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中東投資の動向と進出検討のポイント
1.はじめに 中東には、石油、LNGに代表される天然資源から生み出される富を背景とした、裕福な国々のイメージがある。 現在、日本の原油輸入量の8割強、LNG輸入量の約3割が、中東諸国からのものとなっている上に、日本国内の 原子力発電の見通しが不透明な中、今後、日本にとって中東からのエネルギー供給の重要性は一層増すことが 予想される。 一方で、中東にはイラン核開発問題、アラブの春以降の民主化の動きとその後続くシリア内戦、直近もイラク におけるイスラム過激派勢力による北部主要都市の制圧、イスラエル・パレスチナ問題等、常に地域内のどこか で民族・宗教・政治等に関わる問題が顕在化している不安定な地域というイメージもある。 本稿では、上述の通り、富と民族・宗教・政治問題の両面の特色を有する中東における、ビジネスを取り巻く環 境、直近の投資動向に加え、日系企業が集積するアラブ首長国連邦(ドバイ、アブダビ)、サウジアラビアの二国 への進出検討のポイント、について記述する。 2.中東のビジネス環境 「中東」にどの国を含めるか幾つかの分類はあるものの、各企業の中東ビジネス展開の実態を鑑みると、以下 12カ国を対象国とするケースが多数を占めている。 GCC(湾岸協力会議)6カ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バハレーン、オマーン】、 シリア、レバノン、ヨルダン、イラク、イエメン、イラン(この他に、イスラエルやトルコを含む場合もあり)。 GCC諸国は、サウジアラビアを筆頭に豊富な天然資源を背景とした経済基盤を有しており、一人当たりGDPも 6カ国平均で33千米ドルと高水準、社会構造も国王・首長を頂点として比較的安定している。また、ビジネス環境 を示す目安の一つとされる経済競争力順位(世銀調査)・腐敗認識指数(Transparency International調査)は、と もに上位1/3程度の範囲に収まっており、相応の水準にあることが分かる。マイナス面としては、経済の資源依 存が高いため資源価格の上下に経済政策が影響を受けやすいこと、人口は6カ国合計で48百万人に止まり市場 August 29, 20141.中東投資の動向と進出検討のポイント
2.欧州:インフラ・プロジェクトの成否と地方公共団体のビジネスを考察する
3.主要各国の経済指標
2 規模が小さいこと、などが挙げられる(【表1】参照)。 一方、他の6カ国については、まずイラン、イラクの2カ国は資源・人口ともに大国と言えるが、前者は長期間の 経済制裁の影響、後者は不安定な国内情勢を鑑み、本邦企業にとっては新規の事業展開が難しい状況が続い ている。次に、ヨルダン、レバノンは社会インフラを含め比較的ビジネス環境が整ってはいるものの、国内市場は 小さく、小国故に周辺情勢の影響を大きく受ける傾向にある。最後に、シリア、イエメンは、治安面で問題のある 状態が続いており、今は日系企業が新たなビジネス展開を図るタイミングに無い。 なお、各々が抱える諸問題がクリアされれば、イラン、イラク、シリアは中期的にはビジネス機会が望める国々で あろう。 【表1:中東12カ国主要指標・ランキング】 3.中東の投資動向 世界的な金融危機の影響を受けた2009年のドバイショック、2011年以降のアラブ民主化の動きの下、一時的 に日系企業の中東における活動はスローダウンし、2012年初頃までは域内拠点の縮小・閉鎖等の動きも見られ た。しかしながら、その後ドバイの経済は本来のビジネスハブ機能を背景として日系企業の活動は復調している。 またシリアを除いてアラブの春以降の騒乱が収束に向かったことから、北アフリカに加えサブサハラ地域も含め たアフリカビジネスの前線拠点としても、日系企業の中東地域への関心が高まってきている。 GCC各国では、国内情勢の安定を図るための自国民への富の再分配政策が加速している。自国民の人口が 多いサウジアラビアでは、第9次5カ年計画(2010年~2014年)で総額3,850億米ドル(約39兆円)の投資を計画し ており、教育、医療、交通他の国内インフラ整備に注力中。また、2020年のドバイ万博、2022年カタールでのワー
3 ルドカップ開催、と言った世界的なイベントも控えており、原油・天然ガスから生み出される資金の多くが、国内イ ンフラ直接投資、ならびに自国民を通した可処分所得の増大という形で、国内に還流されていくことが予想され る。 これまでの日系進出企業数は【表2】の通りで、中東全体で約500社(2012年10月現在)、うち最も進出の多いア ラブ首長国連邦が53%を占め、次いでサウジ、カタールと上位3カ国への進出で全体の約8割を占めている。 また、当地域の特徴として、現地法人の比率が4~5割と低いことが挙げられる(同比率:アジア97%、北米92%)。 これは、マーケティングやプロジェクト対応を中心とした小規模なオフィスが多い反面、商流を伴う販売現法や製 造拠点が少ない現状を表している。 【表2:日系進出企業数推移】 出所:外務省
4 4.進出検討のポイント (1)ドバイ:物流ハブ・マーケティング拠点としては最適 この首長国の強みは、間違いなくジュベル・アリ港とドバイ国際空港という2つのロジスティックス拠点のハブ機 能である。最新のテクノロジーを投入しているハード面のみならず、運営状況もハブとして十分な機能を持つ。進 出企業からも高い評価を得ており、ソフト面に難のあることが多い当地域では、確実に頭一つ抜けた存在であ る。 また、外資100%出資を認める各フリーゾーンでは拠点設立手続き等をスムーズに行うことが可能である。ドバ イ拠点のエミレーツ航空はアフリカ21カ国に就航済(欧州系エアライン:AF27カ国、BA15カ国、LH7カ国)、更に外 国人が暮らしやすい生活環境が出来上がっており、マーケティング拠点としても効率的な運営が可能な国であ る。 一方、製造業におけるワーカーは質・量ともに不足しており、また賃金を含めた生活コスト水準も低くないこと から、物作りに適しているとは言い難い環境である。なお、オフィス・住居の賃料水準は2013年11月に万博誘致 が決定して以降急上昇しており、住居物件では年率30~40%の引き上げを要求する事例も出るなど、景気回復 の反面、諸コスト上昇が表面化してきている。 (2)アブダビ:経済構造の変革に向け注力中。特に製造業の誘致に積極的 日本にとって、サウジアラビアに次ぐ第2位の原油輸入先であるアブダビ首長国は、2009年ドバイに対し200億 米ドルの資金支援を行うなど、財政面でアラブ首長国連邦を支える存在である。2008年発表の「Abu Dhabi 2030 Vision」では、エネルギー依存経済からの脱却を表明し、その後、大規模な港湾設備を備えた工業地区KIZADや、 空港近くのフリーゾーンを整備し、積極的にグローバル企業の誘致を行っている。
KIZAD(Khalifa Industrial Zone Abu Dhabi)は、ドバイの代表的なフリーゾーンで、日系企業が集積するジュベ ル・アリ・フリーゾーンの8.7倍の面積と広大な敷地面積を有する。域内に最新設備の大規模な港湾ターミナルも 有しており、欧米メーカーによる製造拠点の進出が相次いでいる。ドバイと同様にワーカー確保の問題は残るが、 廉価な電力・水(海水を淡水化)の利用が可能である。 一方、上述の日系企業現法比率の低さ(26%)に見られるように、これまではエネルギー・インフラ関連企業や商 社の事務所や支店の進出が大半であった。今後、一般の事業活動を展開する企業の進出が増加していくため には、(ドバイ経済の成功要因の一つである)企業側のニーズに沿った支援体制がどこまで取られていくのか、 注目していく必要がある。 (3)サウジアラビア:製造拠点の進出多数。人口も多く、消費市場としての魅力も G20に名を連ねる経済規模、政治的影響力、聖都メッカを有する宗教的権威、中東地域の中心に位置する広 大な国土等、圧倒的な存在の大国である。既に、低水準のエネルギーコストを活かした製造拠点が存在しており、 直近でも日系の化学品メーカーによる合弁企業設立や増産のニュースが相次ぎ、資本集約型産業の誘致に成 功している。
5 また、西アジアからの人々(=外国人)が人口の約9割を占めるアラブ首長国連邦やカタールとは違い、自国 民が約20百万人と多いことから、国民への富の分配が直接ないし間接的に進むに連れ、消費市場が一層発展 する可能性がある。トヨタ車の国別販売台数(2012年)で、米国、中国、インドネシア、タイに次ぎ、サウジアラビア が世界第5位となっているなど、日本製品に対する嗜好性は強い。 同国への進出で考慮すべき事柄の一つが、「サウダイゼーション」と呼ばれる自国民の雇用促進制度への対 応。国民の不満の元である失業問題を解消すべく、年を追う毎に運用強化が進む一方、(採用したいレベルの) 人材の不足があり、既存進出企業も頭を悩ませている問題である。有力な地場企業との提携、現地事情に詳し い有能な人事担当者の採用等、進出計画策定時からの人材採用計画の検討が必要となってきている。 5.おわりに MEA(中東・アフリカ地域)のゲートウェイとしての位置づけ、環インド洋経済圏の中での西アジア・東アフリカと の繋がり、ムスリム人口増加を背景としたハラルビジネス拡大など、中東地域が世界経済の中で果たす役割が 増大している。アジア経済の減速に直面している日本企業にとって、中東地域が新たなビジネス機会の場となる ことを期待したい。 (2014年7月31日作成) 三菱東京UFJ銀行 国際業務部 部長 繁田 文貴 1988 年入行。ロンドン、ニューヨーク勤務等を経て、2010 年~2014 年 3 月までドバイに駐在。 現在は国際業務部にて中東・アフリカ・北米(メキシコ含)のカントリーアドバイザーを担当、同 地域における日系企業進出・事業展開を支援。
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欧州:インフラ・プロジェクトの成否と地方公共団体のビジネスを考察する
日本の海外直接投資が 100 兆円を超えて増加していると報じられた。 地域別に見ると、米州についで、『欧州向けも復調』しており前年との比較で、3 兆 2,000 億円増の約 30%増である。 この数値には、日本企業によるドイツ企業の買収案件も含まれている。 今号では、海外のインフラ整備事業、インフラ投資について、成功していると考えられる案件に、共通する特徴や要 因を一般化していく。後半では、環境インフラ整備で優れた実績を持つ日本の地方公共団体の環境関連ビジネスに ついても触れ、従来の国家間の ODA とは異なる、地方公共団体の取り組みをベースに、民間ビジネス拡大を考え て見たい。 1.インフラ・プロジェクト成功の鍵となる要因 ~電力設備のケース 欧州でも活発な発電など電力設備プロジェクトのケースを例にとって見ると、投資対象の国において、経済発展、社 会生活の質向上へのニーズが高まり、安定した電力供給への需要が高まっていることが、前提条件と考えられる。 EU に 2000 年代に新規加盟した東欧諸国、バルカン諸国の国々は、特定国の資源や供給に依存しない多角化を志 向している。 さらに、インフラ投資のプロジェクト案件を制度的に担保する形で、公共の電力サービス関連法規が改正され、海外 企業を含めた民間企業に対して門戸が開かれていることが重要である。同時に、幾つかのプロジェクトを通じて、参 入可能な民間発電案件が増加していることもサポート要因となる。 加えて、工業、産業の発展、都市人口などから推察して市場規模が大きいことは欠かせない条件である。再生可能 エネルギーへの取り組みが進んでいることも、将来的なビジネスの多角化に繋がる。 土地の収用の手続きなどが明確で円滑であることが必要である。旧社会主義、共産政権の国では、その名残で土 地収用の制度が必ずしも整備されていないことがある。インフラ投資に限らず、マクロ的に国家や地域の政治経済 社会が安定していることは、外国投資の大きな条件であることも言うまでもない。 このようなエネルギーセクターの投資環境に基づいて、透明かつ実現性の高い競争入札制度、受入国の電力庁な どによる土地取得、生産性の高い競争力ある労働資源の存在などが成功裏に案件を遂行する要件として挙げられ る。こうした点は、効率的な投資、開発経費を最適化すると考えられる。 ビジネス安定性の視点から、国家ないしそれに準ずる主体との長期契約を締結できれば、安定収益が得られ、投資 効率も高まる。そして、それを金融的に支える、国際機関等による信用補完、政策金融や日本の実績のあるメガバ ンクなどの民間銀行によるプロジェクト・ファイナンス、シンジケート・ファイナンスが供与されることで、プロジェクトの 枠組みの強さや実効性をさらに高めていくことになる。7 そのほかに、プロジェクト経験とプロジェクト・リスク、環境変化など多様な困難に対する、解決策を提示できるような ノウハウを有するパートナーの選定も欠かせない。このパートナー選定は、信頼性の高い電力供給計画を提案でき、 プロジェクトの始動とともにビジネスと技術の両面で、質の高い連携ができることが成功への鍵となる。 2.インフラ整備プロジェクト建設の遂行と運転開始後の留意点 事務的な役割を担う会社は、資金の手配・組成、国々の許認可手続き、現地労働組合・周辺住民への環境問題な どへの対応や、納期の管理を行い、技術部門を担当する。例えば電力会社は、プラント建設を進める上での管理を 進めて行く。これには、施工、人的資源の確保、品質管理、納期のコントロールが含まれる。電力設備であれば、そ の運転・保守教育を同時に進めていく。 運転が開始された後は、事務的なパートナーは金融・ファイナンス組成のフォロー、インフラビジネスにおける経営 計画の策定、事故・故障発生時の対応、サプライヤーなど関連事業の折衝、年間の予算と実績の管理、労務管理 などを行う必要がある。技術パートナーとしては、電力プラントの日々のオペレーションとメインテナンス、技術面の 経営計画の策定と事故・故障対応などを行う。その他、定期検査、技術部門の年間予算と実績管理、売電料金計 数管理を行うことになる。 以上が留意点だが、発展途上国とは異なり欧州では政治リスクが限定され、欧州債務危機のようなことは将来にわ たり防止されよう。だが、5 月の欧州議会選挙の結果に見れたような、反欧州、反ユーロ、右傾化の動きは、国々の 財政政策の行方、EU からの補助金の額、労働者に対するポピュリスト的な政策、移民政策などを左右する可能性 もないとはいえない。 3.インフラ・プロジェクト主体に登場した日本の地方公共団体 歴史的な実績や評判に基づいて、環境整備プロジェクトなどでは、地方公共団体がプロジェクトに参画し、それが呼 び水となり、地元や投資先の関連する雇用やビジネスを創り出す乗数的な効果を生み出す可能性もある。 1980 年代、90 年代のバブル経済の終焉から、長く続いてきた日本と平均的な日本人の内省的メンタリティーがここ に来て変化しているように思われる。空気のように当たり前と思っていた日本の社会システム、ビジネス文化は、海 外から、競争力として注視されている。2020 年オリンピック誘致の成功は、国民に自信を取り戻させ、国際的に日本 をアピールしていくだろう。 例えば、1950 年代、60 年代、70 年代と日本は東京オリンピック開催や産業構造の転換を図りながら、高度な経済成 長を遂げてきた。同時に、今まさに、日本のそのような時代を経験している新興国や開発途上国がある。現在その ような国々が直面しているのは発展と表裏にある大気汚染や水質汚染などの公害問題である。
8 これは、なにもアジアの発展途上国や急速に工業化を進めている国々に限っての話ではない。欧州環境庁の調査 によれば、EU 加盟国のなかでも東欧、北欧諸国の水質が汚染されているという。東京都は、東京オリンピックに際 して、安全で美味しい水道水を世界にアピールしている。水ばかりではなく、勿論都も都市公害に取り組んできた。 公害に直面した日本の地方公共団体は、長い歴史の中で公害対策を講じ、一定の成果を出してきた。この日本が 取り組んできた公害へ取り組みや防止の方法が、そのままインフラ・プロジェクト・ビジネスとして活用され始めてい る。 その例として、かって鉄鋼の町として知られた北九州市がある。煤煙が街に黒灰をまきちらし、海洋や河川を汚染し、 下水道にも汚染が拡がっていた。空は煤煙に覆われ、街もスモッグで汚染された。このような当時の様子から、一変 青い空と青い輝く海、安心して飲める水道水を取り戻した、日本の環境再生策に興味を示さぬ国はないだろう。 北九州市下水道局は、このように下水道に関わる水ビジネスを進めた。ニーズのある国において現地に人的なネッ トワークを形成し整備計画やニーズを把握し、整備計画立案、コンサルティングを行う。ネットワークの形成には、相 手国からの研修を受け入れたり、技術移転を目的に人材を派遣。海外での展示会、商談会、勉強会を通じてマーケ ティングを開始し官民でインフラ・ビジネスを進めている。こうした活動を通じて、地元の関連する給水ポンプ、電気 製品の企業を紹介するなどビジネスを振興したという。 このような事例に見られるように、ビジネス化が可能なノウハウを持つ地方公共団体とその地元の民間企業は、ア ジアのみならず、中近東、東欧などに向けて公害対策、環境関連、水ビジネスなどを展開できるであろう。 欧州企業は、歴史的にもアフリカへの商圏やビジネス接点を持つものもある。このような点でも、欧州においてイン フラ・プロジェクトを行うことにより、様々な地理的な拡がりを含めビジネスを拡大できる可能性があるだろう。 (2014 年 6 月 2 日作成) 記事提供:インフォーマ グローバル マーケット ジャパン 代表取締役 西村 訓仁 複数の多国籍投資銀行などで様々な国際金融業務を経験。 ドイツ銀行ロンドン勤務時には、欧米と日本・アジアを繋ぐ投資業務に従事。現在は、ロンドン 上場の金融情報・分析会社インフォーマ グローバル マーケット社日本法人代表。
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