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動物行動の分子生物学 (立ち読み)

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Academic year: 2021

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AKEO

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UBO

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ERUHIRO

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KUYAMA

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ZUSA

K

AMIKOUCHI

H

IDEAKI

T

AKEUCHI

SHOKABO

TOKYO

Molecular Biology of the Animal Behavior

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1.1 問題はどこに■

 

多彩な動物行動と,

   遺伝子レベルの研究

 1.1 問題はどこに  行動は文字通り,動物を特徴づける生物形質である.地球上に棲息する動 物は,その形態と共に,行動様式も多様である.動物行動も適応形質の一つ であるため,一般にはその動物のより効率的な生存と繁殖のために発現する と理解される.多くの動物は捕食者であると共に被食者でもあるので,食物 (餌)を探し,獲得して自身の成長,エネルギー源として利用する一方で, 自身を餌とする捕食者から逃れるために,逃避や威嚇,攻撃,逃走といった 行動を示す.また配偶者を巡って同種の同性個体と競争したり,配偶者に求 愛したりすることで,より優れた形質をもつ子を残そうとする.多くの動物 で子を保護し,保育する行動が見られる.また,さまざまな動物が社会をも ち,集団で行動することで,上記のような餌の獲得や捕食者からの逃避,子 孫の保護や保育を効率的なものにしている.動物の行動様式は,その動物の 形態や体制と密接に関連する.鳥類や魚類の行動が,その形態や体の機能に 基づくことは誰しも容易に理解できるところである.  動物行動は生得的(本能)行動と,学習のように習得(後天)的なものに 分けることができる.ベッコウバチは親から教わらなくてもクモを狩り,麻 酔をかけてそれを自身が掘った穴に入れ,麻酔がかかったクモの体に卵を産 みつけて子の餌とする.こうした動物の生得的行動の多くは脳のはたらきに より生み出されると思われるが,そのしくみは未だ,まったくと言って良い ほどわかっていない.習得的行動のうち,記憶・学習については,さまざま な動物でそのしくみが解析され,種間で保存された分子・神経的なしくみが 解明されつつある.一方,ヒトをはじめとする霊長類が示す,より高度な脳 のはたらき,たとえば予測や知能,創造,言語能力を生み出す脳のしくみや その進化についても,ほとんどわかっていない.

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■1 章 多彩な動物行動と,遺伝子レベルの研究  1.2 動物行動学の開祖  19 世紀終わりに『ファーブル昆虫記』が出版されたように,動物の行動 は以前から研究者の観察の対象になっていたが,動物行動学を学問として創 設したのは(つまり,何が動物行動の問題かを指摘したのは),良く知られ ているように 1973 年にノーベル生理学・医学賞を受賞した,ニコラース・ ティンバーゲン(Nikolaas Tinbergen),コンラート・ローレンツ(Konrad Lorenz),カール・フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)である.

 ティンバーゲンはオランダの動物学者で,イトヨの縄張り行動の観察など から,「動物の,通常抑制されている生得的行動(=本能行動)は,リリーサー (releaser)に含まれる鍵刺激によって引き起こされ(解発され),これの連 鎖によって成立している」とする「生得的解発機構」を提唱した.繁殖期の 雄のイトヨは,縄張りに入る他の雄を攻撃して追い払うが,このとき,他の 雄の赤い腹部が攻撃行動を解発する鍵刺激になっていることを,モデルを 使って実証した.下半分を赤く塗ったモデルをも,雄のイトヨは攻撃したの である.ティンバーゲンはまた,動物行動は次の 4 つの視点から研究される べきとする「4 つのなぞ」を提示している.それらは,「その行動はどのよ うなしくみで解発されるか」,「その行動は発育のどの段階で解発されるか」, 「その行動は,その動物にとってどのような意味をもつか」,「その行動は系 統発生的にどのように生じたか」というもので,先の 2 つを至近要因,後の 2 つを究極要因という.これらの 4 つのなぞは,それぞれ,神経行動学,行 動発生学,行動生態学,行動進化学の枠組みに対応する.  ローレンツはオーストリアの動物学者で,ティンバーゲンと協力して「生 得的解発機構」の考え方を発展させた.ニシコクマルガラスやハイイロガン を研究対象とし,ハイイロガンの雛が孵化した直後に見た動くものを親と思 い込んで追従する「刷り込み」現象の発見で名高い.著書に『ソロモンの指 環』があるが,そのタイトルは古代イスラエル王国のソロモン王が,その指 環をはめると動物と話せるようになるとの説話に基づいている.『ソロモン の指環』では,「(ありとあらゆる動物と語ることはできない点では)私はと

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3.1 モデル生物としての特徴■

 

ショウジョウバエ

    の行動分子遺伝学

 ショウジョウバエは 20 世紀の初頭から実験動物として用いられてきた. 初期は遺伝学の材料として,現在では主に発生生物学や神経行動学,行動遺 伝学のモデル生物として用いられている.ショウジョウバエは比較的小さな 脳しかもたないにも関わらず,「求愛歌」と呼ばれる羽音を利用した配偶行 動などの多彩な行動を示す.本章では,動物の行動を制御する脳の神経基盤 や分子基盤を解明するためのモデル生物であるショウジョウバエを取り上 げ,その実験動物としての特徴や実験手法,さらにはそれを利用して解明さ れた,さまざまな行動の分子基盤を紹介する.なお,ショウジョウバエは完 全変態昆虫であり,その行動様式は幼虫と成虫で大きく変化する.本章では, 主に成虫を取り上げて紹介する.  3.1 モデル生物としての特徴  キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は体長 3 ミリメート ル前後の小さな昆虫で,自然界では熟した果物や樹液,およびそこに生育す る天然の酵母を食料とする.ショウジョウバエは実験室で簡単に飼育でき, その世代時間は 25℃飼育で 10 日と早く(図 3.1),かつ眼の色といった定量 性のある形質を示す.またショウジョウバエの繁殖力は著しく高く,一匹の 雌は数千個もの卵を産む.20 世紀の初頭,コロンビア大学のトーマス・ハ ント・モーガン(Thomas H. Morgan)らは,遺伝学の研究を効率よく行え る動物として,このショウジョウバエに着目した.1908 年頃から化学物質 や放射線を使った変異体の作製にとりくんだモーガンは,1910 年についに, 眼の色が通常の赤色から白色へ変異した雄のショウジョウバエを発見した. このハエを使って交配をくり返す,という実験から始まった一連の遺伝学実 験により,遺伝子が染色体に存在するという「染色体説」が実証されたので

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■3 章 ショウジョウバエの行動分子遺伝学 ある.なお,この遺伝子はモーガンにより white 遺伝子と名づけられ,後に クローニングされた.この眼の色を変化させる遺伝子は,遺伝子導入を示す マーカー遺伝子として,現在とてもよく使われている.また,モーガンの弟 子のハーマン・ジョセフ・マラー(Hermann J. Muller)は,ショウジョウ バエに X 線を照射すると表現型に遺伝的な影響を及ぼすことを発見し,こ れが X 線による遺伝子突然変異(人為突然変異)であることを明らかにし た(1927 年).これらの業績により,モーガンは 1933 年に,マラーは 1946 年 にそれぞれノーベル生理学・医学賞を受賞した.この,ショウジョウバエを使っ たモーガンたちの研究成果は世界中にインパクトを与え,以降,数多くの研 究者たちによりさまざまな突然変異体系統や異常染色体系統が樹立された.  ショウジョウバエは四対の染色体をもち,そのうち一対は性染色体である. 図 3.1 ショウジョウバエの生活環 25℃で飼育すると,受精卵から約 10 日で成虫になる. 成虫 受精卵 3 時間 21 時間 9 日 細胞性胚盤葉 胚 一齢 二齢 幼虫 三齢 蛹 変態 ふ化

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小型魚類(ゼブラフィッシュとメダカ)

  の行動分子遺伝学

 分子遺伝学の実験動物として小型魚類では,ゼブラフィッシュとメダカの 2 種類が利用されている.  ゼブラフィッシュ(Danio rerio)は体長 4 〜 5 cm のインド原産の熱帯魚で, 体表に美しい縦縞をもつことから,ゼブラ(シマウマ)の名がついている(図 4.1).ショウジョウバエや線虫と同様に遺伝学のモデル生物であり,1980 年代から発生生物学の分野で広く用いられてきたが,近年脊椎動物の行動遺 伝学のモデル生物としても脚光を浴びるようになった.ゼブラフィッシュは 脊椎動物共通の脳構造をもち,視運動性反応,逃避反応などの単純な行動か ら,忌避フェロモンへの反応,学習,群れ行動(ショーリング)など多彩な 行動を示す.また,稚魚はほぼ透明であり,生きたまま脳内の神経活動をイ メージングすることが可能である.さらに哺乳類と比較して飼育コストが安 く,個体を用いた大規模スクリーニングが可能であるという利点もある.  このような利点を生かして,行動遺伝学分野ではゼブラフィッシュ稚魚の 単純な遊泳行動や視覚行動に着目した先駆的な研究がある.一方で成体の行 動を対象にした研究については,他のモデル生物(ショウジョウバエ,線虫) で実施されているような網羅 的,包括的な解析はまだ実施 されておらず,その端緒につ いたばかりである.本章では ゼブラフィッシュ稚魚を用い た先駆的な研究例と成体の行 動に関する最先端のいくつか のトピックに触れ,行動遺伝 学におけるゼブラフィッシュ の魅力を紹介したい. 図 4.1撮影:塚原達也(東京大学) ゼブラフィッシュ

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■4 章 小型魚類(ゼブラフィッシュとメダカ)の行動分子遺伝学  一方,ニホンメダカ(Oryzias latipes)は体長 3 〜 4 cm の日本原産の淡 水魚である.目が比較的大きく,高い位置についていることから,目高(メ ダカ)と命名されている(図 4.2).メダカは見た目が愛らしく,温度耐性 が強く,野外で飼育可能であり,繁殖が容易であることから,江戸時代中期 からペットとして飼われており,明治時代からは日本で実験動物として利 用されている.現在ではゼブラフィッシュに並ぶ分子生物学のモデル生物と なっており,発生学,遺伝学,生殖生物学の分野で広く用いられるようになっ た.後述するように,2014 年になって,メダカは高度な社会性行動を示す ことがわかり,社会神経生物学の新しいモデル動物として急速に注目を集め ている.  4.1 モデル生物としての特徴・歴史  4.1.1 ゼブラフィッシュ  1960 年 代 に オ レ ゴ ン 大 学 の ジ ョ ー ジ・ ス ト レ イ シ ン ガ ー(George Streisinger)らは,発生を遺伝学的に解析できるモデル生物としてゼブラ フィッシュに着目した.当時のモデル動物はマウスの他は,無脊椎動物であ るショウジョウバエと線虫のみであった.ゼブラフィッシュを選択した理由 は以下の 3 つであると考えられている.(1) 飼育,繁殖がとても容易である. 図 4.2 メダカ(左が雄,右が雌) 撮影:藤原英史((株)ドキュメンタリーチャンネル)

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5.1 モデル動物としての特徴■

 

マウスの行動分子遺伝学

  

-オプトジェネティクスによる神経科学の急展開-

 哺乳類モデル動物であるマウスは,他の研究分野と同様,神経科学におい ても最も研究者人口総数の多いモデル動物である.その結果,研究分野が多 岐にわたるだけではなく,新技術の開発と応用がきわめて活発に行われてき た.20 世紀において,神経細胞の挙動を「観察する」技術が日進月歩で進 化してきた一方,神経細胞の挙動を「操作する」技術の開発は遅れていた が,21 世紀初頭,その扉は開かれ新たな潮流が形成された.光を用いた神 経活動の新しい制御技術「オプトジェネティクス(optogenetics, 光遺伝学)」 の発明である(図 5.1).本章では,オプトジェネティクスを切り口として, 最先端神経科学トピックについて総説する.  5.1 モデル動物としての特徴  哺乳類をモデルとした神経科学研究の多くは,マウスやラットを中心とし た齧歯類研究と,マカクザルやアカゲザルなどを中心とした霊長類研究に大 別することができる.ラットと比較して小型であるマウスは,とりわけノッ クアウトやトランスジェニック系統の作製などの遺伝学的操作がきわめて発 達しており,近年はさらに,顕微注入で局所的に感染させることができるア デノ随伴ウイルス(AAV)や,シナプスを逆行的に飛び越えることができる 狂犬病ウイルスなどとの組み合わせで,遺伝学的修飾の多様性はますます増 加していると言えよう.遺伝学的修飾の際には,空間的制御と時間的制御の 厳密性が必須であり,前者を種々プロモーターの利用やアデノ随伴ウイルス の顕微注入で,後者をタモキシフェン依存性 Cre の使用やドキシサイクリ ン依存的な Tet-On,Tet-OFF システム(図 5.2)の利用などで絞り込み,目 的の遺伝子,および神経細胞・回路レベルで修飾し,表現型の解析を行うこ とが常法となっている.

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■5 章 マウスの行動分子遺伝学 ステップ 1 遺伝子コンストラクトの作成 ステップ 2 遺伝子コンストラクトをウイルスに導入 ステップ 4 光ファイバーをつなぐ 細胞膜 オプシンチャネル (チャネルロドプシン ChR2 など) 光 Na+ 発現を誘導する プロモーター オプトジェネティクスにより,研究者は標的神経細胞の 興奮を光によって制御することができる チャネルロドプシン などのオプシンをコー ドする遺伝子 ステップ 3 ウイルスを動物の脳に注入 (標的神経細胞にオプシンを 発現させる) ステップ 5 オプシンを活性化するための特定波 長を光照射 図 5.1 オプトジェネティクスの 6 段階 光刺激で神経興奮を誘導するためには,標的神経細胞にチャネルロドプシン などのオプトジェネティクスツールを発現させ,光ファイバーを用いて光照 射を行う(Buchen, 2010 を改変).

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