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493

昭和学士会誌 第73巻 第6号〔493‑495頁,2013

特  集 遺伝性乳がん・卵巣がん

「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の治療

現状と将来展望

」  遺伝カウンセリングの立場から

昭和大学病院臨床遺伝医療センター

  四元 淳子

は じ め に

 2011 年 11 月に昭和大学病院ブレストセンターで HBOC の遺伝子検査を開始して 2 年半が経過した.

2013 年 7 月までに,遺伝カウンセリングを実施し た新規患者数は 200 名を超え,遺伝子検査実施数は 116 件となった.

 当院では,ブレストセンター開設当初より,乳腺 専門医が家族歴や本人の病歴より HBOC の可能性 の高い患者をスクリーニングし,遺伝カウンセリン グの対象者としてきた.従来の HBOC ハイリスク 者(複数の家族歴,40 歳以下の乳がん発症,複数 の乳がん罹患歴,卵巣がんの既往,男性乳がん家族 歴)とされる条件に加え,家族歴のないトリプルネ ガティブ乳がん患者や,膵臓がんの家族歴等も対象 としてきた結果,これまで日本で報告されてこな かったユニークな結果が集積しつつある.

 HBOC は, または 遺伝子に生ま れつきの病的変異があることで,70 歳までの乳が んの発症リスクが最大で 84%,卵巣がんで 60%程 度まで高まり,2 つ目の原発乳がんの発症リスクも 高くなる遺伝性腫瘍の一つである.現在 1 年間に新 たに乳がんと診断される日本人女性は 6 万人を超え ること,そのうちの一部(5 〜 10%)が HBOC と 考えられ,その家族も同様の遺伝子変異を共有する 可能性があることを考えると,潜在的な HBOC 該 当者は相当な数になることが予測される.

遺伝子検査の目的

 遺伝子検査の結果, に病的変異が確認 された場合,HBOC に対する最適な治療の選択や

管理,そして予防などの対策が具体的になる.一方 で遺伝子の変異が確認されなかった場合には,他の 遺伝子の変異や多因子遺伝などの可能性が残るが,

HBOC のように極端に乳がんや卵巣がんの発症リ スクを高めるものではないと考えることが可能にな る.しかしながら家族歴が濃厚であったり,本人の 病歴が特徴的(若年,両側,複数)であるような場 合にはやはり一般の人よりはリスクが高い(2 〜 4 倍程度)と考えて検診などを積極的に取り入れてい くことが勧められている.

昭和大学病院における

HBOC

の特徴  昭和大で遺伝子検査を実施した 104 例に対し,遺 伝子変異は 24 例(23%)に確認されていている.

2008 年に報告された国内 135 家系についての遺伝 子変異率は,26.7%であったが, と

の比率をみると,2008 年時には が 12.6%,

が 14.1%であったが1),昭和大では

が 16.3%, が 6.7%とその割合が逆転する 結果が得られている.この背景として,患者の背景

(家族歴の有無,トリプルネガティブ乳がんなど)

の違いが推察されるが,以前にはなかったトリプル ネガティブ乳がん患者を新しい遺伝子検査の対象者 としてきたことも大きく影響していると考えられ る.

HBOC

乳がん卵巣がんの予防と検診  乳がん

 NCCN のガイドラインでは, 遺伝子変 異のあるハイリスク女性の乳がんの検診方法には,

マンモグラフィーと MRI の併用が推奨されている

(2)

四 元   淳 子

494

が,日本人女性には超音波検診が有効な場合があ る.中でも MRI は早い段階での乳がんの発見に最 も適しているとされている.

 例えば手術の前に遺伝子検査を実施し,その結果 に基づいて術式の選択が検討されることがわが国で も近年行われるようになってきた.具体的には,遺

伝子変異がある場合には,リスク低減を念頭に乳房 全摘が優先されることがある.NCCN のガイドラ インでは,35 歳以下の女性または の遺 伝子変異がある閉経前女性の温存手術は相対的禁忌 とされており,化学療法を検討する際の参考情報と なることもある.

 現在行われている HBOC 乳がんの予防対策とし ては,予防的化学療法や予防的な乳房切除,予防的 卵巣切除がある.特に予防的外科手術による予防効 果は高く,予防的乳房切除は乳がんリスクをおよそ 90%下げることが期待されることから,米国では,

2012 年, の 病 的 変 異 の あ っ た 女 性 の 80%が,検査後 5 年経過するうちになんらかの予防 的外科手術を受けているとの報告があった2).予防 的外科手術には,予防的乳房摘出術と予防的卵巣卵 管摘出術があるが,現在米国では,積極的にリスク を低減するための手段として行われている.一方日 本では,一部の医療機関で開始されたばかりであ り,まだ社会的なコンセンサスが得られている状況 にはないが,米国においても様々な議論と検討が重 ねられ今のような状況になっていることからも,今 後はわが国においてもその取組に注目が集まってい くと思われる.

図 1 HBOC の遺伝カウンセリング

図 2 遺伝カウンセリング件数・遺伝子検査数

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HBOC の遺伝カウンセリング

495 HBOC

と遺伝カウンセリング

 遺伝カウンセリングでは,その人の詳細な病歴や 家族歴を聴取しなから,HBOC のリスク評価を行 い,同時にその人が抱える心理的葛藤や問題,ニー ズについてもカウンセリングしていく.そして十分 な情報提供とともに遺伝子検査について話し合い,

結果をどのように活用できるのか,メリットとデメ リットについてよく確認する.そして本人の意思に よって検査を受けるかどうかを決めていくのだが,

検査を受けない場合のその後についても想像を巡ら せ,その患者さんにとって最もよい選択とはなんな のかについてじっくり話し合う.さらに,家族への 影響についてもタイミングを見計らいながら話し合 う.同じ乳がんの患者さんでも,年齢や立場,考え 方や価値観は異なり,遺伝カウンセリングに来るタ イミングも診断直後,術前や術後,化学療法中など 様々である.どのような状況でどのような心境でそ こにいるのか,豊かな想像力と創造性を持ちながら 患者さんと向き合うことが求められている.

ま と め

 わが国でも HBOC に対する取り組みが急ピッチ で展開されている.今後の HBOC に対する取り組 みとしては,まず HBOC についての理解を深めて もらい,可能性のある患者さんが適切に遺伝カウン セリングの機会を得られること,そして的確に診断 が行われ,適切な医療に乗ってもらえるような医療 体制を作っていくことが重要と考えられる.昭和大 学病院には,その先見的取組を実施していく医療機 関としての役割が求められているといえよう.

1) Sugano K, Nakamura S, Ando J,  . Cross- sectional  analysis  of  germline  BRCA1  and  BRCA2  mutations  in  Japanese  patients  sus- pected to have hereditary breast/ovarian can- cer.  . 2008;99:1967‑1976.

2) Schwartz  MD,  Isaacs  C,  Graves  KD,  .  Long-term outcomes of BRCA1/BRCA2 test- ing : risk reduction and surveillance.  .  2012;118:510‑517.

図 3 BRCA1,L63X,Family,No. 26

図 3 BRCA1,L63X,Family,No. 26

参照

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