On relationships between canonical genus and flat Seifert surfaces
三浦 嵩広
(神戸大学大学院 理学研究科) 概 要link L のcanonical genusとは, L のすべてのcanonical Seifert surface におけるgenusの最小値として定義されるlink invariantである.canonical
genusの下からの評価としてMorton の不等式が知られている.Mortonの
不等式によりcanonical genusが決定できるlinkの集合を定義し,linkがそ の集合に属するための十分条件を与える.
1. Introduction
Seifert
の
algorithmによって得られる
Seifert surfaceを
canonical Seifert surfaceという.また,link
Lのすべての
canonical Seifert surfaceにおける
genusの最小値を
Lの
canonical genusといい,g
c(L)で表す
([5]).すなわち,gc(L) = min{g(S)|S
は
Lの
canonical Seifert surface}である.
linkL
に対し,次の関係式により得られる多項式
P(L) = P(L;v, z)∈Z[v±1, z±1]を
L
の
HOMFLY多項式という.HOMFLY 多項式は
linkの多項式不変量である.
canonical genus
の下からの評価として,次が知られている.
定理 1.1 ([6] Morton’s inequality) r-component link L
に対し,次が成り立つ.
2gc(L) +r−1=z-maxdegP(L).
ここで
z-maxdegP(L)は
P(L)の
zにおける最高次数である.
S
を
canonical Seifert surfaceとし,次の集合
Mを考える.
定義 1.2 M={L: link |L
は
z-maxdegP(L) = 2g(S) +r−1をみたす
Sを張る
}.定理
1.1と
Mの定義により,ただちに次が得られる.
系 1.3 L∈ M
であるとき,L の
canonical genusは
z-maxdegP(L) = 2g(S) +r−1をみたす
Sの
genusに等しい.すなわち,g
c(L) = g(S).以下の
linkは
Mに属することが知られており,この事実を用いることにより
canon- ical genusが決定できている.
• 13
交点以下の
knot [8].• homogeneous link (alternating link, positive link) [2].
• (i)〜(iv)
の
knotの
Whitehead double,およびdouble.
(i) (2, n)-torus knot [9].
(ii) 2-bridge knot [7].
(iii) pretzel knot P(a1, a2, . . . , an),(ai >0) [1].
(iv) (i)〜(iii)
を含む ある
alternating knot family. [4].ここで
knotKの
doubleとは,その中心が
Kとなるように埋め込まれた
annulusの
境界として表される
2-component linkのことである.
Kが
(i)〜(iv)の
knotであれば,
その埋め込み方(すなわち
annulusのねじれ方)によらず
Mに属することが知られ ている.同様に
Whitehead doubleの場合もその埋め込み方によらず
Mに属すること が知られている.また,任意の
alternating knotの
Whitehead double,およびdoubleが
Mに属していることが予想されている
([9],[7]).このように,いくつかのlinkに対 しては,
Mに属しているという事実を用いることで
canonical genusの値を決定する ことが可能である.
本研究では,
Mがどのような集合であるかを調べるために,
Mに属する
linkの構 成について考える.第
2章では,主結果(命題
2.4)を述べる.flat Seifert surfaceを定 義し,それに対応する
plane graphを用いて,link
Lが
Mに属するための十分条件を 与える.第
3章では,第
2章で与えた命題
2.4について,その証明の概略を述べる.第
4章では,命題
2.4の証明に用いたいくつかの補題に証明を与える.
2. 主結果
link L
が
Mに属するための十分条件を与える.
link diagramD
の任意の
Seifert circleが,S
2\ {Seifert circle}に
diskを張れるとき
Dを
special diagramという.special diagram から
Seifertの
algorithmによって得ら れる
surfaceを
flat Seifert surfaceという.任意の
linkは
flat Seifert surfaceをも つことが知られており,特に次の定理が知られている.
定理 2.1 ([3])
任意の
canonical Seifert surfaceは,ある
flat Seifert surfaceと
ambient isotopic.次に,
flat Seifert surfaceに対応する
graphを考える.F を表す
signed plane graph G= (V, E, f), f :E −→ {±1}を次のように定義する(図1):
(1) F
の
Seifert diskを
Gの
vertexに対応させる.
(2) F
の
half-twist bandを
Gの
edgeに対応させ,境界の交差の符号に応じて
edgeの符号を定める.
図1
注意 2.2 G
が
connected, bipartiteであるとき,
∂Fの向きの違いを無視すれば
Fと
Gは
1 : 1に対応する.
さらに,G から得られる
graph ˜G= ( ˜V ,E,˜ f),˜ f˜: ˜E −→ Zを次のように定義する
(図2):
(1)
次数
2の
vertexに接続している
2本の
edgeをつなぐ.
(2) (1)
で得られた
edge e ∈E˜に対し,元の
edgeの符号の和を
f˜(e)とする.
図2
注意 2.3
議論を簡単にするために,以下の
graphGは,次数
2の
vertexに接続する
2本の
edgeが常に同符号であるものとする.すなわち,無駄なねじれをもたない
flat Seifert surfaceのみを考えることにする.
次の命題が主な結果である.
命題 2.4 G
を
connected, bipartite, signed, plane graph,Fを
Gが表す
flat Seifert surfaceとする.
G˜ = ( ˜V ,E,˜ f˜)が次をみたすとき,∂F
∈ Mが成り立つ:
(1)
任意の
e∈E˜+に対し
f˜(e)は
2以上の偶数である.
ここで
E˜+ ={e∈E˜ |f˜(e)>0}である.
(2) ˜G
の
subgraph ( ˜V ,E˜+)において,任意の
a∈V˜に対し
dega̸= 1をみたす.
3. 証明の概略
命題
2.4について,その証明の概略を述べる.
まず,L
∈ Mであるための必要十分条件を与える.
O2
を
2-component trivial linkとする.O
2の
HOMFLY多項式を
δ¯で表す.すな わち,
δ=P(O2) = (v−1−v)z−1
である.また
δ−1を
δ¯で表す.
多項式
P∗(L) = P∗(L;v,δ)¯ ∈Z[v±1,δ¯±1]を次のように定義する.
P∗(L;v,δ) =¯ P(L;v,(v−1−v)¯δ).
また,flat Seifert surface
Fを表す
signed plane graph Gに対し
P∗(G)を次のように 定義する.
P∗(G) =P∗(∂F)
さらに,C
i(G)∈Z[v±1]を
P∗(G)における
δ¯iの係数として定義する.
このとき,次の補題が成り立つ.
補題 3.1 L∈ M
であることの必要十分条件は,L は
G= (V, E, f)が表す
Fの境界 であり,かつその
Gが
C1−|V|+|E|(G)̸= 0をみたしていることである.
補題
3.1は第
4章で証明する.
補題
3.1より,M に属する
Lを得るためには
C1−|V|+|E|(G)̸= 0をみたす
graphを 与えればよいことがわかる.
次に,v の多項式
C1−|V|+|E|(G)について考える.
P∗(G)
に対し次の等式が成り立つ.
命題 3.2
P∗(G) = ∑
E2⊂E1⊂E
(−1)|E1|+|E2| P∗(G+2) ¯δ|E|−|E2| v−2|E1−|,
ここで
G+2 = (V, E2, f+), f+:E2 −→ {+1}, E1− ={e∈E1|f(e) = −1}である.
この命題からただちに次が得られる.
系 3.3
C1−|V|+|E|(G) = ∑
E2⊂E1⊂E
(−1)|E1|+|E2| C1−|V|+|E2|(G+2)v−2|E1−|.
E1 ⊂E
に対し,Q(E
1)∈Z[v±1]を次のように定義する.
Q(E1) = ∑
E2⊂E1
(−1)|E1|+|E2| C1−|V|+|E2|(G+2) v−2|E−1|.
このとき,系
3.3より次が成り立つ.
C1−|V|+|E|(G) = ∑
E1⊂E
Q(E1).
また,E
1+, E1−をそれぞれ次のように定義する.
E1+ ={e∈E1|f(e)>0}, E1−={e∈E1|f(e)<0}.
さらに,ϵ(G) を
E˜の元
eで
f˜(e)が奇数となるようなものの数と定義する.すなわち,
ϵ(G) =|{e∈E˜|f˜(e) : odd}|
とする.このとき
Q(E1)の最高次数について次の不等式が成り立つ.
補題 3.4
maxdegQ(E1)5
{ |E1+| − |E1−| (ϵ(G1) = 0,1),
|E1+| − |E1−|+ϵ(G1)−2 (ϵ(G1)=2).
ここで
G1 = (V, E1, f)である.
補題 3.5 G
が命題
2.4の条件
(1), (2)をみたすとき,maxdegQ(E
+) = |E+|が成り 立つ.
補題 3.6 G
が命題
2.4の条件(1), (2) をみたすとき,
E1 ̸=E+ならば
maxdegQ(E1)<|E+|
が成り立つ.
補題
3.6は第
4章で証明する.
最後に命題
2.4の証明を与える.
命題
2.4の証明
C1−|V|+|E|(G) =∑E1⊂EQ(E1)
であることと,補題
3.5および補題
3.6から,G が命 題
2.4の条件
(1), (2)をみたすとき
C1−|V|+|E|(G)̸= 0が成り立つ.したがって補題
3.1より,∂F
∈ Mである.
以上の補題の性質を見ることによって,
C1−|V|+|E|(G)̸= 0をみたすための
Gの十 分条件を与えることができた.命題
2.4の条件をみたす
graphを与えることで,
Mに 属する無限の
linkが構成できる.しかし残念ながら,この条件をみたす
graphからは
knotを得ることができない.命題
2.4よりも弱い十分条件を与えて,
Mに属するより 多くの
linkを得ることが今後の研究課題である.
4. 補題の証明
この章では補題
3.1と補題
3.6に証明を与える.
補題
3.1の証明
S
を
canonical Seifert surfaceとする.定理
2.1より,ある
flat Seifert surface Fが存在して
∂F =∂Sが成り立つことから,F についてのみ考えればよいことがわか る.また
P∗(L)の定義より,
¯δ-maxdegP∗(L) =z-maxdegP(L)が成り立つ.したがっ て
δ-maxdegP¯ ∗(∂F) = 2g(F) +r−1を得る.さらに,F を表す
graph G = (V, E, f)に対し
g(F) = (2 − r − |V| + |E|)/2が成り立つことから,
δ-maxdegP¯ ∗(G) = ¯δ- maxdegP∗(∂F) = 1− |V|+|E|を得る.これは
P∗(G)の
δ¯1−|V|+|E|の係数が
0でない ことと同値である.
これらをまとめると,
M = {L: link|L
は
z−maxdegP(L) = 2g(S) +r−1をみたす
Sを張る
}= {∂S|S : canonical Seifert surface s.t. z−maxdegP(∂S) = 2g(S) +r−1}
= {∂F|F : flat Seifert surface s.t. z−maxdegP(∂F) = 2g(F) +r−1}
= {∂F|F : flat Seifert surface s.t. ¯δ−maxdegP∗(∂F) = 2g(F) +r−1}
= {∂F|F : flat Seifert surface s.t. ¯δ−maxdegP∗(G) = 1− |V|+|E|}
= {∂F|F : flat Seifert surface s.t. C1−|V|+|E|(G)̸= 0}.
補題
3.6の証明
ϵ(G1) = 0,1
のとき,仮定より
E1 ̸=E+であるから
|E1+| − |E1−|<|E+|を得る.ま た,ϵ(G
1)=2のときは,命題
2.4の条件
(1)より
ϵ(G1)5|E1−|が成り立つ.よって
|E1+| − |E1−|+ϵ(G1)−25|E1+| −25|E+| −2<|E+|
を得る.補題
3.4より
maxdegQ(E1)<|E+|である.
参考文献
[1] M. Brittenham and J. Jensen, Canonical genus and the Whitehead doubles of pretzel knots, arXiv:math.GT/0608765 v1.
[2] P. R. Cromwell,Homogeneous links, J. London Math. Soc. (2)39(1989), no. 3, 535–552.
[3] M. Hirasawa,The flat genus of links, Kobe J. Math.127(1995), 155–159.
[4] H. J. Jang, S. Y. Lee,The canonical genus for Whitehead doubles of a family of alternating knots, Topology Appl. 159 (2012), 3563–3582.
[5] A. Kawauchi,On coefficient polynomials of the skein polynomial of an oriented link, Kobe J. Math.11 (1994), 49–68
[6] H. R. Morton, Seifert circles and knot polynomials, Math. Proc. Cambridge Philos. Soc.
99 (1986), 107–109.
[7] T. Nakamura, On the crossing number of a 2-bridge knot and the canonical genus of its Whitehead double, Osaka J. Math. 43(2006), 609–623.
[8] A. Stoimenow,Knot data tables, http://stoimenov.net/stoimeno/homepage/ptab/index.html [9] J. Tripp, The canonical genus of Whitehead doubles of a family torus knots, J. Knot
Theory Ramifications 11(2002), 1233–1242.