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助産実践能力習熟段階レベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケア経験からの学習

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Academic year: 2021

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助産実践能力習熟段階レベルIの助産師の分娩期の

ハイリスク妊産婦ケア経験からの学習

Lessons learned from experiences by Clinical Ladder of

Competencies for Midwifery Practice Level I Midwives in the

care of women with high-risk pregnancy in the delivery stage

松 井 弘 美(Hiromi MATSUI)

*1

齊 藤 佳余子(Kayoko SAITO)

*2

二 川 香 里(Kaori FUTAKAWA)

*2

笹 野 京 子(Kyoko SASANO)

*2

長谷川 ともみ(Tomomi HASEGAWA)

*2 抄  録 目 的 助産実践能力習熟段階レベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケア経験からの学習を明らかに する。 対象と方法 研究デザインは質的記述的研究。X 県内の総合周産期母子医療センター,地域周産期母子医療セン ター,二次医療機関に勤務する助産実践能力習熟段階レベルIの助産師で,分娩期のハイリスク妊産婦 ケアの経験のある助産師20名に,半構成的インタビューを実施しデータを得た。経験からの学習とし ての助産師の感情,思考と行動,経験から獲得した知識に関する内容に焦点を当て抽出し,コード化を 行った。コード間の類似性と相違性の検討をし,サブカテゴリー,カテゴリーへと抽象化した。 結 果 助産実践能力習熟段階レベルIの助産師は,分娩期のハイリスク妊産婦ケア時の感情として【異常な 状況への恐怖】【ハイリスクに対応する不安】【他の助産師・医師のサポートによる安心】【助産師として の自覚による勇気】の否定的感情と肯定的感情を抱いていた。ケア中は,【知識の妥当性の確保】をしな がら,【知識の発展的活用】を行っていた。その一方,未経験や感情バイアスの作用による【対応困難】 な状況も見られた。 ハイリスク妊産婦ケアの経験を通して獲得した知識は,【ハイリスクに関する学習方法】【母体の身体 的アセスメントとそれに基づく教育の必要性】【ハイリスクへの対応】【医療チームによる連携】であっ た。 2018年5月10日受付 2019年5月5日採用 2019年6月30日公開

*1富山県立大学(Faculty of Nursing, Toyama Prefectural University)

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結 論 助産実践能力習熟段階レベルIの助産師は,否定的・肯定的感情のバランスを取り,先輩助産師,医 師により知識の妥当性を確保し,知識を発展的に活用してハイリスク妊産婦のケアを実践することで, 母体の身体的アセスメントやハイリスクへの対応,医療チームによる連携についての知識を積み重ねて いた。 また,事例を振り返ることでハイリスクに関する学習方法を学んでいた。 キーワード:助産実践能力習熟段階,レベルI,ハイリスク妊産婦ケア,経験,学習 Abstract Purpose

The purpose of this study is to determine the lessons learned from experiences by midwives who are Level I of Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice in the care of women with high-risk pregnancy in the delivery stage.

Participants and Methods

The study design was set as a qualitative description study. A semi-structured interview was carried out on twenty Level I midwives working at general perinatal medical centers, regional perinatal medical centers, or secondary medical agencies in X prefecture, with experience in caring for women with high-risk pregnancy in the delivery stage. The data were transcribed, interpreted, summarized, and classified into categories and subcategories depending on the similarities and differences between the emotions, thoughts and behavior, and knowledge acquired from experience of the midwives.

Results

Midwives who are Level I according to the Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice experienced positive feelings and negative feelings of“fear of abnormal situations”, “anxiety corresponding to high risk”, “relief by support from other midwifes / doctors”, and “courage of self-awareness as a midwife” when caring for women with high-risk pregnancy in the delivery stage.

During care, the midwives engaged in “making progressive use of knowledge” while “ensuring adequacy of knowledge” and acting.

On the other hand, “difficulty in responding” due to inexperience and the effects of emotional bias was also observed.

Knowledge acquired through experiences in caring for women with high-risk pregnancy included “learning method about high-risk”, “physical assessment for the maternal body and the need for education based on it”, “re-sponse to the high-risk cases”, and “coordination by the medical team”.

Conclusion

Midwives who were Level I according to the Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice accumu-lated knowledge on physical assessment for the maternal body and response to high-risk cases, coordination by the medical team by balancing negative and positive feelings, ensuring the adequacy of knowledge by senior midwives and physicians, and practicing care of women with high-risk pregnancy by making progressive use of knowledge. More-over, they learned study methods for high-risk situations by reviewing previous cases.

Key words: Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice, Level I, care of women with high-risk pregnancy, experience, learning

Ⅰ.緒   言

今日,出産年齢の高齢化,不妊治療後の妊娠の増 加,基礎疾患を持つ女性の妊娠の増加から妊産婦のハ イリスク化が著しい状況にある。妊娠リスクスコア別 でみると,中等度リスクからハイリスクの妊産婦の分 布は,周産期センターにおいては妊娠初期は73%,妊 娠後期になると 84% に増加し(岡田他,2013),診療 所では,妊娠初期は 41.2%,妊娠後期には 16.9%(金 森他,2013)と報告されている。このような状況から 助産師には入職時からリスクの高い妊産婦へ対応して いくための能力が求められている(中林,2010)。 日本看護協会は助産師の実践能力の強化に向け現任 教育を体系化するため「助産実践能力習熟段階」を設

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定し,段階的な教育目標を提示している(日本看護協 会,2013)。ハイリスク妊産婦への対応は就業2~3年 の助産実践能力習熟段階レベル I(以下レベル I)より 開始となる。このような現任教育において,助産師が ハイリスクに関するケア能力を段階的に習得できるよ う支援するには,当事者の視点から学習過程を明らか にすることが必要であると考える。そこで,本研究で はレベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケア 経験からの学習を明らかにすることを目的とした。 〈用語の定義〉 ハイリスク妊産婦:ハイリスク妊娠スクリーニング 表(竹内,1991)では,分娩前・分娩中因子の合計が 0~5 点は low risk,6~9 点は medium risk,10 点以上 はhigh riskと分類される。これに基づき分娩前・分娩 中因子が10点以上の妊産婦とした。 経験からの学習:助産実践能力習熟段階レベルIの 到達目標は「ハイリスク事例についての病態と対処が 理解できる」(日本看護協会,2013)であり,知識の獲 得を学習の成果としている。本研究で明らかにしたい 学習は,ハイリスク妊産婦ケアという経験から構成さ れる学びであることより,Kolb の経験学習モデル (Kolb, et al. 2005;石倉,2016)およびMarzanoの学習 の次元(石井,2005)を参考とし,学習への動機づけ となる感情,思考と行動,経験により獲得した知識を 経験からの学習とした。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン レベルIの助産師の語りから,分娩期のハイリスク 妊産婦ケアの経験からの学習を分析する質的記述的研 究である。 2.研究協力者 X県内の総合周産期母子医療センター,地域周産期 母子医療センター,二次医療機関に勤務するレベルI の助産師(就業2~3年)で,分娩期のハイリスク妊産 婦ケアの経験のある助産師とした。 3.データ収集方法 データ収集は半構成的インタビューにより行った。 インタビューガイドに沿って,ハイリスク妊産婦ケア 時に感じたこと,考えたこと,行動したこと及びそこ か ら 得 た 知 識 に つ い て 語 っ て も ら っ た。 イ ン タ ビュー内容は研究協力者の了承のもと,録音し逐次記 録したものをデータとした。 4.データ分析方法 分娩期のハイリスク妊産婦ケア経験におけるレベルI の助産師の感情,思考と行動,その結果獲得した知識 を分析した。具体的な分析手順は,以下の通りである。 1) 研究者間で逐語録を繰り返し読み,共通した データの理解を行った。 2) データより助産師の感情,思考と行動,経験か ら獲得した知識に関する記述内容に焦点を当て 抽出し,コード化した。 3) コードの類似性,相違性を検討し,類似したも のをサブカテゴリーとした。 4) サブカテゴリーの意味の類似性に基づきサブカ テゴリーを集約し,カテゴリーとした。 尚,複数施設によるデータのトライアンギュレー ション,研究者間によるデータ分析・結果の評価によ り信用性の確保に努めた。 5.倫理的配慮 本研究は,富山大学人間を対象とし医療を目的とし ない研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認 番号 人 28–01)。研究協力機関の責任者に研究の趣旨 を書面と口頭で説明し,研究協力を依頼し,研究協力 の得られた施設に所属する助産実践能力レベル I(就 業2~3年)の助産師に,研究について書面と口頭で説 明を行った。研究の参加や途中辞退は自由意思であ り,拒否した場合に不利益を被ることはないこと,個 人情報・施設名は匿名化し特定されないこと,研究の 公表予定などを文書と口頭で説明し,同意書の署名を もって研究協力の承諾とした。インタビューは研究協 力者のプライバシーを厳守するため個室で行った。

Ⅲ.結   果

1.研究協力者の属性 研究協力者はX県内の5施設に勤務する助産師20名 であった(表1)。助産師としての就業年数は2年目10 名,3年目10名であった。分娩介助例数は6例~60例 (中央値26例),ハイリスク分娩介助例数は1例~24例 (中央値6例)であった。以上より所属施設,分娩介助 例数,ハイリスク分娩介助例数の多様性は確保された。

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2.レベルIの助産師のハイリスク妊産婦ケア経験か らの学習 インタビュー時間は 28.3±6.1 分であった。語られ た経験事例は一人につき1例から4例であった。 文 中 の【 】は カ テ ゴ リ ー,〈 〉は サ ブ カ テ ゴ リー,「 」はコード,( )はコード数を示す。 1)レベル I の助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケ ア時の感情 ハイリスク妊産婦ケア時の感情として,【異常な状 況への恐怖】【ハイリスクに対応する不安】【他の助産 師・医師のサポートによる安心】【助産師としての自 覚による勇気】の 4 つのカテゴリーから成っていた (表2)。 ①【異常な状況への恐怖】 【異常な状況への恐怖】は全員が感じていた。恐怖 は〈胎児心音の異常(19)〉〈産婦の血圧変動(7)〉〈分娩 時異常出血(5)〉〈新生児の異常(4)〉〈回旋異常(2)〉 〈複数のハイリスク分娩の同時進行(1)〉の6つのサブ カテゴリーから成っていた。「急に胎児心音が下がる かもしれないことに怖いと思った」「想定以上に血圧 が上昇したことに驚きと怖さを感じた」「予想以上に 同時に分娩が早く進行し怖かった」など,異常な状況 に対して恐怖を感じていた。 ②【ハイリスクに対応する不安】 【ハイリスクに対応する不安】は全員が感じていた。 不安は〈ハイリスク分娩の介助(9)〉〈ハイリスクに伴 う観察内容,技術(7)〉〈ハイリスク分娩経過の予測と 対応(5)〉〈複数産婦の分娩経過観察(4)〉〈新生児蘇生 技術の実施,介助(4)〉〈産婦の血圧変動時の対応 (3)〉〈自分一人の判断に基づく行動(3)〉〈複数の問題 への対応(1)〉の 8 つのサブカテゴリーから成ってい た。「双胎の分娩介助は,不安な気持ちと介助への責 任感が混在していたが,分娩の進行とともに自分で大 丈夫なのかと不安が強くなっていった」「ハイリスク は基礎疾患があり,分娩時に異常となると通常の分娩 とは違うモニタリングや観察が必要となるので不安で あった」など,ハイリスクな状況に対応することに不 安を感じていた。 ③【他の助産師・医師のサポートによる安心】 【他の助産師・医師のサポートによる安心】は1つの サブカテゴリーから成っていた。「医師も産婦の状況 を気にかけており,サポートの助産師もついているこ とより安心していつでも相談できた」と,他の助産師 ・医師によるサポートがあることに安心していた。 表1 研究協力者の属性 研究協力者 所属施設 助産師入職年数 看護師経験 分娩介助例数 ハイリスクの分娩介助例数 A a病院 総合周産期母子医療センター 2年目 無 6 1 B a病院 総合周産期母子医療センター 2年目 無 6 1 C a病院 総合周産期母子医療センター 3年目 無 17 4 D b病院 地域周産期母子医療センター 2年目 有 41 4 E b病院 地域周産期母子医療センター 3年目 無 60 20 F c病院 二次医療機関 2年目 無 39 2 G c病院 二次医療機関 3年目 無 37 5 H c病院 二次医療機関 2年目 無 25 4 I c病院 二次医療機関 3年目 無 41 2 J d病院 二次医療機関 2年目 無 22 10 K d病院 二次医療機関 2年目 無 31 5 L d病院 二次医療機関 2年目 有 18 5 M d病院 二次医療機関 3年目 無 45 20 N d病院 二次医療機関 2年目 無 26 10 O d病院 二次医療機関 2年目 無 21 10 P d病院 二次医療機関 3年目 無 55 22 Q e病院 地域周産期母子医療センター 3年目 無 25 20 R e病院 地域周産期母子医療センター 3年目 無 16 7 S e病院 地域周産期母子医療センター 3年目 無 27 15 T e病院 地域周産期母子医療センター 3年目 無 30 24 中央値 26 6

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④【助産師としての自覚による勇気】 【助産師としての自覚による勇気】は1つのサブカデ ゴリーから成っていた。「助産師は自分しかいないの で逃げることはできない。自分がやらないといけな い」「できれば受持ちたくないが助産師として経験を 積む機会であり勇気を出して受持ちとなった」と助産 師としての自覚から勇気をもってハイリスク妊産婦に 対応していた。 2)レベル I の助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケ ア時の思考と行動 ハイリスク妊産婦ケア時における助産師の思考と行 動は,【知識の妥当性の確保】【知識の発展的活用】【対 応困難】の3つのカテゴリーから成っていた(表3)。 ①【知識の妥当性の確保】 【知識の妥当性の確保】は全員が行っていた。〈専門 家の意見を根拠とした知識の妥当性の確保(28)〉〈確 証された情報を根拠とした知識の妥当性の確保(5)〉 〈確証された情報と専門家の意見を根拠とした知識の 妥当性の確保(3)〉の 3 つのサブカテゴリーから成っ ていた。〈専門家の意見を根拠とした知識の妥当性の 確保〉は,「分娩時出血が多い事例や胎盤が剥離しない 事例を経験したことがなく,おかしいとは気づくが予 表2 レベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケア時の感情 カテゴリー サブカテゴリー 具体例 (コード数) 異 常 な 状 況 へ の 恐 怖 胎児心音の異常 ・急に胎児心音が下がるかもしれないことに怖いと思った・誘発は胎児の負担となるので,誘発中に心音が下がることが怖かった  (19) 産婦の血圧変動 ・顔がむくんでいる産婦を見て,さらに血圧が上がると感じ,怖くて誰かに代わって欲しいと思った・想定以上に血圧が上昇したことに驚きと怖さを感じた  (7) 分娩時異常出血 ・巨大児で出血が予測され怖いと感じた・学生の時は分娩室でとるだけのお産が多く,振り返りもしっかりできていないし出血も見ていないの で分娩時出血が多い時は怖い   (5) 新生児の異常 ・帝王切開になり児が無事に生まれてくればよいが,状態が悪かったらどうしようと思い怖かった・新生児が死んだらどうしようと怖くてならなかった  (4) 回旋異常 ・心音は落ちてくるし,回旋は回らないし,すごく怖かった  (2) 複数のハイリスク分娩 の同時進行 ・予想以上に同時に分娩が早く進行し怖かった  (1) ハ イ リ ス ク に 対 応 す る 不 安 ハイリスク分娩の介助 ・双胎の分娩介助は,不安な気持ちと介助への責任感が混在していたが,分娩の進行とともに自分で大丈夫なのかと不安が強くなっていった ・早産の事例は初めてで,急激に分娩が進行し止まらない痛みに困惑し焦りと不安を感じた   (9) ハイリスクに伴う観察 内容,技術 ・ハイリスクは基礎疾患があり,分娩時に異常となると通常の分娩とは違うモニタリングや観察が必要 となるので不安であった ・血液不適合妊娠という正常分娩とは違う技術もあり,不安で一つ一つの行為を確認して行った (7) ハイリスク分娩 経過の予測と対応 ・胎児心音の低下や母体の血圧が上昇する中,母体の予後を予測し対応できるか不安があった ・分娩係でハイリスク産婦を受け持つと,経験が浅く何かあったら対応できるのかと不安になり,でき れば担当したくない      (5) 複数産婦の分娩 経過観察 ・久しぶりの分娩係で,4人の産婦はそれぞれ注意が必要であり,一人で進行を経過観察し安全に分娩 が進行することができるのか不安であった ・続発性微弱陣痛の予測もあり複数の産婦を同時に見ることができるのか不安であった    (4) 新生児蘇生技術の実施, 介助 ・新生児蘇生の時にどのように行動したらよいのかすごく不安であった・初めて行う処置で介助の知識は何となくあったが,実際その通りにできるのか不安であった  (4) 産婦の血圧変動時の対 応 ・胎盤娩出を待つ間に急激に血圧が下降し,今まで話していた産婦が意識低下しどうすればよいか分か らず困惑し人を呼んだ ・すごく不安で,血圧が高くなる度に指示通りで良いのか,医師に報告した方がよいのか先輩助産師に 確認した        (3) 自分一人の判断に基づ く行動 ・自分一人で考え判断して行動することに不安と焦りを感じた ・妊娠糖尿病の産婦を受け持つのは初めてで,インスリン療法中の産婦を夜間一人で見ることで,マニュ アルの指示を見過ごすのではないかと不安が大きかった  (3) 複数の問題への対応 ・胎盤を出さないといけない,新生児は大丈夫なのか,血圧が高い,といろんなことへの対応がどうしたらよいのかわからず焦った   (1) 他の助産師・医師のサポートに よる安心 ・医師に電話連絡するとすぐに来て対応してもらえたので安心した ・医師も産婦の状況を気にかけており,サポートの助産師もついていることより安心していつでも相談 できた        (4) 助産師としての自覚による勇気 ・助産師は自分しかいないので逃げることはできない。自分がやらないといけない・できれば受持ちたくないが助産師として経験を積む機会であり勇気を出して受持ちとなった  (4)

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測した対応がとれず,人を呼んで先輩の指示に従っ た」など,自分一人で判断できないことは先輩助産師 の助言や医師の指示に基づき行動していた。〈確証さ れた情報を根拠とした知識の妥当性の確保〉では,遺 伝性疾患の症例に対し「事前にスタッフ間で学習し, 文献に基づき分娩進行中は心電図でモニタリングして 心負荷がないか観察した」と,事前学習やマニュアル に基づき状況を判断し行動していた。〈確証された情 報と専門家の意見を根拠とした知識の妥当性の確保〉 では,「初めての症例で,参考書,マニュアルを見て 分からないことは先輩助産師に聞きながら行った」 と,事前学習やマニュアルなどの情報と先輩助産師の 助言の両方に基づき,判断し行動していた。 ②【知識の発展的活用】 【知識の発展的活用】は全員が行っていた。〈演繹的 推論による知識の活用(68)〉〈過去の経験の想起によ る知識の活用(7)〉〈事前知識と実際の状況の統合 (2)〉〈既習知識との比較による類似性の確認(2)〉の4 つのサブカテゴリーから成っていた。〈演繹的推論に よる知識の活用〉は,「吸引とクリステレル圧出法を行 うので,4度裂傷や出生直後の胎児の状況が悪いこと もあることを予測した」と,既習の知識を状況に適応 して今後の状況を予測し,「羊水過少で分娩進行に伴 い胎児に負荷がかかることから,心音が下がることを 予測し,モニターを頻回に装着し胎児心音を観察し た」と,既習の知識を状況に活用して問題解決に向け た行動に繋げていた。 〈過去の経験の想起による知識の活用〉は,「ハイリ スク分娩の間接介助の経験から,胎児の心音が下がり 出生後の状態が悪いと予測したら,小児科医を呼ぶこ と,出生後に児の状態が悪ければ,インファント・ ウォーマーに移動させることを考えた」「過去にモニ 表3 レベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケア時の思考と行動 カテゴリー サブカテゴリー 具体例 (コード数) 知 識 の 妥 当 性 の 確 保 専門家の意見を根拠とした知識の妥 当性の確保 ・分娩時出血が多い事例や胎盤が剥離しない事例を経験したことがなく,おかしいとは 気づくが予測した対応がとれず,人を呼んで先輩の指示に従った ・高度変動一過性徐脈が出現していたが,医師に報告し,徐脈が回復するのであれば連 続モニタリングではなくてよいといわれ,判断を確認し安心した       (28) 確証された情報を根拠とした知識の 妥当性の確保 ・事前にスタッフ間で学習し,文献に基づき分娩進行中は心電図でモニタリングして心負荷がないか観察した       (5) 確証された情報と専門家の意見を根 拠とした知識の妥当性の確保 ・初めての症例で,参考書,マニュアルを見て,わからないことは先輩助産師に聞きな がら行った ・双胎の経腟分娩は経験がないので,経腟分娩が決定した時に,分娩介助の手順を本で 調べたり,先輩助産師に聞いたりして学習した        (3) 知 識 の 発 展 的 活 用 演繹的推論による知識の活用 ・吸引とクリステレル圧出法を行うので,4 度裂傷や出生直後の胎児の状況が悪いことも あることを予測した ・羊水過少で分娩進行に伴い胎児に負荷がかかることから,心音が下がることを予測し, モニターを頻回に装着し胎児心音を観察した ・分娩進行に伴い血圧が高くなると予想されたので,血圧が高い場合と同様に,点滴 ルートを 2 本確保した       (68) 過去の経験の想起による知識の活用 ・ハイリスク分娩の間接介助の経験から,胎児の心音が下がり出生後の状態が悪いと予測したら,小児科医を呼ぶこと,出生後に児の状態が悪ければ,インファント・ ウォーマーに移動させることを考えた        (7) 事前知識と実際の状況の統合 ・第1児の臍帯を切断しながら,第1児娩出後に間接介助がエコーを準備したり,第2児の心音を確認したりする動きを捉え,事前学習と統合して双胎の分娩介助の流れを理解してい た        (2) 既習知識との比較による類似性の確 認 ・産科出血も基本的には急変時の動きと同じである ・双胎の分娩介助は特別のものと捉えていたが,単胎分娩と同様なところもあることを 確認した       (2) 対 応 困 難 未経験による知識の活用困難 ・早剥を疑う症状は理解していたが,実際に腹部の板状用や,モニターのさざ波用の波 形であるかは判断しかねて,そのままにしていた ・新生児仮死の事例を経験したことがなく,直接介助者として母親への状況説明などは できず,新生児の予後が心配で蘇生の状況を怖いと思いながら見ていた    (15) 感情バイアスの作用による対応困難 ・双胎分娩では出血が多くなるリスクは理解していたが,実際に出血が多いこと,双胎 分娩の介助が上手くできなかった感情を引きずり,必要な対応が判断できなかった ・第 2 子が骨盤位分娩になったが,すごく焦って会陰保護をしようと不必要な行動を と っ た        (6)

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タリングを3時間しなかったことで,胎児心音の徐脈 の発見が遅れた事例を思い出し,胎児心音が悪いかも しれないことを想定しモニターを装着した」と,過去 の経験を想起し,過去の経験から得た知識をもとに行 動していた。 〈事前知識と実際の状況の統合〉では,「第 1 児の臍 帯を切断しながら,第 1 児娩出後に間接介助がエ コーを準備したり,第2児の心音を確認したりする動 きを捉え,事前学習と統合して双胎の分娩介助の流れ を理解していた」と,実際の状況を眼前でみながら事 前学習の知識と合わせて即時的に理解していた。 〈既習知識との比較による類似性の確認〉では,「産 科出血も基本的には急変時の動きと同じである」「双 胎の分娩介助は特別のものと捉えていたが,単胎分娩 と同様なところもあることを確認した」と,既習知識 と比較して類似性を確認していた。 ③【対応困難】 【対応困難】は〈未経験による知識の活用困難(15)〉 〈感情バイアスの作用による対応困難(6)〉の2つのサ ブカテゴリーから成っていた。〈未経験による知識の 活用困難〉は,「早剥を疑う症状は理解していたが,実 際に腹部の板状用や,モニターのさざ波用の波形であ るかは判断しかねて,そのままにしていた」と,未経 験であることより自分の判断に自信が持てず行動に至 らない状況や「新生児仮死の事例を経験したことがな く,直接介助者として母親への状況説明などはでき ず,新生児の予後が心配で蘇生の状況を怖いと思いな がら(経験のある助産師の行為を)見ていた」と,自 分が対応できない状況に対し,臨床経験を積んだ助産 師の行動を観察していた。 〈感情バイアスの作用による対応困難〉は,「双胎分 娩では出血が多くなるリスクは理解していたが,実際 に出血が多いこと,双胎分娩の介助が上手くできな かった感情を引きずり,必要な対応が判断できな かった」「第 2 子が骨盤位分娩になったが,すごく 焦って会陰保護をしようと不必要な行動をとった」と 感情が判断や行動に影響していた。 3)レベル I の助産師が分娩期のハイリスク妊産婦ケ ア経験から獲得した知識 ハイリスク妊産婦ケアの経験からレベルI助産師が 得た知識は【ハイリスクに関する学習方法】【母体の身 体的アセスメントとそれに基づく教育の必要性】【ハ イリスクへの対応】【医療チームによる連携】の4つの カテゴリーから成っていた(表4)。 ①【ハイリスクに関する学習方法】 【ハイリスクに関する学習方法】は,〈事例の振り返 表4 レベルIの助産師が分娩期のハイリスク妊産婦ケア経験から獲得した知識 カテゴリー サブカテゴリー 具体例(コード数) ハイリスクに関 する学習方法 事例の振り返りと整理によ る経験知の蓄積 ・ハイリスク事例を振り返り,みんなで事例を共有して自分の経験知としていく・事例を振り返り,アセスメントに必要な知識を確認する        (20) 未経験ハイリスク事例の事 前の情報収集と学習による 準備 ・未経験の事例への対応には,事前の学習や経験者からの情報収集をする ・妊娠期から分娩方針を決定し,分娩の準備をしておくことは,事例に対する予測や準備 ができる        (3) 母体の身体的ア セスメントとそ れに基づく教育 の必要性 病態の理解に基づくアセス メントと予測の重要性 ・病態の理解に基づく観察内容と行動が重要・一つ一つの現象を細かくアセスメントし予測していくことが必要         (8) 妊娠期・産褥期における健 康教育の必要性 ・妊娠期から潜在しているリスク因子を捉え,関わることが大事 ・妊娠期の異常について,妊婦自身に理解してもらい,異常な状況を自覚し連絡できるよ うに指導していくことが必要       (7) ハイリスクへの 対応 産科出血の評価と対応 ・出血に対するアセスメントと対応を理解する・必要物品の準備,行動の流れの確認をする        (6) 異常な胎児心拍数波形の判 断と対応 ・胎児心音が下降する要因と対応を確認する・胎児心拍数波形の診断ができるよう事例のモニター判読をする          (5) 緊急時のマンパワーの確保 ・胎児心音が下降した時は,エコー検査の準備や人員を確保し,必要時は帝王切開の準備を依頼する       (3) 異常時の産婦への心理的対 応 ・産婦は怖さを感じていると思うので,意識して声かけを行う          (3) 新生児蘇生時の行動 ・新生児蘇生の具体的流れと方法を確認する        (4) 医療チームによ る連携 アセスメントに基づく医 師,助産師への報告・相談 ・先輩助産師に相談する時は,自己のアセスメントと判断を伝える・自分の考えを言葉に出して先輩助産師や医師に伝えていく       (13) 医療チームでの情報共有 ・先輩助産師に相談したり医師に報告して指示をもらうなど,一人で判断しない・ハイリスク産婦の状況をスタッフに伝え,情報共有し,誰でもサポートできるよう準備 す る        (7)

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りと整理による経験知の蓄積(20)〉〈未経験ハイリス ク事例の事前の情報収集と学習による準備(3)〉の 2 つのサブカテゴリーから成っていた。〈事例の振り返 りと整理による経験知の蓄積〉では,「ハイリスク事例 を振り返り,みんなで事例を共有して自分の経験知と していく」,〈未経験ハイリスク事例の事前の情報収集 と学習による準備〉では,「未経験の事例への対応に は,事前の学習や経験者からの情報収集をする」と語 り,ハイリスクについての学習の方法を学んでいた。 ②【母体の身体的アセスメントとそれに基づく教育の 必要性】 【母体の身体的アセスメントとそれに基づく教育の 必要性】は,〈病態の理解に基づくアセスメントと予測 の重要性(8)〉〈妊娠期・産褥期における健康教育の必 要性(7)〉の 2 つのサブカテゴリーから成っていた。 〈病態の理解に基づくアセスメントと予測の重要性〉 では,「病態の理解に基づく観察内容と行動が重要」と 病態の理解がアセスメントの基本であることを学んで いた。〈妊娠期・産褥期における健康教育の必要性〉で は,「妊娠期から潜在しているリスク因子を捉え,関 わることが大事」「妊娠期の異常について,妊婦自身 に理解してもらい,異常な状況を自覚し連絡できるよ うに指導していくことが必要」とハイリスク妊産婦の 潜在したリスク因子を助産師のみならず,妊婦が理解 できるよう教育的な支援の必要性を学んでいた。 ③【ハイリスクへの対応】 【ハイリスクへの対応】は〈産科出血の評価と対応 (6)〉〈異常な胎児心拍数波形の判断と対応(5)〉〈緊急 時のマンパワーの確保(3)〉〈異常時の産婦への心理的 対応(3)〉〈新生児蘇生時の行動(4)〉の5つのサブカテ ゴリーから成っていた。〈産科出血の評価と対応〉は, 「出血に対するアセスメントと対応を理解する」「必要 物品の準備,行動の流れの確認をする」と,状況の判 断と産科出血時の具体的行動について学んでいた。 〈異常な胎児心拍数波形の判断と対応〉では,「胎児心 音が下降する要因と対応を確認する」と,状況の判断 と対応を学んでいた。〈緊急時のマンパワーの確保〉で は,「胎児心音が下降した時は,エコー検査の準備や 人員を確保し,必要時は帝王切開の準備を依頼する」 など,緊急時において人を確保しなければならないこ とを学んでいた。〈異常時の産婦への心理的対応〉で は,「産婦は怖さを感じていると思うので,意識して 声かけを行う」と,異常時に産婦の心理面を考慮し, どのように対応するかを学んでいた。〈新生児蘇生時 の行動〉では「新生児蘇生の具体的流れと方法を確 認する」と新生児蘇生時の具体的行動について学んで いた。 ④【医療チームによる連携】 【医療チームによる連携】は〈アセスメントに基づく 医師,助産師への報告・相談(13)〉〈医療チームでの 情報共有(7)〉の 2 つのサブカテゴリーから成ってい た。〈アセスメントに基づく医師,助産師への報告・相 談〉では,「先輩助産師に相談する時は,自己のアセス メントと判断を伝える」と自身のアセスメントを明確 にした上で相談することが重要であることを学んでい た。〈医療チームでの情報共有〉では,「ハイリスク産婦 の状況をスタッフに伝え,情報共有し,誰でもサ ポートできるよう準備する」と,緊急時のマンパワー の視点から情報共有が必要であると理解していた。

Ⅳ.考   察

レベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケア 経験からの学習について,レベルIの助産師に求めら れる到達目標を踏まえ,感情,思考と行動,経験から 獲得した知識を考察する。 1.レベルIの助産師の分娩期のハイリスク妊産婦ケ ア経験からの学習 1)ハイリスク妊産婦ケア時の感情 ハイリスク妊産婦のケアにおいて結果より,恐怖と 不安はすべての助産師が感じていた。最もコード数が 多かった感情は【異常な状況への恐怖】であった。恐 怖は対象が明確で強度の強い情動である(佐々木, 2012)。恐怖は自己の存在を脅かす対象に対しての強 い一時的感情であり,親密感のない状況に対する心理 的距離が近くなった時に生じる(山根,2006)。 このことより〈胎児心音の異常〉〈産婦の血圧変動〉 〈分娩時異常出血〉〈新生児の異常〉などは,レベルIの 助産師にとって,経験が少なく脅威を感じる状況であ ると考えられる。情動は意思決定において常に無自覚 的にバイアスをかけ(西堤,2010),思考にも影響を 及ぼす(高橋,2001)ことより,恐怖を感じる対象へ の対応が必要であると考えられる。 次いでコード数が多かったのは【ハイリスクに対応 する不安】であった。不安は恐怖の類似感情とされる が,不安の焦点は自己の存在そのものに向いており (山根,2006)気分に分類され持続的な感情である

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(北村他,2007)。したがって〈ハイリスク分娩の介 助〉〈ハイリスクに伴う観察内容,技術〉〈ハイリスク 分娩経過の予測と対応〉〈複数産婦の分娩経過観察〉 〈新生児蘇生技術の実施,介助〉などは,レベルIの助 産師にとっては自分の能力では対応できないと感じる ケアであり,ケア中は常に不安が持続していると言え る。しかし,不安というネガティブな気分状態は判断 や対応において状況的情報へより注意を向け分析的に 対応していく(伊藤,2001;上原,2010)こと,学業 達成に結びつく Achievment Emotion である(Pekrun, et al. 2011)ことより,不安を学習に転換していく関 わりが必要であると考える。

また,他の助産師・医師のサポートがあることに安 心していた。安心は学習に結びつく Academic Emo-tionであり(Pekrun, et al. 2002),レベル I の助産師が 安心してハイリスク妊産婦に対応できるサポート環境 を整えることが重要であると考える。 2)ハイリスク妊産婦ケア時の思考と行動 社会の変化に対応する学習の枠組みとして有効とさ れるMarzanoのタキソノミー(勝野,2013)は,Bloom の知識領域のタキソノミーに思考のコントロールと思 考スキルの活用による問題解決の行動モデルを加え, 主体的に学ぶ力としての思考に注目している(高橋, 2001)。思考のコントロールと思考に基づく行動は, 主体的に行動していくための重要な視点であると考え られる。 レベルI助産師には,基準や手順に則り安全確実に ケアを実践することが求められている(日本看護協 会,2013)。レベル I 助産師はハイリスク妊産婦のケ ア中の思考として,事前学習やマニュアルに基づき行 動し,自分一人で判断できないことは先輩助産師に相 談,医師に報告して自身の判断とすり合わせて【知識 の妥当性の確保】をしていた。これはハイリスク妊産 婦に対応する際,助産師自身の知識をモニタリング し,知識の正確さを確保する思考のコントロールであ ると考えられ,安全確実にケアを実践しようとしてい ると推察される。 また,〈演繹的推論による知識の活用〉〈過去の経験 の想起による知識の活用〉により既習の知識を直面し ている状況に適用し,今後の状況を予測し対応できる よう行動していた。さらに,〈事前知識と実際の状況 の統合〉や〈既習知識との比較による類似性の確認〉 を行うなど【知識の発展的活用】がみられた。演繹的 推論や類似性の確認は,新しい情報を学習者の知識 ベースに統合し知識を再構築する過程である(高橋, 2001)と考えられる。 その一方で,【対応困難】な状況も見られた。〈未経 験による知識の活用困難〉では,自分は全く行動する ことができないが臨床経験を積んだ助産師の対応を詳 細に観察する行動がみられており,これは正しい知識 を得ることを目的とした観察学習としてのモデリング であると推察される(木谷,2011)。しかし〈感情バイ アスの作用による対応困難〉では,感情により適切な 認知や意思決定ができていないと言える。 3)ハイリスク妊産婦ケア経験から獲得した知識 学習で得られる知識は,情報や観念などの宣言的知 識,スキル・過程の方法に関する心的手続き知識,具 体的行動に関する運動手続き知識に分類される(高 橋,2001)。ハイリスク妊産婦ケア経験から獲得した 知識として,【ハイリスクに関する学習方法】の観念に 属する知識(高橋,2001)を得ていた。即ちハイリス クの学習は〈事例の振り返りと整理による経験知の蓄 積〉と〈未経験ハイリスク事例の事前の情報収集と学 習による準備〉という省察と情報収集により知識を蓄 積していくことがハイリスクの学習方法であると認識 したと推察される。 また,病態や身体的状況を理解した【母体の身体的 アセスメントとそれに基づく教育の必要性】を認識し ていた。【ハイリスクへの対応】では,〈産科出血の評 価と対応〉〈異常な胎児心拍数波形の判断と対応〉など 各事項に関する判断と対応について,〈緊急時のマン パワーの確保〉〈異常時の産婦への対応〉に関しては, 緊急時にどのように人を集めるのか,異常が発生した 時に産婦にどのように対応するのかという具体的な行 動化に向けた知識である心的手続き知識を獲得してい た(高橋,2001)。〈新生児蘇生時の行動〉については 具体的な手順も含めた運動手続き知識として学んでい た(高橋,2001)。これらの知識は先行研究における, ハイリスク妊産婦への対応時に助産師が必要とする能 力(松井,2017)と同様であった。以上より,レベルI の助産師の到達目標である「ハイリスク事例について の病態と対処が理解できる」(日本看護協会,2013)に ついて確実に知識を積み重ねていると考える。 さらに,【医療チームによる連携】は,〈アセスメン トに基づく医師,助産師への報告・相談〉や〈医療 チームでの情報共有〉についてどのように行うかとい う心的手続き知識として獲得していた。これは専門的 自律能力のリーダーシップとしてレベルIの助産師に

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求める「チーム医療の構成員としての役割を理解して 協働できる」(日本看護協会,2013)に対応しており, チーム医療における学習もできていると考えられる。 2.現任教育への示唆 レベルIの助産師のハイリスク妊産婦ケア経験から の学習は,先輩助産師や医師のサポートを受けながら 知識を再構築していく過程であった。この学習におい て思考が重要な働きをしていたが,感情バイアスによ る認知や意思決定に歪みが生じていた。これに対して は,情動である恐怖への対処が必要であると考えられ る。 まず,事前学習として〈胎児心音の異常〉〈産婦の血 圧変動〉〈分娩時異常出血〉〈新生児の異常〉への対応 として,「胎児心拍数陣痛図の評価法とその対応」「分 娩時の血圧管理」「産科危機的出血への対応」「出生直 後の新生児呼吸循環管理・蘇生」などのガイドライン (日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会,2017)を活 用し根拠に基づき判断する思考を強化する。ガイドラ インの普及には教育的介入が効果的であり,特定の患 者に関する活用が有効である(Grimshaw, et al. 1993) ことより,具体的事例に基づく異常発生時の判断と介 入の検討が有効であると考える。 また,学習者の情動を把握し調整することで,学習 者の思考を詳細に捉えることができる(Rosiek, 2003) ことより,実践においてレベルIの助産師をサポート する助産師は,レベルIの助産師がハイリスク妊産婦 のケアに対して恐怖の感情を抱いていることを理解 し,適宜支援することで【恐怖】の感情を低減するこ とが重要となる。その上で,レベルIの助産師からの 相談に対し本人によるアセスメント等の思考や既習知 識を確認することが必要と考える。 経験された情動は,遭遇した出来事や状況の重要性 を増幅して脳と身体にフィードバックしその後の行動 に影響する(西堤,2010)ことより,事後の対応も重 要となる。Mezirowの変容的学習理論では,成人学習 は将来の行動につなげるために,以前の解釈を利用し ながら,自分の経験の意味について新しい,あるいは 修 正 し た 解 釈 を 分 析 す る プ ロ セ ス で あ る(藤 村, 2006)。したがってレベル I の助産師をサポートする 助産師は,レベルIの助産師が恐怖を感じた事例を共 に振り返り,自己の心理プロセスを内省し,具体的行 動化のレベルで対策がとれるよう教育的支援をするこ とが必要と考える。

Ⅴ.結   論

レベルIの助産師は,否定的・肯定的感情のバラン スを取り,先輩助産師,医師から知識の妥当性を確保 し,既習知識を活用してハイリスク妊産婦ケアを実施 することで,到達目標である「ハイリスク事例につい ての病態と対処が理解できる」についての知識を積み 重ねていた。また,事例を振り返ることでハイリスク に関する学習方法を学んでいた。 謝 辞 本研究へのご理解をいただき,ご協力くださいまし た助産師の皆様に心より感謝申し上げます。尚,本研 究はJSPS科研費 26670976の助成を受け実施したもの である。 利益相反 本研究に関する利益相反はありません。 文 献 藤村好美(2006).ロバート・ D ・ボイドの変容的学習の 理論に関する一考察.広島大学大学院教育学研究科 紀要,55,53-60.

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参照

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