金型用クロム含有鉄鋼材料および超硬合金の電解加 工に関する研究
著者 王 思聰
発行年 2020‑12
出版者 静岡大学
URL http://doi.org/10.14945/00028254
(課程博士・様式7)(Doctoral qualification by coursework,Form 7)
学 位 論 文 要 旨
Abstract of Doctoral Thesis
専 攻:環境・エネルギーシステム 氏 名:王 思聰
論文題目:金型用クロム含有鉄鋼材料および超硬合金の電解加工に関する研究
論文要旨:
機械部品の大量生産において,金型の重要性は益々高まっている.金型材料としては,
鋼材が最も多く使用されるが,最近では,生産する部品に対する要求が高まっており,
それにこたえるために超硬合金も多く使用されるようになってきている.
工具鋼および超硬合金の金型を製作するため,主に切削加工,研削加工,放電加工が活 用されている.しかし,これらの加工方法は加工速度が遅く,相当の加工時間がかかる.
そこで,本研究では,高速加工の方法として,電解加工に注目している.
電解加工は電気化学の原理を生産加工に応用した技術である.加工速度が速いなど,多 くの長所を持っているが,1980年代以降金型の製造方法としてはあまり用いられていない.
その原因については主に二つ考えられる.一つは加工精度の問題であり,もう一つは電解 液処理の問題である.すなわち,金型材料として,多く使用されている工具鋼は主にクロ ムを含む材料であり,電解加工中に六価クロムを生成するという問題があり,電解液を処 理する必要がある.また,電解加工の加工精度が悪く,特に最近使用量が増えている超硬 合金材料の高精度な電解加工はまだ実現していない.
以上のような状況を踏まえ,本研究では,金型の材料として多く使用されているクロム を含む鉄鋼材料と超硬合金との電解加工方法の問題点を解決するため,以下の 2 点に注目 した.
1. 難加工材である超硬合金の高精度で高効率な電解加工方法について検討する.
2. Crを含む鉄鋼材料の電解加工過程中六価クロムの生成防止について検討する.
第 1 章「緒論」では,まず,金型の現状,使用材料および加工方法を概説する.本研究 では,金型の高速加工を実現するため,電解加工に注目した.第 1 章では,電解加工の加 工原理,歴史および問題点について説明し,本研究の目的と本論文の構成について説明し た.
第 2 章「電解液電気分解を利用した単極性パルスによる超硬合金の電解加工」では,中 性電解液と両極性の電源を使用することで,超硬合金の電解加工の際に,電極の消耗とい う問題が生まれていることに対して,中性の電解液を用いつつ,単極性の電流により超硬
合金を加工する方法を提案した.電解液のフラッシング流路に電気分解装置を設け,加工 するときの電解液だけをアルカリ性にし,加工槽・加工液タンク中の電解液をほぼ中性に 保つ方法を考案した.実験では,まず,電解反応の生成物であるWO3が加工の進みを妨げ るので,WO3を溶解するため,必要な電解液のpH値を検討した.次に,陽イオン交換膜を 利用し,酸性とアルカリ性液を分離できることを確認した.最後に,加工電源により単極 性と両極性とで加工する場合の電極消耗状況の違いを調べた.両極性電源で使用した条件 では,電極が消耗するのに対して,単極性電源で加工する場合は電極が無消耗にできるこ とがわかった.
第 3 章「電解現象による超硬合金のミーリング加工」では,超硬合金の高精度で高効率 な電解加工方法を検討した.超硬合金の加工,特に冷間鍛造金型等を対象にした三次元の 高速・高精度な加工方法をエンドミルのような回転工具による加工で実現するために,電 解現象で超硬合金の結合剤であるCoを除去し,その後, Co が抜けて脆弱化になった超硬 合金をミーリング加工による除去する加工方法を提案した.電解現象を利用したミーリン グ加工では,電解作用を用いない場合と比べて切削抵抗が大幅に低減することを確認でき た.切削抵抗が低減できた理由は,Coの溶出による材料強度の低下であることを確認した.
また,印加電圧を上げると,電解の反応が速くなり,切削抵抗が小さくなることがわかっ た.逆に,工具送り速度が大きいほど電解の影響が小さくなり切削抵抗が大きくなること がわかった.
第 4 章「鉄イオン添加電解液による六価クロム生成の防止」では,ステンレス鋼などク ロムを含む鉄鋼材料の電解加工中,六価クロムを生成防止する方法について検討した.す なわち,鉄切粉を詰め込んだ装置(以下「鉄フィルター」と呼ばれる.)を用いて,電解 液へ大量のFe2+イオンを供給し,六価クロム生成の防止を試みた.まず,電解液を鉄フィル ターに通すことで,電解液に鉄イオンを供給できることを確認した.次に,鉄フィルター を循環させた電解液を用いてステンレス鋼を電解加工したところ,電解液中の六価クロム を大幅に低減できた.その後,電解加工過程中に,電解液中の六価クロムの生成速度と六 価クロムを還元できるFe2+イオンの量の関係を調べた.電解液へFe2+イオン供給を継続的に 行うためには,電解液を非アルカリとする必要があることがわかった.さらに,鉄フィル ターを通した非アルカリ性電解液を用いて電解加工すると,六価クロムの生成を抑えるこ とができることを示した.また,中性の電解液を鉄フィルターに通しただけでは加工する Cr量に見合うだけのFe2+イオンを継続して供給することはできず,Fe2+イオン濃度が低下し ていくこともわかった.
第5章「結論と展望」では,第 2章から第4章までに得られた新たな知見を要約し,本 論文の結論を述べる.さらに,本研究の成果に基づき,今後の電解加工の展望について述 べた.