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柴 田   敬 Takashi Shibata

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Academic year: 2022

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研究の背景と経緯

 小児期には年齢依存性の特徴的なてんかん症候群が いくつも存在する.中でも特発性部分てんかんは頻度 が高く,幼児期には Panayiotopoulos 症候群(PS),学 童期には中心・側頭部に棘波を示す良性てんかん

(BECTS)が知られている.BECTS では中心・側頭 部に,PS では主に後頭部に機能性棘波と呼ばれる特徴 的な形態の棘波を示し,PS ではこれが他部位に移動す る症例もある.BECTS と PS では臨床・脳波学的に両 症候群の特徴を併有する症例もあり,何らかの共通性 も想定されている.BECTS ではシルビウス発作と呼 ばれる片側顔面間代けいれんに,口部の異常体性感覚,

流涎,構音障害を伴う焦点性運動発作が主体で,発作 症状と棘波の焦点が密接に関連している.一方 PS で は,発作は嘔吐などの自律神経症状が主体で,棘波の 焦点との関連性ははっきりしない.

 脳波における80Hz 以上の波は高周波活動(HFA)

と呼ばれ,中でも明瞭な振動性を示すものを高周波振 動(HFOs)と呼んでいる.HFOs とてんかん原性の関 係は棘波とてんかん原性の関係よりも強いと言われ世 界的に注目されている.HFOs は頭蓋内電極脳波記録 での報告が多いが,我々は頭皮脳波でも検出できるこ とを報告した1).我々は時間・周波数分析による高周

波の検出も行っているが,時間・周波数分析で検出し た高周波は必ずしも明瞭な振動性を示すとは限らない ため,HFOs ではなく HFA としている.HFA は HFOs よりもてんかん原性との関係が必ずしも密ではないと も言われているが,時間周波数分析の方がより弱い活 動でも検出することが可能である.

 我々は棘波の焦点部位によって HFA の検出率が異 なるのではないかと予想した.BECTS と PS の患者で 棘波を焦点ごとに分類し,HFA の検出率を比較する ことで,焦点ごとのてんかん原性の強さの違いがわか るのではないか,さらにはこれが小児特発性部分てん かんの病態解明の一助になるのではないかと考え,今 回の研究を行った.

研究成果の内容

1 .小児特発性部分てんかんの頭皮脳波からも HFA は高率に検出される

 今回は各症例で発作から半年以内のてんかんが活発 な時期の脳波のみを対象として分析した.睡眠中の焦 点性棘波を解析ソフト Reveal を用いて,棘波の発生部 位,形状などを元にクラスター分類し,各症例で最大 3 群を分析対象とした.各棘波群ごとに時間・周波数 分析を行い HFA を検出した(図).その結果,BECTS

柴 田   敬

Takashi Shibata

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 発達神経病態学

Department of Child Neurology, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences

岡山医学会雑誌 第129巻 August 2017, pp. 85-87 平成28年度岡山医学会賞紹介記事 

脳神経研究奨励賞(新見賞)

昭和54年生まれ

平成16年 3 月 京都大学医学部医学科卒業

平成16年 4 月 倉敷中央病院 教育研修部 初期研修医 平成18年 4 月 倉敷中央病院 小児科 後期研修医 平成21年 4 月 静岡県立こども病院 内分泌代謝科 医員 平成22年 4 月 岡山大学病院 小児神経科 医員

平成23年 4 月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程入学 平成29年 3 月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了

<プ ロ フ ィ ー ル>

Shibata T, Yoshinaga H, Akiyama T, Kobayashi K : A study on spike focus dependence of high-frequency activity in idiopathic focal epilepsy in childhood. Epilepsia Open (2016) 1, 121-129.

受 賞 対 象 論 文

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では73/96棘波群(76.0%),PS では37/63棘波群(58.7%)

で HFA が検出され,BECTS の方がより高率であっ た.両群とも多くの HFA が検出され,小児の特発性 部分てんかんにおいても,頭皮脳波で HFA の分析が 可能であることが改めて確認された.

2 .BECTS ではローランド領域に双極子が推定され る棘波に HFA が高率に検出される

 それぞれの棘波の発生源は,標準脳に基づく頭蓋形 状モデルによる単一双極子電流発生源分析で推定し た.推定された双極子の解剖学的位置は標準脳上で解 析ソフト FreeSurfer を用いて決定した.BECTS では 双極子がローランド溝周囲の中心前回および中心後回 に推定された群の方が,それ以外の位置に双極子が推

定された群(多くは側頭葉もしくは縁上回)に比べ有 意に HFA を伴う割合が高かった.BECTS は定義上,

その棘波は中心・側頭部に出現し,その双極子はロー ランド領域に限局していると報告されていた.しかし,

今回の結果からは BECTS のローランド棘波は均一な 集団ではなく,ローランド溝周囲の皮質から出現する 棘波はその周辺の皮質部位由来の棘波に比較して有意 に高率に HFA を伴い,高いてんかん原性を持つこと が明らかになった.

3 .PS では後頭葉に出現する棘波の方が HFA を高率 に伴う

 PS では後頭葉に双極子が推定された棘波の方が,そ の他の部位に双極子が推定された棘波よりも HFA を 伴う割合が高かった.つまり,PS では後頭葉に出現す る棘波の方が他の部位に出現する棘波よりもてんかん 原性が高いと言え,PS の発作とより深い関係があると 考えられた.このことから,PS ではてんかん発射は多 焦点性であっても,最もてんかん原性が高い場所は後 頭葉であると示唆された.

4 .HFA や HFOs の有無と発作頻度の間には一定の 関係はみられなかった

 各症例で棘波に伴う HFA や HFOs(HFOs は低周 波遮断フィルタ処理により目視で確認)の有無と発作 頻度の関係について検討を行った.BECTS では HFA が検出された患者の方が発作回数が多く,HFOs の有 無は発作頻度との関係がみられなかった.逆に PS で は HFA の有無は発作頻度との関係がみられなかった が,HFOs が検出された患者の方が発作回数が多いと いう一定しない結果になった.

研究成果の意義

 今回の研究から BECTS では,頭皮脳波上は同じ部 位から出現して見える棘波でも,ローランド領域に双 極子が推定される棘波の方が高いてんかん原性を有す ることが判明し,棘波の起源とそのてんかん原性の密 接な関係をこれまで以上に明確にすることができた.

 PS は当初は後頭部に突発波をもつ特発性てんかん の一つとして報告されていたが,その後の研究では棘 波は多焦点性で,その発作症状も後頭葉てんかんで見 られる視覚症状は認めず,嘔気や嘔吐を中心とする自 律神経発作が主体であることから,後頭葉てんかんの 範疇に入れることへの疑念が示されていた2).しかし,

図 低周波遮断フィルタ処理および時間周波数分析の代表例

(BECTS)

A:ローランド棘波の原波形.B:Aの矢印の棘波の時間軸を 5 倍に引き延ばしたものが青色の波形で,さらにそれを低周波 遮断フィルタ処理で70Hz 以下の波形を減衰させたものが赤色 の波形.C:最も高周波が強く現れていたT4 の波形を時間・

周波数分析したもの.島状に浮き上がったスポットは棘波の立 ち上がりに一致して高周波が出現していることを表わしている

(矢印)

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今回の研究から後頭葉の棘波の方が他の部位の棘波よ り HFA を伴う率が高く,棘波が多焦点性であっても 最もてんかん原性が高い場所は後頭葉で,やはり後頭 葉に特別な意味のあるてんかんであると示唆された.

 HFA や HFOs の分析は以前は頭蓋内電極脳波記録 による検出に限られていたが,頭皮脳波でも検出でき ることが報告されて以降,その応用範囲も広がってい る.また既に頭皮電極と頭蓋内電極の同時記録により,

頭皮脳波の HFOs は頭蓋内の HFOs を反映すること が報告されている3).頭蓋内電極脳波は侵襲的である ことから,その適応はてんかん外科症例などに限られ ている.一方で,頭皮脳波は非侵襲的であり,手術を 受けない特発性てんかんの症例にも応用することがで きる.また,乳幼児においても安全かつ簡便に行うこ とが可能である.今回の研究結果から,一見同じよう に見える棘波でも出現部位によって HFA の検出率が 異なっており,HFA や HFOs の分析を行うことで通 常の脳波解析に比べより多くの情報が得られることが 判明した.つまり,HFA や HFOs の分析が病態の解 明のために有用であること,そしてそれが頭皮脳波で 可能であることを示すことができたことに大きな意義 があると思われる.

今後の展開や展望

 BECTS も PS も基本的には予後良好なてんかんで あるが,中には治療抵抗性であったり,脳波の悪化に 伴い認知や行動などに障害を認めたりすることがあ る.特に非定型良性部分てんかんや,Landau-Kleffner 症候群,徐波睡眠時に持続性棘徐波(CSWS)を示す てんかんなどへ移行する一部の非典型群ではその程度 が強い.しかし,初期の段階では脳波などから予後を 予測することは困難と言われている.BECTS や PS で は経過が良い例が多いことから,必ずしも治療を必要 としない.初期の段階で非典型群への移行を予測して,

早急かつ積極的な治療を行うことができれば,言語や

認知面,行動面などへの影響を最小限に抑えることが 可能になるかもしれない.ローランド棘波を認める症 例で,HFOs が検出された症例の方が発作頻度が多か ったとの報告もあり4),HFOs の有無は経過の予測因子 にならないかと期待されている.残念ながら今回の研 究では HFA や HFOs の有無と発作頻度の間に一定の 関係性は見られなかった.今回は発作が活発な時期の 脳波しか検討していないため,経過を追って脳波を解 析していくことで関係性がみえてくる可能性がある.

 また HFOs にはてんかん性活動だけではなく,生理 的なものもあり,認知など高次脳機能に関与すると考 えられている5).異常な HFOs が生理的な HFOs に干 渉して認知機能などに障害を来たしている可能性もあ り,今後の検討課題である.

文   献

1 ) Kobayashi K, Watanabe Y, Inoue T, Oka M, Yoshinaga H, et al.:Scalp-recorded high-frequency oscillations in childhood sleep-induced electrical status epilepticus.

Epilepsia (2010) 51,2190-2194.

2 ) Oguni H, Hayashi K, Imai K, Hirano Y, Mutoh A, et al.:

Study on the early-onset variant of benign childhood epilepsy with occipital paroxysms otherwise described as early-onset benign occipital seizure susceptibility syndrome.

Epilepsia (1999) 40,1020-1030.

3 ) Zelmann R, Lina JM, Schulze-Bonhage A, Gotman J, et al.:

Scalp EEG is not a blur:it can see high frequency oscillations although their generators are small. Brain Topogr (2014) 27,683-704.

4 ) van Klink NE, van ’t Klooster MA, Leijten FS, Jacobs J, Braun KP, et al.:Ripples on rolandic spikes:A marker of epilepsy severity. Epilepsia (2016) 57,1179-1189.

5 ) Ueda K, Brown EC, Kojima K, Juhász C, Asano E:Mapping mental calculation systems with electrocorticography. Clin Neurophysiol (2015) 126,39-46.

平成29年 4 月13日受稿

〒700-8558 岡山市北区鹿田町 2 - 5 - 1 電話:086-235-7372 FAX:086-235-7377 E-mail:[email protected]

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