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はじめに 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災を契機に 我が国の電気事業の在り方が議論されてきた その結果 従来は実質的に地域独占が維持された電力市場について 競争的な自由市場へ改革していく 電力システム改革 が推進されることとなり 2014 年 1 月のダボス会議で安倍首相は 東京五輪が開

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A.T. Kearney Agenda Vol.3

2020

年に向け電力業界で

求められる不確実性への対応

発送電分離、“完全に競争的な” 電力市場、原発の再稼働、

今後の電源ミックスなど日本の電力業界において将来

起こりうる複数の状況を見据え、動的な戦略シナリオに

ついて考察する。

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はじめに

2011年3月11日の東日本大震災を契機に、我が国の電気事業の在り方が議論されてきた。その結果、 従来は実質的に地域独占が維持された電力市場について、競争的な自由市場へ改革していく「電力 システム改革」が推進されることとなり、2014年1月のダボス会議で安倍首相は、東京五輪が開か れる2020年には電力市場を �完全に競争的な市場� とすることを明言するに至った。 そうした方針を受け、電力供給を地域内最適化から広域での最適化にシフトさせる第1弾、電力販 売(小売)事業への参入を全面的に自由化する第2 弾の法改正が既になされ、また本年3月3日には 公平な競争環境の整備を目的に大手電力会社のネットワーク部門を別会社化する �発送電分離� を 2020年4月に実施する第3弾の法改正案が閣議決定された。 並行して、本年末にパリで開催されるCOP21(国連気候変動枠組み条約第21 回締約国会議)に向 けたエネルギーミックスの議論が活発になされているが、2014年4月のエネルギー基本計画の取り まとめから1年が経過してなお、原発の再稼働がどの程度なされるかは不透明であり、多様な意見 の中で将来の電源ミックスの具体的な方針の取りまとめは困難を極めている。その一方で、民間で は電力自由化時の競争力強化、事業機会の獲得を見据え、新たな発電所の建設計画が急増するなど、 今後の電源ミックスがどうなるかは不透明さを増してきている。 そのような環境の中、大手電力会社同士の競争の兆しに加え、多くの企業が電力事業への参入を表 明しているが、従来の連続的な未来に適合していく事業計画では、この不確実性の高い将来に向け た適切な戦略を立案することは難しい。今の電力業界には、将来起こりうる複数の状況を見据え、 動的な戦略シナリオを準備し、不確実性をマネージすることが求められる。 A.T. カーニーでは今後の「発電ミックスの変化」と「卸電力市場の発展(自由化競争の本格化)」 に着目し、短期的にもっとも蓋然性の高い「発電コスト競争力に基づく電力間競争」、またそこか ら中長期的にシフトする可能性のある「異業種を交えた小売競争の本格化」といった2つの競争環 境シナリオを想定する。

将来の発電ミックスの変化

今後の発電ミックスを左右する大きな要素としては、「1. 原発再稼動」、「2. 最新鋭火力の新増設」、「3. 再生可能エネルギーの導入拡大」といった3つの独立要素に、統合的な要素として発電のコストと CO2排出量のバランスに鑑みた「4. 低炭素化社会の実現に向けた方針」を加えた4つが挙げられる。 1. 原発再稼働 我が国には、建設中の大間原発、島根原発3号を含め全部で56基の原発が存在しているが、2012年 5月5日以降、その全てが稼働を停止している(2015年4月20日時点)。そのうち11基は既に廃炉が 決定しているが、残り45基の原発のうちどの原発が再稼働を果たすかによって、事業者間の今後の 競争力は大きく影響を受ける。 原発の再稼働は、「(A)安全性」の確保を大前提とし、原発が立地する「(B)地元同意」を得たう えで進められるが、安全性の確保には追加投資が必要となり、再稼働後に追加投資が回収できる 「(C)経済性」が電力会社により確認されるか否かも再稼動の判断のポイントとなる。 廃炉が決定している11基の原発を除き、45基の原発について、「(A)安全性」、「(B)地元同意」、「(C) 経済性」の観点で報道される内容等に基づき一定の基準に基づき評価すると、発電容量で少なくと も3 割は再稼動が進むと想定されるが、廃炉決定済みのものも含め4割は再稼動は難しく、また残 りの3割は流動的と考えられる(図1参照/ 3ページ)。

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図表1 原発再稼働の評価の視点と結果 出所: A.T. カーニー作成 A 安全性 • 新規性基準の適合検査における 直下型活断層の指摘有無・確度 • 過去の被災経験の有無 B 地元合意 • 地元首長の明確な再稼働反対表明、 もしくは懸念表明の有無 C 経済性 • 追加安全対策費が高額 • 40年廃炉までの期間が投資回収に 不十分 評価の視点 評価結果(再稼働の可能性) (万kW) 評価の結果 流動的 1,728 (33%) 可能性低 1,315 (25%) 廃炉決定 619 (13%) 可能性大 1,452 (28%) 2. 最新鋭火力の新増設 火力発電所の新設にあたっては、CO2排出量を抑制し環境負荷を軽減することを目的に環境アセス メント(環境影響評価)の実施が義務付けられている(環境アセスメント自体は火力発電以外にも 幅広く適用されるもの)。特に、CO2排出量の多い石炭火力発電については、環境アセスメントの 基準が厳しく、2005年以降の新増設がなされていなかった。 しかし、東日本大震災以降の原発停止が供給力不足、LNG火力への依存による燃料費負担の増加 をもたらす中、環境アセスメントの期間短縮と基準の明確化(実質的な基準緩和)がなされた。 特に基準の厳しかった石炭火力は新たな設備に要求される「利用可能な最良の技術(BAT: Best Available Technology)」として、従来は �開発・実装段階の技術� が基準とされていたことが、 最大のネックとなっていたが �商用化された最新の技術� が基準となることで、事業者は実現性と 経済性を見極めやすくなった。環境省は基準がなし崩しに緩和されることを懸念するものの、この 機を逃すまいと、多くの事業者による石炭火力の新増設計画が発表・検討されている。 また、石炭火力だけでなくLNG火力も含め、電力会社が自ら計画するものの他、鉄鋼会社や製紙会社、都 市ガス会社等が大規模な最新鋭火力発電の建設計画を発表、報道されている。これらを全て積み上げると、 廃炉決定および再稼動の可能性が低い原発の発電容量を超える新たな火力発電が新増設されることとなる。 足元では、原発全停止により需給逼迫が謳われるが、今後一定の原発が再稼動することに加え、これ らの火力発電の新増設がなされると、需給逼迫は一気に解消し、供給過剰の状態となる可能性もある。 3. 再生可能エネルギーの導入拡大 再生可能エネルギーは、CO2を排出せず、また国内のエネルギー源を使用するクリーンかつエネル ギー安全保障にも寄与する電源として期待されているが、目下の課題はその導入コストの高さであ る。導入コストの高さは最終消費者にとって負担するコストが増加するだけでなく、事業者にとっ ても採算が合わないことが導入の障壁となってきた。

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再生可能エネルギーとして期待される太陽光発電ではあるが、太陽光発電はその特徴から夜間や悪 天候時には発電がされず、また日中も天候(日照量)によって発電電力量が影響を受けるなど、実 際の発電電力量は不安定とならざるを得ない。 そうした出力が不安定な太陽光発電が大量に導入されると天候等による出力の変動の影響が大きく なり、システム全体で調整がしきれず、最悪の場合大規模停電に陥るなど、安定供給を脅かす事態 も想定されており、既に一部の地域においてはそうした懸念が顕在化し、導入可能量の検討がなさ れている。しかし、暫定的に示された導入可能量を前提とするだけでも、全国で6,000万kWの太 陽光発電が導入される可能性を示しており、また発電制限や蓄電池の活用、連系線の運用拡大等 により今後接続可能容量が増加する可能性もあり、政府目標を大幅に前倒して導入が進む可能性 もある。 2,000 4,000 6,000 8,000 0 2012年 7月 2013年1月 2013年7月 2014年1月 2014年7月 2015年1月 2013年(実績) 長期 エネルギー 需給見通し (再計算) 長期 エネルギー 需給見通し (再計算) 第3次 エネルギー 基本計画 革新的 エネルギー・ 環境戦略 革新的 エネルギー・ 環境戦略 固定価格買取制度による太陽光発電1の認定設備容量 (万kW) 太陽光発電容量に関する政府目標値 2 (万kW) 図表2 太陽光発電の認定設備容量と政府目標値 1 小規模(10kW未満)と中規模以上(10kW以上)の合算(新規認定分のみ) 2 太陽光発電の年間平均設備利用率を12%として算出したもの 出所: 資源エネルギー庁、環境省公表資料より、A.T. カーニー作成 2015年1月末時点で、未稼働分を含め 認定設備容量は7,162万kW アグレッシブな政府目標値を既に超過している現状の認定設備容量は2030年のもっとも 2,000 4,000 6,000 8,000 0 有利な売電価格の 権利確保のための駆け込み 未稼働 稼働 896 2,800 3,339 5,200 5,432 6,336 2020年 2030年 そうした中、再生可能エネルギーの導入を加速させるため、2012年7月より「再生可能エネルギー 固定価格買取制度」がスタートし、事業者は再生可能エネルギーにより発電した電力を一定期間、 予め決められた固定価格で売ることが可能となり、事業採算性および予見性を高めることが可能と なった。特に太陽光発電については、その固定価格の高さから事業者による導入計画が急増するに 至った。 政府が目指す再生可能エネルギーの導入計画は2030年時点で太陽光発電約5,000万kW 前後だが、 前述の再生可能エネルギー固定価格買取制度を背景に急増した太陽光発電は、制度により認定され た発電容量が既に7,000万kW を超えている(多くは今後稼働を予定するもの)(図2参照)。

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4. 低炭素化社会の実現に向けた方針 本年末に控えるCOP21を念頭においた電源ミックスの議論も活発に行われている。これまで個別の 電源の動向について考察してきたが、全体の電源ミックスに視点を移すと、CO2排出量と電力コス トのバランスを取るために、それぞれの電源の導入量が相互に影響を及ぼす。 例えば、原発のシェアが低下すると、全体としてコスト高となるため社会としてどの程度のコスト を許容できるか、という観点に加えCO2排出量の観点では、CO2を排出しない原発の縮小は残り の電源によるCO2排出量をより削減しなければならない状況を生む。今後発電効率が向上するにせ よ、逆説的だが原発が縮小するほど、火力発電は全体として縮小させざるを得ない。再生可能エネ ルギーをより拡大する必要が生じることとなる。

電源ミックスの変化の影響

これらの電源ミックスの変化は、1. 発電事業全体の経済性を左右し、また2. 個別事業者間の相対的 な競争力を変化させうる。 1. 発電事業の経済性 従前の発電ビジネスは、制度的にコストベースの価格設定がなされ、発電事業の投資回収は担保さ れてきた。しかし、電力システム改革によって総括原価は今後撤廃され、発電事業者は市場メカニ ズムを通じて投資回収を図っていくこととなる。 発電所は多額の初期投資による固定費が高い事業構造となるが、ひとたび発電所が建設されるとそ れらの固定費は埋没費用となる。そのため、経済合理に照らすと、限界費用(≒発電燃料費)を少 しでも超過する価格での売電が可能であれば発電所を稼働させる、という判断がなされることとな り、発電所間の稼働をめぐる競争は限界費用の競争となる。 そのため、発電所の稼働については、限界費用(≒発電燃料費)の小さい電源から順に稼働させる こと(これを「メリットオーダー」と呼ぶ)が経済合理的な行動となる。従来は、各大手電力会社 の地域内において、限界費用の小さい電源から順に稼働がなされていたが、地域横断で見るとある 地域で稼働している電源よりも限界費用の小さな電源が隣の地域では停止している、という事態が 発生していた。今後の自由化された市場においては、従来の大手電力会社の所管地域にかかわらず、 より広域で限界費用の小さい電源が稼働することとなり(これを「広域メリットオーダー」と呼ぶ)、 そうした事態は解消されていくことが想定されている。 広域メリットオーダーのもとで稼働する電源は、さまざまな限界費用のものが含まれるが、発電さ れた電力自体は限界費用の差によらず同質のものであり、市場メカニズムのもとでは一物一価の法 則に基づき、一律の価格として取引がなされる。この際、価格決定権を持つのは稼働する電源の中 で、もっとも限界費用の高い電源となり、その価格はその電源の限界費用に一致することとなる(図 3参照/ 6ページ)。

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5 10 15 20 25 出所: A.T. カーニー作成 図表3 メリットオーダーとは メリットオーダーのイメージ 単価 (円/kW) メリット オーダー • “メリットオーダー”とは、発電所の運転の順番を経済合理に基づいて決定するもので、発電変動費(≒燃料費) の安価なものから順次、需要量に合致するまで運転することを言う • 太陽光発電などの再エネも固定費は高いが、変動費はゼロのため、発電優先順位は高い。他方、大規模な ガス火力発電は総費用は安価だが、燃料費比率高く、発電優先順位は低い 卸売市場 価格 マージナル 電源 • ある時間帯における需要カーブと供給カーブの交点となる発電所を指す• マージナル電源は、卸売価格がその発電所の変動費と同額となりスプレッドはゼロ、固定費の回収は出来ない • スポット市場などのエネルギー市場においては、メリットオーダーに従った供給曲線の交点で価格を一意に 決める“シングルプライスオークション方式”が一般に採用されており、その価格を“システムプライス”と呼ぶ • 卸売市場価格は、システムプライスとして与えられる 0 石油火力 LNG火力 石炭火力 原子力 システムプライスの範囲 時間帯ごとの需要量 (kW) 需要変動 の範囲 システムプライス マージナル電源 変動費の低い電源から稼働 掲水 需要カーブ 供給カーブ 水力・ 再エネ こうした考えに基づき取引が行われているのが、日本卸電力取引所(JEPX)であり、その取引の 方式はシングルプライスオークション方式と呼ばれる。供給力が不足している現状では、需要を充 たすために限界費用の高い石油火力や場合によっては揚水発電までが稼働し市場価格を形成するた め、2014年度のJEPXの市場価格(システムプライス)は平均14.6円/kWh となっている。 こうした仕組みのもとで、電源ミックスが変化することは、各電源の稼働状況が変化し、また価格 決定権を持つ電源が変わることで市場価格も変化することとなる。 原発再稼動に加え、火力発電の新増設が加わることで、市場価格を決定する電源は太宗の時間帯で LNG火力となる。現状のLNG輸入価格は原油価格にリンクしており、一時は原油安による価格の下 落があったものの、直近では原油価格も一定水準に価格を戻しつつある。今後は、一時と比べると

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原油価格が低下したことにより、採算性が悪化したプロジェクトもあるが、北米シェールガス由来 のLNGの輸入による価格低下も期待されている。これらを反映すると、市場価格は12円/kWh 前後 となることが想定される。 さらに、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電の導入拡大が市場価格に大きな影響を及ぼす。 太陽光発電は仮に6,000万kWが導入されたとしても、太陽が出ている間だけの稼働となるため、 その設備利用率は12%程度で、年間の電力需要約9,000億kWhに占める比率は5%程度だが、日射 量の多い昼間時間帯だけを見るとその設備利用率は40~60%にも達し、供給過剰を加速させる。そ の結果、太陽光発電がなければ価格決定権を持つ電源が老朽化したLNG火力や時間帯によっては石 油火力であったものが、最新鋭のLNG火力もしくは石炭火力にシフトし、昼間時間帯の市場価格を 押し下げる。それにより、市場価格は9円/kWh 程度まで引き下がり、時間帯別で見ると昼間時間 帯は電力需要のピークであるにも関わらず市場価格のオフピークとなる(図4参照)。 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 (時間) 図表4 時間帯別システムプライスシミュレーション(年間平均)1 7 9 13 11 15 0 1 市場分断は想定せず、発電限界費用、発電電力量、需要量のみから資産 出所: 電力調査統計、NEDO日射量データベース、一般電気事業者各社の供給計画、でんき予報、財務省貿易統計、コスト等検証委員会報告書、JEPXよりA.T. カーニー作成 JEPX実績 (2014年度) 現状 原発再稼働 +LNG価格低下 再エネ(太陽光)拡大 17 システムプライス (円/kWh) 平均的に▲30%程度 昼間時間帯、更に▲30%程度 昼間時間帯では、 会わせて▲55%程度 現状ではコストベースの総括原価方式により発電事業の収益も規定されるが、今後の総括原価方式 が撤廃され自由化される市場においては、市場価格と発電コストの値差(マージン)によってその 収益が既定される。電力の卸取引は全てが取引所を介して行われるわけではないが、事業者間の相 対取引においても、徐々に取引所で形成される市場価格を参照するようになると考えられる。 そうした環境下で市場価格が低下することは、発電事業が卸電力市場を通じて得られる利潤を減少 させ、発電事業の収益性は低下する。既に減価償却の済んだ電源はそれでも一定の限界利益を得ら れる可能性はあるが、減価償却を残す電源や新設電源は固定費の回収がままならない状態となる。 固定費回収のための容量メカニズムの導入議論もなされているが、いずれにしても発電事業が電力 事業の収益の大半を占めていた構造は変化する。

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出所: コスト等検証委員会報告書、A.T. カーニー分析 図表5 燃種別発電コストと大手電力会社の発電ポートフォリオ 種類別発電コスト (円/kW) (2016年想定のシミュレーション結果)主要電力会社の発電ポートフォリオ (円/kW) 同じ電気でも、その発電コスト(特に変動費)は 種類によって大きく異なる 発電ミックスは異なり、結果コストも異なる所有する電源の違いにより、電力会社別の 水力 原子力 石炭火力 LNG火力 石油火力 固定費 変動費 10.6 8.9 9.5 10.7 36.1 287 138 151 再エネ 水力 石炭火力 LNG火力 LNG火力(CC) 石炭火力 原子力 東京電力 中部電力 関西電力 0.0 10.6 1.4 7.5 4.3 5.2 8.2 2.5 16.6 19.5 4% 3% 6% 1% 0% 0% 25% 49% 8% 8% 9% 8% 24% 29% 12% 14% 9% 4% 17% 45% 26% 2. 電力会社間の相対的な競争力の変化 電気は消費者にとって、どのような発電所で発電した電気かによってその価値が変化する(再生可能 エネルギーによって発電した電気にはプレミアム価値が乗るなど)場合もあるが、本来はその品質や 効用に差が無いコモディティとなる。しかし、発電所毎のコストの差や、どのような発電所を保有し ているかといったポートフォリオの差によって、事業者毎に発電にかかるコストは異なる(図5参照)。 今後については、再稼動が進む原発は電力会社毎に偏りが発生し、特にこの偏りが電力会社間のコ スト競争力の格差を生み、また恒常的なものとして定着させる。これまで、互いに牽制し合ってき た大手電力間にコスト競争力の格差が定着することは、今既に起こりつつある大手電力間の競争を 本格的なものにシフトさせうる。 昨今の首都圏を中心とした新たな電源建設の計画や、小売の参入計画はこうした競争力の変化を見 越したものと考えられる。

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海外の電力市場から得られる示唆

1998年に電力自由化がなされ、2000年代前半より再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-inTariff (FiT))を導入してきたドイツの状況は日本の今後の競争環境を見通すのに示唆に富む。 ドイツでは4大電力会社が高い市場シェアを占め、特にその発電部門がプロフィットプールとなっ てきた。ドイツでは卸電力市場がある程度活性化しており、社内の発電部門と小売部門の取引価 格も含め、市場価格が参照されてきたが、FiT導入により太陽光発電の導入が拡大したドイツでは、 卸電力市場の市場価格が低下し、市場価格を取引価格として参照していた発電事業の収益性は悪化 した。そのため、大手電力会社はその企業価値を大きく毀損し、これまで発電事業を中心としてい た事業モデルから、小売事業をより重視する戦略方向性の転換を余儀なくされ、ここにきて需要家 ニーズにフォーカスした小売事業の強化を打ち出している。昨年末に独大手電力会社のE.ON が原 発・火力発電部門を切り離す発表を行ったことは記憶に新しい。 一方で、4大電力の影に隠れているが、ドイツの公営事業者(Stadtwerke: シュタットベルケ)は 自由化後に4大電力との競争により激減が予想されていたが、地道な需要家視点のサービスにより いまだにその存在感を発揮しており、需要家支持を得ている。 今後、自由化が進み、また再生可能エネルギーの導入拡大が想定される日本においても、原発等も 含めた供給力の回復による供給過剰、また政府が推し進める卸電力市場の活性化と相まって、ドイ ツと同様に発電事業の収益性が低下し、また小売事業者の電源調達がイコールフッティングに近づ くことで、従来の発電コスト競争力を基軸とした競争から、より需要家に寄り添った小売競争力を 基軸とした競争にシフトすることも想定される。

日本における競争環境シナリオ

日本においては、当面はコスト競争力に優れる大手電力会社が、電気料金の高止まりする地域に越 境参入するといった、発電コスト競争力を競争機軸とした電力間競争の進展が想定される。しかし、 その後はドイツと同様に競争機軸が小売付加価値に遷移する可能性も考えられる。その分水嶺とな るのは、供給過剰と、卸電力市場の活性化の程度だろう。 供給過剰は多くの火力発電が運転開始時期として予定している2020年前後がその分岐点となりうる。 また、卸電力市場の活性化は、供給過剰もひとつのドライバとなるが、更に政府による卸市場の活 性化策の導入が大きなドライバとなる。政府は、2013年2月に取りまとめた「電力システム改革専 門委員会報告書」の中で卸市場活性化のための制度的措置の検討に言及、また制度設計WGや国会 審議の中でも言及が繰り返されている。供給過剰により現状よりは卸市場の活性化が進むと想定さ れるが、実際の小売競争が電気料金の高止まりする地域に限定される環境では、�完全に競争的な 市場� とは言えず、小売競争に資する更なる活性化策が導入される可能性もある。 そうなると、日本の発電事業がドイツと同じ道をたどり、また活性化された卸電力市場により電力 調達がイコールフッティングとなった小売市場において、需要家を獲得するための付加価値競争に 推移することが想定される。

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Author Profile

Shinsuke Tsutsui 筒井 慎介 (A.T. カーニー マネージャー) shinsuke.tsutsui@atkearney.com エネルギー、電力、都市ガス、通信業界を中心に、事業戦略、M&A戦略、新規事 業立案、シナリオプランニング等を支援。 京都大学院経済学研究科特任准教授。 20137月~20146月経済産業省資源エネルギー庁電力改革推進室(課長補佐) 出向

電力市場参入者に今求められる視点

そうした事業環境において電力市場に参入するにあたっては、まず発電事業と小売事業のどちら、 もしくは両方にどのように取り組むか、従前の事業環境を前提としない考え方が必要となる。 発電事業は、今後も継続してプロフィットプールとなることも想定されるが、シナリオによっては 十分な投資回収が見込めない可能性もあり、アセットを持つことのリスクが相対的には高まってい る。電力の卸売市場が活性化してくると卸市場価格は、資源価格や需給バランスをダイレクトに反 映するようになるが、一方で小売市場の価格は比較的その変化が緩やかと考えられ、その結果とし て発電事業と小売事業の収益性は逆相関性を持つようになる(卸市場価格が下落し発電事業の収益 性が低下する場合に、変動の小さい小売価格と卸市場価格のギャップは拡大し、小売事業は収益性 が向上する)。そうなると、これまでは発電した電力の販売先としての位置づけが強く、取引所や 相対取引で他の小売事業者に販売することを考えると必ずしも自ら小売事業を保有する必然性は無 かったものが、今後は発電事業と近しい規模での小売事業を保有することがナチュラルヘッジ効果 による事業安定化策ともなりうる。 また他方で小売事業においては、従来は安価な電力を如何に調達するかが競争基軸となり、大型発 電所を保有する事業者が競争力を具備してきたが、今後の付加価値競争にシフトする小売市場にお いては、従来の供給者目線のサービスでは付加価値を創出できず、これまで自由競争市場において 競争力を磨いてきた異業種が存在感を増していくことが想定される。単に複数商材をまとめて販売 するだけでなく、新たなサービスを開発することを目的とした異業種の参入・アライアンスも進展 することが想定される。電力供給をきっかけとしつつも、分電盤までを責任分界とすることなく、 その先に入り込んでサービス提供することが、そうした時代の電力小売事業者には求められる。 既存事業者に加え、新たに電力事業に参入を計画する事業者はこうしたパラダイムシフトの可能性 を踏まえ、短期・中長期の戦略オプションを準備したうえで、いざパラダイムシフトが起こった場 合に初めて適合する対策を検討するのではなく、予め準備していたオプションを発動させる、また そのためには今からオプション発動に必要な組織能力の具備・強化を進めることが重要となる。

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本稿の表紙に記されているのは、当社の社名にもなっている創業者 Andrew Thomas Kearney (アンドリュー ・トーマス・ カーニー)の署名で、カーニーが培い、我々が継承している、すべての

行いにおいて �本質的な正しさ� を保証することを意味しています。

A.T. Kearney Korea LLC は大韓民国において A.T. Kearney の名のもと業務を行っている別法人です。

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