195 生徒,生徒と教師の対話を成立させるための授業事例 が 3 つ紹介された。1 つは,プールは欲望なのか必要 なのかという問いかけから経済的な見方を培うという 実践例である。ここから財政の問題に発展させ,財政 がした方が良いサービスをあげさせ,それを生徒同士 の討論やクイズで絞り込んでゆくと言う授業である。 2 つ目は,マンダラとマトリックスを使った少子高齢 化対策の授業である。マンダラとは,ブレストをさせ たものをマンダラ式に最低 8 つ書かせるやり方である。 そこででてきたものを 2 つの価値軸によって作られた 4 つの立場に分けさせ,グループで少子化対策の提案 をさせる。それを踏まえて定期考査のなかで,その対 策の問題点を根拠と共に書かせると言う授業である。 3 つ目は,消費税アップと TPP の是非を問うという授 業実践である。KJ 法で作成させた作品をプレゼンし た後で,様々な立場に割り振ってグループで意見を書 かせ,それをさらに個人ではどうなのかを問いただす と言う重層的に仕掛けられた授業である。この授業で は,生徒が政党に手紙を出すまでの指導を行い,授業 の結果を社会的に確認し発信した実践である。質疑で は,全体のバランスと時間配分はどのくらいか,定型 的に考える方法を教えるような授業は構想しないか, 宿題などは出すかなどが出された。それに対して,中 学校ではきっちり知識を与える部分も確保して,思考 方法を育てる授業と,ゲーム的なもの,討論をバラン スよく配置するようにしている,課外の宿題なしに毎 回驚きや発見をもとに授業に引き入れるようにしてい るとの回答があった。追究したい,一言言いたい,早 く知りたいという「3 たい」を実現させるすぐれた実 践家の報告であった。 今回の 3 本の報告は,大会テーマの「経済教育の新 しい地平」を教室における授業から作ってゆこうとす る試みの提示であり,参加者に強いインパクトを与え たものであったと言えよう。 (文責:新井明,あんびるえつこ) 第 4 分科会 第 4 分科会のテーマは「キャリア教育」である。座 長は泉美智子(鳥取環境大学)と加納正雄(滋賀大 学)が務めた。3 件の報告が行われたが,いずれも 30 分の報告と 10 分の質疑応答を行った。 第 1 報告は田中淳会員(東京都立産業技術高等専門 学校)の「就職力育成を目指した科目の授業設計」で ある。内容は,「キャリアデザイン」の授業実践につ いての報告である。 報告後の質疑応答に関しては以下のとおりである。 教育効果をどのように測るか,という質問に対して は,自己 PR の文章,キャリア理論の筆記テストなど で測る。成績は,これらと出席率で評価する,という ことであった。 就職に関して学校推薦の基準は何か,という質問に 対しては,第 1 希望から第 3 希望まで書かせる。成績 順に 1 人 1 社推薦する,ということであった。 第 2 報告は横田数弘会員(富山高等専門学校)の 「学生の企業研究発表を中心に位置づけた経営学の授 業実践」である。内容は,「経営学概論」の授業実践 についての報告である。この実践の成果と問題点が報 告された。 報告後の質疑応答に関しては以下のとおりである。 グループ分けはどのようにしたか,という質問に対 しては,グループ分けは生徒に任せたということで あった。 商業高校の教員から,経営アドミニストレーション やマネージメントが重要だと考えている,という発言 があった。 女子の割合はどうなっているか,という質問に対し ては,国際ビジネス科の場合,40 人中の 4-5 人が男子 である,ということであった。 富山大学への編入が多いということだが,富山大学 との関係は何か,という質問に対しては,関係がある わけではない。他の国立大学への編入(転入)もある, ということであった。 第 3 報告は中嶌剛会員(千葉経済大学)の「女性公 務員の継続就業意思の決定要因」である。内容は, 2011 年に行った「若手公務員の就業意識調査」から わかったことの報告である。入職時のどのような要因 がキャリア形成にどんな影響を与えているかという観 点から,女性の地方公務員の場合,入職時の状況が固 定化しがちな職業はリスクが高いということが報告さ れた。 報告後の質疑応答に関しては以下のとおりである。 男性公務員の入職前の就業継続意思が,女性よりも 低いのはなぜか,という質問に対しては,理由はわか らないということであった。 女性の地方公務員の場合,入職時の状況が固定化し がちな職業はリスクが高いという場合の,リスクとは 何か,という質問に対しては,継続の障害や離職のこ とであるが,リスクという言葉は言い過ぎかもしれな い,ということであった。
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196 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 以上が第 4 分科会の状況である。午後から台風が東 京に接近したために,聴衆が少なかったのが残念で あった。 (文責:加納正雄) 第 5 分科会 第 5 分科会は,「ゼミナール・少人数教育」をテー マに,以下の 3 つの報告が行われた。 第 1 報告は,水野勝之会員(明治大学)と井草剛会 員(明治大学)による「震災復興コミュニティビジネ スの実践教育」であった。「コミュニティビジネスを 学ぶとともに,実際に震災復興に貢献する」という教 育実践について,浦安市と千代田区神田での被災地サ ポートマルシェなどの活動における,学生による企画 と実践について報告された。出席者からは,この活動 について企業からの評価はどうだったか,このプログ ラムの結果をどのように評価するか,教員側がどこま でセットするか,自由に設計させるか,などの質問が 出された。外部資金を得るなど外部からの客観的評価 があったこと,学生を育てる上で実践による変化が育 つ機会となること,教員側がレールを引き誘導する中 で大学生の発想が発揮されることなどの回答があった。 第 2 報告は,金子能呼会員(松本大学松商短期大学 部)による「ゼミナールにおける実践的マーケティン グ活動による教育効果」であった。担当するゼミナー ルで地元 JA からの依頼で 2009 年から始まったおにぎ り専門店のマーケティング活動の実践について,あら ゆるマーケティング活動に挑戦した経過が示された。 その中で,学生は困難に向き合うことで主体的・能動 的に活動する姿勢を身に付け,就職での成果にもつな がること,モチベーションに個人差があることや短大 のため引き継ぎに困難があることが課題であると指摘 された。出席者からは,意欲を持たせるために気をつ けたこと,アウトキャンパスでかかるお金についての 補助はあるか,うまく行かない時が学ぶチャンスだが, 行きづまった場面はあったか,などの質問が出された。 意欲を持たせるためには,周りの学生に相談し「みん なでやっていこう」という雰囲気をつくること,学校 からアウトキャンパスには補助が出ること,行きづま ることは多々あったなどの回答があった。 第 3 報告は,川西重忠会員(桜美林大学)による 「ロシアモスクワにおける日露関係ゼミの実態報告」 だった。サバティカル先のモスクワで研究の余暇を活 用して自室を学生に開放して 3 カ月にわたり開講され た「モスクワゼミ」の報告。ゼミ生は日本の大学から の派遣留学生,自費留学生,高校生など 12 名で,ゼ ミ生全員の研究報告と日露の専門講師による日露関係 の講義,モスクワ駐在の企業トップの講義など。「モ スクワゼミ」が問いかけたものとして,女性の優位性, モチベーションの意義,モスクワの地の利と冬期のタ イミングなどが上げられ,とくに女性のエネルギッ シュな活躍から日本の将来への希望と日露交流の発展 への期待が指摘された。出席者からは,ゼミ生の報告 の中身,ゼミ生の集まり方などの質問が出され,報告 の中身が紹介され,ゼミ生は自然発生的に集まったと の回答があった。 (文責:長谷川義和) 第 6 分科会 第 6 分科会では,「中学校・高等学校における経済 教育(2)」をテーマに以下の 3 報告が行われた。 第 1 報告は,新井明会員により「教科書と経済教育 ─1960 年代の高校教科書の分析から─」の発表がな された。参加者は 11 名であった。 本報告では,日本の経済教育の特質の原点を検証す るにあたり,昭和 35 年改訂の学習指導要領・指導 書・教科書を対象としつつ,学習指導要領の変遷とそ の構造の検証を踏まえた詳細な検証に基づく興味深い ものであった。 この発表に対して,当時の教科書内容の市場経済の 記述部分の特色に関して,アメリカのスタンダードと 比較しての意見や執筆者の考え方や学問的背景の影響 ついての質問や意見,また教科書の作成にあたっての 国家戦略の有無に関する質問が出され,活発な議論が なされた。 第 2 報告では,金子浩一会員により「商業高校科目 「マーケティング」 と大学の経済・経営系科目との接 続性」の発表がなされた。参加者は 7 名であった。 本報告では,商業科「マーケティング」の内容と公 民科科目との相違や大学の経済学・経営学との接続性 を調査することに加えて,大学での学習内容との相違 等を文献調査した中から相互の授業での活用について 検討した報告であった。 この発表に対して,商業科の生徒が教科書内容をど れくらいマスターしているか,またマスターすべきか の質問や意見が出された。これにあわせて,教える側 の注意が必要であるとの指摘がなされるなど,幅広い 議論がなされた。 第 3 報告では,松井克行会員により「原発事故問題 から考える経済学習─高等学校公民科 「現代社会」 で
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