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解離性障害と診断されたクライエントに対するエクスポージャーと儀式妨害の試み

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 120

-解離性障害と診断されたクライエントに対する

エクスポージャーと儀式妨害の試み

○岡本 直人1,2) 1 )社会医療法人あさかホスピタル、 2 )さくまメンタルクリニック 【問題と目的】 クライエントに何かしらの診断(あるいは診断疑 い)があれば、その診断名や関連症状などを把握する ことは、クライエントの苦しみを理解したり、今後の 手立てを考えたりするうえで当然重要である。また、 その診断の根拠になっただろうクライエントの訴えに 耳を傾けることも同様である。 しかし、クライエントを援助するために見立てや介 入を行うが、その際に診断名や関連症状、クライエン ト自身の訴えなどを、ときには一旦捉え直す作業が必 要な場合がある。土居(1992)は見立てのポイントと して、クライエントの問題をただ鵜呑みにするのでは なく、それを新たに理解し直さなければならないと指 摘している。また山上(2007)は、対象になっている 問題を把握するときは「行動としてとる」ことの有用 性を述べている。 今回、解離性障害と診断されたクライエントに対し て、関連症状や本人の訴えを行動として捉え直し、エ クスポージャーと儀式妨害を行った事例を報告する。 【事例概要】 30代男性。両親と 3 人暮らしで、父親とは不仲、母 親は良き相談相手でキーパーソンである。同胞 3 名の 第 1 子であり、妹と弟がいる。趣味は料理や木工芸な どである。 大学の受験勉強の際、強い不安感や嘔気が出現し、 大学に進学するものの、現実感喪失、意欲低下が顕著 となり登校ができなくなった。 2 年後に A クリニック を受診し、大学は休学した。その後、復学し、大学卒 業後は大学院に進学した。しかし就職活動が上手くい かず、体調を崩して実家へ戻ることになった。セカン ドオピニオンとして B 病院を受診し、「解離性の離人 症」「全般性不安がある」と言われた。その後、「自分 がどこにいるかわからない」「少し前にやっていたこ とも忘れてしまう」などの訴え見られ、不安感が強く、 日常動作も緩慢となったため、 A クリニックの紹介に て筆者の勤務する病院に任意入院となった。 入院後は、他覚的には特に症状の悪化を認めること はなく、食事・入浴・運動などは滞りなく行うことが できていたが、退院の訴えも強いため約 2 週間で退院 となった。退院時の診断は解離性障害・離人症・広汎 性発達障害疑いであった。しかし、退院後も「何をし ようと思っていたのかわからない」「箸をどこへ置い たらいいかわからない」など、不安感や離人感の訴え が引き続き見られ、筆者の兼務するクリニックに受診 となった。そこで主治医から心理士による介入の指示 があり、面接開始となった。 【面接経過】 面接は月 1 回の診察と併せて実施した。以下、♯の 項はクライエントの陳述である。 <♯ 1 〜 7 :導入や心理検査など> 直前に意識したことを忘れる。場所を確認するため に、例えば時計を見るじゃないですか。で、次に本棚 を見たとすると、最初に見た時計を忘れる。時計が あったことや場所を忘れる。「見たはず」という忘れ た感覚は残る。そういうときはモヤモヤしたり、イラ イラしたりする。ここがどこだかを知るために確認す る。自分は必要に迫られて確認をしている。多少の確 認は必要でしょう。 <♯ 8 〜11:主治医の勧めで母親と実家からアパート へ引っ越し> 実家に比べて行動しやすくなったが、長くアパート にいるにつれて、また「部屋に何があったのか」「ど ういう構造なのか」と考えることが多くなった。トイ レに行くのが大変。水を流してレバーの確認をする。 レバーが回ったままだと水が出続けてしまうから。水 が流れ終わったら、キレイになったかどうか、便器を 確認する。もし汚れていたら、あとで使う人が不快に なる。それからいまいる場所の確認をする。いまいる 場所やどうやって来たかの確認。これが自分の家では なく他人の家だったら迷惑がかかる。ピンとくるまで 確認する。入室よりも退室に時間がかかる。トイレの 時間は短くしたい。 <見立て・介入> 「忘れる」と訴えるものの、「忘れた感覚」は残って いて、その不快感を打ち消すために目視や頭の中での 確認を行っており、これらの行動がクライエントの苦 痛や日常生活への支障に影響を及ぼしていると考え た。しかし、それら確認に対する問題意識は必ずしも クライエントと共有できず、なかなか介入に踏み込め ケーススタディ 4

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 121 -ずに経過した。そこでまずは苦痛の強いトイレの問題 を取り上げた。現状確認のため、♯ 7 よりクライエン トにトイレの入室から退室までの時間をストップ ウォッチで計測してもらった(計測日時はランダム)。 結果、実家では約21分前後だったが、アパート引っ越 し後は約 8 分前後に減少した。しかし、アパート引っ 越し後の確認は一見改善したように見えたが、確認あ るいはそれに伴う苦痛が再度生じたため、これを足が かりとして徐々にエクスポージャーと儀式妨害を導入 していった。 介入ではセッション中にデパートや本屋、公衆トイ レなどへ赴き、観察されたクライエントの確認行為に 対して、筆者が教示やモデリングを行い、クライエン トがその通り行う都度に賞賛した。またトイレの水洗 や退室の際は「水道代がかかっている」「ここは他人 のトイレだ」「後の人に迷惑がかかる」など、あえて 不快感が生じるようなセリフを考えながら行うよう共 有した。これらの介入は主に♯ 9 〜11に実施した。 また、確認に非常に時間をかけつつもその正当性を 主張するクライエントに対しては、「確認に時間が費 やされてしまい、本来やりたいこと(読書や料理、木 工芸など)に時間を使えていないことが問題である」 と繰り返し伝えた。 <♯12:介入後> トイレの確認時間が減ったのは…家の構造を思い出 してきたから?うーん、「(筆者に)早くやれ」って言 われたから。自暴自棄というか、「どうにでもなれ」 と思ってやっている。トイレは嫌なものだと思ってい たが、苦しくなくなった。これまでとは真逆のことを やって楽になるのは、世の中面白い。 【結果と考察】 トイレの入室から退室までにかかった時間をFig.1 に示す。介入の結果、トイレの入室から退室までの時 間は約 6 分と短縮され、さらに実家のトイレ使用も同 様の時間で行えるようになり、トイレ使用に伴う苦痛 が軽減されたと考えられる。 今回、解離性障害と診断されたクライエントに対し て、関連症状や本人の訴えを行動として捉え直し、エ クスポージャーと儀式妨害を行った事例を報告した。 その後の経過では歯磨きや自宅内の移動、食器の下膳 などに焦点を当てて介入しているが、確認に対する問 題意識の共有や介入の仕方、ホームワークの設定など に難儀している。これらの課題についても当日は検討 していきたい。 【引用文献】 土居健郎 1992 新訂 方法としての面接.医学書院 山上敏子 2007 方法としての行動療法.金剛出版 ケーススタディ 4

参照

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