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ラフな知識帰属について

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Academic year: 2021

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ラフな知識帰属について

神山 和好(KAZUYOSHI KAMIYAMA) 茨城工業高等専門学校

知識論は1990年代からルネサンスともよばれる活況をみせてきたが,最近でもその 勢いは衰えていない。D.ルイス,S.コーエン,K.ダローズ等の「帰属者文脈主義」が その中心にある。2000年代に,SSI(主体敏感的不変主義),対比主義,相対主義,ルー ズな使用説等,いわば標準理論である帰属者文脈主義を脅かす競合理論が登場,火に 油が注がれた観がある。

2002年に標準理論を主導するダローズ(K.DeRose)が,最強の論敵とみなす不変主 義を自ら定式化した上で(「古典的文脈主義」と名付けた),T.ウィリアムソン(2000) の知識の主張説(KAA)を使い,それを論駁した。以後,主張と知識の関係をめぐり活 発な論戦が交わされてきている。

他方,知識言明そのものをどのように分析するかについて論争が行われ,現在もそ れが続いている。一連の議論の中で重要なのは『文脈主義を擁護する―知識,懐疑論,

そして文脈』(DeRose,2009)の出版である。これは,ダローズが,それまで発表して きた(帰属者)文脈主義を擁護する論考を,それに対する様々な批判にこたえるかた ちで必要な加筆修正を行い,まとめたものである。

標準理論である帰属者文脈主義に対する競合理論としては,とくにJ.シェイファー

(Schaffer, 2004)の「対比主義」(contrastivism)とW.デービス(Davis, 2007,2010) の「ルーズな使用説」(loose use theory)が興味深い。対比主義は文脈主義に含まれ るが,文脈主義と正面から対立する不変主義説がデービスのルーズな使用説である。

本発表ではルーズな使用説を取りあげる。

文脈主義によれば,「個人SはPを知っている」(知識文)は,そのように述べる者 の置かれた文脈により意味が変わる。これに対し,不変主義(invariantivism)は,知 識文は文脈により意味を変えることはないと主張する。不変主義にもいくつかの変種 があるが,デービスのルーズな使用説は,不変主義の立場に立ちながら,「知る」の 厳格な用法とルーズな用法を区別することで,「知る」のさまざまな用法を説明でき るとするアプローチである。

デービスは,文脈主義をホーソン,スタンレーのSSI(主体敏感的不変主義)とルイス,

コーエン,ダローズ等の帰属者文脈主義とに分類した上で(通常SSIは不変主義に数え られるが,デービスは文脈主義に分類する),それらが「知る」の日常的用法をとら

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えそこなっていること,「知る」の厳格な用法とルーズな用法を区別する不変主義(ル ーズな使用説)がそれをより自然に説明することを主張している。

「知る」のルーズな用法のモデルとして,デービスが用いるのは,「(コーヒーが)

なくなった」や「(試験問題を解くのに)2時間かかった)」等の語である。次の例 を考える。

A. コーヒージャーをさらってみたもののスプーンが空だったので,私は妻に「コ ーヒーがなくなったよ」(all gone)と叫んだ。

B. しばらくして息子が朝食のため2階から降りてきて,理科の実験のためコーヒ ーが少し必要なんだと言い,「コーヒーは本当になくなってしまったの?」とたず ねた。私はとくに困った顔をせずに,「いや,お前には十分なだけあると思うよ」

と答えた。

A,Bの会話全体を通じて「なくなった」は文字通りなくなったことを意味せず,「コ ーヒーを沸かすのに十分なほどはない」程度のことを意味している。この例にあらわ れる「なくなった」という語の用法は,その語の定義通りの用法(「厳格な用法」strict use)ではなく,「ルーズな用法」loose use)である。「知る」の用法の多くは,「な くなった」のルーズな用法と同様に理解できる,とデービスは主張する。

不変主義者デービスは「Sはpであることを知っている」をさしあたり「Sはpにつ いて完全で十全に正当化された真な信念をもっている」ことを意味すると解釈する。

「Sはpであることを知っている」を字義通りに用いるとき,それが「知る」の厳格な 用法である。デービスによれば,「Sはpであることを知っている」はしばしばルーズ に用いられ,その場合「Sはpであることを知っている」は「Sはpであることを文脈 により示される目的にとって十分よく知っている」ことを意味する。

発話には,字面の意味(what is said)と言外の含み(conversational implicatures) がある,と指摘したのはポール・グライス(Grice, 1975, 1989)である。われわれはし ばしばあることを言いながら,それとは別のことを伝えようとする。その別のことが

「言外の含み」(簡単に「含み」)である。妻が「今日はごみの日ね」と言えば,「あ なた,ごみ出しお願いね」というのがその言外の含みの一つである。また,ときにわ れわれはわざと偽なことを言う。何か真なことを含みとして言うためである。皮肉や メタファー,誇張などがそのようなケースである。デービス説はグライスのそのよう な「会話的含みの理論」(the theory of conversational implicature)の知識論へ の応用と言ってよい。

発表では,文脈主義とルーズな使用説の基本的な対立点を確認した上で,不変主義 説としてのルーズな使用説の問題点を指摘する(筆者は古典的不変主義を支持してい る。その観点からの批判である)。

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