50 住友化学 2015
技 術 紹 介
自動解析技術を活用した安全性評価
− in vitro および in vivo 小核試験−
はじめに
化学物質を適切に管理する上で、その的確な安全性 評価は必要不可欠である。特に、遺伝子やDNAへの悪 影響を引き起こす遺伝毒性は、がんや遺伝的疾患と いったヒト健康被害の原因となる最も重篤な毒性の一 つとして優先的に評価する必要がある。
小核試験はこの遺伝毒性の有無を調べる代表的な試 験である。小核とは、化学物質のDNAへの作用によっ て生じたDNA断片からなる小さな核のことで、DNA損 傷の指標となる。従い、化学物質を作用させた後に細 胞を観察し、小核を持つ細胞の出現頻度を調べること で、化学物質の遺伝毒性の有無を検出することができ る。培養細胞を用いるin vitro(試験管内)小核試験 は、その簡便さから化合物のスクリーニングに適して いるのに対し、マウス等の実験動物を用いるin vivo
(生体内)小核試験は、生体における遺伝毒性評価を 確定する重要な試験に位置付けられる。
このようにin vitroおよびin vivo小核試験は化学物質 の安全性評価上欠かせないものであるが、いずれも化
合物あたり100,000個以上の細胞を一つずつ顕微鏡下で 目視観察する必要があるため、これらの実施に多くの 時間と労力を要するという課題があった。この課題の 解決策として、最新の細胞解析技術を用いた様々な自 動観察法が提案されている1), 2)。本稿では当社で実施 した、自動解析技術を活用した迅速かつ高精度な小核 試験の確立について概説する。
細胞イメージアナライザーを用いた
in vitro
小核試験の自動解析細胞イメージングとは、蛍光顕微鏡の細胞画像の撮 影と画像解析を瞬時に行う技術である。蛍光色素で染 色した細胞や細胞内の複雑な構造体の形、大きさ、長 さ、数量といった要素の特性を高速かつ自動的に識別 し、定量化することができる。この技術をin vitro小核 試験に活用することで化合物スクリーニングの迅速化 が図れると考え、細胞イメージアナライザーによる自 動解析の最適化に取り組んだ。
通常in vitro小核試験では、化学物質を細胞に作用さ 住 友 化 学 株 式 会 社 生 物 環 境 科 学 研 究 所
佐 々 木 克 典 北 本 幸 子
Fig. 1 Application of image analysis to micronucleus test on determination of cell type and micronuclei.
A) Microscopic image of main nuclei and a micronucleus (indicated by a white arrow) after staining, B) Composite image after image analysis.
Binucleated cells (yellow), mono- or multinucleated cells (pink), main nuclei (blue) and a micronucleus (aqua, indicated by a white arrow).
A B
51 住友化学 2015
自動解析技術を活用した安全性評価−in vitroおよびin vivo小核試験−
せた後、細胞分裂を止める薬剤を添加し、細胞分裂過 程の後期にある二核細胞(二つの細胞核を持つ細胞、
Fig. 1)を観察する。これは小核がこの時期の直前に 生成することに因るもので、遺伝毒性により生じた異 常細胞は小核を持つ二核細胞(Fig. 1矢印)として検 出される。一方、分裂していない単核細胞や、2回以上 分裂した多核細胞は小核観察の対象としないが、細胞 毒性の指標となる細胞増殖率を求めるため、各々の細 胞数も識別して定量する必要がある。
これら細胞の自動解析にあたっては、各細胞の占め る領域を認識して核の数を計数した上で、二核細胞のみ を対象として小核の有無を判定する必要がある。まず、
隣り合う細胞へのそれぞれの正しい数の核の帰属が容 易となるよう標本作製法の改良を行った。細胞の播種 や固定方法、染色色素の種類や染色条件など種々の検 討を行った結果、細胞の大きさや密度を極めて均質に
分布させる標本作製法を見出した。次に解析パラメー ターの最適化に取り組み、各細胞の識別ならびに二核 細胞に存在する小核の識別に適した数値アルゴリズム を確立した。これにより細胞画像の高精度な解析に成 功し、小核試験が陽性となる既知の化合物について期 待通りの結果が得られる自動観察法を構築することが できた(Table 1)。同時に本法は、評価に必要な化合 物量、試験期間の大幅な削減を実現した(Table 2)。
フローサイトメーターを用いた
in vivo
小核試験 の自動解析通常in vivo小核試験では、化学物質を投与後安楽死 させた実験動物から骨髄塗抹標本を作製し、成熟過程 で主核が脱落した幼若赤血球中に生じる小核の有無を 目視で観察する。近年、動物使用数を削減するという 動物福祉の観点から、他の安全性試験で得られる末梢
Table 2 Advantages of automated scoring vs. conventional manual scoring
Period of examination Amount of test substance Number of animals
1 – 3 days
**
**
1 – 3 months 10 – 30 g 60 animals
Automated Scoring Manual scoring
In vivo micronucleus test
1 – 3 days*
0.005 g
— 1 – 3 months
1 g
—
Automated Scoring Manual scoring
In vitro micronucleus test
— : Not applicable
*
: A large number of substances can be evaluated in parallel.**
: Usage of peripheral blood from treated animals in other toxicity tests can reduce test animals or substances.Table 1 In vitro micronucleus test – Comparison between manual and automated scoring
Mitomycin C
Methyl methanesulfonate 4-Nitroquinoline-N-oxide Cytosine arabinoside Camptothecin Colchicine Vinblastine Paclitaxel Nocodazole Benzo[a]pyrene Cyclophosphamide Dimethylnitrosamine Sodium chloride D-Mannitol
Alkylating agent
DNA synthesis inhibitor Topoisomerase inhibitor
Tubulin inhibitor
Promutagen requiring metabolic activation
Not mutagenic Test substance Mechanism of action
Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Negative Negative Manual scoring
Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Positive Negative Negative Automated scoring
52 住友化学 2015 自動解析技術を活用した安全性評価−in vitroおよびin vivo小核試験−
小核を識別するためのマーカーや薬剤を適切に選択し、
解析条件の検討を重ねてゲーティングを最適化するこ とで、小核を持つ幼若赤血球を正確に分類できるよう になった(Fig. 2)。これにより、末梢血でも従来の目 視観察と同等の結果が得られる自動観察法を構築した
(Fig. 3)。
おわりに
本稿では最新の自動解析技術を活用したin vitroおよ びin vivo小核試験について概説した。自動観察法を確 立したことにより、各々従来の目視観察法と比べて短 期間でより簡便に多数の化学物質の評価が可能となっ た(Table 2)。当該自動観察法は、より安全な化学物 質の早期開発に大きく寄与するものと期待され、今後 も安全性評価に積極的に利用していく予定である。
引用文献
1) K. Tilmant, H.H.J. Gerets, P.De Ron, C. Cossu- Leguille, P. Vasseur, S. Dhalluin and F.A. Atienzar, Mutat Res., 751 (1), 1 (2013).
2) S. Kasamoto, D. Mukai, S. Masumori, K. Suzuki, R.
Tanaka, D.K. Torous, J. Yamate and M. Hayashi, Mutat Res Genet Toxicol Environ Mutagen., 762, 39 (2014).
血を小核試験に利用することが、欧州の規制当局を中 心に推奨されつつある。化合物開発においても一連の 安全性試験で得られる末梢血の利用は、化合物の使用 量を削減できる点で有用である。しかし、末梢血の全 赤血球に占める幼若赤血球の割合は1%程度であり、
目視での観察は現実的に不可能であった。また、株化 された培養細胞とは異なり、末梢血中には赤血球の他 に、リンパ球、単球や血小板など多種多様な形状の細 胞や夾雑物が存在するため、前述の細胞イメージング 技術による自動解析も困難であった。そこでin vivo小 核試験では、フローサイトメトリーによる自動解析技 術に注目し、末梢血を用いた自動観察法の構築に取り 組んだ。
フローサイトメトリーは、多様な細胞集団の中から 目的の細胞を高速で識別する技術である。目的の細胞 に予め目印(マーカー)を付加し、狭い流路に通して 個々の細胞にレーザーを照射すると、細胞の形状や マーカーに特徴的な散乱光や蛍光が発せられる。これ らの光強度を瞬時に定量化して座標にプロットする。
プロット上の領域定義(ゲーティング)により、同じ 形状やマーカーを有する目的の細胞を分類し、計数す ることができる。近年、フローサイトメーターの性能 が飛躍的に向上し、小核試験にも応用されるように なってきた2)。当社においても、幼若赤血球やその中の
Fig. 2 Dot plot using flow cytometry to identify micronucleated immature erythrocytes (blue box) from the whole blood cells
Staining intensity for micronucleus marker
102 103 104 105
102 103 104 105
Staining intensity for immature erythrocytes marker
Immature erythrocytes
Micronucleated immature erythrocytes
Fig. 3 Comparison of micronucleus frequencies between manual and automated scoring in immature erythrocytes treated with cyclophosphamide (typical mutagen)
Automated scoring Manual scoring
Micronuclated immature erythrocytes [%]
Cyclophosphamide [mg/kg]
0 2.5 5.0 10 20
0 1 2 3 4 5