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会員寄稿 クラウドコンピューティングと ITIL 的ソーシングのすゝめ ~ 借りぐらし 世代の反復的ソーシング ライフサイクル 私たちは そう簡単に滅びたりしないわ! ~ I. はじめにクラウドコンピューティングは 過度な期待 の時期が過ぎ 冷静な判断が行われるようになってきている ( ガートナー

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Academic year: 2021

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IT サービスマネジメントフォーラムジャパン

2014.7

2014.7

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会員寄稿

 クラウドコンピューティングと

       ITIL

®

的ソーシングのすゝめ

 

~『借りぐらし』世代の反復的ソーシング・ライフサイクル。

       

『私たちは、そう簡単に滅びたりしないわ!』~

I. はじめに  クラウドコンピューティングは「『過度な期待』の 時期が過ぎ、冷静な判断が行われるようになってき ている(ガートナー /2013)」[1]と言われつつも依然 として高い市場成長の継続が予測されている。クラ ウドサービスの活用はアウトソーシングの変遷の中 で生まれた一形態にあたり、より柔軟なソーシング を実現する環境を企業に提供している。  本稿では、ITIL® では各ステージやプロセスに紛れ 込んでしまっているソーシング関連の活動を一貫し たソーシング方法論で補完する一方で、従来の直列 的なソーシング・ライフサイクルに ITIL® に見られ る反復的ライフサイクルの視点を導入することを提 案する。  クラウドコンピューティングのメリットの一つと して『借りぐらし』による「ポータビリティ(移転性)」 が進化を続けている。このことは、ますますクラウ ドサービス利用者がアウトソース先を容易に変更し たり、アウトソースされたものを再度インソースし やすくなることを意味している。今春で消費増税前 の駈込み住宅購入も過去の話になってしまったが『住 宅ローン返済より高い家賃を払う』理由を今後のソ ーシング戦略の考慮に入れていただきたい。アウト ソーシングに伴うベンダ・ロックインという伝統的 な課題がクラウドコンピューティング世代に継承さ れないことを祈っている。

*ITIL® is a Registered Trade Mark of AXELOS Limited

I. ソーシング方法論と ITIL®  コンピュータ資産と関連要員など IT リソースを外 部に求める IT アウトソーシングは、データセンター・ サービスや xSP(ISP、ASP、MSP、など ) の普及、更に オンデマンド化要求や仮想化技術の採用を通じてク ラウドサービスへと新たな形態を取り入れてきた。 本章では国際的なソーシング方法論として知られる

OPBOK[2]、eSCM[3]に触れ ITIL® との位置づけを整理

しておこう。

I.1 OPBOK に見られるソーシング・ライフサイクル  OPBOK(Outsourcing Professional Body Of Knowledge) は米国 IAOP( 国際アウトソーシング専門 家協会 ) が開発したアウトソーシングの専門知識体 系である。IAOP は世界で 12 万社の会員を有し、毎年 行われる「グローバルアウトソーシング 100」のラン キング評価などでも知られる。また OPBOK に対応し た資格 (Certified Outsourcing Professional) 制度 を国際的に展開している。日本でも OPBOK を含めた ソーシング・ガバナンス知識の資格制度が APMG を通 じて展開されている。   OPBOK ではソーシングのライフサイクルを図 I-1 に 示すように、アイデア、アセスメント、実施、トラ ンジション、マネジメント、というステージで構成 している。( 筆者訳 )  図 I-1. OPBOK に見られるソーシング・ライフサイクル アイデア Idea アセスメント Assessment 実施 Implementation トランジション Transition マネジメント Management • コンセプト開発 • 企業の方向性識別 • アウトソーシング機会の分析、等 • 現状のプロセス・機能の分析 • アウトソースすべきプロセス・機能の定義 • リスク分析、等 • RFP発行、契約交渉、締結 • 移転(資産、要員)計画 • ガバナンス計画、等 • 新組織の導入 • 資産・要員・プロセス・機能のトランジション • トレーニング、等 • 日々のマネジメント活動 • パフォーマンスの監視 • 関係管理、変更管理、等

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I.2 eSCM に見られるソーシング・ライフサイクル  eSCM(eSourcing Capability Model) は IT 組 織 の ソーシング能力の成熟度を示すフレームワークとし て米国カーネギーメロン大学ソフトウェアエンジニ アリング研究所で開発された。国内でも多くの IT 企業が公式評価レベルをアピールしてきた CMMI の ような成熟度モデルの IT ソーシング版と言える。  eSCM ではソーシング・ライフサイクルを図 I-2 に 示すように、分析、開始、デリバリ、終了、共通と いうフェーズで構成している。( 筆者訳、尚クライ アント向けの eSCM である eSCM-CL に基づいている )   図 I-2. eSCM に見られるソーシング・ライフサイクル I.3 ソーシング・ライフサイクルと          ITIL® のサービス・ライフサイクル  ITIL® においてはソーシング関連の活動は、サー ビスストラテジのサービス・ソーシング、サービス デザインのサービスレベル管理、サプライヤ管理な どおいてソーシングの観点や活動が盛り込まれてい るものの、各ステージに紛れ込み・また記載も少な いことから、ソーシングの観点で一貫したプロセス を読み取るのは難しい。IT 組織がソーシングのプ ロセスを整備する際には OPBOK のようなソーシング 方法論の一貫したソーシング・ライフサイクルで ITIL® を補完することが望ましいと考えられる。  一方、上記で見てきた OPBOK、eSCM のような従来 のソーシング・ライフサイクルに見られる特徴は、 システム開発で言えばウォーターフォール型のよう な直列的なライフサイクルであることである。大胆 に解釈すれば、アウトソースされた後はサービスが 終了するまでアウトソーサにベンダ・ロックインさ れることを前提もしくは基本形にしている、と言え る。  初期のアウトソーシングのように 10 年単位の契 約であった頃と違い、今やオンデマンド化やクラウ ドによる『借りぐらし』の世代である。一旦アウト ソースしたリソースをインソースしなおしたり、別 のより適切なサービス提供者に切り替えることがソ ーシング・ライフサイクルの中で行えなければ、ポ ータビリティ(移転性)という『借りぐらし』の重 要なメリットが失われ、ベンダ・ロックインのリス クに変わってしまう。  賃貸契約の気軽さでローンを組んで住宅を購入し たものの、住み替えを考える頃には資産価値の低下 とローンの残債が重荷になって身動きが取れないと いう状況はあなたの身近にも耳にするのではないだ ろうか。ともすれば『借りぐらし』の高い賃料を払 いながらこのような『持家』のリスクまで負ってし まっては元も子もない。    本稿ではクラウドコンピューティング時代におけ るソーシングについて、ITIL® をソーシング方法論 で補完する一方で、従来のソーシング方法論に対し ては直列的なソーシング・ライフサイクルを ITIL® の反復的なサービス・ライフサイクルで補完するこ とを提案したい。図 I-3 のように、ITIL® の反復的 なサービス・ライフサイクルにソーシング・ライフ サイクルを同期して反復的なソーシング・プロセス を整備していくことで『借りぐらし』世代に適応し たソーシング・プロセスを構築できる、ということ である。反復的ソーシング・ライフサイクルについ て詳しくは第Ⅲ章で述べる。 図 I-3. ITIL® のサービス・ライフサイクルと       OPBOK、eSCM のソーシング・ライフサイクル 分析 Analysis 開始 Initiation デリバリ Delivery 終了 Completion 共通 Ongo in g • ソーシング機会分析 • ソーシング・アプローチ • ソーシング計画 • サービス提供者評価、ソーシング契約 • サービス移転 • 委託されたサービスの管理 • ソーシング管理の実施 • パフォーマンスの監視、等 • ソーシングの終了 • 終了計画立案 • 委託先からの移転、等 • ガ バナ ン ス 管理 • 関係管理、 等

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Ⅱ . クラウドコンピューティングとソーシング戦略  ITIL® ではサービス・ソーシングを「サービスを 内部で提供するか、または外部サービス・プロバイ ダにアウトソーシングするかを決定するための戦略 とアプローチ。サービス・ソーシングは、この戦略 の実施も意味する。」と定義している。  本章ではソーシング・ライフサイクルの中でもソ ーシング戦略の肝である意思決定マトリックスを中 心にクラウドサービス利用検討のポイントを整理す る。更にそのソーシング戦略は、一旦アウトソーシ ング機会を得た場合でもその後の変動要因によりイ ンソーシング機会を再度得ることを例示する。 Ⅱ .1 クラウドサービスの形態と          アウトソーシング対象リソース  クラウドコンピューティングで検討されるアウト ソーシングの対象リソースの主なものとしては、設 備や HW、SW、などのコンピュータ・リソースとアプ リケーション開発要員、インフラ構築要員、運用管 理要員などの人的リソースがある。  これらは近年整理されてきたクラウドサービスの 形態である IaaS/PaaS/SaaS の分類に沿ってソーシン グの判断材料とすると良いだろう。IaaS/PaaS/SaaS の各形態の特徴については表Ⅱ -1 を参照されたい。 (参考:ウィキペディア「クラウドコンピューティ ング」[4])  クラウドサービス形態に沿ってアウトソーシン グの対象リソースを考える場合は、階層的な包含 関係と各コンピュータ・リソースに関連する人的 リソースを想定することになる。階層的な包含関 係とは、PaaS を例にとればそのインフラ・リソー スの提供である IaaS のサービス内容を包含して いるということである。関連する人的リソースと は、コンピュータ・リソースに紐づいた運用保守 の要員などである。勿論サービス管理やユーザサ ポートについてはクラウドサービスの対象外とし て別途検討する必要がある。    表 II-1 代表的なクラウドサービスの形態 Ⅱ .2 ソーシング意思決定マトリックスとクラウド サービスの対象リソース  ソーシング意思決定マトリックスは、ソーシング の検討対象を、その汎用性 / 特殊性といった差別化 の視点や自組織の Strong/Weak といった市場優位性 の視点でポジションニングを整理しソーシングの判 断 (In/Out) を支援するツールであり、OPBOK でもア ウトソーシング機会の分析における手法として記載 されている。図 II-1 は OPBOK を参考に筆者が作成 したソーシング意思決定マトリックスの例である。 単純に言ってしまえば右上にあるほど内部留保(イ ンソース)、左下にあるほどアウトソースの機会が 高いと判断するものである。    図Ⅱ -1 ソーシング意思決定マトリックスの例  これにクラウドサービスのサービス形態の観点 で対象となるリソースをマッピングしたものが図 Ⅱ -2 である。例えば特殊性が高く自組織の強みを 生かすべく右上におかれた「戦略的なアプリ」は、 ビジネスの俊敏性を支えるアプリケーションなど 昨今のアジャイル開発や DevOps などによりインソ ース化が提唱されている領域をイメージしていた だきたい。勿論この場合でもプラットフォームや 特殊化要因の重要性 外部サ ービ ス に 対する優位性 例えば、 更なる特殊化や 優位性の維持向上に 向けて 内部留保 例えば、 能力補完や 「規模の経済」効果の ために アウトソース 例えば、 能力の成長に 向けて内部留保 / 能力を補完する ために アウトソース 例えば、 優位性の維持向上の ために内部留保 / 特殊化領域への フォーカスのために アウトソース

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HW については左半分におかれているようにクラウ ドサービスにアウトソースされている場合がある。  本稿で主に述べているクラウドサービスの対象 リソースは左半分に配置している。汎用性の観点で 左からインフラストラクチャ / プラットフォーム / アプリケーションと順に置いているが、縦長の領域 に配置している点に留意いただきたい。これは組織 により外部サービスとの優位性が違うということ に加えて、組織の状況が変動しうることを表したも のである。下方に位置すればアウトソーシング機会 が強く、上方に位置すればインソーシング機会が強 くなる。これらの変動要因の影響が強ければ、より 反復的にソーシング戦略を練り直す必要が出てく るのである。「過度な期待」のピーク期を過ぎた現 在、我々はクラウドコンピューティングにおける変 動要因を前提にしたソーシング・ライフサイクルを デザインし実行すべきだと考える。 図Ⅱ -2 クラウドサービス対象リソースの配置イメージ Ⅱ .3 ソーシング戦略の変動要因と      クラウドサービス利用見直しの可能性  クラウドサービス利用におけるソーシング戦略 の変動要因を考えてみよう。本節では II.2 で述べ た図Ⅱ -2 の左半分、つまりインフラストラクチャ / プラットフォーム / アプリケーションについて変 動要因を整理し、ありがちなクラウドサービス利用 の見直し即ち、インソーシング機会について述べ る。図Ⅱ -2 において外部サービスに対する優位性 (縦軸)がない(下方に位置した)ためにクラウド サービスにアウトソースしていたものが、様々な 変動要因により優位性を取り戻し(上方に移動し) て再度インソースする機会が高まってくるものと 考えていただきたい。尚、本稿で述べるインソース の範囲としては所謂「内製」だけでなく、委託先の リソース ( 資産、要員 ) を自社環境として利用する 所謂「オンプレミス型プライベートクラウド」のよ うな形態を含むものを想定しているので留意され たい。 (1)HW 等インフラストラクチャ  先ず、IaaS の対象となるインフラストラクチャ であるが、コンピュータ・リソース、人的リソース について下記のような例があげられる。 ・コンピュータ・リソース ▶初期予算を抑えるために IaaS を利用してサー バを立ち上げたが、システム負荷が安定し、か つ今後も長期に稼働が見込まれるため、購入し なおした方がトータルコストを抑制できるこ とがわかった。 ▶自社の仮想環境が整備されリソース・プールが 確保されたため、IaaS 上の仮想サーバを引き 取れるようになった。 ・人的リソース ▶自社内環境の運用業務改善により、社内の運用 体制に余裕が出来た。 ▶自社の仮想環境の整備と共に、社内の運用要員 に仮想環境のシステム管理についてトレーニ ングが十分行われた。 (2) プラットフォーム  インフラストラクチャ上のプラットフォーム領 域については下記のような例があげられる。 ・コンピュータ・リソース ▶ PaaS で構築したアプリケーションの利用が進 むにつれ DB アクセス処理の性能が次第に低下 してきている。サーバのリソース割当てを増や しても効果がなく(もしくは増やせず)、社内 で採用している DB サーバの DBMS のように思う ようにチューニングが進まない。 ▶アプリケーション構築後の長期利用において PaaS 環境を利用し続けるよりも、IaaS や自社 の仮想サーバ上でオープンソースのミドルウ ェアにコンバージョンした方がトータルコス トを抑制できることがわかった。 ・人的リソース ▶自社内環境の運用自動化など業務効率化によ り、社内の運用体制に余裕が出来た。 ▶社内の運用保守要員に OS やミドルウェア利用

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についてのトレーニングが十分行われた。 (3) アプリケーション  OS、ミドルウェアなどのプラットフォーム上に構 築されるアプリケーション領域については下記の ような例があげられる。 ・コンピュータ・リソース ▶ SaaS で構築したアプリケーションで障害が頻 発しているがブラックボックスなため自社で は対処できないし、サービス提供者の対処も不 透明なまま、可用性、性能が改善されない。 ▶アプリケーション構築後の長期利用において SaaS 環境を利用し続けるよりも、自社環境や 他のクラウド環境上にコンバージョンした方 がトータルコストを抑制できることがわかっ た。(システム開発コストの大半をしめる要件 定義、設計の必要が無い) ・人的リソース ▶自社のサービスデスクの一次対応でアプリケー ション利用者からの問合せに対処できるよう になった。 ▶アプリケーション運用について SaaS 提供者に アウトソース出来ない領域があり、結局社内の 運用保守体制を維持する必要があった。 Ⅱ .4 アウトソーシング機会の優先付け尺度とイン ソーシング機会  OPBOK ではアウトソーシング機会の優先付けにお ける尺度として下記を挙げているが、Ⅱ .3 で挙げ た例はこれらがインソーシング機会の目的におい ても当てはまることを示している。 ①財務…予算への影響・効果、等 ②サービス提供者…規模や専門性、等 ③便益…リソースの解放、コスト削減等 ④実行の容易さ…4 プロセスの明確さ等、移転のし やすさ  上記の観点でⅡ .3 に挙げた例を整理すると下記 のようになり、一旦クラウドサービスにアウトソー スされたリソースについて、時間の経過と共にイン ソースしなおす機会が発生することが分かる。 ①財務  初期コストを抑制するためにクラウドサービス を採用したが、継続稼働のランニングコストを考慮 するとインソースし直した方がトータルコストを 抑制できる状況になった。 ②サービス提供者  外部サービス提供者の専門性に対し、自社要員の キャパシティやスキル・ノウハウ不足があったが解 消された。  クラウドサービス提供者の能力が期待に満たな かった。 ③便益  他の自社内システムのための人的リソースやシ ステム運用基盤の整備によりアウトソースされて いるシステムにも対処できるようになった。 ④実行の容易さ  他の自社内システムにおける共通の管理プロセ スがあり、巻き取りやすい。  自社の仮想環境整備が進み、クラウドサービスの ポータビリティを活用してコンピュータ・リソース を容易に移転できる状態になった。 Ⅲ . 反復的ソーシング・ライフサイクル  最近のレポート「アウトソーシング・アドバイザ リ:サービス・ソーシング戦略策定の実行(ガート ナー /2014)」[5]では「70% 超の企業が、重要なア ウトソーシング契約の評価時にのみソーシング戦 略を策定している」との所見を示している。これは 第 1 章に挙げた従来の直列的なソーシング・ライフ サイクル上の上流工程としてソーシング戦略が一 度実施されそのまま放置されている状況を示して いるのではないだろうか。とりわけクラウドコンピ ューティングにおいては『借りぐらし』のメリット であるポータビリティを前提として、反復的ソーシ ング・ライフサイクルに切り替えていく必要がある ことを述べてきた。  本章では ITIL® の継続的サービス改善に見られる 反復的なサービス・ライフサイクルを取り込んだ反 復的なソーシング・ライフサイクルの導入を提案す る。これは同時に、ITIL® に基づいたサービス・ライ フサイクルの運営にソーシング・ライフサイクルを 統合し、クラウドコンピューティング時代に適応し た IT サービスマネジメントを提案することでもある。

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Ⅲ .1 ポータビリティを前提とした        反復的ソーシング・ライフサイクル  従来の情報システムのアウトソーシングでは新 規システム開発や移転プロジェクトの膨大な初期 費用をかけ、一旦ベンダにアウトソースすると契約 更新時に条件見直しなどがあるにせよ、ソーシング 自体を見直すことはされない傾向にある。また内部 ナレッジの遺失やアウトソース先でのブラックボ ックス化が進み、時間の経過と共にインソースする ことが困難になっていた。  ベンダ・ロックインとは「特定ベンダの独自技術 に大きく依存した製品、サービス、システム等を採 用した際に、他ベンダの提供する同種の製品、サー ビス、システム等への乗り換えが困難になる現象の こと(ウィキペディア)」と言われているが、上記 のアウトソーシングにおける状況もベンダ・ロック インの一つと言える。   クラウドコンピューティングにおけるアウトソ ーシングでは、「特定ベンダの独自技術に大きく依 存」しなければならない状況は限定的であり、仮想 化技術によるポータビリティを前提とすればベン ダ・ロックインの発生はソーシング・プロセスの問 題として解決できる範囲が多いと考えられる。  例えば、IaaS 上の仮想サーバは、自社内に仮想 環境を構築できれば HW など物理的な制約を受けず にサーバ自体を電子データとして簡単に自社内に 移転できる。たとえ SaaS 上のアプリケーションで も標準化した業務アプリケーションであればベー スとなるパッケージの選択肢も増え、さらに利用中 の SaaS として機能要件や設計が実体として具体化 している状況では工期と工数の不透明なシステム 開発の上流工程を経ずに、所謂コンバージョンによ って自社内のサーバ環境に移転することも出来る。 PaaS 上で開発したシステムなら、オープンなミド ルウェア環境を採用していればいるほど、より容易 に自社内のシステム基盤にコンバージョン出来る だろう。このようなポータビリティを前提にすれば 大半のシステムでは技術的にベンダ・ロックインに 陥る必要はないのである。  そこで本稿で提案するのは、ポータビリティを前 提とし、ソーシング状態を反復的に判断し、必要に 応じてソーシング状態を切り替えるプロセスをも ったソーシング・ライフサイクルである。この反復 的ソーシング・ライフサイクルを ITIL® のサービ ス・ライフサイクルと同期をとる形で構成したも のが図Ⅲ -1 である。これにより、第 1 章で挙げた OPBOK や e-SCM というソーシング・ライフサイクル の標準で ITIL® のサービス・ライフサイクルを補完 する一方で、ソーシング・ライフサイクルをクラウ ドコンピューティングのポータビリティを明確に 意識した反復的なものとすることができる。 図Ⅲ -1 サービス・ライフサイクルに沿った        反復的ソーシング・ライフサイクル Ⅲ .2 ポータビリティに伴うベンダ・チェンジの機会  本稿では、アウトソースからインソースへの移行 について主に述べてきたが、インソーシング戦略を とらない場合やナレッジ不足などによりインソー スは時期尚早と判断する場合でも、クラウドコンピ ューティングにおけるポータビリティ技術の進展 に伴い、他のサービス提供者へのベンダ・チェンジ の機会はより現実的な選択肢となってきている。  クラウドコンピューティングは「『過度な期待』 の時期が過ぎ、冷静な判断が行われるようになっ てきている(ガートナー /2013)」と言う時期を迎 えサービス提供者の淘汰が進むとも言われている。 サービス料金等の契約条件についてもサービス提 供者間の差別化が進むだろう。クラウドサービスへ の品質的な不満が、より適切なサービス提供者へベ ンダ・チェンジすることで短期的に解消される可能 性もある。  前節の例のように IaaS で互換性のある仮想化基 盤を採用しているサービス提供者間では HW として のサーバを電子データとして移転するだけであり、 サービス ストラテジ サービス デザイン サービス トランジション サービス オペレーション 継続的 サービス改善 ソーシング ストラテジ ソーシング デザイン ソーシング トランジション ソーシング オペレーション 継続的 ソーシング 改善 • 組織の方向性識別 • ソーシング機会分析 • ソーシング対象領域(In/Out)の定義、等 • アウトソーシング仕様(資産、プロセス等)の定義 • サービス提供者評価、アウトソーシング契約 • 移転計画、等 • サービス提供者への移転(サービス、業務、等) • サービス提供者の切替 • サービス提供者からの移転(インソーシング)、等 • 日々のマネジメント活動 • パフォーマンス監視、関係管理 • 変更管理(資源利用量の拡大・縮小も含む)、等 • ソーシング効果のレビュー • 教訓などナレッジの棚卸 • ソーシング・プロセスの見直し、等

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従来のデータセンター・サービスにおけるコロー ケーションとは異なり技術的な負担が非常に軽い。 また SaaS から移行して IaaS や PaaS に移行してア プリケーションをコンバージョンするような中間 的な再インソースもベンダ・チェンジの機会となる だろう。  上述の反復的ソーシング・ライフサイクルのモデ ルにおいても、各ステージにおいてベンダ・チェン ジをインソースへの切替えと同様に一つの選択肢と して考慮できるように配置している。(図Ⅲ -1 のソ ーシングデザイン、ソーシングトランジション等) IV.『そう簡単に滅びたりしない!』        インソーシングに向けたチャレンジ  クラウドコンピューティングという選択肢の登 場とビジネスの俊敏性要求の高まりは、IT 部門で 俊敏な対応が出来ない IT 化要求をビジネス部門か ら直接アウトソーシングする流れを助長する。これ はビジネス部門が自身で IT 化を推進する従来のエ ンドユーザコンピューティングの領域が更にネッ トワークアプリケーションへと拡大しやすい状況 を迎えているということである。例えばエンドユー ザコンピューティングで一般的な Excel での案件管 理を SaaS の CRM にリプレースするようなソリュー ションがビジネス部門に向けて直接提供されてお り、このような市場環境にあることを IT 部門は意 識するべきだろう。DevOps-NoOps などの流れと相 まって IT 部門不要説、特に IT 運用部門不要説を後 押しする材料になる恐れもある。IT 部門存亡の危 機となるケースも出てくるだろう。  このような状況下で IT 部門は企業内の IT に責任 を持つ立場として無秩序なクラウドサービスへの アウトソーシングをコントロールしつつ、ソーシン グの最適化に向けた中長期的な方策をとっていく ことを提案したい。特に既存の IT 資産としてコン ピュータ・リソース、人的リソースを有する組織に ついてはアウトソースされた資産を再度インソー スする機会を創出する中長期的な努力が必要であ る。その主要なアクションを下記に提言する。(鉤 括弧についてはⅡ .4 節を参照されたい) ①クラウドサービス利用のガイドライン策定と展開  ビジネス分門の支援をする立場をとりつつ、将来 のインソースに向けてポータビリティを担保した クラウドサービス利用を誘導する。 ②サービス・ポートフォリオ、サービス・カタログ の整備と運用  アウトソースしたサービスをサービス・カタログ に組込み継続的に管理すると共に、将来の更改や 継続稼働についてのポートフォリオを継続的に把 握できるようにする。  これにより、「財務」の観点での外部サービスへ の優位性など時系列的なソーシング戦略の変動要 因・インソーシング機会を把握できるようにして おく。 ③運用プロセス整備、運用自動化による効率化  サービス・オペレーション領域などの ITSM プロ セスの整備や、RBA 等運用自動化環境の整備を通 じて既存 IT 部門の運用業務の効率化を推進する。  「サービス提供者」の観点で、外部サービスに対 する優位性を上げ、インソーシング機会を拡大す る。 ④仮想化基盤の整備、仮想化環境の管理スキルの習熟  サーバ仮想化など企業内の仮想化基盤の整備と 共に仮想化環境の運用・管理スキルの習熟を進め る。  ハードウェアなどコンピュータ・リソースに対す る「便益」の観点で外部の IaaS に対する優位性 を上げ、また移転の「実行の容易さ」を確保する ことによりインソーシング機会を拡大する。 ⑤オープン・ソース、DevOps ツールなどプラット フォーム技術のキャッチアップ  DBMS や ア プ リ ケ ー シ ョ ン・ サ ー バ、Web サ ー バ な ど オ ー プ ン・ ソ ー ス の ミ ド ル ウ ェ ア 利 用 や、 DevOps ツールなど保守用ソフトウェア利用などプ ラットフォーム技術をキャッチアップし、ライセ ンス費用の抑制やベンダ非依存のポータビリティ の高いソフトウェアを利用できる状況を準備する。  プラットフォームに対するどコンピュータ・リソー スに対する「便益」の観点で外部の PaaS に対する 優位性を上げ、また移転の「実行の容易さ」を確保 することによりインソーシング機会を拡大する。

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V. まとめ  本稿では、近年のクラウドコンピューティングの 広がりを踏まえ、今後 IT サービスマネジメントに 求められるソーシングの観点を国際的なソーシン グ方法論から取入れる一方で ITIL® の継続的サービ ス改善の概念を取込んだ反復的ソーシング・ライフ サイクルの導入を提案した。  反復的ソーシング・ライフサイクルにおいては、 クラウドコンピューティングの特徴であるポータ ビリティの効果を活かすために、中長期的なインソ ーシング機会を考慮した IT 部門の方策が求められ ることを述べた。  ビジネス変革のスピードが求められる近年、クラ ウドコンピューティングが新たなアウトソーシン グの提供を広げる一方で、企業の IT 部門の位置づ けが問われ、特に IT 運用部門については存亡をか けた変革が求められるケースも増えることだろう。 本稿がそのような IT 部門の今後のあり方について 検討の一助になれば幸いである。 <参考文献> [1] 「日本におけるテクノロジのハイプ・サイク ル:2013 年 」 ガ ー ト ナ ー (2013/9) http://www. gartner.co.jp/press/html/pr20130903-01.html [ 2 ]「 O u t s o u r c i n g P r o f e s s i o n a l B o d y o f Knowledge」International Association of Outsourcing (2010)

[3]「The eSourcing Capability Model for Client

Organizations (eSCM-CL) v1.1」Bill Hefley, Ethel A. Loesche (2009/11) [4]「クラウドコンピューティング」ウィキペディ ア http://ja.wikipedia.org/wiki/ ク ラ ウ ド コ ン ピューティング [5]「アウトソーシング・アドバイザリ:サービス・ ソーシング戦略策定の実行」ガートナー (2014/1) http://www.gartner.co.jp/b3i/research/140513_ sor/index.html 株式会社シグマクシス         小澤 一友 マネージャー

ITIL® V2 Manager / V3 Expert Certificate PMP ソーシングガバナンスファンデーション認定 (COS-FP) 1992 年、自然言語処理への関心から IT 企業に入社、 システム開発/保守、特に広域監視システムの研究・ 構築などシステム運用管理関連の経験を経て、2004 年 4 月 ITIL® マネージャ認定を取得後、組織的な ITIL® 活用推進、品質改善活動に取組む。以降 IT 企業数社 にて IT 運用改善、IT サービスマネジメント導入コン サルティング、IT アウトソーサ創業に際した品質マネ ジメントシステムの構築などを経験。現在 ITSM 運営 組織とソーシング管理研究分科会副座長。

参照

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