1.はじめに
溶融固化設備から一般廃棄物を処理する過程 で副産される溶融固化物(以下、溶融スラグ細 骨材と称する)は、利用用途が限られているこ とおよびその品質が不明確であるため、現状で は、最終処分場で処理されており、有効利用さ れていない状況である。しかし、資源循環型社 会の構築 1) する上でこれらを利用することは必 要不可欠と考えられる。また、運搬費などの面 から溶融スラグが副産される地域内で有効利用 されることが望ましい。一方、左官材料として 使用されている硅砂は、枯渇問題により大量に 消費することが困難となってきており、代替材 料を検討する必要があると考えられる。
そこで、本研究は、硅砂の代替材料として、溶 融スラグ細骨材に着目し、プラズマ溶融炉の傾 動の過程が溶融スラグ細骨材の品質に与える影 響を明らかにするために、物理的性質およびモ ルタルに使用した場合の性状について検討し
溶融スラグ細骨材の左官用モルタルへの適用に関する基礎的研究
−傾動過程の違いが品質に及ぼす影響−
Fundamental Study on Application to Plasterer Mortar for Waste Slag Fine Aggregate
― Effect of Variations of Tilting Process on Quality ― Daisuke SUZUKI,Isamu MATSUI,Yoshihisa NAKATA,Hirotaka NAGAO,
Hideo TANABE,Izumi IIZUKA,Manabu Ito and Masahiro SUGATA ものつくり大( 院) ○鈴木大介
日大生産工 松井 勇 ものつくり大 中田善久 日本化成( 株) 永尾弘孝
日本化成( 株) 田辺英男
〃 飯塚 泉
〃 伊藤 学 川崎重工業( 株) 菅田雅裕 た。この傾動とは、プラズマ溶融炉を傾け炉底 から溶融スラグおよび溶融メタルを排出するこ とである。ここでは、物理的試験を 5 項目,フ レッシュモルタル試験を 6 項目および硬化モル タル試験を 4 項目について行った結果を述べ る。
2.実験概要
(1)溶融スラグ細骨材の概要
本研究で使用した溶融スラグ細骨材は、焼却 残渣の処理を行うプラズマ溶融炉から副産され たものである。これは、溶融処理を行った後、水 砕処理を行い、磁選機によりメタルを除去し、
磨砕機により粒度調整したものである(以下、
未加工スラグと称する) 。これをさらに、2.5mm のふるいを通過および 1 . 2 m m のふるいを通過
(以下、2.5mm スラグおよび 1.2mm スラグと称す る)したものも使用した。また、傾動は 10 日に 一度行われ、炉底に溜まる溶融スラグおよび溶 融メタルの排出を行っている。傾動の過程を図 1に示す。
(2)使用材料
モルタルに使用した材料は、セメントに普通 ポルトランドセメント,練混ぜ水に上水道水,
細骨材に硅砂 2,4,5,6 号および溶融スラグ細骨 材 2.5mm スラグ,1.2mm スラグ,混和剤にメチ ルセルロースである。硅砂の品質を表1に示 す。
(3)コンクリートの調合条件と試験項目 調合条件は、水セメント比を 55.0%,セメン 中間
図1 傾動の過程 傾動後
水砕 溶融スラグ・溶融メタル
水砕 溶融スラグ・溶融メタル
焼却灰
水砕 溶融スラグ・溶融メタル コークス投入口
焼却灰
水砕 溶融スラグ・溶融メタル コークス投入口
焼却灰
水砕 溶融スラグ・溶融メタル コークス投入口
焼却灰
水砕 溶融スラグ・溶融メタル コークス投入口
焼却灰
水砕 コークス投入口
焼却灰
水砕 焼却灰
水砕 コークス投入口
傾動前
傾動
トと骨材の割合を 1:2.5 の一定とし、メチルセ ルロースをセメントに対して 0.05% 混入した。
また、実験の要因は、傾動の過程の違いとして、
傾動後,中間,傾動前の 3 水準,粒度の違いと して、2.5mm および 1.2mm スラグの 2 水準,置 換率として、30 および 100% の 2 水準とした。な お、試験項目は、物理的試験について、ふるい 分け,絶乾密度,吸水率,実積率,および微粒 分量を行い、フレッシュモルタルの性状につい て、フロー値,スランプ,単位容積質量,空気 量,凝結時間および軟度変化を行い、硬化モル タルの性状については、曲げ強さ,圧縮強さ,長 さ変化および凍結融解を行い、全て JIS により 行った。モルタルの計量値を表2に示す。
3.試験結果および考察 (1)物理的試験結果
物理的試験結果を図2に示す。物理的試験 は、粒度分布,絶乾密度,吸水率および微粒分 量について JIS に示されている基準値を満足し ていた。
傾動の違いが物理的試験に与える影響は、粒
度分布,粗粒率,絶乾密度および実積率につい てばらつきは小さかったが、吸水率および微粒 分量について、若干ばらつく結果となった。こ れは、ふるい分け試験の結果で、5mm のふるい に留まる量が、傾動後および傾動前より 2 倍の 量となり、粒子に含まれる微細なクラック 2) が 他より多くなり吸水率が多くなったことがあげ られる。この他に、傾動前の状況として、炉底 に溶融スラグおよび溶融メタルが溜まり、溶融 温度が傾動後および中間より高温となり、溶融 スラグが細かく磨砕されにくかったため、微粒 分量が少なくなった可能性があると推測でき る。また、硅砂の吸水率は、溶融スラグ細骨材 に比べ 2 および 4 号で大きくなり、5 および 6 号 でほぼ同等となった。なお、既往の研究 3) の標 準偏差と比較すると、同等または若干小さくな る結果となった。
(2)フレッシュモルタルの性状
フレッシュモルタルの性状の結果を図3に示 す。基準モルタルのフローおよびスランプは、
2.5mm のふるいを通過したごみ溶融スラグ細骨 材を用いたモルタル(以下、2.5mm スラグモル タルと称する)に比べ大きくなった。しかし、
1.2mm のふるいを通過したごみ溶融スラグ細骨 材を用いたモルタル(以下、1.2mm スラグモル タルと称する)に比べ置換率が大きくなると小
ル タ ル モ
類 種
の 粒 度
゙ ク ラ ス
率 換 置
)
% (
ト ン メ
セ と
比 の 材 骨
) S : C (
水 セ メ ン ト 比 )
% (
値 量 計 ( g ) 水 セ メ ン ト 硅 砂 (号)
゙ ク ラ
ス M C
※1C
( × 0 . 0 5 % )
2 4 5 6
準
基 − 0
5 . 2 :
1 5 5 . 0 2 2 5 4 0 9 . 1
− 3 4 0 . 9 3 4 0 . 9 3 4 0 . 9 −
2 . 0 後
動 傾
5 .
2 3 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 3 0 6 . 8 2
.
1 3 0 − 2 3 8 . 7 2 3 8 . 7 2 3 8 . 7 3 0 6 . 6 2
.
1 1 0 0 − − − − 1 0 2 2 . 7
間 中
5 .
2 3 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 3 0 6 . 8 2
.
1 3 0 − 2 3 8 . 7 2 3 8 . 7 2 3 8 . 7 3 0 6 . 6 2
.
1 1 0 0 − − − − 1 0 2 2 . 7
前 動 傾
5 .
2 3 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 1 7 9 . 0 3 0 6 . 8 2
.
1 3 0 − 2 3 8 . 7 2 3 8 . 7 2 3 8 . 7 3 0 6 . 6 2
.
1 1 0 0 − − − − 1 0 2 2 . 7
表2 モルタルの計量値
※ 1 メチルセルロース
表1 硅砂の品質
砂
硅 粗 粒 率
) . M . F (
度 密 乾 絶
m c / g (
3)
率 水 吸
)
% (
率 積 実
)
%
(
2号 3 . 9 6 2 . 5 0 1 . 7 2 6 0 . 4
4号 3 . 0 4 2 . 5 7 1 . 2 1 5 4 . 3
5号 2 . 5 0 2 . 5 8 0 . 8 6 5 8 . 9
6号 1 . 5 2 2 . 5 8 0 . 6 2 6 0 . 5
さくなった。これは、2.5mm スラグモルタルの 骨材の最大寸法が大きいため流動性が増加し、
フローが大きくなったと考えられる 4) 。 基準モルタルの単位容積質量は、2.5mm スラ グモルタルおよび1.2mmスラグモルタルに比べ、
一部を除き大きくなった。これは、後述するが、
空気量が中間および傾動前より多くなったこと が影響していると考えられる。なお、基準モル タルの空気量は、2.5mm スラグモルタルおよび 1.2mm スラグモルタルに比べ、一部を除き、小 さくなった。
基準モルタルの凝結時間は、1.2mm スラグモ ルタルに比べ、若干ばらつきはあるものの吸水 率の小さいスラグモルタルとほぼ同等の結果と なった。また、基準モルタルの軟度変化率は、
1.2mm スラグモルタルに比べ、大きくなった。こ れは、硅砂の吸水率が溶融スラグ細骨材に比べ 大きいことが影響していると考えられる。この ことにより、スラグモルタルは、左官仕上げ性
が良好になる可能性があると考えられる。
傾動および粒度の違いがフレッシュモルタル に与える影響は、溶融スラグ細骨材を用いたモ ルタルのフロー,スランプ , 凝結時間および軟 度変化について、ほとんど影響が見られなかっ たが、単位容積質量および空気量について、若 干影響が見られた。また、スラグ置換率がフ レッシュモルタルに与える影響は、全ての試験 項目で影響が見られた。
(3)硬化モルタルの性状
硬化モルタルの性状の結果を図4に示す。基 準 モ ル タ ル の 曲 げ 強 さ お よ び 圧 縮 強 さ は 、 2.5mm スラグモルタルおよび 1.2mm スラグモル タルに比べ、置換率が大きくなると小さくなっ た。これは、溶融スラグ細骨材の粒子表面がガ ラス質であるため、セメント粒子との付着が低 下したことおよび粒子に含まれる微細なクラッ クが影響したと考えられる。
基準モルタルの長さ変化は、2.5mm モルタル
0 20 40 60 80 100
0.15 0.3 0.6 1.2 2.5 5.0 10.0 JIS 2.5mmの粒度の範囲 傾動後
中間 傾動前
通過率(% )
ふるいの呼び寸法(mm)
2.0 2.2 2.4 2.6 2.8 3.0 3.2 3.4 3.6
未加工スラグ 2.5mmスラグ 1.2mmスラグ
傾動後 中間 傾動前
粗粒率(F. M.)
標準偏差 平均値
0.069 2.70 未加工
0.047 2.60 2.5
0.018 2.14 1.2
購入契約時に定められた±0.2以内
2.4 2.6 2.8 3.0
未加工スラグ 2.5mmスラグ 1.2mmスラグ
傾動後 中間 傾動前
絶乾密度(g/ cm
3)
JIS規定値:2.50g/cm
3以上
標準偏差 平均値0.031 2.61 未加工
0.012 2.62 2.5
0.012 2.62 1.2
0.5 1.0 1.5 2.0
未加工スラグ 2.5mmスラグ 1.2mmスラグ
傾動後 中間 傾動前
吸水率(%)
JIS規定値:3.0%以下
標準偏差 平均値
0.181 0.83 未加工
0.033 0.75 2.5
0.077 0.72 1.2
60 62 64 66 68 70
未加工スラグ 2.5mmスラグ 1.2mmスラグ
傾動後 中間 傾動前
実積率(%)
標準偏差 平均値
0.487 63.7 未加工
0.294 62.1 2.5
0.368 60.7 1.2
2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0
傾動後 中間 傾動前
微粒分量(%)
傾動の過程 JIS規定値:7.0%以下
標準偏差 平均値
0.299 2.98 未加工
図2 物理的試験結果
150 175 200 225 250
フロー値
傾動前 中間 傾動後
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2
0 50 100 150 200
スランプ(mm)
傾動前 中間 傾動後
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2
1.70 1.80 1.90 2.00 2.10
単 位 容 積 質 量 (k g/ l)
傾動前 中間 傾動後
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2
5.00 7.50 10.0 12.5 15.0
0 30 100
空気量(%)
置換率(%)
傾動前 中間 傾動後
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2
4:00 4:30 5:00 5:30 6:00 6:30 7:00
基準 傾動後 中間 傾動前
始発時間 終結時間
凝結時間(h :m)
傾動の過程
1.2mmスラグモルタル0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
基準 傾動後 中間 傾動前
軟度変化率 (%)
傾動の過程
1.2mmスラグモルタル
図3 フレッシュモルタルの性状の結果
スラグおよび 1.2mm スラグモル タルと比較すると、ほぼ同等の 結果となった。これは、メチル セルロースを混入したためと考 えられる。
基準モルタルの凍結融解抵抗 性は、中間および傾動前と比較 するとほぼ同等であったが、傾 動後と比較すると若干小さくな る結果となった。
傾動の違いが硬化モルタルに与える影響は、
溶融スラグ細骨材を用いたモルタルの曲げ強さ および圧縮強さについて、2.5mm スラグモルタ ルで影響が見られた。また、凍結融解抵抗性は、
傾動後 > 中間 > 傾動前の順に大きくなる結果と なり影響が見られたが長さ変化は、ほとんど影 響が見られなかった。
粒度の違いが硬化モルタルに与える影響は、
溶融スラグ細骨材を用いたモルタルの曲げ強さ および圧縮強さについて、一部を除き、若干影 響が見られた。これは、フレッシュモルタル中 の細骨材が適切な粒度分布になっていないこと が影響している可能性がある。また、長さ変化 および凍結融解抵抗性について、ほとんど影響 が見られなかった。
4.まとめ
今回の実験結果から、次の知見が得られた。
① 物理的試験は、吸水率および微粒分量で、傾 動の過程の違いによる影響が見られる結果 となった。
② フレッシュモルタルの性状は、フローおよ びスランプにおいて、粒度の違いによる影 響の違いが見られる結果となり、モルタル中 の細骨材が適切な粒度になっていないこと が影響している可能性がある。また、フロー , スランプ , 単位容積質量および空気量で、ス ラグ置換率の違いによる影響が見られる結 果となった。
③ 硬化モルタルの性状は、曲げ強さおよび圧
縮強さで、置換率および粒度の違いによる 影響が見られる結果となった。
以上の結果から、傾動の違いによる影響は、
物理的試験では大きいものの、フレッシュモル タル性状および硬化モルタル性状で小さいもの となった。また、スラグ置換率の影響は、フレッ シュモルタル性状および硬化モルタル性状で、
大きいものとなった。
今後は、モルタルの付着強度,付着耐久性お よび鏝によるモルタルの塗りやすさなどの実験 について検討して行く予定である。
【 謝 辞 】
本 実 験 を 行 う に あ た り 、 川 崎 重 工 業 株 式 会 社 の 方 々 ならびに日本化成株式会社 森脇貴志氏, 大瀧晋氏, 紀 陸 和 昭 氏 よ り 貴 重 な ご 助 言 を 頂 き ま し た 。 ま た 、 も の つくり大学 平成 1 7 年度卒業生 上原苑子君をはじめと す る 中 田 研 究 室 の 方 々 に 多 大 な ご 協 力 を 頂 き ま し た 。 こ こ に 記 し 、 感 謝 の 意 を 表 し ま す 。
【 参 考 文 献 】
1 ) 中田善久 , 斉藤丈士: 都市ごみから副産される溶融ス ラ グ の コ ン ク リ ー ト 用 細 骨 材 へ の 活 用 研 究 動 向 と 展 望 , セメント・コンクリート ,No.709,pp.14‑22(2006) 2 ) 北辻政文, 藤居宏一 : ごみ焼却灰溶融スラグのコンク リ ー ト 用 細 骨 材 へ の 適 用 に 関 す る 基 礎 的 研 究 , 農 業 土木学会論文集,N o . 1 9 2 , p p . 1 〜 8 , ( 1 9 9 7 )
3 ) 中 田 善 久 ほ か : ご み 溶 融 ス ラ グ 細 骨 材 の 品 質 変 動 と こ れ と 混 合 す る 細 骨 材 に 関 す る 検 討 , コ ン ク リート工学年次論文集 , V o l . 2 7 , N o . 1 , p p . 1 1 5 ‑ 1 2 0 , ( 2 0 0 5 )
4 ) ( 社) 日本コンクリート工学協会 :コンクリート技術 の要点 0 4 , ( 2 0 0 4 )
5 ) 日本規格協会 , J I S A 5 0 3 1 一般廃棄物 , 下水汚泥又 は そ れ ら の 焼 却 灰 を 溶 融 固 化 し た コ ン ク リ ー ト 用 溶 融スラグ骨材 , ( 2 0 0 6 )
6 ) 日本規格協会 , T R A 0 0 1 6 一般廃棄物、下水汚泥等 の 溶 融 固 化 物 を 用 い た コ ン ク リ ー ト 用 細 骨 材 ( コ ン クリート用溶融スラグ細骨材), ( 2 0 0 2 )
図4 硬化モルタルの性状の結果
4.0 5.0 6.0 7.0 8.0
基準 30 100
曲げ強さ(N/mm
2)
置換率(%)
傾動前 中間 傾動後
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2
20 25 30 35 40
基準 30 100
圧縮強さ(N/mm
2)
置換率(%)
傾動前 中間 傾動後
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2
50 60 70 80 90 100 110
0 10 25 50 75 100 125
相対動弾性 係 数( %)
サイクル数
傾動前 中間 傾動後 基準▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2 ○
-0.14
-0.12 -0.10 -0.08 -0.06 -0.04 -0.02 0
0 7 14 21 28 56 129
長さ変化率( %)
材齢(日)
傾動前 中間 傾動後 基準
▲
◆
■ 2.5
△
◇
□ 1.2 ○