開発途上国の対外直接投資と対日直接投資
~途上国企業の多国籍化と海外直接投資
平成 19 年3月
財団
法人 国際貿易投資研究所
まえがき
本報告書は開発途上国企業の多国籍化に関する調査研究をとりまとめたものである。
開発途上国の対外直接投資は世界全体の直接投資の約 12%を占め、決して大きいとはい えない。しかし、近年、途上国企業が力をつけ、海外直接投資は拡大傾向にあり、途上国 企業の多国籍化が進んでいる。親企業の本国からの投資に加え海外子会社からの投資も増 えている。
そこで、本報告書は、開発途上国からの対外直接投資動向を分析するとともに、事例と して対日投資を選びインド系企業と中国系企業の進出状況と対日投資を積極的に行なって いる背景を探ってみた。さらに、最近注目の石油・天然ガス企業の対外戦略の実例をベネ ズエラ国営石油会社を事例に選んでいる。
また、巻末には開発途上国からの対外投資の状況を示す直接投資統計データ等を収録し ている。
平成 19 年 3 月
財団法人 国際貿易投資研究所
目 次
まえがき
第1章 重要性増す開発途上国の対外投資
1.開発途上国の対外投資 ··· 2
(1)1990 年代後半から増加··· 2
(2)香港が最大の対外投資国・地域 ··· 4
2.東アジアにおける対外投資の雁行形態型発展··· 5
(1)1980 年代後半に本格化した NIEs の対外投··· 5
(2)ASEAN と中国の対外投資··· 6
3.100 億ドルを超えた中国の対外直接投資 ··· 8
4.その他の主要国の対外投資 ···11
(1)香港 ···11
(2)シンガポール··· 13
(3)韓国 ··· 13
(4)台湾 ··· 14
(5)マレーシア··· 15
(6)ブラジルと南アフリカ ··· 15
5.開発途上国の対外投資の特徴 ··· 16
(1)サービスが中心··· 16
(2)活発な M&A··· 16
(3)投資国と投資企業の本籍の相違 ··· 18
第2章 第1節 途上国からの対日直接投資 1.直接投資統計からみた対日直接投資動向··· 18
(1)対日投資残高からみた途上国の対日投資··· 18
(2)国別対内直接投資額の特徴 ··· 20
(3)業種別対内直接投資の特徴 ··· 22
(4)2005 年以降における途上国の対内直接投資 ··· 24
2.外資系企業の進出状況 ··· 25
(2)アジア系企業の活動状況 ··· 25
3.事例からみた特徴 ··· 30
(1)M&A による日本企業の買収 ··· 30
(2)グローバル展開の一環としての日本拠点··· 31
(3)研究開発拠点の進出 ··· 32
(4)IT 関連企業の進出 ··· 33
第2章 第2節 インドのジェネリック製薬企業の対日進出 1.ジェネリック薬輸出で発展するインド医薬品産業 ··· 34
(1)医薬品産業の特徴 ··· 34
(2)医薬品産業の対内直接投資 ··· 35
(3)インドの医薬品貿易 ··· 36
2.ジェネリック医薬品と特許法改正 ··· 38
3.インドのジェネリック医薬品メーカーの海外直接投資 ··· 38
4.インド製薬メーカーの対日進出 ··· 41
5.GE 薬の普及と GE 薬企業の対日進出課題 ··· 43
第2章 第3節 中国系企業の進出事例からみた中国系企業の対日直接投資 1.過去最高だった 2005 年度の中国の対日投資··· 49
2.進出例からみた中国の対日投資の特徴··· 52
(1)技術力のある中堅製造企業の M&A ··· 52
(2)ソフトウエア・小売業分野の進出··· 58
1)開発支援から最終プロダクツへの提供へと広がるコンピュータ・ ソフトウエア企業の進出 ··· 58
2)日本の消費市場獲得のための小売り分野への進出 ··· 61
3)起業家や留学生による創業 ··· 62
(3)対日投資拡大には日中企業間の連携の促進が重要 ··· 65
参考 ベネズエラ国営石油会社の海外戦略と対途上国関係 ··· 68
統計編
1.開発途上国を中心とした各国の対外直接投資額··· 78
2.開発途上国を中心とした各国の対外直接投資残高 ··· 81
3.開発途上国を中心とした各国のクロスボーダーM&A··· 84
4.開発途上国を母国とする多国籍企業上位 50 位(2004 年における外国資産額基準)88 5.中国の対外直接投資額(国別、認可額、年別)··· 90
6.中国の対外直接投資額(国別(非金融)、ネットフロー、年別) ··· 93
7.中国の対外直接投資額(業種別(非金融) 、ネットフロー、年別) ··· 94
8.韓国の対外直接投資額(国別、実行額、年別)··· 95
9.韓国の対外直接投資額(業種別、認可・実行額、年別) ··· 96
10.台湾の対外直接投資(国別、認可額、年別) ··· 97
11.台湾の対外直接投資(業種別、認可額、年別)··· 98
12.米国へ中国からの直接投資額··· 99
13.米国へ香港からの直接投資額··· 99
14.米国へ韓国からの直接投資額··· 99
15.米国へ台湾からの直接投資額··· 99
16.米国へシンガポールからの直接投資額 ··· 100
17.米国へブラジルからの直接投資額 ··· 100
18.米国へインドからの直接投資額··· 100
19.米国へメキシコからの直接投資額 ··· 100
20.英国へ韓国からの直接投資額··· 101
21.英国へシンガポールからの直接投資額 ··· 101
22.英国へ香港からの直接投資額··· 101
23.ドイツへ開発途上国からの直接投資残高 ··· 102
第1章 重要性増す開発途上国の対外投資
開発途上国は、従来、外国直接投資の受け手(対内投資国)として重視されてきた。外 国直接投資が資本だけでなく技術など経営資源を移転させ、経済発展に資することから、
開発途上国は外国直接投資を競って誘致している。また、先進国企業は開発途上国を市場 規模や生産コストの観点から投資先として見てきた。しかし、近年は開発途上国は、資本 の出し手(対外投資国)としても注目されている。たとえば、中国企業はここ数年資源確 保や技術の獲得を目的に途上国だけでなく先進国でも M&A を含む投資を活発化させてお り、石油産業や電気電子分野を筆頭に多国籍企業化する企業も増えてきている。歴史的に 見れば、アジアでは中国に先んじて韓国、シンガポール、香港、台湾の企業(NIEs 企業)
が 1980 年代後半から対外投資を積極化させていた。世界大では、ブラジルやメキシコ、
南アフリカなどの企業が対外投資を早い時点から行っていた。
本章、影響力を増している開発途上国の直接投資について、世界全体の動向を統計的に 把握するとともに中国を中心に主要途上国の投資動向について分析している。
1. 開発途上国の対外投資
(1) 1990年代後半から増加
開発途上国の対外直接投資(以下、対外投資)は、 1990 年代後半から増加テンポが早ま り、 2000 年に初めて 1,000 億ドルを超えたが、 2002 年と 2003 年に低迷した後 2004 年に 再び 1,128 億ドルに回復し、 2005 年も 1,175 億ドルと 1,000 億ドル台を維持している(図
1)。全体的なトレンドは、2000 年に 1 兆ドルを超えてピークに達した世界全体の対外直
接投資とほぼ同じである。
図 1 開発途上国の対外直接投資額の推移
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
19 90 年 19 91 年
19 92 年 19 93 年
19 94 年 19 95 年
19 96 年 19 97 年
19 98 年 19 99 年
20 00 年 20 01 年
20 02 年 20 03 年
20 04 年 20 05 年 (10億ドル)
(出所)UNCTAD(2006)World Investment Report 2006
開発途上国の対外投資の比重は 1990 年代に急速に高まっている。1990 年に 5.5%だっ た世界の対外直接投資に占める開発途上国のシェアは 1995 年に 18.2%に達し、 1998 年と 1999 年に 10%を下回ったものの 2005 年には 15.1%に回復している(図 2)。近年、中国 企業をはじめ、開発途上国の企業の海外進出や M&A の報道が増加しているが、 2004 年以 降開発途上国の対外直接投資は、投資額でもシェアでも重要性を増していることは統計的 にも裏付けられる。
図 2 世界の対外直接投資額に占める開発途上国のシェアの推移
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
19 90 年 19 91 年
19 92 年 19 93 年
19 94 年 19 95 年
19 96 年 19 97 年
19 98 年 19 99 年
20 00 年 20 01 年
20 02 年 20 03 年
20 04 年
20 05 年
(%)
(2) 香港が最大の対外投資国・地域
ストックベースでみると、開発途上国の中では、香港が最大の投資国・地域であり、バ ージン諸島がそれに続いている(表 1)。香港は、2005 年には 4,705 億ドルで 36.9%と圧 倒的な比重を占めている。1990 年には香港の対外投資ストック額は 119 億ドルでブラジ ルの 4 分の 1 に過ぎず、アジアでも台湾を下回っていたが、2000 年には 3,883 億ドルに 急増し、開発途上国最大となっている。中国への投資ブームは 1992 年以降起きたが、中 国への最大の投資国・地域は香港であり、そのシェアは近年 30%程度に低下したものの、
一時はほぼ 5 割を占めていた。香港の場合、香港企業に加えて香港に進出してきた外国企 業および香港を経由した外国企業の中国投資が香港の対外投資増加を牽引してきている。
また、中国企業が香港に進出し、香港企業として中国に投資することも多く、迂回投資
(Round trip)と呼ばれている。迂回投資は中国への投資の 25%を占めているという推測 もある。
第 2 位のバージンは、 2005 年のストック額が 1,231 億ドルで 9.7%を占めている。バー ジンは、外国企業が子会社を設立し対外投資を行っているタックス・ヘイブンであり、投 資を行うのは外国企業である。同様なタックス・ヘイブンは 337 億ドルで 2.6%を占める ケイマン諸島とバミューダ(60 億ドル、0.5%)があるが、自国企業が投資主体ではない ため留意が必要である。
第 3 位の投資国はシンガポールであり、 2005 年に 1,109 億ドルで 8.7%のシェアを占め ている。シンガポールは 1990 年代および 2000 年以降に投資額を急激に増加させている。
続いて、台湾が 972 億ドル、シェア 7.6%で第 4 位となっている。台湾は 1990 年の時点 でブラジルに次いで第 2 位だった。東南アジアへの投資を 1980 年代から活発化させてお り、1990 年代以降は対中投資を急増させている。
第 5 位のブラジルは、1990 年時点では 27.6%を占める開発途上国最大の対外投資国だ った。対外投資額は拡大しているが、1990 年代を通しての増加率は 26.6%であり、東ア ジアの主要国・地域に抜かされてしまった。その他の主要投資国・地域は、アジアでは中 国、韓国、マレーシア、インドネシアなどである。中国の対外投資は世界的に脚光を浴び ているが、2005 年のストック額は 463 億ドルで第 6 位である。中南米では、メキシコ、
アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、アフリカでは南アフリカである。南アフリカは、1990 年時点では第 3 位の投資国であり、2005 年のストック額でも韓国を上回っている。
BRICS の一員として注目されているインドは、2005 年のストック額は 96 億ドルでシ
ェア 0.8%と対外投資ではプレゼンスはまだ小さい。なお、ロシアのストック額は 2000 年
の 201 億ドルから 2005 年には 1,204 億ドルに急増しており、シンガポールを凌駕してい
る。
表 1 ストックベースみた主要対外投資国・地域
(単位:100 万ドル)
1990 2000 2005 シェア
(2005 年)
中国 4,455 27,768 46,311 3.6
香港 11,920 388,380 470,458 36.9
韓国 2,301 26,833 36,478 2.9
台湾 30,356 66,655 97,293 7.6
インド 124 1,859 9,569 0.8
インドネシア 86 6,940 13,735 1.1 マレーシア 2,671 22,874 44,480 3.5 シンガポール 7,808 56,766 110,932 8.7 ブラジル 41,044 51,946 71,556 5.6 アルゼンチン 6,057 21,141 22,633 1.8
チリ 154 11,154 21,286 1.7
ベネズエラ 1,221 7,676 10,665 0.8 メキシコ 2,672 8,273 28,040 2.2 バミューダ 1,550 14,942 5,982 0.5 バージン諸島 875 64,483 123,167 9.7 ケイマン諸島 648 20,553 33,747 2.6 南アフリカ 15,004 32,319 38,503 3.0
その他 4,765 8,159 50,274 4.0
開発途上国 148,715 871,040 1,273,612 100.0
(出所)図 1 と同じ
2.東アジアにおける対外投資の雁行形態型発展
(1) 1980年代後半に本格化したNIEsの対外投
東アジアの対外直接投資は、1970 年代の日本、1980 年代に登場した NIEs、1990 年代 に加わったマレーシアと中国、近年のインドネシアと雁行形態型で対外投資国が登場し、
投資が活発化している。
東アジアでは、まず、日本が 1970 年代に対外投資国として登場した(表 2)。日本の対 外投資が国際収支ベースで 10 億ドルに達したのは 1974 年であり、その後、順調に拡大し た。日本の対外投資を促進した要因は、国内の人件費の上昇と円高が主なものであり、貿 易摩擦の回避や資源確保なども重要である。
日本に続いたのはアジア NIEs (韓国、台湾、香港、シンガポール)である。アジア NIEs
の中では、香港が最も早く 1984 年に 10 億ドルを超えており、 1987 年には 20 億ドルに達
しかし、中国が 1978 年に改革開放政策に転じたため、 1980 年代からは対中投資が増加し た。特に、言語が同じであり人脈もあり、かつ地理的にも隣接している広東省に設立され た経済特区への進出が急増した。
韓国は、1980 年代前半は 1 億ドル台だったが、1985 年に 5 億 9,000 万ドルに急増し、
1986 年には 10 億ドルを超えた。1980 年代後半は、 5~6 億ドルレベルで推移し、 1990 年 には再び 10 億ドル台に増加している。台湾は 1986 年まで 1 億ドルに達しなかったが、 1987 年に 7 億ドルに達した後、1988 年には 41 億ドル、 1989 年は 69 億ドルと桁違いの増加と なった。シンガポールは 1988 年までは 2 億ドル前後で推移していたが、1989 年に 8 億 8,000 万ドルに達し、1990 年に 20 億ドルを超えた。
アジア NIEs 諸国は、1986 年以降、ドルにリンクした自国通貨安により輸出が急増し、
円高に直面した日本企業の進出が活発化したこと、原油価格の低下などから好況を迎え、
高い経済成長を実現した。そのため、1980 年代末から、賃金上昇、自国通貨の上昇などに より輸出競争力の低下に直面した企業が海外進出を始めたことがこの時期の対外投資の増 加の主因である。また、 1990 年代に入ってからは NIEs は中国への投資を大幅に増加させ ている。
表 2 日本、NIEs、マレーシアの対外投資の推移
(単位:100 万ドル)
1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980
日本 355 360 723 1,904 2,012 1,763 1,991 1,645 2,371 2,898
1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990
韓国 48 151 130 52 591 1,227 515 643 598 1,052
台湾 60 32 19 72 79 65 705 4,121 6,951 5,243
香港 31 52 566 1,076 961 1,372 2,318 2,533 2,740 2,948
シンガポール -15 304 49 92 238 181 206 118 882 2,034
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000
マレーシア 175 115 1,063 2,329 2,488 3,768 2,675 863 1,422 2,026
(出所)図 1 と同じ
(2) ASEANと中国の対外投資
ASEAN の中では、マレーシアが 1993 年に 10 億ドルを超える対外投資を初めて記録し、
その後、20~30 億ドルの対外投資を維持している(表 2)。マレーシアは、2005 年のスト
ック額が 445 億ドルに達しており、中国と並ぶ対外投資国である。マレーシアは、 ASEAN
の中ではシンガポールに次ぐ高所得国であり、賃金水準がインドネシア、フィリピン、タ イよりも高いことがその要因となっている。
その他の ASEAN 諸国の対外投資はマレーシアと比べると桁違いに小さい(表 3)。その
中では、インドネシアが 2004 年以降、対外投資額を急増させているのが注目される。イ ンドネシアの対外投資は、1996 年を除いて 2003 年までは 1 億ドル前後だったが、2004 年は 34 億ドル、 2005 年は 31 億ドルに急増している。タイは、 1996 年に 9 億ドルを記録、
1997 年は 6 億ドルだったが、その後は 5 億ドルを超える年はない。フィリピンは、2002 年まで 1 億ドル前後で推移し、2003 年に 3 億ドル、2004 年に 6 億ドルを記録した。シン ガポールを除く ASEAN 原加盟国は、2000 年代半ばに対外投資が活発化し始めたところ といえよう。
表 3 ASEANの対外投資の推移
(単位:100 万ドル)
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 インドネシア 600 178 44 72 150 125 182 15 3,408 3,065 マレーシア 3,768 2,675 863 1,422 2,026 267 1,905 1,370 2,061 2,971 フィリピン 182 136 160 133 125 -140 65 303 579 162 タイ 932 584 132 249 -22 346 106 486 125 248
(出所)図 1 と同じ
中国の対外投資は、1980 年代後半から拡大していたが、10 億ドルを超えたのは 1992 年であり、前年の 9 億ドルから 40 億ドルに急増した(表 4)。その後は、増減はあるもの の 20 億ドル前後で推移していたが、2005 年に 113 億ドルと一気に 100 億ドルを突破し、
中国企業の活発な海外進出を統計的にも裏付けている。なお、 2005 年の中国の対外投資に ついては、中国政府の発表に基づき詳細を後述する。
表 4 中国の対外投資の推移
(単位:100 万ドル)
年 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
投資額 44 93 134 629 450 645 850 780
年 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
投資額 830 913 4,000 4,400 2,000 2,000 2,114 2,563
年 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
投資額 2,634 1,775 916 6,884 2,518 -152 1,805 11,300
3. 100億ドルを超えた中国の対外直接投資
中国の対外直接投資については、歴史的な推移、政策、特徴および 2004 年の動向につ いて昨年度の報告で分析したので、本稿では 2005 年の動きを中心に最新の動向を記述す る。
前節の分析は、UNCTAD の投資統計を利用したが、ここでは、中国政府が公表してい る「中国対外直接投資公報(以下、公報)」により分析を行う。公報によると、中国の対外 直接投資額は、 2003 年の 28 億 5,000 万ドルから毎年ほぼ倍増しており、 2005 年には 126 億 6,100 万ドルとなった。
投資先を地域別に見ると、従来、アジア向けが最大だったが、 2005 年は中南米が前年比 3.7 倍と大幅増となり、シェアが 5 割を超え最大となった。これは、タックス・ヘイブン であるケイマン諸島向けが前年比 4 倍増の 51 億 6,300 万ドルとなったためである。従来 最大だった香港は 34 億 2,000 万ドルで 2 位となったが前年比 30%増と着実に増加してい る。以下、英領バージン諸島、韓国、米国などが主要な投資先である。大幅に増加したの は、韓国(14.7 倍)、ロシア(2.6 倍)、カザフスタン(47.5 倍)イエメン(11.7 倍)、カ ナダ(6.4 倍)、アルジェリア(7.7 倍)などであり、韓国を除くとエネルギー資源国であ る。2004 年に急増したスーダンは、2005 年も 1 億ドルと堅調だった(表 5)。
表 5 中国の対外投資の主要国別内訳
(単位:1,000 万ドル)
2003 シェア
(%) 2004 シェア
(%) 2005 シェア
(%)
ケイマン諸島 80.7 28.30 128.6 23.40 516.3 47.90
香港 114.9 40.20 262.8 47.80 342 27.90
英領バージン諸島 20.7 7.30 38.6 7.00 122.6 10.00
韓国 15.4 5.40 4 0.70 58.9 4.80
米国 6.5 2.30 12 2.20 23.2 1.90
ロシア 3.1 1.10 7.7 1.40 20 1.70
豪州 3 1.10 12.5 2.30 19.3 1.60
ドイツ 2.5 0.90 2.7 0.50 12.4 1.10
スーダン 0 0.00 14.7 2.70 10 0.90 カザフスタン 0.3 0.10 0.2 0.00 9.5 0.80 アルジェリア 0.2 0.10 1.1 0.10 8.5 0.70 マレーシア 2 0.70 0.8 0.10 5.7 0.50 ナイジェリア 2.4 0.80 4.6 0.80 5.3 0.40 モンゴル 4 1.40 4 0.70 5.2 0.40 南アフリカ 0.9 0.30 1.8 0.30 4.7 0.40 イエメン 0 0.00 0.3 0.00 3.5 0.30
カナダ -0.7 -0.20 0.5 0.10 3.2 0.30
アラブ首長国連邦 0.9 0.30 0.8 0.10 2.6 0.20
英国 0.2 0.10 2.9 0.50 2.5 0.20
パナマ -0.1 0.00 4.3 0.80 2.3 0.20
合 計 285.5 100.00 549.8 100.00 1226.1 100.00
ストックベースでは、香港が最大であり 63.8%と圧倒的なシェアを占めている(表 6)。
香港には 2,098 社(2003 年)の中国企業が進出しており、貿易、建設、貸付けでは 2 割
をケイマン諸島が 2 位、英領バージン諸島が 3 位となっており、合計して 19.1%を占めて いる。これらのタックスヘブンへの投資は、中国などに再投資されている。こうした迂回 投資を除くと、韓国が実質的に第 2 の投資先国といえよう。他には米国、マカオ、豪州、
ロシア、スーダンなどがストックベースでみた主な投資先である。
スーダンのほか、アルジェリアやザンビア、パナマなどが上位の投資先となっている。
韓国や日本の対外投資は米国、欧州と ASEAN など東アジア各国に集中しており、中南米 やアフリカへの投資が多いことは中国の対外投資の特徴といえよう。その背景には、中国 の製造業企業が、日本企業の進出が少ないアフリカなどの「ニッチマーケット」を狙って の輸出や投資を行っていることと石油天然ガス開発のための投資が急増していることがあ げられる。
表 6 ストックベースでみた中国の主要国・地域別対外投資
(単位:億ドル)
2003 2004 2005
香港 246.32 303.93 365.07
ケイマン諸島 36.91 66.6 89.36 英領バージン諸島 5.32 10.89 19.84
韓国 2.35 5.62 8.82
米国 5.02 6.65 8.82
マカオ 4.47 6.25 5.99
豪州 4.16 4.95 5.87
ロシア 0.61 1.23 4.66
スーダン 0.01 1.72 3.52 バミューダ諸島 0 1.85 3.37 シンガポール 1.65 2.33 3.25
ドイツ 0.84 1.29 2.68
カザフスタン 0.2 0.25 2.45 ベトナム 0.28 1.6 2.29
タイ 1.51 1.82 2.19
パキスタン 0.27 0.36 1.89 マレーシア 1.01 1.23 1.87 アルジェリア 0.06 0.34 1.71 ザンビア 1.44 1.48 1.6
日本 0.89 1.39 1.51
合 計 332.22 447.78 572.06
(出所)表 5 と同じ
アジアは、中国の対外直接投資先として最大の地域(ストックベース)であるが、9 割 は香港向けであり、ASEAN のシェアは小さい。2005 年の ASEAN 向け投資額は前年比 20.4%減の 1 億 5,771 万ドルで香港の 4.6%に過ぎず、2005 年の投資先上位 20 国に入っ ている国は一ヵ国もない。また、ストックベースでみると、2005 年末で 12 億 5,600 万ド ルであり、香港の 3.4%であり、中国の対外直接投資においては ASEAN の比重は小さい。
しかし、ストックベースでは、シンガポールが 11 位、ベトナムが 14 位、タイが 15 位、
マレーシアが 17 位に入っており、ASEAN を合計すると韓国や米国を超えて 4 位の投資 先になっており、重要な投資先であると言えよう(表 7)。
表 7 中国のASEAN向け投資の推移
(単位:万ドル)
2003 2004 2005
ブルネイ 0 0 150
インドネシア 2,680 6,196 1,184 マレーシア 197 812 5,672 フィリピン 95 5 451 シンガポール -321 4,798 2,033
タイ 5,731 2,343 477
ベトナム 1,275 1,685 2,077 ミャンマー 409 1,154 カンボジア 2,195 2,952 515
ラオス 80 356 2,058
東チモール 0 10 0
合 計 11,932 19,566 15,771
(出所)表 5 と同じ
投資額が減少した 2005 年をみると、マレーシア、フィリピン、ミャンマー、ラオス向 けは増加している。ストックベースでは、シンガポールが最大の投資先であり、ベトナム、
タイが続いている(表 8)。また、経済規模からみてカンボジア向けの投資額が大きいこと
とフィリピン向けが小さいことが目に付く。
表 8 ストックベースでみた中国の対ASEAN投資
(単位:万ドル)
2003 2,004 2005
ブルネイ 13 13 190
インドネシア 5,426 12,175 14,093 マレーシア 10,066 12,324 18,683 フィリピン 875 980 1,935 シンガポール 16,843 23,309 32,548
タイ 15,077 18,188 21,918
ベトナム 2,873 16,032 22,918 ミャンマー 1,002 2,018 2,359 カンボジア 5,949 8,989 7,684
ラオス 911 1,542 3,287
東チモール 0 10 10
合 計 59,035 95,580 125,625
(出所)表 5 と同じ
4.その他の主要国の対外投資
(1) 香港
香港の対外投資は、1993 年に 177 億ドルと 100 億ドルを突破し、その後は 200 億ドル 前後と高い水準を維持した(表 9)。1993 年は前年の改革開放の加速を受けて対中投資ブ ームが起きた年であり、香港の対外投資は中国投資ブームと同じ時期に急増している。
2000 年には 593 億ドルと極めて大きな額となったが、これは中国の通信会社である中国 移動(China Mobile)の超大型投資案件によるものと見られている。2003 年に減少した 後、2004 年に 457 億ドル、2005 年に 326 億ドルと再び高い水準に回復している。
投資先は、バージン諸島が最も大きく、続いて中国となっている(表 10)。バージン諸 島への投資は主に中国に再投資されていると考えられ、香港の最大の投資先は中国と言っ てよいだろう。委託加工など直接投資ではない進出形態による中国での事業展開も多く、
中国での香港企業の事業展開は統計上の投資額以上である。その他の投資先は、英国、米
国と ASEAN である。なお、香港に進出した外国企業の香港からの投資は香港の投資とな
っていることに留意が必要である。
表 9 主要途上国・地域の対外投資の推移
(単位:100 万ドル)
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
香港 2,825 8,254 17,713 21,437 25,000 26,531 24,407 16,925
韓国 1,489 1,162 1,340 2,461 3,552 4,670 4,449 4,740
台湾 2,055 1,967 2,611 2,640 2,983 3,843 5,243 3,836
シンガポール 526 1,317 2,152 4,577 6,787 7,951 10,904 2,165 ブラジル 1,015 137 492 690 1,096 -469 1,116 2,854 南アフリカ 208 1,937 298 1,236 2,498 1,044 2,351 1,779
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
香港 16,369 59,352 11,345 17,463 5,492 45,716 32,560
韓国 4,198 4,999 2,420 2,617 3,426 4,658 4,312
台湾 4,420 6,701 5,480 4,886 5,682 7,145 6,028
シンガポール 8,002 5,915 21,168 2,287 3,143 8,512 5,519 ブラジル 1,690 2,282 -2,258 2,482 249 9,807 2,517 南アフリカ 1,580 271 -3,180 -399 565 1,352 68
(出所)図 1 と同じ
表 10 香港の対外投資(ストックベース)
(単位:10 億香港ドル)
2001 2002 2003 2004
バージン諸島 1,437 1,148 1,270 1,402
中国 844 843 931 1,217
バミューダ 92 77 88 130
英国 21 21 47 55
シンガポール 25 26 30 34 マレーシア 29 28 24 22
タイ 21 21 22 25
米国 25 32 20 23
世 界 計 2,749 2,413 2,637 3,134
(出所)国際貿易投資研究所「世界主要国の直接投資集」
およびジェトロ「貿易投資白書 2006 年版」
(2) シンガポール
1980 年代末に急増したシンガポールの対外投資は、 1990 年代に順調に拡大を続け、 1997 年には 100 億ドルを超えている(表 9)。アジア通貨経済危機時の 98 年には大幅に減少し たものの、その後は 2001 年に 200 億ドルを超えるなど 2002 年を除き、高水準で推移し ている。
シンガポールの投資先は、バージン諸島が最大であり、中国がそれに次いでいる(表 11)。
香港経由での中国投資もあるので中国の比重はさらに大きいだろう。ASEAN を合計する と中国と香港を合計した金額を超え、最大となる。ASEAN の中ではマレーシアが最も大 きい。
シンガポールの投資は金融を中心としたサービス産業が中心である。
表 11 シンガポールの対外投資(ストックベース)
(単位:100 万 S ドル)
2001 2002
中国 17,499 17,702
香港 11,564 12,042
ASEAN 28,548 30,513
(マレーシア) 11,303 12,412
米国 7,336 8,144
バージン 17,014 18,581 バミューダ 12,154 13,586
EU 10,408 11,181
(英国) 6,843 6,885
(出所)表 10 と同じ
(3) 韓国
韓国の対外投資は 1990 年代に入り着実に増加を続け、 1996 年に 40 億ドル台に達した。
その後は、2001 年から 2003 年を除いてほぼ 40 億ドル台で推移している(表 9)。韓国の
投資はアジア向けが圧倒的に多い。最大の投資先は中国であり、2005 年には 4 割を占め
ている(表 12)。2005 年にはポスコ、ハイニックス半導体、現代自動車などが投資を行っ
ている。アジアではベトナムへの投資が増加していることが注目される。また、 2005 年は
スロバキアへの投資が欧州向けでは最大となった。これは起亜自動車の進出によるもので
表 12 韓国の対外投資
(単位:100 万ドル)
2004 2005
アジア 3,384 3,887
中国 2,290 2,616
香港 197 271
ベトナム 172 291
大洋州 76 163
北米 1,384 1,267
米国 1,338 1,231
中南米 345 384
欧州 712 626
スロバキア 82 223
中東 28 40
アフリカ 51 115
合 計 5,980 6,469
(出所)ジェトロ「貿易投資白書 2006 年版」
(4) 台湾
台湾の対外投資は、1990 年代前半は 20 億ドル台、後半は 30~40 億ドル台で推移し、
2000 年代に入ると 60 億ドル前後と増加傾向を続けている(表 9)。台湾の統計では、 2004 年、2005 年と 2 年連続して対外投資が減少しており、玩具、履物、衣類などの労働集約 型産業および IT 産業の中の労働集約型部品(コネクターなど)製造などの海外進出が一 巡したことが理由となっている。投資先は中国が圧倒的に多く、中国以外への投資額を超 えている(表 13)。中国を除くと英領米州が最大であるが、これはバージンなどのタック スヘブンへの投資であり、5 割以上が金融である。
表 13 台湾の対外投資
(単位:100 万ドル)
2002 2003 2004 2005
日本 24 100 149 43
中国 3,370 4,595 6,940 6,007
香港 167 641 140 108 シンガポール 26 26 822 98 マレーシア 32 50 36 28 ベトナム 55 157 95 94 米国 578 467 557 315 英領米州 1,575 1,997 1,155 1,262
(出所)表 12 と同じ
(5) マレーシア
マレーシアの対外投資は、1990 年代の後半から 2000 年代にかけて 20 億ドル前後で推 移している(表 3)。投資先はシンガポールが圧倒的に大きく、米国と英国が続いている(表 14)。インドネシア向けも大きい。中国向けは増加しているが、まだ比重は小さい。
表 14 マレーシアの対外投資
(単位:100 万リンギ)
2004 2005 累計
シンガポール 2,537 3,029 23,254
米国 147 799 17,009
英国 185 1,487 9,145
香港 1,121 699 8,927
インドネシア 502 3,593 8,811
豪州 90 204 6,215
中国 405 903 3,834
タイ 682 163 2,672
(出所)表 12 と同じ
(6) ブラジルと南アフリカ
ブラジルと南アフリカは、東アジア諸国の台頭によりシェアは小さくなったものの、開 発途上国の中では依然として重要な対外投資国である。両国とも 10~20 億ドルの水準で 推移しているが、引き揚げ超過となる年もあり、変動が大きい(表 9)。ブラジルは 2004 年に 98 億ドルに急増したが、翌年は 25 億ドルに減少している。ブラジルの対外投資の 3 分の 2 は中南米のタックスへヘブンに向けられ、アルゼンチン、ウルグアイなどメルコス ール向けがそれに続いている
(1)。先進国では、米国、スペイン、デンマークなどが多い。
南アフリカの対外投資の 4 分の 3 は欧州向けであり、1 割が米国向けとなっており、アフ リカへの投資は 9%に過ぎない
(2)。
5. 開発途上国の対外投資の特徴
(1) サービスが中心
開発途上国の対外投資を業種別にみると、サービス産業が 81%を占め、製造業は 13.5%、
農林水産業と鉱業は 1.3%となる
(3)。このように、サービスのシェアが高いのは、香港、シ ンガポールなどサービス産業化している国・地域が主要な対外投資の出し手となっている ことが理由の一つとなっている。そのため、香港を除くとサービス産業のシェアは 71.0%
に低下し、製造業は 24.7%に上昇する。
製造業では世界で最も競争力を有する中国の対外投資を業種別にみると、サービスが 7 割以上を占めており、製造業は 15%(2005 年)に過ぎない。サービスの中ではビジネス サービスが最大である(表 15)。
表 15 中国の対外投資の業種別内訳
(単位:億ドル)
2004 年 2005 年
ストック シェア ストック シェア 農林水産業 83.4 1.9 51.1 0.9
鉱業 595.1 13.3 865.1 15.1
製造業 453.8 10.1 577.0 10.1
サービス 3,345.6 74.7 4,227.0 73.9
(輸送・倉庫) 458.1 10.2 708.3 12.4
(卸・小売) 784.3 17.5 1,141.8 20.0
(ビジネスサービス) 1,644.5 36.8 1,655.3 28.9 合 計 4,477.7 100.0 5,720.6 100.0
(出所)表 5 と同じ
(2) 活発なM&A
開発途上国企業の M&A は活発化している。開発途上国企業の M&A は、 2004 年の 398 億ドルから 2005 年には 831 億ドルに大幅に増加した(表 16)。世界全体の M&A に占め るシェアは 11.6%(2005 年)である。国・地域別にみると、香港、トルコ、シンガポー ル、インドネシア、中国の金額が大きく、移行経済国であるロシアも大きな金額を記録し ている(表 16)。
開発途上国の M&A が増加したのは、大規模な M&A を実行できる資金力のある企業、
国際事業展開を意図する企業、多国籍化した企業が増加してきたことがその要因としてあ げられよう。1990 年代初めと 2005 年を比べた開発途上国の多国籍企業の増加は、中国が 379 社から 3,429 社、韓国が 1,049 社から 7,460 社など極めて大きく、途上国および移行 経済国を合計すると 2,681 社から 14,762 社となり、世界の多国籍企業数の 4 分の 1 を占 めている
(4)。
主要産業別にみると、自動車では Hyundai Motor が世界で 13 位(売上げによる、以下 同じ)、化学では 7 位に Saudi Basic Inds、 15 位に LG Chem、電気電子では 4 位に Samsung Electronics、8 位に LG Electronics、石油では 7 位に Sinopec、9 位に CNPC、15 位に Petrobras、16 位に Petronas、鉄鋼では 5 位に POSCO、6 位に BAOSTEEL、金融では 12 位に Bank of China、海運では 4 位に Evergreen、6 位に China Shipping Container Lines、通信では 15 位に China Mobile など主要国企業が先進国企業に伍して上位にラン クされている。
表 16 開発途上国のM&A
(単位:100 万ドル)
2003 2004 2005
中国 1,647 1,125 5,279
香港 4,168 2,963 10,470
韓国 662 409 451
台湾 253 710 634
インドネシア 2 491 5,878 マレーシア 3,685 816 1,678 シンガポール 5,018 11,638 6,106 アルゼンチン 679 103 2,308 ブラジル 3,065 9,124 3,848 メキシコ 5,282 1,973 2,813 バミューダ 428 1,883 725 バージン諸島 127 1,527 74 ケイマン諸島 156 13 2,902 クウエイト 441 845 3,640
トルコ 7 108 8,806
アラブ首長国連邦 62 40 4,783
ロシア 8,763 949 6,375
開発途上国 31,060 39,809 83,150
(出所)図 1 と同じ
(3) 投資国と投資企業の本籍の相違
開発途上国の対外投資の場合、投資国(Home Country)に進出してきた企業が対外投 資を行うことが少なくない。これは先進国でも同様であるが、途上国の場合そうした投資 の金額が大きくなることがあり、投資額の動向を見る場合、留意が必要である。香港から の投資は、香港以外の企業の投資が多いし、バージン諸島などタックスヘブンからの投資 はすべて他国の企業である。開発途上国の対外投資動向の実態を把握するには、具体案件 を積み重ねる必要がある。日本貿易振興機構の貿易投資白書でも、途上国の対外投資につ いては統計が掲載されていれば良い方であり具体事例の分析はほとんど行われていない。
この点は今後の課題といえよう。
亜細亜大学アジア研究所 教授
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
石川 幸一
第2章 第1節 途上国からの対日直接投資
1. 直接投資統計からみた対日直接投資動向
対日投資統計を国別にみると、米国や欧州の主要国が中心で途上国からの直接投資額は 少ない。ただし、直接投資の資金は親企業の母国からとは限らず、既進出先からの投資で ある場合が少なくない。途上国からの対外直接投資は、本国からのものの他に、海外子会 社からのもの、第 3 国からの迂回によるものなどがある。反対に、途上国からの投資であ っても、途上国に進出した先進諸国の多国籍企業の現地法人からの投資もありうることも 留意しておく必要がある。
本項では、そうした制約があるが、直接投資統計からみた特徴をあげることにする。
日本の直接投資統計は 2005 年 1 月から財務省の届出統計から日本銀行の国際収支統計に 変更となり、両者の定義、作成方法等が異なる。そこで、 2004 年度までの届出統計をもと にした 1989 年度以降の累計額による特徴と、 2005 年度は国際収支統計をもとにした特徴 を分け、途上国からの対日投資をみることにする。
(1) 対日投資残高からみた途上国の対日投資
2005 年末時点における対内直接投資残高の特徴を列記すると、次の点がある。
① 対内直接投資残高(11 兆 9,033 億円)のうち、米国(5 兆 1,559 億円)や西欧諸国(4
兆 4,761 億円)などの先進諸国からの投資がほとんどで、途上国からの投資は少ない。
② 途上国からの投資は、主としてアジア諸国(7,873 億円)と中南米諸国(9,655 億円)
からのものである。その他の地域、中近東諸国やアフリカ諸国からの投資は少ない。
③ アジア諸国(7,873 億円)の中では、香港(3,068 億円)、シンガポール(2,537 億円)
台湾(1,636 億円)からの投資が大きい。
④ 中南米諸国からの投資で(9,655 億円)目立つのはカリブ海にあるケイマン諸島から の直接投資である(6,578 億円)。バハマやバーミューダとともに、先進諸国を含めた 多国籍企業の金融子会社が立地しているので、途上国企業からの投資とは限らない。
例えば、エクソン・モービルの日本法人への出資は、ケイマン諸島経由である。
⑤ 投資収益率(投資収益の支払い額を直接投資残高で割ったもの)は、平均的な利回り
を示すが、全体が 8.8%であるのに対し、アジア諸国は 1.8%、中南米諸国は 2.9%と低
い水準にある。
表 1 日本の国・地域別直接投資残高
対内直接投資収益率(
%
) 対内直接投資残高(億円) 直接投資収益(支払)(億円)2000 2004 2005 2000 2004 2005 2000 2004 2005
世界計
4.9 6.8 8.8 57,821 100,983 119,033 2,826 6,870 10,440 OECD
計5.2 7.3 9.8 49,153 92,141 101,682 2,557 6,701 10,013
アジア計4.8 6.2 1.8 4,522 6,111 7,873 218 378 139
中国125.0 207.3 21.7 96 93 120 120 193 26
香港-0.0 2.3 -0.1 2,018 2,217 3,068 -1 50 -4
韓国8.9 11.7 10.9 123 557 367 11 65 40
台湾0.5 -0.1 1.3 1,722 1,666 1,635 9 -2 21
インドネシア140.0 122.8 14.2 5 8 7 7 10 1
シンガポール8.9 3.2 1.4 460 1,432 2,537 41 46 36
タイ533.3 12.0 0.0 3 50 49 16 6 0
フィリピン3.8 0.0 1.9 52 51 52 2 0 1
マレーシア40.0 19.4 67.0 15 15 15 6 3 10
インド20.0 10.1 25.3 10 10 12 2 1 3
大洋州計0.5 12.3 1.6 625 661 561 3 81 9
オーストラリア0.2 12.2 1.4 621 657 555 1 80 8
ニュージーランド50.0 0.0 0.0 2 4 3 1 0 0
北米計9.0 7.2 10.9 18,658 47,655 56,072 1,682 3,435 6,097
米国10.6 7.9 10.8 16,255 42,417 51,559 1,731 3,341 5,572
カナダ-2.0 1.8 11.6 2,403 5,240 4,512 -49 94 525
中南米計1.5 -5.9 2.9 4,051 3,117 9,655 61 -185 280
ケイマン諸島n.a. 1.5 3.8
・・・・2,766 6,578 31 41 247
ブラジル7.1 11.6 0.0 14 35 36 1 4 0
メキシコ0.0 0.0 0.0 1 5 5 0 0 0
西欧計2.9 7.2 8.7 29,812 43,358 44,761 860 3,123 3,878
イタリア-12.5 3.0 2.7 8 576 656 -1 17 18
英国11.6 11.0 14.8 4,245 2,397 3,563 494 263 528
オランダ2.2 6.2 12.3 6,149 14,747 13,691 134 920 1,680
スウェーデン-4.5 -2.0 -5.8 494 563 414 -22 -11 -24
スペイン4.5 5.2 10.0 22 193 131 1 10 13
ドイツ1.2 18.7 0.7 5,548 4,063 6,937 65 758 46
フランス0.5 5.0 6.3 9,494 14,211 12,661 51 711 797
ベルギー・ルクセンブルグn.a. n.a. n.a. 485
・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ベルギー
n.a. 22.6 46.7
・・・・637 557 22 144 260
ルクセンブルグn.a. 8.8 2.3
・・・・1,713 1,917 88 151 44
スイス3.9 5.6 20.6 2,499 3,292 2,659 98 183 549
東欧・ロシア等計2.1 9.3 1.8 48 54 55 1 5 1
ロシア0.0 0.0 0.0 48 55 54 0 0 0
中東計-1.0 364.2 123.4 104 9 17 -1 33 21
アラブ首長国連邦0.0 1,660.4 2,542.2 0 2 1 1 34 15
イラン
n.a. n.a. n.a.
・・・・ ・・・・ ・・・・1 0 0
サウジアラビア
-5.9 -55.1 110.3 51 2 2 -3 -1 2
アフリカ計0.0 0.0 862.8 0 -12 1 2 0 11
南アフリカ共和国n.a. n.a. n.a.
・・・・ ・・・・ ・・・・4 0 10
国際機関n.a. n.a. n.a.
・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・(出所)国際貿易投資研究所「世界主要国の直接投資統計集」(原データは日本銀行)
(2) 国別対内直接投資額の特徴
1989 年度から 2004 年度までの累計額をみると、途上国からの対内直接投資額は少ない
(図 2)。アジアからの投資累計額は 9,046 億円で、全体(21 兆 8,919 億円)の 4.1%に過 ぎない。中南米諸国からの投資累計額は、1 兆 6,911 億円で全体の 7.7%である。
アジアからの投資額が最大であるのは、シンガポールで 59%を占めている。
一方、中南米からの投資額は、ケイマン諸島が最大で 67%を占め、ブラジル、メキシコ などではなく先進国などから投資資金が集まる地域からの投資で 96%を占めるのが特徴 である。
アジア諸国からの対日投資(累計額)
香港 17%
韓国 10%
台湾 12%
シンガポール 59%
その他 2%
香港 韓国 台湾 シンガポール その他
中南米諸国からの対日投資〔累計額)
ケイマン諸島 67%
バージン諸島
(英)
12%
バージン諸島
(英)
17%
その他 4%
ケイマン諸島 バージン諸島(英) バージン諸島(英) その他
表 2 途上国からの対日投資額(国別)
国際収支
2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 累計額 2005年度
世界計 31,251 21,779 21,863 21,161 40,265 218,919 3,814 アジア計 418 567 455 1,614 864 9,046 1,594 中国 5 4 3 3 9 101 18 香港 19 33 174 65 32 1,528 43
マカオ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・ 0 ・・・・
韓国 53 30 31 38 247 931 5 台湾 242 188 18 21 7 1,095 △12
ASEAN(10)計 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 1,545
インドネシア ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 26 1 シンガポール 97 310 228 1,486 567 5,278 1,550 タイ 0 1 ・・・・ ・・・・ 1 6 △6 フィリピン 0 0 ・・・・ ・・・・ 0 8 1 マレーシア 1 0 0 0 1 18 1
ブルネイ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 30 ・・・・
ベトナム ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ △2
ミャンマー ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 -
ラオス 0 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
インド 0 0 0 0 0 22 2
スリランカ ・・・・ 0 ・・・・ 0 ・・・・ 1 ・・・・
ネパール ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 1
バングラデッシュ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
パキスタン 0 0 0 0 0 2 △6
モルジブ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・ 0 ・・・・
モンゴル ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
北朝鮮 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
大洋州計 69 4 58 16 4 349 △94 北米計 10,777 6,922 6,558 4,400 26,198 84,253 △4,304 米国 10,103 6,430 5,944 3,492 26,198 77,871 △901 中南米計 1,680 648 2,239 4,606 1,348 16,911 5,097
中米 アンチル(オランダ) ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 138 ・・・・
ケイマン諸島 1,318 464 2,037 2,923 1,254 11,413 1,226
ジャマイカ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
セントビンセント ・・・・ ・・・・ ・・・・ 10 ・・・・ 10 ・・・・
タークス・カイコス諸島 ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
ドミニカ共和国 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 0 ・・・・
バージン諸島(米) ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0
バージン諸島(英) 69 134 102 35 13 1,947 227 バーミューダ 256 25 86 1,618 45 2,793 △7 バハマ 5 22 4 16 8 106 11
バルバドス ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 9
パナマ 16 5 9 5 29 477 7
ベリーズ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ - - ・・・・
メキシコ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
南米 アルゼンチン 16 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 16 4
エクアドル ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
コロンビア ・・・・ 0 ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
チリ 0 ・・・・ 0 ・・・・ ・・・・ 1 ・・・・
ブラジル ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 9 2
ペルー ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・ 0 ・・・・
ボリビア ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・
欧州計 6,889 10,962 7,076 6,929 7,249 72,158 ・・・・
西欧計 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 1,506
EU25 EU15 アイルランド 217 69 0 1,018 119 2,101 △166
中東計 3 2 1 0 5 61 9
アフリカ計 3 35 37 1 ・・・・ 136 6
日本 11,413 2,638 5,439 3,596 4,597 36,006 ・・・・
(3) 業種別対内直接投資の特徴
〔アジアからの対内直接投資〕
1989 年度から 2004 年度までのアジアからの対内直接投資額累計は、 9,046 億円である。
そのうち、非製造業が 76.1%に相当する 6,888 億円を占め、日本へのアジアからの投資 は、非製造業が中心である。
① 製造業投資額は 2,158 億円で、そのうち機械機器製造業が 1,330 億円と製造業分野 の投資の 6 割以上を占めている。
② 非製造業分野の投資額(6,888 億円)中で大きい業種は、商事・貿易業の 2,390 億円、
サービス業の 2,233 億円、金融保険業の 1740 億円である。
③ 2005 年度の投資額は、国際収支統計ベースのもので 2004 年度以前の届出統計との 単純に比較できない。製造業がマイナスとなっているのは(△69 億円)、新規投資 を上回る撤退があるためである。
一方、非製造業は 1,663 億円と、 1989 年以降の届出統計のどの年よりも上回り、過 去最高であった。製造業を加えた全産業の投資額の過去最高だったのは、 2005 年度 における非製造業投資額より下回る 2004 年度の 1,614 億円だった。このことから、
2005 年度におけるアジアからの対内直接投資は、過去最高だったと推測できる。
表 3 アジアからの対内直接投資額
届出額(億円) 国際収支
2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 累計額 2005年度
全産業計 567 455 1,614 864 9,046 1,594
製造業計 26 8 530 154 2,158 △69
食料品 1 1 489 0 504 NP
繊維 1 0 1 ・・・・ 57 △2
石油 ・・・・ ・・・・ 0 ・・・・ 32 ・・・・
ゴム・皮革製品 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 159 NP
ガラス・土石製品 1 ・・・・ ・・・・ ・・・・ 2 NP
化学 ・・・・ 5 0 1 51 ・・・・
金属 ・・・・ ・・・・ 1 1 3 ・・・・
鉄・非鉄・金属 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ NP
機械 20 1 39 153 1,330 ・・・・
一般機械器具 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ △3
電気機械器具 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ NP
輸送機械器具 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ NP
精密機械器具 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ NP
その他の製造業 4 1 ・・・・ ・・・・ 21 ・・・・
非製造業計 541 447 1,083 710 6,888 1,663
建設業 ・・・・ 3 5 ・・・・ 16 NP
運輸業 0 21 17 27 132 NP
通信業 1 6 20 0 74 21
卸売・小売業 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・ 114
商事・貿易業 44 154 23 70 2,390 ・・・・
金融・保険業 293 39 963 367 1,740 1,372
不動産業 5 13 0 19 268 56
サービス業 197 212 55 227 2,233 25
その他の非製造業 ・・・・ ・・・・ ・・・・ 0 36 ・・・・