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中学校や高等学校で生物学を学び,次の学習ステップに進もうとする諸君 に本書「コア講義 生物学」を贈る.
生物学は高等学校までは物理学,化学,地学とともに,理科の中の一つの 領域として教えられているが,生物学はそのなかでもとくに興味を引き付け る教科となっている.われわれの身の周りにはイヌやネコといったペットや,
公園で見られる草木や虫,そして目では見えない小さな生物まで実に多様な 生き物があり,こうした事実が,生物学が身近な対象になる一つの要因となっ ている.しかしもっと大きな要因は,われわれ自身が生物であるという事実 であろう.人は誰しも自分自身について多くのことを知りたいと思い,また 病気になったり生死に遭遇した時に「生物とは何か」や,「生きていること とはどのようなことか」などについて考える.
19 世紀から 20 世紀までは物理学,そして化学の時代であった.しかし地 球温暖化に伴う生態系の破壊や食糧問題,クローン生物の作出や生命の人為 操作といった事柄が現実のものとなっている今,21 世紀は生物学の時代に なると予感される.このように,生物学はその必要性が高まり,生活の一部 にもなっているが,私達が生物や生物学を常に正しく見ているかといえば,
必ずしもそうではない.正しい理解のためには充分な知識と的確な判断が必 要である.高校生までの勉強で,生物学の基礎となる知識はある程度蓄積は しているが,実はその意義や現象の奥にあるメカニズムについてはほとんど 教えられてこなかった.高等教育を修めようとする諸君にとって,生物学を 再度学ぶ意義がここにある.本書は大学の教養課程(普遍教育,基礎課程)
やそれに相当するレベルで生物学を勉強しようとする学生を対象にした教科 書である.本書は高等学校で扱っている生物学の中身をほぼカバーしている.
内容の約半分は高校生物の復習であるが,残りは高等学校では教えない新し い内容,あるいは突っ込んだ内容となっている.このため,本書は高校生物 の復習に役立つのはもちろんのこと,それを踏まえて無理なく発展的内容に 進むための格好の1冊となっている.
ま え が き
iv
「コア講義」を書名に冠した教科書の特徴は,学ぶ内容を学校で行う講義
の回数 15(あるいは 30)に区分して配置している点にあり,本書において
も広い範囲を扱う現代生物学が 14 章に分割・配置されている(注:あと 1 回分は期末テスト用).さらに本シリーズは特定領域に特化するという作り ではなく,コンパクトな記述を行うことにより,制限されたページ内に広い 範囲の項目を普遍的に盛り込むというコンセプトで編集されている.本書の 最初の 2 章では生物学の骨格をおさえる目的で,まず分類や遺伝について学 ぶ.3 章から 7 章までは分子や細胞といったミクロレベルの生物学を扱い,
細胞生物学,分子生物学,発生生物学,そして生化学(生物学分野の化学)
に関する内容を配した.次に生物個体〜集団を対象にするマクロレベルの生 物学を配し,動物生理学(器官の働き,個体レベルの統御,生体防御),植 物生理学,生態学(生物の行動と集団の働き),進化・系統について説明し,
最後は生物学に関する技術やその応用について述べている.専門的な内容や 用語に関しては「解説」で説明を行い,さらに話題性のある内容や,生物学 で重要とされている事象の説明は,コラムとして紹介した.各章の章末には 演習問題を設けているので,習熟度をその都度チェックすることができる.
本書では生物学を専攻する学生が学ぶような高度な内容は省いているが,そ の中でも是非知って欲しいと思うものについては,関連する章末に「発展学 習」として紹介した.
広い範囲の生物学を系統的かつコンパクトに学べるようにと本書を作成し たが,本書が生物学を学ぼうという学生諸君の一助となれば,作り手として はこれ以上の喜びはない.最後に本書の作成にあたって尽力いただいた裳華 房の筒井清美,野田昌宏の両氏に,この場を借りてお礼申し上げます.
平成
20年
8月
蝉時雨響く西千葉の杜の一室で 田 村 隆 明
まえがき