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研究の背景と経緯小児期には年齢依存性の特徴的なてんかん症候群が いくつも存在する.中でも特発性部分てんかんは頻度 が高く,幼児期には Panayiotopoulos 症候群(PS),学 童期には中心・側頭部に棘波を示す良性てんかん
(BECTS)が知られている.BECTS では中心・側頭 部に,PS では主に後頭部に機能性棘波と呼ばれる特徴 的な形態の棘波を示し,PS ではこれが他部位に移動す る症例もある.BECTS と PS では臨床・脳波学的に両 症候群の特徴を併有する症例もあり,何らかの共通性 も想定されている.BECTS ではシルビウス発作と呼 ばれる片側顔面間代けいれんに,口部の異常体性感覚,
流涎,構音障害を伴う焦点性運動発作が主体で,発作 症状と棘波の焦点が密接に関連している.一方 PS で は,発作は嘔吐などの自律神経症状が主体で,棘波の 焦点との関連性ははっきりしない.
脳波における80Hz 以上の波は高周波活動(HFA)
と呼ばれ,中でも明瞭な振動性を示すものを高周波振 動(HFOs)と呼んでいる.HFOs とてんかん原性の関 係は棘波とてんかん原性の関係よりも強いと言われ世 界的に注目されている.HFOs は頭蓋内電極脳波記録 での報告が多いが,我々は頭皮脳波でも検出できるこ とを報告した1).我々は時間・周波数分析による高周
波の検出も行っているが,時間・周波数分析で検出し た高周波は必ずしも明瞭な振動性を示すとは限らない ため,HFOs ではなく HFA としている.HFA は HFOs よりもてんかん原性との関係が必ずしも密ではないと も言われているが,時間周波数分析の方がより弱い活 動でも検出することが可能である.
我々は棘波の焦点部位によって HFA の検出率が異 なるのではないかと予想した.BECTS と PS の患者で 棘波を焦点ごとに分類し,HFA の検出率を比較する ことで,焦点ごとのてんかん原性の強さの違いがわか るのではないか,さらにはこれが小児特発性部分てん かんの病態解明の一助になるのではないかと考え,今 回の研究を行った.
研究成果の内容
1 .小児特発性部分てんかんの頭皮脳波からも HFA は高率に検出される
今回は各症例で発作から半年以内のてんかんが活発 な時期の脳波のみを対象として分析した.睡眠中の焦 点性棘波を解析ソフト Reveal を用いて,棘波の発生部 位,形状などを元にクラスター分類し,各症例で最大 3 群を分析対象とした.各棘波群ごとに時間・周波数 分析を行い HFA を検出した(図).その結果,BECTS
柴 田 敬
Takashi Shibata
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 発達神経病態学
Department of Child Neurology, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences
岡山医学会雑誌 第129巻 August 2017, pp. 85-87 平成28年度岡山医学会賞紹介記事
脳神経研究奨励賞(新見賞)
昭和54年生まれ
平成16年 3 月 京都大学医学部医学科卒業
平成16年 4 月 倉敷中央病院 教育研修部 初期研修医 平成18年 4 月 倉敷中央病院 小児科 後期研修医 平成21年 4 月 静岡県立こども病院 内分泌代謝科 医員 平成22年 4 月 岡山大学病院 小児神経科 医員
平成23年 4 月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程入学 平成29年 3 月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了
<プ ロ フ ィ ー ル>
Shibata T, Yoshinaga H, Akiyama T, Kobayashi K : A study on spike focus dependence of high-frequency activity in idiopathic focal epilepsy in childhood. Epilepsia Open (2016) 1, 121-129.
受 賞 対 象 論 文
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では73/96棘波群(76.0%),PS では37/63棘波群(58.7%)で HFA が検出され,BECTS の方がより高率であっ た.両群とも多くの HFA が検出され,小児の特発性 部分てんかんにおいても,頭皮脳波で HFA の分析が 可能であることが改めて確認された.
2 .BECTS ではローランド領域に双極子が推定され る棘波に HFA が高率に検出される
それぞれの棘波の発生源は,標準脳に基づく頭蓋形 状モデルによる単一双極子電流発生源分析で推定し た.推定された双極子の解剖学的位置は標準脳上で解 析ソフト FreeSurfer を用いて決定した.BECTS では 双極子がローランド溝周囲の中心前回および中心後回 に推定された群の方が,それ以外の位置に双極子が推
定された群(多くは側頭葉もしくは縁上回)に比べ有 意に HFA を伴う割合が高かった.BECTS は定義上,
その棘波は中心・側頭部に出現し,その双極子はロー ランド領域に限局していると報告されていた.しかし,
今回の結果からは BECTS のローランド棘波は均一な 集団ではなく,ローランド溝周囲の皮質から出現する 棘波はその周辺の皮質部位由来の棘波に比較して有意 に高率に HFA を伴い,高いてんかん原性を持つこと が明らかになった.
3 .PS では後頭葉に出現する棘波の方が HFA を高率 に伴う
PS では後頭葉に双極子が推定された棘波の方が,そ の他の部位に双極子が推定された棘波よりも HFA を 伴う割合が高かった.つまり,PS では後頭葉に出現す る棘波の方が他の部位に出現する棘波よりもてんかん 原性が高いと言え,PS の発作とより深い関係があると 考えられた.このことから,PS ではてんかん発射は多 焦点性であっても,最もてんかん原性が高い場所は後 頭葉であると示唆された.
4 .HFA や HFOs の有無と発作頻度の間には一定の 関係はみられなかった
各症例で棘波に伴う HFA や HFOs(HFOs は低周 波遮断フィルタ処理により目視で確認)の有無と発作 頻度の関係について検討を行った.BECTS では HFA が検出された患者の方が発作回数が多く,HFOs の有 無は発作頻度との関係がみられなかった.逆に PS で は HFA の有無は発作頻度との関係がみられなかった が,HFOs が検出された患者の方が発作回数が多いと いう一定しない結果になった.
研究成果の意義
今回の研究から BECTS では,頭皮脳波上は同じ部 位から出現して見える棘波でも,ローランド領域に双 極子が推定される棘波の方が高いてんかん原性を有す ることが判明し,棘波の起源とそのてんかん原性の密 接な関係をこれまで以上に明確にすることができた.
PS は当初は後頭部に突発波をもつ特発性てんかん の一つとして報告されていたが,その後の研究では棘 波は多焦点性で,その発作症状も後頭葉てんかんで見 られる視覚症状は認めず,嘔気や嘔吐を中心とする自 律神経発作が主体であることから,後頭葉てんかんの 範疇に入れることへの疑念が示されていた2).しかし,
図 低周波遮断フィルタ処理および時間周波数分析の代表例
(BECTS)
A:ローランド棘波の原波形.B:Aの矢印の棘波の時間軸を 5 倍に引き延ばしたものが青色の波形で,さらにそれを低周波 遮断フィルタ処理で70Hz 以下の波形を減衰させたものが赤色 の波形.C:最も高周波が強く現れていたT4 の波形を時間・
周波数分析したもの.島状に浮き上がったスポットは棘波の立 ち上がりに一致して高周波が出現していることを表わしている
(矢印).
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今回の研究から後頭葉の棘波の方が他の部位の棘波よ り HFA を伴う率が高く,棘波が多焦点性であっても 最もてんかん原性が高い場所は後頭葉で,やはり後頭 葉に特別な意味のあるてんかんであると示唆された.HFA や HFOs の分析は以前は頭蓋内電極脳波記録 による検出に限られていたが,頭皮脳波でも検出でき ることが報告されて以降,その応用範囲も広がってい る.また既に頭皮電極と頭蓋内電極の同時記録により,
頭皮脳波の HFOs は頭蓋内の HFOs を反映すること が報告されている3).頭蓋内電極脳波は侵襲的である ことから,その適応はてんかん外科症例などに限られ ている.一方で,頭皮脳波は非侵襲的であり,手術を 受けない特発性てんかんの症例にも応用することがで きる.また,乳幼児においても安全かつ簡便に行うこ とが可能である.今回の研究結果から,一見同じよう に見える棘波でも出現部位によって HFA の検出率が 異なっており,HFA や HFOs の分析を行うことで通 常の脳波解析に比べより多くの情報が得られることが 判明した.つまり,HFA や HFOs の分析が病態の解 明のために有用であること,そしてそれが頭皮脳波で 可能であることを示すことができたことに大きな意義 があると思われる.
今後の展開や展望
BECTS も PS も基本的には予後良好なてんかんで あるが,中には治療抵抗性であったり,脳波の悪化に 伴い認知や行動などに障害を認めたりすることがあ る.特に非定型良性部分てんかんや,Landau-Kleffner 症候群,徐波睡眠時に持続性棘徐波(CSWS)を示す てんかんなどへ移行する一部の非典型群ではその程度 が強い.しかし,初期の段階では脳波などから予後を 予測することは困難と言われている.BECTS や PS で は経過が良い例が多いことから,必ずしも治療を必要 としない.初期の段階で非典型群への移行を予測して,
早急かつ積極的な治療を行うことができれば,言語や
認知面,行動面などへの影響を最小限に抑えることが 可能になるかもしれない.ローランド棘波を認める症 例で,HFOs が検出された症例の方が発作頻度が多か ったとの報告もあり4),HFOs の有無は経過の予測因子 にならないかと期待されている.残念ながら今回の研 究では HFA や HFOs の有無と発作頻度の間に一定の 関係性は見られなかった.今回は発作が活発な時期の 脳波しか検討していないため,経過を追って脳波を解 析していくことで関係性がみえてくる可能性がある.
また HFOs にはてんかん性活動だけではなく,生理 的なものもあり,認知など高次脳機能に関与すると考 えられている5).異常な HFOs が生理的な HFOs に干 渉して認知機能などに障害を来たしている可能性もあ り,今後の検討課題である.
文 献
1 ) Kobayashi K, Watanabe Y, Inoue T, Oka M, Yoshinaga H, et al.:Scalp-recorded high-frequency oscillations in childhood sleep-induced electrical status epilepticus.
Epilepsia (2010) 51,2190-2194.
2 ) Oguni H, Hayashi K, Imai K, Hirano Y, Mutoh A, et al.:
Study on the early-onset variant of benign childhood epilepsy with occipital paroxysms otherwise described as early-onset benign occipital seizure susceptibility syndrome.
Epilepsia (1999) 40,1020-1030.
3 ) Zelmann R, Lina JM, Schulze-Bonhage A, Gotman J, et al.:
Scalp EEG is not a blur:it can see high frequency oscillations although their generators are small. Brain Topogr (2014) 27,683-704.
4 ) van Klink NE, van ’t Klooster MA, Leijten FS, Jacobs J, Braun KP, et al.:Ripples on rolandic spikes:A marker of epilepsy severity. Epilepsia (2016) 57,1179-1189.
5 ) Ueda K, Brown EC, Kojima K, Juhász C, Asano E:Mapping mental calculation systems with electrocorticography. Clin Neurophysiol (2015) 126,39-46.
平成29年 4 月13日受稿
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