DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.20
オープンイノベーションに向けた製品の企画と設計に関する
総合的教育プロジェクト “KADEN Project”
笠 松 慶 子*・相 野 谷 威 雄
首都大学東京
KADEN Project : Comprehensive Education Project on Planning and
Design of Products for Open Innovation
Keiko Kasamatsu* and Takeo Ainoya
Tokyo Metropolitan University
As the opportunity to use the computer in life increases rapidly, more natural relationships between computer and the human being rather than the traditional relationships between them are needed. Under these circumstances, it is difficult to correspond to developing a new product in the conventional idea. Therefore, manufacturing innova-tion through new thinking has become necessary. One of the methods which create new ideas to secure the quality of the relationship of the product and human is to find the many participants in manufacturing and to integrate the knowledge between different fields. Therefore, in order to perform the manufacturing integrated, we aim to con-struct a cognitive sharing model for sharing the recognition of each other, and take advantage of the expertise of each using the shared recognition. In this paper, we propose a process that worked as project-based educational ac-tivities KADEN Project .
Keywords: PBL (Project Based Learning), open innovation, design, collaboration
は じ め に これまで日本の産業を支えてきたマーケットインで は,市場の顕在的ニーズから製品開発を行ってきたが, 性能・機能が飽和状態にあり,真にユーザが何を求めて いるのかについて改めて考えることと同時に,これまで の製品開発にとらわれない新しい発想が必要となってい る。つまり,製品開発への考え方の再構築やユーザニー ズに対する考え方に対するイノベーションが強く求めら れており,次代の産業人には,現在の日本の閉塞状況を 打破する新しい能力をぜひとも修得させねばならない。 デザイン分野では,イノベーションを達成する考え方と して,d.school (http://dschool.stanford.edu/)やIDEO (http://www.ideo.com/jp//)に代表されるようにデザイン 思考が注目されている。IDEOはデザイン思考をリード するイノベーション・コンサルティングファームであ り,開発を手掛けた製品やサービスには,未来から求め られる人間生活視点の価値デザインが組み込まれており 広 い 領 域 で 成 果 を 上 げ て い る。IDEO の president and CEOであるTim Brownは“Design thinking is a human-cen-tered approach to innovation that draws from the designer s toolkit to integrate the needs of people, the possibilities of technology, and the requirements for business success.”と述 べている。このように,これからのデザインは技術の可 能性を活用し,ビジネスとして成立し,人間生活を価値 あるものにするために必要不可欠なものである。そのた め,デザインプロセスにおいてイノベーションのための 工夫が求められている。デザイン思考を行うことによっ て直ちにイノベーションが起こるわけではなく,そこに は,基盤となる知識,クリエイティビティやコラボレー ション力など多様な力が必要となってくる。人と製品の 関係性の質を担保する新しい発想を生み出すためには, ものづくりに関わる人材の異分野間融合がその方法の一 つになりうる。そのため,我々は統合されたものづくり Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Department of Industrial Art,
Faculty of System Design, Tokyo Metropolitan University, 6–6 Asahigaoka, Hino-shi, Tokyo 191–0065, Japan. E-mail: [email protected]
を推進するための意思共有モデルを構築することを目指 している。本研究では,その取り組みの一つとして,プ ロジェクト型教育活動であるKADEN Projectのプロセス を紹介する。 オープンイノベーションのための オープンディベロップメント 外部との連携によりさまざまな専門性が交差し,今ま で辿り着かなかった開発を可能にすることがオープンイ ノベーションの目的とすると,これまでのシーズを提示 する方法では,知の共有化が難しいと考えられる。工学 という分野では,再現性やデータの正確さなど技術構築 のための知の集積化がさまざまな領域・場所で行われて いる。しかし,現状では,そのすべてが活用され,製品 化に辿り着いているわけではない。 一方で,製品開発においてデザインの価値が注目され ている。デザインという分野では,ニーズの顕在化や, 今まで意識できなかった価値に関してアプローチはでき たとしても,その解決法のためのシーズと結びつけるス テージまで到達することは難しいことが多い。解決法の ためのシーズと結びつけるプロセスでは,専門性をもっ たメンバーとの協働が適切に行われることが必須であ り,協働なしには製品化,いわゆるパッケージ化された シーズの集積化が行われにくい状況となる。 このプロセスの中で,デザイナーは問題解決のために 多角的なフレーミングによって,問題の意識化を行い, ニーズとしてまとめ,パッケージとしてのデザイン案を 提示することができる。しかし,具体的な技術内容を含 めた提案ではないため,実現可能なパッケージ化とは必 然的にギャップが生まれているのが現状である。 KADEN Projectでは,このパッケージ化されるプロセ スにおいて,工学シーズの提示と,目的実現のための方 法の共有化を目的としたシーズの翻訳および,その技術 を短期間で実働化することにより目的の明確化を行う。 このプロセスを行うことにより,パッケージとしてのデ ザインクオリティを追求するのではなく,提案される技 術の更なる可能性を提示するためのパッケージとして機 能することを目指している。 KADEN Projectについて KADEN Projectは,大学院のPBL形式の授業として実 施し,エンジニア系の学生とデザイン系の学生が協働作 業を行うプロジェクトである。このプロジェクトは3か 月という短期間でありながら,新しい家電やそれに関連 するプロダクトを設計・デザインし,実働するプロトタ イプを製作,成果発表を実施することにより,イノベー ティブな知的生産物を創造するスキルを身につけてもら うことを目的としている。さらに,成果物の知財管理と して,特許や意匠登録の申請,ビジネスモデルへの発 展,起業家的視点を学ぶ。また,グループ活動を中心と して,よいアイデアを考え出す経験を積み,協働する人 の特性や得意分野を活かし,自己表現のデザインではな く,目的のためのデザインを行う。「教わる」教育では なく,「自ら学び,考え,行動する力を養成する」教育 を目指したもので,自ら活用し応用できる能力の育成を 目指し,協調的でクリエイティブなものづくりに挑戦す る場を創造している。イノベーションデザインの視点で の発想法を軸にしながら,学内にある研究シーズや技術 を活用し,デザイナーとエンジニアが協働創造するプロ セスの教育を行い,高度専門職業人として素養の養成, そして長期的にはリカレント教育を志向した活動を行 う。 KADEN Projectにおけるデザインプロセス 現代におけるイノベーションを感じさせる製品の実現 のための方法として,設計の初期段階でシーズから発想 し,ユーザのニーズと結びつける。シーズを踏まえた製 品アイデアをデザイン思考の手法を応用して発想,概念 化していくことによって,問題点や新しい技術の使用法 を発見し新しい価値へとつなげる製品コンセプトを実現 することができる。デザインプロセスの中で起こりうる 問題の一つとして,専門分野の違いによる認知モデルの 相違がある。つまり,専門分野が異なるメンバーでチー ムは構成されるため,ディスカッションの中で意図する 内容をうまく認識できないという問題が起こりうる。そ こで,本プロジェクトでは,プロセスの中で異なる専門 分野の知識をいかにして伝えるか,お互いの意識を共有 するかに重きを置いて進めていった。そのための方法と して,製品におけるイメージを早い段階で視覚化するこ とにより認知モデルの相違を防ぐ方法を用いた。デザイ ン系の学生によるスケッチやコラージュを用いてビジュ アルブレインストーミングをチームの中で行うことがで き,アイデアの実現に向けた協働作業が可能となった。 主なプロセスは以下の 5つのステップである。(Fig-ure 1) (1) 提案する製品を決定するための調査 (2) 問題発見・分析 (3) アイデア発想,コンセプト設定: この段階でシー ンスケッチやコラージュを多用し,目標とする製 品が持つイメージを共有する。加えて,製品に必
要な機能,ユーザニーズについても検討する。 (4) プロトタイピング: スタイリングスケッチ,設計 要件の検討,ダーティープロトタイピング,リア ルタイムレンダラ― (5) 実働検討モデル製作 開 発 事 例 ここで,KADEN Projectで開発された3つの事例を紹 介する。 1) Feeling Navi “Feeling Navi”は振動を用いたナビゲーションプロダ クトである。(Figures 2 and 3)問題として挙げられた点 は,道に迷いやすい人は分岐点や曲がり角を通るたびに 方向感覚を失ってしまう傾向があるため,頭の中で地図 が作れず,立ち止まって地図を確認しなければならない ということであった。そこで,“Feeling Navi”では,歩 行者の方向感覚を常に保つことで,視覚に頼らない振動 によるナビゲーションを行うシステムを開発した。 “Feeling Navi”は,首にかけて使い,首の左右と後ろに 設置した bodysonicにより振動する。そのことにより, 地図を見るという視覚に頼らないナビゲーションを実現 することができ,方向感覚を保ったまま目的地に到着す ることができる。さらに,視覚障がい者のためのナビ ゲーションとしても有用であると考えられた。
2) good sleep maker
“good sleep maker”は,1/fゆらぎに着目したオフィス における短時間仮眠のための抱き枕である。(Figure 4) これは,職場での休憩を快適に過ごすためのプロダクト を要望として提案され,それを実現するため,1/fゆら ぎに着目した効果的な仮眠環境を提供するための製品開 発を行った。15∼30分程度の仮眠は仕事の効率を上げ る効用があるとされており,パワーナップといわれてい る。パワーナップを導入している企業もあり,働く人の 健康を促進するための装置となり,新しい働くスタイル の提案ともなり得る。装置の側面が,1/fゆらぎで収縮・ 膨張することで,生物を抱いているような安心感が得ら れ,リラックス効果を与える香りを出すことができるも のとした。 3)よりべんならず “よりべんならず”は,傾き検知でお弁当の中身が片 寄らないお弁当箱である。(Figures 5∼7)従来のお弁当 箱では,持ち運ぶ際に傾いてしまい中身がグチャグチャ Figure 1. The design process on KADEN Project.
Figure 2. Image sketch of Feeling Navi.
Figure 3. Prototype (left) and actual working study model (right) of Feeling Navi.
になってしまう,いわゆる“寄り弁” という現象がしば しば発生する。ユーザエクスペリエンスを検討し,せっ かくの昼食が台なしになってしまい,お昼時に落胆して しまった経験に注目した。 “よりべんならず”には,お弁当箱に加速度センサー をつけ,傾きをリアルタイムで検知することによって, 内部を水平に補正する機構を取り入れた。これによっ て,お弁当の中身がグチャグチャにならず,心地よいお 弁当ライフを実現することになる。 プロジェクトのプロセスと求められる能力 KADENプロジェクトでは,テーマから協調設計のた めのコンセプトを共有する。この共有によりメンバーの 意識や志向を考慮し,テーマに対する提案イメージを確 定し,プロトタイプ製作も含めた「できることとは何 か」を計画する。その中には,大学内にあるシーズだけ でなく,今後研究シーズとして発展できるようなアイデ アも含まれる。また,メンバーのモチベーションやスケ ジュール管理などの人的マネジメントも重要な要素とな り,総合的な判断能力を必要とする。アイデアやプレゼ ンテーションなどの成果物だけでなく,内省的な動機づ けが共有されているかがポイントといえる。 従来のプロジェクトでは,成果物を見ることにより判 断することができたが,本プロジェクトはコンセプトを 理解し共有することによる,内省的な動機づけを意識す ることが求められる。協調するという意味において,そ の共有は合意だけでなく活発な意見交換なく展開するこ とはできない。また,専門性の異なるメンバーの内省的 な動機づけには,相互にコミュニケーションできる能力 が求められる。そのうえ,従来とは異なるコラボレー ション実現のためのプロセスを考えなくてはならない。 これらは「自ら,学び,行動する」力のための指導とい うことだけではなく,高次元のコミュニケーション実現 のための問題解決能力そのものであり,この結果が成果 物として反映される。このため,総合的な提案力として のシステムデザイン力には,コミュニケーション実現力 も含まれており,そのコミュニケーションの方法や内容 を考慮したプロジェクトマネジメント能力も必要であ り,今後求められる評価軸と重要視するべきであると考 えられた。 考 察 本研究では,お互いの意思を共有し,その共有意識に よってそれぞれの専門性を活かし,インテグレートされ たものづくりを推進するための意思共有のためのモデル Figure 4. Prototype (left) and actual working study
model (right) of good sleep maker.
Figure 5. Image sketch of Yoriben-narazu.
Figure 6. Real time rendering of Yoriben-narazu.
Figure 7. The actual working study model of Yoriben-narazu.
構築に向けた知見を得ることを目指した。その取り組み の一つとして,プロジェクト型教育活動のプロセスを提 案した。今回の活動の中で,認知の側面から見られた特 徴として,デザインイメージ先行タイプとエンジニア型 構築タイプが認められた。これらの2つのタイプの認知 を共有するために,早い段階でスケッチやイメージコ ラージュを用いることによって,良いコンフリクトを起 こし,意識がインテグレートされ,イノベーション性の 高い製品が提案されたといえる。 従来の開発プロセスでは,コンセプト設定が行われ設 計要件が決められた後に,イメージスケッチやコラー ジュを用いることが多いが,今回の開発プロセスでは, イメージスケッチやコラージュをその前に用いることに よって,早い段階で共有した認知を持つことができた。 そのため,コンセプトと設計要件が明白になり,その後 の活動がスムーズに行われたと考えられた。 お わ り に 本研究では,新しい発想を生み出すため,専門性を活 かしインテグレートされたものづくりを目指し,意思共 有のためのモデルを構築するため取り組んだ。大学院生 を対象としたプロジェクトではあったが,異分野の専門 性をもつ学生が認知や意思を共有するため,イメージス ケッチを用い,ディスカッションを繰り返すことによっ て,実働プロトタイプまで製作した。このプロセスによ り技術とデザインの理解を深め,協働的な問題解決を経 験することができた。本プロジェクトの成果として,毎 年開催されているDigital Contents EXPOに出展し,マス コミや企業からの注目を集めた。さらに,大学の就職求 人情報の増加という成果が得られた。今後の課題として は,デザインプロセスに意思共有モデルの導入方法につ いて検討し,一方,オープンデータとしてのデータベー ス化を行い,オープンディベロップメントのためのシス テムを構築してくことを目指す。