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北京四合院の門における壁画調査について

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Academic year: 2021

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調査概要

Ⅰ−1 調査期間

大学で設けられた研究専念期間を利用して,平成17 年9月1日より平成18年3月31日の期間,北京市に滞 在し,胡同内の古建築の門における美術的な壁画につ いて調査研究を行った。日本に居るときから,中国の 街並み,即ち胡同には魅力を感じ,北京の古い街並み の現状を記録しておこうと考えていた。

研修中胡同の両側に並ぶ塀や住宅が,清代の四合院 と言う住宅様式に則っているのを知り,門の形や装飾 がおもしろく,それらを探して歩くようになった。現 在北京はオリンピックに向け,大変な建築ラッシュで,

胡同内の庶民の住宅として使っている四合院を,区画 ごと撤去してしまい,古建築も瓦礫と化しているのを,

目の当たりにし口惜しい気持ちがした。

北京の庶民は,現在,明・清時代の一軒の四合院の 敷地の中に,小規模な住宅を増築し数世帯が生活して いる。

即ち清時代の建築様式が,そのまま残っていること はほとんど無いが,塀や門は,古い様式を留めている ものがあるように思えた。門は,通りに面しており,

敷地内の建築に比べ,自由に撮影可能で観察しやすか った。はじめは門の装飾彫刻の資料収集を行っていた が,門内部の壁に壁画があるのを見つけ,門と同時に 壁画の収集も行った。

Ⅰ−2 北京市の市街区概略

門の現状を記録するために調査範囲を明確にするに は,北京の市街区を大まかに知る必要がある。街並は

明・清朝の皇帝の居城であった紫禁城を中心として,

条里制がしかれ,街は碁盤の目のように整備されてい る。現在は2008年北京オリンピックに向けて,市全体 が整備中であり,近年の経済発展の基盤づくりとして,

条里制の道路に,さらに紫禁城を中心とした同心円の 高速道路が,二環・三環・四環・五環と整備され郊外 までふくらみ,北京市のほとんどの部分が短時間でつ ながるようになっている。その中で調査した胡同や四 合院は,明・清時代の路地と建築であるため,紫禁城 の周辺に入り組みながら,半径5キロメートル位の範 囲に点在して残っている。それは,だいたい二環の内 側にあたる。

Ⅰ−3 調査の範囲と実際の足取り

Ⅰ−2で述べたように,二環内には古い街の様子が 残り,たくさんの胡同が寄り集まって,しかも一つ一 つの胡同に名前が付いている。北京地図を購入してみ たが,詳しい胡同名は載っていず,迷路のような路地 を歩きながらの調査なので,最初,胡同名を正確に把 握できたとはいえなかった。半径5キロメートルの地 区を路地から路地をくまなく探し,門及び内部の壁画 を見つけ出すには,歩いていたのでは時間切れになる と思い,後日は自転車を用い胡同内を調査した。特に 美術的な価値がある門は,東城区,西城区に多く,崇 文区,宣武区,朝陽区にも少数ではあるが見られた。

また今回の調査は当初,門に彫刻が施されているもの を中心に資料集めをした(資料1)が,たまたま壁画 がその門内部にあったのをきっかけに,収集を始めた。

その結果,門の彫刻とその内部の壁画の両方がある場

北京四合院の門における壁画調査について

土屋 昌義 美術科教育学 *

(2006年6月30日受理)

* 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町4-1-1)

(2)

合のみ資料としたが,壁画のみなら更に見つけられる と考えられる。

Ⅰ−4 胡同と四合院住宅

四合院を囲む道や,四合院の間の路地は,清時代に 出来た道で「胡同」と呼ばれ,地区によっては北京観 光の目玉として観光ガイドにも取り上げられている。

胡同巡りは,輪タクで胡同の中を走りながら,清朝の 古建築のならぶ街並みを散策し,少し古く懐かしい中 国の生活様式をかいま見ることができる(資料2)。

四合院は,北京の民家の形式上もっとも一般的な住居 で,漢代までに確立され,明・清時代までその伝統形 式で造られていた。右記の図(資料3)は,典型的な 四合院様式である。経済的に恵まれた人が持っている 四合院は,今でも清時代の様式を残す配置であるが,

一般の四合院はその建物と敷地を多くの家族がそれぞ れ利用し,個々の家族が増築して軒がくっつくように

して暮らしている。すなわち四合院の敷地には,清時 代以前の建物とその後建てられたものが,雑然と配置 されているのが現状である。

Ⅱ,調査資料

Ⅱ−1 四合院の門のいろいろ

封建時代には,門堂制度は礼制の重要組織であり,

一定の社会地位の表れであった。1652  年(清順治9年) に「大清会典事例」により詳細に形式が規定されてい た。それには門の規模,様式,油漆顔色,装飾の種類 に格付けがあり,緻密さの度合いによる規定もあった ようだ(資料4)。民国以後,旧制度は取り除かれ,北 京の四合院は,古い規定は途絶え,そこの主人の身分 を説明するものでは無くなって,今日に至っている。

置かれた垉鼓石を見ても,門の形式と異なった石が置 かれているのを見ることもある。しかし現存する胡同 の中で,注意深く門を観ると一定の様式があることに 気がつく。中国では門を総称して屋宇門と呼び,入り 口にたたきの部分があるもの,門が道に直に面してい るものがある。それを形式ごとに広亮大門・金柱大 門・蛮子門・如意門と呼び区別している。

以下に四つの門の特徴を記す。(資料4)

○ 広亮大門

かつての封建社会における高級官僚の邸宅の門で,

四合院の東南に位置し,一間以上のたたき部分を持 ち,柱に支柱のあるのが特徴である。

○ 金柱大門

官僚の邸宅門で,入り口扉が前面にあり,たたき部 分が広亮大門に比べて狭い。

足取りの1 例(資料1 )

・丸は胡同の位置を示し,番号は門の資料番号を示す.

・色別けした太い線は,1 日の行程を示す

・全体は北京市内のほぼ2 環の地図を示す

胡同(資料2 )

四合院住宅の図(資料3 )

www.tabiken.com/history/doc/H/H260R200.HTM より

(3)

○ 蛮子門

庇のしたに扉があり,たたきの部分がない。

○ 如意門

蛮子門と似ているが,框の部分が無く,レンガの壁 がある。

以 上 の う ち , 特 に 如 意 門 に あ る 彫 刻 の 飾 り は , 北 京 の 建 築 様 式 の 特 徴 を 示 し , 門 の 彫 刻 は 精 緻 を 凝 ら し て い る の で , 別 に 資 料 と し て 収 集 し た 。 壁 画 は と い う と , お も に 蛮 子 門 に 描 か れ て い る も の が 多 か っ た が , 広 亮 大 門 に も 何 点 か の 資 料 を 見 つ け ることが出来た。

Ⅲ調査結果

Ⅲ−1 個々に見られる壁画の特徴(図版1)

壁 画 は , 門 入 り 口 か ら 見 て 内 部 の 両 側 壁 面 に あ り,切り妻屋根を支えている3本の柱と屋根の重量 を 分 散 さ せ る 横 柱 の 間 に 描 か れ て い る 。 通 常 其 の 部 分 は 地 上 か ら 三 メ ー ト ル 程 の 高 い 場 所 に あ り , 六 壁 面 で 長 方 形 の 部 分 が 2 カ 所 , 直 角 3 角 形 の 部 分 が 4 カ 所 と な っ て い る 。 部 分 部 分 に 描 か れ た 絵 は 異 な っ て お り , 各 部 分 の 隅 に は , 額 縁 の よ う に 縁 取 り 模 様 が 施 さ れ て い る も の が 見 ら れ た 。 調 査

し た 地 域 の 総 て の 門 に 壁 画 が 残 っ て い る の で は な く , 特 別 な 四 合 院 の 門 の 中 に 存 在 し て い る よ う で あ る 。 し か し 残 存 し て い る も の の 中 に も , 文 革 時 代 , 伝 統 に 対 し て 否 定 的 な 運 動 か ら , 一 部 粘 土 で 汚 さ れ た 形 跡 が あ っ た 。 残 念 な こ と に 門 柱 の 花 の 飾 り と 同 様 , 判 別 出 来 な い ほ ど 破 壊 さ れ て い る 場 合 も 見 ら れ た 。 図 版 1 は 門 内 の 壁 画 左 右 両 面 の 様 子 を 示 す も の で こ の 絵 の 内 容 は , 同 一 の テ ー マ で 描 か れ て い る 場 合 と 各 壁 面 が 独 立 し た 題 材 で 扱 わ れている場合とがあった。

資料5は,壁画があった門の住所を表し,一部を次の 図版と文章で説明する。

広亮大門の例       金柱大門の例

蛮子門の例        如意門の例(資料4)

  場所  同じ門内の壁画と図版

府学胡同53   図版掲載

横街胡同28 東四八条胡同107 板庵胡同9 地安門東大街71

桃条胡同8   図版掲載

日光胡同94 新太倉胡同56 交通口北頭条胡同70 西四北三条胡同19 東四条五胡同48

民康29 胡同    図版掲載

本司胡同34    図版掲載

方家胡同25    図版掲載

長春4 条胡同16 南官房胡同47 炒豆胡同75 本司胡同34 方家胡同13 東四八条胡同107 正覚胡同23 北河胡同37 航空胡同3 大翔風胡同22 西四北二条胡同55 黄化門街43 民康胡同35 魏家胡同59 北新胡同27 五道管胡同61 育群胡同17

板橋二条付近    図版掲載

培英胡同13    図版掲載

方 胡同67  

方家胡同29    図版掲載

(資料5)

(4)

如意門の内壁に描かれた壁画で,柱に区切られた壁は,まわりを端正な蔓の模様で縁どられ,どの面もいろいろな形態の器が 描かれ,統一がとられている。入り口から見て,左の面(上段)は,17個ほどの器が描かれ,他の面は16以上が描かれているよう である。それぞれの器は,意匠を凝らし特別な形をして貴重品のようで,しかも下から見上げられるのを意識し工夫して描かれ ている。また器に盛ったものを見るとレンコンや先の尖った果物も見え,花が生けられ,立派な香炉もある。線の特徴としては 直線的で強くしっかり引かれ,白と黒のバランスも美しい。

方家胡同29

方家胡同29

門の両側の壁(図版1 )

(5)

これは,壁画の典型的なもので,八角形と四角形を組み合わせた幾何学模様が大部分を占めている。その幾何学模様のなかに 卍や花を入れ込むことで,各家の変化や特徴を出している。しかも全体の雰囲気は,落ち着いた静けさがあり装飾画の役割を充 分果たしている。

培英胡同13

培英胡同13 門の両側の壁(図版1 )

(6)

Ⅲ−2 個々に見られる壁画の特徴(図版2)

板橋二条付近胡同

典型的な幾何学形態の壁面のとなりに,単純な線だ けで,図案化した花木を自由に伸びやかに描いている。

直角三角形の画面に枝をはわせ構成している表現は,

自由な表現意識がこの時代に在ったと思われる。

桃条胡同8

ここに描かれた花は路上に咲く花のようであるが,

平な地面にではなく,3つほどの隆起面に生えている。

5弁の花びらで,18輪が咲き乱れ,花の向きが異なり 空間的な広がりを感じさせる。またこの花全体には葉 がついていないが,他のところには広葉樹の葉のよう なものや,竜のヒゲのような草も見られる。現在改装 するために解体中であるが,門撮影の折,偶然壁画を 見つけた時の写真である。この解体の状況から,壁画 は壊されてしまい復元されないのでは無いかと感じ た。

府学胡同53

上部の屋根に接した壁面は全面が幾何学模様でうめ られている。六角形を連続して描いているものと,六 角形と四角形を組み合わせたものが見られる。このよ うな幾何学模様は壁画の中でも典型的で,多く見られ た。

民康胡同29

この門の形式は,金柱大門の規模である。壁画はど の面にも人物の様子が描かれている。林の間を長い棒 の先に箱のようなものが付いた道具を担いで歩く,ひ げを蓄えた老人。オオカミにまたがり,供の子どもを 連れ旅する聖人。反対側の壁には,木の枝を運んでい る姿。木の上に立っている人とそれを指差しながら見 上げている人の図。右手に筒のようなものを持つ高貴 な人と,子供がお供をしながら天秤で書物を担いでい る図。庭園で高貴な方から書を受け取っている図。騎 乗にヒゲを蓄えた旅人と若い付き人の図。鹿と周りの 風景図。家の中で壷らしきものを愛でている図。など 人物を中心に描かれている。画家が描いているような 洗練された線ではないが,情感のこもった壁画である。

方家胡同25

階段があり,太鼓の形の抱鼓石が,両側に設置され ている広亮大門と思われる門で,影壁もあることから,

高級官僚が住んでいたと考えられる。門の上部に描か れた壁画は,直線的な枝振りの梅の古木に毛筆書体の

文が添えられ落款まで押してある。他の面には,蓮の 花と葉,流れるような線の春蘭と軽やかにそり上がっ た花が有る。特に梅の枝振りの力強さと花の付き方は,

近代的な感じで,三角形の壁面を占める枝の構成力は,

表現力のある工人が描いたと思われる。

本司胡同34

あまり達者な絵ではない。日常使う机の上に,開か れた本,つぼ,笛が並べられ,蓋をされたつぼと1  枝 がいけられた花器が,棚の上にのっている。別の面に は,筆入れ用の丸つぼと本のようなものが置かれてい る。直線模様の丸筒状の花瓶には花がいけられている 等,3種類の異なった生活場面が見られる。またてっ ぺんの部分は満開の梅の花が,隣の面は風になびいた 木と切り株を持つ古木が描かれている。場面ごとに異 なった絵が描かれていて,稚拙だが自由な雰囲気があ る。故意に壁画を汚した土の跡があり,残念ながら鮮 明には見えない。

Ⅲ−3 壁画技法の特徴

通常,門の内部の壁は,白い漆喰で塗られている。

壁画のある壁は,その上から黒い漆喰を塗り,乾いて からノミのようなもので,彫ったり,削ったりして表 現し,白い線の絵が出来あがっている。ノミの幅が判 るような彫り跡が見え,一本のノミで太い線や細い線 を引く為に,角度を変えながら使った様子が判る。ま た逆に黒い漆喰を削りとり,白い面を出して黒線が残 るようにしているものもある。漆喰が完全に乾くと思 い通りの細い線を引くことは難しいし,湿っている状 態では,黒い色が白い面を汚す恐れがある。彫りやす い状態を掴んでいたと思われるし,その作業は高所で 行われるため,熟練を必要としたであろう。また,そ れらのモチーフは,幾何学文様,草木,人物などで,

三角形の空間に図柄を配置する技量をみても,その当 時特定の工人が携わったと思われる。絵のモチーフの 中には,定まった規定はなく得意とする表現はあった ものの,かなり自由に描かれたようだ。

例えばシャクヤクや梅の花には伝統が感じられるが,

生活に密着したモチーフを取り上げ親しみを込めて描 いた場面では,職人の個性も発揮できたと感じられる。

門の外部に面した彫刻とともに,内部に描かれた壁画 は,その時代の日常を表す絵画表現と思われた。

(7)

壁画の題材(図版2)

板橋二条付近胡同

府学胡同53 桃条胡同8

(8)

壁画の題材(図版2)

民康胡同29

本司胡同34 方家胡同25

(9)

Ⅲ−4 細部に表れた特徴(図版3)

さらに細部を観察し比較するために葉と花のモチー フを拡大して見ると(図版3),表現に個性があるこ とが判るので,表現方法を2つに分け図版3に対応し ながら述べる。

●写実に近いとらえ方で描く

●様式化して装飾的に描く A 葉の表現の特徴

●写実に近いとらえ方で描く

◇A1

蜂の巣を下から棒でたたき落とす様子が描かれてい る。葉の形に特別な特徴は無いが,高い老木とその下 に立つ人の高低の差を見事に表現している。日常よく 見られる光景を記録することによっておおらかな人間 性を楽しんでいるように感じる。

◇A2

木の幹は,直線でおおざっぱだが斜めに傾いた幹と,

一斉に左側にたなびく葉の向きが,風の強さを表現し 風音まで聞こえるようだ。

◇A3

庭の一角を写生した図で,手前の灌木,遠くの築山,

その中間にある木を大きさを変えて表現しているので 庭の広がりが表れている。ノミあとはたどたどしい。

◇A4

水中に生える水草を,目玉の大きい魚とともに描いて いるユーモラスな絵。とぎれとぎれな水草の線が水の 揺らぎを感じさせ,高い壁面に水中を描くという感性 に,時代の自由奔放さを感じる。

◇A5

庭によくある十字架植物を美的な感性で写生してい る。ふっくら丸みのある葉・花・つぼみ・向こう向き に咲く花を配し,線に強弱をつけながら空間の広がり を表現している。

●様式化して装飾的に描く

◇A6

庭園のように一本の老松とその下に岩を配している。松 の幹は様式化されたうろこ形で表現され,葉はしだれた 様に見えるが,空間の広がりは見えない。しかし,松の 木全体が腰をひねった人のように見え,楽しさはある。

◇A7

針葉樹の老木幹の表現に強弱があり年輪を感じさせ る。葉の線は概念的であり,同様な絵を書き慣れてい るのか全体に速度を感じさせる。

◇A8

イネ科の細い草の図で,線の入り方,抜き方に毛筆の ような伸びやかな線が感じられる。葉先の反り返りも 筆慣れしている。

◇A9

イネ科の細い草の図でA8と似ているが,一本の葉の 線がとぎれとぎれで,生命観を表すには至っていない。

B 花の表現の特徴

● 写実に近いとらえ方で描く

◇B1

なすの花と葉であろうか,花の向き葉のねじれ・ひら ひらとした形状が,三角形の画面に伸びやかに配置さ れ,成長する勢いが表れている。技巧的にも花や葉を 白抜きにしながら,葉脈に強弱を残している点で,熟 練した工人が描いたと思われる。

◇B2

大きな花瓶に生けられたラッパ状の花と大きな葉は,

下から見上げるように描かれている。見る人の視点を 意識して描く高度な感覚を持っている。空間の広がり は無いが,大胆な構図にエネルギーを感じる。

● 様式化して装飾的に描く

◇B3

四角い鉢に植えられた盆栽の梅に,花が香っている様 子は,掛け軸の絵のような形式的風格がある。

◇B4

中国の伝統的なシャクヤクの花が豪華に咲き,茎や葉 の線は描き慣れたのびやかさと気品がある。幾重にも 重なる花弁の向きと,白抜きにした装飾的技量は確か なものがある。

◇B5

架空の花だと思うが,六枚の花びらが白く削られ平板 に表現されている。葉は線がきで,葉脈や形に矛盾が ありマークのようだ。地面から自由に伸び出した茎は,

空間を愉しく分割している。

◇B6

花瓶の丸い口から直線的に伸びる枝に,四枚の花びら がつき,全て線で描かれている。三角形の空間に入れ 込むため,花瓶は斜めに描き,不自然さが見える。

◇B7

蓮の花と葉を愉しげな線で描いている。水面からでる 葉が,花に相対すように下を向き,様式化された葉脈 の線の形が愉しい。輪郭線をはっきりさせている。

◇B8

細長い場所に,ツル科の六枚花弁の花が,伸びやかに はうように描かれている。花・葉・つるを白く削り,

細い葉脈を残すシンプルな形式美がある。

◇B9

シャクヤクが整った形式で,白抜きに描かれている。

特に花弁の形は,形式が決まっているようで黒く残さ れた脈は,よどみもなく整然としている。

(10)

細部に表れた特徴(図版3)

A1 A2 A3

A7 A8 A9

A4 A5 A6

(11)

細部に表れた特徴(図版3)

B1 B2 B3

B7 B8 B9

B4 B5 B6

(12)

四合院の門の壁画・現状と課題

資料の壁画は,高く暗いところに位置しているのが 幸いし,清時代当時のままのように保存できている。

しかし下の資料に観られるように,四合院の改築が進 むと四合院の形式を保ちながらも,すべて新しい材料 で作り直してしまうことの方が多い。残念なことに清 時代の資料が失われる結果となっている。

中には,四合院を大切に維持したいと考える知識階層 もあるが,壁画まで残そうとする意識はまだ稀である。

胡同内を調査していると,多くの富裕層が改装や新築 を行っているが,その建築現場には,清時代とおもわ れる古い絵が描かれた柱が,取り壊され埃まみれにな ったまま放置されている。清時代に焼かれたらしい,

柔らかなふくらみを持つ不揃いな瓦が,使われる当て もなく山積みにされているのを見るにつけ,何ともい えず口惜しい気持ちになる。しかし,商業地区のビル

の間に,古い柱を再利用し生かして設計された店舗現 場もあるので,今後そのような方向で,古建築の再評 価が進むことを期待している。

今後の課題

壁画の時代的な考察は,建物の様式が清時代のもの であると言う胡同内にある掲示板の前堤のもとに,収 集を行った。今後同様な資料を多くそろえることや,

中国の同時代の資料と突き合わせることによって,よ り正確な制作年代が判断出来ると思われる。すでに出 版された中国資料においても,門の建築自体でさえ,

「明・清朝」という表示でおおよその時代で記述され ているのが一般的である。 このような庶民の住宅は,

正確な記録がないこと,一般の人の関心が薄いことで,

はっきりとした年代を決めることが出来ない。今後同 様な壁画と門の様式を比べて,さらにはっきりした時 代を特定してみたいと考えている。

しかし壁画の正確な資料を撮影するには,大がかり な用意が必要である。壁画の位置が,地上3メートル 程の高さにあり,門内にあるため下からの撮影となる。

どうしても資料が変形してしまい絵としてのバランス が崩れてしまう。また照明の無い暗い場所にあり,鮮 明な映像を得るには,照明設備の確保をしなければな らない。その上現在の住人が門内部を物置代わりに使 用していることで,スペースがなく足場の確保が難し い。したがって壁画と直角にカメラを向けることは,

容易ではない。また,このような線描きの壁画は,四 合院住宅の他の建物にも見られるのではないかと推測 され,今後機会があればそれも調査したいと思ってい るが,そこに暮らす様々な住民の理解を必要とする点 でも,個人では限界が感じられた。

今後,「古建築が北京の歴史を生き抜いた文化遺産」

であるということの市民権を得て,一日も早く詳しく 記録,保存されることを,切望する。

謝辞

研究専念期間中,受け入れ校となった北京中央美術 学院城市設計学院及び直接指導を頂いた設計系主任呂 中元副教授には,この調査を行うにあたって,適切な助 言を頂いたことに感謝いたします。

参考資料

北京交通地理指南 京華出版社 北京交通遊覧図 中国地図出版社 北京老宅門 王彬 徐秀珊著 団結出版社 北京老街巷 伝公著 北京出版社 清時代の建築が整理されている広梁門付近の胡同地区

恭倹胡同内の新築の様子

西四北四条の新築の様子

(13)

Abstract

This is one report to introduce fresco inside old yard gate in BEIJING SHIGOIN. 

This report not only supplies you present photographs in Beijing, but also makes a full statement to describe unique old wall paintings.

It may be rated as pictures and words in objective watch amalgamation.

The remained pictures in this report will turn of great memory and valuable source for artist.

Research of fresco inside old yard gate in BEIJING SHIGOIN

TSUCHIYA Masayoshi

Department of Art Education

(14)

参照

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