「集合知』を生み出す対話型授業の創造
一子どもたちの学びの量と質を保障する社会科授業ー 高度学校教育実践専攻
授業実践・カリキュラム開発コース 秋 田 泰 宏
第 I部 学 校 課 題 解 決 実 践 研 究 編 第 1章 実 践 研 究 課 題 と 研 究 構 想
【課題設定の理由】
競争と技術革新が絶え間なく起こる「知識基 盤社会」が本格的に到来しようとしている。そ ういった中,教育の成果と影響に関する情報へ の関心が高まり,
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キー・コンビテンシー(主要 能力)Jの特定と分析に伴う概念を各国共通にす る必要が出てきた。そこで OECDは,r
コンピ テンシーの定義と選択 (DeSeCo)Jを行った。キー・コンピテンシーは,次の3つに集約さ れる。
(1)自律的に活動する能力
(2)社会的に異質な集団における交流能力 (3)社会・文化的,技術的ツールを相互作用
的に活用する能力
その中心にあるのがコンピテンシーの核心で ある「思慮、深い思考と行為jである。
全面実施となった学習指導要領は,これらの 考えを反映しつつ,
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生きる力jの育成をねらっ ている。さらには,r
生きる力Jを育てるために,基礎的・基本的な知識及び技能を習得させ,こ れらを活用して課題を解決するために必要な思 考力,判断力,表現力等をはぐくむとともに,
主体的に学習に取り組む態度を養うため,言語 活動を充実することが述べられている。
こういったことをふまえ,置籍校の課題を学 力調査や職員への穂、き取り等によって分析した
実 習 責 任 教 員 西 村 公 孝 実 習 指 導 教 員 前 田 洋 一
結果,分かったことは次の4つである。
( 1 )知識・技能の習得不足
(2)思考力・判断力・表現力等の向上 (3)学習意欲の向上
(4)他者とのかかわりの希薄さ
前述した教育の今日的課題と重なる面が多い。
そこで,本研究では実践研究課題を
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集合知』を生み出す対話型授業一子どもたちの学びの量 と質を保障する社会科授業ーJと設定した。授 業の中で「他者との関わり(対話)Jを数多く経 験させることを通して,学力の3要素における 子どもたちのより良い成長をねらう(集合知を 生み出す)というものである。本研究における
「集合知j とは,集団内の相互作用で得られる 知(知識を含む)と定義する。
【研究の目的と仮説】
研究の目的は以下のことである。
置籍校の課題である「人との関わりjと「学 力の三要素」について子どもたちを良い意味 で変化させるためには,どのような授業が,
または指導法が効果的なのかを明らかにする こと。
そして次の研究仮説を設定する。
授業を対話型にすることで,人とかかわる 力が育ち,その結果「量としての集合知J
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質としての集合知jが生み出され,子どもたち が集団の中で自己実現を果たすことができる であろう。
[研究の方法】
先行実践研究 ・教材研究
置籍校による授業実践
( 2 )学習方法の改善
置籍校の課題として学力の3要素以外にあげ られたのが「他者との関わりの希薄さ」である。 子どもたちの学びの量や質は多種多様である。 それらを「関わり(対話)Jによって交流させる 授業記録(動画や音声,子ども
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ことで,全体の学びの量と質を保障することがたちのノート等)をもとに分析 ・考察│ できなし、かと考え,作成したのが下のモデルで 置籍校における授業実践は 1年間継続する ある。このモデノレを言い換えれば「対話型授業J こと とし,その対象は5年生3ク ラ ス (1 0 8 でもある。筆者の理想とする「対話型授業」は 人)である。 こういったサイクノレで,学びを自分たちで展開
第 Z章 実 習 絞 に お け る 前 期 課 題 実 習 実 践 研究報告
【前期実習の目的と概要】
前期実習の目的は,大きく次の2つである。 (1)指導方法の改善
(2)学習方法の改善
これらの目的のために,様々な事柄を実践し
た。中でも筆者が考えた 2つのモデルについて 図をで示す。
(1)指導方法の改善
J.Mケラーの ARCSモデルと,臨床医や教育
していく授業である。
魅力的な学習課題 安心できる学習環境
関わり
(動)
古河膏緩伝違 ②応答 ③稲餅 (教え合い 尋ね合い) (学び合い)
沈思黙考 (静)
図2 学びの量と質を保障する学習システム (筆者作成)
話法を研究する立場と対話についての先行研究 これら 2つのモデルを授業に取り入れ,前期 (第E部理論研究編)をもとに次のモデルを作 実習期間において, 3 3時間X 3クラス=99 成し実践に取り入れた。 時間の授業実践を行った。
作業指示 (細分化)
おどろく 質問する
ほめる 意味づけ {画値;づけ (評価)
図1 学習意欲の向上と学びの量と質を向上 させる指導システム(筆者作成)
【前期実習についての分析と考察】
前期実習で実践したことをもとに,質問紙(6 月108名に実施)による分析と考察を行った。
( 1 )質問紙による結果
以下 7つの項目についての結果を示す。
1)4年生までに比べ社会科が好きになった。
85.2
%
2) 11分かるようになった。81.5
%
3) 11ふしぎに思うことが増えた。83.3
%
4) 11調べることが増えた。89.8%
5) "考えることが増えた。 89.8
%
6) "友だちに教えることが増えた。 68.5
%
7) "友だちから教えてもらうことが増えた。
79.6
%
以上のことから,成果として社会科に対する 学習意欲の向上があげられる。逆に「教え合う
ことjについては課題が残った。
(2) 自由記述の結果と分析
自由記述(授業を受けて思うこと)を単語ご とにキーワードとして抜き出し,それらの出現 回数をグラフにした。出現回数が多かった単語 は,上から「わかるJ6 1回,
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楽しいJ4 5回,fおもしろしリ 31回である。
このことから次のことが明らかになった。
「楽しし、J
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おもしろしリという,授業に対 する肯定的な感情が芽生えることで学習意欲 が向上し,さらに ICTを活用したことで「わ かる」につながった。ICTを活用した授業が子どもにわかりや すく
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わかる」ことが「楽ししリ「おもしろ いJにつながった。第3章 実 習 校 に お け る 後 期 課 題 実 習 実 践 研究報告
【後期実習の目的と概要】
前期実習後の課題をその目的とした。
(1)子ども同士の関わりに関する意欲・
有用感の向上 (2)学習課題の開発
(3 )対話型授業(学習モデル)の自走 (自分たちで学びを進めていく)
( 4 )
同僚との学び合いの場作りこれら4つの課題に対して3つの取り組みを 行った。(1)~ (3)については,子ども同士
で対話的に学習を進めていく学習課題を開発し た。 (4)に対しては,研究授業などの授業公開
と研究会の場を設けた。
【具体的な内容
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5年生社会科の学習内容を東日本大震災と関 連させた学習課題を 2つ開発し,研究授業を行
った。
(1)
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今までと新しい魚の流通ルートを比べて 優れているのはどちらか」(2)
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自分たちにとって役に立つハザードマッ プについて話し合おう」これらの課題に対して,調べ学習を展開し,
自分の意見をノートに書く。そしてそれらを「対 話型授業」によって関わらせることで,新しい 考えとなる「集合知」を生み出すことをねらっ た。
【後期実習についての分析と考察】
開発した学習課題についての子どものノート や,授業ビデオの逐語録から子どもたちの発言
の量や質について分析を行った。
発言の量に関しては,その文字数をカウン卜 した結果,次のようになった。
l全体の発言量 5154文字に対して
教師の発言量 806文字 (15. 6 %) 子どもの発言量 4351文字 (84. 4 %) 成果として,子どもたち自身が学びを進めて いけいるようになったことがあげられる。逆に 課題となったのは,
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発言のつながりJであった。逐語録をつぶさに見てみると,自分たちの意見 を伝え合ってはいるが,論がかみ合っていると は言えないことが分かつた。
しかし,前期実習後に課題として残った,子 ども同士の教え合い(関わり)については,質 問紙による結果が 10~20% 向上した。関わ りへの意欲と活動の場数を維持しつつ,話し合
いの質的な高まりまで目指すことが今後の課題 である。
第4章 1年聞を通した実践研究に関する 考察
指導が困難であると筆者が判断する A くんに ついて,実習期間中の週録やAくんのノート等 をもとに実習の最初と最後を比較し,その変容 を考察した。
第E部 学 校 課 題 解 決 理 論 研 究 編 第1章 『集合知Iに関する研究
「集合知」と呼ばれている「群衆の知恵J
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集 団的知性Jと Web2.0時代における「集合知」など3つの例を研究し,本研究としての「集合 知Jについて量と質の面から考えた。
量としての集合知が増えていくと,質的な変 化をもたらすということが明らかになった。
第2章 『対話型授業』に関する研究
臨床医の立場,教育話法を研究する立場,ダ イアログ(対話)とデイスカッション(議論,
討論)という 3つの視点から「対話」やそれを 活用した「対話型授業」について概観する。さ らには,それらの研究から筆者自身が考える「対 話型授業」とはどういったものなのかを考えた。
「対話型授業」に必要な事柄をキーワードで 示すと「共感J
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温かさJr
誠実さJr
感受性Jr
応答性J
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主体性の保障」であることが分かつた。また,授業で扱う課題は,
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討論」から「対話」へと移行していくような,二者択一的には考え られない問題を扱うことがよいとしサ結論に達 した。
第3章 社 会 科 授 業 論
社会科における学習指導法の歴史的変遷と,
社会科に関わりの深いと考えられる授業論につ いて研究することで,本実践研究の糧とするこ
とを目的とした。
授業論を概観することで
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内容主義」と「過 程主義」のどちらの考えも大切であることが明らかになった。
第 田 部 省 察 編
第 1章 大 学 院 志 望 の 動 機 に お け る 自 己 省 察 大学院志望動機において掲げた目標「授業力 をつけることJ
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術敵するカをつけること」が,達成できたかどうか,教職大学院での学び(授 業ノート)と課題解決実習をもとに省察する。
第2章 3領域11項目における自己省察 教職大学院では,入学時と初年度末のそれぞ れの時期に 3領 域1 1項目についての到達目 標を「到達状況シート」という形で自己評価を 行っている。また初年度末には,観点別評価と いう形で,各授業担当教員の方々に,それぞれ の授業における各観点について評価をしていた だし、た。それらをもとに自己省察を進める。
く参考文献>
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アラン・ブリスキン,シェリル・エリクソン,ジョン・オット,他2名,上原裕美子訳(2010)
『集合知の力,衆愚の畏』英治出版
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J.Mケラー,鈴木克明訳(2010)W学習意欲を デザインする‑ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン』北大路書房
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デヴィッド・ボーム(2007)W
ダイアローグ』英治出版