第二回 アジア専門図書館国際会議開催報告 (ライ ブラリー・コーナー)
著者 澤田 裕子
権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名 アジ研ワールド・トレンド
巻 187
ページ 50‑52
発行年 2011‑04
出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL http://doi.org/10.20561/00046203
二〇一一年二月一〇日︵木︶
︱一
二日
︵
土︶ ︑
﹁第
二回
ア
ジア
専 門 図書館
国際会議﹂
Inter-︵
national Conference of Asian
Special Libraries︱ICoASL2011︶が﹁ユーザーの信頼獲得をめ
ざして︱デジタル時代におけ
る専 門 図 書 館 革 新 の 重 要 性
﹂
をテーマに日本の国連大学で
開催された︒世界七五カ国に
約一
万一
〇〇〇
人 の 会員を有
し︑アメリカに本部を置く専門図書館協会︵SLA︶の地
域別 コ ミ
ュニ
テ
ィ︑
ア ジ ア ン
チャプターの主催で︑第一回は二〇〇八年にインドで開催
されている︒アジア諸国の情
報専門家による研究や取り組
みの成果報告と情報・知識の共有を目的に︑今回は日本の
専門図書館協議会と共同開催
され︑各国から約二〇〇名が参加した︒会期中︑都心部で
雪が降り︑初めて雪を見た参
加者に喜ばれた︒
一〇日の基調講演では︑二〇一〇年SLA会長のAnne Caputo氏︵ダウ・ジョーンズ
社︑アメリカ︶が︑
﹁Living in the new
normal ︱Global trends all knowledge
professionals should
understand ﹂
と 題 し
て︑グローバル化や
不況による予算削減︑
情報流
通 の 変 化
︑ 技 術革新等
︑ 従来 の 情 報サ ービ ス に 変 化 を もたらした
世 界 的 な
動きを背景に︑
Facebook やツイッ
ター等のソーシャル メディアの登場を迎えた新た
な生活環境の中︑情報専門家
としてどのような戦略を立て︑対応していくか︑示唆に富ん
だ講演を行った︒
招待講演では︑Xiaolin
Zhang氏︵中国科学院国家科学図書館︶︑二〇一一年SLA
アジアンチャプター代表のBP
Prakash氏︵Tata Consultancy Services︑インド︶︑守住信貴
氏︵
電通
総研
ナレ
ッジ
セン
ター
室 Kay Sook Park︶︑氏︵韓国 電 子 通 信 研 究 院 図 書 館
︶︑
Scott Davidson 氏︵Abso lute Asia Asset Management︑シン
ガポール︶が︑デジタル時代
における自館の運営や自国の図書館事情について講演した︒
このうち︑中国︑韓国︑日本
の事 情に つ い て 紹 介し た
い︒
まず︑自然科学や科学技術分野の国家研究機関である中国
科学院は︑国内三二カ所に専
門分野に特化した九七機関を
設置し
︑
約一
万人 の 研 究 者 や
院生を有している︒北京の国
家科学
図 書館 や 蘭
州︑
成都
︑
武漢の分館では専任の主題ライブラリアンを配備し︑専門
的なレファレンスサービスと
戦略的な情報分析を行い︑よ
り組織的に研究活動に参加することで図書館の存在意義を
堅持し
て い
る︒
一方
︑ 韓 国 の
専門図書館では図書館スペー
スや運営に係る人員の削減と
いう日本と共通の問題を抱え︑その解決の糸口として︑自ら
が新たな市場を創造し︑低コ
ストで高付加価値を提供する
ことで利潤を最大化するというビジネス戦略﹁ブルー・オー
シャン戦略﹂の活用を提案し
ていた︒さらに︑日本の電通
総研ナレッジセンター室のようにサービスの質において即
時性が求められる専門図書館
では︑メディアの発達を生かしてあらゆる情報源を活用し︑
利用者ニーズに即した付加価
値サ ービ ス を 提 供 し て い る
︒ また︑Eラーニングセミナーでは︑元SLA会長のStephen Abram氏が︑情報専門家とし
て最新技術を学習することの
重要さを述べると同時に︑戦略的に研鑽することの必要性
を強調した︒
一日
目 の 終 わ り に は 優 秀 論
文賞授賞式があり︑約六〇点
の応募からイランと日本の二
論文 に 対 し て
第一
位
︑二
位 が
授与された︒二位を受賞したのは︑当研究所学術研究リポ
ジトリ︵ARRIDE︶の取
り組みを報告した論文
﹁Aiming at improv ing access to research output through the Institutional Repository﹂
で
あ る︒ARRIDE︵https://ir.ide.go.jp/dspace/︶はオープン
アクセスデータプロバイダーとしてRePEc等の国際的
データベースと連携し︑研究
成果の検索や閲覧をより効果
的に行える仕組みを作っている︒検索可能なインデックス
等の付加価値を提供し︑研究
成果の世界的な認知度を高め
た点で︑ARRIDEの事例が評価されたものと認識して
いる︒過分な評価に戸惑いも
あるが︑多くの参加者からお祝いの言葉を頂き︑開催国の
発表者として大変光栄なこと
であった︒今後も研究所の成
果を世界に発信するため︑取り組みを続けていきたい︒
一一
日の
応募
論文
発表
は四
回
のセッションに分けられ︑各
六論文が発表された︒各セッションのテーマは︑﹁専門図書
館サービスの新局面﹂﹁親組織
の戦略的方向性に沿ったサービス﹂﹁専門図書館サービスの
ブランドの確立とマーケティ
ング︑戦略的方向性︑ベスト
プラクティスと業績評価﹂﹁利用者調査︑満足度指標と利用
者 の 信頼構築
の た め の 尺度﹂
である︒インドやスリランカ︑
フィリピン︑イラン︑シンガポール︑アメリカ︑中国︑イ
ンドネシア︑日本からの発表
第二 回 アジ ア専 門 図 書館 国際会議 開催報告
澤田裕子
大会の風景
50
アジ研ワールド・トレンド No.187 (2011. 4)
者が学術的︑実務的な内容の報告を行い︑活発な意見交換
がなされた︒優秀論文賞の一
位を受賞したイランの﹁Developing user-centered displays for literary works in
digital libraries︱Integrating
bibliographic families, FRBR and
users ﹂は第二セッションで発 表さ れ た
︒ こ れ
は︑
Ferdowsi
University of Mashhad
の 図 書
館情報学部の教員と博士課程修了生が︑文学作品を収録し
た電子図書館の検索システム
において︑FRBRモデル︵注︶
と利用者の視点を基に検索結
果を再構築する方法を考案し︑
相互に関連する文学作品を論
理的に配列して︑より利用者の期待に沿った結果を提示す
る可 能 性 を 模 索 し た も の で
あった︒
最終 日
の一
二 日 は 図書館
ツ
アーが行われ︑午前中にアジ
ア経済研究所図書館︑午後に江戸東京博物館図書館を訪問
した
︒ 当 研 究 所 で は
︑ ま ず
︑
事業の概要を説明し︑次に時
間をかけて図書館を見学して頂いた︒
今回の会議においては︑イ
ンドからの参加者が最も多く︑
議論に参加する姿勢も常に積極的で同国の経済的︑社会的
発展の勢いを反映しているよ
うに思われた︒インドをはじめ︑各国のライブラリアンた
ちと情報を交換し︑親しい関
係を 築くま
た と な い 機 会と
なった︒
︵さわだ ゆうこ/アジア経済
研究所 図書館︶
︵注︶資料媒体
が 多 様化す
る な か
︑ 目 録 を 作 成 す る 上 で 書 誌 レ
コードは何に関する情報を提
供するのか︑利用者ニーズの
観点から書誌レコードの役割
を規定し︑共通認識を得るための概念モデル︒IFLA︵国
際図 書 館 連盟
︶ に よ
って
一九
九七年に公表された︒︵http://
www.ifl a.org/fi les/cataloguing/
frbr/frbr̲2008.pdf ︶
表彰状を受ける当館坂井職員、筆者
執務室
入り口 新 聞 各種ペーパー類
雑 誌
ロッカー ルーム
マイクロ AV庫
新聞庫
1
販売書籍 陳列コーナー 資料相談コーナー
マイクロ
AV
資料閲覧席
カウンター
WC 参考図書
国際機関
日本 西欧・北米東アジア
東南アジア
南アジア・中央アジア
東欧・中東・北アフリカ
アフリカラテンアメリカ
オセアニア
OP AC
EV EV
アジア経済研究所図書館新フロア図
アジア経済研究所図書館各階レイアウトの変更のお知らせ
1階
各国の雑誌、新聞が配架されています。各階の配架のレイアウトを 3 月に変更いたしました。2 階の本の配列がすべて地域別になります。
従来の2階にあった分野別の和書は、4-2 階へ移動いたしました。
3 月 11 日に発生した地震により図書館では書庫に被害を受け、復旧作業のため臨時休館しておりま したが、4 月 1 日に部分開館いたしました。利用可能範囲はウェブサイトをご参照下さい。利用者 の皆様にはご不便をおかけいたしますこと、深くお詫び申しあげます。今後ともよろしくお願いい たします。
1階における資料企画展示
51
アジ研ワールド・トレンド No.187 (2011. 4)EV
統計資料
(ヨーロッパ・北アメリカ)
和雑誌 統計資料
(日本)
吹き抜け
和 書 EV
EV
グループ 学習室
WC
吹き抜け OPAC OPAC
製本雑誌 閉架書庫
閉架書庫
アジア・アフリカ諸言語資料 中国語資料
中国語資料
コリア語資料 EV
洋書 -1998
WC
吹き抜け
統計資料
OPAC OPAC
EV
EV
執務室 新聞庫2 地図庫
WC 吹き抜け OPAC
OPAC EV
EV 世界 発展途上国 アジア
東アジア
東南アジア
南アジア
中央アジア中東・北アフリカ
アフリカ
ラテンアメリカ
オセアニア ヨーロッパ /
北アメリカ / 先進国
2 階 1998 年 10 月以降に受け入れた本が 地域 / 地域別に、和書、洋書の別なく 配架されています。
3 階 3 階には各国の統計資料が地域別に配架されています。
さらに 1998 年 9 月までに受け入れた洋書が 分野別に並んでいます。
4 -1 階 中国語、コリア語、アジア・アフリカ諸言語(アラビア語・
トルコ語・タイ語・インドネシア語など)の資料、
および製本雑誌(バックナンバーを綴じたもの)が 配架されています。
統計資料の一部(日本、ヨーロッパ・北アメリカ)
及び 1998 年 9 月までに受け入れた和書が配架されています。
4 -2 階
2階から4階までは大きな吹き抜けを取り囲む ように書架が配置されている
3階の閲覧机と蔵書検索端末ブース
製本された雑誌が4階の電動移動書架に収納 されている
4−2階の和書
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