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昭和大学薬学部生体制御機能薬学講座薬理学部門

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非筋細胞収縮およびその細胞内情報伝達系  評価のためのコラーゲンファイバー法の有用性

昭和大学薬学部生体制御機能薬学講座薬理学部門

  野部 浩司

文京学院大学保健医療技術学部作業療法学科生理学部門

  野部 裕美

城西大学薬学部薬学科生理学講座

  加園 恵三

抄録:哺乳類における細胞の多くは,機能発現時にさまざまな力を発生させる.筋肉細胞はも ちろん,分泌細胞や免疫系細胞などの非筋細胞においても力を発生することが予想されてい る.しかしながら非筋細胞による収縮反応を検出することは,その発生張力が極めて微弱であ ることから困難とされてきた.近年,特定の受容体やチャネル,細胞内因子に変化を加えた培 養細胞が容易に調製できるようになり,その変化がどのように細胞機能に影響するかについて 興味の対象となっている.そのため,目的とする細胞因子とその機能の関係を理解する一つの 指標として非筋細胞収縮の評価が有用であると期待されるが,その有効な評価方法は確立され ていない.本総説においては,非筋細胞収縮のためにこれまで試みられてきたいくつかの手法 について紹介し,著者らが線維芽細胞を用いて進めてきたコラーゲンファイバー法による収縮 測定法の詳細について解説する.また,コラーゲンファイバー法による知見と問題点を挙げ,

この方法が非筋細胞における細胞機能や細胞内情報伝達系を理解する上で有用な手法であるこ とを提案する.

キーワード:血清,コラーゲンファイバー,線維芽細胞,発生張力,細胞内情報伝達,非筋細 胞収縮,Rho,Rho kinase,Ⅰ型コラーゲン

はじめに〜非筋細胞収縮測定の必要性  生体を構成する種々の細胞はさまざまな機能を発 現し,それが複合的に組み合わされて個体としての 生命活動が営まれる.それぞれの細胞が機能発現す る際には,個々の細胞が何らかの力を伴う場合が多 いと考えられている.力を発生する機能を持つ細胞 の代表が筋細胞であり,骨格筋細胞は動作を生み出 し , 姿勢を維持する1).平滑筋細胞や心筋細胞は,

収縮弛緩を繰り返すことにより循環器系2)や消化 器系3),泌尿器系4)臓器などの働きに寄与している.

一方,筋細胞以外の細胞, 非筋細胞 についても 筋細胞と比較して微弱であるが,収縮力を発生する と考えられる5,6).例えば,細胞が義足を伸ばした り生理的因子を分泌したりする際には,必ず細胞に

何らかの形態変化が伴う7,8).これらはわずかな変 化であるが,その際に細胞自身が何らかの力を発生 する必要がある.本総説では,このような非筋細胞 の機能発現時に起こる形態変化による微弱な力の発 生を,広義の「収縮反応」ととらえ,非筋細胞収縮 として取り扱う.非筋細胞収縮により発生する力

(発生張力)は,筋細胞による収縮と比較して極め て微弱であるため,通常の張力測定方法では的確に その変化を捉えることは難しい.一般にオルガンバ ス法と呼ばれる筋組織標本を 37℃に恒温した生理 的条件下に懸垂して収縮を測定する方法は9),その まま非筋細胞組織に流用することができず,非筋細 胞収縮の検出に適した方法の確立が待たれている.

 近年タンパク質発現調節の手法が確立し,研究者 が目的とする特定の受容体やチャネル,あるいは細 総  説

責任著者

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胞内酵素などのシグナル因子を自由に量的・質的に 変化させることが容易となった5,10).これにより目 的とする因子の細胞レベルでの変化が細胞機能にど の様に影響するかを知ることが可能となる.しかし ながら非筋細胞,特に単層培養細胞を標本としてタ ンパク質レベルの変化と収縮応答を連動して直接的 に評価する事は極めて難しい.

 これらのことを背景に,いくつかの研究グループ では後述するような培養細胞を用いて非筋細胞収縮 を評価する方法として画像解析法11‑13)や collagen  sheet14,15)を用いた測定を行ってきた.しかしなが ら得られた結果は,いずれも間接的なものでしかな かった.非筋細胞収縮を正確に評価するためには,

細胞あるいは均一な細胞集団が発生する発生張力を

「経時的」に検出する必要がある.また得られる反 応についても,刺激量に応じた「用量依存的」な反 応であることが必要であり,さらに収縮因子を取り 除くと弛緩反応に転じ,再度刺激をすると同様な収 縮応答を繰り返す「可逆的」な反応であることが望 まれる.これは,同一の標本での繰り返し応答を利 用してさまざまな阻害薬や受容体遮断薬を用いた評 価が可能になるためである.これらに挙げた条件 は,直接的な非筋細胞収縮測定法の確立をより難し いものとしている.

 本総説では,培養細胞を用いた非筋細胞収縮につ いて,画像解析法や collagen sheet を用いた方法に ついて紹介し,さらに著者らが確立した三次元培養 によるコラーゲンファイバー法を解説し,得られた 知見よりその有用性について述べる.

画像解析法を用いた非筋細胞収縮評価法  簡便に細胞の形態変化を評価する方法として画像 解析法が広く用いられている5,10).これは,標本と なる培養細胞を蛍光色素などで染色し,その画像を 取得することにより細胞がどの様に変化するかを評 価する方法である.古くから有用な方法として用い られており,染色する色素もバラエティー豊かに用 意 さ れ て い る16). ま た green fluorescent protein

(GFP)17)のように目的タンパク質に付随して細胞内 で蛍光タンパク質を発現させ,その細胞内分布や挙 動を知ることも可能となっている18).画像検出のた めの顕微鏡もめざましい進化を続けており,レー ザー光源を用いて微細に細胞の状態を把握すること

が可能になっている.取得した画像の解析技術も同 様に進歩しており,光学切片から再度三次元に細胞 を再構築し,空間的にその変化を観察する事が可能 となっている19,20)

 蛍光染色法は,細胞膜や細胞内因子の挙動を理解 する際に有用であるが,光学画像の細胞形態(長軸 方向の長さなど)を測定しても目的の細胞がどれく らいの発生張力を生み出したかを知ることは出来な い.それは,画像上変化が認められない場合でも細 胞は力を発生している場合があるためである.ま た,蛍光タンパク質を発現させてその画像を測定す る場合は,刺激前と刺激後を同一の細胞標本で比較 することができるが,抗体を用いた蛍光染色を行う 際には細胞を固定して細胞膜を透過性にする必要が ある.この場合は刺激前の細胞と刺激後の細胞が異 なってしまうという問題点もある.さらに反応を可 逆的・繰り返し観察することができない.

 画像解析法は,細胞形態の変化や細胞内因子の挙 動を捉える場合に適しており,非筋細胞収縮に関し ては,細胞形態変化をパラメーターとする間接的な 検出で充分な場合に有用な手法と言える.

コラーゲンシートを用いた非筋細胞収縮評価法  培養細胞の集団が起こす収縮反応を測定するため に 1990 年に Kono らによって用いられた方法が,

コラーゲンシート(collagen sheet)を用いた方法

である21,22).これは,細胞と細胞の間の空間,細胞

外マトリックスを形成するコラーゲン線維やエラス チン線維の性質を用いた手法である.一般に細胞懸 濁液とコラーゲン・エラスチンを混和すると,細胞 はコラーゲンと結びついてその隙間をエラスチンが 埋めることにより安定化する.この混液を培養した ものが collagen sheet である.この collagen sheet は,培養ディッシュの形状に従い円形の薄いシート 状となる.このシートを種々の刺激条件下で数日培 養すると,シート中の培養細胞の収縮や形態変化に より collagen sheet が次第に短縮して小さくなる.

この反応におけるシートの直径を経時的に実測する ことにより培養細胞集団の収縮や形態変化を推定す ることができるとされている.この方法は簡便であ り,特殊な測定装置を必要としないため非筋細胞収 縮を測定する方法として広く用いられてきた.

 この collagen sheet 法を用いて,線維芽細胞の細

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胞外マトリックスにおける役割やエラスチン,フィ ブリンとの関連性などの知見が得られている23‑25). このように研究目的によっては,この collagen sheet を用いた方法により充分細胞の機能変化が評価でき ると思われる.しかしながら検出しているのはやは りシートの直径であり,収縮力を評価しているとは 言い難い.さらに,問題点としてはこのシートの短 縮が不可逆的であり,繰り返し同じ標本での検討が できない点にある.また,収縮反応としては収縮の 方向性が不明という問題点もある.

コラーゲンファイバーを用いた非筋細胞収縮評価法  前述までの画像解析法や collagen sheet 法の問題 点を解決すべく考え出されたのがコラーゲンファイ バー(collagen fiber)法である.著者らが培養線 維芽細胞を用いて確立したこの collagen fiber は,

単層培養した NIH 3T3 fibroblast cells を細胞懸濁 液とし,中和した type-Ⅰ collagen と混和して三次 元的に培養したものである26,27).調製法やその原理 等に関しては後述するが,これにより構築された立 体的な collagen fiber は,軟らかいが張力測定の標 本として使用することができる程度の強度をもつ.

Collagen fiber を用いた張力測定では,微弱な張力 変化が測定できる高感度のトランスジューサーを用 いることにより約 50 〜 200 µN の収縮力を等尺性張 力として検出することが可能である.さらに,収縮 刺激を除去すると弛緩して元の静止状態に戻る.こ の標本に再度同様の刺激を行うと再び類似した張力 発生するという,可逆的な反応を繰り返す特徴も示 す.従って,collagen fiber を用いることにより,こ れまでの問題点を解決し,単層培養した細胞集団の 収縮反応を力として検出することができる.

NIH 3T3 fibroblast cells 

を用いた

  collagen fiber

の調製法

 培養線維芽細胞を用いた collagen fiber(fibroblast  fiber)の調製方法について述べる27,28).使用した細 胞は,マウス由来の代表的な培養線維芽細胞株であ る NIH 3T3 fibroblast cell で,培養は,Dulbeco s  modified Eagles medium(DMEM)に 10%仔牛血 清(calf serum:CS)および 100 units/ml penicillin  and 100 µg/ml streptomycin 混合液(PS)を添加し た培地(DMEM with CS and PS:DMEM/CSPS)

を用いて,5% CO2 & 95% air を通気した 37℃のイ

ンキュベータ内で行った.培養には,直径 10 cm の非コーティングプラスティックディッシュを用い た.DMEM/CSPS は 48 時間毎に 1 回交換し,コン フルエントになった細胞を 1:4 の比率にて継代培 養した.

 継代処理時には,細胞をphosphate buffered saline

(PBS)にて洗浄し,0.04% trypsin および 0.02%

EGTA を含む PBS(pH 7.2)中にて 3 分間室温に て処理した.剥がれた細胞を回収し,さらにディッ シュを PBS にて 2 回洗い込んだ.この細胞懸濁液 を均一に混和した後,別途用意した 4 ml DMEM/

CSPS を入れた 10 cm ディッシュ中に約 1 ml 滴下 した.細胞がディッシュ上で均一になるように振盪 し,CO2インキュベーター内で 30 min インキュベー トした.インキュベート後,顕微鏡下で視野中の約 半数の細胞がディッシュに接着していることを確認 した後,非接着の細胞と共に 5 ml の DMEM/CSPS で培地交換した.作業後 24 時間以内に一度培地交 換し,それ以後は 48 時間毎に行った.平均 4 日ほ どでそれぞれのディッシュはコンフルエントになっ た.測定には 5 〜 40 継代の細胞を使用した.

 Fibroblast fiber 調製のために,三次元培養用の シリコンチャンバーを自作した(Fig. 1).このチャ ンバーは,耐熱ガラス製の直径 10 cm のシャーレに シリコン(2 液混合型:信越シリコーン社製)を充 填し,凝固後,幅 8 mm,長さ 50 mm,深さ 5 mm の溝を造った.この溝の両端部分に,別途作成した シリコン製の円柱(直径約 3 mm)2 本を Fig. 1 の ようにシリコン系接着剤にて固定した.このチャン バーはオートクレーブにて滅菌が可能であり,繰り 返し使用した.

 Fibroblast fiber 調製は,最終濃度が 2

×

106cells/

ml になるように調製した細胞懸濁液と,0.1 M NaOH で中和した 0.5 mg/ml type-Ⅰ collagen 溶液(rat tail 由来)を体積比 1:1 で混和することを基本とした

(Fig. 2).しかしながら,混和する collagen 溶液や 0.1 M NaOH 溶液には培地成分が含まれないため,

使用する collagen と 0.1M NaOH に対応した量の 2 倍濃度の DMEM/CSPS を別途添加し,細胞懸濁液 との混和後も培地の成分が一定に保てるようにした

(Fig. 3).

 Fibroblast fiber の調製は,継代培養時と同様に 細胞懸濁液を調製し,標本中の細胞数を細胞計算板

(4)

にて測定した.算出された細胞数を基に,最終濃度 が 0.5 mg/ml type-Ⅰ collagen,細胞濃度 2

×

106cells/

ml となるように添加した.細胞懸濁液中の細胞数 の計算から,添加する試薬類の量までを連続的に算 出できるように,fibroblast fiber 調製シート(Fig. 4)

を使用した.

 Fibroblast fiber 調製シートに従い作成した細胞 および collagen 混合液は,2 ml ずつ上記の自作チャ ンバー中に流し込み,CO2インキュベーター中で培 養を継続した.なお,collagen 溶液は酸性条件下に

て液体であるが,NaOH により中性付近(pH 7.4)

と な る と 凝 固 を 開 始 す る た め,collagen 溶 液 に NaOH を添加してからは速やかに(5 min 以内)細 胞と混和し,チャンバー中に移動する必要がある.

 チャンバー中に移動した細胞と collagen の混合 液は,24 時間経過後からチャンバー中の 2 本の柱 をつなぐように立体構築物(fibroblast fiber)の形 成を開始した(Fig. 1).この時点でチャンバー中の 混合液の体積が減少するので,それを補うだけ DMEM/CSPS を追加した.さらに 48 時間経過後ま

Fig. 3 Fibroblast fiber 調製例と各構成成分比の概要 Fig. 2 NIH3T3 fibroblast cell を用いた fibroblast 

fiber の調製法の概要

Fig. 1 三次元培養用チャンバーと fibroblast fiber 構築の経時的変化 調製した線維芽細胞とコラーゲン混液を三次元培養用のチャンバーに流し込み,実 験方法に従い 1 〜 3 日間培養を行った.1 日目においては均一な混合液であるが,2 日〜 3 日と次第に 2 本の柱をつなぐ立体構築物 (Fibroblast fiber) が構築された.右 パネルは,視認性の向上のため培養液から透明な PSS に交換した時の画像である .

(5)

での間に,fibroblast fiber はチャンバー中で次第に 細く・固く安定化した.Fibroblast fiber が構築され た後は,それ以外の液体成分を一度除去し,新たな DMEM/CSPS を添加した.構築された fibroblast  fiber は,調製後 72 〜 96 時間は構築状態が安定する ので,通常の測定はこの期間の fibroblast fiber を使 用した.

Fibroblast fiber

中での線維芽細胞の

 

配置や構築の原理

 NIH 3T3 fibroblast cell を使用して fibroblast fiber がなぜ構築されるかの詳細については,未だ不明な 点が多く残されている.Fibroblast fiber が構築され る基本的な環境としては,線維芽細胞と collagen が 生理的条件下で共存し,この時互いに接着してネッ ト状の立体構築物を構成すると考えられる.これは 創傷治癒過程における肉芽組織と類似している29). 創傷部位において線維芽細胞は周辺の,あるいは自 身の産生したコラーゲン線維と結合してエラスチン 線維などと共に肉芽組織を構築する.この肉芽組織 が収縮反応を起こす(創収縮と呼ばれる)ことによ

り,創傷部位が安定化や傷の閉塞が行われると考え られている30).また損傷した皮膚の再生医療におい て用いられる人工皮膚は,薄いシート状のヒト線維 芽細胞と collagen の構築物を多数重ねることによ り作られており,これを患部に貼り付けることで皮 膚の再生を図るものである.

 われわれが調製した fibroblast fiber も肉芽組織 や人工皮膚と基本的な原理は共通しているが,一部 解明されていない相違点も存在する.それはなぜ チャンバー中の 2 本の柱のみを認識し(チャンバー 側面や底面とは接着しない),その間を繋げるよう に fibroblast fiber を構築するのかという点である

(Fig. 1).線維芽細胞が 2 本の柱を創傷部位の両端 と認識し,創傷部位を閉塞する方向に向かって 2 本 の柱を近づけようとしているとの推察もされてい る.しかしながら,単層培養された多数の細胞がど のようにして連携をとり,それを何が統括制御して いるかは明らかにされておらず,構築メカニズムの 詳細については明確な根拠は乏しい.

 線維芽細胞がどの様にして fibroblast fiber を構

Fig. 4 Fibroblast fiber 調製シート

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築するか,そのメカニズムを解明するため,調製さ れた fibroblast fiber の中における線維芽細胞の配 置を測定した(Fig. 5).測定は,fibroblast fiber を 構築する線維芽細胞の細胞骨格を蛍光染色する事に より行った.その結果,fibroblast fiber 中の線維芽 細胞は 2 本の柱が存在する長軸方向に向かい,空間 的に規則正しく配列していた27,31).骨格筋組織など の筋組織と比較すると細胞密度は粗であるが,線維 芽細胞は,fibroblast fiber 中で方向性を持って存在 していることが明らかとなった.この配列が収縮反 応の方向性と関連するものと考えられた.

Collagen fiber

を用いた収縮測定法と

 

測定時配慮すべき点

 Fibroblast fiber を標本とした線維芽細胞収縮の 測定は,生理的条件を基本とした 37℃,pH 7.4 の

環境下で行った(Fig. 6)31).張力測定時には pH 7.4 を維持するために MOPS-buffered PSS (MOPS-PSS:

140 mM  NaCl,4.7 mM  KCl,1.2 mM  NaH2PO4, 0.02 mM EDTA,1.2 mM MgSO4,2.5 mM  CaCl2, 11.1 mM glucose,20 mM MOPS,pH 7.4 at 37℃)

を用いた.汎用される Krebs solution などの炭酸緩 衝系の栄養液では酸素の通気が不可欠であるため,

反応液や液面に振動が発生してしまい張力測定の検 出を妨げるために使用できない.

 発生張力の検出には微量張力測定用のトランス ジ ュ ー サ ー(SensoNor 社 製・AME801,Horton,

Norway)を使用した.5 mm に切り出した fibroblast  fiber の一端をトランスジューサーに,他端をマニ ピュレーターに連結し,37℃に恒温した MOPS-PSS 中で反応を測定した.反応槽中の容積は 500 µl とし た.段階的に静止張力を負荷し 50 µN(約 5 mg)

の静止張力が安定して得られた後に,張力測定を開 始した.CS や他の試薬の処置は,最終濃度となる ように別の恒温槽にあらかじめ薬物を添加した MOPS-PSS 溶液を用意し,そこに標本 (fibroblast  fiber)を移動することにより行った.トランスジュー サーより検出されたシグナルはアンプ(ユニークメ ディカル社製)にて増幅し,デジタル - アナログ変 換器(Power Lab,ADInstruments 社製)にてデ ジタル信号化して PC に記録した.データー取得管 理 は 専 用 ソ フ ト を 使 用 し た(Chart software,

ADInstruments 社製).測定全体にわたり配慮すべ き点は,わずかな振動が測定結果に影響するため可 能な限り実験台を防振として測定を行う必要がある という点である.また反応液の交換によるノイズや

Fig. 5 Fibroblast fiber 中の線維芽細胞の配置

Fibroblast fiber  中の線維芽細胞の配置状態を確認する目的で,Fibroblast fiber  を固定し,F-actin を染色する phalloidin を用いて細胞染色を行った.Fibroblast  fiber 中で線維芽細胞は長軸方向にそって配置していた .

Fig. 6 Fibroblast fiber 微量張力測定装置 Fibroblast fiber を標本とした微量張力測定装置の概要を 示した.Fibroblast fiber (5 mm) は,500 µl の恒温槽中 で一端をマイクロマニュピュレーターと連結し,多端を 高感度トランスジューサーと連結した.得られた張力シ グナルは,アンプで増幅してデジタル化して記録した .

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基線のずれが生じるが,これらが測定結果に含まれ ないように留意することも必要である.

Fibroblast fiber

を用いて得られた知見  調製した fibroblast fiber を用いた張力測定によ り明らかとなった非筋細胞収縮反応の特徴,および 発生張力を引き起こす細胞内情報伝達系について,

著者らが報告したいくつかの知見を紹介する.

 張力測定システムにおいて,fibroblast fiber へ  30% CS 処置を行うと持続的な張力上昇が認められ た(Fig. 7A)31).CS 刺激による最大張力上昇量は 105.5

±

16.7 µN(n=8)であり,CS 刺激が存在す

る期間中はその最大レベルをほぼ維持した.張力上 昇後,反応液より CS を除去すると発生張力は徐々 に低下し,約 15 min でほぼ静止レベルに低下した.

約 30 min の間隔で同様な 30% CS 刺激を行うと,

上記とほぼ同等な張力上昇反応が繰り返して発生し たことから,CS 誘発の反応は可逆的な反応である ことが確認された.さらに,CS 誘発張力上昇時に 細胞骨格を阻害する 1 µM cytocharasin D を添加す ると張力レベルが急速に低下して収縮反応が完全に 消失した.Fibroblast fiber の構成因子の中で,細 胞骨格成分を有するのは線維芽細胞のみであること から,この張力上昇は,fibroblast fiber を構築する 線維芽細胞自身の発生する張力に由来することが確 認され,非筋細胞収縮が検出されたと判断された31). この CS 誘発 fibroblast fiber 収縮反応は 15% CS 添 加時より認められる用量依存的な反応で,30% CS 刺激でほぼ最大を示した(Fig. 7B).

 これらの結果より,collagen fiber  法を用いるこ とにより線維芽細胞による非筋細胞収縮反応を経時 的,用量依存的に検出可能であることが初めて見い だされた.また,その反応が可逆的で繰り返し起こ ることから,非筋細胞収縮時の細胞内メカニズムを 明らかにするために有用な方法であると判断し,以 後検討を行った (Fig. 8).

 脱分極性の細胞内カルシウム濃度上昇を引き起こ す 50 mM KCl は,fibroblast fiber の収縮を引き起こ さなかった31).また,A23187(calcium ionophore)

も発生張力レベルに影響しなかった.同様に,細胞

Fig. 7 Calf resum (CS) 誘発の fibroblast fiber 張力応答

実験方法に従い fibroblast fiber の張力変動を測定した.CS (30%) 添加時の典型的な反応 例 (A) および CS 濃度を変化させた際の反応率 (B) を示した.結果は,平均値

±

標準誤 差で示した.

Fig. 8 CS 誘発 fibroblast fiber 収縮反応における細胞 内上伝達系の検討

CS 誘発 fibroblast fiber 収縮時の細胞内因子の関与につ いて,各種阻害薬等を用いた検討結果をまとめた.

(8)

質へのカルシウム動員を阻害する作用のある電位依 存性カルシウムチャネル阻害薬(nicaridine)や,

細胞内カルシウム貯蔵部位からのカルシウム遊離を 阻害する ryanodine の前処理条件下においても,CS 誘発 fibroblast fiber 収縮が影響を受けずに発生した ことから,fibroblast fiber を構成する線維芽細胞内 のカルシウム濃度上昇だけでは,非筋細胞収縮が引 き起こされないことが明らかとなった.さらに,CS 誘発の fibroblast fiber 収縮反応の細胞内メカニズ ムを明らかにするため,いくつかの阻害薬を用いて 検討を行った28).筋収縮において収縮反応のための 細胞内情報伝達系の因子として働く phospholipase  C (PLC)や,protein kinase C (PKC),calmodulin  kinase (CaM kinase),myosin light chain kinase

(MLCK)などについて,それぞれの選択的阻害薬,

数種を用いて検討を行ったが,いずれの阻害薬にお いても CS 誘発の fibroblast fiber 収縮反応に影響は しなかった.前述の細胞内カルシウムイオン濃度に 関する知見と総合すると,fibroblast fiber 収縮は一 般的な筋収縮とは異なった細胞内情報伝達系を介し て引き起こされていることが明らかとなった.

 細胞内カルシウム濃度上昇に非依存的に細胞機能 発現に関連する細胞内因子として,G-protein の一 種である Rho タンパク質を介した経路が知られて いる32).平滑筋細胞において Rho の活性化は,下流 の Rho-associated kinase (Rho kinase/ROCK/ROK) 

を 活 性 化 し,活 性 化 し た Rho kinase が,myosin  light chain phosphatase (MLCP) をリン酸化して 不活化することが知られている33).MLCP はリン 酸化ミオシンの脱リン酸化を引き起こすことにより 筋弛緩に導く酵素であることから,MLCP の不活性 化は,相対的にリン酸化ミオシンの増加(蓄積)を 引き起こし,筋収縮力が増加するとされている.こ れら Rho を介した一連の反応には,細胞内カルシウ ム濃度上昇を含まないため,Rho-Rho kinase-MLCP による収縮増加反応はカルシウム非依存的な筋収縮 経路とされている33).この Rho kinase の選択的阻 害薬である Y2763234)および fasudil(HA1077)35)を 処理すると,無刺激時の静止張力レベルにも低下が 認められ,CS 誘発の収縮反応は強く抑制された28,36). 同様な結果は,Rho を直接阻害する C3-toxin を用い ても同様に認められたことから,CS 誘発の fibroblast  fiber 収縮は,Rho-Rho kinase を介したカルシウム非

依存的経路により引き起こされていることが明らか となった.

  平 滑 筋 細 胞 に お い て は Rho kinase の 下 流 に MLCP が位置していることが報告されているが33), 線維芽細胞の非筋細胞収縮において Rho kinase の 下流ではどのような因子が関与しているか検討を 行った.線維芽細胞においても,Rho kinase 活性 化により MLCP 抑制を介したリン酸化ミオシンの 増加傾向は認められるものの,MLCK 阻害薬の効 果等を考慮するとリン酸化ミオシン量増加のみで fibroblast fiber の収縮が制御されているとは考えに くい.一方 Rho kinase には細胞骨格を刺激して細 胞形態変化や接着性,細胞運動にも関与する可能性 も指摘されていることから37),細胞骨格の一種 actin stress fiber(ASF)との関連を蛍光染色法に より測定した.その結果,CS 刺激時に線維芽細胞 内で ASF の構築が顕著に促進しており,この変化 が Y27632 添加により完全に抑制された36).従って,

Rho kinase は ASF の構築を制御することにより線 維芽細胞における非筋細胞収縮を引き起こしている ことが示唆された.これらの細胞骨格との関連性を 示す知見は,非筋細胞収縮がわずかな形態変化に伴 い発生することと一致している.

 これまでの CS 誘発 fibroblast fiber 収縮に関する 検討から,線維芽細胞による非筋細胞収縮は,一般 的な筋細胞収縮とは異なった制御メカニズムにより 引き起こされ,特にカルシウム非依存的で Rho-Rho  kinase 経路を介して ASF などの細胞骨格系の亢進 により引き起こされていることが明らかとなった.

Fibroblast fiber

を用いた非筋細胞

 

収縮測定の問題点

 著者らによる fibroblast fiber を用いた非筋細胞 収縮測定により,収縮応答性や細胞内情報伝達系を 明らかにすることが可能となったが,CS がどのよ うな刺激を介して線維芽細胞収縮のシグナルとなる かについては明らかとなっていない.CS 中のどの ような成分が収縮性の刺激因子となるかについて は,研究初期より問題点とされてきたが,その含有 成分は多岐にわたるため現在まで結論は得られてい ない.しかしながら CS を 100℃,60 min 間加熱し た後でも,CS 誘発の fibroblast fiber 収縮は変化無 く認められること,加えて CS 刺激後に fibroblast  fiber 表面を洗浄すると速やかに弛緩反応に転ずる

(9)

ことなどから,CS 中の刺激因子はタンパク質など の熱変性物質ではなく,さらに細胞内に移行して収 縮性を示すとは考えられず,線維芽細胞表面に結合 して収縮反応を引き起こしていることが予想され た.何らかの受容体を介していると予想されるが,

その因子の特定には至っていない.

 Fibroblast fiber に収縮を引き起こすことができ る因子は,CS 以外にどのようなものが考えられる かについて,一般的な生理活性物質や神経伝達物質 などを用いて検討を行った.Adrenaline,norad- renaline,acetylcholine,histamine などの神経伝達 物質は線維芽細胞収縮を引き起こさなかった27,31). その他,basic fibroblast growth factor(bFGF)な どの増殖因子や serotonin,endothelin も同様であっ た.Prostaglandin F2αについても収縮反応の誘発 は認められなかったが,thromboxane A2 (TXA2) analogue である U46619 は,これまでの検討では CS 以外で唯一の有意な張力上昇を引き起こした38). 10 µM U46619 適用時の収縮反応は 30% CS 刺激時 に類似した張力上昇であったが,CS 中に 10 µM 前 後の濃度で TXA2が含まれるとは考えられず,一 般的に血管平滑筋に収縮を引き起こす U46619 の用 量は 10 〜 100 nM U46619 であることから,CS と U46619 誘発収縮は別の作用点を介していると判断 された.従って CS 中の fibroblast fiber 収縮因子は 現在も不明のままである.

 著者らのその後の検討において,U46619 誘発の fibroblast fiber 収縮についても,一般的なカルシウ ム依存性の筋収縮とは異なったメカニズムであるこ とが確認されている38)

Collagen fiber

法応用の可能性

 培養細胞を collagen と共に三次元培養することに より立体構築物(collagen fiber)を形成し,それを 用いて細胞機能(収縮性)やその際のシグナル伝達 系を評価することは,著者らが NIH3T3 fibroblast  fiber を用いた fibroblast fiber として進めてきた.

収縮性の評価やそのメカニズムに関していくつかの 新たな知見を得ることができたことは,前述の通り である.これらの知見は,肉芽組織における反応を 理解し,創傷治癒に関する問題点を解明するために 重要である.特に褥瘡など慢性的な物理負荷により 組織の再構築が障害された状況を回避するための治

療法や医薬品開発に応用できると期待される.

 Fibroblast fiber は線維芽細胞が collagen と共に 空間的に配置することにより構築されることから,

collagen fiber の応用は線維芽細胞のみであると思わ れがちだが,実際には線維芽細胞以外の細胞におい ても collagen fiber の構築例が報告されている.著 者らはウシ大動脈由来の培養血管内皮細胞(vascular  endothelial cells:EC)を用いて collagen fiber の調 製に成功し,thrombin 刺激が EC に非筋細胞収縮を 引き起こすことを初めて報告している39,40).生体内 においても単層で存在する EC であるが,細胞集団 として刺激時には非筋収縮反応を示すことは,刺激 により個々の細胞が形態変化を起こすための力を発 生することを裏付けている.EC の形態変化は,血 管内腔を覆うバリアーとしての機能が変化すること を意味し,実際に EC 収縮条件下では EC 層の透過 性が増加することが確認されている.

 このように,collagen と三次元培養することによ り線維芽細胞以外の細胞でも collagen fiber を作成 することが可能であり,細胞の形態変化や非筋細胞 収縮を評価するためには,極めて有用な手法である といえる.

ま と め

 本論文では,collagen fiber を用いて非筋細胞収 縮を検出する方法や,それを用いて細胞機能や情報 伝達系を解明する意義について,線維芽細胞を中心 に紹介してきた.培養細胞の収縮性機能を評価する ことは,正常・病態下の細胞機能を比較するために も有用な手法であるといえる.

 機能解明を目的として特定の受容体や細胞内タン パク質などを変化させた細胞を標本として collagen  fiber の手法を用いれば,より詳細な細胞機能との 連動性を明らかにすることができると期待される.

利益相反

 本論文に関し,公開すべき利益相反関係はない.

文  献

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(12)

3D-RECONSTITUTED COLLAGEN FIBER TECHNIQUE, A USEFUL TOOL FOR   UNDERSTANDING NON-MUSCLE CONTRACTION AND  

INTRACELLULAR SIGNALING PATHWAYS

Koji N

OBE

Division of Pharmacology, Department of Pharmacology, Toxicology and Therapeutics,   Showa University School of Pharmacy

Hiromi N

OBE

Faculty of Health Science Technology, Bunkyo Gakuin University

Keizo K

ASONO

Laboratory of Physiology, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Josai University

 Abstract    Most types of mammalian cells generate a contractile force that is likely the basis for  motility and morphological changes.  In non-muscle cells, it is thought that the cellular functions are ac- companied by both changes.  Because their contractile force levels are extremely low, non-muscle cell  contraction has not been detected.  To assess the non-muscle cell contraction, cell imaging analysis and a  collagen gel method have been used, but the detected parameters were indirect alterations.  To detect an  actual force development by non-muscle cells, a collagen fiber method was established, using 3D-reconsti- tuted fibroblasts in a collagen matrix.  In a collagen fiber made by NIH3T3 fibroblasts (fibroblast fiber), a  calf serum-induced time- and dose-dependent force development was detected as an actual non-muscle  cell contraction.  In this fibroblast fiber contraction, we revealed that the intracellular signaling pathways  could be distinguished from those in the typical muscle cell contractions.  In this review, we demonstrat- ed the details of both the fibroblast fiber reconstitution and the force measurement method.  Moreover,  the intracellular signaling pathways were assessed in comparison with the previously described methods.  

We propose that collagen fiber is a useful tool for understanding non-muscle cell contraction.

Key words:  calf serum, collagen fiber, fibroblasts, force development, intracellular signaling, non-mus-

cle contraction, Rho, Rho kinase, type-Ⅰ collagen

参照

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