかく輪回しでよく運動するそ うです。1 日に何 km も走るそうです。そ のように走ったネズミでは、海馬の神経が 新しくたくさんできてくると報告されまし た。もちろん神経細胞が増えるだけではな く、神経の突起を伸ばしたり、シナプスを 形成したり、さまざまな効果があると考え られます。 ヒトを対象としたMRI の研究でも、運動 した人とストレッチだけした 2 群で海馬の 体積の変化をみたところ、運動した群は 1 年後に海馬の体積が増えていますが、スト レッチだけをしてそれほど運動量がなかっ た人では体積が減ったという報告がありま す。左の海馬も右の海馬も同様だったとい うことで、海馬が大きくなればなるほど、 記憶のテスト成績がよかったという所見も 得られています。 統合失調症の患者さんに対する運動の効 果も報告されています。統合失調症の人に

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10 は自閉と言いますか、あまり活動的ではな い生活を送っている方が多く、認知機能も 落ちている場合が多いのです。ところが、 運動すると海馬が大きくなり、認知機能も 改善したと報告されています。 (図14) 運動には、深い睡眠を増やしたり、REM 睡眠を減らすなど、睡眠を改善する作用が あります(図 14)。うつ病の方は REM 睡 眠の時間が長いことがわかっていまして、 運動療法で REM 睡眠が減少することは、 うつ病治療の効果があると考えられます。 他にも、寝つきがよくなる、睡眠時間を増 やす、途中で目が覚めなくなるなど、さま ざまな効果があります。 (図15) 睡眠習慣が不十分だとうつ病になりやす いことがはっきりしておりまして、うつ病 になると不眠は必ず出現する症状です(図 15)。睡眠習慣にも文明化の影響があり、も ともと太陽の光と同期して生活していたの ですが、現在はその必要がございません。 典型的なうつ病では不眠は必発になります し、非定型うつ病では過眠になったり、慢 性うつ病では昼夜逆転のように睡眠覚醒リ ズムが崩れていることが多くみられます。 きちんと睡眠をとることが非常に大事で、 睡眠をどうしたらよいかについては、厚生 労働省の研究班による睡眠障害対処 12 の 指針がございますのでそちらが参考になる と思います。 雑ぱくになりましたけれども、これで終 わりにしたいと思います。ご清聴ありがと うございました。 阿部幹事 功刀先生、どうもありがとうございまし た。せっかくの機会でございますので、み なさんからのご質問を受けたいと思います。 いかがでしょうか?

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11 質問者 1 例えば食事を改善するとうつ病の改善効 果が得られたという他のエビデンスがあれ ば、また、国内でも検証されているような 事例があれば教えていただきたいと思い、 質問させていただきました。 功刀先生 食事の介入研究はまだあまりないように 思います。葉酸や EPA、DHA といったも のはございますけれども、食事全体のスタ イルを調整するということでは、たくさん のまとまった報告は今のところなく、今後 の課題かなと思います。 私どものところでは、できるだけ栄養指 導を受けていただくようにしております。 実際は精神疾患の病名で栄養指導を算定す ることはできないのですが、精神疾患の患 者さんは何らかの生活習慣病を合併してい ることがほとんどなので、栄養指導を受け ていただくことが可能です。実際に栄養指 導をしていくと、体重や肥満も改善してい き、非常に調子がよくなっていくという症 例は多数経験しています。ただ、それを数 字にまとめるということは、まだできてお りません。 質問者 2 うつ病と栄養についてですが、私が興味 深かったのは緑茶です。緑茶には鉄分を吸 収させないような働きがあり、もう一つ緑 茶の特徴としてカフェインが入っています ね。鉄分のコントロールと睡眠不足という 関係で、緑茶の予防的な意味合いはどのよ うな位置づけになっているのでしょうか。 功刀先生 私は緑茶とうつの関係をみたのですが、 緑茶を飲む頻度と鉄の濃度を比較したとこ ろ、関係はなかったです。葉酸を低くする という報告もあったのですが、それもなか ったです。「お茶をたくさん飲むから鉄や葉 酸が低くなる」と心配しなくてよいデータ を得ています。 鉄の過剰と不足についてですが、過剰も 不足もリスクを上げると思います。どちら かというと鉄の過剰による酸化ストレスは 認知症の発症、鉄の不足によるモノアミン の機能異常などがうつ病の発症に関係する ということですが、過剰も不足も、うつに も認知症にもおそらく悪いのではないかと 考えています。 睡眠との関係ですが、多少カフェインが 入っているので、睡眠の直前に飲んだりす るのはよくないかもしれません。ただし、 テアニンというものが入っておりまして、 テアニンにはリラックス効果や睡眠改善効 果があり、カフェインによる興奮作用も抑 制するため、寝る前に飲んでもむしろ睡眠 は改善される可能性があります。緑茶を飲 むと眠れなくなり、うつや認知症のリスク を上げるということは、それほど心配しな くてよいと思います。 質問者 3 健康・体力づくり事業財団の増田でござ います。私たちの財団では健康運動指導士 という人材を養成しています。まさしく先 生が仰った運動とメンタルの話は、健康運 動指導士の中でも非常に注目されています し、先般の東日本大震災の後、運動だけで

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12 はなくメンタルも含めた指導をしている健 康運動指導士がたくさんいます。聞くとこ ろによりますと、国では認知症と運動の関 係について一大プロジェクトで本当にエビ デンスがあるのかどうかという調査をする と聞いておりますので、これからも先生の ほうからもっともっと運動の話をしていた だければ幸いだと思っております。 功刀先生 どうもありがとうございます。先ほど運 動はエビデンスが蓄積されているというこ とをお示ししましたように、非常にポテン シャルが高いと考えております。実際、我々 もそういうことはやっていこうと思ってお り、どのようにエビデンスを出していくか というのをまさに今、検討しているところ でございます。健康運動指導士の方との連 携で、うつ病の運動療法を促進していくと 医療費抑制にも大きくつながっていくので はないかと考えています。よろしくお願い します。 質問者 4 うつ病の運動療法についてですが、うつ 病の方というのは私のイメージでは、あま り外に出て運動するようなイメージがない のですが、運動療法はお薬を飲むのと同等 の効果があるということで、お医者さんが 運動を勧めても、実際にやってくださる患 者の方はいらっしゃるのでしょうか? 功刀先生 非常に適切な質問で、私は、歩数計と記 録帳を渡して、「できるだけ活動量を増やし ていきましょう」などと言いますけれども、 やってくれる人もいますが、やってくれな い人も結構多くて困っています。 トレーナーがいてもいなくても、ちゃん と運動を行えば効果はあるようですが、実 際のところ、誘われるのと誘われないのと では全然違うと思います。例えば健康運動 指導士の先生が週 3 回来て、保険で治療を 受けることができれば、おそらく患者さん は運動をしてくれると思います。やはり制 度的な裏付けが非常に重要になると思いま す。簡単に言えば、誘う人がいれば、やる 場があれば、結構やるのですが、そういう トレーナーがいないと家でゴロゴロしてい るなど、どうしても運動できないというの が現実なので、やはりきちっとした形がで きることが重要であろうと思います。 質問者 5 貴重な話をありがとうございました。冒 頭に申し上げましたが、労働安全衛生法が 改正になり、すべての労働者にストレスチ ェックを義務付けるということが決まると 思います。そうすると、来年あたりからす べての職場でストレスチェックをやること になるのですが、これは、コンセプトとし ては、うつ病のスクリーニングではなく、 職場のメンタルヘルスの改善ということで、 どちらかというと予防やヘルスプロモーシ ョンの視点からそのような制度ができてく ると思います。その時に、ストレスチェッ クをどのようにやるかというのは非常に大 きな問題になっておりまして、最低限のス トレスチェックを何か推奨しようではない かということがディスカッションされてい

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13 るところです。その中で、うつや不安、疲 労について聞くことは大体コンセンサスを 得ていると思うのですが、先ほど先生のご 説明で、食欲というのがありましたね。確 かにストレスのチェック項目の一つとして 食欲というものが入ってよいのかもしれな いと考えています。先生は色々とご研究さ れているので、そのあたり何かコメントを いただければと思うのですが、いかがでし ょうか? 功刀先生 食欲の変化はやはり重要なポイントだと 思いますので、あった方がいいと思うんで すね。一般的には、マイルドなストレスだ と食が増えるけれども、非常に苛酷なスト レスになると減ると言われておりまして、 ストレスの質や量によって、食欲が増えた り減ったりします。 他のストレスチェックについては、本当 は何らかの客観的な指標があるとよいので すが、例えば、うつについてどの程度正直 に答えるのだろうかと漠然と思っておりま す。実際にうつがあっても、「気分が憂鬱」 「やる気が出ない」といった欄にチェック を入れちゃっていいのかなと考える人もい るのではと思います。正直に答えるかどう かということがあり、客観的なデータとし ては、なかなか難しいと思っています。 気分が憂鬱とか、何にも興味が湧かない とか、仕事に対してやる気が出ないという ような項目よりは、食欲のほうが正直に答 えやすいかなという気がいたします。 阿部幹事 私からも一つご質問させていただきます。 先ほどテアニンのことが出ましたが、テア ニンが多く含まれるお茶というのは、やは り高級茶葉で、高価なお茶でないとなかな か摂れないのでしょうか。 功刀先生 そうですね、お茶には、うまみと苦みと 渋みがございまして、うまみはテアニン、 苦みはカフェイン、渋みはカテキンです。 テアニンが多ければ多いほど、うまみがあ ります。テアニンは茶葉の根でつくられて、 葉っぱが光に当たるとカテキンの合成に使 われて、なくなってしまいます。ですから、 玉露など葉っぱに日光が当たらないように 工夫した高いお茶ほどテアニンは入ってお りまして、値段に比例していると言われて おります。 阿部幹事 ありがとうございました。興味の尽きな いところではございますけれども、時間も まいりましたので、功刀先生にもう一度盛 大な拍手をもって終わりにしたいと思いま す。

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健康日本21推進全国連絡協議会

第1回メンタルヘルス分科会

講演抄録

平成 26 年 7 月

発 行:健康日本21推進全国連絡協議会

事務局:公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

東京都港区東新橋2-6-10 大東京ビル7階

TEL:03-6430-9111 FAX:03-6430-9211

http://www.kenkounippon21.gr.jp/

無断複製・引用を禁ず

参照

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(実 績) ・協力企業との情報共有 8/10安全推進協議会開催:災害事例等の再発防止対策の周知等

2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 第一庁舎、第二庁舎、議会棟の合計 188,600 156,040 160,850

⑤ 

日本遠洋施網漁業協同組合、日本かつお・まぐろ漁業協同組合、 (公 財)日本海事広報協会、 (公社)日本海難防止協会、

●協力 :国民の祝日「海の日」海事関係団体連絡会、各地方小型船安全協会、日本

高尾 陽介 一般財団法人日本海事協会 国際基準部主管 澤本 昴洋 一般財団法人日本海事協会 国際基準部 鈴木 翼

○齋藤部会長

2012年12月25日 原子力災害対策本部 政府・東京電力 中長期対策会議 運営会議