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「みる」の習得 : 中国語を母語とする日本語学習者 を対象に

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Kyushu University Institutional Repository

JSL環境およびJFL環境における多義動詞「あがる」

「みる」の習得 : 中国語を母語とする日本語学習者 を対象に

王, 雋

九州大学大学院地球社会統合科学府

https://doi.org/10.15017/1959205

出版情報:地球社会統合科学研究. 9, pp.9-19, 2018-09-25. 九州大学大学院地球社会統合科学府 バージョン:

権利関係:

(2)

No.9 , pp. 9〜19

JSL 環境および JFL 環境における多義動詞「あがる」「みる」の習得

―中国語を母語とする日本語学習者を対象に―

オウ

     雋

シュン

1.はじめに

国立国語研究所(1964)の現代雑誌90種の用語調査に よると、「全体についての使用率で最上位10語はすべて 多義語であった」(p. 54)。つまり、我々は複数の意味 を持つ多義語を日頃使っているということである。しか し、日本語母語話者にとっては深く考えず自由に使用す ることができる多義語だが、第二言語として学習する学 習者は上級になってもその様々な語義を運用するには大 変困難を感じる。

多 義 語 が 習 得 困 難 な 要 因 を 明 ら か に す る た め、

Kellerman(1979)をはじめ、Tanaka & Abe(1984)、

Shirai(1995)などプロトタイプ性の視点から英語の多 義語習得について一連の研究が行われた。その後、日本 語の多義語習得研究もプロトタイプ理論に影響され、プ ロトタイプ性の高い語義は先に習得されるが、それに留 まり、ほかの語義の習得は進まないなどの研究結果が報 告された。しかし、語義の習得のしやすさはプロトタイ プ性以外にどのような要因が関わっているのか、学習者 が持っている多義語の知識は母語話者の認識とどのよう に違うのかについては、十分な研究がなされているとは 言えない。そこで本研究は、中国語を母語とする日本語 学習者を対象に、多義語の中でも、「日常生活において 数多く使用されている多義語の中で、早い時期に学習し、

使用頻度が高い」(松田,2000)基本動詞に注目し、学習 者の習得状況を明らかにする。

2.先行研究

2.1多義語の意味研究

多義語の意味ネットワークについて、瀬戸(2007)は

「中心義を出発点として、そこからメタファー・メトニ ミー・シネクドキ1の経路を通って意義が展開する」(pp.

41-42)と説明している。また、中心義というのは他の 語義を理解する上の前提であり、「プロトタイプ」とい う概念に当てはまると述べられている。プロトタイプと は、一つのカテゴリーにおいて典型的な代表例を指す。

例えば、「鳥」というカテゴリーには、スズメやハトの ような頭に浮かびやすい典型的なメンバーと、ペンギン やダチョウのような頭に浮かびにくい非典型的なメン バーがある。つまり、スズメ、ハトはこの「鳥」という カテゴリーのプロトタイプ的なものであるのに対して、

ペンギンやダチョウは非プロトタイプ的なものと言え る。プロトタイプ理論は認知心理学者Rosch(1973)に より提唱され、あらゆるカテゴリーは内部構造を持って おり、カテゴリーのメンバーの内、最も典型的なプロト タイプ事例がその内部構造の中心核となって、非プロト タイプに拡張していると説明されている。この概念を言 語学に応用すると、多義語が持つ語彙項目を一つのカテ ゴリーと見なし、その複数の語義にはプロトタイプ的語 義と非プロトタイプ的語義があるということになる。さ らに、プロトタイプ的意味を中心義として、非プロトタ イプ的語義へと拡張し、一つの意味ネットワークを構築 する。瀬戸(2007)はこの意味ネットワークに基づき、

語の多義記述を試みた。実例として、‘crawl’が以下の ように挙げられている。

Crawl

0 中心義 <人・虫などが>這う:I crawled in to bed at eleven.

0-a メタファー 水面で這う:crawl swimmers

1 メタファー <多くの人が>這っているように動き 回る:Police seemed to be crawling everywhere.

1-a メトニミー <場所が>(人などで)いっぱいであ る:The place was crawling with kids.

2 メタファー <乗物・雲などが>這うように進む:

The convoy crawled on.

2-a メタファー <視線・数値・時間などが>這うよう に進む:The hours crawled by like years.

2-b メタファー <道が>這うように先に延びる:A dusty road crawled past the school in early years.

3 メタファー <人が>取り入るために腰を低くして す り 寄 る:The way you crawled to them makes me sick.

(3)

瀬戸(2007, pp. 53-55)より一部を転載

また、森山(2012b)は日本語の多義構造を分析した 研究であり、「一続きの物を分断する」という意味を「切 る」の中心義とし、メタファーとメトニミーにより、中 心義から語義の拡張が起きていると述べている。中心義 の例文として「花子がナイフでロープを切る」が挙げら れている。ここでの「分断」の対象は可視的で具体的な ものである。そこから、「つながりを分断する」へと意 味が拡張し、「分断」の対象が電流、音といった不可視 的なものになり、「電気を切る」、「電話を切る」などの ようになる。

しかし、上に述べた研究はあくまでも研究者による内 省的なものである。実際に学習者が第二言語の多義語を 学習する時、彼らがプロトタイプとみなすものは母語話 者と同じなのか、非プロトタイプである拡張義をどこま で使用できるのか、また、プロトタイプと非プロトタイ プとの関連付けをどのように理解しているのか、などと いった問題が浮かび上がってくる。次節では、これらの 問題を検討した第二言語における多義語の習得研究を概 観する。

2.2多義語の習得研究

多義語の意味研究は習得研究に応用され、その中には 第二言語学習者の目標言語(以下L2)の違いにより、

英語を対象としたものと、日本語を対象としたものが見 られる。

2.2.1英語を L2 とする研究

Kellerman(1979)はプロトタイプ理論を基盤に、言 語転移の観点から英語学習者の多義語習得を考察したも のである。Kellerman(1979)はまずオランダ語である

‘breken’の用例を母語話者に意味の類似性から分類し てもらうという調査により、‘breken’が持つ多くの語 義によるプロトタイプ性の順位を明らかにした。その上 で、オランダ語を母語(以下L1)とする英語学習者を 対象に、L1である‘breken’からL2‘break’への翻 訳可能性判断テストを行った。調査の結果から、L1 用 例のうち、プロトタイプ性が高ければ高いものほどL2 への翻訳可能性も高いという判断の傾向が観察された。

さらに、翻訳可能と判断された用法は母語から目標言語 への「正の転移2」が起こりやすく、習得が容易であった。

つまり、L1においてプロトタイプ性の高い語義は正の 転移が起こりやすく習得が容易であるのに対して、プロ トタイプ性の低い語義は習得されにくいという結論で あった。

Kellerman(1979)の研究に続き、Tanaka & Abe(1984)

は日本語を母語とする英語学習者を対象に、‘borrow’

を用いた例文の容認判断テストを行った。‘borrow’と 対応している学習者のL1である「借りる」のプロトタ イプ性の高い用例‘John borrowed the book from Bill.’

のほうが、プロトタイプ性の低い用例‘John borrowed the idea from Bill.’よりも翻訳可能と容認されやすい、

という結果が得られた。Kellerman(1979)の主張を追 認したと同時に、プロトタイプによる転移は正の転移だ けでなく、プロトタイプ性の低い語義については、L1 による負の転移が生じ習得されにくいという説明を加え た。

Kellerman(1979)とTanaka & Abe(1984)の研究 を踏まえて、Shirai(1995)は語義における「プロトタ イプ」の概念がL1とL2で必ずしも一致していないと ころに着目した研究を行った。日本語を母語とする英語 学習者を対象に、L2である‘put’を含む用例が容認 できるか否かの容認性判断調査を行った。その結果、学 習者が持つ‘put’に対するプロトタイプ概念は‘put the book on the table.’のような用例であり、母語話者 のプロトタイプ概念と一致していた。その点について Shirai(1995)は学習者のL1である「置く」のプロト タイプとL2である‘put’のプロトタイプは「ものを 平らなところに置く」という点で一致しているため、母 語話者と同じプロトタイプ概念を形成したのであると説 明した。そのおかげで、学習者は「put=置く」と結び つけやすく、それによる用例は習得されやすいが、その 対応が成立しない用例については習得されにくいと述べ られている。

今井(1993)は多義語の内部構造と学習者が持つ意味 表象に焦点を当て、日本語母語話者を対象に、‘wear’

の習得状況について二つの調査を行った。調査1では、

被験者に ‘wear’の17の用例を、意味の類似性により グループに分けるように求めた。その結果、大まかなと ころ学習者は母語話者と同様の概念でグループ化してい るが、より細かなレベルでは母語話者の意味表象は安定 した内部構造を持っているのに対して、学習者のそれは 拡散的でまとまりがないことが分かった。その理由とし て、‘wear’はメタファーなどにより、プロトタイプ語 義を中心にした放射構造を持っていることを学習者が十 分に理解していないためであると分析している。調査2 では、‘wear’についての容認度判断テストを行った。

その結果、学習者の意味表象は「wear=着る」に留まり、

それに対応しない用法への理解が不十分であるため、「着 る」から離れれば離れるほど受容しない傾向が強いとい うことが明らかになった。今井(1993)の研究は、一見 上述した言語転移の観点からの研究とは関連がないよう

(4)

に見えるが、学習者の多義語習得はプロトタイプ的語義 に留まり、習得が進まない傾向があるというところでは 一致している。

2.2.2日本語を L2 とする研究

Kellerman(1979)の研究に影響を受け、日本語を対 象とした多義語の習得研究にも語義のプロトタイプ性が 強調された。例えば、松田(2000)は学習者と母語話者 は異なるプロトタイプ概念を持っていることを検証した 研究である。具体的には「割る」を取り上げ、「典型概念」

を最初に連想し使用する用例の語義と設定し、文産出テ ストを行った。その結果、母語話者は「破損」を「割る」

の典型概念として捉えているのに対して、学習者は「分 割」をイメージする傾向が強かった。

菅谷(2002)はKYコーパス3を用い、日本語学習者90 名のデータから、「イク・クル・テイク・テクル」の習 得について、話者の視点と多義性という観点から分析し た研究を行った。その結果、学習者の日本語レベルが上 がるに従い、本動詞(イク・クル)と補助動詞(テイク・

テクル)はともにプロトタイプ的用法(物理的空間移動)

から非プロトタイプ的用法(抽象的移動)へと使用の広 がりが観察された。菅谷(2002)がL2のプロトタイプ に着目したのに対して、加藤(2005)はL1のプロトタ イプに視点を置いた研究である。中国語母語話者を対象 に、L1である「開」(開ける/開く)「看」(見る)の転 移可能性について受容と産出の両面から調査を実施し た。産出面を調査した発話テストでは、学習者のL1に おける典型度が高い用法は転移が起こりやすく、低い用 法は転移が起こりにくいというKellerman(1979)の言 語転移説を支持する結果が得られた。受容面では正誤判 断テストを行い、L1項目の典型度と転移率の間に有意 な相関は見られなかったが、L1典型度が高く正の転移 が可能な項目は100%に近い転移率をみせ、正の転移が 習得を容易にしていることを検証した。

KYコーパスのデータを用いた研究は、菅谷(2002)

の他に鷲見(2015)も挙げられる。鷲見(2015)はプロ トタイプを理論的プロトタイプと心理的プロトタイプの 二つの側面から捉え、KYコーパスのうち中国語を母語 とする日本語学習者の「カカル・カケル・ツクル・トル・

ヒク・ミル」の使用を分析した。その結果、研究対象と なる語の理論的プロトタイプと心理的プロトタイプは必 ず一致しているとは言えないが、両者が一致している語 は使用頻度が高く、プロトタイプ的語義から非プロトタ イプ的語義へと使用の広がりが観察された。

鐘(2016)は多義的基本動詞の「切る」を取り上げ、

中国語を母語とする日本語学習者を対象に、プロトタイ

プ性と習得順序の関係を検討した研究である。受容性判 断調査により、「切る」の各語義のプロトタイプ性が高 ければ高いほど、学習者に受容されやすいこと、さらに メトニミーによる拡張義はメタファーによる拡張義より 受容されやすいということが分かった。

3.研究課題

先行研究をまとめると、プロトタイプ的語義が習得さ れやすいが、それに留まり他の語義の習得は進まない傾 向が強いということが分かった。しかし、プロトタイプ 性以外にどのような要因が関わっているのか、学習環境 は影響するのかについて十分な研究がなされているとは 言えない。学習環境は第二言語(JSL)環境と外国語(JFL)

環境に分けられる。第二言語環境による言語習得は、外 国語環境での習得よりも効果があると考えられがちであ るが、多義語の習得ではまだ検証されていない。そこで、

本研究は学習環境に注目し、学習環境の違いが多義語の 習得に及ぼす影響を探るため、中国語を母語とする日本 語学習者を対象に多義動詞の習得状況を調査する。

4.調査 4.1調査方法

多義動詞の習得状況を調べるため、産出と受容の両面 からアンケート調査を行った。データの分析においては、

JSL学習者とJFL学習者の間に有意差があるかどうかを 検証するため、χ2検定を行った。さらに、JSL学習者 の語彙知識はJFL学習者の語彙知識より母語話者に近い かを検証するため、学習者の両集団をそれぞれ母語話者 と比較した。

4.2調査協力者

調査協力者は、中国のB大学で日本語を主専攻とす る学生、また日本のQ大学5に留学している中国人学生、

さらに統制群として日本語母語話者30名ずつ、計90名で ある。なお、本稿では中国で日本語を学習している学生 をJFL環境の学習者として取り扱う。この全ての学習者 に日本滞在歴はない。JSL環境の学習者として最も理想 的なのは日本に来てから日本語を勉強し始めた学習者で あるが、日本に留学するためには一定の日本語能力が必 要であるため、ゼロから日本語を勉強する学習者は非常 に限られている。しかし、本研究はあくまでも学習環境 が日本語習得に影響する可能性の一考察であるため、本 稿では現在日本に滞在している日本語学習者をJSL環境 の学習者として取り扱うことにする。調査協力者の内訳

(5)

を表1のようにまとめる。

4.3調査資料

調査対象語は初級段階に出て来る多義性の高い基本動 詞「あがる」「みる」である。「あがる」「みる」はそれ ぞれ「上がる/挙がる/揚がる」「見る/観る/診る」のよ うに、漢字表記を複数持っているが、協力者の混乱を招 かないように、全て仮名表記で示した。

調査は、調査対象語「あがる」「みる」について、産 出と受容の両面からアンケートを作成した。まず、産出 のアンケートでは、「あがる」「みる」を提示し、すぐに 思いつく文を作るように求めた。なお、調査協力者の負 担を減らするため、調査対象語の活用形を使ってもいい こと、産出文の数に制限がないことを明示した。また、

受容の面では、「あがる」「みる」を含む例文を提示し、

自然から不自然までの4段階評価テストを作成した。例 文は森山(2012a)を参照に筆者が修正を加えた後、不 自然な文を加え、ランダムに配列した。なお、調査対象 語以外の単語が理解上の支障にならないように、一部の 単語には中国語訳を併記した。

4.4調査の手続き

調査はアンケート用紙を協力者に配り、一人ずつ5〜

20分前後で行った。産出調査と受容調査の協力者は同じ であるため、受容テストの例文が調査協力者の産出テス トに影響しないように、産出テストを先に行った。

産出テストのアンケートを回収した後、不自然な文が 混ぜられていることを教えずに、受容テストのアンケー トに回答してもらった。回答時間は特に設定していない が、深く考えずに判断するように説明した。さらに、回 答が終わった後、学習者に対してはフォローアップイン タビューを行った。多義語の一部の語義に関して理解が 困難な原因を考察するため、受容テストの問題に「不自 然」と判断した理由を聞いた。

5. 結果と考察 5.1産出

森山(2012a)では、「あがる」「みる」についての意 味分類が行われ、意味項目<0>というのは、中心義に

表 1  調査協力者 項目 人数

(人)年齢(歳)日本語レベル 日本滞在歴 母語話者 30 18 〜 31

JFL 学習者 30 19 〜 26 N1 無し JSL 学習者 30 21 〜 31 N1 1 〜 11 年

当たるものであり、そこからいくつかの語義が拡張され ている。この分類に従い、調査協力者の産出文をカテゴ リー別に分類した。さらに、各カテゴリーによる文数を 百分率で計算し、母語話者の使用率の高い順で図1、図 2に示す。図に示されているように、「あがる」の意味 項目<0>の使用率はJSL学習者が27%で、JFL学習者 が18%であった。次に、「みる」の意味項目<0>の使 用率をみると、JSL学習者が30%、JFL学習者が25%で あり、どちらも使用率が最も高かった。学習者による中 心義の使用率が高いというのは、つまりプロトタイプ 的語義が使用されやすいということである。Kellerman

(1979)などの先行研究による「プロトタイプ的語義が 習得されやすい」という説を改めて産出の面において検 証できたと言える。

図1  「あがる」の使用率順

図2  「みる」の使用率順

また、中心義の他に、「あがる」の意味項目<6>「状 態・程度が変化し、数値が大きくなる」、「みる」の意味 項目<1>「鑑賞する」の使用率もかなり高い。その産 出文には「値段があがる」(价格上涨)、「気温があがる」

(气温上升)、「テレビをみる」(看电视)、「映画をみる」(看 电影)など、学習者の母語と対応する用法が多く見られ る。使用頻度が高く、母語と対応する語義を産出しやす いことは理解できるが、JFL学習者は「あがる」の意味 項目<6>の使用率(30%)が中心義である意味項目<

(6)

0>(18%)よりもかなり高い点は興味深い。JFL学習 者は母語話者のような自然習得が行われにくく、教室環 境での学習となるのが普通であるため、教科書の影響が 考えられる。今回の調査対象者であるJFL学習者の使用 している教科書はB大学が作成したもので、それを調べ たところ、第二冊の第十課で初めて「あがる」が単語リ ストに加えられていた。また、自他動詞の判別を説明す るため、補充単語として、「値段が上がる」という文が 挙げられている。全四冊において、それ以降単語リスト において「あがる」の提示はなく、他の語義の学習は教 師の指導によると推測される。このように、教科書で「あ がる」が扱われる時、特に意味項目<6>の用法が提示 されたのも産出率を高めた理由として考えられる。

次に、JSL学習者とJFL学習者の使用率をχ2検定し た結果、すべての項目において有意差は見られなかった。

しかし、学習者の両集団をそれぞれ母語話者と比較した 結果、「みる」の全項目において、有意差は見られなかっ たが、「あがる」に対して、<5b>、<8>、<2>

の三つの意味項目が1%水準で有意差を示した(表2に 示す)。

意味項目<5b>「完成する・終わる」、<8>「緊 張する」による産出例は「仕事があがる」、「人前であが る」のような文が挙げられる。学習者の使用率が低いの は、母語話者のように語義間の関連性を示す構造を持た ず、とくに中心義から離れた語義の用法をイメージし難 いためと推測される。それに対して、意味項目<2>の 使用率では、JFL学習者の方は母語話者より1%水準で 有意に高い。「あがる」の意味項目<2>「家・部屋な

表 2 「あがる」の使用率 使用

率順 意味 項目

「あがる」の使用率(%)

母語

話者 JSL 学習者 JFL 学習者 1 < 0 > 24 27 18 2 < 6 > 23 26 30 3 < 5b > 16 9 3(χ2=9.83**)

4 < 7 > 9 6 5

5 < 8 > 9 1(χ2=6.74**) 0(χ2=9.42**)

6 < 1a > 4 0 1

7 < 1 > 3 7 5

8 < 2 > 3 6 14(χ2=7.78**)

9 < 9a > 3 0 1

10 < 3 > 2 5 7

11 < 5 > 2 4 2

12 < 5c > 0 1 6

13 < 9 > 0 1 2

(**P < .01)

どに入る」は森山(2012a)によると、「日本の家・部屋 は床が高いので入るときに上にあがる」という関連付け で中心義からの拡張義である。松田(2000)によると、

学習者が持つ多義語に対する典型的概念は母語話者との 間にずれがある。そのため、松田(2000)に従い最初に 連想し使用する用例を調査協力者の典型概念であると考 え、「あがる」による最初の産出文を抽出し、母語話者 の産出率の高い順で図3に示す。

図3  「あがる」の典型概念

図3で示しているように、意味項目<0>、<6>、

<2>はすべて産出率の高いものがあるため、典型概念 を一つの意味項目に特定できないが、意味項目<2>

を典型的概念として捉えているのはJFL学習者のみであ る。先行研究ですでに検証された通り、中心義が習得さ れやすいため、JFL学習者による意味項目<2>の使用 率も高いわけである。ここから、多義語の典型的概念に おいて、JFL学習者は母語話者との間にずれがあるだけ でなく、JSL学習者とも異なることが分かる。

最後に、誤用の観点からみると、JSL、JFL学習者の 両集団において「本をみる」「医者をみる」のような産 出文が見られた。「みる」と対応する中国語は「看」で あり、これらの誤用が産出されたのは、中国語の「看书」

(本を読む)「看医生」(医者に見てもらう)の影響を受 けたものであると推測できる。学習者は中国語の語彙を そのまま日本語文に用い、母語による負の転移が窺える。

5.2受容

まず、学習者全体の傾向を母語話者の結果と比較する ため、調査協力者の答えを「自然である」(+2)、「ま あまあ自然である」(+1)、「あまり自然ではない」(-

1)、「不自然である」(-2)のように数値化し、母語 話者と学習者の平均を出した。その結果、母語話者の自 然予想項目の平均値は1.55であり、不自然予想項目は-

1.26である。それに対して、学習者の平均値は、自然予 想項目が0.79であり、不自然予想項目が-0.16である。

(7)

図4  母語話者と学習者の受容度平均

図4は自然予想項目と不自然予想項目を分けて、母語 話者と学習者の平均値をグラフ化したものである。理想 の期待値は、自然予想項目を全部「自然である」と選択 し、平均値が2になり、不自然予想項目をすべて「不自 然である」と選択し、平均値が-2である。ただし、実 際値では「まあまあ自然である」と「あまり自然ではな い」を選択する人が多ければ多いほど、平均値は0に近 づいてくる。従って、図4から母語話者は「自然である」

か「不自然である」とはっきり判断をした人が多いのに 対して、学習者は「まあまあ自然である」と「あまり自 然ではない」というような曖昧な答えを選択した人が多 いことがわかる。つまり、母語話者は自然な文と不自然 な文を明確に見分けているのに対して、学習者の判断は それほどはっきりしていないものである。学習者は特に 不自然予想項目において平均値が0に近かった。それは、

産出調査と同じように、学習者は第二言語を覚えていく 過程で独自の言語体系「中間言語」を形成するため、聞 いたことのない不自然な表現でも自分なりに意味の拡張 を行って受容の判断をしたためと推測できる。

また、すべての調査文による受容度を集計し、JSL学 習者とJFL学習者の結果をχ2検定した結果、4つの項 目で有意差が見られた。自然な文と不自然な文に分け、

表3にまとめる。

自然な調査文の三つにおいて、すべてJSL学習者の容 認度が有意に高い。フォローアップインタビューでは、

JFL学習者が38番の調査文を受容しない理由は「グラ フ」の意味がわからないという答えが多かった。未知の

表 3  受容度による JSL 学習者と JFL 学習者の有意差

番号 調査文 受容度 ()は%

JSL 学習者 JSL 学習者 χ2

自然

2 私は人前であがる性格だ。 20(67) 10(33) 6.67**

37 祖母の面倒をみる。 27(90) 19(63) 5.94*

38 グラフをみる。 29(97) 19(63) 10.42**

不自然 26 休みの日はよく小説をみる。 15(50) 5(17) 7.5**

(*P < .05、**P < .01)

語彙が調査文の理解に影響するため、学習者の受容度を 正確に説明できないと考え、この調査文を考察から除 く。2番の調査文「私は人前であがる性格だ」は、「あ がる」の意味は意味項目<8>「緊張する」と対応して いる。産出の調査では有意差がないのに対して、受容度 ではJSL学習者の方は有意に高い。つまり、同じ意味項 目の用法について、学習者は産出と受容の両面で異なる 習得状況を示している。学習者は自然な文を「自然」と 正しく判断しても、必ずそれが習得されたとは言えない ということが示唆された。また、37番の調査文につい て、JFL学習者の受容度が低いのは、「見たことがない」、

「意味がわからない」といった理由である。JFL学習者 はもっぱら「教室習得環境」での学習が普通であり、そ れぞれの単語の意味は知っていても、それを組み合わせ たフレーズは勉強したことがないため、意味を推測でき ず、不自然と判断した。それに対して、JSL学習者の方 は日本語母語話者との接触場面が多く、「自然習得環境

+教室習得環境」の混合環境で日本語を習得しているた め、自然な文の容認度が高くなったと考えられる。

不自然な調査文26番「休みの日はよく小説をみる」に ついて、JSL学習者の受容度はJFL学習者より有意に高 い。前述したように、このような誤用は母語の「看小说」

をそのまま日本語に適用したためである。JFL学習者が この調査文を「不自然」と判断できた理由をフォローアッ プインタビューで聞いたところ、「授業で教わった」と いう答えが多かった。つまり、JFL学習者は教室による 指導の影響を受けやすいのに対して、JSL学習者と母語 話者のような自然習得が行われやすい環境で学習しても 母語に影響される。こう見ると、母語による干渉はかな り根強いものであり、何かの指導が必要になるのではな いかと考えられる。

次に、母語話者とJSL学習者、JFL学習者のそれぞれ の間にχ2検定を行い、その結果を自然な文と不自然な 文に分けて考察を行う。まず、自然な文全34項目のうち、

JFL学習者は母語話者との間に有意差が見られたのは14 項目である。それに対して、JSL学習者は9項目であり、

かつそのうちの8項目はJFL学習者と重なっている。全

(8)

体の傾向から見ると、正用を正判断の面では、JSL学習 者の方が母語話者に近いと言えよう。

では、学習者の両集団において受容度がともに低い調 査文を表4にまとめる。まず、意味項目<1>と<1a

>で作られた調査文が学習者に受容されない理由をフォ ローアップインタビューで聞いたところ、「風呂から出 る」、「天ぷらができあがる」と言った方が自然であると いう回答があった。学習者は「風呂」と共起する動詞が「出 る」、「天ぷら」と共起する動詞が「できる」と思い込み、

「あがる」という新しいパターンに遭遇しても、語義を 理解できない。つまり、学習者は既存知識に頼りすぎる と、語の意味を狭めるため、多義語の語義理解の妨げに なると言えよう。ほかの調査文が受容されない理由に、

「見たことがない」「中国語に直訳できない」と言った答 えが多かった。産出調査と同じように、学習者の意味領 域は母語と目標言語で対応する語義に留まり、対応しな い語義への理解が不十分なため、受容しない傾向が観察 された。

最後に不自然な調査文による受容度を表5にまとめ、

考察する。六つの調査文の中で、JSL学習者と母語話者 表 4  学習者による受容度の低い調査文

番号 受容調査文 意味項目

2 私は人前であがる性格だ。 <8 >

「あがる」

4 社長候補に田中さんの名前

があがった。 <9a >

9 これから先生のお宅までお 迎えにあがります。 <4 > 11 風呂からあがる。 <1 > 12 天ぷらがあがる。 <1a > 23 料理の味をみる。 <2a >

「みる」

29 患者をみる。 <4a > 40 妹の勉強をみてやる。 <6 >

表 5  不自然な文による受容度

番号 調査文

「受容」と選択した割合 ( )は%

母語話者 JSL

学習者 χ2 JFL

学習者 χ2 5 雲があがらないため、飛行機が飛べない。 4(13) 13(43) 6.65** 13(43) 6.65**

10 船にあがる。 12(40) 17(57) 1.67 22(73) 6.79**

15 年があがると静かなところに住みたい。 2(7) 20(67) 23.25** 16(53) 15.56**

26 休みの日はよく小説をみる。 5(17) 15(50) 7.5** 5(17) 0 30 お父さんは今年50 歳をみる。 0 6(20) 6.67** 5(17) 5.45 36 病気ならお医者さんをみたほうがいい。 4(13) 21(70) 19.82** 17(57) 12.38**

(**P < .01)

の間に有意差が見られたのは五つであり、JFL学習者は 四つの文に有意差が検証された。六つの調査文の中で も、10番の「船にあがる」(上船)、15番の「年があが る」(上年纪)、26番の「小説をみる」(看小说)、36番の

「医者をみる」(看医生)の四つは中国語に直訳して自然 である。母語話者は日常経験から自然に語彙の意味知識 を習得するようになるが、学習者はこのような内在化が 自然に行われにくく、既に形成された母語の知識に影響 を受ける。そのため、学習者は目標言語で不自然な文を 自然と判断した。産出調査で見られた「本をみる」(看 书)のような誤用と同じように、学習者は母語の影響を 受けると同時に、第二言語を習得していく過程において 目標言語に関する知識が不完全であるため、母語知識を 頼りにする傾向が見られた。また、5番の「雲があがら ない」と3番の「50歳をみる」のような母語話者が強く 違和感を覚えた調査文に対して、学習者の受容度が有意 に高かった。特に問題5の受容率はJSL学習者とJFL学 習者ともに43%で、半数近くが受容している。おそらく、

学習者は「雨があがる」と同じ用法で自然と判断を下し たためだと推測される。前節で述べたように、見たこと のない間違った表現だとしても、学習者はその段階で自 分が持っている語彙知識(中間言語)から自分なりに判 断するためである。

6. まとめ

本研究は中国語を母語とする日本語学習者を対象に、

「あがる」「みる」を取り上げ、産出と受容の両面から日 本語の多義動詞の習得状況を調査した。さらに、学習者 をJSLとJFLに分けて、両者の相違点について考察を行っ た。

産出の調査では、中心義が習得されやすいことを追認 したうえ、JFL学習者の典型概念は母語話者との間にず れがあるだけでなく、JSL学習者のものとも異なること

(9)

を検証した。しかし、学習者の両集団に異なる典型概念 が形成された理由がまだ明らかではないため、更なる研 究が必要である。また、JFL学習者は教科書に影響され やすいこと、学習環境を問わず母語に影響されることが 観察された。それぞれの学習者に対して、何らかの形に よる指導が必要であるということが示唆された。

受容の調査では、同じように学習者の両集団において 母語の影響が見られたが、正用を正判断の面から見ると、

JSL学習者はJFL学習者より母語話者に近い認識を持っ ていることが分かった。しかし、JSL学習者はどのよう な学習法を使っているか、どのような学習法が有効なの かについてはまだ明らかではない。また、同じ語義に対 して、二つの調査で異なる結果が出たため、有効な学習 法があれば、産出と受容において同じ効果が期待できる かについては今後の課題にしたい。

注      

1 メタファーとは、「2 つの事物・概念の何らかの類似 性に基づき、一方の事物・概念を表す語で、他方の事物・

概念を表す」比喩であり、隠喩とも言われている。メト ニミーとは、「2 つの物事の外界における隣接性」によ る換喩である。シネクドキとは、提喩とも言い、「上位 語(類)で下位語(類)の意味を表す、あるいは逆に下 位語で上位語の意味を表す」。(町田・籾山 1995)

2 学習者の母語が第二言語習得の過程において何らかの 影響を与えることを言語転移と言う。言語転移がプラス に働く場合を「正の転移」、マイナスに働く場合を「負 の転移」と呼ぶ。(迫田 2002, p. 29)

3 KY コーパスとは、日本語学習者 90 人の OPI (Oral Proficiency Interview)発話テープを文字化した言語資 料であり、平成 8 年度から平成 10 年度にかけて行なわ れた科研プロジェクト「第 2 言語としての日本語の習得 に関する総合研究」の成果の一部である。KとYは、コー パ ス 作 成 の 担 当 者 と な っ た 鎌 田(Kamada) と 山 内

(Yamauchi)の頭文字である。

中国の北京にある外国語学科を中心とする大学である。

5日本の福岡県にある国立大学である。

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資料

【産出調査】:以下の語彙(もしくはその活用形)を使っ て、思いつく例文を書いて下さい。(例文の数は特に制 限がなく、思いついたものをなるべく書いてください。)

1.あがる

                                                                        2.みる

                                               

                       

【受容調査】:次の文を読んで、どの程度に当てはまるか を、お選びください。

 4      3      2      1

1庭から部屋へあがる。

 4      3      2      1 2私は人前であがる性格だ。

 4      3      2      1 3舞台にあがる。

 4      3      2      1 4社長候補に田中さんの名前があがった。

 4      3      2      1 5雲があがらないため、飛行機が飛べない。

 4      3      2      1 6悲鳴があがる。

 4      3      2      1 7大きな成果があがる。

 4      3      2      1 8空に花火があがる。

 4      3      2      1 9これから先生のお宅までお迎えにあがります。

 4      3      2      1 10 船にあがる。

 4      3      2      1 11 風呂からあがる。

 4      3      2      1 12 天ぷらがあがる。

 4      3      2      1 13 本の原稿があがる。

 4      3      2      1 14 今日は 4 時に仕事があがった。

 4      3      2      1 15 年があがると静かなところに住みたい。

 4      3      2      1 16 反対の声があがる。

 4      3      2      1 17 雨があがって晴れ間が出る。(晴れ間:短暂晴天)

 4      3      2      1 18 この成績では 2 年にあがれない。

 4      3      2      1 自然である まあまあ

自然である

あまり自然で はない

 自然ではない

(11)

19 テンションがあがる。(テンション:不安,紧张)

 4      3      2      1 20 株価が一気にあがった。

 4      3      2      1 21 プールからあがる。(プール:游泳池)

 4      3      2      1 22 殺人の証拠があがってきた。

 4      3      2      1 23 料理の味をみる。

 4      3      2      1 24 ものをみる目がない。

 4      3      2      1 25 手相で将来をみてもらう。

 4      3      2      1 26 休みの日はよく小説をみる。

 4      3      2      1 27 お風呂の湯加減をみる。(湯加減:洗澡水的温度)

 4      3      2      1 28 結論をみることはないと思われた。

 4      3      2      1 29 患者をみる。

 4      3      2      1 30 お父さんは今年 50 歳をみる。

 4      3      2      1 31 お金の貸し借りで痛い目をみたことがある。

 4      3      2      1 32 映画をみる。

 4      3      2      1 33 努力がみられる。

 4      3      2      1 34 問題の解決をみることはないだろう。

 4      3      2      1 35 カードで運勢をみる。

 4      3      2      1 36 病気ならお医者さんをみたほうがいい。

 4      3      2      1 37 祖母の面倒をみる。(面倒:照顾,照料)

 4      3      2      1 38 グラフをみる。

 4      3      2      1 39 こちらをみてください。

 4      3      2      1 40 妹の勉強をみてやる。

 4      3      2      1

(12)

Acquisition of the Japanese Verbs “agaru” and “miru”

by Chinese Learners in JSL and JFL Settings

Wang Jun

Abstract

Most of the polysemy acquisition studies have discussed the “prototypicality” of polysemous words which resulted in a general agreement that prototype meaning is mostly acquired by second language learners (Kellerman 1979; Shirai 1995; Kato 2005; Sumi 2015). Due to their lack of understanding of the association between word meanings, the acquisition of the extended meaning is poor. However, no studies have ever tried to consider the effect of learning environment. Therefore, this paper aims to investigate the acquisition of the meanings of the Japanese verbs “agaru” and “miru” by Chinese learners in JSL and JFL settings. Two investigations were carried out regarding output and acceptance. To compare JSL and JFL learners, an χ 2 test was conducted. The results of the output survey confirmed the prototype theory, but also showed that the prototypical conception of “agaru” by JSL learners is different from JFL learners, which is closer to Japanese native speakers. The results of the acceptance survey also indicated that the comprehension of JSL learners is closer to that of Japanese native speakers than that of JFL learners.

In addition, the misapplications of two surveys observed that “L1 transfer” shows in both JSL and JFL settings, which signified that some form of guidance is needed. This study also suggests that JSL learners might have a more effective way of learning polysemous words than JFL learners. Further research is necessary to develop better polysemy learning and teaching methods to improve the acquisition of polysemy by second language learners.

参照

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