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新規学卒Uターン就職者に対する就職促進支援

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Academic year: 2021

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要旨  少子高齢化による人口減少は地方においてはより深刻であり,労働力人口の確保や婚姻率,出生率の上 昇を図るためにも,地方県では若年者の地域外流失を減少させる政策に力を入れている。若年者の地域外 流失を抑制するためには新規大卒者の U ターン就職の促進が有効であると考えられる。本研究は新規大 卒者が地元への U ターン就職を考える場合にどのように就職先を探索し自分の希望に即した進路を見出 すのか,また U ターン就職希望者に対する地方自治体や大学の U ターン就職支援策は,若年者のキャリ ア形成の観点から有効に作用しているのかを大学生や地方自治体の U ターン就職促進部署,進学先の都 市部の大学でのヒアリング調査から分析したものである。 キーワード:人口減少抑制,新規大卒者,U ターン就職,就職支援策,地方自治体

Ⅰ.はじめに

 本研究は,2015 年度福井県地域貢献推進事業に採 択を受けた「新規学卒 U ターン就職者1)の就職先探 索行動に関する研究」の成果の一部である。少子高齢 化による人口減少が進む中,地方では若年者の地域外 流失を減少させる政策に力を入れている。若年者の地 域外流出減少は,高等学校卒業時点の地域外への進学 者の抑制と大学等卒業時点の U ターン就職の促進が ポイントとなる。福井県の場合,県内の 4 年制大学は 5 大学に限られ工学部系の受け入れ学生が多いなど, 高校卒業者の進路希望を必ずしも満たせない現状があ り地域外への進学者の抑制は難しい。一方で U ター ン就職を促進する場合地元での雇用の確保が必要にな るが,福井県の 2015 年 7 月の有効求人倍率は全国 2 位 であり,地元企業の新卒者採用意欲も高いことから U ターン就職の促進には問題がないと考えられる。  本研究では福井県および地方道府県の U ターン促 進策に焦点を当て,新規学卒者が地元への U ターン 就職を考える場合にどのように希望の就職先を探索し 就職活動を行うのか,また U ターン就職希望者に対 する大学や地方自治体の支援策は有効に作用している のかを調査分析していく。初職の選択とそこでの就業 継続は,若者のその後のキャリア形成に大きな影響を 与えることから,若年者の意思に沿わない地方の事情 だけでの U ターン促進であってはならないと考える。

Ⅱ.先行研究の概要

 新規学卒者に焦点を当てた U ターン促進策の研究 は,ほとんど行われていない。高卒者に対する地元就 職の調査では,県内就職率はその地域の雇用状況に関 係し有効求人倍率が高い愛知県,大阪府では 97.5%, 95.6% と地元への就職希望者が多く,鹿児島県,青森 県など有効求人倍率が低い地域では 54.8%,56.1% と 地元への就職希望者が少ないという結果が出ている (2010 年文部科学省調査)。同調査によれば地元への 就職希望者が地元に就職できる割合は,富山県 93.1%, 福井県 92.0% と北陸地域は高くなっている。北陸地方 の有効求人倍率も福井県 1.61,富山県 1.53,石川県 1.41 と全国の 1.25 に比べ好調である。2)  また,人口移動には雇用状況と同時に 3 大都市圏と 地方の賃金格差が影響を与えることも報告されている

新規学卒 U ターン就職者に対

する就職促進支援

The Journal of Economic Education No.35, September, 2016

A Study on Employment Support for New Graduates Searching for Jobs in Their Hometowns

Nakazato, Hiroho

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(2011 年労働政策研究・研修機構調査)が,この研究 は新規学卒者を対象としたものではなく,U・I ター ン者すべてを対象とした調査であり,新規学卒者の U ターンにも賃金格差が影響するかどうか検証する必要 がある。  地元への就職を志向する学生の意識調査としては杉 山,平尾がある。杉山は北海道の大学生の調査から, ①地元への愛着が地元就職志向に結びつく。②挑戦的 な仕事を志向する学生の地元志向は低く,労働条件を 重視する学生の地元志向は高い。③キャリア発達のレ ベルによりキャリア志向性,就職への情報源が異なり, キャリア発達が低い学生は親の意見が地元就職に反映 する傾向があると分析している(杉山:2012)。また, 平尾は山口大学の学生の調査から①就職活動が不活発 な学生が地元就職を目指す割合が高い,②地元志向の 学生は広域志向の学生に比べ,将来やりたい仕事が明 確になっていない割合が高いと分析している(平尾: 2006)。杉山,平尾の調査は地元の大学に進学し地元 への就職を志望する学生の調査分析である。地元外に 進学した学生が U ターンし地元への就職を目指す場 合も,同様のことが言えるのかは検証する必要がある。 中里は2009年に福井県に就職した新入社員約300名に, 就職先選択理由等の調査を行った。その結果,福井県 への就職者は U ターン就職者も含め就職活動時期の 当初から福井県内への就職を考えていたこと,全国調 査に比べ職場での上昇志向は低く安定志向が高いとい う結果が得られている(中里:2010)。北海道,山口 県,福井県の調査からは地元志向の高い学生は地元へ の愛着が当初から強く,上昇志向やキャリア発達志向 が低いと読み取れるが果たしてそうなのであろうか。 就職活動の支援により新規学卒者の意識には変化はあ るのであろうか,そのためには U ターン就職を促進 するどのような方策が有効であるのか。  本研究では(1)U ターン就職を希望する大学生への 意識調査,(2) 地方出身学生に対する大学の U ターン 就職支援, (3) U ターン就職を希望する学生に対して の地方自治体の支援の状況の 3 方向から調査・分析を 進め,U ターン就職促進に対する課題を抽出する。

Ⅲ.研究の進め方

 まず,大学生が U ターン就職に対してどのような 意識を持つのか考察する。U ターン就職促進に熱心な 地方県を 3 県選定し,福井県及び同じ北陸の石川県を 加えて 5 県を対象に㈱マイナビが行った「2016 卒マイ ナビ大学生 U ターン・地元就職に関する調査」(以下 マイナビ調査)と独自に福井県で実施した調査により, 大学生の地元就職に対する意識や就職先の選択条件を 分析する。㈱マイナビは,2012 年から同社の会員を 対象に U ターン就職に対する意識調査を行っている。 本稿では同調査の 2015 年版の集計結果を利用する。 調査は 2016 年卒業予定の大学生,大学院生を対象に 2015 年 4 月に Web アンケートの形式で行われた。有 効回答総数は 7,058 名である。この調査は回答数は多 いが都市部の学生の回答比率が高く,例えば福井県の 学生の回答数はわずかに 0.8% であるなど偏りがみら れる。そこで福井県での独自調査を行い比較した。  対象として,首都圏や関西圏の大学との就職支援協 定を多数結び,U ターン就職支援に力を入れていると 考えられる群馬県・愛媛県・長野県の 3 県と北陸の福 井県,石川県を選定し 5 県の大学生の意識を分析する。  次に,HP 等で U ターン就職支援に力を入れている ことを謳っている首都圏・関西圏・中京圏の大学の就 職支援部署を訪問し,大学での U ターン就職希望者 に対する支援の状況や課題を調査した。更に,上記の 自治体の U ターン就職支援部署を訪問しどのような 支援を行っているのか聞き取り調査を行った。  以上のように,大学生・進学先の大学・地方県の 3 方向からの調査により,地元外進学大学生の U ター ン促進支援の課題を考察する。

Ⅳ.地元就職に対する大学生の意識

 大学生は,地元への U ターン就職をどのように考 えているのか。地元については出身県だけではなく, 石川県であれば富山県,福井県を地元と考え,群馬県 であれば埼玉県を地元と考えるように隣接県を含み考 えている。マイナビ調査によれば地元就職希望の大学 生の割合は表 1 のようになっている。この表からは, 有効求人倍率も大学卒初任給も高い東京都は,地元進 学者,地元外進学者共に地元の東京都への就職希望が 高いことが分かる。この 5 県の中では石川県,福井県 の地元就職意識が高いが,有効求人倍率は高いものの 大卒者の初任給は全国の中で高いほうではないことが 読みとれる(表 2)。  マイナビ調査の回答者は都市部の学生に偏りがみら れたことから,福井県立大学経済学部 1 年生の福井県 出身者に就職希望地を尋ねた。3)福井県内への就職希 望者が 60.0%,近隣県への就職希望者が 19.0% とマイ ナビ調査を上回る地元就職希望者が存在していること

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が分かった。  次に同調査の「地元(U ターン)就職を希望する理 由」を上記の 5 県の学生で比較したものが表 3 になる。 「地元が好きだから」(51.7%)「両親の近くで生活した い」(46.8%)「地元に貢献したいから」(35.0%)が上 位になる。またこの 5 県の比較からは福井県出身者が 「親の意向」を上げた割合が高いことが読み取れる。 この 5 県だけの比較ではなく「親の意向」を上げた割 合は福井県が全国の中で一番高い。「地元が好き」と いう理由はどの県も全国平均より高いが,U ターン就 職率の高い石川県(全国で 1 位)・長野県(同 3 位)の 数値が高くなっている。就職を決める際には生活面だ けでなく,志望する企業の存在が欠かせない。その面 では,石川県の「志望する企業があるから」に対する 回答割合は東京都の 26.0%に次いで高い数値である。  マイナビ調査は地方出身者のサンプル数が少ないこ とから,U ターン就職を希望する理由についても独自 の調査を行い比較を試みた。2015 年 6 月に福井県が実 施した合同企業説明会「U ターンフェア」の会場で福 井県外大学の学生36名に行った調査結果が図3になる。 表 1 地元就職希望者の割合 群馬県 長野県 石川県 福井県 愛媛県 東京都 地元進学者の地元就職希望者 70.8% 80.0% 75.0% 70.6% 56.3% 90.2% 地元外進学者の地元就職希望者 35.7% 40.4% 55.8% 45.9% 34.5% 80.7% 出所:2016 卒マイナビ大学生 U ターン・地元就職に関する調査による 表 2 「有効求人倍率(2015 年 4 月)と大学卒初任給」 群馬県 長野県 石川県 福井県 愛媛県 東京都 有効求人倍率(2015 年 4 月) 1.24 1.24 1.47 1.57 1.19 1.67 大学卒初任給(2014 年) (千円)191.7 (千円)192.1 (千円)190.9 (千円)186.7 (千円)186.1 (千円)212.1 出所:厚生労働省労働力調査による 表 3 「地元(U ターン)就職を希望する理由」 群馬県 長野県 石川県 福井県 愛媛県 両親の近くで生活したい 51.9% 48.0% 50.9% 53.2% 49.1% 親が地元就職を希望する為 11.7% 9.0% 15.1% 31.9% 15.8% 地元での生活になれている為 37.7% 30.0% 34.0% 42.6% 31.6% 地元が好きだから 37.7% 60.0% 64.2% 46.8% 49.1% 地元に貢献したいから 46.8% 30.0% 39.6% 34.0% 24.6% 地元に志望する企業がある為 10.4% 12.0% 22.6% 10.6% 10.5% 出所:2016 卒マイナビ大学生 U ターン・地元就職に関する調査による 図 1 大学生の「地元就職の選択動機」 出所:福井県 U ターンフェア参加者へのアンケート調査による 2015 年 6 月 13 日有効回答数 36 名

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福井県での就職を考えている学生は 63.6% であり,ど この地域に就職するか迷っている学生は 18.2% であっ た。このような地元での就職イベントに参加する場合 も,地元での就職を決めている場合と迷っている場合 のあることが分かる。  福井県での就職を希望する理由(複数回答)は「実 家生活は楽だから」(66.7%)「住居費がかからず経済 的に楽だから」(57.2%)が 1 位,2 位となり次に「福 井県に貢献したい」(57.1%)が 3 位と続いた。福井県 が U ターン就職の促進としてアピールしている「子 育て環境の整備」「無理のない生活」は 33.3%,26.8% でありそれほど高い割合ではない。マイナビ調査にお いて回答者が多く見られた「親の意向」は 24.4% にと どまり,マイナビ調査のような高い数値にはなってい ない。  以上より,大学生が U ターン就職を考える理由と して親との同居や近居による生活のしやすさもさるこ とながら,地元への愛着や地元への貢献意識が大きい ことが分かる。  U ターン就職を考える大学生はどのような悩みを持 つのか。この件に対してはマイナビ調査,福井県調査 ともにほぼ同じ回答が得られた。第 1 位は「就職活動 に交通費がかかること」,第 2 位は「地元までの距離 と移動に時間がとられること」,第 3 位は「地元企業 の情報不足」である。U ターン就職におけるこれらの ハンデをどのように支援していくかが課題になる。

Ⅴ.U ターン就職希望者に対する大学の支

 大学や地方自治体は U ターン就職を考える学生に どのような支援を行っているのか。  近年,一部の私立大学と地方自治体が就職支援の協 定を結ぶ例が増加している。大学は地方の入学者を確 保したいと考え,地方自治体は大学を通じて地元の就 職情報を学生に発信することで U ターン者を増加さ せたいという考えがあるからだ。全国の 21 の道県が 大学と就職支援協定を締結し,群馬県の 106 大学,愛 媛県の 71 大学,栃木県の 62 大学などが多い(2015 年 12 月現在)。4)協定の内容はどの自治体もほぼ同じで, ①出身地の学生に対する地元企業・生活情報の周知, ②大学内で開催する合同企業説明会等の企業情報提供 イベントの開催,③出身県の学生向け就職情報提供サ イトへの登録呼びかけ,④保護者向け就職セミナーの 開催,⑤学生の U ターン就職に関わる情報交換に関 することとなっている。更に協定締結時には該当道県 の知事と学長により協定締結の式典を行うことが多い。  大学にとっては U ターン就職を支援する体制を作 ることで,地方県出身者の保護者の期待に応えること をアピールすることによる入学者の確保の他,支援協 定の締結が地元の新聞や TV に取り上げられることで の PR 効果も期待できるという。  都市部の大学では,U ターン就職希望者向けの説明 会を開催する際に協定締結をしている地方県の PR ブースを設ける,学内の合同企業説明会に協定締結地 域の企業を参加させるなどの方法で,学生に地元の就 職情報を提供している。しかしながら学生数の多い私 立大学の場合,実際に学生の就職相談をうける相談員 は派遣社員や契約社員の場合も多く,学生が求めてい る地元の企業情報や仕事内容が十分に学生に提供され ているとは考えにくい。企業情報や地元の就職イベン トの告知も北陸地方,中部地方と地域での掲示板があ る程度で個々の情報は学生のもとに届きにくいという 状況がある。  今回訪問調査を行った大学の就職支援担当者からは, 地方県は自県の環境や暮らしやすさ等の情報提供が多 いが,学生が求めているやりがいのある仕事の存在や 企業情報の提供が少ないとの声が多く聞かれた。

Ⅵ.地方県の U ターン就職促進支援策

 筆者が全国 44 道府県の U ターン就職促進部署に 行った質問票調査によれば,51.3% に当たる 20 の道府 県が新規学卒者の U ターン就職支援に力を入れてい ると回答している。5)その理由としては第 1 位「地域 の人口減少を抑制したい」68.7%,第 2 位「若年労働力 を確保したい」48.7%,第 3 位「地域の企業が採用数を 満たせない状況が生じている為」同じく「地域外で学 んだ優秀な人材を確保したい為」28.2%となった。地 方の人口減少抑制は喫緊の課題ではあるが,前述の文 部科学省の調査のように地域の有効な雇用状況が前提 になり新規学卒者の U ターン就職促進に注力できる という結果が推測される。その意味においては,有効 求人倍率が比較的低い地域の多い東北地方,九州地方 の県が都市部の大学との就職支援の連携が活発でない ことは納得できる。  では,地方道府県は実際にどのような U ターン就 職支援を行っているのか。同調査における回答では第 1 位が「首都圏や関西圏等での地元企業の合同企業説 明会等の開催」84.6%,第 2 位が「首都圏や関西圏の大 学に出向いての自道府県の PR・情報提供会の開催」

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79.5% であった。更に第 3 位「地元外大学生に対する 地元での合同企業説明会等の案内」76.9%,第 4 位「無 料で掲載できる道府県版就職支援サイトの開設」74.4%, 第 5 位「自道府県の企業紹介を目的とした冊子の作 成・配布」66.7%などが多く回答されており,就職関 連イベントの告知に加え企業情報の提供にも力を入れ ている様子が分かる。また U ターン就職希望者のた めの支援センターを設置し相談に応じる体制を作って いる道府県は多いが,これらの支援センターは一般の U ターン希望者の相談利用が多く東京駅・大阪駅近辺 など都心部に設置されているために,新規学卒者の来 場利用は少ないという。

Ⅶ.学生のニーズと地方県の就職促進策

 以上のように,地方道府県はかなり多方面にわたる 支援策を講じているが,それらは学生が求めているも のと合致しているのであろうか。図 2 は地方道府県の U ターン促進部署が考える「学生の U ターン就職動 機」とマイナビ調査による「学生の U ターン就職動 機」を比較したものである。実家で生活することの経 済的・生活的メリットはともに大きな割合で一致して いるが「保護者の U ターン希望に応える」は大きく 乖離している。独自に実施した福井県調査においても 「保護者の希望に応える」はそれほど大きな割合に なっていない。この辺りはもう少し学生の意識調査を 充実させることで,より有効な U ターン就職の促進 策が立案できるのではないか。  次に,地方道府県が実施している U ターン就職支 援策をいかに地元外に進学した学生に告知できるかが ポイントとなる。今回の訪問調査では,都市部で地元 企業の合同説明会を開催してもなかなか学生が集まら ないという声をよく聞いた。解決策の 1 つは高校卒業 時に連絡先を登録してもらい 3 年後に自道府県の就職 サイト登録を要請し,学生に直接就職イベント情報を 提供する方法である。福井県では学生へのメール伝達 の他,大きなイベントの案内は実家の保護者宛にも郵 送しており,その効果は地元外進学者のインターン シップの参加率が全国一(46.3%)になるなど表れて いる。6)高校卒業時に進学先での所在を把握できない 場合は,地元の就職情報サイトの開設を呼び掛け学生 からの登録を待つことになる。U ターン就職の希望に 関わらず,情報はできるだけ多くの地元外進学者に届 けることが有効であろう。  2 つ目は進学先の大学と連携し,大学の場を借りて の広報活動を展開することであろう。図 3 は全国道府 県の大学就職支援協定締結の状況を図示したものであ る。地域によりかなり差があることが認められる。今 回の 6 県の訪問調査からは,都市部との距離により大 学での活動に差がみられた。群馬県・栃木県など関東 地方の県では地元外進学者の大半が首都圏の大学に進 学する。そこで協定も首都圏の大学と多く結び,ジョ ブカフェの就職相談員等が交替で進学者の多い大学に 出向き複数回の就職相談会をきめ細かく開催している。 距離の近さから日帰りが可能であり,交通費負担も少 ないことで可能になる対策である。その一方で,四国 地方,中国地方の県は主として進学者の多い関西圏の 大学と協定を結んでいる。都市部の大学と距離がある 図 2 U ターン就職支援部署が考える「学生の U ターン動機」 出所:全国自治体 U ターン就職支援部署調査・マイナビ調査より筆者作成 2015 年 12 月実施 有効回答数 39 部署

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地域では,地元高校生の進学先を調査しそこに趣旨を 明記した就職支援協定の依頼状を送付する。郵送での 依頼のために数が多くなる。承諾が得られた大学と協 定を結ぶが,愛媛県などは関西圏に限らず,四国の近 隣県,中国地方の大学とも協定を結んでいる。距離が 離れるため直接の訪問よりも,地元での就職イベント の情報提供が多く,学生を地元に呼ぶことに主眼を置 いている。  福井県の場合は,人口の少なさから地元外進学の大 学生の数も少ないというハンデを持つ。また,地理的 条件から進学先が関西・中京・首都圏の大学に分散し ターゲットが絞りにくいという状況が生まれている。  訪問した大学の就職支援部署担当者によれば,U ターン就職率が高い石川県(60.0%),長野県(38.0%), 島根県(35.0%)7)などは非常に熱心でよく大学を訪問 して情報交換をしてくださるとのことで,大学との連 携は確かに一定の効果が期待できると思われる。但し, 協定の締結は昨年,一昨年ぐらいから急に増加してき たものであり本格的な効果が検証できるにはまだ少し 時間を要するであろう。

Ⅷ.まとめ

 新規学卒 U ターン就職の促進は,地方の人口減少 抑制に一定の効果はあると考える。しかしながら効果 をもたらすためには,複数の条件が整備されることが 必要である。まず地元の新規学卒者の雇用状況が好調 であることが挙げられる。前述のマイナビ調査におい ても U ターン就職を希望しない学生の割合が高かっ た鳥取県・山梨県・秋田県の学生は8),希望しない理 由について「志望する企業がない」ことを一番に挙げ ている。地元の雇用が少ない状況で生活面の有利さや 支援制度を打ち出したとしても,公務員等の一部の職 種の応募倍率を高めるだけで,場合によっては地元に 進学した学卒者の就職機会を奪う結果にもなりかねな い。  次に U ターン就職の志望者には,親の意向に応え る形などから当初から U ターンを考えその上で就職 先を考える場合と,やりがいのある仕事がある場合に 選択肢の 1 つとして地元就職を考える 2 つの傾向がみ られ,それぞれに適した支援策が必要になることであ る。この 2 つの学生の意識を踏まえ支援策を講じない と,売り手市場ともいわれる昨今の就職活動において は,後者の学生の U ターン率が減少する懸念も生じ る。  地方県は,ただ単に地元の暮らしやすさや企業の情 報を提供するだけでなく,学生のニーズを把握したう えでの有効な支援策を提供することが今後必要になる 図 3 大学との就職支援協定の締結状況 出所:自治体 U ターン就職支援部署調査より筆者作成 2015 年 12 月実施 有効回答数 39 部署 群馬県 106 愛媛県 71 栃木県 62 茨城県 61 佐賀県 54 長野県 32 香川県 11 徳島県 8 山梨県 7 山口県 7 岡山県 6 高知県 6 石川県 5 広島県 5 福井県 3 静岡県 3 島根県 2 鹿児島県 2 北海道 1 山形県 1

大学との就職支援協定の多い地域

100 大学以上 50 大学以上 5 大学以上 1 大学以上 群馬県 栃木県,茨城県,愛媛県,佐賀県 山梨県,長野県,石川県,岡山県, 広島県,山口県,香川県,高知県, 徳島県 北海道,山形県,静岡県, 福井県,島根県,鹿児島県

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であろう。  本研究に係る調査においては,訪問を受け入れてく ださった多くの自治体の U ターン就職促進部署のご 担当者の皆様,大学の就職支援部署の皆様,福井県の 関係者の皆様にご協力いただくとともに大変お世話に なりましたことにつき,この場をお借りしてお礼を申 し上げたい。 註 1) 掲載字数の関係で U ターン就職とするが I ターンも含め て考察する。 2) 厚生労働省雇用統計調査,2015 年 12 月による。 3) 福井県立大学経済学部 1 年生の「キャリアデザイン概論」 受講者に対しての質問票調査による。2015 年 6 月実施, 有効回答数 205 名。 4) 筆者が 2015 年 12 月に全国 44 道府県に実施した「U ター ン就職支援アンケート」の回答による。有効回答数 39 道 府県。 5) 同上の調査による。 6) 前掲のマイナビ調査による。 7) 前掲の「U ターン就職支援アンケート」の回答によるが, U ターン率の集計は統一されておらず,高校同窓会から の推計,企業の新入社員調査,U ターンイベント参加学 生の追跡調査からの集計など様々である。 8) 前掲のマイナビ調査において,この 3 県の学生は「U ター ン就職を全く希望しない」という回答が島根県 46.2%,山 梨県 43.9%,秋田県 43.3% と他県の学生より著しく高く なっている。 参考文献 [1] 江崎雄治「地方県出身者のUターン移動」『人口問題研究』 68 号,2007 年,pp.1-13. [2] 杉山成「大学生における地元志向意識とキャリア発達」 『小樽商科大学人文研究』2012 年,pp.123-140. [3] 中里弘穂「新入社員の就職意識とキャリア形成」『東アジ ア と 地 域 経 済 』 京 都 大 学 学 術 出 版 会,2009 年, pp.181-201. [4] 平尾元彦「大学生の地元志向と就職意識」『大学教育』第 3 号,2006 年,pp.161-168. [5] 米原拓矢・田中大介「地元志向と心理的特性との関係」 『地域学論集』第 11 巻,第 3 号,2015 年,pp.147~157. [6] 「2015 年 2016 年卒 マイナビ大学生 U ターン・地元就職 に関する調査」2014 年,2015 年実施 訪問調査大学・自治体  神奈川大学 関西大学 京都産業大学 京都女子大学 実践 女子大学 中京大学 同志社大学 明治大学 立命館大学  龍谷大学 福井県 長野県 栃木県 群馬県 愛媛県 香川 県

参照

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