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従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築義務-日本システム技術事件上告審判決(最判平21・7・9金判1330号55頁)-: 沖縄地域学リポジトリ

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Title

従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築

義務−日本システム技術事件上告審判決(最判平21・7・

9金判1330号55頁)−

Author(s)

大川, 俊

Citation

沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL

OF LAW & ECONOMICS(16): 69-80

Issue Date

2011-11-30

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/9609

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【判例研究】

従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築義務

一日本システム技術事件上告審判決(最判平21.7.9金判1330号55頁)−

Employee'saccountingfraudandrepresentativedirector'sdutytobuildinternalcontrolsystem 大 川 俊 * ShunOKAWA 専 門 分 野 : 商 法 、 会 社 法 キーワード:有価証券報告書の不実記載、内部統制システム、代表取締役の不法行為責任 I 事 実 の 概 要 Y(日本システム技術株式会社)(被告・控訴人・上告人)は、ソフトウェアの開発及び販売を業 とする株式会社であり、平成15年2月に東京証券取引所第2部に上場している。Yの事業は、顧 客の注文に応じてソフトウェアの受託開発を行うソフトウェア事業と、大学向けの業務ソフト等 の既製品の開発・販売を行うパッケージ事業に大別され、パッケージ事業本部にはGAKUEN事 業部が設置されていた。パッケージ事業は、販売会社に事務ソフト等の製品を販売し、販売会社 がエンドユーザーである大学等にさらにこれを販売するというものであった。 Bは、平成12年4月、YのGAKUEN事業部の部長に就任した。当時、GAKUEN事業部には、 Bが部長を兼務する営業部の他、注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課(ビジネスマ ネージメント課)及び事務ソフトの稼働の確認を担当するCR部(カスタマーリレーション部)が 設置されていた。また、Yの財務部は、BM課から受領した注文書、検収書等を確認し、これを 売上として計上していた。なお、Yの職務分掌規定によれば、財務部の分掌業務は、資金の調達 と運用・管理、債権債務の管理等とされ、GAKUEN事業部の分掌業務は、営業活動、営業事務(受 注管理事務、債権管理事務、売掛金の管理及び不良債権に関する処理方針の決定を含む)等とされ ていた。 Bは、高い業績を達成し続けて自らの立場を維持するため、平成12年9月以降、GAKUEN事業 部の営業担当者である部下数名に対して、後日正規の注文が獲得できる可能性の高い取引案件に ついて、正式な注文がない段階で注文書を偽造するなどして、実際に注文があったかのように装 い、売上として架空計上する扱い(以下、「本件不正行為」という。)をするよう指示した。Bらは、 当初は契約に至る可能性の高い案件のみを本件不正行為の対象としていたが、次第に可能性の低 い案件についても手を付けざるを得なくなり、売掛金の滞留残高は増大していった。 Yの財務部は、回収予定日を過ぎた債権につき、GAKUEN事業部から売掛金滞留残高報告書を

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従 業 員 の 不 正 会 計 と 代 表 取 締 役 の 内 部 統 制 シ ス テ ム 構 築 義 務 提出させていたが、Bらは、回収遅延の理由として、大学においてシステム全体の稼働が延期さ れたことや、大学における予算獲得の失敗及び大学は単年度予算主義であるため支払が期末に集 中する傾向が強いこと等を挙げていた。Yの財務部は、これらの理由が合理的であると考え、ま た、販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく、売掛金残高確認書も受領していると認識 していたことから、売掛金債権の存在について特に疑念を抱かず、直接販売会社に照会等を行う ことはなかった。また、Yの監査法人も、平成16年3月期までのYの財務諸表等につき、適正で あるとの意見を表明していた。 しかし、Yは、監査法人から、パッケージ事業における販売会社に対する売掛金残高の早期回 収に向けた経営努力が必要である旨の指摘を受け、Yの代表取締役であるAが販売会社と売掛金 残高について話し合ったところ、双方の認識に相違があることが明らかになり、平成16年12月 頃、本件不正行為が発覚した。 平成17年2月10日、Yは、本件不正行為を公表し、同年3月期の業績予想を修正した。また、 東京証券取引所は、Yから過去の有価証券報告書を訂正する旨の報告を受け、同日、上場廃止基 準側務諸表に虚偽記載があること)に抵触するおそれがあるとして、Yの株式を監理ポストに割 り当てることとした。平成17年4月14日、Yは、本件不正行為による財務諸表等への影響が判明 したとして、平成14年3月期、平成15年3月期、平成16年3月期に関する決算短信(連結・単独) の訂正内容の概要を発表し、同日、当該各期の有価証券報告書を訂正した(以下、訂正前の各有 価証券報告書の記載のうち、このときに訂正された記載を「本件不実記軌という。)。その後、東 京証券取引所は、Yの株式を上場廃止とはしなかったが、本件不正行為及び本件不実記載の事実 が新聞等により報道されたため、Yの株価は大幅に下落した。Yは、本件不正行為の発覚を受け て、Bを平成17年2月3日付けで懲戒解雇した。Bに対しては、平成18年3月30日、有印私文 書偽造・同行使罪により懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決が確定した。また、Yが架空 売掛金の調査を行った結果、その額は11億4千万円であった。さらに、Yは、平成17年3月18日、 従来GAKUEN事業部内で行っていた販売会社の資格審査や伝票の確認等の作業を、新たな事業 部で行うこととする等の再発防止策を講じた。 X(原告・被控訴人・被上告人)は、本件不正行為及び本件不実記載が公表される前の平成16年 9月13日及び14日、平成16年3月期の有価証券報告書の記載等に基づいて、Yの業績が好調で、 財務面においても安定していると考えてYの株式を購入したが、本件不正行為及び本件不実記載 を原因として株価が急落したことから、同月18日に全株の売却を余儀なくされ、損失が発生した。 そこで、Xは、AにBらの本件不正行為及び本件不実記載を防止すべきリスク管理体制を構築すべ き義務に違反した過失があり、その結果、損害を被ったとして、Yに対し、平成18年改正前民法 44条1項に基づいて、損害賠償の請求を行った。 第1審(東京地判平19.11.26金判1321号43頁)は、Yの組織体制、本件不正行為の背景、Y の売掛金債権の管理、本件不正行為の発覚及びその後の経緯等を詳細に認定した上で、Aの不法 行為及びそれに基づくYの責任を肯定し、Xの請求を一部認容した。Yはこれを不服として控訴し たが、控訴審(東京高判平20.6.19金判1321号43頁)も、以下のように述べて、控訴を棄却し た。すなわち、「…控訴人(Y)においては、本件不正行為当時のGAKUEN事業部の組織体制…に は本件不正行為を行い得るリスクが内在していたにもかかわらず、適切なリスク管理体制が構築 − 7 0 −

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されず、また、当時のリスク管理体制の下においても財務部が経理規程に基づく事務処理を忠実 に履行せず取引先に対し適時的確に残高確認を求めたり不明な点があればさらに確認を求めるこ となどを怠ったことにより、元事業部長(B)らによる本件不正行為を容易にし、その発覚の遅れ を招いたものと認めることができ、控訴人代表者(A)には、このような各部門の適切なリスク管 理体制を構築し、機能させる義務を怠った過失があり、その結果、本件不正行為の発生を招くと ともに、本件各有価証券報告書に本件不実記載がなされたことが認められ、被告代表者(A)の当 該各行為は不法行為(民法709条)を構成するものというべきである。また、企業が整備すべきリ スク管理体制について、経営判断の問題として会社経営の専門家である取締役が広い裁量の下に 決すべきものであり、事後的に求められる水準をもって本件の判断基準とすることは結果責任を 問うことになり妥当でないとの被告(Y)の主張について、…本件不正行為当時にあっても、控訴 人(Y)に前記リスクが内在しており、控訴人代表者(A)はそれが現実化する可能性を予見する こと及びそれを排除ないし低減させる対策を講じることは可能であり、また、経理規程等を財務 部が忠実に順守していれば本件不正行為を未然に防止し、または速やかに発見することが可能で あったと認めることができるから、控訴人代表者(A)はその経営判断上前記義務を果たすことは 十分可能であったというべきであるから、この点に関する被告(Y)の主張は採用できない。」。こ れに対して、Yが上告したのが本件である。 なお、本件において、Xは、平成17年改正前商法261条3項、78条2項が準用する平成18年改正 前民法44条1項に基づく請求を行い、第1審判決及び控訴審判決では、同法に基づく請求権の有 無が判断されているが、本件上告審判決においては、「会社法の制定により、同法にこれと同内容 の規定である350条が設けられ、同法の施行前に生じた事項についても適用されるものとされた (会社法附則2項)ので、同法施行後は同法350条に基づく請求をするものと解される。」として、 会社法350条に基づく請求権の有無が判断されている。 Ⅱ 判 旨 破棄自判(請求棄却) 「前記事実関係によれば、本件不正行為当時、上告人(Y)は、①職務分掌規定等を定めて事業 部門と財務部門とを分離し、②GAKUEN事業部について、営業部とは別に注文書や検収書の形 式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し、それらのチェッ クを経て財務部に売上報告がされる体制を整え、③監査法人との間で監査契約を締結し、当該監 査法人及び上告人(Y)の財務部が、それぞれ定期的に、販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙 を郵送し、その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから、 上告人(Y)は、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整 えていたものということができる。そして、本件不正行為は、GAKUEN事業部の部長がその部下 である営業担当者数名と共謀して、販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し、BM課の担当 者を欺いて財務部に架空の売上げ報告をさせたというもので、営業社員らが言葉巧みに販売会社 の担当者を欺いて、監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未 開封のまま回収し、金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し、見 かけ上は上告人(Y)の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという、

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従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築義務 通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。 また、本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど、上告人(Y)の代表 取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事↓情も見当たら ない。

さらに、前記事実関係によれば、売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的

なもので、販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく、監査法人も上告人(Y)の財務諸表 につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから、財務部が、Bらによる巧妙な偽 造工作の結果、販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接販売会 社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能して いなかったということはできない。 以上によれば、上告人(Y)の代表取締役であるAに、Bらによる本件不正行為を防止するため のリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。」 Ⅲ 検 討 (1)本判決の意義 本件は、Bらが営業成績を上げる目的で架空の売上を計上するという不正行為を行った結果、 有価証券報告書に虚偽の記載がなされ、その事実が公表されてYの株価が下落したことについ て、公表前にYの株式を取得し公表後に売却したXが、AにはBらの不正行為を防止するための リスク管理体制を構築すべき義務を怠った過失があり、その結果、損害を被ったとして、Yに対 して、平成18年改正前民法44条1項に基づいて、損害賠償を請求した事案である1. 本件は、有価証券報告書の虚偽記載を原因とする株価下落の損害を被った株主が、その損害の 賠償を求めるという点において、西武鉄道事件(東京地判平20-4.24判夕1267号274頁、東京 高判平21.3.31金判1316号2頁等)やライブドア事件(東京地判平20.6.13判夕1294号119頁、 東京高判平21.12.16金判1332号7頁)等と類似する2°しかし、本件は、いわゆる粉飾決算の事 例とは異なり、(代表)取締役が会社の業績を良く見せる等のために故意に有価証券報告書に不実の 記載をしたとか、(代表)取締役について、有価証券報告書の不実記載を看過したこと自体について の過失が問題とされたものではない3.本件は、代表取締役について、従業員による不正行為等を 防止するための適切な内部統制システム(本判決では「リスク管理体制」と表現している。)を構築 すべき義務に違反した過失があったか否かが問題とされたものである。会社法における取締役の 内部統制システム構築義務については、大和銀行事件(大阪地判平12.9.20判夕1047号86頁) をリーディングケースとして、数件の裁判例の蓄積がみられ、特に同義務履行の担保としての内 部統制システムの適正‘性に関する水準が明らかにされつつある。本判決は、この点につき最高裁 として初めての判断を下したことに意義が認められる。 以下では、まず、これまでの裁判例及び学説を基礎に、内部統制システムの意義、内部統制シ ステム構築義務の性質、同義務履行の担保のための内部統制システムの水準(内部統制システム の適正性に関する判断基準)を明らかにした上で、本判決の判断について検討する。また、本件 は、第一義的には代表取締役の内部統制システム構築義務違反が争点となった事案であるが、会 社法350条に基づく請求であったため、不法行為法上の過失が認められるか否かという視点から、 − 7 2 −

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同義務違反が問題となったという意味において、特殊な事案であったと評価されている4.そこ で、次に、取締役の内部統制システム構築義務違反に基づく会社の不法行為責任について検討す る。 (2)内部統制システム構築義務 ① 意 義 及 び 義 務 の 性 質 内部統制システムとは、一般に、経営者が他の経営者や使用人の業務の効率‘性・有効‘性、遵法 (コンブライアンス)を監視するシステムであり、また、経営者自身を監督するシステムであると 説明される5。裁判例においては、日本ケミフア事件(東京地判平元・2.7判時1314号74頁、東 京高判平3.11.28判時1409号62頁)の判旨が「…不正が行われず又は右不正を看過しないよう 社内の管理体制を整備すべきことは当然」と述べ、また、東京電力事件(東京地判平11.3.4判 夕1017号215頁)の判旨が「(取締役の)指導監督義務の僻怠の有無については、当該会社の形態、 内容及び規模、従業員の数、従業員の職務執行に対する指導監督体制などの諸事情を総合して判 断するのが相当」と述べ、リスク管理体制ないし内部統制システムという文言ではないものの、 実質的にこれと同種の体制の必要性を認める。その後、大和銀行事件の判旨が「健全な会社経営 を行うためには、目的とする事業の種類、』性質等に応じて生じる各種のリスク、例えば、信用リ スク、市場リスク、流動‘性リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御するこ と、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特‘性等に応じたリスク管理体制を 整備することを要する。」と述べ、内部統制システムを定義し6,さらに、「取締役は、取締役会の構 成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を 負い、さらに、代表取締役又は業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行してい るか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義 務の内容をなすものというべきである。」と述べ、中規模以上の会社の取締役は、監視義務の一環 として、内部統制システムを構築すべき義務を負うことを認め、内部統制システム構築義務の‘性 質を明らかにする7。すなわち、取締役の内部統制システム構築義務とは、取締役自身が取締役会 の構成員として、適切な内部統制システムを主体的に構築すべき義務を負うとともに、他の取締 役の内部統制システム構築義務を履行しているか否かを監視する義務を負い、これらが善管注意 義務の内容をなすと整理することができる8.これらの裁判例の判断を受けて、制度上も、平成 14年商法等改正により、委員会等設置会社の取締役(会)に対する内部統制システム構築義務が規 定され(旧商法特例法21条の7第1項2号、旧商法施行規則193条)、平成17年改正会社法にお いては、その対象となる会社が全ての大会社及び委員会設置会社へと拡大された(会社法348条3 項4号・4項、362条4項6号・5項、416条1項ロ・ホ・2項)9. ②義務履行の担保のための内部統制システムの水準 適切な内部統制システムの整備を怠ったこと、すなわち内部統制システムの適正‘性に問題があ る場合、取締役は会社に対して任務僻怠責任(会社法423条)を負う'0.任務僻怠を判断する際、 取締役が適切な内部統制システムを整備していなかったという事実と、整備された内部統制シス テムの中で、個々の取締役が、それを機能させるべき義務を怠ったという事実を分けて把握した 上で、前者については、内部統制システムの適正性に関する判断基準と経営判断の原則'1が適用 され、後者については、いわゆる信頼の権利12が問題となる13。

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従 業 員 の 不 正 会 計 と 代 表 取 締 役 の 内 部 統 制 シ ス テ ム 構 築 義 務 内部統制システムの適正‘性に関するこれまでの裁判例の判断は、以下のように整理することが できる。すなわち、(i)同業他社の類似の内部統制システムとの比較を行った上で、その適正‘性 を審査した日本ケミファ事件(第一審は適正性を否定し代表取締役の義務違反を肯定、控訴審は 適正'性を肯定し代表取締役の義務違反を否定)、(ii)金融機関という業務の特殊』性から、金融検査 マニュアルなどの当該企業が属する業界に通用する各種の実務指針を基に内部統制システムの適 正‘性を審査した大和銀行事件(残高確認方法につき適正性を否定し(代表)取締役の義務違反を 肯定)、(誼)問題となった取引(デリバティブ取引)の特殊性に着目し、取引が行われた当時におい て、デリバティブ取引の危険に関する一般的認識可能性及びその危険に対して何らかのリスク管 理体制が講じられていたかを審査したヤクルト事件(東京地判平16.12.16判時1888号2頁、東 京高判平20.5.21判夕1281号274頁)(適正性を肯定し代表取締役の義務違反を否定)、(iv)粉飾 決算や有価証券報告書虚偽記載等の不正会計を防止するための内部統制システムの適正性を審査 した東京電力事件(適正'性を肯定し代表取締役の義務違反を否定)、本件(日本システム技術事件) における第一審(東京地判平19.11.26金判1321号43頁)及び控訴審判決(東京高判平20.6. 19金判1321号42頁)(いずれも適正性を否定し代表取締役の義務違反を肯定)、(v)業務の特殊性 に着目し、より厳格な内部統制システムの水準を求めるダスキン事件(大阪地判平16.12.22判 時1892号108頁)(適正‘性を肯定しつつ、不祥事発覚後の取締役の対応つき善管注意義務違反を肯 定)、雪印食品事件(東京地判平17.2.10判時1887号135頁)(適正′性を肯定し取締役等の義務違 反を否定)である。 これらの裁判例からは、日本ケミファ事件における「同業他社基準」、大和銀行事件における「実

務指針基準'4」等、内部統制システムの適正性に関する一定の基準を抽出することができるが、基

本的には、内部統制システムという概念そのものの特殊性、問題となる会社の業務及び不正行為 等の特殊‘性ゆえに、それ以上の基準を導き出すことは困難である。この点、大和銀行事件の判旨 も、「整備すべきリスク管理体制の内容は、リスクが現実化して惹起する様々な事件事故の経験の 蓄積とリスク管理に関する研究の進展により、充実していくものである。したがって、様々な… 不祥事を踏まえ、…業務の健全かつ適切な運営を確保するとの観点から、現時点で求められている リスク管理体制の水準をもって、…判断基準とすることは相当でない…。」と述べ、内部統制システ ムの性質を指摘し、また、「…どのような内容のリスク管理体制を整備すべきかは経営判断の問題 であり、会社経営の専門家である取締役に、広い裁量が与えられていることに留意しなければな らない。」と述べ、いわゆる後知恵により内部統制システムの適正性を審査してはならない旨を指 摘する。すなわち、大和銀行事件は、一般論として、これまでの裁判例及びリスク管理に関する 学説等の議論の蓄積を通じて、内部統制システムの適正性に関する判断基準が明らかにされる一 方で、内部統制システムの整備(構築及び運用)には経営判断の原則が適用されることから'5、裁 判の時ではなく、問題となった不正行為等の発生の時を基準にその適正性を審査すべきことを明 らかにするものである'6・従って、これらの裁判例は、その後の構築すべき内部統制システムの 内容として参照されるべきではあるが、その時点における内部統制システムの適正性に関する判 断基準が、後の時点においてもそのまま妥当するものではない'7. ③ 本 判 決 の 判 断 本判決においては、Bらによる不正行為について、Yの内部統制システムの適正‘性を審査した − 7 4 − ● 。 ● ●

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上で、Aの内部統制システム構築義務違反が問題とされた。本判決は、まず、判旨①②③の事実、 すなわち、Yが、①事業部門と財務部門を分離していたこと、②営業部門と営業事務等の部門 を分けていたこと、③監査法人と財務部が定期的に残高確認を行っていたことを認定し、Yにつ き、「通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた」 として、内部統制システムの適正‘性を認める。その上で、Aに対しては、「Bらによる本件不正行 為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務」があることを前提に、「本件以前に同様の手 法による不正行為が行われたことがあったなど、上告人(Y)の代表取締役Aにおいて本件不正行 為の発生を予見すべきであったという特段の事情も見当たらない。」として、義務違反はなかった とする。すなわち、本判決は、内部統制システムの適正性について、「通常想定される不正行為を 防止し得る管理体制」との判断基準を示し、その上で、内部統制システム構築義務違反について、 「以前に同様の手法による不正行為」及び「不正行為の発生を予見すべき特段の事情」があったか 否かを基準として判断するものであり、この点に本判決の理論上の意義が認められる'8。そして、 このような判断の前提には、大和銀行事件において示された、内部統制システムの整備(構築及 び運用)には経営判断の原則が適用され、問題となった不正行為等の発生の時を基準として内部統 制システムの適正性を審査すべきという理論があり、その意味で、従来の裁判例の枠組みに沿っ たものであったといえよう。 ところで、Yの内部統制システムの適正性については、判旨①②③の事実からは、滞留売掛金 の増加という事実を基に不正行為がなされていた可能性を認識するができたことから、財務部が 販売会社へ照会する等の措置をとるべきであったとの評価'9や、売掛金残高の確認を郵送書面の みに頼る内部統制システムの適正性に疑義を示す評価20があり、また、売掛金回収遅延の理由と して、Bらは、大学でのシステム稼働の延期や予算上の問題などを挙げており、これを合理的(適 正)であるとした本判決の判断については、Yの経理規程が遵守されていれば、架空売上げを容 易に発見することができ、Aの義務違反を否定する根拠とはならないとの評価21もなされている。 これらの評価は、判旨①②③の事実をもってただちにYの内部統制システムが適正であったとい えるか否かについては慎重に判断すべきであったとするものであるが、これに対しては、本判決 の判断の基礎には、本件が会社法350条に基づく請求であって、不法行為法上の過失の有無を判 断すれば足りるという特殊性があったがゆえに、判旨①②③の事実を前提に、「通常想定される架 空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた」との結論のみが示された と把握する見解22もある。すなわち、後述するように、取締役の内部統制システム構築義務違反 は、本来的には会社に対する任務僻怠という文脈で問題となるのであって、不法行為法上の過失 の認定基準として内部統制システムの適正性を問題とする場合においては、結果責任を問わない という意味において経営判断の原則が適用され、問題となった不正行為等が行われた当時の内部 統制システムの水準を問題とするというのが本判決の立場であったと理解することができよう。 さらに、本判決は、監査法人による適正意見を根拠にAの義務違反を否定するが、この点に関 しては、いわいる信頼の権利を適用したものであると評価されている羽。専門家としての監査法 人の知見を信頼することができるのは、内部統制システムの整備が適正である場合に限られるべ きであり、仮にYの内部統制システムの適正性に問題があった場合には、それを基礎とする適正 意見をただちに信頼することはできず、Aの義務違反が認められる余地があったと解する。

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従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築義務 (3)内部統制システム構築義務違反に基づく会社の不法行為責任 本件は、当初、旧証券取引法21条の2第1項(現金融商品取引法21条の2第1項)に基づき、 Yに対する損害賠償の請求が主張されていたが、同法は平成16年12月1日以降に提出された有 価証券報告書について適用されるところ、本件において問題となった不実記載のある有価証券報 告書の提出時期がそれ以前(平成16年3月期)であったため、会社法350条に基づくYの不法行為 責任が主張された事案である24.会社法350条は、代表取締役その他の代表者が、その職務を行う につき、第三者に損害を与えた場合には、会社がその第三者に対して損害賠償責任を負う旨を定 める規定であるが、本条に基づく会社の損害賠償責任が認められるためには、当該代表取締役等 において、その職務を行うにつき民法709条の不法行為の要件が成立する必要がある25。この点、 xは、内部統制システムが適切に整備されていなかったために不実記載のある有価証券報告書が 提出され、その結果、Yの株価が下落するとともに、Xに不実記載のある有価証券報告書を信頼さ せてYの株式を取得させたことがAの不法行為にあたる旨を主張する。しかし、このようなXの 主張に対しては、Aが積極的に有価証券報告書に虚偽の記載をしたとか、有価証券報告書に虚偽 の記載があることを知りながらこれを提出した等の事実は認められないことから、不法行為の成 立要件としてのAの過失を認めることは困難であるとの評価泌や、そもそもAの内部統制システ ム構築義務は(善管注意義務の一内容としてYに対して負うものであるところ、Aの不法行為に

基づいて、第三者との関係においてYの責任を問うことは困難であるとの評価27がなされている。

適切な内部統制システムが整備されていないことは取締役等の任務僻怠に該当し、その結果、当 該取締役等が会社法429条に基づいて第三者に対して責任を負うことはあるとしても羽、同様の状 況下において、民法709条との関係において第三者に対して過失があったと評価することはただ ちにはできないことから29、今後は、会社法350条に基づく責任追及のあり方として、同条の要件 との関係において内部統制システム構築義務違反をどのように位置づけるかを明らかにする必要 があると解する30。 (4)まとめ 取締役の内部統制システム構築義務については、学説及び裁判例の蓄積により、内部統制シス テムの意義、内部統制システム構築義務の性質、同義務履行の担保としての内部統制システムの 水準(内部統制システムの適正性に関する判断基準)が明らかにされつつある。本判決は、これら の諸点のうち、特に内部統制システムの適正性に関する判断基準につき、内部統制システムの整 備については経営判断の原則が適用され、裁判の時ではなく、問題となった不正行為等の発生の 時を基準として審査すべきことを明らかにするものである。すなわち、本判決の判断については、 判旨①②③の事実をもってただちにYの内部統制システムが適正であったといえるか否かについ ては慎重な判断が望まれるとする評価があるものの、事例判断としては、従業員の不正(会計)行 為を防止するための内部統制システムのあり方について、一定の指針を示したものと位置づける ことができ、この点に本判決の先例としての意義が認められる。また、そもそも、取締役の内部 統制システム構築義務の問題は、取締役による直接的な監督が期待できない等の地理的・物理的 状況があり、従来の監視義務違反による責任追及が困難である場合において、従業員ないし他の 取締役による不正行為等の未然防止や、早期発見・早期是正のためのシステムを問題とし、取締 役の過失の有無を判断することで、その責任追及を可能にするものである31。この意味において、 − 7 6 −

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本件は、取締役がその職務を遂行するにあたって、従業員その他の取締役の不正行為等に対して どの程度関与していればよいかについて、今後の参考になる事例であると解する。 沖 縄 大 学 法 経 学 部 講 師 本件の解説として、松井秀征「架空売上げの計上を防止するためのリスク管理体制構築義務 違反の有無」私法判例リマークス41号86頁、志谷匡史「取締役の内部統制構築・運用責任一 最判平成21年7月9日を素材に」月刊監査役561号4頁、川島いづみ「有価証券報告書の虚偽 記載とリスク管理体制構築義務違反」判例セレクト2009rn20頁、鳥山恭一「内部統制シス テム構築義務と会社の不法行為責任」法学セミナー663号121頁、弥永真生「有価証券報告書 の虚偽記載と内部統制システム構築責任」ジュリスト1385号60頁、藤原俊雄「内部統制シス テム構築義務と取締役の責任」民事法情報280号3頁、酒井太郎「会社のリスク管理体制の整 備に関し代表取締役の過失がないとされた事例」判例評論617号31頁、西川義晃「株式会社の 従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上を計上したため有価証券報告書に不実の記載 がなされたことにつき、会社の代表者に従業員らによる架空売上げの計上を防止するための リスク管理体制構築義務違反の過失がないとされた事例」速報判例解説6号131頁、山田剛志 「有価証券報告書虚偽記載と内部統制構築義務」『金融・消費者取引判例の分析と展開』金融・ 商事判例1336号222頁、松嶋隆弘「上場企業において内部統制システム構築義務違反の有無 が問題となった事例」判例タイムズ平成21年度主要民事判例解説(別冊29号)184頁、王子田 誠「会社代表者のリスク管理体制構築義務と有価証券報告書の不実記載による会社の責任」金 融・商事判例1353号8頁、岩崎恵一「株式会社の従業員による架空売上げ計上に基づく有価 証券報告書虚偽記載と会社代表者の責任(日本システム技術事件)」龍谷法学43巻2号344頁、 長畑周史「会社代表者のリスク管理体制を構築すべき義務に違反はないとされた事例(日本 システム技術事件)」月刊監査研究431号83頁、大塚和成「財務報告に係る内部統制システム 構築義務(日本システム技術損害賠償請求事件)」銀行法務21.706号56頁、中村直人「裁判 所の揺らぎと最高裁の真意」金融・商事判例1323号1頁、上田直樹「日本システム技術事件 判決に見る取締役のリスク管理責任」会社法務A2Z51号40頁、米涯勝「内部統制システムの 不備と取締役の責任」企業会計62巻3号134頁、中井稔粉飾決算の防止と会社機関の責任」 月刊監査役565号130頁等がある。また、本件におけるYの訴訟代理人による解説として、高 島志郎「日本システム技術事件最高裁判決の検討」商事法務1876号20頁、上甲悌二・清水良 寛「上場会社の『リスク管理体制』構築義務訴訟一内部統制システム構築義務違反の有無に関 する初の最高裁判決」法学セミナー662号38頁がある。なお、本件の第一審判決を解説するも のとして、川島いづみ「有価証券報告書の虚偽記載に関する発行会社の不法行為責任」金融・ 商事判例1320号14頁、木村真生子「有価証券報告書の虚偽記載に対する発行会社の責任」ジュ リスト1374号100頁、首藤優「株式を購入した者が、発行会社の有価証券報告書の虚偽記載 の発覚により株価が暴落したとして発行会社に求めた不法行為に基づく損害賠償請求が認容 された事例」法学新報116巻5.6号163頁がある。 松鴫・前掲注(1)185頁、王子田・前掲注(1)10頁。

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従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築義務 判例タイムズ1307号118頁。 松井・前掲注(1)87頁、弥永・前掲注(1)60頁、松嶋・前掲注(1)185頁、王子田・前掲注(1)10頁等。 江頭憲治郎『株式会社法〔第3版〕』(有斐閣、2009年)376頁。なお、内部統制システムは、 1920年頃からアメリカを中心に広まった概念であり、当初は、「財務報告の信頼‘性」を担保する ため、会計監査人が会計監査を行う際の拠り所となる内部牽制のシステムを意味していた(柿 崎環『内部統制システムの法的研究』(日本評論社、2005年10頁)。 その他、神戸製鋼所事件〔和解〕(神戸地平14.4.4商事法務1626号52頁)も「…違法行為 等が社内で行われないように内部統制システムを構築すべき法律上の義務がある。」と述べる。 学説も、取締役の監視義務から導かれる義務として内部統制システム構築義務を承認する。 すなわち、株式会社において、取締役は、取締役会の監督権限(会社法362条2項1号・2 号、416条1項1号・2号)を根拠に、代表取締役ないし他の取締役の業務執行を監視する義務 を負う。その際、取締役は、取締役会に上程された事柄についてだけでなく、代表取締役(な いし他の取締役)の業務執行一般について監視しなければならない(最判昭48.5.22民集 5巻655頁)。しかし、中規模以上の会社においては、その事業活動は広範囲にわたり、かつ 取締役の業務活動も専門化されていることから、取締役が会社の全ての業務を監視すること は実際上困難であるため、個々の取締役が取締役会に上程されない事柄についてまで監視義 務を負うとしても、そこには一定の限界を設けておく必要がある。そこで、中規模以上の会 社の取締役に対しては、その業務活動の特殊性から、取締役ないし取締役会の監視・監督機 能の実効性を確保するため、リスク管理体制や法令遵守体制を含む内部統制システムを構築 し、その他の取締役は内部統制システムが有効に機能しているか否かを監視する義務を負う (神崎克郎「会社の法令遵守と取締役の責任」法曹時報34巻4号1頁、山田純子「取締役の 監視義務一アメリカ法を参考にして一」森本滋ほか編『企業の健全性確保と取締役の責任』(有 斐閣、1997年)221頁、伊勢田道仁「会社の内部統制システムと取締役の監視義務」金沢法学42 巻1号55頁)。 内部統制システムに係る義務を、内部統制システムの「整備」に関する義務と把握した上で、 それを「構築義務」と「運用義務」に分けて把握する見解もある(中村・前掲注(1)1頁、青木 浩子「会社法と金融商品取引法に基づく内部統制システムの整備」浜田道代=岩原紳作『会社 法の争点』(有斐閣、2009年)152頁)。すなわち、「構築義務」は、積極的な作為義務であり、取 締役会や代表取締役、業務担当取締役等、それぞれが構築すべきシステムを構築しなければ それが義務違反となる。他方、「運用義務」は、システムが適切に運用されているかどうかに注 意を払う義務であり、第一次的には担当取締役等が管掌分野について監督を行う義務である と解されている(中村・前掲注(1)1頁)。 内部統制システムの内容は、会社法施行規則が規定し(会社法施行規則98条。100条。112条)、 取締役(会)による内部統制システムの整備に関する決定は事業報告の開示事項とされ(同 118条2号)、その内容の相当性が監査役監査の対象とされている(同129条1項5号)。また、 金融商品取引法においても、財務計算に関する書類その他の』情報の適正』性を確保するための 体制につき、内部統制報告書制度を定めている(金融商品取引法24条の4の4)。 伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征『会社法〔第2胴』(有斐閣、2011年)223頁。また、

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一定の場合には、会社法429条に基づく第三者に対する責任の要件としての任務僻怠が認定 される可能‘性がある(野村修也「取締役の監督義務と内部統制体制」江頭憲治郎ほか編『会 社法判例百選』(有斐閣、2006年)125頁)。取締役の第三者に対する責任との関係で内部統制シ ステム構築義務が争点となった事案として、新潮社事件(大阪地判平14.2.19判夕1109号 170頁)、ジャージー高木乳業事件(名古屋高金沢支判平17.5.18判時1898号130頁)等が ある。 経営判断の原則とは、取締役の経営上の判断について、事実認識・意思決定過程において不 注意な誤りがなければ取締役に対して広い裁量を認める原則である(江頭・前掲注(5)434 頁)。同原則を適用した事例として、そごう事件(東京地判平16.9.28判時1886号111頁) 等がある。 信頼の権利とは、取締役が業務執行を行う際、どの程度の‘情報収集・調査等を行えばよいか という問題において、弁護士・技師その他の専門家の知見を信頼した場合には、当該専門家 の能力を超えると疑われるような事情があった場合を除き、当該取締役に善管注意義務違反 はないとする考え方である(江頭・前掲注(5)433頁)。 野村・前掲注(10125頁。 その他、一般の事業会社に関しては、経済産業省の「企業行動の開示・評価に関する研究会」 による「コーポレート・ガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組み について一構築及び開示のための指針一概要」(2005年)や、日本監査役協会による「監査役監 査基準」(2011年)、「監査委員会監査基準」(2011年)等の実務指針も参考になると解する。内部 統制システムの適正』性を判断する際、これらの実務指針を参考にすべきとする見解として、 青木・前掲注(8)153頁、拙稿「適正と認められる内部統制システムの判断基準について」法学 研究論集〔明治大学大学院〕24巻61頁等を参照。 内部統制システムの整備と経営判断の原則との関係に着目してこれらの裁判例を分類するも のとして、青木・前掲注(8)152-153頁がある。 高島・前掲注(1)30頁。 高島・前掲注(1)30頁。 王子田・前掲注(1)10頁、松井・前掲注(1)88-89頁。 西川・前掲注(1)134頁、王子田・前掲注(1)11頁。 川島・前掲注(1)20頁。 西川・前掲注(1)134頁。 松井・前掲注(1)88頁。 弥永・前掲注(1)61頁、西川・前掲注(1)134頁、王子田・前掲注(1)11頁等。 高島・前掲注(1)21頁。 落合誠一編『会社法コンメンタール8−機関(2)』(商事法務、2009年)〔落合誠一執筆〕22頁。 酒井・前掲注(1)34頁。この点、本件のような有価証券報告書の不実記載を原因とする株価下 落の損害の賠償が求められる事案においては、例えば、架空取引等の計上、帳簿外取引等の 不正行為といった、あるべき事実と異なる会計処理が行われ、それが公表されることが、第 三者との関係においてAの不法行為を構成することはあり得るが、このような不正行為を予 11 12 13 14 15

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従業員の不正会計と代表取締役の内部統制システム構築義務 戸 ノ27 28 29 30 防・発見するための内部統制システムを整備しなかったことが、ただちに第三者に対する不 法行為責任を負う原因となるわけではないとの評価がなされている(岩崎・前掲注(1)359頁)。 弥永・前掲注(1)61頁。この点につき、酒井・前掲注(1)34頁は、以下のような構成を指摘する。 すなわち、本件におけるXの請求の相手方は、不実記載のある有価証券報告書を提出したY で あ り 、 A で は な い こ と か ら 、 本 件 の よ う に A の 不 法 行 為 を 経 由 し た Y の 責 任 を 問 う の で は なく、Y自体の不法行為責任を追及するほうがXにとって便宜である。ここでYの過失を、X に対する加害行為にではなく、不実開示により、証券市場が有する効率的な価格形成の機能 を阻害したことに求めるならば、Xは単に、株価に重大な影響を及ぼしうる不実開示のある有 価証券報告書をYが提出した事実と、不当な価格形成が行われたことを主張すれば、Yの不法 行為を立証することが可能になる。 前掲注(10惨照。 弥永・前掲注(1)61頁。 この点、本件においては、不実記載のある有価証券報告書を信じたXの損害に対するYの責 任を追及することが目的であり、その意味で、まずは金融商品取引法を中心とした責任追及 (同法21条の2に基づく有価証券報告書等の提出会社の責任や同22条及びそれを準用する24 条の4における提出会社の役員等の責任)が考えられるべきであり、内部統制システム構築義 務違反に基づく不法行為については慎重に考えるべきであったとの評価もなされている(王 子田・前掲注(1)11頁)。 31野村・前掲注(10)125頁。 − 8 0 −

参照

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