著者 三原 信子
雑誌名 東京家政大学博物館紀要
巻 16
ページ 163‑184
発行年 2011‑02
出版者 東京家政大学博物館
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010329/
Consideration about the Tsurushikazari ornament Practical Guide
Nobuko M
ihara 三原 信子つるし飾りについての考察
実践編
はじめに
日本人ほど世界で手先の器用な人種はいないとされていたが、昨今その誉め言葉も返上せねばな らない程日本の手工芸に関する手作業は衰退してきている。
世界的には小さな布端をはぎ合わせて美しい模様を縫い上げる「パッチワーク」の手芸も盛んであ る。かって、日本にもそれに並ぶほどの布細工があった。着物地の端切れで花や動物などを作る和 細工と呼ばれる「技」であった。ひとつひとつの和細工を一本の紐に吊るして「つるし飾り」と し、日本の季節や歳時に合わせて飾り付けられた手芸品である。
前回は、これらの歴史や今後の動向について調査・考察をした(東京家政大学博物館紀要 第 14集 p.133〜149(2009)「つるし飾りについての考察」―雛のつるし飾りの復活と今後―)。
今回は、雛飾りのみならず、つるし飾り全般の日本の季節や歳時との関係を考察する。実際の製作 方法・構成(飾り方)・保存の仕方などを習得し、誰もが「つるし飾り」と触れ合うことができる 実践編とする。
「つるし飾り」として復活する一役をになった日本三大つるし飾り
生涯学習センター
写真1 山形県・酒田市・傘福
(本間家所蔵品)
写真2 静岡県稲取町 つるし飾り
「なぶらとと」展示品
写真3 福岡県柳川市 さげもん 白秋記念館展示品
Ⅰ.つるし飾りの題材について
つるし飾りといえば、山形の酒田市・伊豆の稲取町・九州の柳川市が有名である。伝統の「雛の つるし飾り」として知られている。日本三大つるし飾りとして復活継承しつつある。つるし飾りの 代表であるこれらの題材を多用に応用して一年中楽しむことができるインテリアとして現在流行し ている。
ここではつるし飾りに応用される題材の多様化について考える。
題材となるものとして根底には日本独自の特性がある。それは世界的にもまれに見る季節の移り 変わりがある。季節変化を生活の中で楽しむ日本人独自の習性がある。一年の単位で「春夏秋冬」
の四季、一カ月単位で「月」の満ち欠け、一日の単位で「太陽」の昇沈による流れ、それぞれの自 然や時の変化を感じながら一年を過ごす。
このような日本の季節や歳時の変化を表現の題材として「つるし飾り」が創られている。大きく は一年を細かくは一カ月に区切っていくと題材は多く存在すると考えられる。これらを形にするこ とは古くから行事として現代に至るまで培われてきたものである。たとえば、お供えを飾る、人形 を飾る、季節の花を飾る、厄払いの品を飾るなどの四季折々の祭りや行事として存在し続けてい る。それは、季節の節目に現れる神を信じ、神への願いを託すものであり、厄除けの祈りを託すも のであり、無事を喜ぶ自然への感謝の気持ちの表現方法でもあった。その中で人は日々の生活に変 化と潤いを生じさせてきたのである。
しかし、近年物理面においても、機械文明化され、さらに季節の移り変わりを体感する機会も 減っている。月の光もネオンの光によりその鮮やかさが薄れ感動が減っている。精神面において も、血縁など家族や親族関係が崩壊しつつあり、行事が成り立たなくなってしまったのは残念であ る。では、その昔、行事がどのように区分されていたか簡単に説明する。本来、一年は 12 カ月で 構成されているが江戸時代国民の祭月は「五節供」とされていた。現代の祭日、祝日は当時と違い 記念日的に細分化されたものとして設定されている。
五節供 一月一日 一月七日
元旦
人日(じんじつ)
一月一日は元旦と重なるため七日に移動する。「七草」
と呼ばれ、正月にご馳走や酒を食した為胃や体を休め 整えるために七草粥を食すとされる「せり・なずな・
ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ」
春の七草を健康への願いこめて食す。
三月三日 上巳(じょうし) 古代中国より上巳節という催しがあり、後に日本へ伝わる。奈良時代 三の 日にお姫様達は身を清め厄除けするならわしがあった。身代わりとして「ひ とがた」に移し海や川に流した。
写真4 正月のお飾り(自作品)
以上が「五節供」の内容であるが月日が全て奇数であることがわかる。これは、中国の陰陽思想 では奇数が目出度い数字と考えられていたので奇数が重なる日を特別の祭日とした。偶数は割り切 れると考えられ良しとされずにいた。
「つるし飾り」などの吊るしの数も必ず奇数で構成されているのも以上の理由と同じである。
日本文化の基本として「和」というものがある。その和空間に美しく移りゆく季節の室礼を取り 入れ和心の形で表現することが日本の心を形で現す本来の姿であった。
近年残念ながら、このような表現をする機会も少なくなり、この五節供を含め日本の年間行事を 考える上で「つるし飾り」の題材がこれらに集約されていることに不思議を感じる。
実際に題材例を下記にあげる。
室町時代 立雛に紙の着物を着せ流す。元禄時代 座 り雛が現れ、流すというより飾り女児の成長を祝う行 事(雛祭り)へと変化していった。
五月五日 端午(たんご) 五月の一番初めの午の日であったが奇数の五が重なる 日は「重五」と言って縁起が良いとされ、しだいに五 月五日に定着した。武家社会では五月の花菖蒲が勝負 に通じるところからしだいに男の子の祭りとして定着 した。
七月七日 七夕(たなばた) 古代中国における牽牛と織姫の恋人同士の星祭伝説である。織姫にちなんだ 裁縫や琴などの上達を願ったり、牽牛にちなんだ豊作を願うなどの祭りである。
九月九日 重陽(ちょうよう) 中国の陰陽思想では九は最高の数字とされる永久の 久という意味もある。九月九日は目出度さが極まっ た重陽の節供としてもっとも尊ばれる。江戸時代の 初め頃、関西では 9 月 9 日の重陽節句にもう一度雛 を飾る風習があった。3 月 3 日に対して「後の雛」
と言われている。
一月(元旦・七草)を題材 羽子板、はね、コマ、たい、松
三月(雛祭り)を題材 うさぎ、もも、這い子、裁縫道具、とうがらし 五月(端午)を題材 兜、菖蒲の花、はね駒、こいのぼり
七月(七夕)を題材 短冊、星、竹、織姫、ひこぼし 九月(重陽)を題材 菊の花、もみじ、うさぎ、月、柿
写真5 雛飾り(自作品)
写真6 端午の節句祭り(自作品)
写真7 重陽の節供(自作品)
<五節供を題材とした例> 表1
上記の(表 1、2)は題材例の一例である。いわゆる近年のインテリアとしての「つるし飾り」
であっても五節供の行事や季節を題材としたものが多いということが理解できる。
四季やそれに伴う歳時を楽しむ日本人独自の事である。行事自体は忘れ去られたり、実際に家庭 で実施されることも少なくなった中でささやかなりとも、その自然の変化を存続させ現在の生活の 中で取り込みやすい「インテリア」の一部として活用し、現代なりの楽しみ方に変化したといえ る。どのような形であれ、古いならわしが存続することは好ましいと考えるべきである。
年間の行事にも少しづつ変化が現れている。生活が西洋化する中で日本人が最もしつらえる季節と 歳時が 1.お正月、2.クリスマス、3.雛の節供・端午の節供、4.七夕、5.お月見 となる。
さらに最近ではクリスマス同様、西洋物としてハロイン(10 月 西洋のお盆)なども導入されつ つある。このような日本の歳時にも西洋の風習などが取り入れられる変化が生じている。どちらに しても飾る事により移りゆく「時」の流れを楽しむゆとりが今の日本人には必要と考える。
細工物のモデル
子供の玩具が基本となって個々の細工物の図案が作られていることも多い。下記は一例である。
これ以外は現存する生活用品や花・動物などをモデルとしている。(写真8〜13)
2 〜 4 月(春) 春の花、春の行事(雛祭り、入学卒業、桜見学、節分)
5 〜 8 月(夏) 夏の花、夏の行事(夏祭り、花火、海川遊び)
9 〜 11 月(秋) 秋の花、秋の行事(実のなる食べ物、月見、七五三)
12 〜 1 月(冬) 冬の花、冬の行事(お正月、七草、クリスマス)
<季節を題材とした例> 表2
写真9 玩具 姫だるま(所有品)
写真8 玩具 犬張子(所有品) 写真10 玩具 いずめっ子(所有品)
写真11 細工物(自作品) 写真12 細工物(自作品) 写真13 細工物(自作品)
↓ ↓ ↓
Ⅱ.実践する上での留意点 1.図案の考案
(1)対象目的に合わせた題材を考える 目的とする事柄を絞る
例.雛飾りを製作する
(2)対象者に合わせた題材を考える 例.孫娘
(3)日本の歳時期(季節と時期)に合わせた題材を考える 例.三月、春、祝い事
※ 雛のつるし飾りの場合、吊る細工物の基本は三角・桃の実・さる子の三点である。(写真 14・
15・16)この他に厄払いとしてのうさぎ・とうがらし・縁起物としてふくろう・三番叟。子の成 長を願う這い子・ぞうり 幸せな結婚を願う二股大根・など60種類ほど確認されている。
※ 着物の端切れを利用して縫い合わせ、中に綿を詰めて製作する立体的な構成のぬいぐるみ式の物 や平らな台紙の型を使用する平面構成の押絵式の物がある。今回は一般的なぬいぐるみ式の物を 取り上げる。(写真17・18)
写真14 三角(自作品) 写真15 ももの実(自作品) 写真16 さる子(自作品)
基本形 3 点
写真17 ぬいぐるみ式おかざり
三番叟(自作品) 写真18 押絵式おかざり
(所有品)
2.型紙の作成
・基本の三点(三角・ももの実・さる子)は型紙が無くても作れるものであり本来そのようなもの が原型であった(写真 19・20・21)。時代とともにさまざまな形が工夫され増えていったと考え られる。現在のようにデザイン的にもオリジナリティのある細工物も出現し、立体的で複雑な型 紙を用するものも出てくる。
・基本の三点はすべて長方形・正方形の型紙で作成できる単純なものである。(さる子の顔は丸形)
・古い物に関しては型紙が残っていないため実際の物を分解して型紙を再生し、新たに継承してい る。さらに実物も残っていないため型紙を再生するのは困難な作業であったと考える。子の成長 に伴い、焼却してしまうために残っていない。
3.布地の選択
<細工物に適する布地>
縮緬: 絹の細やかな「しぼ」と呼ばれる表面の凸凹が特徴の絹織物である。独特の光沢と風合いが ある。細工物には最適な布である。「しぼ」の大きさにより、大・中・小の種類に分けられ る。明治・大正時代の縮緬は糸の撚りが甘くしぼが小さく色鮮やかある。(写真22)
昭和になると糸の撚りが強くしぼが大きく硬い感じとなる。(写真23・24)
錦 紗 縮 緬→ 糸が細く軽く「しぼ」が細かいのが特徴。全体に光沢があり、滑らかな手ざわ りである。
絞綸子縮緬→ 綾織りの表と裏を使って柄を表現している。表面に光沢がありしなやかな手ざ わりが特徴。
絽 縮 緬→薄く透き通った縮緬。糸の使い方や織り方により多くの種類がある。
型紙とキット
写真19 三角 写真20 ももの実 写真21 さる子
写真22 江戸縮緬 写真23 縮緬 写真24 縮緬
羽二重: 平織りの布地。通常の平織が緯糸と同じ太さの経糸一本で織るのに対して、経糸を細い二 本にして織るため軟らかく、軽く、光沢のある日本を代表する絹織物である。(写真 25)
紅 絹: 絹織物の一種。真赤に無地染めにした薄地の平絹のことをいう。ウコンで下染めしたもの を紅花で上染めして仕上げる。花をもんで染めるところから「もみ」と名がつく。(写真 26)
鹿子絞り: 絞り染めの中で鹿の子絞りをほどこした布地。総絞りにした模様が小鹿のまだらに似て いるところからこの名で呼ばれる絞り染めである。(写真27)
繻 子: 布面が柔らかく光沢のあるサテン地である。
金襴布: 金糸・銀糸を使用し、四季折々の花鳥風月を豪華に織り込んだもので、香袋や宝袋・着物 や帯の細工物に使用する。(写真28)
紬 : 糸の状態で染めてから反物に織る先染めの織物。地味で渋い色合いを選択出来るので秋の 物や動物など素朴な表現に適している。絣なども同様である。(写真29・30)
写真25 羽二重 写真26 紅絹 写真27 鹿の子
写真28 金襴布 写真29 大島紬 写真30 絣
写真31 絽・絞り染め布 写真32 バティック(インドネシア)
生地は時代や家庭により異なるもので、江戸時代などは庶民の家より発祥したことから木綿やメ リンスなどを使用していた。そのうち武家社会でも裁縫の手習いの教材としての「和細工」として 正絹なども使用された。近年では着物地の端切れなどを使用しているが、洋装の時代でもあり手に 入りにくいので、身近な小物品(風呂敷・手ぬぐい・帯揚げ)などを利用することも多い。骨董市 などで古布を見つける機会も多く、婦人の姿も最近多く見かける。また、布地の種類も増え手に入 りやすい化繊(ポリエステル・ナイロン)などを利用することもある。このときの注意点であるが ポリエステルは色鮮やかで使いやすいがレーヨンは熱処理も難しく伸びたり溶けたりするので扱い にくい。わたも木綿やポリエステルは使いやすいが、ナイロン綿は滑りやすく細かい部分まで入ら ずわたが逃げてしまう。絹布で作られる細工物は落ち着いた色合いで品があるが保存が難しい。化 繊布で作られる細工物は鮮やかな色合いで保存がしやすい。どちらを選択するかは好みによるとこ ろである。
4.道具とその他の材料
<道具>
縫製用の道具:糸・針・糸通し・指ぬき・紐通し
裁断用の道具: 裁ちばさみ(布用)・握りばさみ(切込み用)・糸切りばさみ(糸切用)・ピキング ばさみ(ほつれ止め用)・花ばさみ(紙切り用)・特殊カッター(写真34)・ペンチ ※ 鉗子:細部を表に返す。細部までわたを入れるなどの細部作業には必須道具であ
る。(写真33)
写し(書く)ための道具: ものさし・雲型定規(曲線用)・サークル定規(円用)・チャコペン・コ ンパス・油性カラーペン(人形の顔用)・顔料(人形の顔用)・ポスタカ ラー
装飾のための道具: リボン・リリヤン・フェルト・ワイヤー・ビーズ・鈴・刺し目・打ち紐(織り 紐・撚り紐・縮み紐・組み紐)(写真36・37)
その他の道具: ピンセット・リーパー・千枚通し・目打ち・両面テープ・フローラテープ・接着剤 アイロン(蒸気アイロン・小型アイロン・コテ)アイロン台(押しゴテ用の小型 台)
<材料>
(1)針と糸
・材質別
布の材質・厚さなどによって絹針・木綿針などを使い分ける。その他にも羽二重用・ビーズ用・
刺繍用・まち針・布団針・などを使用する。
絹縮緬を縫うときには、絹手縫い糸と絹針を使用する。
木綿縮緬を縫うときは、木綿の手縫い糸と木綿針を使用する。
化繊縮緬を縫うときは、ポリエステル糸と木綿針の細いものを使用する。
糸の太さは薄布の場合は60〜80番、厚地の場合は50〜60番を使用。糸は絹糸・木綿 糸・化繊糸の他に金糸・銀糸・刺繍糸・毛糸などを使用する。
・使用部位別
普通は絹の手縫い糸を使用するが細かい部分にはミシン用の羽二重糸も使用する。
顔や髪には木綿糸や髪専用の人形用の糸を使用する。他にしっかり縫い止めるための穴糸なども 使用する。
(2)手芸綿(わた)
<綿の種類>
綿
ポリエステル綿:手芸用として販売され一般的である。
ナイロン綿 : 手芸用として販売されている。表面が滑るので細部まで入らず綿が逃げてし まう。
木綿わた : 自然素材としては良いが日が経つと綿の厚みがなくなり湿気を吸収重くな る。平面な作品には向いている。
キルト芯 : わたの代用として使用する。板状の平面的な状態のもであり、厚みをもたせ る部位などに使用する。(写真35)
(3)接着芯
接着芯とは、接着剤を付けた芯地であり、不織布しん、織物しん、編物しんなどがある。
伸びやすい縮緬にはニット用の接着芯を貼り布の補強や型崩れを防ぐ。白地の布へ接着芯を貼ると 印付けや布地の裁断に便利である。絹布には薄い薄地用の接着芯がある。それぞれの布地に合わせ 接着芯を選ぶ。
写真33 左より フローラテープ、
糸切はさみ、握りはさみ、鉗子、
電気ゴテ
写真34 特殊カッター
5.製作上の基礎知識 (1)型紙の作り方
A.カーボン紙を使い実物大型紙を厚紙に写す方法
B.実物大型紙の上にトレーシングペーパーを置いてなぞる方法 C.実物大型紙をコピーして厚紙に貼ってカットして使用する方法
以上の方法があるが B・C の方法が誤差が少なく一般的である。型紙は実物大のもの(出来上 がり寸法のもの)の他に縫い代(0.3〜1.0㎝)を含めた断ち切り寸法の物を作っておくと、布の 裁断の時に手間がかからない。(図1)
(2)基礎縫い
縫い方としては手縫いとミシン縫いがある。商品として大量に必要な既製のつるし飾りなどは ミシン縫いで作られているものが多い。個人作品のほとんどは手間のかかる手縫いが多い。絹 物作品は必ず手縫いが適している。手縫いの場合は縫い目が柔らかく仕上がるが、ミシン縫い の場合は縫い目が固く仕上がる。以上の事から手縫い製作が望ましい。下記は細工物に使用さ れる主な手縫いの手法と適する部分について示している。
図1 写真35 わた類
右上 綿わた、ナイロンわた、
ポリエステルわた 下 キルト芯
写真36 右上 ひご、絹髪、木めん 下 スチロール大小
写真37 ひも類、わく
<なみ縫い>
・0.4㎝位の等間隔で針を運ばせて縫う(図2)
・布を縫い合わせる時や縫い絞る時に使用する基本縫い
<半返し縫い>
・ 一針すくいその半分位後戻りをしてまた表に一針先に出して繰り返し ていく縫い方。(図3)
・カーブなど丈夫にしたい部分に使用する。
<本返し縫い>
・一針すくい後戻りして元の針先に針を通し、また表に一針先に出して 繰り返していく縫い方。
・綿を沢山入れるなど、かなり丈夫にしたい場合に使用する。(図4)
<本ぐけ縫い>
・双方の折山の0.2㎝内側を0.5㎝位の等間隔でくけ合わせる。折山の中 を糸がコの字形に通り縫い合わさるのできれいに仕上がる。(図5)
・2 枚の布を表より縫い合わせる返し口や綿入れ口を閉じるのに使用す る。
<まつり縫い>
・布地の織り糸を一本すくうように表に糸をほとんど出さないようにす る縫い方。まつりの縫い目が斜めになるのが斜めまつりで裾や袖口な どの折り返し部分に使用する。(図6)
・手足を目出たせずに縫い目をたてにしてしっかり止めるたてまつりで 人形や動物の手・足・首などのしっかり縫いつける部分に使用する。
(図7)
<玉結び>
・縫い始める前に糸が抜けないように指先で糸節をつくる。
<玉どめ>
・縫い終わりに糸が抜けないように針と糸を使い糸節をつくる。
図5 図2
図3
図4
図6
図7
<四つどめ>
・表裏前後4枚の布を一度に止める方法。
・つき合わせにする部分の布が開いては困るところで4枚の布を一針往復させてしっかり止める。
・袖口・花弁同志がつき合う角や口べりの端などに使用する。
を入れ、こてで形を整える。(図11)
大きな丸の時は厚紙で丸型を作り、本縫い線の外側を2本縫い縮め丸型を当てて、こてで形を整 える。
(3)基本手法 1)布目を通す
布目処理に対しては次のような項目がある。
・地直し:布地のたて糸よこ糸の方向を正し耳糸のつれをなくす。
・地結め:縫製工程または着用中に布が収縮しないように布を元の伸びていない状況に戻す。
・地のし:地直し・地結めの目的で行う作業
<星どめ>
・表面に糸をあまり表さないで 2 枚または数枚の布地を動かさないよ うにする縫い方。(図8)
・一度縫い合わせたものの上から抑えたりする時に使用する。
<千鳥ぐけ>
・布を二つ折りにして左上から斜めに右下、右上と糸を交差させて布 端を抑える方法。(図9)
・布端を押さえたり、飾り縫いとして使用。
<角の縫い方>
・表に返した時にきれいに角を出す方法として角の頂点の部分を一針
(0.3 〜0.5㎝)分目飛ばしをして、角のところの糸は少したるませ ておく。布の厚さにより一針の長さは異なるが左右から※キセをか け、こてでしっかりと角を整える。(図10)
※ きせとは仕上がり線と縫い目の間に間隔を置いて縫い、仕上がり線 を折山とすること。
<丸の縫い方>
・小さな丸の時は細かく少しつり気味に縫う。その後、周囲に切込み
図8
図9
図10
図11
布目を通す以上の工程を行うことにより作品の仕上がりを良くしたり型くずれを防ぐことにつな がる。
2)アイロンの加減
・縮緬の絞りの「しぼ」をつぶさないように布を当てて押さえるようにアイロンをかける。
・接着芯は温度に注意して、接着剤のついている側を本布の裏に布を押さえるようにしてアイロ ンをかける。接着されたことを確認したら、一方方向にアイロンをかけて仕上げる。
3)縫い代
・布の厚さや作る物の大きさなどにより加減する。
・薄地の場合は0.3㎝、その他は0.5㎝、大きなものは0.8〜1.0㎝を目安にする。
4)縫い始めと終わり ・必ず一針返し針をする。
すくい返し留め:すくい留めをしてから縫い返す。
すくい留め : 縫い終わりを小さく一針すくって、その糸の輪に針を入れて針を抜いて引き しめる。
返し留め :縫い終わりを縫い目に沿って3㎝位縫い返す。
5)綿の入れ方
・綿の入れ方や量は、作品の部分によって違う。
・細い部分はピンセットや竹ぐしに綿を巻き付け先端まで回しながら入れる。
・顔や頭は表面がデコボコしないようにきれいに丸めて形にしてから入れる。
6)顔の作り方
・ 顔を描く方法としては、ポスターカラーやアクリル絵具・墨・油性などのカラーマーカーなど を使用する方法と裏打ちした布やフェルトを口・目の形に切って貼りつける方法。糸で刺して いく方法。市販の目などを使用する方法などがある。
・ 表情は大事であり、大人と子供の差は目線の位置を上下することにより変化させる。目の間隔 も左右に移動することにより年齢幅を広げることができ
る。年齢が小さくなるほど目の位置は下げ、左右に広げる と童顔になる。(図 12)さらに目や口の形の変化により眠 い顔・うれしい顔・泣顔と変化する。作者の顔に似るとも よく言われる。顔の完成と共に魂が入る。楽しみであり、
緊張する作業である。
図12
(4)その他の手法
基礎の縫い以外にも飾りや目・鼻・口などの表情を表現するために刺繍や飾りひもなどを利用す る。以下は細工物で主に使用する刺繍や飾りひもの種類である。
1)基礎刺繍
・ ランニング・ステッチ:基礎縫いのなみ縫いと同様の技法。葉脈や花芯を表現するのに利用す る。(図13)
・ バック・ステッチ:基礎縫いの半返し縫い同様の技法。しっかりした線などを表現できる。
(図14)
・ アウトライン・ステッチ:返し縫いの角度に変化をもたせたもので模様の輪郭や曲線を美しく 表現できる。(図15)
・ チェーン・ステッチ:太目の線や面を刺し埋めるのに便利。飾りや目や口を表現するのに利 用。(図16)
・ コーチング・ステッチ:線を表すにも、面を埋めるにも利用できる。(図17)
・ ブランケット・ステッチ:基礎縫いのボタンホールと同様の技法。厚地の布地を縫い合わせた り縁飾りに利用する。(図18)
・ フレンチナッツ・ステッチ:基礎縫いの玉どめとと同様の技法。花の芯、つぼみなどの表現に 利用する。(図19)
図13 図14 図15
図16 図17 図18
図19
2)飾りひも
飾りひも結びとは、和裁では,被布などに付ける留め具の結び方をいう。細工物では飾りとして 使用することが多い。下記は代表的な結びの種類である。(写真38・39)
(5)製作の手順
図案にもとずく型紙の製作 ↓
必要な材料をそろえる(布地、接着芯、糸、針、製作するための道具など)
↓
本体布(縮緬)を接着芯で裏打ちする ↓
本体布に型紙を写す ↓
縫い代を加えて布を裁断する ↓
本縫い作業に入る(各部分における適する縫製手法で行う)
※Ⅲ実践編にて作業行程を記す
Ⅲ.実践編 1.実践例
実践例としては、型紙を使用せず誰でも簡単に作れ、細工物の中には必要とされている古くから ある三点を取り上げる。
(1)ももの製作例(図20)
(2)三角の製作例(図21)
(3)さる子の製作例(図22)
※ 製作方法は東京家政大学生涯学習の講座「和細工で作るつるし飾り」のテキストを記載する。
写真38
※用途、ひも、飾り
写真39 用途 飾り、留め具
図20
図21
いずれも実践する上での留意点を配慮した上で製作する。下記は東京家政大学生涯学習における
「和細工で作るつるし飾り」の受講生の製作風景(写真 40・41・42)と製作作品(写真 43・44)である。
図22
写真40 写真41 写真42
写真43 受講生作品 写真44 受講生作品 受講生製作風景
参考までに受講生によるアンケートより
・必ず製作したい作品 :1.うさぎ 2.さる子 3.ねずみ
・難度が高いが製作したい作品 :1.這い子 2.犬張子 3.着物 4.文化人形 ・製作後、小品作品として飾っている :1.ほうずき 2.金魚 3.柿
<実践に基づく製作上の留意点>
・細工物が何であるか一目で分かるように製作品の特徴的なポイントをしっかりと表現した作品に する。
・角・丸みなどしっかり出して製作する。この細かい点が作品の特徴表現にかかわることが大きい。
・細工物の中に季節感を持たないものもあるので、数量を必要とする場合は利用する。
・細工物のまとめ方により印象の違う作品表現が出来るので構成する上で考慮をする。
2.構成例
個々の細工物は単独で飾る場合もあるが、複数を紐などでまとめて構成して飾る場合が多い。
単 独 の 場 合:竹かごや器などに入れて季節を疑似的に楽しむ。
複数構成の場合: 赤色の糸や紐に間隔を置いて奇数個数の細工物を縫い止める。これを 3 〜5 本
(奇数)用意して竹の輪や金の輪にバランスを考えて吊るす。細工物を糸に止め つける時の順序に決まりはない。季節や飾る目的を考え、種類や色合い、大きさ のバランスを考慮する。(写真45・46)
(1)雛のつるし飾り
・一本に7〜12個の細工物を縫い止める。
・一組に 30〜60 個の細工物を縫い止め、これを二組で一対として飾るので細工物は 60 〜120 個必 要となる。そのため、一人で細工物を作るのは難しく複数の女性の協力がなければ仕上げること はできない。
・雛飾りの場合、子供の誕生から初節句までの期間にもよるが、親戚や近所の女性の協力が必要と なる。
写真45 紐 写真46 つり輪
(2)しつらえ飾り
現代は日本間のある家も少ない。マンションや洋風の家づくりの中でインテリアとして応用的な 飾り方を楽しむ場合が多くなってきている。正式な決まり事やルールはなく、飾る過程や鑑賞する ことを楽しむことを目的としている。下記はその一例をあげている。(写真47〜55)
写真47 輪飾り(自作品) 写真48 傘飾り(自作品) 写真49 一本飾り(自作品)
写真50 雛祭り(自作品) 写真51 お正月(自作品) 写真52 クリスマス(自作品)
写真53 伊豆稲取の「雛のつるし飾り」
雛の館
11個×5本=55個 2組で一対
写真54 源平のつるし飾り(赤)
鎌倉古陶美術館所蔵品
写真55 源平のつるし飾り(白)
鎌倉古陶美術館所蔵品
いずれの場合も用途や目的に合わせ飾り方を選択する。こうしなければならないということはな いが一定のルール(季節感・歳時)などに合わせてポイントを絞り個人の心もちを飾る。
3.保存例
・保存の仕方は、つるし飾りの場合、細工物は紐から外し形を崩さないように片づけるのが望まし い。
・柔らかい筆や刷毛などで、個々にほこりを取り除く。筆は穂先を使い織目に沿ってほこりを払う ようにする。パーツごとの縫い合わせの部分は特にほこりがたまりやすいので注意する。
・人形の髪やふさの部分も折れたりしているので、形を整えて薄葉紙に包んでしまう。(写真56 〜 59・図23)
・輪金やかごもつぶれないように(梱包材)で包んでしまう。(写真60)
※ セロテープやホッチキス・輪ゴムなどは使用しない。防虫剤(和人形用)や防湿剤を収納箱に入 れる。
◎使用するときは、用途に合わせた細工物を新たに紐に吊るして形に仕上げていく。
まとめ
前回の紀要(東京家政大学博物館紀要 第 14 集 「つるし飾りについての考察」―雛のつるし飾 りの復活と今後― p.133〜149(2009))では日本三大「つるし飾り」について、日本伝統手工芸品 の発祥地の歴史を含め、その復活と今後の動向を調査し日本独自のものとして海外へ発信させてい くことを期待した。昨年「第二回日本三大つるし飾りサミット」(2009.3.21)が福岡県の柳川市で
写真56 包み方① 写真57 包み方② 写真58 包み方③
図23 ふさの包み方 写真59 細工物 整理 写真60 金物の整理
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開催された。柳川・稲取・酒田が一同にかえし、三都市にて今後の活動内容や協力態勢についての 話し合いや講演が行われた。その講演記録が柳川市観光課担当者より送られてきたので共同宣言の みを記す。(ちなみに第一回日本つるし飾りサミットは稲取にて2008.3に開催された)
「第二回日本三大つるし飾りサミット in 柳川共同宣言」
私達はわが地域の伝統文化である傘福・雛のつるし飾り・さげもんの歴史的文化的背景を理解す るとともに独創的な文化が伝わる日本三大地域として広域に相互連帯を深め継続的に全国にそして 世界に情報発信し親から子へ、子から孫へ地域のきずなを守り育みながら貴重な観光資源としてさ らなる地域振興に活かしていくことを宣言します。(平成21年3月21日)
三者の心強い共同宣言により観光資源としてのみならず日本の伝統文化としての新たな存続への 期待も感じた。さらに、本来の細工物の持つ意味を理解し、日常生活の中で日本人一人一人が暮し の中で無意識に季節や歳時への心の表現として組み込まれて行き、潤いのある日本の生活を再確認 して欲しいと願う。人の手から生まれる日常品であり芸術品でもあると感じ繊細な手先と頭脳を持 つ日本人に生まれたことを誇りに思う。
日本人に脈々と受け継がれてゆく手先美人の DNA を日本人自身が再発見できる日がいつか来る と信じている。平安より始まり江戸・明治・大正時代の女性の手の技や知恵が見直され昭和を経て 平成へと継承されることを期待する。
今回は実践編の中で細工物の基礎となる三点を取り上げ、実際の製作方法を含め作業上の留意 点・構成上の留意点などを示した。この三点以外にも 60 種類以上の細工物が存在し、さらに現代 風の新しい感覚で新作品も生まれている。(写真 61・62)この基礎技法をもとに新作品にも自由な 発想のもとで挑戦してもらえることを期待する。
写真61 パッチワーク技法を使ってバラの 花びらを表現(自作品)
写真62 昭和初期に女児の抱人形として可 愛がられた文化人形を細工物に変 身させた(自作品)
山崎祐子著:「雛のつるし飾り」三弥井書店 2006年 136〜144頁
小林玖仁男著:「節季の室礼」 ―和のおもてなし― ㈱求龍堂 2006 年 6・7・14・18・42・78・
118・150・223頁
花房昌古著:「ちりめんのお細工物」文化出版局 1992年 6・7頁 水口婉子著:「伝承のちりめん細工」グラフ社 2004年 46頁
萩原玲子著:「つるし飾り・さがりもの」成美堂出版 2005年 10・24・36 津村フシミ・100〜104頁
藤田順子著:「お雛さまをたずねて」美術工芸8 2001年 150〜151頁
熊崎高道著:「アパレルソーイング用語集」㈱チャネラー 2005年 34・35・45・49〜53頁 雇用促進事業団:「服装手芸」㈱雇用問題研究会 1991年 2〜8頁
能力開発指導部
資料提供
酒田市 本間美術館パンフレット「傘福」写真使用 2005年
柳川市 「第2回日本三大つるし飾りサミット」講演記録使用 2009年
写真撮影協力場所
稲取市 なぶらとと展示場「つるし飾り」2004年 稲取市 雛の館 展示場「つるし飾り」2008年 柳川市 北原白秋記念館「つるし飾り」2006年 鎌倉市 鎌倉市古陶美術館「源平つるし飾り」2010年
板橋区 東京家政大学生涯学習センター開講教室(受講生)2009年 参考文献