緒 言 子宮内膜症は生殖年齢婦人の5∼10%に発症 するといわれ,近年増加している.それに伴い, 子宮腺筋症は生殖年齢女性に多く発症し,生殖 年齢女性のうち1∼36%にみられるとされてい る〔1,2〕.1860年にドイツの病理学者 Carl von Rokitansky が子宮筋層内の内膜腺を発見し, Adenomyoma と名づけた.その後50年,Adeno-myoma と出血性嚢胞は別の病態として考えら れ,1921年まで子宮内膜症が原因であるとは考 えられていなかった.Sampson がエンドメト リ オ ー シ ス と 名 づ け る1925年 の2年 前 に Frankl が子宮粘膜の筋層へ浸潤組織像を発表 し,Adenomyosis と名づけた.Bird により1972 年,子宮内膜が子宮筋層に浸潤し,肥厚した子 宮筋層に囲まれた異所性の子宮内膜腺と間質が 散在性に増大したものを Adenomyosis と定義 した〔3〕. 子宮腺筋症の症状は月経困難症や過多月経が 挙げられるが,無症候性である場合も多い.経 腟超音波検査で診断される場合が多いが,子宮 筋腫の合併症例では診断が困難である場合があ る〔4〕.この場合 MRI が非常に有効である. 特有の所見としては T2強調画像で junctional zone の拡張と子宮筋層の low intensity area 内 に点状の high intensity spot がみられる.まれ に筋層内の出血性嚢胞や粘膜下にポリープ上に 突出する子宮腺筋症がみられる.また子宮筋層 の生理的な収縮と腫瘤型の子宮腺筋症の鑑別が 重要である〔5〕. 子宮腺筋症に対する保存療法は Gn―RHa 療 法やダナゾール,Oral contraceptives 療法,レ ボノルゲストレル付加 IUS,手術療法が行われ ている.従来手術療法は,子宮全摘術が基本で あった.妊娠年齢の高齢化により子宮温存を希 望する症例が増加し,子宮腺筋症切除術が行わ れつつある.しかし,手術療法は他の方法に比 べ侵襲が大きいのが欠点である.そこで当院で は手術をより低侵襲にするため腹腔鏡による子 宮腺筋症切除術を開始し,2003年から2007年10 月まで13症例を経験した. 方 法 蠢 腹腔へのアクセス 麻酔は気管挿管による全身麻酔と硬膜外麻酔 で行っている.手術体位は砕石位で10度までの 骨盤高位に設定.子宮マニュピレーターを挿入. 第一挿入トロッカーは臍底よりセミ・オープン 法で行いカメラ用12mm トロッカーを挿入.左 右上前腸骨棘の2∼3cm 内側とその中間点に 操作用5mm トロッカーを挿入し,計4本のト ロッカーを使用している. 蠡 病巣の切開(図1) 術中出血量を軽減するために,子宮腺筋症病 巣の漿膜に22G 針で100倍希釈バソプレッシン を局注する.フック型モノポーラーを用い70W 倉敷成人病センター産婦人科 太田 啓明,羽田 智則,松浦 俊明,金尾 祐之, 高木 偉博,兒島 信子,安藤 正明 図1 子宮腺筋症病巣をモノポーラー(70W純切開モ ード)で縦切開
の純切開モードで,子宮を縦切開していく.腹 腔鏡下という2次元映像下の作業環境ではどの 深さまで切開すべきかを決めるのが困難である が,断面の腺筋症病巣を視認しながら切開を行 う.また正常筋層に入ると出血が増えることや 鉗子での触覚も参考となる.また内膜までの距 離を把握することは困難であり,内膜を損傷す る可能性もあるが,腺筋症病巣の可及的切除を 第一目標として切開を進めていく.内腔が開放 したときにはモノフィラメント合成吸収糸連続 縫合で修復を行っている. 蠱 病巣の切除(図2,3,4) 腹腔鏡下腺筋症摘出の際,病巣をなるべく広 く切除し,かつ筋層の縫合を容易にするために 当院で行っている工夫について解説する.病巣 部は凸レンズ状(convex lens resection)に切 除する.病巣部端をクロウ鉗子で牽引しつつカ ウンタートラクションをかけて切除を行う.切 開創の両側の漿膜をできるだけ温存するように 腺筋症病巣を奬膜の内側に沿って抉るように切 除し,半凸レンズ型に片側ずつ切除する.最終 的に凸レンズ型に病巣部を摘出することにな る.場合によっては漿膜側に腺筋症病巣を残さ ないように追加切除を行う.漿膜に欠損を作ら ないようにするため,常にカメラや子宮の位置 を移動させ切除範囲の立体的な位置関係を確認 図6 表層は出血や癒着を防ぐために漿膜―筋層縫合 を行う 図3 半凸レンズ状に片側ずつ切除する 図7 奬膜に余裕があるため創縁に張力がかかりにく い 図4 最終的に凸レンズ型に病巣を摘出 図8 wedge resection による腺筋症病巣の摘出 図9 欠損部の縫合修復の際,表層部で張力が高く創 面を寄せるのが困難となる
しながら切除を行う.
蠶 子宮壁の修復(図5,6,7)
単純に楔 状 に 切 除(wedge resection)す る と欠損部を縫合修復する際,創面を寄せるのが 困難となる(図8,9).convex lens resection は,子宮壁の欠損が大きくても比較的容易に修 復を行うことが可能となる.欠損部深部では, 合成吸収糸で埋没単結紮縫合を行う.この際, 創部に比較的張力がかかりやすいため,単結紮 を形成した後,助手の鉗子で結節点を把持する など緩まない工夫が必要である.状況により square slipknot を用いるのも有用である.表 層は出血や癒着を防ぐために創縁が内翻するよ うに漿膜―筋層縫合を行う.この縫合を行うこ とにより縫合部が隆起し,張力が創縁にかから ずに,また創縁が内翻するため,出血や癒着の 防止に便利と考えている. 蠹 病巣の回収 腺筋症病巣の回収には,状況に応じて3種類 の方法を使い分けている.病巣が比較的小さい 場合にはモノポーラーで病巣を短冊状に分割し 回収袋に収納し,臍部の第一トロッカー孔より 回収を行っている. 病巣が大きい場合には,経腟回収を行う.こ の場合,子宮マニュピレーターを抜去し腟パイ プ(Vagi―パイプ:譁八光メディカル)を挿入す る.腟パイプの先端を後腟円蓋に押しつけ,モ ノポーラーで腟壁を切開し回収経路とする.摘 出病巣部に縫合糸をかけ持針器で後腟円蓋開放 部に誘導し,鋏刀で細切し回収する.腟が著し く狭く後腟円蓋が開放できない場合には,電動 モルセレーターを用いて腺筋症病巣を回収する. 症 例 〔症例1〕32歳未産婦.主訴は月経困難症,過 多月経.MRI で子宮腺筋症は前壁から底部優 位に分布し後壁にまで及んでいた(図10). 腹腔鏡下に100倍希釈バソプレッシンを子宮 腺筋症病巣部漿膜下に局注し,子宮前壁∼底部 ∼後壁半分までフック型モノポーラーで縦切開 を行った(図11).次に切開線左側の漿膜に沿 って腺筋症を削ぐように切除する(図12).半 凸レンズ型に病巣を摘出する(図13).右側も 同様に腺筋症を半凸レンズ型に摘出する.以上 convex lens resection を行い,摘出物は80g で 図12 左漿膜に沿って腺筋症を削ぐようにモノポーラ ーで病巣を切除 図10 MRI(T2矢状断)子宮腺筋症は前壁 から底部優位に分布し後壁にまで及ぶ 瀰漫型 図11 子宮腺筋症病巣を分割するようにモノポーラー で縦切開
あった.子宮壁欠損部の修復は2層縫合で行っ た.1層目は埋没単結紮縫合.表層からの出血 や癒着防止に2層目は漿膜―筋層縫合を行った (図14).切除病変はモノポーラーで短冊状に分 割.回収袋に収納し(図15)臍部のトロッカー 挿入孔より回収した.手術時間は112分,出血 量は85g であった(図16). 〔症例2〕36歳未産婦.主訴は月経困難症,挙 児 希 望.MRI で 子 宮 は 全 体 で13×12×17cm, Gn―RHa 療法を3コース行い術前は10×10×12 cm に縮少した(図17). 出血軽減のため子宮頸部を6Fr ネラトンカ テーテルで一時的に結紮し,子宮動脈からの血 流を遮断した(図18).前壁と後壁はそれぞれ に convex lens resection を 行 い,230g 腺 筋 症 組織を切除した(図19,20).子宮腺筋症病巣 の回収は,電動モルセレーターで行った.手術 時間は210分,出血量は725g であった. 術 後2年 後 IVF―ET で 妊 娠.妊 娠37週0日 2250g 女児を帝王切開で分娩となった. 結 果 2003年から2007年10月まで,13例の腹腔鏡下 腺筋症切除術を行った.13例の年齢:35±4.3 歳, 手術時間:134±41分, 出血:352±280g, 摘出腺筋症重量:79.7±74.6g(腺筋症のみ筋 腫合併なしの症 例 は104±77g)で あ っ た.開 腹手術への移行例や輸血例はなかった.手術療 法の適応に関しては腫瘤型の子宮腺筋症に限ら ず,子宮前壁から後壁にまで及ぶ瀰漫型まで行 った.妊娠例は術後2年の症例に1例であった (術後1年未満の症例が多く,挙児希望および 妊娠許可症例は8例であった). 考 察 子宮内膜症の増加,出産年齢の高齢化に伴い, 図13 クロウ鉗子でカウンタートラクションをかけな がら半凸レンズ型に病巣を摘出 図15 切除病変は短冊状に分割し回収袋に収納 図14 単結紮形成後に助手の鉗子で結紮点を把持する ことにより緩まずに結紮が可能 図16 漿膜―筋層縫合により縫合部が隆起し創縁に張 力がかからないように縫合
子宮温存を希望する子宮腺筋症症例の増加が予 想される.近年,機器の発達や手術手技の向上 により,さまざまな内容の内視鏡手術が急速に 発展している.内視鏡手術は術後の回復がきわ めて早く,社会復帰も早い.子宮腺筋症に対す る手術療法は,限られた症例に行われ,従来, その困難性から開腹手術が主であったが,これ を腹腔鏡下に行うことにより低侵襲に行うこと が可能となる.また術後の癒着も少なく不妊の 改善にも有利と考える.反面,視覚の限界や操 作の困難性や合併症の増加など内視鏡下手術に も克服すべき問題がある.まず,腹腔鏡下手術 による腺筋症摘出術は病変の拡がりを立体的に 把握するのが困難であり,また触診による検索 ができないなどの欠点がある.しかし正常筋層 との断面の性状や出血量の違いを目安にして, これらの欠点をある程度補うことも可能であ る.また,今回の子宮腺筋症病変部を凸レンズ 型にくり抜く手法(convex lens resection)に より多くの病巣(104±77g)の摘出が可能 で あった. 腺筋症病変を残さないためには,内膜の開放 をためらわずに切開を進め,より多くの病変を 切除する必要がある.内腔が開放したときには 縫合修復する.従来行われている wedge resec-tion ではとくに瀰漫型病変で腺筋症病巣の摘出 が不十分になる可能性が高く,また子宮壁の修 復に際して創縁の張力が高くなるため縫合が困 難となる.その点,convex lens resection では 層々(layer to layer)縫合を 行 っ て い く 過 程 図19 前壁子宮腺筋症摘出修復後 図17 MRI(T2矢状断)子宮腺筋症は瀰漫型 子宮全体で10×10×12cm 図18 子宮頸部を6Fr ネラトンカテーテルで一時的に 結紮し血流を遮断 図20 後壁子宮腺筋症摘出修復後 摘出病巣は230g
術時間101.5分,出血量は225g,摘出腺筋症の 重量は24g で,2症例が分娩に至っている.Dou-ble flap 法に比べ convex lens resection では子 宮壁の修復を単純に層別に縫合するだけであ り,より容易であり,また死腔もできにくいと 考えている.
子 宮 腺 筋 症 に 対 す る 腹 腔 鏡 下 子 宮 腺 筋 症 convex lens resection は低侵襲であり,より多 くの病巣切除が可能であり,またその簡便性か ら有用な手法と考える.しかし,長期予後や妊 孕性などに関しては明らかでないため,手術に
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